あなたには見せたい映画 TIFF編2
「ハッピー・ゴー・ラッキー」
マイク・リーの映画が公開未定!?
映画祭コラムの2本目に選んだのは、前回取り上げた「レイク・タホ」と同じく、ワールドシネマ部門に出品された「ハッピー・ゴー・ラッキー」だ。監督はイギリスの巨匠マイク・リー。「秘密と嘘」ではカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを、「ヴェラ・ドレイク」ではベルリン国際映画祭で金獅子賞を受賞するなど、数々の映画祭でノミネート・受賞を果している。この「ハッピー・ゴー・ラッキー」では、主演のサリー・ホーキンスが、ベルリンの銀熊賞(女優賞)を受賞した。
前の記事でも触れたように、ワールドシネマ部門は「8月31日現在で日本公開が決まっていない作品」が選考基準の1つとなっている。映画祭の公式パンフレットによると、この映画の製作年は2007年。マイク・リー作品なのに、なぜ公開が決まっていないのだろう。とはいえ、データベースサイトIMDbによると、本国イギリスでの公開は今年の4月だったよう。それならば、日本公開の可能性もまだまだ残されているかもしれない。
前の記事でも触れたように、ワールドシネマ部門は「8月31日現在で日本公開が決まっていない作品」が選考基準の1つとなっている。映画祭の公式パンフレットによると、この映画の製作年は2007年。マイク・リー作品なのに、なぜ公開が決まっていないのだろう。とはいえ、データベースサイトIMDbによると、本国イギリスでの公開は今年の4月だったよう。それならば、日本公開の可能性もまだまだ残されているかもしれない。
今回も“即興演出”で撮影
マイク・リーといえば、がっちりと決められた脚本を使わず、俳優たちと話し合いをしながらキャラクターを作り上げていく“即興演出”で有名だ。今回の作品も、やはり同じ手法で製作したという。サリー・ホーキンスは「人生は、時々晴れ」「ヴェラ・ドレイク」にも参加しており、その撮影時に監督の信頼を得たようだ。
「ハッピー・ゴー・ラッキー」とは、“楽天的”“脳天気”“成りゆきまかせ”というような意味、らしい。何とも浮かれたタイトルだが、マイク・リーがそんな映画を作ったとは驚きだ。前述の2作品や「人生は、時々晴れ」など、重めの作品を撮っているイメージがあるのに。個人的には、同じくイギリスの監督ケン・ローチとも重なる部分がある。ケン・ローチ作品の方が、観ていて「痛い!」と思うが。
「ハッピー・ゴー・ラッキー」とは、“楽天的”“脳天気”“成りゆきまかせ”というような意味、らしい。何とも浮かれたタイトルだが、マイク・リーがそんな映画を作ったとは驚きだ。前述の2作品や「人生は、時々晴れ」など、重めの作品を撮っているイメージがあるのに。個人的には、同じくイギリスの監督ケン・ローチとも重なる部分がある。ケン・ローチ作品の方が、観ていて「痛い!」と思うが。
ハイテンションであくまでも前向きな彼女、共感できますか?
主人公のポピーは、30歳の小学校教師。とにかく陽気で、すこぶるテンションが高い。全編を通して1、2を争うぐらい印象に残ったのは、実は冒頭のシーン。街角に停めていた自転車を盗まれたポピーは、ちょっと困ったような笑顔で「まださよならも言ってなかったのに」と言うのだ。「そんな発想する人いるんだ!?」と、のっけから驚いた。
彼女は始終こんな感じで、何事に対してもポジティブ。相手がどんな反応をしようが、構わず自分のペースでまくし立てる。この映画に乗れるかどうかは、彼女に共感できるか否かに掛かっていると思う。「前向きで素晴らしい人ね!」と思えば彼女と一緒にハッピーになれるだろうし、「こういう人って苦手……」と感じるならば引いてしまうだろう。もし自分の場合、ポピーのような人がそばにいたら……はっきりいって、ちょっと鬱陶しい。
ちなみに、彼女の周りの人たちも大変なマシンガントークを繰り広げ、おそろしく頭の回転が速い。こんなスピード、とてもじゃないけど付いていけない。「頼むからしばらく一人にして!」と言いたくなりそうだ。
彼女は始終こんな感じで、何事に対してもポジティブ。相手がどんな反応をしようが、構わず自分のペースでまくし立てる。この映画に乗れるかどうかは、彼女に共感できるか否かに掛かっていると思う。「前向きで素晴らしい人ね!」と思えば彼女と一緒にハッピーになれるだろうし、「こういう人って苦手……」と感じるならば引いてしまうだろう。もし自分の場合、ポピーのような人がそばにいたら……はっきりいって、ちょっと鬱陶しい。
ちなみに、彼女の周りの人たちも大変なマシンガントークを繰り広げ、おそろしく頭の回転が速い。こんなスピード、とてもじゃないけど付いていけない。「頼むからしばらく一人にして!」と言いたくなりそうだ。
ディスカッションを重ねた上で生れたリアリズム
ポピーの底抜けの明るさを、もちろん「いい」と思う人たちばかりではない。車の教習(とはいえ、日本とは少々システムが違うのだが)の教官を怒らせ、妊婦の友達とは大ゲンカになる。ケンカの相手も「それもちょっとどうなの」と思うぐらい神経質でヒステリックだったりするのだが、イライラが抑えられないという心境はとてもよくわかる。実際に日常生活の中で、ここまであからさまに爆発することはないけれど。
彼女を単純に“太陽のような女性”とするのではなく、周りを勇気付けもすれば傷付けもする、という両面をきっちりと描いているのがリアルだ。「他人と関わるのってそういうことだよな」と思う。合う人合わない人、励まし合える人にぶつかってしまう人。誰とでもうまくやっていければいいけれど、生きている以上、綺麗事だけでは済まされないのだから。
このように、登場人物たちがとても人間臭く、やり取りも生々しい。こうしたリアリズムが、ディスカッションの末に生れているというのが面白い。マイク・リーはもちろん、役者の面々も本当によく人間観察をしている。今回の鑑賞では、どうもポピーの勢いに圧倒された感があるので、ぜひもう一度観てみたい。その機会があるならば、一見お気楽に見える彼女の抱える思いや、周りへの波紋を、今度は冷静に観察してみようと思う。
彼女を単純に“太陽のような女性”とするのではなく、周りを勇気付けもすれば傷付けもする、という両面をきっちりと描いているのがリアルだ。「他人と関わるのってそういうことだよな」と思う。合う人合わない人、励まし合える人にぶつかってしまう人。誰とでもうまくやっていければいいけれど、生きている以上、綺麗事だけでは済まされないのだから。
このように、登場人物たちがとても人間臭く、やり取りも生々しい。こうしたリアリズムが、ディスカッションの末に生れているというのが面白い。マイク・リーはもちろん、役者の面々も本当によく人間観察をしている。今回の鑑賞では、どうもポピーの勢いに圧倒された感があるので、ぜひもう一度観てみたい。その機会があるならば、一見お気楽に見える彼女の抱える思いや、周りへの波紋を、今度は冷静に観察してみようと思う。
監督・脚本:マイク・リー
出演:サリー・ホーキンス/エリオット・コーワン/アレクシス・ジガーマン
原題:Happy-Go-Lucky
イギリス/2007年/カラー/118分/35mm/英語
●東京国際映画祭のホームページ
●「ハッピー・ゴー・ラッキー」紹介ページ
●TIFF編1:メキシコ発、ジャームッシュがファンが喜びそうな「レイク・タホ」
●第15回:たまにはアナログ回帰も。VHSが巻起こす騒動「僕らのミライへ逆回転」
●第14回:豪華共演! N・ポートマン×S・ヨハンソンの配役の妙「ブーリン家の姉妹」
●第13回:カンヌで審査員賞を受賞。不協和音を奏でる家族の肖像「トウキョウソナタ」
●第12回:ひき逃げ事件の遺族と加害者の心理は……「帰らない日々」
●第11回:今年の夏休みは絶対山へ行くぞ! 「ジャージの二人」
●第10回:ある男の奇想天外な夢の行方は? 「庭から昇ったロケット雲」
●第9回:コメディタッチで16歳の妊娠を描く「JUNO/ジュノ」
●第8回:橋口亮輔監督が描く、ある夫婦をめぐる10年の物語「ぐるりのこと。」
●番外編:「JUNO/ジュノ」で妊娠する16歳を演じたエレン・ペイジは、普通の女の子
●第7回:幸せな老夫婦に迫る影は? 「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」
●第6回:“ボブ・ディラン”のイメージを形にした万華鏡「アイム・ノット・ゼア」
●第5回:トニー・ギルロイ、初監督にして高評価! クライムサスペンス「フィクサー」
●第4回:ダニエル・デイ=ルイスの狂気が光る「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
●第3回:ポール・ハギスから突き付けられた課題は重い…… 衝撃の実話「告発のとき」
●番外編:サイコキラー、日本上陸! 「ノーカントリー」ハビエル・バルデム来日記者会見
●第2回:コーエン兄弟、アカデミー賞4部門受賞で一躍有名に? 「ノーカントリー」
●第1回:アカデミー賞4部門ノミネート! 「潜水服は蝶の夢を見る」
出演:サリー・ホーキンス/エリオット・コーワン/アレクシス・ジガーマン
原題:Happy-Go-Lucky
イギリス/2007年/カラー/118分/35mm/英語
●東京国際映画祭のホームページ
●「ハッピー・ゴー・ラッキー」紹介ページ
●TIFF編1:メキシコ発、ジャームッシュがファンが喜びそうな「レイク・タホ」
●第15回:たまにはアナログ回帰も。VHSが巻起こす騒動「僕らのミライへ逆回転」
●第14回:豪華共演! N・ポートマン×S・ヨハンソンの配役の妙「ブーリン家の姉妹」
●第13回:カンヌで審査員賞を受賞。不協和音を奏でる家族の肖像「トウキョウソナタ」
●第12回:ひき逃げ事件の遺族と加害者の心理は……「帰らない日々」
●第11回:今年の夏休みは絶対山へ行くぞ! 「ジャージの二人」
●第10回:ある男の奇想天外な夢の行方は? 「庭から昇ったロケット雲」
●第9回:コメディタッチで16歳の妊娠を描く「JUNO/ジュノ」
●第8回:橋口亮輔監督が描く、ある夫婦をめぐる10年の物語「ぐるりのこと。」
●番外編:「JUNO/ジュノ」で妊娠する16歳を演じたエレン・ペイジは、普通の女の子
●第7回:幸せな老夫婦に迫る影は? 「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」
●第6回:“ボブ・ディラン”のイメージを形にした万華鏡「アイム・ノット・ゼア」
●第5回:トニー・ギルロイ、初監督にして高評価! クライムサスペンス「フィクサー」
●第4回:ダニエル・デイ=ルイスの狂気が光る「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
●第3回:ポール・ハギスから突き付けられた課題は重い…… 衝撃の実話「告発のとき」
●番外編:サイコキラー、日本上陸! 「ノーカントリー」ハビエル・バルデム来日記者会見
●第2回:コーエン兄弟、アカデミー賞4部門受賞で一躍有名に? 「ノーカントリー」
●第1回:アカデミー賞4部門ノミネート! 「潜水服は蝶の夢を見る」
2008年10月30日
映画コラムニスト 鈴木晴子
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最終更新 11.12.20 15:43
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