映画ライター鈴木晴子が独断と偏見で選ぶ
2009年劇場公開映画ベスト10

2009年12月25日

今年も映画のことで頭がいっぱいだった1年。2009年は、初めて年間ベスト10の選出に挑戦することとなった。この1年で劇場もしくは試写で鑑賞した映画の本数は、自己最多記録となる128本(2回観たものは2本とカウント)。その中から今年劇場公開された作品に絞り、さらに2回以上観たものは1本とカウントしたら、あっという間に81本になってしまった。“81分の10本”を選ぶという作業は予想以上に難しく、しかもそれに順位を付けるなんてできないよーとうんうん唸りながら、難産の末にようやく出産。改めて見てみると、何だか暗い映画が多いような気が……? というわけで、独断と偏見によるランキングにしばしお付き合いを。



(C) 2008 Universal Studios.
ALL RIGHTS RESERVED.
チェンジリング

「グラン・トリノ」とどちらを1位にするかで頭を悩ませたけど、名画座で続けて観たときに“映画としてはこちらのほうが上かも”と感じたので軍配を上げた。ラストのアンジェリーナ・ジョリーの表情とセリフ、後ろ姿は今でも忘れられない。鑑賞後、しばらくしてからじんわりと染みて来る作品だ。すっかり感激して、周りの友人たちに薦めまくった記憶あり。友よ、うざかったらゴメン。

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グラン・トリノ

本当は順位なんて付けたくないよ! ということで、今年一番泣いた映画は間違いなくこれ。初鑑賞時には、劇場のトイレで思い出し泣きをする始末だった。主人公のけじめの付け方、あなたはどう思いますか? やるせないけどどこか爽やかで、しばらくは頭からテーマ曲が離れなくなる。こちらも周りに友人たちに勧めまくったあり。友よ、うざかったらゴメン(しつこい)。

(C) 2009 The Michael Jackson
Company, LLC. All Rights Reserved.

マイケル・ジャクソン THIS IS IT

やっぱり今年は、この作品を外すわけにはいかない。“マイケル=整形と奇行の人”というイメージしかなかった私のような不届き者にも、彼の恐るべき才能と謙虚さ、ステージに懸ける妥協のない姿勢を見せ付けてくれた。"I'll Be There" でリズムに合せて腕を大きく振っちゃってた人、後ろは迷惑だっただろうけど気持ちはわかる。上映中は誰も喋らず、エンドロールになっても1人も席を立たず、スクリーンが暗くなると場内から拍手が。場内が明るくなった後も、席から立てなくなっている人多数。

(C) Niko Tavernise for all Wrestler photos
第4位:レスラー

自分の生き方を変えない、ではなく変えられない、不器用なプロレスラー。男性だったら、その生き様に男泣きすることだろう。主役のミッキー・ローク本人と主人公の人生が重なり合い、見事な相乗効果を生み出している。“ローク完全復活!”と騒がれたが、ここまでいい映画に当たってしまうと、今後もちゃんと出演作に恵まれるかが心配になってしまったり……。大きなお世話か。

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(C) 2007 Yuma, Inc. All Rights Reserved.
第5位:3時10分、決断のとき

続いて第5位は、またしても男の生き様に痺れる西部劇。敵対するはずの男と男が、不思議な友情と信頼関係を結んでいく。この過程とクライマックスが素晴らしく、メインを張るラッセル・クロウとクリスチャン・ベイルは共に好演。ラッセルは犬顔のくせに、映画ではびっくりするぐらいかっこいい! ベイルの役回りはいつものごとくちょっと損だけど、彼には名バイプレーヤーの称号を贈りたい(誉めてるのよ)。

(C) 2008 FOCUS FEATURES LLC.
ALL RIGHTS RESERVED
第6位:ミルク

「この人ってゲイだったっけ?」と本気で首を傾げたほど、主人公ミルクの人生を“生きた”ショーン・ペン。個人的にはミッキー・ロークにあげてほしかったかなぁと思うものの、2度目のオスカーも納得だ。本物のミルクのドキュメンタリーも鑑賞したが、本人とのシンクロぶりに驚いた。彼が今でも生きていたら、どれだけの人に希望を与えられたのだろうか。

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(C)2007 Visitor Holdings,
LLC All Rights Reserved
第7位:扉をたたく人

周囲に心を閉ざした初老の大学教授が、移民カップルとジャンベ(アフリカン・ドラム)に出会ったことで、次第に生きる喜びを見つけていく。ストーリーもキャストも地味だけど、9.11後のアメリカの実情を鋭く抉り、胸に迫る名作。騙されたと思ってぜひ観ていただきたい。原題は"The Visitor"だが、邦題が絶妙! 主人公を演じたリチャード・ジェンキンスは、初主演にして初オスカーノミネートとなった。

(C)2009 CJ ENTERTAINMENT INC.
& BARUNSON CO., LTD.
ALL RIGHTS RESERVED
第8位:母なる証明

ポン・ジュノの監督作ということで鑑賞。この人はやっぱりすごい! 美しくて悲しくて恐ろしくて、観終わった後は頭をガツンと殴られたよう。「殺人の追憶」ではラストのソン・ガンホの表情が印象的だったけど、この作品でウォンビンが見せる最後の表情も相当怖い(と、思う)。ただのアイドルかと思っていたけど、こんなに演技ができる人だったんだなぁ。現在全国ロードショー中。

(C)2009 WALT DISNEY STUDIOS
MOTION PICTURES, JAPAN.
ALL RIGHTS RESERVED.
第9位:縞模様のパジャマの少年

“縞模様のパジャマ”とは、収容所に入れられたユダヤ人の服装のこと。第二次世界大戦下、ナチス将校を父に持つ少年とユダヤ人の少年が、自分たちの状況を何も理解しないままに交流を深めていく。秀逸なのはそのラストシーン。声高に反戦を叫ぶわけではないのに、これほど戦争の愚かさを浮き彫りにする展開もないだろう。鑑賞後はしばらく、席を立てなくなる衝撃作。

(C)2008 Universal Studios.
ALL RIGHTS RESERVED.
第10位:フロスト×ニクソン

アメリカの元大統領ニクソンと、イギリスやオーストラリアで活躍するテレビ司会者が、お互いの野心を賭けたインタビューに挑むことに。両者持ち得るだけの頭脳を駆使した戦いのゴングが、今鳴らされた! 公開時は何だか地味な扱いだったけど、この映画すごく面白いぞ。特に後半のインタビューシーンの緊張感は、思わず身を乗り出しそうになるほど。心理劇が好きな人にお薦めの1本。

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おまけ:この81本から選びました
本数
作品名
公開
本数
作品名
公開
本数
作品名
公開
1
チェ 29歳の革命
1/10
28
ウェディング・ベルを鳴らせ!
4/25
55
女の子ものがたり
8/29
2
大阪ハムレット
1/17
29
ブッシュ
5/16
56
グッド・バッド・ウィアード
8/29
3
誰も守ってくれない
1/24
30
おと・な・り
5/16
57
幸せはシャンソニア劇場から
9/5
4
エレジー
1/24
31
重力ピエロ
5/23
58
プール
9/12
5
マンマ・ミーア!
1/30
32
ターミネーター4
6/13
59
ココ・アヴァン・シャネル
9/18
6
チェ 39歳 別れの手紙
1/31
33
レスラー
6/13
60
男と女の不都合な真実
9/18
7
ロルナの祈り
1/31
34
愛を読むひと
6/19
60
空気人形
9/26
8
ベンジャミン・バトン 数奇な人生
2/7
35
トランスフォーマー/リベンジ
6/20
61
私の中のあなた
10/9
9
悲夢
2/7
36
人生に乾杯!
6/20
62
クヒオ大佐
10/10
10
ハイスクール・ミュージカル
2/7
37
劔岳 点の記
6/20
63
ヴィヨンの妻
10/10
11
少年メリケンサック
2/14
38
それでも恋するバルセロナ
6/27
64
パイレーツ・ロック
10/24
12
チェンジリング
2/20
39
ディア・ドクター
6/27
65
マイケル・ジャクソン THIS IS IT
10/28
13
ホルテンさんのはじめての冒険
2/21
40
扉をたたく人
6/27
66
わたし出すわ
10/31
14
罪とか罰とか
2/28
41
サンシャイン・クリーニング
7/11
67
サイドウェイズ
10/31
15
ダウト あるカトリック学校で
3/7
42
ハリー・ポッターと謎のプリンス
7/15
68
ジェイン・オースティン 秘められた恋
10/31
16
ジェネラル・ルージュの凱旋
3/7
43
セントアンナの奇跡
7/25
69
母なる証明
10/31
17
ダイアナの選択
3/14
44
そんな彼なら捨てちゃえば?
8/1
70
ジャック・メスリーヌ Part.1
11/7
18
リリィ はちみつ色の秘密
3/20
45
ボルト
8/1
71
ジャック・メスリーヌ Part.2
11/7
19
フィッシュストーリー
3/20
46
サマーウォーズ
8/1
72
千年の祈り
11/14
20
フロスト×ニクソン
3/28
47
コネクテッド
8/1
73
イングロリアス・バスターズ
11/20
21
クローズZERO II
4/11
48
南極料理人
8/8
74
戦場でワルツを
11/28
22
ある公爵夫人の生涯
4/11
49
ココ・シャネル
8/8
75
カールじいさんの空飛ぶ家
12/5
23
スラムドッグ$ミリオネア
4/18
50
縞模様のパジャマの少年
8/8
77
インフォーマント!
12/5
24
レイチェルの結婚
4/18
51
3時10分、決断のとき
8/8
78
キャピタリズム〜マネーは踊る〜
12/5
25
ミルク
4/18
52
キャデラック・レコード
8/15
79
パブリック・エネミーズ
12/12
26
バーン・アフター・リーディング
4/24
53
宇宙(そら)へ
8/21
80
ジュリー&ジュリア
12/12
27
グラン・トリノ
4/25
54
96時間
8/22
81
アバター
12/23


by 映画コラムニスト 鈴木晴子