野田佳彦首相と韓国の李明博大統領が京都で会談した。首脳同士が年1回以上訪問し合い、連携を深めるシャトル外交の一環である。
日本側は「未来志向の両国関係」の強化を目指していたが、李大統領は従軍慰安婦問題を取り上げ、早期解決に向けた政治決断を迫った。約1時間の会談のうち約40分が慰安婦問題に費やされたという。
両国は今、北朝鮮の金正日総書記の死去という事態に直面している。経済連携協定(EPA)の交渉再開や中国漁船の不法操業問題など、連携して取り組むべき課題もある。歴史問題の根深さばかりが目立つ首脳会談だったのは残念だが、大局に立った行動を求めたい。
韓国では憲法裁判所が8月、韓国政府が元慰安婦らの賠償請求権に関する措置を講じてこなかったのは違憲との判決を下した。先週には元慰安婦の支援団体が、ソウルの日本大使館前に慰安婦を象徴する少女像を設置するなど、日本に賠償と謝罪を求める運動が活発になっている。
李大統領はこれまで、慰安婦問題に特に熱心だったわけではない。だが、政権末期の求心力低下に歯止めをかけるためにも、世論に配慮しなければならなかったのだろう。
野田首相は、賠償請求権は「解決済み」との原則を強調した。1965年の国交正常化に伴う日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決済み」と合意しており、日本側が譲歩できないのは当然である。
韓国側は65年当時に慰安婦問題は想定されていなかったとして、90年代から請求権を主張し始めた。日本は93年に軍の関与を認め「おわびと反省」を表明する官房長官談話を発表、95年に「女性のためのアジア平和国民基金」を発足させて民間募金による「償い」を図った。
元慰安婦のほとんどはこの償い金の受け取りを拒否し、日本に国家賠償を求め続けている。両国の認識には大きな溝があり、一朝一夕では片付かない問題であることは確かだ。
会談で日韓EPAの早期交渉再開の方針で合意したのは、せめてもの成果といえよう。環太平洋連携協定(TPP)、日中韓自由貿易協定(FTA)と米中両国をにらんだ交渉も控えている。日韓の連携が強まれば、両国の交渉力を高める波及効果もあろう。
いたずらに感情的な対立を深めては、未来志向の両国関係は望むべくもない。冷静な対話を続けたい。
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