あなたには見せたい映画 TIFF編1
メキシコ発「レイク・タホ」

せっかくの貴重な機会、1度きりかもしれないチャンスを見逃すな!

 HiVi WEBでもしつこくリポートしていたので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれないが、去る10月18日(土)から10月26日(日)の9日間、第21回 東京国際映画祭が開催された。国内では最大規模の映画祭といえるだろう。過去には「オープン・ユア・アイズ」や「アモーレス・ペロス」といった話題作もグランプリを受賞しており、なかなか興味深い。

 こういった映画祭の醍醐味といえば、国内ではこれが最後の上映になるかもしれない作品が観られること、だと私は思う。ジョン・ウー監督の「レッドクリフ PartI」も面白いらしいし、クドカン(宮藤官九郎)×宮崎あおいの「少年メリケンサック」も気になるけれど、これらはもう公開が決まっている。どうせなら、ここでしか観られない映画が観たい。実際、以前この映画祭で観た映画で、すごく面白かったのに公開されず、残念に思った作品が何本もある。

 というわけで、ワールドシネマ部門に出品された作品を2本観てきた。今年2年目となるこの部門の選考基準は、(1)海外の映画祭などで話題になった作品、(2)8月31日現在で日本公開が決まっていない作品、(3)原則としてアジア以外の作品、という3つになっている。なお、アジア映画には「アジアの風」という専門の部門がある。

観る人を選ぶ、淡々とした作品

 1本目に選んだのは、メキシコ映画「レイク・タホ」。監督のフェルナンド・エインビッケの2作目となる作品だ。今年のベルリン国際映画祭では、2部門を受賞している。

 車で電柱に追突した16歳の少年が、修理工を探して奔走する1日を描く。ただただ淡々と物語が進行していく様子を観ながら、「ジム・ジャームッシュやヴィム・ヴェンダース好きにはツボにはまるだろうなぁ」と思った。逆にいえば、この手の映画が苦手な人は、睡魔と闘うこと間違いなしである。とにかく固定カメラの長回しが多く、人物が平気でフレームアウトすることもある。こうした映画はたまに観るが、監督は一体どういった意図で撮影したのだろう。

映画祭事務局の方の厚意と熱意に感謝

 作品の背景がすごく気になるが、何しろ配給が決まっていない作品ゆえ、もちろんパンフレットはなし。映画祭の公式プログラムに載っている数行の解説しか資料がなく、インターネットにも参考になりそうなものはない。「うーん」と悩み、もう少し詳しい資料がないか、映画祭の事務局に問合せてみた。返答は「英語のプレスシートならあるんですが……」というもの。やっぱり日本語のものはないか……。

 がっくりと肩を落とす私に、なんと事務局の方が「プレスを読み込んでおくので、何か質問していただければ内容をお答えします」と言ってくれたのだ。目の回るような忙しさに違いないときに、驚くべき厚意である。恐縮したものの、結局は事務局を訪ねることになった。スタッフの方は、それだけの熱意を持って映画祭を運営しているんだ、と感動。

柔軟な発想で、壁も演出の手段に変える

 話が脱線したが、訳していただいたプレスシートによると、長回しの理由は「覗き見をしているような演出をすること」「フレームの中で起こっているすべてのこと、例えば風の動きなどまで感じてもらうこと」「最後まで観客と主人公の距離を保つこと」だった。そうやって言葉にされると、なるほどと納得する。確かに監督の思惑通りの感想を、というよりは、感覚を抱いて映画を観ていた。感情移入するのではなく、あくまでも客観的な目線で、主人公を“眺めている”状態だ。退屈になるかどうかの際どいところで、おそろしく自分勝手な登場人物たちに、驚かされたり笑わされたりする。

 もうひとつ気になるのは、場面転換の際に画面が暗くなることだ。「あれ、もう終わり?」と思うと、次のシーンに移る。これは狙っているのか、偶然なのか?

 この件に関してはこうだ。映画はデジタル処理をせずに仕上げることに決めていたが、そうしないと前後のシーンの間に染みのようなものができてしまう。スタッフ同士で話し合った結果、「それならば、シーンごとにいったん暗くしよう。それも物語を語る手段だ」ということになったのだそうだ。つまり、もともとは映像処理上の理由が発端だが、それを演出に変えてしまったというわけだ。発想が柔軟で、「いかにも映画製作に携わる人たちらしいな」と思う。

日本公開は未定。興味のあるバイヤーは?

 事務局の方によると、「レイク・タホ」の日本公開は「なかなか苦戦している」そうだ。確かに万人受けするタイプの映画ではないだろうが、需要は結構ありそうな気がする。メキシコの乾いた空気を映し出す美しい映像や、淡々とした作品が好きな観客には向いていると思うのだが。渋谷の坂の上あたりミニシアターの、どこでかかっていても不思議ではない。バイヤーの方、今からでもいかがだろうか?


監督・脚本:フェルナンド・エインビッケ
出演:ディエゴ・カターニョ、エクトル・エレーラ、ダニエラ・ヴァレンティーネ
メキシコ/カラー/81分/35mm/スペイン語

●東京国際映画祭のホームページ
●「レイク・タホ」紹介ページ
●第15回:たまにはアナログ回帰も。VHSが巻起こす騒動「僕らのミライへ逆回転」
●第14回:豪華共演! N・ポートマン×S・ヨハンソンの配役の妙「ブーリン家の姉妹」
●第13回:カンヌで審査員賞を受賞。不協和音を奏でる家族の肖像「トウキョウソナタ」
●第12回:ひき逃げ事件の遺族と加害者の心理は……「帰らない日々」
●第11回:今年の夏休みは絶対山へ行くぞ! 「ジャージの二人」
●第10回:ある男の奇想天外な夢の行方は? 「庭から昇ったロケット雲」
●第9回:コメディタッチで16歳の妊娠を描く「JUNO/ジュノ」
●第8回:橋口亮輔監督が描く、ある夫婦をめぐる10年の物語「ぐるりのこと。」
●番外編:「JUNO/ジュノ」で妊娠する16歳を演じたエレン・ペイジは、普通の女の子
●第7回:幸せな老夫婦に迫る影は? 「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」
●第6回:“ボブ・ディラン”のイメージを形にした万華鏡「アイム・ノット・ゼア」
●第5回:トニー・ギルロイ、初監督にして高評価! クライムサスペンス「フィクサー」
●第4回:ダニエル・デイ=ルイスの狂気が光る「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
●第3回:ポール・ハギスから突き付けられた課題は重い…… 衝撃の実話「告発のとき」
●番外編:サイコキラー、日本上陸! 「ノーカントリー」ハビエル・バルデム来日記者会見
●第2回:コーエン兄弟、アカデミー賞4部門受賞で一躍有名に? 「ノーカントリー」
●第1回:アカデミー賞4部門ノミネート! 「潜水服は蝶の夢を見る」


2008年10月30日
映画コラムニスト 鈴木晴子

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最終更新 11.12.20 15:43

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