今年のアカデミー賞はコレが取る!?
映画ライター鈴木晴子、独断と偏見で予想【作品賞・監督賞編】

2010年3月3日

さて、いよいよ3月8日に迫った〈第82回アカデミー賞授賞式〉。HiVi WEBでは、今年も実況中継を行ないます! 来週の本番を目前に控え、映画ライター鈴木晴子が、大胆にも受賞予想に初挑戦してみました。独断と偏見で選んだので、外れたら笑って許してくださいませ。あ、「遅いよ」という突っ込みはナシの方向でお願いします。では、まずは作品賞・監督賞編からどうぞ!


【作品賞】

(C) 2009 Twentieth Century Fox.
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◆「アバター

もうすでにご覧の方も多いであろうこの作品。自分の周りでは、特に男性陣に賛否が別れているようだけど、私は「参」だ。純粋に世界観に没頭できる自分は、まだまだ童心を忘れてない! と少し誇らしげ(?)に思ったり。ものすごい勢いでヒットを飛ばし、とうとう「タイタニック」の興行成績まで抜いてしまったけれど、今年は「アバター」イヤーとなるのだろうか。可能性は結構ある気がするけども。現在公開中。

(C) 2009 ALCON FILM FUND,
LLC ALL RIGHTS RESERVED
◆「しあわせの隠れ場所

私は好きです、これ。“家庭に恵まれない黒人の若者”という設定は「プレシャス」と同じで、主人公の境遇には胸が痛くなる。主人公マイケルとサンドラ・ブロック演じるリー・アンが出会うあたりからは、たびたび涙腺が緩みそうだった。人生の道を分けるものって、一体何なんだろう。サンドラ・ブロックもいいんだけど、マイケル役のクィントン・アーロンがまたヨシ。これが実話というのがすごいなあ。現在公開中。

(C)2009 District 9 Ltd All Rights Reserved.
◆「第9地区

すみません、観られませんでした……。ドキュメンタリータッチで撮られていて、“知的かつリアルなSF”らしい。普段はあまり興味のないジャンルだけど、ものすごく気になる。評判もかなりいいみたいだし。監督はこれが長編デビュー作で、有名俳優も出ていない。条件的に、ノミネート数が5本から10本に増えなければ、多分入らなかったんだろうな。こういう作品にスポットが当たるなら、数が増えるのにも賛成。4月10日より公開。
◆「17歳の肖像

こちらも“小粒な良品”といった趣きの作品。1961年のロンドンを舞台に、成績優秀な16歳の女の子が、倍以上も年が離れた男性と恋に落ちる。主人公のお相手役のピーター・サースガードが、本気なのか遊んでるのか、いいやつなのか悪いやつなのか、どちらとも取れるところがうまい。繊細でどちらかというと地味ゆえ、作品賞にノミネートされるとは思わなかったけど、これも10本効果だろう。4月17日より公開。

(C) 2008 Hurt Locker, LLC.
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◆「ハート・ロッカー

終わった直後はうまく言葉にならず、「何だかすごいものを観た」という感覚だけが残った。イラク戦争という共通項のせいもあるだろうけれど、「告発のとき」でも感じたような“後から考えれば考えるほど、とてつもない作品だったんじゃないかと思えて仕方ない”という現象は今でも続いている。一言だけいうと、最初と最後がすべて。ただただそこにある現実に打ちのめされた。これは必見! 3月6日より公開。

(C) 2009 Universal Studios.
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◆「イングロリアス・バスターズ

えっ、これノミネートなの!? とびっくり。タランティーノがやりたい放題やってるようにしか見えませんでしたが。もちろんそこがいいんだけど、アカデミー賞に絡むタイプの映画なんですかね。史実とか……そういう……いいの……? って、まあタラちゃんですもの。細かいことはどうでもいいか。この作品こそ、まさに10本効果の最もたる物のような気がする。下にある「カールじいさん〜」より驚いたぞ。

(C) PUSH PICTURES, LLC
◆「プレシャス

貧しい家庭で激しい虐待を受け、体型のせいで学校でもいじめられ、どこにも居場所がない少女プレシャス(愛しい、尊いの意)。しかも、父親の子供を妊娠している……。実際にハーレムで教師をしていた女性の書いた本が原作となっており、識字率の低さなど、あまりの現実に言葉を失う。それでも、この作品がもたらすのは一筋の光。過酷な状況でも必死に前を向いて生きようとするプレシャスは、誰よりも強い人間だと思う。4月24日より公開。
◆「ア・シリアス・マン(原題)」

画像がありません。なぜか。公開が決まっていないらしい。監督はコーエン兄弟なのに! どうやら今度もコーエン節全開のコメディよう。「バーン・アフター・リーディング」(08)があまりにもボロクソに言われたので(よりによって「ノーカントリー」(07)の後だったしね……)、恐ろしくて公開できないのだろうか。観たいよ! どこか頑張って配給してください。ぜひ。

(C) WALT DISNEY PICTURES /
PIXAR ANIMATION STUDIOS.
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◆「カールじいさんの空飛ぶ家

アニメ作品がノミネートされるのは、1992年の「美女と野獣」以来。2001年に長編アニメ賞ができてからは初めてだ。いや、「イングリアス〜」の次に驚いた。これもまさに10本ノミネートならでは。ご他聞に漏れず、最初の10分で涙腺が決壊した私としては、可能性は限りなく低いとはいえ、この作品が取っても面白いなあと思う部分もあり。ピクサーおそるべし。

(C) 2009 DW STUDIOS L.L.C
and COLD SPRING PICTURES.
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◆「マイレージ、マイライフ

人に執着せず、ドライに仕事をこなす一人の男が、ある2人の女性と出会ったことで自分を見つめ直していく……。“リストラ宣告人”の主人公を中心に、現代人の様々な人間模様を描くドラマ。予想を裏切る方向に展開するのは、さすがジェイソン・ライトマンの監督・脚本という感じだ。この終わり方、あなたはどう考える? 3月20日より公開。
今年は作品賞のノミネート数が5本から10本に増えた。こうしてずらりと並んだ映画を眺めると壮観。アニメや小品がノミネートされたのには、「いい効果!」と嬉しくなる。だからこそ、やっぱりそういった作品が……と言いたいところだが、やはりここは「ハート・ロッカー」が行くのではないだろうか。下馬評通りといえば下馬評通りなのだが、そう評価されるだけの力があるのだ、この作品には。騙されたと思って、一度観てみてください。しかし、10本あるのに何故「インビクタス/負けざる者たち」が入っていないのだろう。誰か教えて。
【監督賞】
◆キャスリン・ビグロー/「ハート・ロッカー

何も知らなければ、絶対に女性監督の作品とは気づかないだろう。その徹底したリアリズムには脱帽。ビグローが監督賞を取れば、女性初の快挙になる。その瞬間は、かなり見てみたいかも。ちなみに世間で騒がれている通り、「アバター」のキャメロンの2番目の奥さんそう。せっかく美人なのに、サングラスかけてる写真でゴメンナサイ。
◆ジェームズ・キャメロン/「アバター

“監督は神です!”とは「アバター」関係者の声だけど、確かにあらゆることが凡人の予想の範囲を超えている。「タイタニック」(97)で作った興行収入の記録を、また自分の作品で更新しちゃうって……。同じことをやる人が、果してこの先現れるのだろうか。現れないだろうなあ。好き嫌いはともかく、クレイジー(誉めてます)。モーツァルトと時代を共にした人は、こんな気分だったのかなと妄想してみる。

(C) PUSH PICTURES, LLC
◆リー・ダニエルズ/「プレシャス

「チョコレート」(01)で製作を務めたリー・ダニエルズは、父親から虐待を受けていた過去があるという。この作品にも、自身のアイデンティティが大きく反映されているように思える。日本でぬるま湯に浸かって生きている自分には、想像も付かないほど厳しい世界。現実を真摯に見つめつつも、微かな光を注いだ彼の目線は素晴らしい。すごくいい作品なので、ヒットするといいなあ。

(C) 2009 DW STUDIOS L.L.C
and COLD SPRING PICTURES.
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◆ジェイソン・ライトマン/「マイレージ、マイライフ

長編デビュー作「サンキュー、スモーキング」(06)がゴールデン・グローブ賞に、2作目「JUNO/ジュノ」(07)がさらにアカデミー賞にもノミネートされたジェイソン・ライトマン、現在32歳。で、3作目ではアカデミー監督賞に初ノミネート。何だか出世街道爆走中だが、若くてまだまだ伸びしろがある人だと思うので、ここで取ってしまったら面白くない気もする。彼にはこれからも、“山椒は小粒でもぴりりと辛い”作品を撮り続けてほしい。
◆クエンティン・タランティーノ/「イングロリアス・バスターズ

「パルプ・フィクション」(94)で脚本賞を取っているとはいえ、私の中では“タランティーノ≠アカデミー賞”のイメージなんですが、皆様いかがですか。作品賞は10本だからまだわかるけど、監督賞にもノミネートされたか。となると、作品賞も“ぎりぎり10本目に滑り込み”ではなかったのかも? タラちゃんには、これからも賞なんて気にせず、好き放題やってほしいです。もともと気にしてないだろうけどね。
自分の頭の中の世界を描き出すためにカメラまで作っちゃったキャメロン、女性とは思えない骨太な作品を作り上げたビグロー。作品賞もだが、監督賞もやはりこの2人が本命視されているよう。同性としては「ビグローに女性初の監督受賞!」となってほしいような気はすごくするのだが、ここは敢えて「プレシャス」のリー・ダニエルズを推したい。ドキュメンタリーのようにリアルなのは「ハート・ロッカー」も「プレシャス」も同じだけど、彼の奥底に見え隠れするあたたかさに感動した。って、これじゃ予想じゃないかも?


by 映画コラムニスト 鈴木晴子