「ハート・ロッカー」が6部門受賞で圧勝!
第82回アカデミー賞に思うこと

“元夫婦対決”は「ハート・ロッカー」に軍配が

 今年もアカデミー賞の授賞式とリアルタイム速報が終了。毎年のごとく、舞台裏はバタバタだった。嵐が過ぎ去り、しばし呆然。

 今回は「アバター」のジェームズ・キャメロン監督と「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督の“元夫婦多対決”が大きく報じられていた。この2作品は、ともに作品賞/監督賞など最多9部門にノミネート。映像に革命を起した「アバター」か、フィクションとは感じさせないリアルさで戦争の真実を抉った「ハート・ロッカー」か。結果は「アバター」が撮影賞/美術賞/視覚効果賞の3部門、「ハート・ロッカー」が作品賞/監督賞/脚本賞/編集賞/録音賞/音響編集賞の6部門受賞。蓋を開けてみれば、元妻の圧勝だった。加えて、女性監督の監督賞受賞は初めて。めでたい!

50%の的中率。全部外さなくてよかった……

 ちなみに、独断と偏見による受賞予想と実際の結果は以下のようになった。


 
予想
受賞結果
作品賞
監督賞
リー・ダニエルズ/「プレシャス
キャスリン・ビグロー/「ハート・ロッカー
主演男優賞
ジェレミー・レナー/「ハート・ロッカー
ジェフ・ブリッジス/「クレイジー・ハート(原題)」
主演女優賞
サンドラ・ブロック/「しあわせの隠れ場所
サンドラ・ブロック/「しあわせの隠れ場所
助演男優賞
スタンリー・トゥッチ/「ラブリーボーン
クリストフ・ヴァルツ/「イングロリアス・バスターズ
助演男女優賞
モニーク/「プレシャス
モニーク/「プレシャス


「全部外したらどうしよう」と内心ひやひやしていたけれど、6分の3だったらまずまずではないだろうか。外した3部門に関しても、「多分この人が受賞するけど、希望はこの人」と書いて、その“多分この人”が受賞している。となると、ジェフ・ブリッジス然り、クリストフ・ヴァルツ然り、下馬評通りの受賞が多かったということだろう。賞の発表は、特に主演男優賞が印象的だった。ジェフ・ブリッジスとモーガン・フリーマンのベテラン2人が、自分についてのコメントを受けている際、それぞれ涙目に。その表情に、こちらまでじんとこみ上げるものがあった。

 女優賞の2部門はビンゴ。まずはサンドラ・ブロック、あなたは立派な姐御です! 彼女は前夜、「All About Steve」でラジー賞(最低映画に贈られる賞)の最低女優賞を受賞。通常、ラジー賞の授賞式には出席しない俳優が多いのだが、サンドラは堂々と登壇した。しかも「みんな、ちゃんと映画観てよね!」と、自らラジー賞会員たちに映画のDVDを配るという男前っぷり。なぜ彼女の人気が高いのか、一気にわかった気がした。ラジー賞とアカデミー賞、最低と最高の2冠を同時に手にした女優はサンドラが初めて。この栄誉、いつまでも忘れずに!

 そして、モニークの助演女優賞受賞は本当に嬉しい。「プレシャス」は重いけれどすごくいい映画なので、ぜひ多くの方に観ていただきたい。さすがにリー・ダニエルズの監督賞受賞の可能性が低いのはわかっていたけれど、脚色賞も受賞できてよかった。公開されたら、また観に行きたい。

問題作「ザ・コーヴ」、日本では初夏に公開決定

 主要部門以外でインパクトがあったのは、「ザ・コーヴ」の受賞。発表されたときは、思わず「あーあ」と声を上げてしまった。この作品は、和歌山県で行なわれているイルカ漁を盗撮し、大きな波紋を投げかけた問題作だ。東京国際映画祭で緊急上映されていたが、どうやら本格的に日本公開が決まった模様。映画祭の記者会見で、ルイ・シホヨス監督は「日本人にこの映画を観てもらって、初めて“ウィンウィン”の状況になると思う」と語っていたが、実際「ザ・コーヴ」を目の当たりにした日本人は何を感じるのだろうか。その反応に、とても興味を引かれる。

どんどん未公開作が増えていく現実

 長くなったが、最後に。アカデミー賞のノミネート表を作成していて、公開情報を「未定」にしなければならない作品が、明らかに増えていることが気になった。昨年は主演女優賞ノミネートの「フローズン・リバー」が公開未定で憤慨していたが、今年の未定の本数はその比ではない。その背景には、良質な映画を配給していたムービーアイやザナドゥーの破綻、かつては観客がたくさん入っていたミニシアター、シネ・アミューズの閉館など(閉館時の名称はヒューマントラストシネマ文化村通り)、深刻な事情があるのだろう。映画がハイリスクローリターンのビジネスということは多少なりともわかっているつもりだが、琴線に触れるような作品に出会える機会がどんどん減っていると思うと、なんとも言えない気持ちになる。

 でも、そんな暗いことばかりではない。上記の「フローズン・リバー」は、“先進国で公開が決まっていないのは日本だけ”という状況を憂いたシネマライズ(東京・渋谷にある映画館)の手によって、1月末から公開。先日観てきたが、やはり素晴らしかった。自分にできることは、少しでもこうした映画を観て、たとえわずかでも売上げに貢献することぐらいだが、“観客にいい映画を届けよう!”という心意気のある方々がいる限り、まだまだ希望を持っていたいなあと思う。

 というわけで、今年もいろいろな思いが駆け巡ったアカデミー賞。リアルタイム速報を見てくださった方々、どうもありがとうございました! お楽しみいただけたなら幸いです。

【追記】
クレイジー・ハート」の2010年公開が決定。タイトルからも“(原題)”の表記が取れた。万歳! この勢いで、「ザ・ラストステーション」と「ザ・メッセンジャー」も公開されるとすごく嬉しい。



2010年3月8日
映画コラムニスト 鈴木晴子

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最終更新 11.12.20 15:44

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