映画ライター鈴木晴子が独断と偏見で選ぶ
2010年劇場公開映画ベスト10

2010年12月27日

ふと振り返れば、劇場公開される旧作(午前十時の映画祭 など)にばかり気を取られていた2010年。この1年、劇場もしくは試写で鑑賞した映画の総数は161本でした(12月27日現在)。あくまでも2010年のランキングということで、今年公開された映画に絞り、さらには複数回観た映画を1本とカウントしたところ、最終的な数は76本に。あら、半分以下になっちゃった! ……2010年は“問答無用でこれが第1位!”という作品はなく、ベスト10選出も順位付けも大いに悩みました。というわけで、苦難の末、何とか下記のように決定。HiVi WEB読者の方にとって、なかにはあまり馴染みのないものもあるかもしれませんが、騙されたと思ってこの作品たちもぜひ観てみてください。では、2011年もいい映画にたくさん出会えますように!



(C) PUSH PICTURES, LLC

鑑賞映画リストを見直していて、まっさきに“これは入れないと!”と思った作品が「プレシャス」だった。ハーレムで教師をしていた女性による小説を、自身も虐待を受けていたという黒人監督のリー・ダニエルズが映画化。貧困、虐待、近親相姦、未成年での出産……と、はっきりいって楽しい話ではない。しかし、主人公がフリースクールの女性教師と出会ったことで、次第に生きる力と希望を取り戻していく姿は感動的だ。予告編で流れる「人生は辛く、短く、苦しく、豊かで、愛おしい」という言葉が胸に迫る。


(C) 2010 WARNER BROS.
ENTERTAINMENT INC.

とにかく、“クリストファー・ノーランおそるべし!”の一言に尽きる。ハリウッド大作で、まったくのオリジナル作品に挑む勇気(と、それを許したスタジオ側の寛大さ)。そして、“複雑に入り組んだストーリー”や“深く掘り下げられた人間の内面”といったあまり大衆受けはしないであろう素材でも、きちんとヒットに導いてしまうその手腕は、さすが「ダークナイト」の監督だけある。鑑賞中のトリップ度合いとその後の興奮が忘れられず、2度目の鑑賞のため、109シネマズのIMAXシアターに足を運んでしまった。


(C)DISNEY/PIXAR


好みを問わず、誰にでも安心して薦められる貴重な作品。つねに高い水準を保ち続けるピクサー作品においても、「トイ・ストーリー」シリーズはやはり別格だ。“別れ”がテーマの本作は、一見子たち供が喜びそうなアニメのようでいて、むしろ内容は思いっきり大人向け。人が成長していく上でぶつかる壁や避けられない心の痛みを、“おもちゃ”というツールをつかって巧みに表現している。そして、その目線はどこまでも温かい。小さなときから子供に観せ続けたら、優しい人間に育つのでは? と思ったりも。


(C) Emilio Pereda&Paola Ardizzoni/
El Deseo
第4位:抱擁のかけら

ペドロ・アルモドバル×ぺネロペ・クルスが4度目のタッグを組んだ、絶望と再生のドラマ。14年前に起きた事件がきっかけで、過去をすべて封印した男。その悲しい出来事には、ある“美しすぎる女”が関わっていた……。愛情のもつれや人間の業の描き方が、いかにもアルモドバル流。そして、ぺネロペの美しさなしでは成立し得なかった作品でもある。14年間死んだように生きてきた男は、苦しみと向き合い、“抱擁のかけら”をつなぎ合せる決心をする。鑑賞後、深い余韻に浸りながら、何とも粋な邦題だなぁと感心した。


第5位:息もできない

昨年の「母なる証明」に続き、韓国から再び心をえぐる映画がやってきた。冷酷で暴力的なチンピラ男と、人前では勝気に振舞う女子高生。家庭に深刻な問題を抱える2人が、偶然の出会いによって次第に心を通わせていく。監督・主演・製作・脚本・編集のひとり5役を務めたヤン・イクチュンは、「自分自身がこれから生きるために、どうしても思いを吐き出したかった」と、家を売り払ってまで製作費を捻出したのだとか。その気迫と覚悟が、スクリーンからひしひしと伝わってくる。これが初監督作とは、次回作が楽しみだ。


 
第6位:フローズン・リバー

カナダに隣接したアメリカ最北部の町。貧困に苦しむ2人のシングルマザーが、家族のため“密航者の補助”という犯罪に手を染めていく……。凍てついた空気の中に炙り出される、2人の母親の心理ドラマは見応え充分だ。2009年のアカデミー主演女優賞/脚本賞にノミネートされたにも関わらず、なかなか日本公開が決まらなかったこの作品。この状況を憂えたシネマライズ(東京・渋谷にある映画館)によって、めでたく公開された。万歳! 未公開映画が増えている昨今、こういう素晴らしい作品は、何が何でも上映していただきたい。

(C) 若松プロダクション
第7位:キャタピラー

手足を失い、顔が焼けただれた姿で“軍神”として戦場から帰還した夫と、お国のために戦った夫に複雑な思いで尽くす妻。帰還兵を演じた大西信満(おおにし・しま)さんにインタビューさせていただいた、という意味でも印象深かった作品だ。インタビュー前に一度DVDで観たのだが、公開後に再度劇場で鑑賞。もともと衝撃的な話だけど、劇場で観るとなおいっそう打ちのめされた……。元ちとせさんが歌う主題歌「死んだ女の子」も強烈。キャッチコピーどおり、“忘れるな、これが戦争だ”という、若松孝二監督の叫びが聞こえてくるようだった。

 

(C) 2009 Copyright
DCG Plus & NOW Films,
GLORIA Films. All Rights Reserved.
第8位:冬の小鳥

韓国映画からもう1本。大好きな父に連れられ、カトリック系の児童養護施設に預けられた9歳のジニ。いつか迎えが来ることを信じ、頑なに周囲と馴染むことを拒否する。たった9歳で大人にならければならなかった主人公ジニを演じたキム・セロンが素晴らしく、彼女の怒り、悲しみ、絶望が手に取るように伝わってくる。この作品は、女性監督ウニー・ルコントのデビュー作にして、自身の実体験を元に描いたもの。自伝的要素が強いにも関わらず、感傷を避け、一定の距離を保って描かれている。彼女の今後の作品も楽しみだ。新宿武蔵野館ほか全国順次公開中(2010年12月現在)。

(C) PFFパートナーズ2010
第9位:川の底からこんにちは

「トイ・ストーリー3」以外はシリアスな作品がランキングを占めるなか、ここへきてまったく毛色の違うコメディ映画を選んでみた。“中の上”を自称するOL佐和子が、父が倒れたことをきっかけに、実家のしじみ工場を継ぐことになる。何もかも妥協の人生を歩んできた彼女だったが、倒産寸前の工場、アクの強い従業員のオバチャンたち、バツイチ彼氏の子供などなどに囲まれて、かつてないほど追い詰められ……!? この作品は、とにかくヒロインを演じた満島ひかりの魅力に尽きる。開き直った佐和子が社員全員を前に叫ぶシーン、社歌を歌うシーンなど、抱腹絶倒の112分。笑える映画が好きな人は必見!

(C) Hammer&Tongs,
Celluloid Dream,Arte France,
Network Movie,Reason Pictures
第10位:リトル・ランボーズ

第10位には、「スタンド・バイ・ミー」と「僕らのミライへ逆回転」を足して2で割ったような作品を。宗教上の理由で一切の娯楽を禁じられている11歳のウィルは、校内の悪ガキであるリーと知り合う。ある日、彼の家で映画「ランボー」を観たウィルに、頭を打ち抜かれるほどの衝撃が! かくしてすっかり映画にはまったウィルは、リーの自主映画に“ランボーの息子”として主演することになり……。映像と音楽が抜群にセンスよく、監督の映画愛に溢れた一本。少年たちの友情が、さわやかな気分にさせてくれる青春映画だ。
おまけ:この76本から選びました
本数
作品名
公開
本数
作品名
公開
本数
作品名
公開
1
(500)日のサマー
1/9
27
第9地区
4/10
53
キャタピラー
8/14
2
キャピタリズム
〜マネーは踊る〜
1/9
28
月に囚われた男
4/10
54
瞳の奥の秘密
8/14
3
かいじゅうたちのいるところ
1/15
29
ドン・ジョバンニ
4/10
55
ベスト・キッド
8/14
4
シャネル&ストラヴィンスキー
1/16
30
17歳の肖像
4/17
56
ミックマック
9/4
5
Dr.パルナサスの鏡
1/23
31
オーケストラ!
4/17
57
悪人
9/11
6
ラブリーボーン
1/29
32
クロッシング(韓国)
4/17
58
終着駅
トルストイ最後の旅
9/11
7
おとうと
1/30
33
タイタンの戦い
4/23
59
食べて、祈って、恋をして
9/17
8
ゴールデンスランバー
1/30
34
プレシャス
4/24
60
シングルマン
10/2
9
フローズン・リバー
1/30
35
川の底からこんにちは
5/1
61
スープ・オペラ
10/2
10
ボーイズ・オン・ザ・ラン
1/30
36
パーマネント野ばら
5/22
62
美女と野獣 3D
10/9
11
インビクタス/
負けざる者たち
2/5
37
ローラガールズ・ダイアリー
5/22
63
蛮幽鬼
10/12
12
抱擁のかけら
2/6
38
あの夏の子供たち
5/29
64
アバター 特別編
10/16
13
恋するベーカリー
2/19
39
マイ・ブラザー
6/4
65
ソフィアの夜明け
10/23
14
パレード
2/20
40
告白
6/5
66
クロッシング(アメリカ)
10/30
15
ルドandクルシ
2/20
41
FLOWERS フラワーズ
6/12
67
[リミット]
11/6
16
しあわせの隠れ場所
2/27
42
アウトレイジ
6/12
68
100歳の少年と12通の手紙
11/6
17
ニューヨーク、アイラブユー
2/27
43
クレイジー・ハート
6/12
69
さらば愛しの大統領
11/6
18
ハート・ロッカー
3/6
44
アルゼンチンタンゴ/
伝説のマエストロたち
6/26
70
リトル・ランボーズ
11/6
19
プリンセスと魔法のキス
3/6
45
ボローニャの夕暮れ
6/26
71
冬の小鳥
11/9
20
シャーロック・ホームズ
3/12
46
ハング・オーバー!
7/3
72
クレイジーズ
11/13
21
NINE
3/19
47
トイ・ストーリー3
7/10
73
ハリー・ポッターと
死の秘宝
11/19
22
息もできない
3/20
48
エアベンダー
7/17
74
Ricky リッキー
11/27
23
ウディ・アレンの夢と犯罪
3/20
49
借りぐらしのアリエッティ
7/17
75
武士の家計簿
12/4
24
マイレージ、マイライフ
3/20
50
インセプション
7/23
76
ロビン・フット
12/10
25
シャッター アイランド
4/9
51
ヒックとドラゴン
8/7
 
 
 
26
ダーリンは外国人
4/10
52
小さな村の小さなダンサー
8/8
 
 
 


by 映画ライター 鈴木晴子