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[24765] クローパイツァー 黒の不審者伝説  【グローランサー6 オリ主 冤罪成分・投獄成分・微量変態成分を含みます】
Name: 豆◆f0891c05 ID:cbf1eea4
Date: 2011/12/04 18:36



前書き




この作品は息抜きに思いついたネタを書いてみた作品です。

グローランサー6の二次創作です。

下ネタを含みます。どうか、ご了承下さい。







[24765] 第一話 目覚め
Name: 豆◆f0891c05 ID:cbf1eea4
Date: 2010/12/06 17:43










「光を感じます。

 淡いながらも強く輝こうとする光を

 素養はあるようですがそれだけで判断するのは早計。」


一体何だ?

女の声が聞こえる。


「はじめまして、今、貴方の心に直接語りかけています。」


心に?


「はい。私は破滅に向うこの世界を救える人達を探しています。」


俺の目の前には声の主と思われる女性が居た。


特徴その1 美人

特徴その2 オッドアイ(瞳の色が左右違う。)

特徴その3 巨乳 ←これ重要!!

 
「もしかしたら、貴方がその戦士であるかもしれません。

 ですから、貴方が私の探している人物であるかどうか、これから少し見せて頂きたいのですがよろしいですか?」

「構いませんが、その前に貴方のパイオツを見せて貰えませんか?」

「・・・・えっ?」

「いえ、失礼しました。貴方のオッパイを見せて見せて貰えませんか?

 後、出来れば触らせて下さい。それが本物かどうか確認したいので・・・。」


「・・・・・・残念ながら貴方は私の求める戦士では無いです。

 このまま、永久に眠っていて下さい。」

「あ、ちょっと・・・・。」
















第一話 目覚め






何処だここは?

見慣れないポッドの様な物の中で目覚め、外に出てみたは良いが相変わらず見慣れない風景だった。

俺の入っていたポッド?は砂浜に打ち上げられており、近くではウミネコの鳴く声が聞こえている。

俺はポッドの中にあった双剣を意味も無く振り回しながら、周囲を調べる事にした。



結果、何も分からなかった。

そもそも、俺は誰だ?何か変な夢を見た気がするが・・・・それ以前の記憶が無い。

このポッドに入った記憶も無いし、名前も思い出せない。

唯一分かる事は、この両手に持っている双剣が俺の物だと云う事だけだ。

さっきから、妙に手に馴染んでいる。きっと記憶を失う前の俺は双剣使いだっのだろう。

それはそうと、何時までもこんな所に居ても仕方ない。

とりあえず、俺は誰か人が居ないか探してみる為にその場を移動する事にした。











人を見つけること自体は簡単だった。

ポッドのあった場所から少し歩くと街道があった。

その街道を道なりに歩いて行くとキャラバンに遭遇した。

最初は怪しまれたが、事情を説明すると商人達が同情してくれたらしく

次の町まで一緒に行かないかと誘われたので同行させて貰った。

途中、何度かモンスターに遭遇した。

戦い方は体が覚えていたので何とかなった・・・・・訳でも無かった。


やられそうになった所を、他の護衛に助けて貰ったりしながら何とか戦っていたのが真実だった。

何度か戦っている内に、勘が戻ってきたのかどうかは知らないが

他の護衛達に迷惑を掛けない様にはなった。

その後、町までたどり着いた俺は商人達から金銭を受け取ると彼らと別れた。

一応護衛をしてくれたので、その報酬との事だった。






その後、俺は町をブラブラと歩き回っていた。

ポッドの中に独りと云う事態よりは、好転しているものの現状は不安だらけだ。

この町に着くまでの間に、商人や護衛達から色々な話を聞いたのだが

何一つとしてピンと来る話が無かった。

そんな、心の中でため息をつきつつ、町を散歩しながら人生という名の道に迷っている俺に声を掛けて来た人達が居た。


「その頬の印、もしかして守護勇士(ブレイブ・ガード)様では?」

「・・ブレイブ・ガード?」


なんじゃそりゃ?


「申し訳ありませんが、記憶が無いので私がブレイブ・ガードかどうかは判りません。

 もし、宜しければ詳しい話を聞かせてくれませんか?」


「記憶が無い?」

「・・・そういえば、イリステレサ様が『私の守護勇士は記憶を失っている』と、以前話して居られた様な。」

「確かに。」

「やはり、本物だ。」


何だコイツら、コソコソと。


「申し訳ありませんが、私にも分かるように説明して貰えませんか?」

「失礼しました。貴方は本物の守護勇士です。巫女様が貴方を待っています。

 我々と一緒に『大地の里』まで来て頂けませんか?事情は道中説明します。」

「・・・分かりました。」


自分の事についての手掛かりを掴んだ俺は、コイツ等を怪しいと思いながらも同行する事にした。











「つまり、貴方達の里(大地の里)に居る『大地の巫女』を守護するの役目を持っているのが

 守護勇士(ブレイブ・ガード)と云う事ですか?」

「はい、そして貴方の頬にある印が守護勇士の証です。役目が迫った時に大地の巫女はポッドの中から目覚めます。

 そして、守護勇士も巫女を守るべくポッドの中から一人目覚めるのです。」

「・・・確かに、ポッドから目覚めた。それで、私は大地の巫女とやらが役目を果たす手伝いをすれば良いのですか?」

「実は今回の大地の巫女の役目は既に果たしているのです。」

「果たした?」

「はい。その役目を果たした帰りに、貴方と離れ離れになって仕舞った様なのです。」

「帰り道でねぇ。それはついてない。」

「はい、里に戻ってきたイリステレサ様の落ち込み様は酷いものでした。」


イリステレサ様ってのは、大地の巫女の名前らしい。

話を聞いている内に、少しづつ違和感を覚えてきた。

何だ、この感じは?














そして、大地の里に到着した俺は碌な心構えも出来ないままに大地の巫女さんに会う事になった。


「イリステレサ様は、奥の広場にいらっしゃいます。早く会って、安心させてあげて下さい。」


里の案内を買って出てくれた若者に促されて、俺は重い足取りで巫女さんの居る広場に向った。

なんて話しかければ良いんだ?

久しぶり?

始めまして?

下らない事を考えても足は動く。

気付くと目の前の広場には、数名の子供達とこっちに背を向けて座っている女性が居た。

あの女性が巫女か。

さて、何と声を掛けたもんか。














                  イリステレサside


(インフィニトーは死に、私の巫女としての使命は生まれる前に解消された。

 平和なはずの世界。なのに、私の心は・・・。)


子供達と相手をしつつ物思いに耽っていた私は、不意に背後に視線を感じて振り返った。

そこには困った表情を浮かべたあの人が立っていた。

私は咄嗟に立ち上がり、気付くとあの人の元へと駆け寄っていた。

モノポリス社に捕まった私を、自らの命を犠牲にして助け出してくれたあの人。私の守護勇士。

その後、インフィニトーとの戦いで私を守ってくれた守護勇士が新たに目覚めた守護勇士では無く

モノポリス社に捕まり人体実験をされ、記憶を無くしていた私の守護勇士だと気付き

私はあの人と共に生きて行こうと決心した。


でも、あの人はインフィニトーとの最終決戦の為に向った2000年前の過去に置き去りになってしまった。

もう会えない。

でも、もしかしたら会えるかも知れない。

そう思って、今日まで生きて来た。


感情が、涙が溢れる。

私はあの人に駆け寄ると、感情に任せて平手打ちをしてしまった。















                  主人公side





何て声を掛けたら良いか悩んでいた俺だったが

俺に気付くと巫女さんの方が先に行動を起した。

涙を流しながら俺に駆け寄ってくる巫女さん。

美人の巫女さんだ。そして、巨乳。

駆け寄ってくる巫女さんの、自己主張が激しい実った果実に目を奪われていると


       バチーン!!


巫女さんは、俺に盛大な平手打ちを喰らわせて来た。

オッパイを凝視していたのがばれたのか?唖然とする俺に巫女さんは言葉を掛けてきた。


「私の気持ちが判りますか?世界が変わって、巫女の使命からも開放されて、なのにその喜びを分かち合える人が隣に居ないなんて。

 酷いです、遅いじゃないですか。私にこんな寂しい思いをさせて、酷い人です。ずっと、ずっと待ちました。

 でも、もう待つのは嫌です。約束して下さい。もう、私の隣から離れないと・・・愛しています。」


かなり、予想外だ。



その1 駆け寄る

その2 平手打ち

その3 抱き付いて来る

その4 プロポーズ



俺は若干混乱しつつ、抱き付いて来た巫女さんを抱きしめて

丁度、目の前にある巫女さんの髪の匂いを嗅ぎつつ、果実の感触を体で感じながら

これからの対応について考えた。


選択肢1  巫女さんの恋人の振りをして結婚する。都合の悪い事は記憶喪失で誤魔化す。

選択肢2  「俺の事は忘れろ」と、巫女さんを冷たく突き放して旅に出る。

選択肢3  巫女さんに、本当に俺が恋人で間違い無いか良く確認する。

選択肢4  クールな俺は、現状を打破する為の名案を思いつく。



















選択肢3で行くか。

選択肢1は論外だ、戻ってきた本物の恋人に刺し殺されるのがオチだ。

選択肢2も不味い。ヤンデレ化した巫女さんに刺し殺される気がする。

選択肢4は在り得ない。何故なら今の俺は巫女さんの所為で一部がホットになっているからな。





「すみません、私は記憶を無くしています。本当に貴方の恋人なんでしょうか?」

「えっ!?」


驚愕に染まる巫女さんの顔。


「そんな・・・。私の事が判らないのですか?」

「はい。人違いでは無いですか?」

「・・・胸。」

「胸?」


俺は巫女さんの『胸』と言う呟きに反応し、至近距離から巫女さんのオッパイを凝視した。

ナイス・オッパイ。


「貴方の胸にはキズがあったハズです。それが証拠になります。」

「胸にキズ?」

「ちょっと見せてください!!」

「なっ!!」


そう言うやいなや、巫女さんは俺の服を引っぺがし、胸元を露出させた。

そこにキズは、無かった。


「そんな・・。貴方は誰です!!」

「分かりません。ここの里の人達には『ブレイブ・ガード』だと言われましたが。」

「貴方は私の守護勇士(ブレイブ・ガード)ではありません!!」

「すみません。」

「返して!!私の涙と純情を返して!!」


バキッ!!


そして、巫女の右ストレートが顔面に炸裂するのと同時に俺は意識を手放した。













[24765] 第二話 誕生
Name: 豆◆f0891c05 ID:cbf1eea4
Date: 2010/12/08 02:05












かつて、遠き星よりやって来た侵略者『インフィニトー』との戦いがあった。

インフィニトーの野望はやがてこの星を滅亡させる。

そして、この星を滅亡から救う為に多くの者が立ち上がってインフィニトーと戦った。

大地の巫女はその抵抗者達の中心であった。

その大地の巫女が生まれ育った里が、『大地の里』である。

インフィニトーが大地の巫女によって封じられ、世界に平和が戻りつつあった。

そんな時、大地の里の族長の前に、数人の男達によって拘束されている頬に印のある青年が連行されてきた。


「大地の巫女達は無事か?」

「はい、全員無事に保護しました。」

「そうか。」

「この男の拘束にも成功しました。」

「・・・・。」


拘束されている青年は終始無言だ。

そんな青年を一別した族長はただ短く

「連れて行け。」

と、命令しただけであった。

そんな族長に側近が声を掛ける。


「此度の事態、如何なる対応を為さるのですか?」

「・・・あの者の過去の功績は大きい。インフィニトーの封印、その後の里の復興にも大きく貢献している。

 だが、此度の行いは見逃す事は出来ない。処罰はおって知らせる。」

「はい。」




















第二話 誕生



巫女のストレートを喰らってから三日たった。

俺は今、大地の里の族長の家にお世話になっている。


「てな、訳で何かこう・・、メチャクチャ美男子変身出来る薬とか、透明になれるマジックアイテムとか無いんですか?」

「藪から棒に何じゃ。」

「実は、巫女さんが俺と顔を会わせる度に泣きそうになるんです。」

「ふむ。」

「どうやら、待ち続けている恋人に瓜二つだそうで・・・。」

「それで、顔を変えようと?」

「はい。」

「残念じゃが、家には『仮面付きのゴッツイ鎧』はあっても、顔を変えられる様な物は無い。」

「『仮面付きのゴッツイ鎧』って、そこに飾ってあるヤツですか?」

「うむ、何でも遥か昔から我が家に伝わる由緒正しい鎧らしい。

 そもそもは、侵略者『インフィニトー』を・・」


爺さんの長話が始まった。

それにしても、仮面か。

俺は爺さんの話を聞き流しながら鎧を弄くり、軽い気持ちで取り外した仮面を被ってみた。

ふむ、意外とピッタリだ。まるで顔に吸い付くようだ。


「おお、そうじゃった、そうじゃった。大事な事を言い忘れておったわ。

 その仮面は呪われておっての、一度付けたら外れないのじゃ。

 ワシの爺さんも若い頃に、うっかり着けてしまっての。死ぬまで仮面をつけて生活しておったわ。」

「・・・・おい、爺さん。そういう大事な事は先に言え。後、そんな危険な物を居間に飾っておくな。」



その日、大地の里に仮面の男が一人誕生した。





「爺さん、コイツを外す方法は無いのか?」

「死ねば外れるぞ。おぬし、死んで見るか?」

























族長の家にお世話になっているのだが、一応只で飯を喰らうのは抵抗があった。

その為、俺は日中には里の仕事を手伝っている。

畑の世話、色々なもの補修、子守、モンスター討伐等だ。

その日は、畑の手伝いをする為に鍬を担いで、タオルを首にかけ畑まで歩いていた。

途中で、巫女さんに遭遇し軽く挨拶をした。


「巫女さん、おはよう。」(仮面を着けている)

「おはよう御座いま!!・・誰です!!貴方は、目的はなんです!!」


巫女さんは俺を二度視した挙句、戦闘態勢をとった。


「いや、俺ですよ。先日、右ストレートを貰った。」(仮面を着けている)

「右ストレート?・・・ああ、思い出しました。それで、その仮面は一体何の真似です!?」

「族長の家にあったんです、被ったら外せなくなりました。」(仮面を着けている)

「・・・そうですか、それはなんて言って良いかは分かりませんが・・・頑張って下さい。」

「はい。」(仮面を着けている)


その日以降、巫女さんに泣かれそうになる事は無くなったが

代わりに俺を見かけた子供達が泣く様になった。

子供達が俺に慣れるまで何度も巫女さんに『子供を泣かすな!!』叱られたが

それはまた別の話だ。




















俺がこの里に来てから、半年が経った。

子供達も俺を見て泣く事は無くなり、里の人達にも馴染んできた。

ただ、巫女さんは意図的に俺を避けている雰囲気だ。

三日に一度顔を合わせる位だ。

きっと、恋人の幻影が俺とダブってしまうのだろう。

絶対そうだ。仮面の所為では無い。

今日は草むしりの仕事を頼まれた。

首からタオルをかけ、しゃがんで草を毟っていると背後に人の気配を感じた。


「あっ、勇者様。あそこに居る人に聞いてみましょう。」


女の子の声?

あそこの人って俺の事か?


「すみませーーん、ちょっと宜しいですか?」

「はい、何でしょう。」(仮面を被っている)


そこに居たのは、妖精を連れた青年だった。

声の主はこの妖精か?


「・・・・・。」

「如何かしましたか?」(仮面を被っている)


何だ?妖精と青年が固まっているが・・・。


「はっ!!失礼しました。実は少々、聞きたい事があるのですが

 この里は大地の里ですか?」

「はい、大地の里です。」(仮面を被っている)

「仮面の里ではないのですね?」

「仮面の里?」(仮面を被っている)

「いえっ!!何でもありません。この里にイリスさんはいらっしゃいますか?」

「イリスさん?ひょっとして、巫女さんの事ですか?」(仮面を被っている)

「はい、大地の巫女さまです。」

「この時間帯だったら、広場に居ると思います。案内しますよ。」(仮面を被っている)

「よろしくお願いします。」


妖精と話したのは初めてだ。

それにしても、一緒に居る青年は無口だな。

巫女さんに用事?

ひょっとしてコイツが巫女さんの恋人か?

そういえば、顔に変な印があるし着ている服も俺が最初に着ていた服と瓜二つだ。


「あの・・・如何して仮面を着けていらっしゃるのですか?」

「ああ、コレですか?着けたら外れなくなりました。

 何でも、2000年前にインフィニトーが直々に作成した自分用アーマーの成れの果てだそうで。」(仮面を被っている)

「インフィニトーがですか!?」

「はい、装備している者が死ねば外れるらしいのですが・・・。

 恐らく、インフィニトーは人から人に憑依していたらしいので、その様な機能をこの仮面に付けたのでしょう。」(仮面を被っている)

「なるほど、確かにインフィニトーにとっては効率的ですね。」


俺は主に妖精と会話しながら広場への道を先導して行った。

この青年、名前はメークリッヒと云うらしい。本当に無口だな。

代わりに妖精さんが色々と話してくれる。


「あそこに居ますね。・・・ごゆっくり。」(仮面を被っている)


広場の入り口まで案内した俺は、青年から少し距離を取り様子を伺った。

青年が巫女さんに近づいて行く。

巫女さんの方も青年に気付き、青年に近づく。

そして、互いに一言二言交わした後で抱き合った。

完全に二人の世界をかもし出している。


置いてけぼりを食らって頭に?マークを浮かべている子供達が俺のそばに寄って来て次々と俺に質問をぶつけて来る。


「ねーねー、あの人誰?」

「あの人は巫女さんがずっと待っていた恋人だ。」(仮面を被っている)

「恋人?じゃあ、結婚するの?」

「ああ。」(仮面を被っている)

「ずっと待ってたの?何処に行ってたの?」

「それは、恋人さんに聞いて見ないと分からないな。」(仮面を被っている)

「何でどっか行ってたの?」

「きっと、甲斐性無しだったのさ。」(仮面を被っている)

「勇者様は甲斐性無しじゃありません。沢山の女の人と仲良しです!!」


俺が適当に子供たちの相手をしていると妖精さんもこっちにやって来た。

そりゃあ、二人の世界を作られてちゃ妖精さんも居心地が悪いな。


「わぁ、妖精さんだ。」

「初めて見た。」

「何処から来たの?」


子供達の関心は一気にバカップルから妖精さんに移り、妖精さんを質問攻めにしていた。


「私は妖精のユリィと申します。ゴートランドと呼ばれている大陸からやってまいりました。」

「ゴートランド?外の大陸の事か?」(仮面を被っている)

「えっ?ああ(そうでした、インフィニトーを倒したから歴史が変わってクイーンが・・・。)ブツブツ」

「何か拙い事を言ったか?」(仮面を被っている)

「いえ、そう云う訳ではありません。」

「そうか、ちょっと記憶を無くしていて時々可笑しな事を言うけど気にしないでくれ。」(仮面を被っている)

「記憶を無くされたのですか?」

「ああ、半年前に頭に強い衝撃を受けてな。」(仮面を被っている)

「それは、何と仰ればいいか・・・。」

「気にするな、俺は気にしてない。」(仮面を被っている)

「その半年前の事が切っ掛けなのですか?」

「そうだ。半年前の『あの恐ろしい事件』が・・・。」(仮面を被っている)

「恐ろしい事件。」


妖精さん、子供たちが息を飲んで俺の次の言葉を待っている。


「そう、あれは丁度この場所で起こった事件だった。俺は里の入り口から歩いて来た所だった。

 すると、突然!!広場の真ん中にうずくまっていた髪のながーーい女が飛び掛って来た!!」(仮面を被っている)


妖精だんと子供たちは俺の身振り手振りを交えた話にすっかりと引き込まれていた。


「そして、その女は俺に飛び掛ると『ズットマッテタノ、モウハナレナイ。』そう言いながら俺の顔を殴りだした。

 俺はそこで気を失った。そして、俺が目を覚ますと・・・・・・。」(仮面を被っている)


ここで一旦間を取る。


「この仮面を着けられていたんだぁあああ!!!!!」(仮面を被っている)

「「「きゃーーーーー!!!!」」」


俺の話で妖精さんと子供たちは悲鳴をあげる。

完全にシテヤッタリだ。


「通称、妖怪『仮面女』だ。男に棄てられて自暴自棄の挙句に酒とギャンブルにのめり込み

 人生回廊を遭難した女の情念が妖怪になったものだ。」


だが、この時の俺は自分の背後に恐ろしいモノが居る事を知らなかった。


「誰が妖怪ですって?」


恐る恐る振り返ってみるとそこには『夜叉』が居た。


「人生回廊を遭難した女?男に棄てられた?」

「違うんですよ、巫女さん。あなたの事じゃ無いですって、・・・何ですか?その手に持ってるのは?

 それはクワですよ?主に土を耕す道具ですよ?」

「あら?そうなのですか?でも、こう云う使い方もたまには良いと思いますよ?」


ブンッ!!


ゴシャ!!


その日、俺はクワも凶器に成りえる事を知った。













その後、しばらくの間、里のあちこちで子供たちに怖がられたり泣かれたりする巫女さんの姿が目撃された。
















[24765] 第三話 旅立ち
Name: 豆◆f0891c05 ID:cbf1eea4
Date: 2010/12/10 01:06














大地の里の族長がある決定を下そうとしていた。


「お主のやった事は決して許される事では無い。」

「おいおい、大地の巫女はあんた等の玩具じゃ無いんだぜ。」

「だがお主の玩具でも無い。」

「・・・・確かに、正論だねぇ。」


拘束されている青年は、まるで自分の立場を分かって無い様な不敵な態度を崩さない。


「本来なら死罪だ。だが、お主のこれまでの功績に免じて追放に留める。」

「随分とお優しい事で、ついでに大地の巫女を何人か着けてくれたら最高だ。」

「只の追放ではない。お主の記憶を消去してから追放する。真人間になってやり直して来い。」

「ちっ。」

「コマンダーS5をポッドに収容し記憶を消せ。記憶の消去が完了したらポッドを海に投棄せよ。」

「おいおい、棄てるなよ。それじゃ、死刑同然だろ?」

「大丈夫だ、ポッドには生命維持装置も付いている。最高で5000年は機能する優れものだ。

 それに、死ぬとしても寝ている間だ、苦しむ事は無い。」

「易しい御心使い感謝しますよ、ついでに同じポッドに大地の巫女を二、三人詰めて置いてくれると更に嬉しいんだけどね。」


族長は青年の軽口に返答せず。ただ、連れて行かれる青年の背中を見送るだけだった。
















第三話 旅立ち



巫女さんに斬新的なクワの使い方を教えてもらってから一月たった。

巫女さんが俺を殴るのに使ったのは、畑を耕す方の反対側だった。まあ、みね打ちだった訳だ。

そこに、そこはかとなく巫女さんの優しさを感じる。





「と、言う訳で里から出て行こうと思います。」

「相変わらず藪から棒じゃな。」

「つきましては、何かこう・・・凄い物を餞別に貰えませんか?」

「悪いが、家には『ゴッツイ鎧』は在っても、お主にあげる様な物は無いんじゃよ。」


そんな訳でゴッツイ鎧を貰いました。

早速、試しに着てみた。

まるで、全身に吸い付いてくる感じだ。

重さもまるで感じない。


「ごめんくださーーい。」


この声は、妖精のユリィか。


「ユリィ、どうかしたのか?」

「わっ!!ビックリしました。」

「ああ、この鎧か?族長に貰ったんでちょっと着てみた。それより、何か用か?」

「はい、実は妖精の里に一旦帰ろうと思うのです。今日は、お別れの挨拶に来ました。」

「それは、また急だな。妖精の里は外の大陸にあるのか?」

「はい。」

「やっぱり、勇者さんと一緒に?」

「いえ、今回は私一人で帰ろうと思います。勇者さまとイリスさんの二人っきりの生活を邪魔するのも悪いと思いましたので。」

「へぇ、良くあの勇者さんが許してくれたな。」

「・・・・いえ、実は黙って出て来ました。一応、書置きはして来たのですが。」

「それじゃ、このままの足で出て行く気か?」

「はい。」

「そうか・・・、ちょっと待ってて。」


俺は急いで自室に戻ると用意してあった荷物と双剣を持って

ユリィの所に戻った。


「よし、行くか。」

「えっ?」

「旅は道連れ、世は情けだ。一緒に行こう。」

「そんな、悪いです。」

「気にするな、どうせ近いうちに出て行こうと思ってた所だ。荷物も纏めてあった訳だし。

 ってな、訳だ。よろしくなユリィ。」

「・・・はい、よろしくお願い致します。仮面さん。」


・・・・仮面さんって誰?俺の事?


「ユリィ、その仮面さんって俺の事か?」

「はい・・・・あっ、すみませんでした。見た感じが仮面さんだったので、ずっと仮面さんだと思いこんでいました。」


見た感じって・・・それじゃ、メークリッヒ(ユリィの勇者)は『白コート』で巫女さんは『オッパイ美人』になっちまうだろ?


「・・・そういえば、まだ名乗っていなかったな。俺は・・・・・誰でしょうか?」

「ダレ・デ・ショウカさん?」

「いや、名前が無い。思い出せない。」

「そんな・・・それじゃ、皆さんは今まで貴方の事をなんと呼んでいたのですか?」

「『仮面さん』『仮面の兄ちゃん』『怪しいやつ』『よそ者』『偽物』」

「それは、お気の毒です。」

「そうだ!!ユリィ、俺に名前を付けてくれ。」

「ええぇ?私がですか?」

「そうだ、旅立ちの儀式だ。」

「ええっと、何分初めての事ですので、とても緊張致します。」

「気軽に・・こう見た感じで良い。」

「見た感じ・・・『仮「仮面以外で」』」

「・・・・シュヴァルツ、シュヴァルツさんで如何でしょう?」

「シュヴァルツか。良し、今日から俺は『シュヴァルツ』だ。よろしく頼む、ユリィ。」

「はい。よろしくお願い致します。『シュヴァルツ・デ・ショウカ』さん。」


・・・・そっちも、使うのか?

しかも『デ・ショウカ』って、何で自分の名前に自分で疑問を持たないといけないんだ?

自己紹介の度に、シュヴァルツ・デ・ショウカって言わなくちゃならないのか?

こんな自己紹介したら相手から『いや、知らねーよ。』って返されるぞ。

俺が相手だったらそう返すぞ?



俺はユリィに訂正を求めようとしたのだが

上機嫌で俺の周りを飛び回るユリィの姿を見ると、『まあこんな名前でも良いか』と勝手に納得し訂正を求めるのを止めた。



「ユリィ、シュヴァルツって『黒』って事か?」

「はい、全身が黒いですのでシュヴァルツです。とっても、お似合いの名前です♪」


それじゃ、俺がこの鎧を脱いだらシュバルツじゃ無くなっちまうんじゃないのか?















俺とユリィは現在、世界的大企業『モノポリス社』がある都市『マキナス』に向っている。

ユリィのお家がある大陸に向う為の定期船がマキナスから出ているらしい。

最初はトランスゲートと云うワープ装置を使うはずだったのだが、トランスゲートを使う為には特殊なマジックアイテムが必要で

俺はそれを持って無いから仕方が無い。

勇者さんは持っているらしいが、今更里に戻って黙って借りて来る訳にも行かず

俺達はモンスター退治や商隊の護衛でコツコツとお金を貯めながら旅をしていた。


「おい!!そこの『怪しいヤツ』動くな。武器を棄てろ!!」


で、マキナスに着いた途端に警備兵らしき連中に囲まれました。


「ユリィ、何だあいつ等は?」

「モノポリス社の警備兵です。」


まあ、旅をしていると良くある事だ。

今までもいろんな国で警備兵に囲まれて、詰め所に連れて行かれた事があった。

とりあえず、俺は武器を棄てて両手を上げアピールをした。


「大丈夫だよ。全然怪しく無いよ?」

「「「どっから如何見ても、怪しいわ(です)!!!!」」」


俺の精一杯のアピールに対し、その場に居た全ての者が突っ込みをいれた。ちなみに、ユリィもその一人だった。












警備兵によって詰め所に連れて来られた俺はその日の内に釈放された。

少なくとも二、三日は取り調べられるもんだと思ってたのだが、・・・・今までの経験上は。


「シュヴァルツさん、大丈夫でしたか?」


自由を噛み締めている俺の所に、心配そうなユリィが飛んできた。

そう云えば、いつもは拘束された時にユリィは俺の横で必死に俺が危険人物じゃ無い事を警備兵に訴えているのだが(怪しいと云う事の否定はしてくれないが)

今回は俺が拘束されると同時にどっかに飛んで行ったな。

何でだ?











選択肢1 怪しいヤツを見捨てた。

選択肢2 怪しいヤツに愛想が尽きた。

選択肢3 新しいパートナーを見つけに行った。


























ここは、選択肢4だ。

この町に知り合いが居て、その人に俺の無実を訴えに行った。

正解が4番であってくれ。


「総帥より貴方をお連れする様にとの指示を受けています。付いてきて下さい。」


ユリィと一緒にやって来た若干偉そうな警備兵に、後に付いて来る様に促されて俺は付いていく事にした。

それにしても、この偉そうな警備兵は一体なんだ?色違いの制服を着ているし、警備兵の亜種か?


「シュヴァルツさん、遅れて申し訳ありません。実はモノポリス社に知り合いがおりまして、その方にシュヴァルツさんの釈放を頼みに行って来たのです。」

「知り合い?」

「はい、モノポリス社の総帥をしております。」

「総帥?一番偉いの人か?」

「はい。」


ユリィの人脈は俺の思っていた以上に広いらしい。

流石、勇者と一緒に旅をしていただけはある。


「これが・・・モノポリス本社?」

「はい。」

「デカイな。」

「私も初めて見た時は驚きました。」

「此方です。」


俺は初めて見たモノポリス本社の大きさに驚きながら先導している警備兵の後を付いて行った。

本社内部に入り、エレベーターで総帥室まで案内された。

途中でユリィに


「この箱はエレベーターと云って、上下に移動する乗り物なのですよ。」


と、エレベーターの説明をされた。

それくらいは、知っていたのだがユリィの気分を壊すのもアレなので素直に驚いておいた。

そして、エレベーターは総帥室に到着した。

そこで、俺が目撃したモノは俺の今までの常識を破壊する危険なモノでだった。


「初めまして。モノポリス社の総帥を務めているアニータです。」


アニータさん、貴女のその胸に付いている物体は何ですか?

オッパイなのですか?デカ過ぎでしょう。

俺は今まで、巫女さんのオッパイをデカイと思っていた。まるでそびえ立つ山の様にデカイと。

だが、貴女のソレに比べたら巫女さんのオッパイは山では無く、せいぜい丘だ。

アニータさん、貴女のソレってサイズは一体いくつ何ですか?

俺の測定器では100が限界だ。貴女のソレは俺の測定器では測定不能。

少なくとも110以上としか分からない。


「・・・あの?如何かしましたか?」

「はっ、いえその、何でもありません。私はシュヴァルツと申します。」

「シュヴァルツさんですか、この度は弊社の警備の者が迷惑を掛けた様で申し訳ありませんでした。」

「いえ、警備の者からすれば当然の対応です。誉められこそすれ、非難される謂われは無いと思います。」



俺は一瞬で、アニータさんの前に移動すると彼女の手を取りながら言葉を続けた。


「!!そっ・・・そう言って頂けると幸いです。何か困っている事がありましたら何でも仰って下さい。」

「それでは、早速一つお聞きしたいのですが。」

「はい、何でしょう?」

「アニータさんの胸のサイズは幾つなのでしょうか?少なくとも110以上としか分からないので・・・・。」


俺は至近距離から、アニータさんのオッパイ凝視しながら質問した。

俺の問いに対し、アニータさんは固まって仕舞う。

仕方が無いので、至近距離から測定器を発動する。


「111、112、113、・・・114、馬鹿な!!まだ上がるだと!!?」


次の瞬間


「妹から離れろ!!変質者め!!」


ビュン!!


ザシュッ!!



俺の側を赤い風が通り抜け俺は意識を手放した。















その日、俺はモノポリス社の精鋭部隊『赤狼隊』隊長の実力を身を持って体験する事になった。



















[24765] 第四話 弱点
Name: 豆◆f0891c05 ID:cbf1eea4
Date: 2010/12/10 01:08














ポッドに連行されている俺の前にソイツが現れた。

恐らく俺が連れ出そうとした大地の巫女の一人だろう。

俺に判るのはそこまでだ。どの巫女かの判断までは出来なかった。


「貴方は最低です。」


バチン!!


そう言うとソイツは、俺に平手打ちを喰らわせて来た。


「最低なのは理解しているさ。それより、一発だけで良いのか?俺はこれから生きたまま棺おけに埋葬されるんでね。

 もう会う機会ないさ。それに、お互いに頭の中のクリーニングをされる予定だ。もし、奇跡的に再会してもお互いに分から無いぜ。」

「・・・。」

「第一、俺はあんたがどの巫女なのかも分からない。」


バチン!!


俺の言った事に反応し、巫女はもう一発俺に平手打ちを喰らわせて来た。


「貴方は・・・最低です。」

「最低でも何でも良いさ、出来れば俺を覚えていてくれ。」

「・・・。」

「そして、出来れば俺もアンタを忘れない様に・・・いや、何でも無い。」


そこで、会話が途切れた。俺は周りの者に促され、棺おけに向って歩き出した。


「剣を!!剣を持ってきます。貴方の剣です!!」


俺の背中に向って、巫女は泣き声交じりの叫び声を上げた。

その声で、俺はソイツが誰なのか理解した。


「おい!!アソコに埋めたアレはアンタにやる。俺の形見だ、大事にしろ。」


俺は背後を振り返らずに、巫女に声を掛け、棺おけに向って歩き出した。










第四話 弱点





赤い辻斬りに襲われてから二週間たった。

現在俺はモノポリス社の医療施設に入院している。

一時は意識不明の重態になって、三日間ほど生死の境を彷徨ったらしい。

お陰で、巫女さんに罵倒されながらビンタされる夢を見た。俺の隠れた願望か?



現在は特にする事も無く、日がな一日ダラダラと過ごしている。


俺を斬ったヤツもここまで酷い傷になるとは思っていなかったらしく

現場は大混乱に陥ったらしい。

もしも、俺が死ねば大スキャンダルになりかねない為

俺はこうやって最先端の医療を無償で受ける事が出来ている。


ちなみに、現場では最悪の場合(俺が死んだら)俺を本社の中庭に埋めて証拠を消す準備もしていたらしい。




「で、君の着ていた鎧を調べたのだが・・・アレは普通の鎧では無いな。」

「まあ、確かにアレをみて普通の鎧と思うヤツは居ないな。」

「そういう意味では無いのだが・・・まず、あの鎧だが自己修復機能が付いていた。」

「自己修復?」

「先日、シュヴァイツァー様がつけた鎧の傷が自動的に修復された。」


シュヴァイツァーってのは、先日俺を斬り付けたヤツで

赤狼隊の隊長で、アニータのお兄さんでもある。


「後、鎧の材質なのだが『スクリーパー』の皮膚によく似ている。」

「スクリーパーの皮膚だと?」


スクリーパーってのは、2000年前にインフィニトーが人類を絶滅させる為に生み出した生物兵器だ。

見た目はナメクジだ。強い種類だとエイの様な姿らしい。

俺は旅の途中に何度かナメクジのスクリーパーに遭遇した。

その時は一緒に居た商人の護衛や警備兵達と協力し、たこ殴りにして何とか倒したのだが・・・。


「スクリーパーが特殊な皮膚をしているのは知っているね。」

「いや、知らない。・・・それで、剣が通り難かったのか。」

「そんな事も知らずにスクリーパーと戦ったのかね?まるで、自殺行為だぞ。

 まあいい、今回はその事がアダになった様だがね。」

「どういう事だ?」

「シュヴァイツァー様は、対スクリーパー用の特殊な装備を持っているのだ。」

「つまり、その装備の前では俺の鎧は紙切れ同然って事か?」

「そこまで酷くは無い。せいぜい、布切れ同然だ。」


たいした違いは無いと思うが。


「そういえば、スクリーパーと戦った時なんだが、攻撃を受けなかったな。」

「攻撃を?」

「ああ、俺は至近距離から斬りつけまくっていたんだが・・・一度も攻撃を受けなかった。」

「ふぅむ、もしかして鎧の効力なのかも知れないね。もう少し、詳しく調べてみる。」

「じゃあ、お願いします。」


専門的な事は専門家に任せます。




入院は暇だ。基本的にはユリィが話し相手になってくれるのだが

ユリィも一日中俺の側に居る訳にはいかず

時々、フワフワと飛んでいってしまう。

だが、今日はアニータさんがお見舞いに来てくれた。

ユリィでは無く、俺の心がフワフワと飛んで行ってしまいそうだ。


「お加減は如何でしょうか?」

「ええ、大分良くなりました。」

「所で、一つ聞いても宜しいでしょうか?」

「はい。」

「その仮面は何故外さないのですか?」

「これは外れないのです。これから話すのは極秘事項です。秘密にして貰えますか?」

「・・・はい。」

「実は私が住んでいた大地の里は・・・今は大地の里では無いのです。」

「大地の里では無い?」

「はい、今は数多の妖怪が徘徊する妖怪の里なのです。」

「この仮面は妖怪『仮面女』にやられたのです。その仮面女の呪いでこの仮面は外す事が出来ないのです。」

「・・・・そんな。」


あっ、信じてるぞ。この子。


「それだけでは無いのです。」

「新たな妖怪『クワ女』が出現したのです。」

「クワ女?」

「クワを引き摺りながら里中を徘徊し、見つけた男をそのクワで思いっきり・・・・。」

「かく云う、私も一度酷い目に遭いました。」

「なんて事を・・・。」

「今現在はユリィの勇者さんが、そのクワ女を里内に繋ぎ止めているので被害は留まっているのですが。」

「それで、メークリッヒさんはユリィさんと一緒じゃないのですね。」


アニータさん。本気で信じてる。

そこにユリィが戻ってきた。


「ただ今戻りました。あれ、アニータさん。来ていらしたのですか?」

「ユリィ、お帰り。実はアニータさんにこの仮面の事を話してたんだ。」

「仮面?じゃあ、あの仮面女の話を?」

「仮面女!!やっぱり、存在するのですね。」


ああ、ユリィの所為でアニータさんが変な誤解をしている。


「後、その後のクワを持った女性の話も・・・。」

「シュヴァルツさんがクワで殴り倒された事ですか?」

「やっぱり、本当だったんですね?」

「はい、私が見てました。」

「そのクワの女性は今どうなっていますか?」

「今は勇者様と一緒にいます。ですので、私はシュヴァルツさんと二人で旅をしているのです。」


ユリィの言っている事は間違っては居ない。

ただ、お互いの認識にズレがあるだけで・・・・まあ、面白いから良いか?

その後、アニータさんは「近い内に部隊を編成して」とか、ブツブツ良いながら帰って行った。


「アニータさん、どうかなさったのでしょうか?」

「勇者さんの事が心配なんだろ。」


俺も早く退院したい。








結局、俺に退院の許可が出たのは事件から一月ほど経ってからだった。

で、本日退院だ。

それにしても、総帥直々のお迎えとは恐れ入ってしまう。


「この度は、兄が大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」

「いえ、悪いのはシュヴァイツァーです。アニータさんやモノポリス社に責任がある訳ではありませんので謝罪は無用です。」

「・・・・。」


平謝りなアニータさんに対し、主犯の男はだんまりを決め込んでいる。


「今回の事で、わが社は出来る限りの事をさせていただくつもりです。何でも仰って下さい。」

「何でもですか?」

「おい、弱みに付け込んでアニータに何かしようとしたら・・・分かっているな?」

「兄さん!!」


なにコイツ?謝るどころか脅迫してきやがった。

仕方が無い。矛先を代えるか。


「では、シュヴァイツァーさんをお兄さんと呼ばせて貰っていいですか?」

「・・・貴様。」

「兄さん、止めて下さい。」


シュヴァイツァーが剣を構えたので、俺は素早くアニータさんの背後に隠れ、シュヴァイツァー口撃を加える。


「大体、名前が被ってんだよ。それに、シュヴァイツァーの癖に何で赤い服着てんだよ。黒にしろよ。

 俺は黒いの着てるぞ。赤いのが好きならロートにしろよ。」

「・・・・表に出ろ。少し稽古を付けてやる。」


シュヴァイツァーの挑発にしたがって、剣を持って外に出ようとすると

アニータさんとユリィに止められた。


「シュヴァルツさん、お止めになって下さい。まだ、病み上がりではありませんか。」

「そうです。兄には私の方から言って聞かせます。」

「大丈夫だ、軽い準備運動だ。」


だが、そんな二人に軽く返事をして俺はシュヴァイツァーの所に行く。


「逃げずに良く来たな。」

「なぁに、軽い準備運動さ。」

「言って置くが、アニータの婿の条件は俺を倒せる事だ。」

「つまり、アンタに勝てば結婚して良いって事か。」

「勝手に決めないで下さい!!」

「まあ、最終的な条件はアニータがプロポーズを了承するかどうかだがな。」

「アンタは壁だ。」



ギィッン!!



その一言が合図になり、お互いに剣を抜き相手に斬りかかった。





















「決着だな。」


約三十分後、全身に切り傷を負って片膝を地面につき、肩で息をしている俺と

ほぼ無傷で軽く汗をかいた状態で俺に剣を突きつけているシュヴァイツァーが居た。


「こっちは病み上がりだ。勝てるわけ無いだろ?」

「軽い準備運動じゃ無かったのか?」


不敵な笑みを浮かべて俺を見下ろすシュヴァイツァーに対し俺はささやかな反撃を返した。


「ああ、そうだ。軽い準備運動にはなっただろ?」

「なるほど、確かにシュヴァイツァーさんの準備運動にはなりましたね。」


一番最初に俺の言った事の意味を理解したのはユリィか。

その後、シュヴァイツァーも意味を理解した様だ。


「フン。」


クルリと俺に背を向けると質問をして来た。


「おい、貴様。アニータと結婚したいのなら俺に勝手からにしろ。」

「わかってる。」

「最後に聞いておく。アニータの何処を気に入ったのだ。」


愚問だな。

この世でもっとも愚かな質問の一つだ。

もちろん、答えは一つだ。


「愚問だ。俺が気に入ったのはオッパイだ!!」


ふと後ろに気配を感じ振り返ると満面の笑みを浮かべたアニータさんが居た。


「アニータさん?その手に持っているのはイスですか?イスは座る為の物ですよ?持ち上げて使う物じゃありませんよ?」

「シュヴァルツさん、既製の装備に頼る事は良くないと思うんです。

 必要な物が無ければ代用できる物を見つける様な広い視野が総帥として必要な条件だと私は思うんです♪」

「そ・・そうですね。」

「クワが無ければ・・・・イスで殴れば良いじゃない♪」



ブンッ!!


ゴシャ!!












その日、俺は膠着した固定観念は恐ろしいが発想の転換も結構恐ろしい事を知った。
















「ユリィさん、シュヴァルツさんっていつもあの様な感じなのですか?」

「普段はとても優しい方なのです。子供達と遊んであげたり、お年寄りに親切にしたり・・・とても優しい方です。

 ・・・・ただ、女性の大きな胸が大好きなんです。後、ハンサムな男性が嫌いらしいです。」











[24765] 第五話 油断
Name: 豆◆f0891c05 ID:cbf1eea4
Date: 2010/12/11 01:53














「隊長、本日の戦闘はコチラの敗北。指揮官だったコマンダー13も戻りませんでした。」

「・・・アイツがねぇ、イーリスは戻って来たのか?」

「はい、無事帰還いたしました。」

「ふぅん、今頃は枕を濡らしてるな。コマンダー13・・・優秀だったが、死んだか。それとも・・・。

 おい、今回の敗因は何だと思う?」

「敗因でしょうか?恐らく、大地の巫女の強さが予想以上だった事では無いでしょうか?」

「それもあるか。相手の戦力を過小評価し、コッチの戦力を過大評価した。こんな所か?

 そして、俺の部隊に声を掛けなかったのも原因だ。まあいい。俺達は奴等を過小評価しない、絶対にだ。」

「はい。」

「星は違えど、大して違いは無いんだ。その証拠に俺達と奴等の間には子供も作れる。生物学的には同じといっても良い。

 奴等は俺達と同じだ、手強い。油断はするなよ。」

「はい。」


(それにしても、あの甲斐性無しは本当に死んだのか?もし、生きて戻ってきたらその時は・・・・コッチも動けるようにして置くか。

 インフィニトーの対応で全てが決まる。余命幾ばくか。死ぬのは俺か、それとも・・・・。)




















第五話 油断





アニータさんのアグレッシブルな行動によって俺の入院は一日延長したが

次の日には無事に退院できた。

モノポリス社の研究所から帰って来た黒い鎧を久しぶりに着て、ユリィと一緒に外の大陸行きの定期船に乗り込む事になった。

見送りに来たシュヴァイツァーが俺に対スクリーパー用の装備をくれた。

アイツは案外良いヤツなのかも知れない。

アニータさんも見送りに来てくれた。

昨日の非礼を謝って来たのだが、俺はソレを快く許すと妖怪イス女の話を外の大陸でも広める事を約束したが

アニータさんが泣きそうな顔になったので止めました。

オッパイの大きい女性を泣かすのは、この世で最も許されない罪の一つだ。





「それで、何処に向うんだ?」

「はい、先ずはヤージェン村を経由してトトゥア村に向いましょう。」

「ヤージェン村だな。」


この大陸・・・ユリィはゴートランドと呼んでいたが

ゴートランドの事を俺は良く知らないので道案内等は全てユリィに任せた。

途中、例によって何度も警備兵に囲まれたのだがユリィのお陰で何とかなった。

こっちの大陸でユリィは、かなりの有名人だった。

何でもユリィは『クイーン・オブ・ピクシー』と呼ばれる称号を持っているらしい。

文字通り、妖精コンテストで何度も優勝している一番凄い妖精って事だ。


ちなみに、俺に対する彼らの認識はユリィの勇者・・・・・では無く

悪さをしない様にユリィが見張っている危険人物って感じだ。






「ここがヤージェン村か。」

「はい。」

「とりあえず、今日はもう遅いから宿に向うか?」

「そうですね、出発は明日にした方が宜しいでしょう。あっ、宿は此方です。」


俺はユリィの案内で宿に向った。

扉を開け、宿に入った俺達に


「あっ、ユリィ?久しぶり。」


女の子?の様な声が掛けられた。


「ノーラ!!お久しぶりです。」


声のした方を見ると、妖精が居た。

ユリィ以外の妖精は初めて見たな。

で、その妖精さんは俺を見た後、固まったが・・・直ぐに再起動した。


「ユリィ・・・・此方の方は?」

「初めまして、ユリィと一緒に旅をしてる『シュヴァルツ・デ・ショウカ』です。」

「シュヴァルツさんで宜しいんですか?」

「はい、シュヴァルツです。」

「ええっと、私はノーラです。」

「ノーラさん。」

「ノーラで良いです。」


この妖精さんはノーラと云うのか。

ユリィとは雰囲気が大分違うな。


「ノーラは物に宿った強い思いを読み取る事が出来るのです。

 宜しかったらシュヴァルツさんも、何か持っている物を読んで貰っては如何でしょうか?

 記憶が戻る切っ掛けになるかも知れません。」

「思いの宿った物?そんな事言ったって・・・俺が最初から持ってた物は

 この剣位しか無いが・・・。」

「じゃあ、それをちょっと貸して。」


そう言うや否や、俺の返答を聞かずにノーラは俺の双剣から思いを読み取り始めた。

ノーラの読み取ったイメージが俺の頭の中に流れ込んでくる。


これは・・・巫女さんだ。

巫女さんが俺の剣を抱き締めながら泣いている?

どういう事だ?


「これは、イリスさんでしょうか?」

「ユリィも見たのか?」

「はい。イリスさんが泣いていました。・・・シュヴァルツさんは、以前イリスさんを泣かせた事があるのですか?」

「・・・もっとこう、全身で感情をぶつけて来る様な泣き方をされた事はあったが、こんな風に泣かせた事は無いはずだ。」


結局、俺に判らない事が一つ増えただけだった。




















ヤージェン村を発ち、しばらく陸路を行った後で船に乗る

更に洞窟を抜けたら雪国だった。


「それで、あれがトトゥア村か?」

「はい。あそこには、あの愛くるしい生き物が居るのです☆」

「愛くるしい?」

「はい、ふとん犬です♪」


ふとん犬?

それよりもユリィさん?

さっきからテンションが可笑しく無いですか?






村に入った途端、ユリィは猛スピードでふとん犬?の居る方へ飛んで行った。

俺も必死に後を追うと、そこには見た事も無いような生き物がいた。


「ワフッ!!」


これが、ふとん犬?

そこには、掛け布団を背中に掛けた犬が居た。

近くに居たふとん犬の頭を撫でつつ良く観察してみる。

これは毛皮なのか?

ふとん犬を抱き上げ、お腹を見ると・・・ふとん部分と犬の部分が結合している。

つまり、このふとんは犬の毛皮であり、犬の一部だった。


「シュヴァルツさん!!何をなさってるのですか!?モモちゃんを苛めないで下さい!!」


ユリィさん、ちょっと怖いです。落ち着いて下さい。


「モモちゃん?このふとん犬の事?・・・・いや、苛めて無いですよ。余りにも可愛かったから抱っこしただけだって。」

「可愛い?シュヴァルツさんにもモモちゃんの可愛さが分かりますか?

 モモちゃんは私が一生懸命育てたチャンピオン犬なのです。」

「チャンピオン?ふとん犬のコンテストとかがあるのか?」

「それについては私が説明しよう。」

「ハゼゴロウさん!!お久しぶりです。」

「やあ、クイーン・オブ・ブリーダーのユリィ君。久しぶりだね。」


ユリィに変な称号が追加された。


「所で、君はふとん犬を見るのは初めてかね?」

「はい。」

「では良い機会だ。私とこのユリィ君で、ふとん犬の生態と魅力について説明しよう。」


俺はそれから日が暮れるまで、この二人組みにふとん犬についての話をされる事になった。

それにしても、俺の仮面はスルーなのか?このおっさん。





ふとん犬の講義に付き合わされ、日も暮れたので今日はこの村に泊まる事になった。

そういえば、宿屋に妖精さんが居た。

名前はミランダと言うらしい。

簡単な自己紹介は済ませたが、特に話す事は無かったのと講義の疲れもあった為、俺は早々に部屋に閉じこもって休んだ。



















「ミランダ、少し宜しいでしょうか?」

「一緒にいたシュヴァルツと云う人間の事か?」

「はい、時の流れを読む事に長けているミランダならば分かると思うのですが

 シュヴァルツさんから時の歪みを感じるのです。大地の里に居た時から、多少の歪みはあったのですが・・・・。

 この大陸に来る直前からその歪みは大きくなり始めたのです。」

「確かに歪みは感じたが、そこまで大きくないと思うのだが・・・・。」

「ゴートランドについてからは、少しづつ歪みが収まってきました。私にはこれ以上詳しくは分からないのです。

 そこで、ミランダに一度詳しく見て貰いたいのです。」

「わかった、明日調べさせて貰う。ただ、本人にも一度説明して置いた方が良いだろう。」

「分かりました。では、明日よろしくお願いします。」
















「シュヴァルツさーーん、起きて下さい。」


朝っぱらからハイテンションなユリィに起された俺は、朝食を食べる間も無く

何やら難しい話を聞かされた上に、昨日知り合った妖精のミランダに色々と体中を調べられる事になった。

何でも俺の体から時の歪み?が発生しているらしい。


「ふむ、終わったぞ。ユリィ。」

「それで原因は分かりましたか?」

「いや、原因は分からなかったが・・・どうして、一度拡大した歪みが収縮したのかは分かった。

 その黒い鎧が歪み収縮の原因だ。」


いつの間にか、スクリーパーモドキ鎧に何か新しい能力が加わった。


「ミランダさん、その歪みなんだが・・」

「ミランダで良い。」

「ミランダ、時の歪みが大きくなるとどうなるんだ?」

「最悪の場合、お前は消滅する。」

「消滅?」

「そうだ、時の歪みをこれ以上広げたく無ければ、なるべくその鎧を着ていた方が良いだろう。

 他にも強い衝撃等を受けるのも不味い。」

「衝撃?頭にか?」

「いや、肉体にでは無い。心・・・魂に対する衝撃だ。」

「心に衝撃。つまり、俺がユリィに告白をしてフラれると死ぬって事か?」

「シュヴァルツさん!!」

「お前がユリィに心の底から惚れていて、フラれる位なら死んだ方がマシだと思える様だったら・・・・消滅する可能性もある。

 まあ、そういった事よりも自分の存在対する精神的な衝撃に注意しろ。酷く絶望したり、心の底から自分の存在を疑ったりしたら消える事になる。」

「つまりは平穏無事な日常を享受しろって事か。」

「ああ、それが最も良い解決方法だ。」

「・・・努力してみる。」


今日は朝っぱらから重い話を聞かされてしまった。




















陳腐な言い方だが、居なくなってから初めてその人の有り難味が分かると云う事がある。

今の俺の状態は正にそれだ。

トトゥア村を出立した俺達は途中でポトラドの里に寄り、そこでトランスゲートを使用する為のマジックアイテムを分けて貰った。

ただ、トランスゲート自体は現在調整中の為、使用は出来ないそうだ。


そして、この大陸に幾つか存在する妖精の集落でユリィの生まれ故郷がポトラドの里の近くにあるらしく

俺は一旦ポトラドの里でユリィと分かれる事になった。

最初の内は大人しくポトラドの里でユリィを待っている積りだったのだが

段々と暇を持て余した結果、ポトラドの里に近いシリルティア王国の王都フェルメンティアまで観光に出かける事にした。


一応、貰った魔法の地図を見ながら進んでいるので迷う事は無いはずなのだが

見知らぬ地に一人で居るだけで段々と心細くなって来る。

そんなこんなで、トボトボと歩いていると行き成り戦闘に出くわした。

戦っているのはシリルティア王国の兵隊と思われる一団とスクリーパーの集団だ。

兵士の一団を率いているのは巨大な鉄扇を使って戦っている女性だった。しかも、かなりの美人でオッパイも大きい。


「シェリス様!!このままでは突破されます。増援を・・・。」

「駄目だ、他の所も現状で手一杯だ。他の部隊から増援を呼べばそこを突破される。何とか現有戦力で死守するのだ!!」


戦況は兵士達が不利だ。見慣れたナメクジ型スクリーパーが数体と初めて見るタイプのスクリーパー(エイの様なヤツ)が1体。


「助太刀する!!」


俺はそう言うと近くに居たナメクジ型スクリーパーに斬りかかる。


「助太刀感謝する。」


美人の隊長さんに声を掛けられた。テンションが更に上がって来た。

俺の鎧はスクリーパーに対してステルス機能を発揮する。だから、スクリーパーからの攻撃を気にしなくて済むし

シュヴァイツァーから貰った対スクリーパー用装備。透徹のジェム(アクセサリーの様な物)を持っている。

この透徹のジェムを使うことでスクリーパーの特殊な皮膚を、まるで紙切れの様に切り裂く事が出来る。

今の俺は正に、対スクリーパー用の兵器と言っても過言では無い。


「何だ、あの怪しいヤツ。メチャクチャ強いぞ。」

「怪しいが強い。何者だ?」

「新たなスレイヤーか?」


俺の活躍によって戦況は少しづつ此方が有利になりつつある。

が、まだ一番強いと思われるエイ型スクリーパーが1体とナメクジ型も1体残っている。

美人の隊長さんは仲間に援護を受けながらエイ型のヤツと戦っているのだがハッキリ言って分が悪い。

だからと言って、美人の隊長さんが弱いと言う訳では無い。

スクリーパーは2000年前にインフィニトーが人類抹殺の為に生み出した生物兵器。

つまりは、人類の天敵とも言える生き物だ。そんなヤツを相手に特殊な装備も持たずに戦えるだけで充分強い。


俺は残ったナメクジを片付けてから、美人の隊長さんを援護する為にナメクジに斬りかかったのだが


ドガッ!!


横から大きな衝撃を受け、吹き飛ばされた。














戦場に観客席は無い。だが、俺は油断をしていた。

今日、俺は戦場での油断は死を招く事を学んだ。

















[24765] 第六話 評価
Name: 豆◆f0891c05 ID:cbf1eea4
Date: 2010/12/18 00:57












「で、コマンダー13は生きていたのか?」

「はい、現在インフィニトー様と一緒に船の内部に侵入して来た大地の巫女を迎撃しています。」

「・・・・そうか、こっちの行動は予定通りに行うぞ。俺達が生き残るにはインフィニトーを何とかするしかねぇ。」

「はい。」

「ヤツが裏切っていれば俺としては随分と楽になるんだが・・・こればっかりは賭けだねぇ。

 まあ、精々大地の巫女が上手くヤツをたらし込んでくれている事を期待するか。」



















第六話 評価





「シュバルツさんは居ないんですか?」

「ああ、仮面の彼なら先日王都の観光に行って来ると言って出て行ったよ。」

「そんな・・・子供じゃ無いのですから、少しは落ち着いて待っていて下されば良いのに。」


そう言うと、ユリィはポトラドの里を飛び出し王都フィルメンティアに向って飛んで行った。













不意打ちを受けた俺は一瞬意識が飛んだが、直ぐに意識を覚醒させる事には成功した。

だが、体のダメージは深刻だ。ハッキリ言って戦闘続行は不可能だ。

立つ事も間々ならない状態だ。


「大丈夫か!!今、助けるぞ。」


やられた俺を助ける為に、美人の隊長さんがスクリーパーを牽制しながら俺の側へ駆けつけて来る。

うん、近くで見ても美人だ。

俺はこの美人さんを救う為、例のジェムを装備から外すと駆け寄って来た美人さんに渡した。


「これを使ってくれ。」

「これは?」


俺は手短にジェムの説明をしようと思ったのだが、エイ型のスクリーパーがこっちを狙っているのが目に入った。

正確には俺では無く、この美人さんを狙っているはずだ。

このままでは美人さんがやられてしまう。

良いのか?それで良いのか?

いや、良くない。美人でオッパイの大きい女性がやられそうになっているのをみすみす見逃したとあっては俺の沽券に関わる。


「危ない!!美人さん。」

「きゃっ!!」


ぽにょっん♪


ドガッ!!


俺は美人さんを突き飛ばすと同時に、スクリーパーの攻撃を受けて吹っ飛んだ。

美人さんを突き飛ばした時に、偶然触ってしまった彼女のオッパイの感触の余韻を手の平に感じながら

俺は意識を手放した。






















・・・・あれ?何処だ此処は?


「あっ、気が付いたか。ここはシリルティア王国の王都フェルメンティアだ。」

「・・・美人さん。よかった、無事だったんですか。」

「びっ・・美人さん?そういえば、自己紹介がまだだったな。私はシリルティア王国の近衛騎士団長シェリス。後、一応この国の王女でもある。」

「おっ・・王女様!!そうとは知らずに数々のご無礼、平にご容赦を!!」


ヤバイ、王女様だったとは!!

如何しよう、無礼なことを言ったら死刑だ。

いや、先ずは土下座を!!

俺は悲鳴を上げる体にムチをいれ土下座を強行した。


「いや、まだ寝ていなくては駄目だ!!それに、謝られる様な事をされた覚えは無い。

 むしろ、謝らなければならないのはこっちの方だ。貴方の渡してくれたこのジェムのお陰でスクリーパーを撃退する事に成功した。

 それに・・・貴方には二度も助けられた。良ければ貴方の名前を聞かせて欲しい。」


「失礼しました、私はシュヴァルツ・デ・ショウカと申します。」

「シュヴァルツさん。本当に有難う御座いました。」

「さん付けは止めて下さい。どうかシュヴァルツと呼んで下さい。」

「・・・では、そうさせてもらいます。」


シェリスさんの話しでは此処は王都フェルメンティアの療養所。

戦闘中に負傷した俺をシェリスさんはずっと看病していてくれたらしい。

シェリスさんは二度も助けられたって言っていたのだが、なにやら少し勘違いをしているっぽい。

二度目に俺が受けた攻撃は確かにシェリスさんを庇ったが

最初に俺が受けた攻撃はこっちの不注意が原因だ。

つまり、シェリスさんを狙っていたスクリーパーの攻撃射線上に俺が入り込み

結果、シェリスさんの代わりに攻撃を受ける事になったって事が正しいと思う。


「それで、これは借りていたジェムだ。」


そう言って、シェリスさんが俺に渡して来たのは例のジェムだった。


「そのジェムのお陰で、スクリーパーを撃退する事が出来た。失礼だがシュヴァルツはこの大陸の者では無いな?」

「はい。最近、別の大陸から来ました。」

「やはり、そうか。その様なスクリーパーに有効なジェムは初めて見たので、もしやと思ったのだが・・・。

 あちらの大陸ではその様なジェムが一般的に普及しているのか?」

「いえ、そういう訳でもないです。あっちでもこのジェムは貴重な物です。」

「そうなのか・・・。もし、このジェムが大量にあればスクリーパーの被害をもっと減らす事が出来るのだが。」

「・・・すみません、このジェムは貰い物なので差し上げる事は出来ませんが・・・あっちに戻った時に同じ物を探して見ます。

 もし、手に入ったらそれを差し上げます。」

「・・・重ね重ね申し訳ない。」


こっちとしては、物のついで程度で約束したのだが王女様にとても恐縮されてしまった。

流石に、王女様に無礼を働く訳には行かず・・・俺の方も紳士的な対応をせざるを得なかった。











スクリーパーにやられた俺の怪我だが、元々軽傷だったのか鎧のお陰なのか

それともシェリスさんの献身的な介護のお陰なのかは知らないが三日後には歩けるようになった。

若干体に違和感がある為、戦闘は無理だが街中を歩き回る位なら問題ない。

そんな訳で俺は今、シェリスさんに案内されながら街を歩き回っている。



「あの仮面の男が新しいスレイヤーか。」

「なんでも、一人で何体もスクリーパーを倒したらしいぞ。」

「シェリス様を庇って怪我をしたらしい。」

「見た目は怪しいのに中々の人物だ。」

「是非、我が軍に仕官して欲しいものだ。」



何かメチャクチャ噂されてる。


「凄い噂になっていますね。」

「あの時のシュヴァルツの活躍を見れば当然の事だ。」

「所で、さっきから皆が言ってるスレイヤーって何ですか?」

「スクリーパーを一対一で倒した者に与えられる称号の事だ。私も『ルーク・スレイヤー』の称号を持っている。」


スクリーパーには幾つかの種類がいる。一番小さいナメクジタイプの『ポーン・スクリーパー』

ポーン・スクリーパーより一回り大きいナメクジタイプの『ルーク・スクリーパー』

ナメクジタイプより強い、エイの様な姿の『ナイト・スクリーパー』

そして、ナイト・スクリーパーより一回り大きいエイタイプの『ビショップ・スクリーパー』


ちなみに、先日俺を吹っ飛ばしたヤツはナイト・スクリーパーだ。

俺達は周りの好奇の目に晒されながら街を練り歩いていると

子供たちがワラワラと寄って来た。

まあ、アレだな。王女様だけでも子供たちにとっては興味の対象なのに、一緒に仮面の男が歩いていれば子供たちの好奇心を刺激する事請け合いだ。

当然、王女様との関係や何故仮面を着けているのかとか色々と聞かれたので

例によって妖怪『仮面女』の話と妖怪『クワ女』の話をして置いた。

子供たちだけで無く、シェリスさんも悲鳴をあげて怖がっていた。

俺は行く先々の町や村で子供たちに怪談話を聞かせて回っていた所為か

話し方も随分と板についてきたと思う。



「所で、先ほどの話なんだが・・・・何処まで本当の事なんだ?」


シェリスさん、意外と怖がりなんですね。


「多少のスパイスは入っていますが、九割方は本当の事ですよ。」

「じゃあ、その仮面が外れないと云うのは?」

「本当です、試しにひっぱてみますか?」

「・・・じゃあ、少し。」


そう言うとシェリスさんは俺の仮面を掴み・・・全力でそれを引っぱる!!

顔が!!

千切れる!!千切れるって!!


「シェリスさん!!頭が、顔が千切れます!!」

「ああ、済まない。・・・本当に外れないんだな。シュヴァルツ。」

「はい、何でしょう?」

「動くなよ、今外してやる。」

「はうぃ?あの、シェリスさん?何を為さっているのでしょうか?そんな、鉄扇なんか振り上げて・・・。」

「大丈夫だ、仮面が外せないなら・・・・壊せば良いだけだ!!」





ブゥン!!


メキョ!!




その日、俺はシェリスさんが意外とお茶目☆な所がある事を知った。








「本当に済まなかった。どうしてもその仮面を外してやろうと思ってつい・・・、申し訳ない。」

「いえ、良くある事です。それに仮面を着けて良かった事もあります。」

「良かった事?」

「はい、実は私の素顔はとてもハンサムなんです。」

「ほお、そんなにハンサムなのか?」

「はい。一度、初対面の女性に抱きつかれた上にプロポーズをされた事がありました。」

「それは、一度素顔を見てみたいな。」






















先日、スクリーパーに受けた怪我は二、三日大人しくしていたら大分良くなった。

そろそろ、フィルメンティアからお暇しようと思う。



「そろそろ、旅の方を再開したいと思います。」

「そうか、残念だな。出来れば我が軍に仕官してくれればと思っていたのだが・・・。それで、これから何処に向うのだ?」

「そうですね、平和維持軍とやらを見学に行こうと思ってます。」


そんな訳で偶然に街中で見かけたシェリスさんにお別れを告げると旅を再開した。

・・・・それにしても、何かを忘れている様な気がするのだが・・・何だっけ?




















「そこの怪しいヤツ!!動くな、大人しく武装を解除して此方の言う事に従え!!」


何か久しぶりに聞いた台詞だ。

国境を抜けてしばらく経った頃、俺は平和維持軍の兵士らしき一団に取り囲まれた。

まあ、例によって武装を解除した後、彼らに平和維持軍の本部へと連行された。


「怪しいヤツが出たと聞いたのだが?」

「はっ、拘束し連行してきました。」


平和維持軍の基地らしきモノに連行された俺の前に、何か若いが偉そうな連中がやって来た。

先頭にいるのは妖精を連れた青年、その他にも大柄な青年が一人、若い女性二人がやって来た。


「なに?この怪しいヤツは!!絶対悪いヤツだよ!!」

「コリン、外見で判断するな。」


俺の姿を見た妖精が真っ先に口を開き、それを妖精を連れた青年が諌める。


「でも、絶対怪しいよ。」

「まあ、確かに怪しいな。」

「そうです、怪しいです。」

「怪しいヤツだ。」

「・・・皆。」


妖精が再度、俺に怪しいと発言しその発言に対して妖精のパートナーと思われる青年以外の面々が続いた。

その時、俺の中の何かが発動する。


「おい、お前ら。先ほどから聞いていれば人の事を怪しい怪しい言いやがって!!

 そんなに言うなら、怪しいって事で良いよ!!本当は怪しくないけどね!!怪しいって事にしといてやるよ。

 全然怪しく無いけどね!!」


「見るからに怪しいよ!!」


妖精が俺に真っ向から反論する。


「じゃあ、ソイツは如何なんだ!?そこのでっかいヤツ、何で海賊なんだ?何で海賊の格好なの?

 何?世界中の海を荒らしまわる予定ですか?俺よりその海賊を捕まえた方が世の中の為じゃ無いんですか?」

「なっ!!」

「それから、そこの黒い格好の女の子!!」

「ふぇ!!私ですか?」

「そう、君だ。何だその黒い悪魔っぽい格好は?俺に被ってるぞ!!」

「被ってないです!!」

「最後に貴女。」

「私か?」

「何ですか?その格好、その羽!!何で頭から羽が生えているんですか!?可笑しくないですか?

 何それ、飛ぶの?その羽で飛ぶんですか?崖から滑空して飛ぶんですか!?それとも、助走をつけて飛ぶんですか!?

 回転して飛ぶんですか!?身長は何センチですか?翼を広げると2.5メートルですか!?

 中型犬くらいなら攫って行くんですか?巣に持って帰るんですか?食べるんですか?

 逃げて!!ふとん犬達、平和維持軍の鷲が来たぞ!!食べられるぞ!!」

「・・・・・その口に用がある!!」

「何ですか、その鎌は?振りかぶったりして?鎌は草を刈るのが正しい使い方ですよ?」

「安心しろ、この鎌は草では無く・・・・命を刈り取る鎌だ!!」








ブンッ!!


ボグォ!!









俺はその日、人にやられて嫌な事を人に対してやるのはいけない事だと再認識した。




















「あれ?ユリィじゃないか、如何したんだ?」

「あ、ニナ。それにシェリスさんも。お久しぶりです。」


シリルティア王国の王都フェルメンティアに到着したユリィに声を掛けた人物がいた。

声の主は二名。シリルティア王国国王の妹で近衛騎士団長を務めるシェリスとシェリスのパートナー妖精ニナ。


「久しぶりだな、ユリィ。今日は一人なのか?」

「いえ、実は人を探しているのです。」

「人?もしかして、ユリィの勇者様の事?」

「違います、私の勇者様の事ではありません。今、私は勇者様とは別の方と旅をしていたのですが

 ちょっと目を離した隙に迷子になってしまって。」

「ユリィ、勇者様の事は放って置いて浮気?」

「違います!!ニナ、いい加減にして下さい。」

「おー怖い怖い。」

「ニナ、いい加減にしないか。」

「はぁーい。」

「それで、何か探し人の特徴とかは無いのか?」


二ナの所為で話しが進まない様子を見たシェリスがニナに注意をすると

とりあえずニナは黙り、シェリスはユリィに話を続けるよう促した。


「特徴ですか。えーっと、まず仮面を被っています。」

「「仮面。」」

「それから、黒い鎧を着ています。」

「「黒い鎧。」」


この時点でシェリスにはユリィの探し人が誰なのか検討が付いていた。

だが、次のユリィの一言でその考えを一気に白紙に戻さざるを得なかった。


「最後にオッパイです!!」

「「おっ、おっぱい?」」

「はい、オッパイです。オッパイが大好きなのです。」

「・・・・ユリィが壊れた。」

「可笑しいのは私ではありません。きっと、シェリスさんのオッパイを見てガーー!!と抱き付いて来て

 谷間に顔を埋めて、両手で揉みしだくはずです。」

「「・・・・。」」

「シェリスさん、その様な方に心当たりはありませんか?あっ、その人の名前はシュヴァルツさんです。」

「そんな変態に心当たりは無いが、黒い鎧を着ていたシュヴァルツと云う男には心当たりはある。」

「そうですか、きっとシェリスさんの前では猫を被っていたのですね。」

「猫を被っていたかは知らないが、仮面は被っていた。」

「それでシュヴァルツさんは何処に居ますか?」

「平和維持軍の方へ行くと言っていたな。」

「平和維持軍ですね?有難う御座いました。」

「ちょっと待ってくれ。今から向ったのでは行き違いになるかもしれない。

 何処か集合場所を決めてそこで落ち合ったらどうだ?私の方から平和維持軍へ知らせて置けば彼にも伝わると思うのだが?」

「・・・確かに、そうですね。それでは『トトゥア村で待っている』と伝言をお願い致します。」

「ユリィが壊れたユリィが壊れたユリィが壊れたユリィが壊れた。」

「・・・・・ニナ、戻って来い。」





























[24765] 第七話 遊戯
Name: 豆◆f0891c05 ID:cbf1eea4
Date: 2011/01/01 10:01











「アンタ、大地の巫女だろ?こんな所で何やってんだ、使命はずっと先のはずだぜ?」

「ポットに不具合が生じたのです。修理が完了するまではこちらでお世話になる事になりました。

 そういう貴方は守護勇士(ブレイブ・ガード)ですね。貴方こそ、この様な所で何をしているのですか?

 もしかして、私が目覚めた事と関係あるのですか?」

「・・いや、残念だが俺はブレイブ・ガードじゃ無い。アンタが使命を果たす時には、ちゃんとした別のブレイブ・ガードが目覚める予定だ。アンタ専用のな。」

「・・・・そうですか。」

「あー、その、なんだ。アンタのブレイブ・ガードじゃ無くて悪かったな。」

「いえ、貴方には何の責任も無い事です。」

「それにしても、やっぱり自分だけのブレイブ・ガードってのには憧れるのか?何か、こう・・お姫様になった感じで。」

「なっ、何を言っているのですか!!貴方は!!」

「図星か?」

「むっ。」

「そんなに綺麗な顔で睨むなよ、惚れたら如何すんだ?」

「茶化さないで下さい!!」

「・・・そうだな。ブレイブ・ガードは無理だが・・・アンタの使命が来るまでの間。アンタを守る騎士になら、なってやってもいいぜ。」

「何を言っているのですか!?」

「それじゃ、よろしくな。姫。」

「人の話しを聞きなさい!!」
















第七話 遊戯





部屋の空気が重いです。

平和維持軍の頭に羽を着けた女性に殴り倒されて昏倒した俺は、現在平和維持軍の施設内の療養所に入院している。

入院と云っても怪我自体はそんなに酷いモノでは無く、念の為に大事をとっての入院だ。

それで、先ほど俺の部屋に入って来たこの美人な女性。

なにやら険しい顔をしたまま黙り込んでいます。

それにしてもこの女性、何処かで見た事がある様な気がする。

お互いに黙り込んだまま時間だけが過ぎて行く。






「・・・先日はすまなかった。」


どれ位黙り込んでいたのだろうか。

突然、その女性が俺に謝ってきた。


「いきなり、何ですか?貴女に謝られる覚えは無いのですが。」

「・・・・先日、鎌で殴った事だ。」

「鎌?・・・・えっ?あの人が貴女ですか?」

「・・・今まで気付かなかったのか?」



この美人な女性は、あの羽の人でした。

今日は頭に羽を着けていなかったので気付きませんでした。



「申し訳ないです、気付きませんでした。」

「いや、謝ってもらう様な事では無い。」

「いえ、貴女がこの様な美人であったのにそれに気付かないとは一生の不覚。

 私の目が・・・いえ、心が曇っていたのが原因です。人に怪しいヤツと言われ続け、いつしか私の心は曇り、荒み

 ついには貴女の様な美人を怪しいなどと言う様な有様。どうか、心の汚れた私を許してください。」


くっ、羽に気をとられてこの様な美人さんに暴言を吐いたとは俺は最低だ。


「いや、本当に謝ってもらう必要は無い。頭を上げてくれ。」

「何と、許してくれるのですか?・・・貴女は天使だ。」

「それはもう良い。私は平和維持軍の実行部隊隊長を勤めているメルヴィナだ。お前の名は?」

「シュヴァルツです。」

「では、シュヴァルツ。お前に対する取調べを開始する。」

「取り調べですか?容疑は?」

「・・・挙動不審?」

「それは犯罪行為とは云えないのでは?」

「そこは余り突っ込まないでくれ、こちらとしても正直苦しいと思っているのだ。」

「分かりました。」


俺はメルヴィナさんの取調べ?を受けた。

俺が話した事は外の大陸から来た事やこの大陸を旅している事とかそんな事だ。

取調べの後、俺は無罪放免?となった。

まあ、平和維持軍としても怪しいヤツが徘徊しているとの住民からの訴えがあった以上

何もせずに放置して置く訳にも行かない。

住民に対して、ちゃんと取り調べたと云うアピールが必要になる訳だ。

つまり、俺はそのアピールの為の犠牲になったのだ。


「すまないな、我々にも立場と云うものがあるのだ。」

「つまり、貴女が殴ったのもアピールって事ですか?」

「あれは・・・ついカッとなってやった。」

「ついカッとなって殴ったのですか?」

「はい。」

「他に言う事は?」

「・・・反省しています。」




そして、何時しか攻守が交代していた。






















「シュヴァルツ、貴方に手紙に来た。」


俺は釈放された後、しばらく平和維持軍の街に滞在していた。

街で暇を潰していた俺の所にメルヴィナさんが手紙を持ってやって来た。

なんでも、司令官のクライアス(例の海賊)に押付けられたらしい。


「手紙?誰からですか?」

「シリルティア王国の王女様からだ。」

「王女様?シェリスさんですか?」

「ああ・・・以外と顔が広いのだな。」


俺はメルヴィナさんから受け取った手紙の封を開けると中身を確認した。


『風来坊さんへ  待ち人はトトゥア村で待っています。急いでいってあげて下さい。  シェリス』


待ち人?

・・・待ち人。









・・・・あれ、ユリィの事?

しまった、スッカリ忘れていた。

何故かユリィの事を忘れていた。

ヤバイ。


「メルヴィナさん、すみませんが急用が出来ましたので失礼させてもらいます。」

「そうか。」


俺は、即荷物を纏めるとトトゥア村に向って出発したのだが

タイミング悪く、街の外へ出た所でスクリーパー4体に遭遇した。

遭遇したの事自体は運が悪かったが、遭遇したスクリーパーはポーンとルークの雑魚シリーズだったので

サクサクと片付けて俺はトトゥア村に向った。





















「メルヴィナ隊長!!大変です、スクリーパーが出ました。」

「何!?至急、部隊を整え迎撃する。場所は何処だ?」

「いえ・・・それが、スクリーパーが出たのは街の直ぐ近くなのですが迎撃の必要はありません。」

「迎撃の必要が無い?・・・・如何云う事だ?」

「その・・・例の仮面の男が、すれ違い様に片付けて行きました。四体とも、全て。」

「四体を一瞬でだと?」

「はい。」

「そうか。さがって良い。(これは・・・実行部隊にスカウトして置けば良かったかな?)」






















俺は無事にトトゥア村に着いたが直ぐにユリィを見つける事は出来なかった。

ミランダの話によると、しばらく前までユリィはいたのだが

2,3日前から姿を消したとの事だった。

そんな訳で俺は、トトゥア村でユリィの帰りを待っている所なのだが


「おや?君は確か、ユリィ君と一緒にいたシュヴァルツ君じゃったかな?」

「貴方は確か、ふとん犬の研究をしているタメゴロウ博士。」

「今日はユリィ君は一緒じゃないのかね?それから、私はハゼゴロウだ。」

「ユリィとは別行動をとっていまして、今待ち合わせ中です。クマゴロウ博士。」

「待ち合わせか、それじゃ時間は余っているのかな?良かったらふとん犬のブリーダーになってみる気はないかね?それから、私はハゼゴロウだ。」

「ふとん犬のブリーダーですか?具体的には何をすれば良いんですか?ハッテンゴロー博士。」

「なに簡単な事だ、ふとん犬と一緒に散歩をしたり、訓練をしたりする。そして、ふとん犬にある程度能力がついて来たら大会に参加する。

 大体はこんな感じだ。あと、私はハゼゴロウだ。」

「・・・判りました。ちょっとやってみようと思います。ハゼゴロウ博士。」

「そうか、そうか。それは、丁度良かった。・・・・ああ、それから一つ忠告しておくがふとん犬にジェムを装備させたら
 
 『ジェムが勝手に増殖する』なんて事は絶対に無いから、期待しても無駄じゃぞ。」

「??・・・そんな事ある訳無いじゃないですか。ファンタジーやメルヘンの世界じゃ無いんですから。」


こうして、新人ふとん犬ブリーダー『マスク・ド・ブリーダー』が誕生した。

















俺がトトゥア村に帰って来てから三ヶ月が経った。

現在俺は


「今だ!!テツ!!ブレイクダンス、発動!!」

「ワフッ!!」


愛犬『テツ』と共に、ふとん犬コンテストに出場している。

俺がこの村に帰って来てから三日後にユリィと再開することが出来た。

だが、俺が再開したユリィは俺の良く知っているユリィでは無く

クイーン・オブ・ブリーダー『ユリィ』だった。

俺はその時、ユリィにブリーダーとしての失格だと言われた。

俺にはふとん犬への愛情が足りないと。



「今回の優勝は見事なダンスを見せ付けてくれたテツ選手だ!!

 これでテツ選手は全ふとん犬コンテストを制覇。チャンピオンへの挑戦権を獲得致しました!!」



俺はこの三ヶ月間、ユリィと云う壁を越えるべく愛犬テツと供に数々の訓練を乗り越え

ついに現チャンピオンのユリィとモモへの挑戦権を獲得するにいたった。


「ようやくここまで来た。」

「ワフッ。」




















「それでは、現チャンピオン!!クイーン・オブ・ブリーダーのユリィ&チャンピオン『モモ』の入場です!!」


多くの歓声に迎えられ会場にユリィとモモが入場してくる。


「続きましては、挑戦者!!マスク・ド・ブリーダーのシュヴァルツ&テツの入場です。」


俺は会場の中央部、ユリィ・・・・いや、チャンピオンの正面へと足を進める。


「クイーン・・・まさか、こんな風に対峙する事になるとはな。」

「シュヴァルツさん、私は何時かこの様な日が来ると思っていました。貴方がモモちゃんを抱き上げたあの日から。」

「それは、妖精としての能力か?」

「いえ、私のブリーダーとしての勘です。」

「そうか。」

「言葉で語るのは此処までにしましょう。」

「ああ、後はお互いの力量で語ろう。」


互いに言葉を交わした後、それぞれの愛犬の元に戻ったのを確認した司会者が競技の説明を開始する。


「今大会の種目は『ゲテモノ喰い』だ!!ふとん犬は制限時間内にどれだけ多くのゲテモノを食する事が出来るのか?

 ここに新たなるふとん犬の可能性を見せて頂きましょう!!」

「テツ、準備は良いか?」

「ワフッ!!」

「モモ、頑張りましょう。」

「ワッフ!!」

「それでは、競技スタート!!」


司会者の合図で俺達はゲテモノ(ゲル)に向って走り出す。


「テツ、頑張れ!!」

「モモ、頑張って!!」


この競技、ゲテモノ喰いにおいて俺達ブリーダーのする役目は愛犬の応援。

俺もユリィも互いのパートナーの隣で必死に応援する。


「そこだ!!行け!!」

「モモ、そこです!!」


必死に応援する。


「テツ!!」

「モモ!!」


ただただ応援する。


「テツ、あと少しだ。」

「モモ、その調子です。」


ひたすらに応援する。


「頑張れ!!」

「頑張って!!」


・・・・応援する。



「キャッフン!!」

「モモ!?」

「今だテツ、相手は怯んだぞ!!」

「ワッフン!!」


一瞬相手がゲテモノに怯んだ。その隙に俺はテツにラストスパートを掛ける様に指示を出す。

これを機にモモを一気に突き放す。

だが、モモも現チャンピオンだ。これ以上離されまいと体に鞭打って必死にゲテモノに喰らいつく。

そんな、モモの姿は見ていて痛々しい程だった。


「モモ!!もう良いのです。もう充分です。」


そんなモモをブリーダーのユリィが必死に止める。

が、モモは喰い続ける事を止めない。

まさに、現チャンピオンとしての執念だ。


「おっーーと!!ここで制限時間です。試合終了、チャンピオンが見事な追い込みをみせてくれましたが・・・残念!!

 新チャンピオンは挑戦者テツに決まりました。」


しかし、そんなモモの執念も僅かに及ばず、勝者はテツ。

だが・・・・俺は心の底から喜ぶ事は出来なかった。

そんな俺にユリィが声を掛けて来た。


「おめでとう御座います、シュヴァルツさん。」

「・・・ユリィ、ブリーダーとして必要なのはふとん犬への愛情だったな。」

「はい、そうです。パートナーであるふとん犬への愛情は最も大切なものです。」

「だとしたら、俺の負けだ。たとえ、試合で勝ったとしても勝負ではユリィに負けた。」

「・・・何故そう思うのですか?」

「試合中にユリィは自分のパートナー犬の事を考え、モモを止めた。試合の結果よりもパートナーの事を優先した。

 もし、俺がユリィの立場だったら・・・おそらく、勝つ事に固執してテツを止めなかった。

 俺にはふとん犬への愛情が足りない。・・・ふとん犬への愛情ではユリィの足元にも及ばない。」

「シュヴァルツさん、それは違います!!ただ相手の事を甘やかす事だけが愛情ではありません。

 時には優しく、時には厳しく接するの事が愛情では無いでしょうか?

 私がモモちゃんを止めたのは、止める事が必要だと思ったからです!!

 シュヴァルツさんがテツさんを止めなかったのは止める必要が無かったからです!!

 それに・・・愛情の形は人それぞれです!!私は私、シュヴァルツさんはシュヴァルツさんです。」

「・・・ユリィ。」

「そして、一番大切なのはパートナーがその愛情を判ってくれているかどうかです。

 シュヴァルツさん、ご自分のパートナーを良くご覧になって下さい。」


ユリィに促され、俺はテツを見る。

そこには、チャンピオンメダルを誇らしげにぶら下げ、尻尾を千切れんばかりに左右に振っているテツがいた。

ああ、俺はなんて愚かだったんだ。この勝利は俺一人のモノでは無く、テツと俺二人のモノだったと云うのに。


「テツ!!お前は最高だ!!」

「ワッフ!!」


その日、テツは新チャンピオンになり

俺の称号は『マスク・ド・ブリーダー』から『キング・オブ・ブリーダー』になった。

ちなみに、ユリィの称号は相変わらず『クイーン・オブ・ブリーダー』のままだった。

大会主催者の弁では、女性のブリーダーがチャンピオンになるまではユリィにクイーンの称号を預けて置くとの事だった。

決して、変な仮面を被ったヤツがブリーダーのトップでは、ふとん犬協会のイメージが悪くなるからでは無い。


















[24765] 第八話 方針
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/01/09 22:40












第八話 方針





ふとん犬のコンテストが終了し、俺の愛犬テツが新チャンピオンになった。

その後、テツをハゼゴロウ博士に預けると俺はユリィのいる宿屋に向った。


「丁度、シュヴァルツも来た様だな。では、話を始めよう。」


そこには、ユリィだけで無く妖精のミランダも居た。

そういえば、最近ミランダを見ていなかったな。この宿に住んでいるんだから見かけても可笑しく無いはずなのだが・・・。

俺がそんな事を思っていると、ミランダが口を開いた。


「最近、この大陸でスクリーパーの活動が活発化している。先日もシリルティア王国の王都フェルメンティアが大規模なスクリーパーの襲撃を受けた。

 その時は近衛騎士団長のシェリス殿の活躍で事なきを得たのだが・・・その後、平和維持軍も小規模のスクリーパーによる襲撃を受けた。

 シュヴァルツもその事については知っているのだろう?」

「まあ、両方とも現場に居たから一応は知っている。」

「それならば話は早い。本来、あの様なスクリーパーによる襲撃は・・・在り得ない事だ。」

「在り得ない?」

「ああ、そうだ。2000年前にインフィニトーが死んだこの時代に『スクリーパーは存在しない』」

「存在しない?」

「まあ、生き残った少数のスクリーパーは居るかも知れないがな。」

「ちょっと待て。もっと、判り易く説明してくれ。」

「シュヴァルツさん、その事は私の方から説明致します。」


混乱する俺に、ユリィがインフィニトー関連の説明をしてくれた。




















「つまり、要約するとこんな感じか?」





2000年前にインフィニトー襲来し世界を滅ぼそうとする。初代大地の巫女が命と引き換えにインフィニトーを龍玉に封印。
         
                           ↓ 

その後、200年毎に大地の巫女が命と引き換えに龍玉の封印を強化する使命を負うがインフィニトーの手下の妨害により、何回か続けて封印強化を失敗する。

                           ↓

封印が弱まった為、インフィニトー復活。龍玉に対する免疫が出来た為に再封印不可能。

                           ↓

ユリィの勇者様一行が復活したインフィニトーの野望を打ち砕く。追い詰められてインフィニトーは2000年前に時間移動。インフィニトー曰く『間違った歴史は正せば良い!!』

                           ↓

インフィニトーは2000年前の過去に逃げるが、しつこく追い駆けて来た勇者様一行によって倒される。スクリーパーの生産も停止。

                           ↓

                        ハッピーエンド



「つまり、過去にインフィニトーを封印した歴史の場合は大量にスクリーパーが存在しているが

 過去にインフィニトーを倒した歴史では、スクリーパーが大量に存在しているはずが無い。」

「そう云う事だ。ここしばらく、私とユリィで大陸を廻って調べて来たが・・・時の流れに違和感がある。」

「ここしばらくって?」

「勿論、お前がふとん犬に現をぬかしていた最中だ。」

「なっ!!ミランダとユリィだけで大陸を廻って来たのか!?危険だぞ、妖精を捕食するモンスターだって居るんだぞ!!」

「その点は申し訳ありませんでした、ですがシュヴァルツさんに要らぬ心配をお掛けする訳にも行きませんでしたので、黙って二人で行って参りました。」

「心配を如何こう言ってるんだったら、俺を連れて行けば・・」

「今回、お前を連れて行く訳には行かなかった。いや、連れて行け無いと云うのが正しい。」

「連れて行けない?如何云う事だ?」

「その理由は、今回の異変の原因がお前・・・いや、お前の着ている鎧にあるからだ。」

「鎧?このゴッツイ黒鎧がか?」

「ああ、そうだ。時(とき)がその鎧をインフィニトーだと誤認している可能性がある。」


この鎧がインフィニトー?

確かにこの鎧は普通の鎧じゃない、スクリーパーっぽい材質だし、軽いし、時の歪みを抑えるし、インフィニトー専用に開発されたらしいし。


「2000年前にインフィニトーが倒された際に、大規模な歴史の変動があった。それこそ他に類を見ない様な大規模な変動だ。

 その歴史の変動が起こった際に、何故かその鎧が歴史に撃ち込まれた銛の様な役割を果たしてしまい、

 結果として修正された歴史上は、存在しないはずのスクリーパー達が存在している事になった。」

「つまり、歴史の流れと云うノドの奥に、この鎧と云う魚の骨が突き刺さり、結果として不快感と云うスクリーパーが発生したって事か?」

「・・・まあ、そんな感じだ。」

「で、如何すれば良い。この鎧を破壊すれば良いのか?」

「それでは駄目だ。ただ破壊しては、この時代にインフィニトーが死んだ事になるだけだ。」

「それじゃ・・・過去に戻ってから、この鎧を壊すって事か?」

「はい、それが一番良い方法だと思われますが・・・・一つ問題があります。」

「問題?」

「過去に移動する手段です。」

「前回と同じ方法では駄目なのか?」

「前回はアニータさんの協力で過去に移動したのですが・・・・この方法ではアニータさんの体に対する負担が大きすぎるのです。

 もう一度同じ方法を採った場合・・・・・最悪の事態が予想されます。」

「そうか・・・それじゃ、前回と同じ方法は採れないな。今回はアニータさんの協力して貰う訳には行かないか。」

「過去へ移動する為の能力者としての協力は駄目ですが、モノポリス社の総帥としての協力はして頂けるかと思います。」

「そうだな。じゃあ、とりあえずマキナスに戻るか。」

「帰還にはポドラトの里にあるトランスゲートを使いましょう。」

「トランスゲート?調整は終わったのか?」

「ええ、つい先日終了したそうです。」




その後、俺とユリィはポドラトの里にあるトランスゲートを使って都市マキナスへとワープする事に成功した。

一応、ポドラトの里の族長にも事情を説明し、協力を依頼しておいた。


「お久しぶりです。ユリィさん、シュヴァルツさん。」


モノポリス本社でアニータさん直々に俺達を迎えてくれた。


「アニータさん!!久しぶりです。ずっと会いたかったです。」

「・・・・シュヴァルツさん、その・・・胸をジッと見つめるのは止めて下さい。」

「ハッ!?失礼しました。どうやら測定器の自動追尾ロックオン機能を解除し忘れていたようです。

 今日は極めて重要なお話があるのです。」

「(測定器?)重要な話ですか?」

「はい、のどの奥に魚の骨が刺さったので、それを抜く手伝いをして欲しいのです。」

「魚の骨ですか?それでしたら、良いお医者様をご紹介します。」

「本当ですか?有難う御座います。」

「・・・シュヴァルツさん、その説明では誤解を招きます。実はアニータさん、シュヴァルツさんの着ている黒い鎧について重要なお話があるのです。」

「その黒い鎧にですか・・・・。それは、奇遇です。実は私の方もその黒い鎧について重要なお話があります。」

「アニータさんもですか?」

「シュヴァルツさん、体の方になにか異常は無いですか?」

「異常?・・何かあったんですか?」

「はい。あの後、その鎧の破片をレノックス研究所に持ち込み研究していたのですが、

 レノックス研究所で破片を埋め込まれたマウスが、スクリーパーになってしまったのです。」

「マウスがスクリーパーに!?」

「はい。」

「そんな危険な鎧だったとは・・・脱ぎます。」


速攻で鎧を脱ごうとする俺を、ユリィが必死に止めた。


「待って下さい、鎧を脱いでしまってはシュヴァルツさんが危険です。歪みが大きくなってしまいます。」


ああ、そうだった。

脱いでも駄目、脱がなくても駄目。

俺、終わったな。


「歪み?それは如何云う事ですか?」

「はい、実は・・」


俺がうな垂れている間、ユリィがアニータさんに事のあらましを説明していた。

その後、俺はレノックス研究所に送られて精密検査を受ける事になった。
















三日後、精密検査が終了した。

俺は研究員っぽい人に結果を聞かされていた。


「君の体だが、特に目立った異常は無かったよ。」

「本当ですか?スクリーパー化や歪み増大は無かったんですか?」

「スクリーパー化は確認出来なかった。恐らくは、その仮面がスクリーパー化を抑えているのだろう。」

「この仮面がですか?」

「ああ、間違いない。」


なるほど、この仮面にそんなカラクリがあったとは・・・・。


「それから、その歪み?については、現時点ではよく分からなかった。現在調査中だ。」


とりあえずスクリーパー化だけは、仮面のお陰で大丈夫だったらしい。

胸を撫で下ろしている俺の所に、ユリィとアニータさんがやって来た。




「ユリィさんからお話しは伺いました。私としては全力でその鎧を破棄する事に協力します。

 ただ、兄や私が過去に移動する為の手術を受ける事になったのは、元々はモノポリス社の総帥に憑依していたインフィニトーの指示によるものでした。」

「・・・つまり、2000年前にインフィニトーが死んで、鎧モドキとして存在しているこの時代では・・・。」

「時間移動の技術自体は失われた訳では無いのですが、私も兄も過去へ移動する為の手術は受けて居ないのです。」

「・・・時間移動の技術は残っている?」

「はい、本来時間移動はインフィニトーが命じて行わせていた研究でしたが・・・何故か研究結果は残っているのです。」


あるはずの無い研究結果が残っている?

その事に対し、首を捻っている俺とアニータさんに対しユリィが口を開く。


「やはり、時間移動の研究結果が残っている理由はスクリーパーが存在している理由と同じなのでしょうか?」


ユリィの予想が正しければ、全てこの鎧の所為か。

まあ、研究結果が残っていた事は俺達からすれば良い事だ。

そう全てが悪い方に動いている訳でも無いか。


「・・・アニータさん、ユリィから話を聞いたのですが過去に移動する際、同じ時代には二度移動する事は出来ないと聞いたのですが?」

「はい、その通りです。私やメークリッヒさん(ユリィの勇者)、イリスさん(巫女さん)、ウェンディさん(誰?)にルキアス君(誰?)は

 インフィニトーを倒す為に2000年前に時間移動しましたので、もう一度その時代に移動する事は出来ません。」

「今回の事態の事ですが、アニータさんには協力を仰ぐ為に話さざるを得ませんでしたが、他の人達には出来る限り秘密に出来ませんか?」

「秘密?今回の事態についてですか?」

「はい、アニータさんが必要と感じたら話して貰っても構いませんが、余り皆さんに心配を掛けるのもアレですので・・・。」


この鎧を処分する為に2000年前に時間移動しなくてはならないのだが

一度その時代に移動している彼らは、俺が2000年前に移動する際に一緒に行ってもらう事が出来ない。

この制約が無ければ、この鎧を彼らに託して『行ってらっしゃい』と笑顔で送り出して解決するのだが・・・・。


「判りました。必要な事態が生じない限り、出来るだけ内密に事を運びます。」

「よろしくお願いします。」


その後、俺と鎧に調査が一段落したのでお暇する事にした。

偶然研究所内で見かけた赤い人に、例のジェムの入手方法を聞き出す事に成功した。

ジェムはヒンギスタン王国の首都で隠しメニュー的な感じで販売している物らしい。

この後の予定は特に無いので、俺たちはこのままヒンギスタン王国方面に向う事にした。























[24765] 第九話 出会い
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/01/15 00:12























第九話 出会い





俺とユリィはヒンギスタン王国の首都エル・ヒンギスに向っている。

目的は二つ。対スクリーパー用のジェム『透徹』の入手と、トランスゲートを開通させる事。

トランスゲートはゲート間の瞬間移動を行える便利なモノなのだが

エル・ヒンギス付近に設置してあるトランスゲートは現在起動していない為、

俺達が直接エル・ヒンギスに行ってトランスゲートを起動しなければ使用出来ない。

そんな訳で、俺とユリィの二人は徒歩でエル・ヒンギスに向っている。



ニャア、ニャア、ニャア、ニャア、ニャア



「シュヴァルツさん、カモメが飛んでいますね。」

「・・・ユリィ、アレはカモメじゃない。ウミネコだ。」

「ウミネコですか?」

「ああ、ウミネコだ。どう見分けるかって?簡単だ、ニャアニャア鳴くのはウミネコだ。」




デッデ~~ポ~ポ~、デッデ~~ポ~ポ~、デッデ~~ポ~ポ~、デッデ~~ポ~ポ~




「シュヴァルツさん。今鳴いているあの鳥は何ですか?」

「あれはデデポポだ。」

「デデポポ。」





そんなこんなで、海を見ながら歩いている俺達の目にある物が飛び込んできた。

あれは・・・ポッド?

何か見覚えがある様なポッドが浜辺に打ち上げられていた。


「ユリィ、あれ。」

「あれはポッドでしょうか!?」


はい、ポットでしょう。怪しがりて寄りて見るにポットの中光たり。

俺とユリィは慎重かつ大胆にポットに近づく。

懐かしいな。俺が入っていたヤツそっくりだ。

詳しく調べて見ようとすると、いきなり蒸気が噴出し、ポッドが開いた。


「中に誰か居るのでしょうか?」

「多分、誰か居る。」


噴出した蒸気が散ると、ポッドの中には女性が入っていた。

その女性が覚醒し、コッチを見た。


「何だ、貴様は!!この怪しいヤツめ!!」


女性の反応は予想通りだった。

俺を初めて見たヤツは、大体こんな感じの反応をする。


「ネーリスさん!?」


俺がどうやって無実を主張するか考えるより先に、ユリィが女性に声を掛けた。

どうやら、ユリィはこの女性を知っているらしい。


「お前は!!確か、アイツと一緒に居た妖精!?」


この女性もユリィを知っている様だ。

つまり、知り合いか?


「まさか・・・お前が一緒に居ると言う事は・・・この仮面の男は!!」

「よく分かったな。久しぶりだな、ネーリス。」

「量産・・いや、メークリッヒ。」

「いや、俺の名はシュヴァルツだ。」

「まさか、こんな場所で会えるとは・・・・えっ?」

「シュヴァルツだ。シュ・ヴァ・ル・ツ!!」

「シュヴァルツ?」

「そうだ、シュヴァルツだ。」

「・・・・誰だ!?貴様は!!」

「・・・だから、シュヴァルツだって言っているだろ?」

「私は貴様の様なヤツは知らない。」

「そりゃそうだろ。多分、初対面だ。」

「さっき、久しぶりだと言っていたぞ!!」

「雰囲気を出してみただけだ。気にするな、俺は気にしてない。」

「私が気にする!!それに、私の名を知っていた!!」

「さっき、ユリィが呼んでいただろ?」

「本当なのか?」


ネーリス?がユリィに確認の為、問い掛ける。


「本当です。此方の仮面の方は勇者様では無く、シュヴァルツさんです。」

「・・・本当だったのか。」

「納得した所で現在の状況を説明した方が良いか?」

「・・・頼む。」



ネーリスに、俺達・・・主にユリィが現在までの状況を説明している。



「そうか、あれから2000年も経っているのか。」

「で、これから如何するんだ?」

「・・・・。」

「まっ、直ぐに決めるのは無理だな。特に目的が無いなら、適当に旅でもしたら如何だ?目的の無い旅も面白いもんだと思うぞ。」

「・・・旅か。」

「そうそう、旅だ。で、ある程度落ち着いたら勇者さんに会いにでも行けば良いだろ?」

「会いに行くだと?この私が?」

「もう、お互いを縛るモノは何も無いんだからな。自分の好きにすれば良いさ。」

「・・・・。」

「如何するか迷っているなら、次の街まで一緒に行くか?旅は道連れ世は情けってな。」

「いや、それには及ばない。・・・・だが、旅か。それも良いかも知れないな。」

「そうか、美人の同行者が増えるのは無条件で歓迎する所だったんだが、無駄になったか。」

「・・・所で、シュヴァルツと云ったか?本当に初対面か?随分と気安いが。」

「気安いのは性分だ。まあ、縁が腐っていたら、また会うかも知れないな。」

「・・・そうか。」



結局、俺のパーティーに新メンバーが加わる事は無く

ネーリスと別れ、俺とユリィは二人でエル・ヒンギスに向った。



「そう言えば、シュヴァルツさん。どうして、ネーリスさんに勇者様の事を話したりしたのですか?」

「不味かったか?」

「いえ、特に不味くは無いのですが・・・疑問に思ったので。」

「会話の節々に、勇者さんの話題が挙がる度に気にしていた様に見えたから?かな。」

「そうですか。」

「で、実際は如何なんだ?何か在ったのか?あの二人は。」

「えーーと、プレゼントを貰ったり・・・森の中で二人で会ったり、夜の廃村で二人で会ったりする関係です。」


何か・・・・聞いてはいけない事を聞いてしまった。

その後、ユリィは勇者さんの女性遍歴?を俺に延々と語って聞かせ続けた。




「つまり、アニータさんとも仲が良いって事か?」

「どっちかと云うと、アニータさんからの一方的な好意だと思います。」











「じゃあ、そのウェンディちゃんとは結局仲の良い友達状態で止まった訳か。」

「はい、勇者様とウェンディさんは相性は良いのですが、あくまで友達としての関係を抜け出せませんでした。」



ユリィの観察眼はかなり鋭いらしい。

って言うか、彼女達との色々と重要な場面にユリィも同席していたらしい。

ユリィも、そういう時は気を使って席を外せば良いのに。


































「如何してルイーゼさんを狙うのですか!?」


ユリィの必死な叫び声が俺へと突き刺さる。

だが、俺は無常にもそのユリィの叫びを斬って捨てる。


「邪魔なんだよ、魔力を持つ者はな。特にその女の魔力は強すぎる!!」


再度俺は、ルイーゼと呼ばれた少女へと向き直り武器を構えた。


「ルイーゼから離れろ!!」


思い思いの台詞を・・・だが、一貫した意味の台詞を叫びながら俺とルイーゼの間に

彼女を守るべく立ちはだかる少年少女達。

彼らも手にそれぞれ思い思いの武器を持っていた。


少年の一人が俺に斬りかかって来る。

俺は軽くそれをいなし、逆に少年を斬り付けた。

悲鳴を上げながら倒れ付す少年。


「その程度の腕で、この俺に敵うと思っているのか?」


俺は高らかに宣言し、高笑いをあげた。

だが、その時


「子供達に何て事を!!絶対に許さない!!喰らえ、陽炎(かぎろい)流奥儀無双三段!!」




シュッ!!ブンッ!!ブヲッ!!


ドスゥッ!!グサッ!!グショ!!




突如現れた角の様なものを生やした女性の攻撃を喰らい吹き飛んだ。

俺は子供達の悲鳴をBGMに意識を手放した。

























ふと意識が戻ると同時に、体中に鈍い痛みと後頭部に柔らかい感触を感じた。

俺は何をやっていたんだ?

ちょっと、頭の中を整理してみる。

エル・ヒンギスに無事到着した俺達は、例の店で探していたジェムを見つける事が出来た。

少し高かったのだが、出せない事も無い値段だったので二個買うことにした。

で、その後は街を観光して・・・

いつもの様にユリィに惹かれて子供達が寄って来た。

それから、ユリィと一緒に寄って来た子供達の遊び相手をしていたはずだ。

子供たちと、この大陸で有名なお話し『光の救世主伝説』のごっこ遊びをする事になって、俺が悪役をやっていた。

こう云う時に悪役をやるのは年長者の義務だ。






そしたら、急に頭に角のようなモノを着けた女性に襲われた?


「あっ、目が覚めましたか?」


目を開けると、目の前に角のようなモノを着けた美人さんがいた。

現在の状況を整理すると、どうやら俺はこの美人さんに膝枕をされているらしい。

なるほど、後頭部の感触は美人さんのフトモモか。

だが、今は俺がやるべき事は他にある。

俺は決心すると口を開いた。


「膝枕をする時は、横からではなく正面からした方が良いですよ。」(膝枕して貰っている)

「はぇっ?・・・正面からですか?」

「はい、こんな感じですね。」(膝枕して貰っている)


俺は素早く体勢を変え、美人さんの横から正面に転がると膝枕をし直して貰った。


「どうですか?」(膝枕して貰っている)

「えぇっと、確かにさっきより頭が安定していると思います。」

「所で貴女は誰ですか?」(膝枕して貰っている)

「あっ、失礼しました。私はウェンディといいます。」

「ウェンディさん?・・・もしかして、ユリィと一緒に旅をしていた御一行の一人ですか?」(膝枕して貰っている)

「はい。ご存知でしたか?」

「まあ、大体は。それより、その頭から突き出している角はアクセサリーか何かですか?」(膝枕して貰っている)

「角?ええっと、これは髪飾りで・・。」


膝枕も充分堪能したし、俺は立ち上がると体に異常が無いか確認した。

思いっきり槍で突かれたはずなのに、思いのほか軽傷だ。まさに、打ち身程度?


「どうやら、その鎧のお陰の様ですね。本当に良かったですね☆」

「どの口が言う?」


ギュム♪


「いらひ、いらひれす。(痛い、痛いです)」


俺はウェンディの悪い口にお仕置きをしながら、辺りを見回した。

そういえばユリィが居ない?


「ユリィは何処へ行ったんだ?」

「ほにょまうぇにほっぺうぉふへるにょほひゃめれくらひゃい。(その前にホッペを抓るのを止めて下さい)」

「ああ、そうだった。ごめん。」

「うー。」


涙目で俺を睨んでくるウェンディ。

うん、何かこう新鮮な感じだ。

もう少しイジメテみるか。


「所でウェンディちゃん?」

「・・・何ですか?」

「あんな酷い事をして、膝枕程度で許して貰えると思っているのかな?」

「うっ。・・・その、御免なさい!!」

「御免で済めば司法機関は要らないのですが?如何落とし前をつけてくれるのですか?」

「うー。」

「まあ、俺は優しいから許してやらない事もないけど条件があるな。」

「条件ですか?」

「①オッパイを揉ませる。」

「ふぇっ!!」

「②抱きつく。」

「ひゅい!!」

「③ホッペを抓らせる。」

「ええっー!!」

「さあ、ウェンディちゃん。どれを選ぶ?」

「えーーっと、それじゃあ・・・。抱き付いちゃいます、えい!!」


ギュム!!


予想外の行動だ、ウェンディちゃんって意外とアグレッシブルな子だな。

それにしても









「・・・・。」

「如何したんですか?」

「いや、抱き付いてみた感想は?」

「えっと、鎧?鎧に抱き付いている様な感触です。」


つまり、俺は鎧を着ていた。

その上から抱き付かれても鎧がウェンディの感触を遮断してしまい

俺には何のメリットも無い。

ウェンディの背がもう少し高ければ、髪をクンカクンカ出来たのに・・・・。

これでは俺の一人負けだ。

やはり、この鎧は俺の敵だ!!

そんな事を考えている俺の顔を心配そうに眺めているウェンディ。


「あの、大丈夫ですか?」

「ああ、ただこの鎧が・・・鎧の所為で・・・。」

「?だったら、一度鎧を脱いでみたらどうかな?」

「いや、そこまでして貰う事は無い。今回の一件は俺の不徳が招いた事。これ以上ウェンディちゃんに迷惑を掛ける訳には・・。」


と、その時


「ウェンディから離れろ!!変態!!」



シュッ!!ブンッ!!ブヲッ!!


ドスゥッ!!グサッ!!グショ!!



見知らぬ男の声との声と供に無数の斬撃が俺に突き刺さり、俺は意識を手放した。




















































[24765] 第十話 初心
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/01/29 23:44













「おい、大丈夫か?」

「・・・足を捻った様です。」

「走れそうか?」

「ゆっくりなら歩けそうですが・・・走るのは無理です。貴方だけでも逃げて下さい。」

「そうか、、じゃあ仕方ないな。」


そう言うと、その男は目の前の女性を抱き上げた。


「なっ!!何をやっているのですか!?貴方は!!」

「見りゃ判るだろ?お姫様抱っこ。姫なだけに。」

「下ろしなさい!!」

「やだね、こんな美人をモンスターのエサにするなんて、勿体無くて出来る訳ないだろ?」

「貴方は!!」

「それに、モンスターに喰わせる位なら・・・・俺が食べるさ。」

「!?」

「ああ、それから・・・・俺の左手が、姫のオッパイを鷲掴んでいるけど気にするな。」

「!!!!」



















第十話 初心









シスコンは見苦しい。

ウェンディちゃんとじゃれ合っていた俺の事を、酷い目に遭わせてくれたヤツはウェンディちゃんの兄だった。

例によって、俺を変質者か何かと勘違いして攻撃を加えて来たとの事だった。

まあ、鎧のお陰で大した怪我は無かったので、水に流したが。

それにしても、シスコンは見苦しい。


「シュヴァルツさん、シスコンって何ですか?」

「ユリィ、シスコンと云うのは自分の妹や姉と結婚したいと思う事だ。」

「えっ?」


俺の返答に絶句するユリィ。

まあ、それはさて置き、俺達は大地の里に向っている。

あれから、手に入れたジェムを持ってフェルメンティアまで行って来た。

大陸間の移動はトランスゲートを使ったので一瞬だった。本当に便利な世の中になった。

ただ、シェリスさんに会う事は出来なかった。

何でも、最近スクリーパーの出没頻度が多くなってきた為

スクリーパー対策会議の為に平和維持軍の方へ出張しているとの事だった。

仕方ないので、例のジェムを一つシェリスさんのパートナー妖精に渡してから俺はフェルメンティアを後にした。



それから俺は、そのままの足で平和維持軍の本部に向った。

まあ、運が良ければ本部でシェリスさんに会えるかも知れないし、羽のお姉さんの顔も見て置きたかったし。

結果、俺は平和維持軍の本部で逢引しているシェリスさんと妖精使いの青年を目撃した。

邪魔するのも悪いので、俺とユリィは何も見なかった事にして本部内の探索に戻った。



「シュヴァルツさん・・・その、なんと言えば良いか分かりませんが・・・お気の毒でした。」

「ユリィ、お前はいったい何を言っているんだ?確かに、シェリスさんは大変魅力的な女性だ。

 だが、俺としては知り合ってまだ間もない間柄だ。それに、俺には他にも沢山の女性の知り合いが居る。

 シェリスさんはその中の一人だった。ただ、それだけだ。」

「沢山の『知り合い』ですか?」

「そう、まだ『知り合いだ』。恋に落ちるには、まだまだだ。」

「そうですね。すぐに恋に落ちるのは危険ですね。お仕事かも知れませんしね。」

「?」



それから、偶然発見したメルヴィナさんに持っていた例のジェムを一つあげた。


「なるほど、これは助かる。最近、特にスクリーパーの出現頻度が増えている。その事で、各王国の軍の要人を集めて対策会議を開いている所だ。

 所で、ゼオンシルトを見かけなかったか?」

「ゼオンシルトさんですか、見かけていませんが?」


って、ゼオンシルトって誰?


「コリンの勇者様の事です、シュヴァルツさん。先ほど、お見かけしましたが・・その、取り込み中の様でした。」

「そうか、ではシェリス殿へのの用事を先にすませるか。」

「シェリスさんも同じく取り込み中の様でした。二人っきりで。」


ユリィ、確かに情報としては間違っていないが、何でもかんでもペラペラ喋るのは不味いと思うぞ。

ほら、見ろ。メルヴィナさんが鬼の様に・・・・・・って、鬼だ。

鬼が居る!!!


「ほう?それは何処だ?何処で『二人っきりで』取り込み中なのだ?」

「林です。闘技場横の林の中です!!」


俺から場所を聞き出すと、鬼へと変貌したメルヴィナさんは鎌を持って何処かへと消えて行った。


「シュヴァルツさん、逢引の場所を教えるのは良くないです。それに、何でもかんでも喋るのは良くないと思います。」

「ユリィ、その台詞はそっくりそのままお返しするよ。」


で、気になった俺達はコッソリと例の逢引現場へと急行した。













うん、修羅場だな。

互いに武器を構えたメルヴィナさんとシェリスさん。その間で必死に仲裁をしようと頑張っている妖精使いの青年(ゼオンシルト?)

一向に収まる気配が無い。


「ユリィ、この先の展開には多少興味はあるが・・・放って置くと不味いんじゃないのか?」

「そうですね。コリンの勇者様の自業自得とは云え、このまま事態が悪化したら・・・最悪、国家間の外交問題に発展するかも知れません。」

「誰か効率的にこの場を収める事の出来る奴が居ればいいんだが・・・・。」

「私、誰か適任者を探して呼んできます。」

「頼むぞ、ユリィ。俺は最悪の事態が発生しそうになったら、力ずくで止める。」

「はい、お願いします。」


ユリィの後姿を見送ると、俺は武器を握り直し最悪の事態が来ない様に期待した。

目の前で、悲しみの向こう側へ行かれでもしたら目覚めが悪い。


































「シュヴァルツさん、呼んで来ました!!」

「良くやっ・・た、・・・ユ・リィ?」


ユリィの声に振り返った俺の目に、ユリィと黒っぽい子悪魔風の女の子が居た。

女の子の黒いのは服装だけでは無い、雰囲気からして黒い。何かこう、黒いオーラが出ている。

ユリィ、お前はいったい何を連れて来たんだ?

せめて、人間を連れて来い。


「シュヴァルツさん、ファニルさんは人間ですよ?同じ黒仲間なんですから、仲良くして下さい。」

「黒仲間って何だよ!?俺を勝手に変なクラスに分類するな!!」


そんな漫才をやっている俺達には目もくれず、ファニル?と呼ばれた少女は

例の修羅場へと乗り込み、修羅場は俺の予想通り悪化した。


「うん、コレ無理。」

「そうですね。」

「まあ、自業自得?」

「そうですね。」

「帰るか。」

「はい。」



後ろで聞こえる喧騒を無視し、俺達はその場を後にした。



「シュヴァルツさん、これから何処に向うのですか?グランゲイルでしょうか?」

「一度、大地の里に戻ろうと思う。グランゲイルには行かない予定だ。」

「何故ですか?」

「あそこには知り合いの『美人』は居ない。」


あそこにはイケメンしか居ない。俺は興味が持てない事には関わらない主義だ。

基本、面白ければ何でもいい屋だ。




























「その魔道書を貴様等にくれてやる訳には行かん、置いて行け。」

「何だと!!貴様も外の番兵の様にしてやるぞ!!」

「ふっ、勇ましいな。」


相手の余裕が気に障り頭に血が上ったのか、あるいは歴然たる力量の差なのか

挑みかかった人物は次の瞬間、地面に倒れていた。


「貴様等も命が惜しいのなら・・・。」

「シュヴァルツさーーん!!族長さんが呼んでいますよ。」

「・・・・分かった、今行く。」


子供たちと遊んでいた俺にお偉いさんからの呼び出しが来てしまった。

無視する訳にも行かず、俺はユリィと入れ替わる形で族長の家に向った。

後の事はユリィに任せる。








久しぶりに里帰り?をした。

相変わらず変わり栄えのしない大地の里に帰って来てから

俺は族長の家に寄生する様な事はぜずに、空き家を借り受けそこで暮らし始めていた。

ユリィと一緒に出て行った事について、巫女さんや勇者さんに色々と文句を言われる覚悟をしていたのだが

二人とも現在大地の里を留守にしているらしく、特に問題は無かった。

何でも平和になった世界を見て廻るとか。後、世話になった人への挨拶とか。

有名人は面倒くさいな。良かった、有名じゃなくて。


「シュヴァルツさんも充分有名だと思いますが?」

「ユリィ、俺が有名なのでは無くて、この鎧と仮面が有名なだけだ。」

「(シュヴァルツさんの奇行も原因だと思いますが・・・。)それより、先ほどから何をなさっているのですか?」

「ああ、コレか?族長から『村おこしに何か良い案は無いか』って相談されてな。色々と村おこしグッツを作っている所だ。」

「そうなのですか。」


俺は相変わらず、村の雑用を行っている。

まあ、貯金自体は旅の最中に色々と貯めたので充分すぎるほど在るから無理に働く必要は無いが

良い大人が昼間から遊んでいるのは体裁が悪い。

ああ、それからユリィは勇者様ご一行が帰ってくるまでは

俺の家に住むとの事で、我が家に居ついてしまった。


「所でシュヴァルツさん、村おこしなんてどの様に行うのですか?」

「ユリィ、大地の里の特徴は?」

「・・・のどかな農村です。とても落ち着いた雰囲気です。」

「そう、その通りだ。何の産業も無い・・・さびれた村だ。」

「そうはっきりと仰らなくても・・・。」

「どんどんと過疎化が進んで将来は60歳以上の高齢者のみが住む・・まるで養老院の様な村なり、やがて地図から消滅する事だろう。」

「そこまで言う事は無いと思います!!」


うわっ!!ユリィが切れた?

なにその不思議な沸点?


「言い過ぎました、ユリィさん。反省しています。」

「判って頂ければ宜しいのです。」

「・・・まあ、そんな訳でめぼしい産業が無いこの大地の里再興の為に、観光産業を発展させようと努力している所だ。」

「観光産業ですか?(・・・後で血を見る事になりそうです。)」


その後、一通り俺の作っているグッツを見てからユリィは家の外に飛んでいった。



























彼女を何と呼べばいいのか?

夜叉?妖怪?鬼?

何れにしろ、俺にとって災厄である事には違いない。

旅に出ていた巫女さん達が戻ってきた。一つの問題を持って・・・。

その問題とは、巫女さんと勇者さんの二人旅での出来事が原因だった。

巫女さんは旅先で、良く『大地の里』の事を耳にした。

どんどん寂れていっている大地の里が、里の外で話題に上がる事は巫女さんにとって最初は喜ばしい事だと思い

噂に耳を傾けたらしいのだが・・・。

聞こえてくる噂は、例の『妖怪』の噂話。

たぶん、俺が行く先々で面白半分で色々脚色して話した事が原因だと思う。

その事について、巫女さんは大変ご立腹の様子だ。


ユリィに仲裁を頼もうにも、今席を外していて居ない。


「で?如何云う事ですか?」

「・・・実は、族長から村おこしを頼まれまして・・・妖怪で一発当てようと思ったしだいで御座います。」

「・・例えば、どんな風に?」

「里の名前を『妖怪の里』に変えたり、メインストリートを『妖怪通り』と名づけたり、お土産に『妖怪饅頭』を売ってみたりと。」

「で?ここにある『ガラクタ』は何なのかしら?」

「これは『妖怪なりきりセット』です。まず、この『三角の被り物』を被って、」


俺は巫女さんに『三角の被り物』を被せ


「この『仮面』を着けて・・」


巫女さんに『仮面』を着けて


「この『血塗られたクワ』を持って」


巫女さんに『血塗られたクワ』を持たせ


「これで、完成です。」

「・・・・。」


うん、何処からどう見ても『妖怪クワ女・改』だ。


「で?」

「はい、その『なりきりセット』を着て、定期的に里の中を徘徊して貰えませんか?」


完璧だ。俺の計画に狂いは無い。



「うなぁぁぁぁ!!」



ゴブッ!!


ドシャ!!




その日、里の中をスコップを持った三角仮面が、人を引き摺って歩いているのを複数の人間が目撃した。


























[24765] 第十一話 恐怖
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/02 17:27












「コマンダー13が裏切り、インフィニトーは大地の巫女に封印された?」

「はい。どうやら、コマンダー13は大地の巫女に内通していた様です。」

「俺としては、理想の展開だな。通信機能は掌握してあるな。」

「はい。」

「良ぉし。『こちら、コマンダーS5。全戦闘員に告ぐ、直ちに戦線を離脱し退艦せよ。繰り返す、直ちに戦線を離脱し退艦せよ。』

 所でネーリスは如何している?」

「ネーリス様はコマンダー13との戦闘で負傷、戦線を離脱しました。」

「・・・どいつもこいつも、生きるのが不器用な連中だな。なあ、そう思うだろ?」

「失礼ですが、隊長も不器用だと思いますが?」

「言うねぇ・・・・まあ、そんな事より脱出が先か。とっとと逃げ出すぞ!!総員退艦だ。」


















第十一話 恐怖









































































それは、今まで味わった事の無い感触だった。

とりあえず、周囲の状況を確認する。











うん、埋められている。

頭だけ地面から出した状態で、土の中に埋められている。

一瞬、土に埋まって解毒中か?と思ったが、毒を受けた記憶は無い。

きっと、巫女さんがやったんだろう。

ちゃんと呼吸が出来る様に、頭だけ出してくれた巫女さんに対し、そこはかとなく優しさを感じる。

土の中の感触も中々良いけど、もう日が落ちて夜になっている。

早く帰らないとユリィも心配するし、腹も減ってきた。

どうする?



「シュヴァルツさーーーん、居ますかーーー!!」


如何するか考えている俺の耳に、ユリィの声が飛び込んできた。

まさに、地獄に仏。


「此処に居るぞ!!」

「えっ・・・。」

「ここだ、ここ。」

「いっ・・・」

「い?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


俺と目が合った途端に、ユリィは里中に響き渡る様な悲鳴をあげて気絶した。


「もしもーし、ユリィさん?起きて下さい。そんな所で寝ると風邪引くぞ。」


気絶して地面に落ちたユリィを放って置く訳にはいかない。

俺は何とか土中から抜け出そうと全身に力を込めた。

が、中々抜け出せそうに無い。これは、思った以上にキツイ。



「おいっ、確かコッチの方から聞こえて来なかったか?」

「ああ、女の子の悲鳴だ。」

「里の中に変質者でも現れたのか?」



おお、来てくれたか!!

里人A、B、C。

早く俺を助けてくれ!!



「何か、あそこに居るぞ。」

「本当か?」

「もっと、近づいてみるか?」



俺の方へと近づいてくる三人組。

・・・・・いや、不味くないか?

三人と俺の間に、気絶したユリィが倒れている。

そして、三人は俺に気を取られていてユリィには気付いて居ない。

もし、ユリィが三人組にうかっり踏まれでもしたら大変な事になる。下手したら、命に関わる事に・・・・。



「おいっ!!そこの三人組!!それ以上こっちに来るな!!」


「なっ、何だ?今の声は。」

「誰も居ないのに・・・。一体何処から。」



来るなって言ってるだろ!!

何故来る!!

クソ、このままではユリィが大変な事になってしまう!!

動け!!!俺の体よ!!!

あの三人組からユリィを助けるんだ!!


「確かあの辺りから声が・・・・。」


もう時間が無い。

俺は肺に溜め込んだ空気を、一気に吐き出し声にならない咆哮を上げ、地面に埋まった体を一気に引き抜いた。




『■■■■■■■■■■!!!!!』




ボコッ!!  





危機一髪。

何とか、土中から抜け出すことに成功した俺は素早くユリィに駆け寄るとユリィを拾い上げた。

ユリィは無事だ。

辺りには、俺の体や鎧に付いていた土が地面に落ちる音が響いた。

暫くすると




「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!!!!」」」





三人組の絶叫が里中に響き渡り、気付くと三人は俺の目の前から消え去っていた。

何て、逃げ足の速い奴等だ。

まあ、ユリィが無事で何よりだ。

俺は、倒れたユリィを頭の上に乗せると帰宅した。
















家に着いた俺は、ユリィをユリィ用の寝床へと運ぶと

風呂に入って全身に付いた土を落とす。

風呂から上がってくつろいでいると、族長から緊急招集がかかった。

面倒くさいが無視する訳にも行かない。

俺は渋々と、集合場所に指定された広場に向った。















広場に到着すると、そこは夜にも関わらずにかがり火がガンガン焚かれ、昼間の様に明るい。

何か、雰囲気が凄いピリピリしている。

一体、何があったんだ?


「では、これより緊急対策会議を行う。」


族長の一言で、始まった会議。

周りを見ると、里の主要人物は大体召集されている。

巫女さんに勇者さん・・・・後、その他大勢が居る。

緊急対策会議って何の対策?


「先ほど、土の中からムキムキでマッチョで、しかも全裸の怪物が叫び声を上げて現れたとの報告があった。」


全裸の怪物が叫び声を上げて?









・・・・もしかして、さっき俺がやった事?


「その怪物についての対策を皆でねりたい。誰か、他に怪物を目撃した者はおらぬか?」


広場がざわつく。

しかし、発言する者は誰も居ない。


「見たものは誰も居らんのか?では、その怪物の正体について心当たりある者は居らぬか?」


誰も居ない。


「・・・シュヴァルツ、お主には心当たりは無いのか?お主は妖怪博士じゃろう?」


誰が妖怪博士だ!!

それを言うなら、巫女さんだって・・・。

いや、止めて置こう。メッチャ、巫女さんに睨まれている。

ここは適当に誤魔化すのが無難だ。


「恐らく、マンドラゴラではないでしょうか?」

「マンドラゴラ。」

「はい、根っ子が人型の植物で土から引き抜くと叫び声をあげます。」

「ふうむ、マンドラゴラか。」



結局、他に意見が無かったのでマンドラゴラで決着した。

一応、族長が調査チームを結成し、明日の昼頃から現場周辺の調査を行う事に決定し、この会議はお開きになった。


去り際に一瞬巫女さんと目が合った。

その瞬間、お互いの心が通じ合った様な気がした。




















次の日、俺は空が明るんで来た頃、眠っているユリィを背に家を後にした。

手にはスコップを持ち、独り目的地に向った。

途中で、巫女さんと会った。

巫女さんも手にスコップを持っており、俺の隣に並ぶとお互いに一言も口を開かず、ただひたすら目的地に向って足を進めた。

何故か、巫女さんは仮面を被っていた。恐らく、俺が作った例の仮面だ。

多分、正体を隠すために被っているのだと思う。

ただ、見る人が見れば一発で巫女さんだと分かってしまうと思う。



で、目的地に着いた俺達は昨日の惨劇の痕跡を消すべく、相変わらず無言でスコップで振るった。


























「ルキアスさん、大変です。」

「ユリィ?そんなに慌てて如何したんだ?それに、あの仮面は一緒じゃ無いのか?」

「シュヴァルツさんが大変なんです。火遊びを・・・危険な遊びなんです。」

「?」

「兎に角、一緒に来て下さい。」






「あの後姿は・・・仮面と巫女か?」

「はい、シュヴァルツさんとイリスさんです。まだ夜が明けてない様な時間から二人っきりで・・・・・きっと、逢引なんです。浮気です。」

「確かに、怪しいには怪しいが・・・あの雰囲気は逢引とかじゃないんじゃないのか?それに、二人ともまったく口を聞いて無いし。

 おまけに二人ともスコップなんか持って、一体何をするつもりだ?」

「とりあえず、後をつけて見ましょう。」







「あれは・・・何かを埋めているのか?」

「埋める。・・・・・はっ、もしかして!!」

「なんだユリィ?」

「きっと二人の関係が勇者様にばれてしまい、修羅場に・・・・そして勇者様は既にこの世には居ないのです。

 二人はあそこに勇者様を隠しているのです。」

「まさか、それは無いだろ?」

「いえ、きっとそうです。ああ、勇者様・・・勇者様は何時までも私の心の中で生きています。どうか、安らかにお眠り下さい。」

「そこまで決め付ける事は無いだろ?まず、二人に確認してからでも・・・・」

「駄目です、あの二人に気付かれては私達も危険です。勇者様の殺害した時点で彼らの心には悪意と云う仮面が張り付いてしまったのです。」

「仮面?」

「この場は、何も見なかった事にして」


パキッ!!


「えっ?」

「あっ。」

「ルキアスさん、何をやってるんですか!!二人にばれて仕舞います。」

「・・・大丈夫だ、気付かれて無いみたいだ。」






















俺達は一心不乱にスコップを振り続け、夜が完全に明ける頃には痕跡を消し去る事に成功していた。

その時、


パキッ!!


背後で、何か物音がした!!

まるで小枝を踏んだ様な音?

まさか、現場を見られたのか!!

俺と巫女さんは互いに頷き会うと、一緒に振り返り叫んだ。


『『見たな!!』』


次の瞬間、二つの悲鳴が辺りに響き渡った。











そこには、気絶した二人組。ユリィと子供が居た。


「えーっと、ユリィとルアキスだっけ?」

「ルキアスです。」

「見られた様だな。」

「ええ。」

「如何する?埋めるか?頭だけ出して。」

「貴方は・・・なんて恐ろしい事を!!」


おい、巫女さん。アンタは自分のやった事に対してもう少し責任を持つって事を自覚しろ。


「冗談だよ。ユリィの方は俺が連れて帰る。」


昨日、やった様に気絶したユリィを拾い上げ頭に乗せる。


「では、ルキアスさんの方は私が何とかしましょう。」


そう言うと巫女さんは、自分の被っていた仮面を気絶したルキアスに被せ、持っていたスコップをルキアスに握らせた。


「これで良し。何とかなりました。」


いや、何ともなって無えから。

俺は巫女さんに突っ込みを入れるべきだったのだが、鼻歌交じりでその場を後にする巫女さんの後姿に突っ込みを入れる事が出来なかった。










「あれ?ここは何処ですか?」

「気が付いたか?ユリィ。」


頭の上にいるユリィが目を覚ました様だ。


「はっ、シュヴァルツさん!!如何して勇者様にあんな事を?幾らなんでも、埋めてしまうのはやり過ぎです。」

「埋める?・・・勇者さんならそこに居るだろ?」


俺の指差した先には、里の人たちに挨拶をしながらテクテクと歩いている勇者さんが居た。


「あれ?でも、妖怪が・・・・妖怪『仮面夫婦』が・・・勇者様を。」

「ユリィ、アナタ疲れているのよ。」















[24765] 第十二話 新変態
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/05 21:44



























第十二話 新変態



























結局、あの一連のマンドラゴラ事件は子供(ルキアス)の悪戯って事で決着した。

まあ、ルキアス君も調査チームに仮面を付けてスコップを持った状態で発見されれば言い逃れは出来ない。

若干証拠過多な気もするが。



そんな事より、俺とユリィはモノポリス社からの呼び出しを受けてレノックス研究所へとやって来た。

何でも、例の機械の試作品が出来たらしい。

例の機械、つまり過去へと移動する際に使用する機械らしい。



「で、この機械がそのタイムマシーン?」

「はい。過去に送る対象をポッドの中に入れてから、外の端末を操作すれば過去に送る事が出来るはずです。」

「はず?」

「現在最終実験の最中なのですが、少し不備がありまして。」

「不備?」

「はい。本来、過去に移動出来る時間は限られているのです。」

「つまり、タイムリミットがあると?」

「はい。所定の時間を過ぎると自動的に元の時間帯へと戻って来るのです。しかし、実験の際に測定器を送ったのですが・・・

 所定の時間になっても戻って来ないのです。」

「なるほど。」

「そこで、貴方に測定器の回収に向って貰いたいのです。」

「嫌に決まってんだろ!!」

「大丈夫です。行き成り2000年前に送ったりしませんよ。ほんの数年前に送るだけです。」

「そう言う事は成功してから言え。」

「ですよね。」


せめて実験が成功してからにしろ。


「機械の次にいきなり人間を送るって、どうなってんだ?物事には順番があるだろ。大体、成功したならまだしも・・・・。」

「冗談ですよ。本当は人間を送る前に動物で実験をしれみては?との意見がありまして。」

「動物?」

「はい、このふとん犬の『チャッピー』君を送る事になりました。ああ、大丈夫ですよ?ちゃんと訓練は済ませました。

 測定器を見つけて回収する作業はバッチリです。ふとん犬は頭が良いですからね。」


ふとん犬?ああ、ヤバイ!!


「ふとん犬を実験に!?そんな事は許しません!!こんなに愛らしいのに!!」


ああ、ユリィのスイッチが入った。

まあ、でも今回はユリィに賛成だな。



「覚悟して下さい、ユリィ・キック!!!!!」


ドゴッ!!!


「ぶっ!!」


ちょっと、待て。何故俺を蹴る。

しかも、今の蹴りってモロ人中に入ったぞ。

流石は、あらゆる妖精トーナメントで優勝したクイーン・オブ・ピクシー。

平和維持軍の闘技場の地下の、裏トーナメントで優勝しただけはある。


「チャッピー。シュヴァルツさんをポットの中へ運んで下さい!!」

「わふぅ!!」


チャッピーは俺の襟首を咥えると、俺の事をズルズルとポットの中へと引き摺って行った。


「ちょっと、待てユリィ!!」


俺はユリィから受けた人中への攻撃で体が麻痺し、満足な抵抗が出来ない。


「今です!!私が抑えている間に早く装置を動かして下さい!!」

「くっ、分かった。君達の犠牲は決して無駄にしない。」


おい、犠牲にする位なら装置を動かすな!!

















結局、抵抗むなしく装置は起動され俺は何処かへと送られてしまった。





















気付いたら俺たちは見知らぬ草原に居た。


「見た事も無い所だな。」

「そうですね。」

「ワフッ!!」











「って、何でチャッピーまで付いて来てるんだ!!俺の犠牲が丸々無駄になったじゃねぇか!!」

「シュヴァルツさん、『メッ』です。言葉遣いが乱暴ですよ。」


おっと、失礼した。

それよりも目の前に落ちてる機械があるけど測定器ってコレか?


「ワウッ♪」

「まあ、チャッピーさんはお利口です☆。もう、回収を済ませたのですね。」


頭が状況に追いつく事が出来ずに呆けていると、チャッピーが測定器のデータディスクを回収してしまった。

ひょっとして、コレで終わりなのか?

俺が来る意味って無いんじゃないのか?


「如何したんですか?シュヴァルツさん。」

「いや、何でも無い。」

「そうですか。・・・・それよりも、ここは過去の世界ではありません。それ所か、私達の居た世界では無いようです。」

「は?」

「ご存知の通り、私達妖精には特殊な能力が備わっています。」

「確か、時の流れを感じたりってやつか?」

「はい。ここに来て初めて分かったのですが、この世界には大きな歪みがあるみたいです。

 私にも詳しくは分かりませんが、この測定器が所定の時間になっても戻って来なかったのはその歪みが原因だと思われます。」

「・・・つまり、その歪みを如何にかしないと俺達も元の世界に戻れないって事か?」

「はい。」

「・・・歪みの詳細は分かったりするのか?」

「いえ、そこまでは分かりません。」

「・・・・・。」

「それにしても、大変な事になりました。」


お前が言うな。


「ワフッ!!」


お前もな。






















あれから、俺達は町や人間を探して彷徨っていた。


「・・・疑問に思った事があるんだが。」

「何でしょうか?」

「ふとん犬は寒さに耐えられる様に進化したんだよな?」

「はい。だから、寒い地方に住んでいます。」

「じゃあ、今の状態だとチャッピーは辛く無いのか?この辺の気候は、如何見ても温帯気候だぞ。」

「それなら、大丈夫です。チャッピーは普通のふとん犬ではありません。」

「?」

「多少の暑さに耐えられる様に進化した毛布犬なのです。」

「毛布犬?」

「はい、その証拠にチャッピーの毛皮は普通のふとん犬よりも薄くなっています。」

「ワウ?」


ユリィの言った事を確認する為に、チャッピーの毛皮の布団部分を触ってみると確かに薄い。


「本当だ、薄いな。」

「はい、ふとん犬達も日々精進し、自分達の弱点を克服しているのです。その内、更に暑さに強いタオルケット犬や裸犬が誕生するはずです。」


タオルケット犬はともかく、裸犬って・・・・・それじゃ普通の犬と変わらないぞ?



































彷徨い続けている俺達はとんでもない事に気付いてしまった。


「この島って海の上に浮いているのか?」

「・・・・・はい、その様です。」


この世には、不思議な事がいっぱいだな。

島の端に立ち、感慨に耽りながら海を眺めていると人の気配がした。

こっちに近づいて来るのか?


「追っ手!?」

「美人!!」


やって来たのは美人さん。

どうやら、かなり急いでいる様子だ。

・・・・胸もデカイ。それから、ショルダー・アーマーがメチャクチャ大きい。


「誰も私を止める事は出来ないのよ。『テンプテーション』」


何だ!!

行き成り・・術・を・・何の・・つ・・もり・・・だ。


「さあ、私の為に道を道を開けなさい。」

「・・・・・・・・・。」

「どうしたの?さっさと道を開けなさい!!」

「シュヴァルツさん!!大丈夫ですか!?」

「妖精!?まさか、精霊使い!!」

「・・・・・ち・・・ち・。」

「「・・・・え?」」

「チチ!!シリ!!フトモモ!!(訳:そんなに胸や太ももを露出させて、私を誘っているのですか?)」

「ああ、シュヴァルツさん!!初対面の女性になんて事を!!」

「なんだ!!おまえは!!コラッ、抱きつくな!!」

「ケシカラン!!ケシカラン!!(訳:貴女の胸は凶器です。他に危険なモノを所持していないか検査します。)」

「シュヴァルツさん。なんて大胆な!!」

「やめて!!胸も揉むな!!」

「ツボ!!ホクソー!!ネエ、コレチョーダイ!!(訳:これは良いモノですね。私に譲ってくれませんか?)」

「顔を埋めるな!!変態!!」

「スリットォォォ!!(訳:その切れ目は、行為を容易にする為に改良してあるのですね。)」

「これ以上は、駄目ぇぇ!!」

「いっぱぁぁぁつ!!(訳:其方から誘って置いて、今更止まる事は出来ません。)」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



「これ以上は危険です。シュヴァルツさんが死刑になってしまいます。」

「ワフッ?」

「チャッピー、『餌』。」

「ワウッ!!」


ガリッ!!


「ぎ・・・ぎゃぁぁぁぁ!!」


「チャンスです!!私の八極に、二の打ち不要(いらず)!!ユリィ・ワン・ショット!!」




ズガン!!!





その日、ユリィは新たな一歩を踏み出した。




















[24765] 第十三話 新天地
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/06 23:16











「・・・・何だ?さっきからジッと見つめて。惚れたか?」

「違います!!・・・・それより、その剣です。」

「ん?コイツか?」

「何故、貴方は・・双剣を使って居るのですか?他の者達は皆統一された武器を使っているのに。」

「・・・・皆一緒ってのは、好きじゃないってのが・・・一番の理由になるのかな。」

「・・・・・皆一緒。」

「姫、アンタも何かやってみたらどうだ?例えば・・・・武器を変えるとか。」

「武器を?」

「そうだな。・・・・このクワなんて如何だ?」

「!!!!」

「冗談だ、怒るな。」

「笑えない冗談です。」

「・・・髪飾りはアイツと一緒で、縁起が悪いな。そうだ!!ペンダントでも、してみたらどうだ?」

「ペンダントですか。」














第十三話 新天地



























気が付くと俺は美人さんに膝枕されていた。


「あら、気が付いた?」


誰?

何か記憶があやふやだ。

何時までも知らない人に膝枕して貰うのも悪いので、とりあえず起き上がる事にする。


「えっと、ハジメマシテ?」

「はじめまして、貴方はシュヴァルツさんでよろしかったかしら?」

「はい。」

「私は・・・バーバラよ。」

「バーバラさん。何で私の名前をご存知なのですか?」

「貴方の連れの妖精さんに聞いたの。」

「妖精・・・ユリィですか。所で少し記憶があやふやなんですが、一体何があったのか教えて貰えませんか?」

「えっと・・・。」


バーバラさんに説明を求めたが、何故か言い難そうにしている。

そんなバーバラさんに代わってユリィが口を開いた。


「シュヴァルツさんが突然バーバラさんに襲い掛かって・・・・・バーバラさんを陵辱したのです。(怒)」

「「!!!」」

「そこで私とチャッピーがバーバラさんを助けたのです。」

「マ・・マジで!?」

「りょ・・・陵辱!?・・・ユリィさん、貴女は陵辱の意味を知って使っているのですか?」


・・・・俺は超えてはいけない一線を超えてしまった様だ。


「バーバラさん、本当に申し訳ありません。幾ら謝っても貴女にとって何の慰めにもならない事は承知しています。

 でも、あえて謝罪します。本当に申し訳ありません。」

「えっと・・・シュヴァルツさん。勘違いです、頭を上げて下さい。」

「いえ、貴女の女性としての尊厳に瑕(きず)をつけました。一度穿たれたるモノは繕う事が出来ません。」

「え?一体何を言って?」

「此度の愚行に対して責任を取らせて頂きたい。」

「責任?」

「はい、貴女の瑕が癒えるまで・・・貴女を支えたい。」

「え?」

「是非、貴女の伴侶としてお側に!!」

「いっ・・いけません!!私には夫と子供が・・・。」

「私は一向に構いません!!」

「駄目です!!私は夫を愛しています!!」


「・・・・シュヴァルツさんの女好きには困ったものですね。」

「ワフゥ?」


結局、誤解が解けるまで一時間程の間、俺とバーバラさんは意味不明なやり取りを続ける事になった。
























無事誤解が解けた俺とバーバラさんだったが、バーバラさんはとても急いでいるらしく、直ぐに分かれる事になってしまった。

現在、俺達は右も左も分からない状態なので途中まで同行しても良いか?と尋ねたのだが

物凄い剣幕で『ダメ!!絶対!!』と、断られてしまった。

何やら複雑な事情があるらしい。

一応、人が居る場所を教えて貰ったので俺たちはそっちへ向う事にした。































「これは・・・塔なのか?」

「大きい建物ですね。」


バーバラさんに教えて貰った通りに進んでいくと、人が居る所に辿り着く事が出来た。

出来たのだが、この雰囲気は村や都市って感じでは無く、何かこう重要な軍事施設って感じ?

恐る恐る近づく俺達だったが、例によって


「怪しい奴め!!」


警備兵達に囲まれて、武装解除されて、捕まってしまった。

ちなみに捕まったのは俺だけだった。

ユリィとチャッピーは珍しがられたが捕まっていない。

今も拘束されて移送中の俺の後ろを普通に歩いて付いて来ている。

それにしても、所々に背中に羽を着けた人間が居るのだが・・・一体何なんだ?

まあでも、頭に羽を着けた人間が居るくらいだ。

頭よりは背中の方がマシだと考えれば、如何という事は無い。


「女王陛下、不審な人間を拘束しました。」

「不審な人間?・・・なるほど・・確かに不審だ。」


如何やら、俺の目の前に居る羽を着けたこの女性がここの代表者らしい。

ってか、女王髪長すぎ。床に付いてるぞ。


「人間よ、先ほどこの時空制御塔が襲撃され、『時空融合計画』の要となる『時空の宝珠』が強奪された。

 お前はその一味か?」

「いいえ、違います。」

「では、お前は何者だ?」

「旅の者です。」

「旅?」

「はい。何かの手違いでこの島に入り込んでしまった様で・・・。」

「ふむ。妖精と珍妙な犬を連れた珍妙な旅人か。」

「幾つか質問しても宜しいですか?」

「構わぬ。正し、答えられる範囲でしか答える事は出来ぬ。」

「先程から、羽を生やした人達を見かけるのですが・・・一体何なのですか?」

「何?人間、お前は『フェザリアン』を知らぬのか?」

「はい、存じません。」

「なるほど、余程遠くから来たらしい。」



この女王様、余程暇らしい。

俺の質問の一つ一つに丁寧に答えてくれる。

背中に羽の生えた人達はフェザリアンと云う種族で、背中の羽を使って飛ぶ事が出来るらしい。

正し、魔法は使えない。


それから、この世界では太陽の光が弱まったり長雨が続いたりと異常気象が続いているらしい。

その所為で、食糧不足が深刻化し、国家間の戦争の原因になったり

一つの国が滅んだりと、かなりやばい状態になっている。

そんなやばい世界から逃げ出す為に、この時空制御塔ではフェザリアンと人間が共同で時空融合計画を行っている。

時空融合計画とはこの世界から逃げ出す為の計画で

簡単に云うと他の世界とこの世界の一部を融合させようって事だ。

まさか、島ごと逃げ出す計画とは・・・・恐れ入った。



「つまり、その時空融合計画に必要な『時空の宝珠』を盗まれてしまい、警戒している所に不審な人物がノコノコとやって来たと。」

「ああ、その通りだ。」

「それじゃ、その時空融合計画は失敗って事になるんですか?」

「いや、失敗では無い、正し成功でも無いが。代用品を使って行う事になった。お陰で、時空融合出来る範囲が大幅に狭まったがな。」

「それで、その計画は何時頃実行するのですか?」

「代用品が届き次第、決行する。恐らく、近日中になろう。・・・・・・所で、その仮面は一体何の意味があるのだ?」

「これは・・・着けたら外れなくなりました。」

「そうか。」



女王様との会話の後、俺は無事に解放された。

如何やら、俺との会話は尋問も兼ねていた様だ。


「シュヴァルツさん、まるで別人の様に礼儀正しかったですね。」

「ユリィ、俺でも時と場合位は選ぶぞ。」

「女王様のおっぱいは、小さかったですしね。」

「いや、小さくは無かった。86くらいはあったハズ。」

「・・・・・・。」

「所で、時空融合計画についてだが・・・俺達が帰還出来ない事に関係していると思うか?」

「・・・いえ、直接の関係は無いと思います。」

「何でだ?」

「簡単です。時空融合計画は準備中の状態で、まだ発動してはいないからです。」

「なるほど。」

「むしろ、その原因の方が怪しいと思います。」

「原因?異常気象が?」

「はい。ただ、私の力ではこれ以上詳しい事は・・・・。それから、時空融合計画についてですが・・・私達にとっては非常に危険です。」

「危険?」

「はい。別々の世界を融合させる事を目的と云う事は、私達がそれに巻き込まれた場合・・・。」

「俺達も移住先の世界と融合されて、二度と元の世界には戻れなくなるって事か?」

「はい。ですから、時空融合が開始される前にこの島『フェザーアイランド』の融合範囲内から出る事が先決だと思います。」


ユリィの言うとおりだな。

まあ、計画開始までまだ時間があるって女王様も言ってたし

代用品が届いてから逃げ出せば・・・・多分、大丈夫だろ?


















それからの数日間。俺はフェザリアンの爺さんに付き添って貰って、時空制御塔や周辺施設で異常気象関連の事を色々と調べたり、データを見せてもらったりした。

この爺さんは女王様からの指示で、俺と一緒に行動しているらしい。

まあ、機器の扱い方が分からない俺にとってはありがたい事この上なかった。


「おお黒人間。ここにおったのか。」


黒人間とは、俺の案内役を仰せ付かったアレン爺さんが俺を呼ぶ時に使う俺に対する呼び名だ。

フェザリアンは基本的に、人間を『人間』と呼ぶ。

よっぽどの事が無い限り、名前を呼んだりはしない。


「何かあったんですか?」

「実は、つい先程『時鉱石』が届いたのじゃよ。」

「時鉱石?例の代用品の事ですか?」

「そうじゃ。」


そう云えば、ここ数日。フェザーアイランドに色んな所から移住希望の人間が集まって来ていたな。


「黒人間よ、お主はこの世界に残るのじゃったな。」

「はい。」

「そうか。・・・所で、今晩別れの宴があるそうじゃ。

 旅立つ者達と残る者達の最後の交流になるじゃろう。おぬしも参加してみてはどうじゃ?」

「そうですね。参加させて貰います。」

「そうか。それは良かった。ついでに紹介しておきたい者も居るしの。」















アレン爺さんと別れた後、宴の事を聞きつけたユリィが俺に声を掛けて来た。


「シュヴァルツさん、今夜、別れの宴があるそうですね。」

「ああ、爺さんから聞いた。皆に挨拶しておくつもりだ、短い間だったが世話になったからな。」

「そうですか、シュヴァルツさん。楽しみにしていて下さい☆」

「?」


何かユリィが物凄く上機嫌なんだが。





















その夜、


「チャッピー!!『アウス・ドムレア』」

「ワッフ♪」


宴の席で、ノリノリで踊るチャッピーとユリィが居た。



















[24765] 第十四話 計画
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/07 22:56



















第十四話 計画



























ユリィとチャッピーの余興はかなり受けた。

こっちでは、妖精は居ない?らしい。同じ様にふとん犬も居ない。

そんな珍しいコンビがステージに立って、面白くない訳が無いって事か?

俺やユリィも色々と質問攻めにされたが、別の大陸から来たって事で誤魔化して置いた。





「ラララ~ラ♪ララ~ララ♪ラ~ラララ~ラ♪ラ~ララ~ラ♪(著作権フィルター作動)」


今は、ユリィ達の変わりにフェザリアンの少女が歌を歌っており、皆その歌に聞き入っている。

確かに、この歌は心に訴える物がある。

それに、俺的にはユリィ達のダンスよりもこう云う歌の方が別れの宴には相応しいと思う。

少女の歌が終わると同時に、アレン爺さんが俺に話し掛けて来た。


「黒人間よ。お主の連れのダンス、愉快じゃったわい。」

「愉快でしたが・・・こう云う席では、余り相応しく無いと思います。」

「そんな事は無いぞ。いい思い出になった。それより、紹介したい者が居る。

 モニカ、こっちへ来なさい。」


爺さんに呼ばれてこっちやって来たのは、先程まで歌っていた少女だった。


「ワシの孫のモニカじゃ。」

「モニカ・アレンです。」

「はじめまして、シュヴァルツです。」

「ワシは時空制御塔の技師でな。明日、向こうへ行く事になって居るのじゃ。

 ただ、孫のモニカはこっちの世界に残る事になっておる。お主も残るそうじゃな。出来れば孫の事を頼みたい。」

「どっちかと言えば、こっちが面倒を見てもらう事になるかも知れませんが・・・それで宜しかったら引き受けます。」

「そうか。よろしく頼むぞ。」

「よろしくお願いします。シュヴァルツさん。・・・・・・・・・所で、何で仮面を被っているのですか?」


モニカさん、貴女もですか?























備えあれば憂い無し。


「・・・・シュヴァルツさんは、心配性だと思います。」


それは見解の相違だよ、ユリィ君。

今日、時空融合計画が開始される。

俺は日が昇る前に起きると、ユリィとチャッピーを連れてフェザーアイランド本島を離れた。


「ユリィ。もし、何かのアクシデントが発生し計画が早まったら如何するんだ?」

「モニカさんも呆れてましたよ?」



ドゴォーン!!



何の音だ!?


「魔法障壁発生装置の方からです。」


面倒臭いが・・・・見逃す訳には行かないな。

そう言えば、この計画を邪魔している連中が居るって話を聞いた。

この攻撃も、宝珠を盗んだ連中の仕業か?

























魔法障壁発生装置へと到着すると、そこには武装した兵士達が装置へと攻撃を加えている所だった。


「何だ!!貴様は!?」

「変な仮面など着けやがって!!」

「怪しい奴め!!」


俺に気付いた連中は、どっかで聞いた様な言葉を俺にぶつけて来る。

一々真面目に返すのもメンドクサイ!!

いや、そっちがその気なら・・・・こっちも乗ってやる!!



俺は奇声を発しながら兵達に襲い掛かった。


「ウコケケケケケケケェェェ!!!」

「うわっ!!何だコイツ!!」

「ぎゃぁぁぁ!!」


ついでに、頭の中に浮かんだ歌詞で即興の歌を作って歌ってみたりした。


「ル~ラ~ラ~♪妖精は三羽で犬襲う~♪巫女は三人で~族長埋めた~♪」

「一体何なんだ!!コイツは!!!」

「コイツ!!普通じゃねぇよぉぉ!!!」


失礼な連中だ。


「俺ってば、フツウですから~!!!」

「ぎゃあああああぁぁあ!!」

「シオン様ぁぁぁ!!!」


そして、みんなどっか逝った。

・・・・体だけ残して。






















うん、自分でやっておいて何だが。

まるで、惨劇の現場だな。ユリィには見せられないな。

おっと、それより魔法障壁発生装置を修理しないといけないんだが・・・・俺には無理だ。

如何するよ。


・・・・殺気か!!


ギリィン!!


背後から何者かが斬り付けて来た。

咄嗟に剣で受けたが・・・・。


「ここまで来て・・・絶対に中止なんてさせない!!」


女?美人だ。


「せいやっ!!」


ガァギン!!


俺の死角から更にもう一人が斬り付けて来た。

もう片方の剣でそれを受け、はじき返した。


「ちっ!!コイツ、かなりやりよるわ。」

「油断しちゃだめよ。」


死角から来たのは男だった。如何にも三枚目。

新手か?



「待って!!彼は敵じゃないわ。」


次に来たのは・・・モニカ?


「モニカちゃん?」

「どういう事や?」

「そんな事より、装置の修理を優先した方が良いんじゃないのか?」

「おお、そうじゃった。」


いつの間にか合流していた巨大なリュックを背負った爺さんが装置の修理を始めた。

が、事態が解決した訳じゃ無い。

周囲を警戒して居ると・・・・新手が来た。


「来るぞ!!」

「新手か!!どっからでも掛ってきぃや!!」


「威勢が良い事だな。」

「誰や、あんた。」

「我が名はシオン。いずれ貴様等の主となる者。」


「シオンだとぉ!!!!!!!」


シオン!!まさか、シオンだったとは・・・・。


「あんた、アイツを知ってはるのか?」

「ああ、まさかシオンだったとは・・・。シオン、それは五年前の悲劇。五年前の悲劇だった。

 五年前の事。そう、五年前の事だった。・・・・・まさか、悲劇だったとは・・しかも五年前の。」

「あんた・・・本当は知らへんのやろ?」

「・・・・ああ、知ってる訳無いだろ?」

「「「「・・・・・・・・。」」」」


「五年前の悲劇なんて。」

「そっちかい!!!」


ビシッ!!!


「ナイス、突っ込みだ。三枚目。」

「誰が三枚目だ!!」


ビシッ!!!


「貴方達!!遊びは後にして頂戴。」

「「ゴメンナサイ!!」」





そんなこんなで、漫才で時間を稼いで居たら更に新手がやって来た。

ただし、今回の新手はこっちの味方だった様だ。

その新手とシオン?って奴は、何やら因縁がある様子で、何かゴチャゴチャとやっていたが

俺はモニカに接近して来る敵を撃退する事に集中していたので良く聞いて居なかった。

最後はシオン?が自爆して終了した。

一体何を考えてるんだ?

シオンの死に様に疑問を感じて居るとモニカが話し掛けて来た。


「貴方、強いのね。」

「ん、まあ、それなりにはね。」


モニカと話ていると、時空融合が始まり、フェザーアイランドの中央の島が光に包まれて消えていった。




「さて、連中は別の世界に行ってもうたし、これからどないする?」

独特な喋り方の三枚目はヒューイと云う名前らしい。

「私は一度国に戻るわ、これまでの事を父さんに話さないと。」

で、一番最初に俺に斬り付けて来たこの女性。アネットさん。父親はキシロニア連邦の議長らしい。

「私も家に帰るわ。それから、貴方も一度私の家に寄るでしょ?」

モニカに誘われた。何故に?・・・・そう云えば、昨日アレン爺さんがそんな事言っていた様な気がする。

とりあえず、OKして置く。

「爺さんはどないする?」

「ワシは研究さえ出来る場所さえあれば何処でも良い。」

「どんな研究をしているの?」

「気が向けば何でもやるぞ。」


それは、節操の無い事で。

いや、違う。それは・・・逆に言えば『気が向かなければ何もしない』と云う覚悟!!

このリュックの爺さん、只者じゃない。


「それじゃあ、曇り空でも今までと同じ収穫が出来る野菜とか・・・作れる?」

「品種改良か。不可能では無いな。」

「だったら、私の所に来ない?研究機材や場所は提供するから。」

「そこまで云うのなら、厄介になろうかな。」


アネットさんのスカウトにリュックの爺さんが頷く。

って、最初から品種改良をやって置けば、時空融合しなくて済むんじゃ・・・・・・・いや、何でも無い。


「ワシはビクトル・ロイドだ。早速、行くとしよう。」


爺さんの名前は、ビクトルか。

それにしても、リーダーのスレインさん。

全然しゃべらねぇな。

戦闘にも一番最後に駆けつけて来たし・・・・何か、・・・・誰かに似てるぞ。

この雰囲気。・・・・・・誰だ?


「シュヴァルツさーーーん、終わりましたか?」


戦闘中に隠れていたユリィがチャッピーを連れてやって来た。

・・・・・あっ、勇者さんだ。スレインさんってユリィの勇者さんにそっくりだ。

主に雰囲気が・・・いや、無口な所か。



「ん?なんや、誰やと思ったら昨日けったいなダンスを踊っとった、妖精とけったいな犬やないか。」

「けったいな犬ではありません!!可愛らしい犬です!!」


ユリィの前でふとん犬の事を悪く言うとは・・・・ヒューイは命知らずだな。

所で・・・・『けったい』って何?


「へぇ。私、妖精って初めて見たわ。私はアネット・バーンズよ、よろしくね。」

「私はユリィと申します。よろしくお願い致します。」


えっ?初めてって?

スレインさんも妖精を連れてるだろ?

若干、見え難いけど。


「ん?あんた、もしかして見えるんかいな?」

「・・・・薄っすらと。」

「そうか。まあ、あれについては、おいおい話すわ。今は黙っとき。」



その後、俺はスレイン御一行に同行した。

フェザーアイランドに設置されていたトランスゲートを使ってローランド王国に移動した。

ローランド王国では異常気象の所為で常に雨が降っている状態だった。

確かに、こんな状態じゃ作物が根っこがダメになる。

途中で休息の為に立ち寄った村も、完全に廃村で人っ子一人見かけなかった。


「あんた、ちょっと良いか?ユリィはんも。」


廃村の宿屋の客室で勝手に休憩しているとヒューイに呼び出された。

呼び出されて行った先には、スレインさんが連れていた妖精が居た。


「はじめまして~、アタシは闇の妖精のラミィです~。よろしくお願いしますね~。」

「これはご丁寧に、黒の人間のシュヴァルツです。よろしく。」

「シュヴァルツさん、変に対抗意識を燃やさないでください。私は妖精のユリィと申します。

 ・・・失礼ですが、ラミィさんは私達とは少し違う感じがします。」


うん、確かにユリィとは違うな。透けて見えるし、アネットさんやモニカには見えて無い感じだ。


「それは、アタシが闇の妖精だからですよ~。」

「ええっと、つまりな。本来妖精が見えるのは精霊使いや、その素質がある奴だけなんや。

 うーーん、あんさんに精霊使いの素質がある様には見えへんし・・・本当にけったいな奴やな。」

「なるほど、闇の妖精は精霊に属するもので・・・ユリィとは根本的に違う妖精って事か?」

「そうや。他にも色々な妖精がおるが・・・・まあ、この事は内緒で頼むわ。」


確かにそうだ。内緒にしなければならない。

殆んどの人間は妖精(ユリィ以外)が見えない。そこに『妖精が居る』などと言う奴が居たら如何だ?

間違い無く、痛い人間だと思われてしまう。

ヒューイが人目を避けて俺に説明して居るのもその所為だ。

これは非常に危険な事だ。是非、注意しなければな。



























[24765] 第十五話 脱落
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/08 18:19

























第十五話 脱落



























トンネルを抜け様としたら、そこは地獄だった。


ローランド王国とシェルフェングリフ帝国との国境にある山脈。

その山脈を刳り貫いて作られたトンネル。

その中は、無数の白骨が転がり無造作に詰まれた木箱の中にも白骨の詰められていた。

恐らくは、ローランド王国からの難民の成れの果てだろう。

ユリィとチャッピーも言葉が出ない様子だ。


「これは、国境封鎖でもしたのか?」

「よう分かったな。ローランド王国があの有様やろ?食料を求めた難民が大量に帝国領へと押し寄せたんや。」

「帝国の方では、大量の難民が雪崩れ込んで来てはかなわないと、国境であるこのトンネルを封鎖したって事か。」

「そうや。」


封鎖した方もされた方も、どっちも被害者か。悪いのは異常気象。

色々と思う所はあるが、俺は外から来た部外者だ。

あまり、色々と言うのは止めておこう。





そして、トンネルを抜けると雨は止んでいた。

いや、こっちでは降っていないのか。
























現状は非常に混沌としている。まず、状況確認が必要だ。

モニカの家がある『ポーニア村』に無事到着した。

モニカはこのまま村に留まるらしい。俺も一応モニカの家に住まわせてもらう事になった。

それ以外の一行は、アネットさんと一緒にキシロニア連邦まで帰るらしい。

ここまで送ってもらったお礼に、御一行を家に泊めたモニカ。

で、次の日。つまりは今朝の事だ。皆で朝食を済ませると、ユリィがチャッピーを連れて散歩に行った。

それから、そろそろ出発すると言って御一行が玄関から外に出て、モニカも見送る為に一緒に外に出た。

そして、俺も見送りに行こうと玄関の方まで歩いていった。

それで、気付いたら家が壊れて俺が下敷きになった。

何を言っているのか分からないが、俺も分からない。






幸い、埋まったのは玄関の近くだったので、自力で這い出す事が出来た。


「お家が・・・。」

「俺達がいるじゃないか。」

「そうよ、お家が壊れちゃったのは残念だけど、私達がいるじゃない。」


何やら、泣きそうになっているモニカを皆で必死に慰めている。

そりゃそうだろ。自分の目の前で、長年慣れ親しんだ自宅が倒壊したのだから、泣きたくもなるさ。


「ん?なんや、あんた。血塗れやないか。どないしたんや?」

「・・・いや、今だかつて無い強敵に襲われて。」


何かこの雰囲気、埋まってましたって言い出し辛い。


「チビッコは、ワイらと一緒に来る事になったんやけど、あんたはどないするんや?」

「一緒に行きたい所だが・・・怪我が治るまでの間、この村で養生しようと思う。」

「そうか、寂しくなるな。」


俺は現在、立っているのもやっとの状態だ。恐らく、走る事も間々ならないはずだ。

流石は強敵(モニカの家)。かつて、俺をここまで追い詰めたのは『赤い人』以来だ。


「それでしたら、私の家をお使い下さい。」


何やらイケメンが登場!?


「私は帝国軍第三連隊、連隊長のオルフェウス・リードブルクと申します。

 あなた方には何度も村を救っていただきました。その時の負った怪我を治療するのに、是非我が家をお使い下さい。」

「彼らは兎も角・・・私の様な、見るからに怪しい男を家に招いたりして宜しいのですか?」

「モニカ殿には村だけで無く、私の妹もお世話になっています。そのモニカ殿のお知り合いに悪い方は居ないでしょう。」

「それでは、怪我が治るまでの間お世話になります。」

「・・・・・・所で、何故仮面を被っているのですか?」


・・・・あんたもか?


「シュヴァルツさーーーん、大変です!!お家が!!モニカさんのお家が!!」

「・・・うっ。」


ユリィ、貴女はもう少し空気を読みましょう。

貴女が『家』『家』と連呼するから、モニカさんが泣きそうになってますよ?

それと、私の怪我についてはスルーですか?


「・・・・?シュヴァルツさんが怪我をするのは何時もの事じゃないんですか?」


今回の怪我は何時ものとは違うんだよ。






















結局、満足に動けるようになるまで二週間も掛ってしまった。

ちなみに、俺を診察した医者には『家の下敷きになったのに良くその程度の怪我ですんだな。』と感心されてしまった。

やっぱり、この鎧のお陰か?お前も案外良い奴なのかもしれないな。

だが、完治したとは言い難い状態だ。しばらく、この村でリハビリをしながら過ごす事にした。

現在、例の黒い鎧は今着ていない。

初日に鎧を着た状態で医者に見て貰ったら


『病人が鎧を着るな!!』


と、怒られて無理やり脱がされてしまった。

なので、鎧は俺の部屋に飾ってある。一応、歪み対策として俺の剣で削り取った鎧の一部で

即興のペンダントを作って肌身離さず持ち歩いている。

で、そんな俺も一応仕事の様な事をやっている。

この屋敷がオルフェウス連隊長の家なのだが、オルフェウスには妹が居る。

ただ、事情がちょっと複雑だ。

オルフェウス妹の名は『ミシェール・リードブルク』。

このミシェールちゃんは生まれ付き病気に対する免疫が弱い。本人曰く『風邪をひいただけで命に関わる』との事で

外に出る事は出来ず、屋敷の中にある無菌室で一日中過ごしている。

そのミシェールちゃんの話し相手をするのが俺の仕事だ。

俺以外にもユリィやチャッピーがまめに話し相手になっているそうだが。


「シュヴァルツさん。いらっしゃい。今日はどんなお話しを聞かせてくれるのですか?」

「そうだな。妖怪『△さま』なんてどうだ?△さまは頭が三角で、罪悪感を持っている人間を・・・・。」


まあ、こんな感じで適度に怖がらせている。あまり怖がらせると、ユリィが飛んで来て俺を新技の練習台にするで自重している。
























俺はリハビリを兼ねて畑を耕している。『兵農一体』だ。『兵農分離』とはまったく逆の発想。

実際、畑仕事はいい運動になる。鈍った体には最適だ。

それに、異常気象の所為で食糧不足に陥っているこの世界だ。農業をやれば皆喜ぶ。

まさに、一石二鳥。


「で、本当はどうして畑仕事をやっているのですか?」


ユリィは相変わらず容赦無い。『ユリィ容赦せん!!』ってか。


「で?」

「リングウェポンって知ってるか?ユリィ。」

「はい、存じております。確かリング状の物で、リングマスターと呼ばれる人たちが使うと、その人に最適な武器に変形するアイテムですね。

 モニカさん達が使っていました。」

「ユリィ、実は俺にもリングマスターの資質があった。」

「そうだったんですか。おめでとう御座います。で、シュヴァルツさんはどんな武器だったのですか?」


俺は黙って、ユリィの前でリングウェポン発動する。

そこには


「それは・・・・鍬(クワ)ですか?」

「ああ、鍬だ。俺に最適な武器はクワだ!!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

「・・・・シュヴァルツさん。」

「そりゃあ、耕すっきゃねえでしょ!!耕すっきゃねえでしょ!?」


俺は目から汗をかきながら、只ひたすらに畑を耕し続けた。


























ある日の事、シェルフェングリフ帝国領内のある村が盗賊達によって襲撃を受けようとしていた。


「親分、この村にはたんまりと食い物がありそうですぜ。」

「ああ、そうだな。」

「ですが、良いんですかい?何でもこの村には帝国軍の連隊長が住んでるって聞いていやすが?」

「安心しろテメエら。その連隊長様は、ただ今留守との事だ。それに、今までこの村を守っていたフェザリアンのガキも留守だそうだ。」

「へへっ、流石親分だ。」

「おうし、野郎共!!やっちまえ!!」

「「「「おおおおおおおっ!!!!」」」」


「待てぇぇぇぇぃい!!!!!」


「な、何だテメエは!?」

「名前など無い!!!」


そこには両手に鍬を持ち、仮面と黒い鎧を着けた男が居た。


「仮面なんかつけやがって!!」

「そんな鍬なんか持って、どうする気だ?」

「俺達に逆らう気か?」

「「「はははははっ!!」」」

「鍬を持ってるんだったら、大人しく畑でも耕してろ!!この変態め!!!!」

「「「変態仮面!!!」」」


しかし、男は微動だにせず。

盗賊達の言いたい様に言わせている。

しばらく経つと、男がやっと口を開き、ゆっくりと言葉を発した。


「言いたい事はそれだけか?」

「何?」

「一つ、お前達は勘違いをしている。」

「勘違いだと!!」


男は両手に持った鍬を自在に操りながら、盗賊達に最後の言葉を叩きつける。


「鍬とは!!畑を耕すモノでは無い!!」

「あん?何言ってんだ、コイツは。」

「鍬とは!!!!大地を切り裂くモノだ!!!!」


次の瞬間、盗賊達の悲鳴が村に響き渡った。

こうして、この村の平和は今日も守られた。


「大地を切り裂くモノに、人を切り裂けぬ道理無し!!」












その後、出来上がった生ゴミを畑の肥料にしようとして怒られた馬鹿が一人いた。

























[24765] 第十六話 共闘
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/10 02:46




















第十六話 共闘



























現在、俺とユリィは帝都ファルケンフリュークへと向っている。今回、チャッピーは留守番でミシェールちゃんの家に置いて来た。

何故帝都に向う事になったかと云うと、事の発端は今日の朝。朝食を済ませて、新規開拓(主に畑の)に向う俺をユリィが呼び止めた。

何でも、妖精の特殊能力が発動『あっちの方で嫌な感じがする』って事で至急地図を見て確認したら、丁度『帝都ファルケンフリューク』の方角だったて訳だ。

帝国は今、次期皇帝の座を巡っての内戦状態であり、テオドラ派とジェームズ派の二つの派閥があるらしいのだが

まあ、異常気象だ何だって言っても・・・戦争出来る程度には余裕があるみたいだな。


「シュヴァルツさんは口が悪いですね。」

「ん?言い直そうか?戦出来る程度には、余裕がござるさながらじゃな。」

「何処の言葉ですか?」

「それよりユリィ。つけられているぞ。」

「えっ?」

「この感じ・・・・恐らく、一人だな。」

「どうしましょう?」

「気になるな。俺達をつけて一体何の得があるんだ?まあ、上手く捕まえて目的を吐かせるさ。(ニヤリ)」
















その後、無事に捕獲完了。


「さあ、言え。お前の目的は何だ。」

「ワウッ!!」

「連れて行けと言っている見たいです。」


結果、一人じゃなくて一匹でした。

ん?何だ?

昼間なのに、辺りが急に暗くなった?


「シュヴァルツさん、何か嫌な感じがします。」

「具体的に言うと?」

「今まで感じた事の無い・・・・力の干渉・・・でしょうか。」

「・・・・力の干渉。」

「・・・とりあえず、帝都に向いましょう。」


俺達は帝都への脚を早めた。






















何処だ此処は?


「迷いましたね。」

「・・・・。」

「シュヴァルツさんがこの森を突っ切れば早いと仰って、無茶をするからこんな事になるのです。」

「ワウゥ?」

「・・・・。」

「ワフッ!!」

「チャッピー、如何かしたのですか?」


突然、チャッピーが走り出したかと思ったら茂みの中に飛び込んでいった。


「きゃっ!!」


チャッピーの走って行った方から女性の悲鳴?

まさか、チャッピー・・・・とんでもない事を、仕出かしたんじゃ。

俺とユリィも急ぎ悲鳴の方に駆けつけた。

そこには、


「ワフッ♪ワフッ♪」

「・・・動物は飼い主に似ると言いますが、チャッピーはシュヴァルツさんに似て女性の方が、大変お好きな様です。」

「チャッピーの飼い主は君だよ、ユリィ。」


見覚えのある女性にじゃれ付いているチャッピーが居た。



「チャッピー、『メ!!』です。そんな事ばかりやっていると、シュヴァルツさんになっちゃいますよ?」

「キャウン!!」


どういう意味だ、それ!!


「えーっと、お久しぶりです。バーバラさん。」

「お久しぶりです。やはり、シュヴァルツさんの犬でしたか。急に飛び出して来たので、驚きました。

 所で、こんな場所で何をやっているんですか?」

「えーーと、それは。」

「シュヴァルツさんが帝都に行くにはこの森を突っ切るのが早いと言って・・・・・迷子になった所です。」

「そ・・そう。貴方、良く迷子になるの?」

「時々?」

「・・・そう。それで、帝都なら森をこのままを真っ直ぐ進んでいけば直ぐよ。」

「有難う御座います。何時もお世話になってしまって。」

「これぐらい構わないわ。それより、貴方今何処に住んでいるの?」

「ポーニア村で世話になっています。」

「!?・・・そう。」

「?」

「私はこれで失礼するわ。縁があったら、・・・また会いましょう。」


そう言うと、バーバラさん慌しく去っていった。


「忙しい人ですね。」

「・・・そうだな。」























って、なんじゃこりゃ!!!

森を抜けると、確かに帝都は直ぐそこだった。

だが、完全武装した不審な集団とその集団に襲われている見慣れない衣装を着た女性が居た。

どっちを助けるかは決まっている。


「シュヴァルツさん!!」

「ああ、分かっている。美人は正義だ!!」

「そうじゃありません!!あの人達・・・・人間ではありません。少なくとも、生きてはいません。」

「生きていない?ゾンビとか死霊の類って事か?」

「はい。」

「まあ、どっちを助けるかは決まりきった事だ。」


そう言うと、俺は久しぶりに双剣を抜き、美人さんを助けるべく死霊の群れに切り込んでいった。



















「危ない所を助けて頂き、有難う御座います。私は橘弥生と申します。」

「これは、ご丁寧に。シュヴァルツです。」

「私は妖精のユリィと申します。」

「で、こっちはふとん犬のチャッピーです。チャッピー挨拶、『こんにちワン♪』」

「ワフッ!!」


俺の合図でくるりっと廻りながら挨拶するチャッピー。


「まあ、とても可愛らしいワンちゃんですね☆」


見たか?ユリィ。ふとん犬とは・・・芸とはこう云う風にやるのだよ。


「・・・シュヴァルツさん。いつの間に、こんな芸を。」

「それより、弥生さん。先程の敵は一体?死霊の様でしたが。」

「分かりません。帝都に近づいた途端に襲われまして・・・。」

「弥生さんも帝都に用があるのですか?良かったら、帝都までご一緒しませんか?」

「有難う御座います。それではお言葉に甘えさせて貰います。・・・・・・・所で、どうして仮面を被っていらっしゃるのですか?」


・・・・・・・・貴女もですか?


















「弥生さんは、東の大陸から人を探しに来たんですか?」

「はい。シモーヌと云う女性に心当たりはありませんか?」

「シモーヌさん?・・・残念ですが。」

「そうですか。」

「そろそろ帝都に着きますね。」


俺と弥生さんは話をしながら、帝都に向った。幸い、死霊の軍団と再度遭遇する事は無く、無事に到着した。

門を潜り、帝都ファルケンフリュークへと入ると、スレイン御一行が居た。


「あら、皆さん。お久しぶりです。」


俺が声を掛けるより先に弥生さんが声を掛けた。

どうやら、弥生さんの方もスレイン御一行に面識があったらしい。


「弥生さんじゃ、あ~りませんか!きっと運命の赤い糸が引き合っているっちゅうことや!!」

「はい、そうですね。私も皆さんとは並々ならぬ縁を感じますわ。」

「・・・十把一絡げなのね。」


「・・・流石、三枚目。笑いを取るのに抜け目無いな。」

「誰が三枚目や!!」


ビシッ!!


ナイス、突っ込み。


「怪我はもう良いの?」

「ああ、特に支障は無いな。」

「頑丈なのね。」


心配してくれていたのですか?モニカさん。あんた、ええ人や。


「それより、どうして二人が一緒にいるの?」

「街の外で死霊に襲われて、共闘したって所か?」

「はい、先程は有難う御座いました。」

「死霊?もしかして、闇の宝珠で呼び出された英霊たちの事?」

「英霊?」

「実はさっき、帝都も英霊達に襲撃されたんや。わいらで何とか撃退したんやけど。」


何か物騒な所だな。帝都は。


「弥生さん、探している人には会えたんですか?」

「いいえ、まだ会えません。この街に彼女の存在を感じ、やって来たのですが一足遅かった様です。

 彼女は第二皇子ジェームズ殿下の元で宮廷魔術師をしているのです。そしてこの大陸の三大宝珠を手に入れようとしているという事が判りました。」


三大宝珠?


「三大宝珠というと、さっきの女が2つ持っているみたいだったけど。」

「それじゃ、あの女が弥生さんが探している裏切り者?」

「やはりここに現れたのですね。ああ、もっと早く来られれば。」


なんか置いてきぼりをくった感じで、会話はドンドンと進んでいく。

モニカの説明によると『あの女』は『闇の宝珠』と『時空の宝珠』の二つを持っているらしい。


「三大宝珠?を狙っているって事は、最後の宝珠も狙ってくるって事じゃないのか?

 相手の目的が判っていれば、先に待ち伏せして捕まえる事だって可能だと思うが?

 まあ、最後の宝珠のある場所が判ればだが・・・。」


「あはは・・・たぶん、それあたしン家だわ。」

「何ですって?」

「代々、議長が『水の宝珠』を預かる事になっているの。」


はい!!問題解決!!

最後の宝珠はアネットちゃんの家にあるらしい。


「せやったら、バーンズ議長が危ないで!」

「急いで戻った方がいいようですね。私もご一緒します。」


弥生さんはスレイン御一行に加わって一緒にキシロニア連邦に向うらしい。


「あなたは如何するの?」

「一緒に・・・と言いたい所なんだが。ちょっと、所用が。

 それをを済ませてから追いかける事にする。」

「そう。」


俺は御一行から別れて、所用を済ませる事にした。


「シュヴァルツさん、所用って何ですか?」

「決まってるだろ?ポーニア村への手紙だ。」

「手紙・・・ですか?」

「ああ、帰るのが少し遅くなりますって事と・・・・後、コイツが着いて来ましたって事を知らせておかないと心配するだろ?」

「なるほど。」


ちなみに、コイツとはチャッピーの事だ。






















「シュヴァルツさん、武器のお手入れですか?」

「ああ。武器も女性も丁寧に扱わないとダメだからな。」

「・・・所で、その武器の名前ってあるんですか?」

「名前?特に無いけど・・・。」

「そうなんですか?てっきり神話に出てくる神の名前や邪神の名前を付けているものだと思っていました。

 『雌雄一対の剣』とか『ヤグルシ』とか『アイムール』とか『バルムンク』とか『モラルタ』とか『フローレンベルク』とか・・・。」


「もう止めて!!!聴きたく無い!!聞きたく無い!!!」


俺はただ、両耳をふさいで叫ぶしかなかった。































[24765] 第十七話 空気
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/10 22:11



















第十七話 空気


























ポーニア村宛ての手紙を書き上げ配送を頼むと、俺達はキシロニア連邦に向った。

運が良ければ間に合うはずだ。

今回は大丈夫だ。ちゃんと地図通りに進む。

決して近道をしよう等と考えて、森の中を突っ切ったりはしない。

地道かつ確実に進んで行けば問題ない。

問題ないはず、問題なもんか!!!!








・・・・そう思っていた時期が私にもありました。



「また、迷いましたね。」

「ああ、そうだな。」


何故か迷った。

いや、原因は判っている。

突然、チャッピーが走り出して森の中に入っていった。

俺達もチャッピーの後を必死に追いかけて・・・・結果、迷ってしまった。


「ワフ!!」

「なんだ?何か居るのか?」


俺はチャッピーの吼えた方向に向って進んでいった。

そこには、バーバラさんと・・・見るからに怪しい男が居た。

オカシイ。こんな森の中に、いったい何をやっているんだ?

まさか、バーバラさんはあの変態野郎に弱みを握られて、こんな人里はなれた森の中に呼び出されたのでは?

直ぐに助けなくて!!

だが、如何する?

・・・そうだ!!


「チャッピー、ちょっと良いか?」

「ワフ?」



























「えっ?」

「どうした、バーバラ。」

「今、犬の鳴き声が聞こえなかった?」

「犬?どうせ、野犬だ。放っておけ。」

 
ガサッ!!ガサッ!!


「何か居るぞ!!おい、出て来い!!」

「ワフッ?」

「犬?・・・いや、犬なのか?なんだこの珍妙な犬は。」

「あら、あなたは。」


よし、かかった!!


「変態覚悟!!オラッ!!」


ボゴ!!


「ぐはッ!!」

「えっ?」


作戦成功だ。チャッピーに正面から気を引いて貰い。

背後に廻った俺が変態の頭部を鍬で殴る。一応、みね打ちで。

俺のスキル『忍び足』と『存在感空気(エア・マスター)』が役に立った。


「もう大丈夫です、バーバラさん。変態は滅びました。」

「え?え?シュヴァルツさん?どうして此処に?」

「バーバラさんの危機なら、何処へでも駆けつけます!!」


俺は目を丸くしているバーバラさんの手を取り語り掛ける。


「もう大丈夫です。」

「いえ、あの・・・何か勘違いをしてるのでは?」

「勘違い?」


俺はバーバラさんから事情を聞き、脅されて連れてこられたのでは無く

倒れている変態はバーバラさんの仲間との事だった。


「シュヴァルツさんの早とちりには、困ったものです。それより、何時までバーバラさんの手を握っているのですか?」

「はっ!!これは失礼しました!!」

「いえ!!こちらこそ!!」

「ワウ?」


気まずい沈黙が流れる。


「とっ、所でシュヴァルツさんは何故ここに?」

「チャッピーが、バーバラさんの匂いを嗅ぎつけた様で、急に森の中に・・・。」

「そうですか。チャッピー君のおかげね。」

「はい。所で・・・バーバラさんがここに居ると云う事は『水の宝珠』は無事に手に入ったと云う事ですね。」

「えっ!!どうして・・・どうして、貴方がその事を!?」


咄嗟に、戦闘態勢に入るバーバラさん。


「弥生さんから聞きました。」

「弥生!!」

「バーバラさん、貴女が弥生さんの探していたシモーヌさんですね?」

「その名で呼ぶな!!今の私は宮廷魔術師バーバラだ!!」

「そうですか。・・・では、バーバラさん、貴女の目的は何ですか?」

「目的?そんな事を聞いてどうするの?」

「どうするかは・・・聞いてから考えます。」

「・・・あなた、精霊使いについては知っているの?」

「さわり位は、詳しい事は知りません。」

「・・・そう。」



バーバラさんが言うにはこの世界には精霊使いが存在する。

そして、月の精霊使いとしての素質があったバーバラさんは、別の大陸にある月の精霊使い達に攫われて家族と引き離され

月の精霊使いの『社』での修行をさせられる事になった。他の精霊使い達も同じ様な感じで素質のある者達を集めているらしい。




「だから!!!私達、精霊使いは「バーバラさん」」

「私が聞いているのは貴女の目的です。あなた達のボスの目的ではありません。」

「えっ?」

「もう一度聴きます。貴女の目的は何ですか?」

「・・・・私の・・目的・。」

「貴女のお子さんの・・・・ミシェールちゃんの病気と関係あるのですか?」

「如何してそれを!?」

「私は今、彼女の屋敷で世話になっています。そこでミシェールちゃんから、お母さんの事を色々と聴きました。」

「・・・そう。」

「それに、ミシェールちゃんは貴女に良く似ています。」

「・・・・あの子は元気?」

「屋敷からは出られませんが・・・元気です。」

「そう。・・・・あなたの言うとおり・・・私の目的はあの子の病気を治す事よ。」

「そうですか。なら、私は貴女に協力します。」

「えっ?」

「私の方でも病気を治す方法を調べてみます。もしかしたら、貴女達のボスへの面会をさせてもらうかも知れませんが・・・その時はよろしくお願いしますね。」

「・・・どうして?どうして!?」

「人を助けるのに、理由が要りますか?」

「!?」

「って、なんかの本に書いてありました。そうですね・・・・あえて言うなら、バーバラさんが命の恩人だからですかね。

 私達と初めて会った時に・・貴女は急いでいたはずなのに、わざわざ私の看病をしてくれました。

 そして、貴女が時空の宝珠を奪ってくれなかったら・・・。何れにせよ、バーバラさんには色々と助けてもらいました。その恩返しだと思ってください。」

「・・・ありがとう。」


バーバラさんが泣き止むまでの間、俺はバーバラさんを抱きしめていた。

・・・・・それにしても、この鎧!!何度、俺の邪魔をすれば気が済むのか!!

やはり、完全に消し去って仕舞わねばならない。























「恥ずかしい所をお見せしました。」

「いえ、お気になさらずに・・・・。所で・・・これ如何しましょう。」


俺とバーバラさんが振り返るとそこには、土がこんもりと積まれていた。

そして、その土山の端から変態男の顔がはみ出していた。

多分、チャッピーがやったんだと思う。


「・・・まあ、彼なら大丈夫でしょう。」

「そうですか。」

「それより、彼が目覚める前に貴方は立ち去った方が良いでしょう。」

「そうですね。」


俺はバーバラさんに促され、その場を立ち去った。














「シュヴァルツさん、先程は見事なツンデレでしたね。」


ユリィ、お前はいったい何を言っているんだ?


「バーバラさんへの口説き文句です。要約すると『かっ、勘違いしないでよね!!貴女達のボスに協力するんじゃないんだからね!!』

 って事になりますよね?」

「・・・・・。」

「それから、妖精はパートナーがラブシーンを演じている時に、空気になるスキルを身につけているので大丈夫ですよ。」

「何が?」

「スキルレベルが高い妖精に至っては、パートナーの代わりに会話に参加したり、口説いたりしますし。」

「流石にそれは勘弁してほしい。」

「まあ、冗談はこれ位にして置きます。バーバラさんに協力すると仰っておりましたが、宜しいのですか?

 彼女は何やら企んでいる組織の一員ですが・・・。」

「協力するといってもミシェールちゃんを治す手伝いをするだけだ。組織云々は関係ない。

 それに組織の方はスレインと愉快な仲間達が何とかするだろ。」

「・・・それなら、よろしいのですが。」

「当面の方針は、ミシェールちゃんを治す薬の情報を手に入れるって事で行く。」

「判りました。」

「それから、この事は他の面々には内緒だ。」

「はい。」

「ミシェールちゃんにも・・お母さんに会ったとか言うなよ。」

「はい。」

「良いか?絶対だからな。絶対に言うなよ?」

「シュヴァルツさん、本当は言って欲しいのですか?」

「ん?何で?」


ユリィは不思議な事を言う。




























「ここがキシロニア連邦の首都ヴォルトーンか。中々良さそうな所だな。」

「そうですね。」

「直ぐ追いかけるなんて言って置いて、大分時間が経ってるし・・・宝珠も奪われただろうし・・・。

 なんか顔を合わせ辛いな。」

「それよりも、初めての街ですよ?」

「ん?」

「恒例の行事があるんじゃないですか?」

「恒例の行事?」


なんじゃそりゃ?


「動くな!!怪しい奴め!!」

「武器を棄てろ!!」

「無駄な抵抗はするな!!」



何か何時もよりも激しい気がする。
































[24765] 第十八話 一歩
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/12 22:41

























第十八話 一歩



























「チャッピー、この街に居る知り合いの人を探さなくてはなりません。良いですね?」

「ワフッ!!」

「そっちですか?」







「あっ、居ました。ヒューイさーーん、モニカさーーん。」

「ん?誰やと思ったら、けったいな兄さんの所の妖精やないか。随分と遅かったやないか。」

「それで、シュヴァルツは如何したの?一緒じゃないの?」

「実はその・・・捕まりました。」

「「捕まった!?」」

「はい、初めて行く街では良くあるんです。」

「まあ・・・あの見た目やしな。」

「確かに。」

「それで、お二人には御助力願えないでしょうか?」

「よっしゃ、わいがアネットはんの親父さんに掛けおうたる。」

「よろしくお願い致します。」


シュヴァルツが捕まる事が恒例の行事であり、ユリィが彼を解放する為に行動する事も恒例の行事だった。












「スーハー、久しぶりのシャバの空気だ。」

「お勤めご苦労さん。それにしても難儀なやっちゃな。」

「それで・・・例の宝珠は?」

「あかんかった。まあ、議長のおっちゃんが無事だったし良しとしようや。」

「他の連中は?」


俺の身柄を引き受けに来たのは、ヒューイとモニカの二人だけだった。


「ビブリオストックにある図書館に向った所や。」

「図書館?」

「宝珠を奪った一味の、次の目的を調べる為よ。」

「そうや、あそこの図書館は大陸中の貴重な本が収められとるっちゅうわけや。

 で、ワイとチビッコは今回留守番や。で、あんさんはこれからどないするんや?

 ここに住むつもりなら、議長のおっちゃんに言って部屋を用意して貰うんやけど。」

「それは有難いんだが遠慮しておく、一旦ポーニア村に戻ろうと思う。」

「そう、ミシェールの事・・・よろしくね。」

「任せとけ。」











「シュヴァツルさん!!出所おめでとう御座います。」

「で、ユリィ?貴女は何をやっているんですか?」

「何やら珍しいお店が沢山あるんです。」

「お店?・・食堂にアパート、探偵事務所?」


確かに珍しいな。

それにしても探偵事務所か。丁度いい。


「ユリィ、行くぞ。」

「はい。」


バーバラさんにはでかい事を言ってしまったが、現在は手探り状態。

この現状を打破する為の切欠になる事を願って、俺はこの探偵事務所で二つの事を依頼した。

『大陸一の名医の所在』と『難病等の研究をしている研究機関の有無、及び所在』の二つ。




















帝国の内戦はかなりグダグダになって来ている。

隣の国、アグレシヴァル王国?とかも介入した所為で、最早内戦とは言えない状態だ。

ポーニア村へ帰る途中、何度も軍による街道封鎖に遭遇したが

俺とチャッピーの華麗な連携によって、揉め事を起さずに無事に通り抜ける事が出来た。

だが、例のスレイン御一行に至っては街の中で戦闘をしたり

かなり自重していないと云う噂を聞いた。

この調子では、例の大陸中の貴重な資料がある図書館に強行突撃をし兼ねない。

・・・・いや、流石にそこまではしないか。




「いらっしゃい、シュヴァルツさん。」

「一応、同じ家に住んでるのにいらっしゃいは変じゃないか?」

「そう言われてみれば・・可笑しいですね。それで、今日はどんなお話を聞かせてくれるのですか?」

「そうだな・・最近、この村に出没したと云う『妖怪鍬男』の話なんてどうだ?」

「鍬男?・・本当にでたのですか?」

「ああ、本当だ。」

















「・・・それで、その男は振り返り、こう言った『貴様等を畑の肥料にしてやろうか!!!!!?』」

「きゃぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!」


バタン!!


「シュヴァルツさん!!また、殺りましたね!!」

「いや、殺ってないって!!やったけど、殺ってはいないから!!」

「問答無用です。ユリィ・ガイア・シュタイフブリーゼ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁあああ!!!」


ポーニア村は今日も平和だった。

























スレイン御一行が例の図書館に突撃した後、領主グランフォードの軍に拘束されたらしい。

俺は、色々な意味で間違いであってくれと願った。


「シュヴァルツさん、大変です。スレインさん達がビブリオストックで軍隊に拘束されたそうです。」

「ああ、知っている。」

「如何なさるのですか?」

「そうだな。キシロニアで受けた恩もある・・・ユリィ、助けに行くぞ。」

「はい、釈放で受けたご恩は、釈放で返すのですね。」

「そう云う事だ。」


俺はスレイン一行を助けるべく、ビブリオストックへと向った。









「それで、如何するのですか?チャッピーに囮にして、その隙に街に潜入するのですか?」

「いや、俺が無理に潜入する必要は無い。俺がスレイン達の仲間だとは知られて居ないはずだ。少なくともビブリオストックの連中にはな。

 俺は堂々と、そう・・・俺はは堂々と街に入る、その隙にユリィ達は別ルートから町に侵入し、スレイン達が捕らえられている場所を探り当ててくれ。」

「判りました。シュヴァルツさんは、正面から堂々と行くのですね?」

「ああ。こそこそすると、かえって怪しまれる。潜入はユリィ達の方が適任だ。よろしく頼む。」

「はい。任務了解しました。これより潜入致します。」

「ワフッ!!」



俺は打ち合わせ通り、ビブリオストックへと堂々と入った。

そして、



「そこの怪しい奴!!」

「動くな!!武器を棄てろ!!」

「無駄な抵抗は止めろ!!」



いつもの様に拘束され、



ギィー!!  ガチャン!!



牢屋に入れられた。




「!?シュヴァルツさん?応答して下さい!!シュヴァルツさん!!シュヴァルツさぁーーーーーん!!!!」
























「グランフォード様、街に侵入した怪しい男を捕らえました。」

「怪しい男?」

「はい、怪しげな仮面を被り黒い鎧を着た男です。」

「他に何か特徴は?」

「後は・・・妖精と変わった犬を連れて居たとの情報が。」

「!!その者を直ぐに釈放し、ここに通せ。」

「はっ、了解しました!!」

















何故かは知らないが、俺は直ぐに釈放されると領主の屋敷へと連れて来られた。


「先程は部下が失礼した。私はここの新しい領主となったグランフォードだ。」

「シュヴァルツです。失礼をされる事には慣れていますので心配は無用です。」

「所で、貴方はポーニア村から来たのですか?」

「はい。」

「やはり、そうでしたか。ポーニア村の平穏を守る『仮面の鍬使い』。貴方の噂は聞いています。」

「はっ!?」


なんじゃそりゃ?

いつの間にか、可笑しな事になってる。


「所で本日はこのビブリオストックへ、どの様な御用ですか?」


・・・ここは、正面突破で行く。


「実は先日、ここの図書館に押し入った者が居たと聞いてやって来ました。」

「確かに、そんな事件もありましたね。」

「一応、私の知り合いかも知れませので、その者達の消息を尋ねたいのですが?」

「・・・そうでしたか。彼らは、既にキシロニア連邦へと帰りました。」

「有難う御座います。これで、用の一つが済みました。それで、差し支えなければもう一つの用件も聞いて頂きたいのですが?」

「もう一つの用件ですか?・・・内容にもよりますが、出来るだけ聞きましょう。」

「では、図書館の閲覧許可を貰えませんか?」

「なるほど・・理由をお聞きしても宜しいですか?」

「俺が守ると決めた女性の為・・・ですかね。」

「・・・・・・判りました。貴方を信用します。」




何か、凄くアッサリと要求が通ってしまった。

それにしても、ここの領主。ちょっと変わった雰囲気だな。




「ジュバブブざーん!!(訳:シュヴァルツさーん)」

「うわっ!!ユリィ?何だ、その顔は!!」

「だっで、ジュバブブざんぼだずけぼうどじで・・じゅでぶびどぼざがじだんべづげど・・・でんでんびづがだだぐで!!
 
(訳:だって、シュヴァルツさんを助けようとして、知ってる人を探したんですけど、全然見つからなくて!!)」

「泣くな、ユリィ。」

「ごんだびょぶぜびば・・・ばーどだーじっがぐべぶ。(訳:こんな妖精は、パートナー失格です。)」


どうやら、ユリィは俺を助けようと必死に頑張ったが、いつもの様に上手く行かなかったらしい。


「分かったから、もう泣くな。」

「ずびばぜん。(訳:すみません。)」


俺はユリィを泣き止ませる為に全力を尽くす事になった。

その間、グランフォード軍の兵隊さん達に、何やら微笑ましいモノを見るような視線を向けられ

俺は心の中で絶叫した。


『そんな目で俺を見るなぁぁぁぁ!!!』














「ここが図書館か。」

「物凄い本の量ですね。」

「流石は大陸一だな。」

「それで、どの様な内容の本を探すのですか?」

「そうだな、『病気の治療法』とか『難病』とか『体に良いもの』とか・・・そんな感じで攻めて行くしかないな。」

「・・・・頑張りましょう。」



それから、俺とユリィは図書館に篭りきりになり、本を読み漁った。





「この木の実は血をサラサラにして・・・」







「・・・食事前に飲むだけで痩せる・・・」







「・・ミカンザッボン・カステラ・オンマーイ・ハラホレッピ病・・・」







「・・チューニ病、主に十代に発症する病気。症状は自分の武器に邪神の名前を・・・」







「シュヴァルツさん!!これなんて如何でしょうか?」


「・・・愛?努力?友情?病気に利く薬を作る時に必要なのはそんな物じゃ無い。

 『アルティメータ』だ。『アルティメータ』さえ使って置けば、大体の薬は出来る。

 足りない物は『優しさ』で補え・・・?」


「アルティメータです。シュヴァルツさん、アルティメータを探しましょう。」


なるほど、アルティメータか。アルティメータねえ。

・・・・で、アルティメータって何?


「・・・アルティメータとは青白い液体で、様々な魔法薬の原料になる。

 人工的に作り出す事は出来ないので、自然に湧き出しているのを使うしか無い。」


流石は、大陸最高の図書館。 

アルティメータについて書いてある本も直ぐに出てきた。

ただ、何処にあるのかは分からなかったが、俺にとって大きな一歩であった事は確かだ。





















俺達は久しぶりに、キシロニア連邦のヴォルトーンへ訪れた。

目的は例の探偵事務所での報告を聞く事と、スレイン御一行に居たリュック爺さんからアルティメータについての情報を聞き出す為だ。

まあ、リュック爺さんが知っているとは限らないが。


「調査によると、病気等を専門的に研究している研究機関は存在していません。」

「・・・やっぱり、そうか。」

「それで、腕の良い医者についての情報ですが、帝都ファルケンリュークにある『グリューン医院』が帝国一の名医との評判です。

 余談ですが、アネットさんのお母さんも評判の良い医者だったのですが・・・10年前に襲われて亡くなられました。」

「・・・・そうですか。有難う御座いました。」


帝都のグリューン医院か。

一応、一歩前進だな。


「シュヴァルツさん。」

「どうした。」

「リュックのお爺さんなんですが、スレインさん達と一緒にビエーネ湖に向ったそうです。」

「ビエーネ湖?」

「如何しましょう。追いかけますか?」

「そうだな。可能性を一つ一つ潰していくしかないな。帰りに帝都に寄れば無駄足にはならないしな。」

「シュヴァルツさん、可能性を潰してはダメですよ?」

「・・・・確かに。」


こうして、俺達はビエーネ湖に向った。



















[24765] 第十九話 遭遇
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/14 19:37























第十九話 遭遇






























「前にもこんな事がありましたよね?」

「そうだな。」

「二度ある事は、三度あると言いますしね。」

「三度あった事が、四度あっても驚くには値しない。むしろ、必然って事にならないか?」

「ある意味、そうなのかも知れませんね。」


ビエーネ湖に向っていた俺とユリィとチャッピーは森の中で迷っていた。

例によって、チャッピーの暴走が引き起こした結果であったのだが。


「で、チャッピー。今度はどっちの方向だ。」

「ワフッ!!」

「あっちか。」


チャッピーに促されるままに進むと、そこには期待通りバーバラさんが居た。


「お久しぶりです。また、会いましたね。バーバラさん。」

「本当に・・奇妙な縁ですね。」

「きっと赤い糸で結ばれているんですよ。」

「ま・・・また、そうやって人をからかって!!貴方は酷い人です。」

「すみません、自覚はしているんですが・・。所で幾つかお聞きしたい事があるのですが・・・宜しいですか?」

「私で答える事が出来る事ならば。」

「貴女が今の組織に勧誘された時に、『ミシェールちゃんの病気を治す方法がある』と持ち掛けられたりしませんでしたか?」

「・・・はい。娘の病気を治す薬を・・・作り方を知っていると言われました。」

「そうですか。それから・・・『アルティメータ』と云う物についてご存知ありませんか?」

「如何してそれを!!」

「ご存知なのですね?」

「・・実は、私が今もって居る液体が『アルティメータ』なのです。」


そう言うとバーバラさんは持っていた容器を示した。


「・・・本当に運命を感じざるを得ませんね。見せて貰っても良いですか?」

「・・・どうぞ。」


バーバラさんは僅かに躊躇った後、液体の入っている容器を差し出してきた。

それを受け取り、中の液体を確認する。

そこには、青白い液体が入っていた。

本に書いてあった通りの特徴を持った液体だな。


「ありがとう御座いました。」


俺は中身を確認すると、素早くバーバラさんに容器を返した。


「これは何処から採取したんですか?」

「ビエーネ湖の遺跡地下からですが・・・もし、必要でしたらお分けしましょうか?」

「いえ、それには及びません。そんな事をしたら、バーバラさんの立場が悪くなります。

 それに、分けて貰うにしても・・・入れる容器を持ち合わせていないんです。」

「容器でしたら予備を持っているので大丈夫です。少し、お分け・」

「でしたら、空の容器だけ頂きますよ。」

「あっ。」


そう言うと俺は強引にバーバラさんから空の容器を受け取り、


「ああ、そうでした。バーバラさん、もし貴女の仲間に私の事を聞かれたりしても、下手に私の事を庇ったり、誤魔化したりしないで下さい。

 バーバラさんはバーバラさん自身の身の安全を最優先して下さい。」


その場を後にした。


















彼女は、先程仮面の男が去って行った方向を眺めていた。


「どうした?バーバラ、ぼーーっとして。」

「なっ、何でも無い!!それより、急に声を掛けるな!!ビックリするじゃないか、クライブ!!」

「?」


そして、理不尽に怒られる男が一人。
























ビエーネ湖の遺跡の入り口、そして内部には明らかに戦闘の痕跡が残っていた。

恐らく、スレイン御一行の仕業だ。

俺は、時々襲って来るモンスターを始末しながら、遺跡の最深部へと潜って行った。

そして、遺跡の最深部にも戦闘の跡が残っていた。

戦闘の跡・・・つまりは、死にたてホヤホヤの死体が。

その中の一つが、目に留まった。


「ん?」

「如何したんですか?シュヴァルツさん。」

「いや、この死体・・・ちょっと気になってな。」

「確かに、雰囲気が違いますね。他の死体は、帝国軍の兵装なのですが・・・。」


そう、明らかに私服?だ。

こんな格好をしていると云う事は


「まさか、巻き込まれた民間人か!!」

「ええ加減にしなさい!!」


ビシッ!!


ユリィ、ナイスツッコミ。何処で覚えた?


「ヒューイさんから教えて頂きました。」


クソッ、あの三枚目め!!俺のユリィを汚しやがって!!


「なんでやねん!!」


ビシッ!!


ナイスツッコミ・・・と言いたい所だが、まだまだだね。


「ユリィ、そこは『誰が汚れた女や!!』とか『汚れてへんわ!!』とか『アンタの女ちゃいます!!』ってツッコミの方が良ぞ。

 もしくは、一旦相手のボケに乗って『御免なさい、私・・あの三枚目に汚されちゃったの。』から『って、なんでやねん!!』と、つなげるツッコミもある。」

「なるほど、突っ込みも奥が深いのですね。」

「ちなみに、相手のボケに乗っかってから突っ込む事を『乗りツッコミ』と云います。はい、ココ!!次のテストに出まーーす。」

「はい、分かりました先生。メモして置きます・・って、何のテストやねん!!」


ビシッ!!


「ナイスだ!!ユリィ。今のは良かった。最高だ。ただ、無理やり三枚目の言葉遣いを真似する事は無いぞ。

 ユリィにはユリィの良い所がある。ユリィらしく、突っ込めば良い。」

「はい、師匠!!」

「良ぉお~~~~~~~しッ!よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし。」


遺跡の最深部で、死体に囲まれながら自己流漫才講習をやっていた俺とユリィは


「あなた達、いい加減にしなさい!!!!」


バシッ!!!!



突然現れた第三者に、盛大なツッコミを入れられてしまった。












俺達は突然現れた見知らぬ女性に怒られている。


「あなた達、こんな場所で何をやっているの!?少しは死者を悼む気持ちが無いの?」

「すみませんでした。反省しています。」

「私のツッコミが甘かった所為で・・・本当に申し訳ありません。」

「・・・・。」

「所で、貴女は何ですか?まさか、こんな遺跡の最深部に・・・『偶然通り掛かった』なんてのは無しですよ?」


辺りを沈黙が支配する。

やがて、彼女が重い口を開いた。


「私の名前はグローリア。貴方に会いに来ました。」

「グローリアさん?」

「貴方の名前は?」

「シュヴァルツです。」

「私は妖精のユリィと申します。そして、こっちがふとん犬のチャッピーです。」

「それで、名前も知らない相手に会いに来たとは・・・如何云う事ですか?」

「そうですね。・・・貴方と私は同じ・・いえ、似ているからです。」

「似ている?」


何処が?


「私は・・この世界の住人ではありません。」

「・・・なるほど、確かに似ているな。ユリィ。」


俺の呼び掛けに対し、ユリィが小さく頷いた。

如何やら、本当の事らしい。


「それで、一体何の用ですか?」

「それには、まず私自身のこれまでの経緯をお話ししなければなりません。」


グローリアさんの説明によると、彼女は別の世界の出身であり、いわゆる、特権階級に生まれた。

正し、特権階級の下の下。一番偉くない特権階級?何か複雑な表現だが。

その当時の王様は、特権階級以外の民衆に対して搾取や弾圧、圧政、更には人体実験等を繰り返していた暴君で

そんな暴君の魔の手が、特権階級内の最下層だったグローリアにも廻ってきた。

彼女は、暴君によって人体実験の実験体にされた。


「つまり、その狒々オヤジに捕まって、玩具にされ、体中を弄繰り回されたって事か?」

「その言い方には、納得できない所がありますが・・・概ね、そんな感じです。

 そして、その実験によって・・私は永遠に時空の狭間を彷徨い続ける事になったのです。」

「で?そんな、アンタが何故ここに?」

「彼・・・シオンのお陰です。」

「シオンねぇ。」


俺は私服の死体を一瞬だけ見た。


「彼がこの世界に・・・異常事態を起そうとしている事は知っています。

 でも、そのお陰で、私はこの世界に存在し続ける事が出来るのです。」


なるほど、俺達とは逆って事か。


「で?」

「こんな事を頼むのは間違っているのは分かっています。でも・・・どうか!!彼の邪魔はしないで下さい!!」


確かに間違っているな。まあ、彼に協力して下さいと頼んで来るよりはマシか。


「邪魔とは、具体的に・・いや、良い。そうだな。一つ聞きたい。

 そのシオンって奴は、そこに死んでる奴のオリジナルの事か?」

「・・・はい。」

「・・・分かった。邪魔はしない。ただし、そっちが俺を襲ってきたらこの約束は反故になるぞ。」

「はい。」

「それから、俺からの要求が二つある。一つ目、俺にも目的がある。それの邪魔はするな。」

「はい。」

「で、二つ目。その条件で良いなら・・・さっさと、この遺跡から出て行け。」

「・・・分かりました。条件を飲みます。」


それにしても、俺の居場所を突き止めたのは、グローリアの能力なのか?

俺はトボトボと去って行くグローリアの背中を眺めているとユリィが声を掛けて来た。


「シュヴァルツさんは・・グローリアさんの事が嫌いなのですか?」

「どうしてだ?」

「彼女と話している時、怒っている様な気がしました。」

「・・・嫌い・・とは違うと思うな。好きでは無いがな。そうだな・・・彼女と話しているとイライラしてくる。

 彼女の境遇に・・・いや、俺の八つ当たりか。・・・うん、分かんないな!!」


「複雑なのですね。」

「ああ。」

「それで、彼女との約束なのですが・・この世界の危機を見過ごすのですか?」

「大丈夫だろ?スレインと愉快な連中が何とかするさ。それに、俺には優先してやる事がある。まずはそっちだ。

 順番を決めてあるだけだ。まあ、ヤバイと思ったら・・仕方ない、世界を救うかって感じだな。」

「感じですか?」

「そうだ。」


俺はそう言うと、うつ伏せになっていたシオンの死体を、足でゴロリと転がし仰向けにし、顔を観察した。

やはりな。あの自爆した奴と同じか。


「ユリィもそいつの顔を良く覚えて置けよ。そいつがこの世界を滅ぼそうとしている男だ。」

「・・・これは、クローンなのでしょうか?」

「・・・・かもな。」


俺は遺跡の奥へと向かい、そこに湧き出していたアルティメータを容器に詰めると遺跡から出た。

使い捨てのクローンか。

・・・反吐が出る。




























[24765] 第二十話 足踏み
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/15 23:30























第二十話 足踏み






























結局、遺跡付近ではスレイン御一行には会わなかった。

完全な行き違いだな。

俺達はリュックの爺さんへの用事は後回しに・・・いや、『アルティメータ』は既に持っているから

リュックの爺さんは用済みか。

まあ、いい。用済みの爺さんは後で利用させてもらうとしよう。クククッ。


「シュヴァルツさん、口が悪いです。」

「御免なさい。調子に乗りました。」

「それでは、このまま帝都に向うのですか?」

「そうだ。確か、ファルケンリュークの『グリューン医院』だったな。」

























「頼もう!!コチラが大陸一番と評判のグリューン医院でしょうか?」

「大陸一番かどうかは知らないが、確かにウチはグリューン医院だ。」

「実は、ある病気の治療法を知ってたら教えて欲しいのですが。」

「うむ、私は医者だ。治せる病気は治そう。それ以外は・・・スイマセン。」


何だこいつは。


「それで、どんな症状かね?」

「・・・実は、生まれつき病気に対する免疫が弱く、満足に外も歩けない様な状態で・・。」

「なにぃ!!!!生まれつき免疫が弱い病気だとぉ!!」

「やはり、ご存知ないのですか?」


心配そうに問い掛けるユリィだったが


「いや、知ってるぞ。ちょっと待っておれ。」


本当に何だ、アレは。


「良かったですね☆シュヴァルツさん。」


いや、良くない・・・あれ?良いのか?


「待たせたな!!」

「・・・・。」

「確か、この日記帳に書いてあったはずだ。」

「はず?」

「ああ、正確にはその病気を研究していたのは私ではない。この日記の主だ。」

「・・・・。」

「おお、あったぞ。これだ、これ。えーーと『その病気を治すにはアルティメータと闇の木の根で薬を作る!!!』・・と書いてある。」

「良かったですね!!シュヴァルツさん!!」


良いのか?本当にこの医者、大丈夫なのか?


「闇の木の根とは・・・太陽の当たらない所で育った木が樹齢100年を超えた木の根!!・・と書いてある。」


不安だ、この医者は不安だ。


「えと、アルティメータは持っているので・・・とりあえず、半分を預けますので持っていて下さい。

 闇の木の根は、見つかり次第持ってきます。」

「うむ、材料があれば調合してやらん事も無い。」


何か凄い偉そうだな。



それにしても『闇の木の根』か。

どこかの地中深くにでも生えているのか?

・・・リュックの爺さんにでも聞きに行ってみるか。




















そんな訳で、キシロニア連邦の首都ヴォルトーンへやって来た俺達。

俺は爺さんの所、ユリィ達は他の所で聞き込みをしている。



「それで、リュックさん。『闇の木の根』について何か知りませんか?」

「誰がリュックじゃ!!」

「すみません。ビクトルさん。ちょっとふざけてました。」

「まあいい、『闇の木の根』か。」

「・・・・。」

「聞いた事ないのぉ。」


・・・この爺さん。

仕方ない。もう一つの用を頼むとするか。
















「ヒューイさーん。」

「おっ、なんや。妖精とけったいな犬やないか。」

「そうそう、ウチのチャッピーったら、ご飯にケッタイを掛けて食べる位のケッタイ好きで・・って、なんでやねん!!!!」


バシッ!!!!


「やっ・・やるやないかい。」

「ほぇ~。凄いツッコミですね~。」

「私、やるからには、常に一番を目指しますので、妖精漫才コンテストで優勝出来る様に日々精進しています。

 クイーン・オブ・コメディアンを目指します。」

「あのツッコミにして、このボケ。やっぱ、ただ者やないな。」

「それで今日はどの様な用件なのですか?」

「弥生はん、いつの間に!?」

「実は、『闇の木の根』と云う物を探しているのです。」

「闇の木の根?聞いた事あらへんな。」

「私も存じません。」

「何でも、『日の光を浴びずに育った樹齢100年の木の根っこ』らしいのですが。」

「ラミィに~心辺りはありません~。」

「日の当たらないっちゅう事は・・・洞窟の中か・・あるいは。」

「陽の妖精が居ない場所・・・つまり、闇の精霊力の強い所。・・・闇の精霊使いの方なら、ご存知かも知れません。」

「闇の精霊使いですか。どなたかご存知の方はいらっしゃらないですか?」

「残念ですが~、ラミィには心当たりが無いです~。」

「ワイにも、無いなぁ。」

「元々、精霊使いは俗世とは関わりません。唯一の例外は、死者の魂を導く闇の精霊使いなのですが・・・。」

「せやな。ワイも弥生はんも、それぞれの里暮らしが長かってからに、他所の事は知らんのよ。」

「そうなのですか。」

「まあ、そう落ち込むなや。旅先で闇の精霊使いに出会ったら知らせたるわ。」

「よろしくお願い致します。」
























闇の木の根か。一体何処にあると云うのだ。

闇の木の根は、云わば諸刃の剣と憶え聞く。然らずんば、よもやこの身を滅するとも。

かくも成らずも、飛んで火に入る闇の木の根。

笑止、油断は禁物、闇の木の根。いかにも御意、闇の木の根。


「シュヴァルツさん、一体なんですか?その重いと見せかけて、内容の無い発言は?」

「いや、だって・・・全然進展しないしさ。」

「シュヴァルツさん。今までがご都合主義だったのです。本当はもっと時間を掛けて解決して行く事なのです。」

「・・・ユリィ。」

「地道に、コツコツと、根気良く、確実に進んで行きましょう。」

「ああ、そうだな。」


どうやら、俺は焦っていたらしい。

もう少し余裕を持って事に当たろう。


ハイッ、そーゆー訳でございまして、この闇の木の根でミシェールちゃんの病気を治す事が目的ですな。

しかし、そーゆったって、まだ闇の木の根の在りかが分かりませーーん。


「こんな感じで・・どう?」

「えー加減にしなさい!!」


バシッ!!!
















「くそ、あの爺さん!!足元見て・・ボッタクリやがって・・。これだからリュック背負っているヤツは・・。」

「シュヴァルツさん!!闇の精霊使いの方の情報がありました。」

「本当か、ユリィ。」

「はい、風の妖精さんが知らせてくれました。」

「風の妖精?」

「ヒューイさんに頼まれた様です。それで『闇の精霊使いは、グランフォード卿の所に居る。』との事でした。」

「グランフォード?ビブリオストックの貴族か。良し!!行くぞ、ユリィ。」

「はい!!」














風の知らせによって、再度訪れたビブリオストック。

今回は、行き成り拘束される事は無く、無事に領主であるグランフォード卿と面会する事が出来た。


「ようこそ、鍬使い殿。」

「度々お世話になります。グランフォード卿。それで、闇の精霊使いの方が此方に滞在していると伺ったのですが?」

「私が闇の精霊使いです。鍬使い殿。」

「・・・・シュヴァルツです。実は、闇の木の根と云う物を探しているのですが、心当たりはありませんか?」

「闇の木の根・・ですか。残念ですが心当たりはありません。もしかしたら、闇の精霊使いの総本山に居る者ならば、心当たりがある者も居るかも知れません。」

「・・そうですか。貴重な情報を有難う御座います。それで、差し支えなければ・・・闇の総本山への行き方を教えて頂けませんか?」

「そうですな。・・・・本来ならば、このような重大な事を軽々しくお教えする訳には行かないのですが・・・貴方ならば大丈夫でしょう。

 港町デルフィニアの灯台の中にあるトランスゲートをお使い下さい。先程、ダーク・ロード様達もそこへ向われました。」

「ダーク・ロード?」

「スレイン様の事です。それから、このペンダントをお持ち下さい。」

「えっと、このペンダントは何ですか?」

「トランスゲートを使用するのに必要なアイテムです。」

「なるほど・・ありがたく頂戴します。」




俺達は闇の精霊使いさんの助言によって、闇の総本山へと向う事にした。

まず、港町デルフィニアの灯台か。そういえば、デルフィニアってアクレシヴァル軍が占領していたんじゃなかったけ?

それにしても、スレイン・・・可哀相に、痛々しい称号がついたな。

ダーク・ロード・スレインか。

考えただけで、鳥肌が立つ。




















俺達はデルフィニアに無事到着した。

途中、スレイン御一行が使用していると思われるトランスゲートを使ったので、移動がかなりスムーズにいった。

デルフィニアは既にアグレシヴァル軍から解放されており、所々に戦闘の形跡があった。


「流石はスレイン御一行だな。」

「良い仕事をしてますね。」

「ワフッ。」


さて、先ずはやるべき事をやるとするか。

俺は港町デルフィニアの門をくぐり、大通りに出るとそこに大の字で寝っころがり・・・大声で叫んだ。


「さあ!!煮るなり焼くなり・・・好きにしろ!!!!」





























[24765] 第二十一話 修行
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/17 23:34






















第二十一話 修行






























「分かったな?もう・・あんな事はするなよ。」

「はい、申し訳ありませんでした。反省しています。」


大通りで必死にアピールをしていた俺は、近所の方からの通報によって駆けつけた兵士に捕まり詰め所で尋問された。

しかし、アグレシヴァル軍から開放されたばかりの港町デルフィニアでは

兵士達は勿論、軍関係者や政府関係者共に忙しく、不審者一人にかまけては居られなかった様だ。

まあ、それでなくても難民問題で大変らしい。

俺は軽く説教をされると、開放された。



「シュヴァルツさん、お勤めご苦労様です。トランスゲートは既に見つけて置きました。こっちです。」

「ワウ。」


流石はユリィ。仕事が速い。



















トランスゲートで移動した先は、何やら薄暗い土地だった。闇の領域ってやつか?

とりあえず、襲って来るモンスターを倒しながら闇の精霊使いの総本山へと向った。


「ここが闇の精霊使いの総本山か。暗いな。」

「そうですね。」


昼間のはずなのに暗い所だ。

下手すりゃ、明かりが必要なんじゃね?って位、暗い。

なんか、雰囲気も暗い。


「どなた・・ですかな?」

「えっと、シュヴァルツと云います。グランフォード卿の所に居た闇の精霊使いの方に、この総本山の事を聞いてやって来ました。」

「なるほど、貴方がそうでしたか。・・・所でどの様な御用でしょうか?」

「闇の木の根と云う物を探しているのですが、ご存知ありませんか?」

「闇の木の根ですか。確かに、この闇の精霊使いの総本山・・・この総本山の何処かにあるはずです。」

「あるのですか!?」

「はい。・・・ですが、現在シオンによる襲撃の後片付けが、思う様に進んでいない状態なのです。

 闇の木の根が何処にあったのかすら、分からなくなっているのです。」

「・・・分かりました。片づけを手伝います!!」

「宜しいのですか?貴方は闇の精霊使いでもなければ、総本山の関係者でも無い・・・まったくの、無関係のはずですが?」

「勿論、只ではありませんが・・・手伝いの報酬として闇の木の根を頂きます。」

「分かりました。よろしくお願いします。」


それから俺は、闇の里の復興を手伝った。

まあ、復興と云っても後片付けだが。

それにしても、あの爺さん。闇の精霊使いの長らしいのだが、俺の事を思いっきり扱き使いやがった。

神殿の後片付け、修行場の後片付けに、周囲のモンスター討伐、冥界の門修復作業の護衛等・・・本当に扱き使いやがった。


「うむ、大分片付いたな。」

「大分?」


何が大分だ。お前にダイブしてやろうか?それともダイブするか?


「これは報酬の闇の木の根。」

「おおおっ!!」

「修行場を片付けていたら出てきた。」


って、大き過ぎだろ?

木の根じゃなくて、丸太だろ?

闇の木の丸太。


「大きいから、気を付けて持つのじゃぞ。R1ボタンを押しながらでダッシュ。

 敵から攻撃を受けたり、高い所から飛び降りたりすると落としてしまうから注意じゃ。」


何言ってんだ?コイツ?


「それから、これもだ。」

「これ?」


何だこれ?腕輪か?


「せめてものお礼じゃよ。闇の力が込めてある。使い方は・・・御主なら分かるだろう?」


いや、分かんねぇよ。ちゃんと説明をしろって。


「それでは、サラバじゃ!!」


おい、ちょっと。


「シュヴァルツさん!!早くして下さい。ミシェールちゃんに薬を!!一分一秒を争うのです!!!」


いや・・・確かにそうだが・・・。

まあ、いいか。

俺は精霊使いの長への突っ込みを断念し、ユリィに促されるままに、闇の総本山を後にし、帝都ファルケンリュークへと向った。
























「うむ!!確かに闇の木の根だ!!薬を調合してやろう!!」


相変わらず変な奴だな、この医者は。

しかも、『確かに闇の木の根だ』って・・知ってたのかよ。


「いや、知らん。それよりも・・・調合だ。」


早くしろ。


「ちょぉぉぉぉぉう!!ごぉぉぉぉう!!・・・・元気になぁぁぁれぇぇぇぇぇぇ!!
 
 ファルケェェェーーーーーーーーーン!!リュゥゥーーーーーーーク!!」


・・・・・・。


「よし、完了だ!!金は要らんぞ、持ってけ泥棒!!」

「・・・・・礼は言わんぞ?俺、泥棒?」

「うむ、元気でな!!鍬の救世主よ!!」


・・・・・・・。

って、『咳止め薬』!?医者は、何故か咳止めの薬を俺に渡して来た。


「ああ、それか?丁度、空のパッケージがあったから、使ってみただけじゃ。中身は本物じゃぞ。」


そんな物に大事な薬を入れるな!!間違って飲んだら如何すんだ!!


「元気な方でしたね。」

「いや、アレはある意味病人だ。」


・・・・この薬、大丈夫なのか?


「シュヴァルツさん?如何かしたのですか?」

「いや・・・ちょっと、毒見を。」


ゴクッ!!


「・・・・大丈夫ですか?」

「・・・ああ、今の所な。」




















「ユリィ、これを持って置いてくれ。」


俺はユリィに小さく折りたたんだ手紙を渡した。


「これは手紙ですか?なんて書いてあるんですか?」

「『犯人はファルケンリュークのグリューン医院の医者だ』って感じの事が書いてある。俺が死んだら、その手紙を然るべき所に持ち込んでくれ。頼んだぞ。」

「・・・・・。」

「こっちは、チャッピーの分だ。」

「ワフッ。」


そうか、嬉しいかチャッピー。

俺は喜ぶチャッピーの頭を撫でながら、チャッピーが首から提げているポシェットの中に手紙を入れた。


「後・・・コイツは証拠の薬だ。念のため、ユリィも持っていてくれ。」

「・・・・・。」


俺は無言のユリィに、ファルケンリュークの医者に調合してもらった薬を渡す。

もちろん、チャッピーに渡すのも忘れない。


「シュヴァルツさん。そんなに心配でしたら・・・・毒見などしなければ宜しいのでは?」

























薬を手に入れた俺達は、例の如くトランスゲートを借用し、ポーニア村へと急ぐ。

一応、薬の方を毒見した俺は無事である。・・・・今の所は。



「帰って来ましたね、ポーニア村へ。」

「ああ、そうだな。・・・・ユリィ、村の・・雰囲気が可笑しいぞ。」

「えっ?」

「ユリィとチャッピーは隠れていろ!!」


只ならぬ雰囲気を感じた俺は、村の奥へと急いだ。

そこには武装した帝国兵が居た。どこの所属だ?

グランフォード派か?ジェームズ派か?


「作戦開始だ!全員、村人を皆殺しにしろ!!」


見分ける手間が省けたな。全員敵で決定!!

俺は無言で一番近い奴に駆け寄ると、剣で切り捨てた。


「ぎゃぁぁ!!」

「何だ貴様は!?」

「敵だよ。」


敵指揮官の問いに、短く・・・かつ正確に答えながら、戦闘を続行する。


「敵は一人だ!!囲みこめ!!」

「まだだ・・・ま・・だ・・。」

「くそ、コイツ強いぞ!!」


一人一人、確実にし止めて行く。


「村人を皆殺しにしていい奴は、皆殺しにされる覚悟がある奴だけだ!!」


まさか、賊では無い正規軍が村を襲うとはな。


「なにを言ってるんだ?コイツ!!」

「ぐわぁぁ!!」

「コイツ!!まさか、『仮面の鍬使い』か!!」

「誰が鍬使いだ!!!」


ザクッ!!


「ぎゃぁぁぁーー!!」

「たった一人に・・・私の部隊・・・・が・。」

「隊長!?よくも、隊長を!!」


アンタで最後だ。


「ぎゃぁぁぁああ!!」


襲撃して来た奴は、雑魚ばかりか。

一応全員片付けたが。

・・・いや、一人近づいて来ている・・・・・新手か?


「まさか・・たった一人相手に、全滅するとはな。」


・・・良く見ると新手は、いつかバーバラさんと一緒に居た変態だった。


「シオンの犬か?」

「ほう?俺達の事を知っているのか?」

「いや、知らない。・・・それより、逃げなくて良いのか?」

「なに?」

「囲まれるぞ。」


俺の視線の先には、スレイン御一行。

この村の異変を聞いて、慌てて駆けつけて来た様だ。

俺は、余裕の表情で変態を見ていた。


「ちっ。」


スレイン御一行を確認した変態が、思わず舌打ちをした。

その時!!


「てめえ、俺のインビジブルストーンを返しやがれ!!」


なん・・だと!!喋った?スレインが喋った!!


「おい!!お前の力を借りるぞ!!『ファイアアロー』」


えっ?何言ってんだ、スレインの奴は・・・お前って誰だよ!!左腕なのか?『左腕が勝手に!!』なのか?

しかも、魔法の威力弱っ!!全然ダメージ与えてねぇじゃん。


「・・・このままでは挟撃されるな。ここは退くか。」


それにしてもスレインの奴。あんな性格のなのか?

戦闘中に自分設定を強調する様な奴なのか?


「シュヴァルツさん!!離れて下さい!!」

「いや・・だって、スレインが・・重体で・・。」

「巻き込まれてしまいます!!」

「えっ?何が!?」


『テレポート』

「はうぃ?」




こうして、俺の意識と体は光の中に巻き込まれた。



























[24765] 第二十二話 救済
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/19 23:05

























第二十二話 救済

































私は、魂を集める為に襲撃に出たはずのクライブから呼び出しを受けた。

それにしても、クライブが帰って来るのが早過ぎる。恐らく、作戦行動中に不測の事態が発生し『テレポート』を使い緊急帰還したのだろう。

作戦失敗・・・また、彼らの妨害に合ったのかしら。

様々な予測を立てながら、クライブによって呼び出された場所に着いた。

そこには、私の想定外の事態が起こっていた。


「何の用かしら?クライブ。作戦は如何したの?」


私は感情を表に出さぬように気をつけながら、同僚に話しかけた。


「コイツの所為で作戦は失敗だ。」


クライブは自分の横に倒れている人物を指しながら答えた。

どうやら、私の動揺は悟られてはいない。当然と云えば当然だろう。私は記憶や感情をつかさどる月の精霊使いだ。

感情の制御は得意だ。自分の感情も・・・そして、他人の感情も。


「誰なの?その・・・怪しい奴は。」

「さあな?かなりの使い手だと思うが・・・どうする?」

「そうね、・・・腕が立つなら、私の護衛でもして貰おうかしら?」

「操るのか?こいつ程の使い手に『テンプテーション』は効かないと思うが?」

「操るだけが、能じゃないわ。消すのよ。」

「消す?」

「そう、記憶をね。」


私はクライブや他の連中に気付かれずに彼を守る為、最良の選択だと思える方法をとった。

そして、それを実行する為に、彼の仮面の額部分に手を当て、月の精霊術を行使した。


『下手に私の事を庇ったり、誤魔化したりしないで下さい。バーバラさんはバーバラさん自身の身の安全を最優先して下さい。』


いつか、彼に言われた言葉を思い出しながら、私は必死に自分の感情を制御する。

今、気付かれる訳には行かない。涙を流している余裕は無い。



















「大変です!!シュヴァルツさんが!!シュヴァルツさんが!!」

「あの風使いのテレポートに巻き込まれた様ですね。」

「そうです。チャッピー、シュヴァルツさんの事を匂いで追えませんか?」

「キャウン。」


チャッピーはただ首を振り、追跡が不可能だと告げるだけだった。


「私、探して参ります!!」

「そんな!!無茶です!!」


単独でシュヴァルツを探す為に飛び去っていったユリィを、弥生は慌てて制止するがユリィは制止を聞かずに飛び去って行った。

スレイン一行が慌てて後を追おうとするが、そこに別の人物が飛び込んで来た。


「ああ、皆様。お嬢様を助けて下さい!!お部屋を無菌に保つ装置が、先程の戦闘で壊されてしまいました。」


その人物とは、このポーニア村に住んでいるミシェールの執事だった。


「私は・・・装置を調べてくるわ。」


そして、モニカがパーティーから離脱し、他のメンバーはユリィを探しに行った。


「あなた、ユリィの匂いを追える?」

「ワフッ!!」


先程とは違い、力強く鳴くチャッピーに先導され、彼らは無事にユリィを見つけると

やや強引に彼女を連れ帰った。























ユリィの落ち込み具合は酷いもので、ミシェールの屋敷の中でアネットと弥生が必死で彼女を慰めた。

一方、無菌室の装置を壊されたミシェールは、スレインと最後の話をする為に、彼を呼んだ。


「お別れを今の内に言って置きたくて・・・。私こんな体ですから・・いつ死んでも可笑しくないんですよね。」

「・・・・。」

「この部屋と、フェザリアンの装置に頼らないと生きていけない、そんな存在なんです・・・。

 だから、今のうちにお別れをしておきたいんです。・・・・あなたに会えて良かった。

 短い間でも知り合えて良かったです。・・・さようなら・・・。」


哀しげにお別れを言うミシェール。そのミシェールにスレインが言葉を掛けるより先に、第三者から予想外の言葉がミシェールに掛けられた。


「んな、アホな~。」


ラミィの発した言葉によって、部屋の空気が一変した。


「えっ・・・ラミィちゃん?」

「んな、アホな~!・・・ですぅ。笑いは世界を救うんですぅ!悲しいのはダメですよ~。」

「・・ラミィちゃん。」


そんなラミィに続いて、スレインが言葉を続けようとするのだが、そこに思わぬ乱入者が登場した。


「ラミィさん、ええ加減にしなさい!!」


バシッ!!


「ふぇ!?」

「何ですか?そのぬる~いツッコミは?そんなツッコミで世界を狙える訳ありません。ツッコミはキレが命です!!」


その乱入者とはユリィだった。


「ワフゥ!!」


ペチ!!


更にチャッピーも乱入し、暴走するユリィにツッコミを入れる始末。

悲しみに支配されていたその場は、一瞬にして混沌へと変貌した。


「ミシェールさん、諦めてはいけません。諦めたら・・そこで忘れられ無くなります。」

「・え・・?」

「それに・・・きっとスレインさんやモニカさんが装置を直してくれます。」

「そうよ。ミシェール、あきらめては駄目。」

「私達もミシェールちゃんを助ける為に、全力を尽くすわ。」


そして、ユリィに続いて部屋に入ってきたアネットと弥生、モニカも

ミシェールを元気付ける為に言葉を掛ける。


「ありがとう・・・ありがとう、みんな。」

「お礼なんて必要ありません。当然の事です、だって・・・私達は仲間じゃないですか。」

「そうよ、ミシェール。」


次々と掛けられる暖かい言葉に、涙を流してお礼を言うミシェール。

しかし、次の瞬間・・・・ユリィが投下した爆弾によって部屋の空気が止まった。


「そうですよ、ミシェールさん。それに、ミシェールさんを治す薬は既に完成しているんですから。」

「・・え。」

「ふぇ?」

「うそ?」

「え?」

「・・・・・。」

「ワフ。」










「「「「ええぇぇぇぇーーーー!!!!」」」」


「ちょっと、それってどういう事よ!?」

「本当に・・・完成しているの?」


「はい、確かに完成しております。チャッピー。」

「ワフッ!!」


ユリィはチャッピーの首掛けポシェットから薬を取り出すと、それをメイドさんに渡した。

そして、メイドさんが無菌室の中へと入り、ミシェールにその薬を渡す。

一瞬、躊躇った後にミシェールがそれを飲んだ。


「如何ですか?」

「少し、体が軽くなった気がします。」

「それは良かったです。」

「本当にありがとう御座いました。・・え?」


パラリ!!


彼女が飲んだ薬の入れ物に張り付いていた手紙が、ミシェールの足元に落ちる。

そして、ミシェールがそれを拾い上げると目を通した。


『あなたが、この手紙を読んでいるという事は・・・私は既にこの世にいないでしょう。

 犯人は帝都ファルケンリュークのグリューン医院の医者です。凶器は、今あなたの目の前にあるヤブ医者が調合した薬です。

 どうか・・・真実を明らかにして下さい。それだけが、私の望みです。  byシュヴァルツ。』


手紙を読み終わったミシェールは、震えた声でユリィに問い掛けた。


「・・・ユリィちゃん。シュヴァルツさんは・・如何したの?」

「!?シュ・・シュヴァルツさんは・・・遠くに行きました。でも、いつか必ず戻って来てくれます。

 きっと戻って来てくれます!!私はそう信じています!!!!!」


ミシェールの問いに対し、目に溢れんばかりの涙を溜めて答えるユリィ。


(シュヴァルツさん、ご冥福を祈ります。そして、私もすぐに会えるかもしれません。)


そして、ミシェールは気を失った。

















記憶の封印術が終わると、直ぐに彼は目を覚ました。


「気が付いた?」

「何処だここは?」

「ジェームズ城よ。」

「ジェームス城?」


今の彼は記憶が無いはずだ。だからだろうか?

以前の彼とは違った雰囲気を感じる。


「ふーん。で、アンタら・・誰?」

「私はバーバラ、貴方は私の護衛よ。」

「護衛?・・まあ、アンタを守っておけば良いのか?」

「ええ、そうよ。」

「で、そっちの怪しい男は何だ?敵か?」

「彼はクライブ、私達の仲間よ。それで、貴方の名前なんだけど・・・。」


彼の・・・シュヴァルツの名前をどうするか。私が彼の名前を知っているのは不自然だ。

如何するか悩んでいると、クライブが先に答えた。


「確か、シュヴァルツって呼ばれていたぞ。」

「そう、それなら・「シュヴァルツ!?何だ、そりゃ?」・えっ?。」


私がクライブに賛同するよりも早く、彼はその名前『シュヴァルツ』を拒否した。


「シュヴァルツなんて・・つけた奴の趣味が悪すぎだなぁ。バーバラ、アンタもそう思うだろ?」

「え・・ええ。そうね。」


彼に同意を求められ、咄嗟に返事を返してしまう。


「そうだな、俺は護衛だ。・・・『セキュリティ』だ。」

「セキュリティ?」

「どうせ偽名みたいなもんだ。セキュリティって呼べよ。」

「セキュリティ。」

「OK。」


そして、私と彼の奇妙な生活が始まった。
























彼、シュヴァルツ・・今はセキュリティと名乗っているけど

彼の仕事は私の護衛。一日中、私の側で護衛をしている。

パッと見た感じでは、彼は非常に不真面目な人物に見え、私の知っているシュヴァルツとは、大分ギャップがある。

もっとも、原因は彼の記憶を封印した私にあるのだが・・・。

彼は良く周囲の人や私をからかったり、不真面目な言行繰り返している。

しかし、常に私に対して・・・いや、私を守る為の警戒を怠っていない。

ある程度腕のある者なら、直ぐに分かるだろう。彼が優れた戦士である事を・・・。


「よう、女殺しのオルフェウス。」


・・・もしかしたら私の勘違いかも知れないけど。


「何ですか!?その変な呼び名は!!」

「あん?どうせ、いっぱい泣かしてるんだろ?」


彼は良く、他人に勝手に渾名をつけて呼んでいる。

あの子、オルフェウス・リードブルグもその被害者の一人だ。


「泣かしてなど居ませ・・ウッ!!ごほっ!!げほっ!!げほっ!!」

「オルフェウス!?」


私は咄嗟に、オルフェウスに駆け寄ると彼の背中をさする。


「・・・大丈夫?」

「げほっ!げほっ!・・・はい、もう大丈夫です。ご心配をお掛けしました。」

「・・・さっそく、泣かしてるじゃねぇか。」


ギロッ!!

私は咄嗟に彼を睨み付けた。


「おっと、怖い怖い。」


しかし、まったく堪えた様子は無い。


「それにしても風邪か?」

「・・・はい。如何やら、こじらせてしまった様で・・。」


オルフェウスが表情を若干暗くして答える。

オルフェウスの病気が風邪じゃない事を私は知っている。

オルフェウスもあの子・・・ミシェールと同じ病気にかかっている事を・・・私は知っている。

そして、オルフェウスもその事に気付いている。


「ふーーん、あっ!!そうだ。良い咳止めの薬を持ってるぞ?飲むか?」

「いえ、・・大丈夫です。」


そう、オルフェウスの病気には咳止め薬など・・・・幾ら飲んでも効きはしな・「遠慮すんなよ。」


「はっ?」


グニュ!!


ポイッ!!


ゴンッ!!


「貴方!!何をしているの!!」

「何って薬を飲ませただけだろ?」


事もあろうに、この男は!!

無理やりオルフェウスの頬っぺたを掴み、口をこじ開けると、そこに薬を放り込み、更には頭を叩いて無理やり飲ませた。


「そんな、訳の判らない薬を!!」

「大丈夫だって、ちゃんとした医者の処方した薬だし・・・ほら『帝都一の名医グリューン・グリューン』って書いてあるし・・。」

「しかも、犬にでも飲ませる様なやり方で!!」

「腹に入れば一緒だろ?・・・あっ!!大変だ!!」

「「え?」」

「拙いぞ!!この薬は!!」


彼のあまりのうろたえ様に、私もオルフェウスも顔色が青くなる。


「何なのですか!?その薬に何か不備でもあったのですか!?」

「オルフェウス!!大丈夫!?なんとも無い!?早く吐き出すのよ!!」


そして、彼の重い口が開いた。


「食前服用って書いてある。」

「「・・・・・。」」

「オルフェウス、30分以内に何か食っとけ。」

「「・・・・。」」

「ん?如何した?・・・そうか、丁度良い時間帯だな。バーバラ、俺達も何か食うか?如何した?固まって・・・。

 まあ、いいや。何を食うか迷うな。マーボーでも食うか?」

「シュ・・・・セキュリティ。」

「如何した?マーボー食べるか?」

「食べ無い!!!」


ボグシャ!!!!


私はつい・・・咄嗟に、感情のままに彼を殴ってしまった。

それにしても、人間って飛べるのね。

私は、綺麗な回転で飛ぶ彼を眺めながら思った。


「オルフェウス、食事はまだなんでしょう?一緒にどう?」

「・・は・・はい、ご一緒させて頂きます。」

「所で、体は大丈夫?」

「はい、心なしか楽になった気がします。」

「・・・そう。」





















気付いたら見知らぬ場所に居た挙句、見知らぬ連中の仲間にされて

何か変な事に協力させられて居る。

俺に与えられた役目は、色気タップリな宮廷魔術師さんの護衛だった。

まあ、このあねさんと四六時中一緒に居ても良いって事だ。

それにしても、何で俺はこんな所に居るんだ?

俺は首を捻りながら、先に食事に向ったあねさんを追いかけ様としたのだが

ジッとこっちを見ている女性の視線に気付いて足を止めた。


「どうした?ねぇちゃん、俺に惚れたか?」

「貴方、何故こんな所に居るのですか!?」

「・・さあな、こっちが聞きたいくらいだぜ。」

「えっ?」

「記憶喪失?って事だ。」

「記憶・・喪失?」

「ああ、そうだ。・・・で?あんた誰だ?」

「・・私はグローシアと云います。」

「グローシア・・・あんた、俺の事を知ってるのか?」

「いえ、知りません。」

「そうか。」


多分・・嘘だな。この女は俺の事を知っている。

だが、今ここで聞き出そうとしても無駄だな。


「で、何で俺の事を見てたんだ。」

「それは・・その・・とても個性的な格好だったからで・・。」

「ん?ああ、確かに個性的な格好だな。」


黒くてゴツイ鎧を着て、仮面まで被っている。

確かに個性的だ。不本意ながら。


「なあ、グローシア。俺から一つ忠告だ。」

「な・・なんでしょうか?」

「俺以外でこんな格好の奴を見かけたら、絶対に目を合わせるなよ。こんな格好をしている奴は、頭がイカレタ奴に決まっているからな。」

「そ・・・そう。気をつけるわ。」

「んと、それから・・・これはプレゼントだ。大事にしろよ。」

「えっ?」


そう言うと、俺はポケットの中に入っていた不恰好なペンダントらしき物体をグローリアに押付けた。

正直、どうやって処分するか迷っていた物だ。

ただ、棄てるには勿体無いし、あねさんにプレゼントしたら・・・嫌われるだろうし。

まあ、廃物利用ってヤツか?


「あ・・ありがとう。」


若干顔を引き攣らせて、小さい声で鳴く様にお礼を言うと、グローリアは去って行った。

メデタシ、メデタシ・・・だな。

それにしても・・・プレゼントか。

あねさんにも何か送るか。幸い時間は腐るほどある。

髪飾りは・・・どっかの朴念仁とかぶるな。




















俺は美女は好きだ。出るとこが、出てる美女なら更に好物だ。

だが、その美女さんの顔が日に日に暗くなっていやがる。

これじゃ、魅力が半減だ。見ている方も面白くない。


「なあ、バーバラ。いつまでこんな事を続けるんだ?」

「えっ?」

「アンタ。嫌々やってんだろ?」

「・・何故、そう思うの?」

「アンタのその顔を見りゃ、誰だって分かるだろ?最も、そんな表情は俺にだけしか見せていないからな。

 他の奴等は気付いて無いはずだ。」

「そう・・・そんなに酷い顔・・していたかしら?」

「いや・・酷くは無いな。それはそれで、見応えがあった。しかも、俺だけに見せるバーバラだと思えば・・・感動も倍増だ。」

「あ・・貴方は!!」

「怒るなよ。確かに、俺だけのアンタだと思うと嬉しいが・・・ずっと同じのを見ていると飽きて来るもんだ。

 たまには心の底から笑っているアンタも見てみたい・・・ってとこだな。」

「私が心の底から笑える日なんて・・・もう、来ないわ。」

「バーバラ。」

「私はその可能性を・・自分で潰したのよ。」


そう言うと、バーバラは声も上げずに泣き出した。

こういう時、女性を抱きしめて慰めるのは男としての義務であり権利だ。

俺は当然の如く、その権利を行使した。
























「リンデンバーグが突破された!?」

「リンデンバーグ?」


何処だそりゃ?

俺にとっては、『あっそう』で済む程度の知らせだったが、代わりにバーバラが物凄く取り乱した。


「あの街にはオルフェウスが・・・。」


どうやら、リンデンバーグの守備には、あの女殺し将軍がついていたらしい。

で、あの街が突破されたって事は・・・次はこの拠点か?


「なあ、バーバラ。俺達のボスの目的って何なんだ?」

「・・・・魂の壷に、五万の魂を集める事よ。」

「五万の魂?そんなもん集めて如何すんだ?」

「・・・・不老不死の秘術を完成させる為よ。」

「ふーーん、でこの奥でゴチャゴチャやっているのがその為の儀式って訳か?」

「ええ、そうよ。」

「イカレテやがるな。・・・まあ、何処のボスもイカレテルって相場が決まっているけどな。」


心ここに在らずのバーバラは、俺の質問に対して素直に答えてくれる。

もうすぐ、ここが戦場になるのか。

俺もそろそろ身の振り方を考えないと不味いな。

バーバラを連れて逃げるか?それとも・・・。


「母・・・バーバラ様!!」

「オルフェウス!!」


突然、女殺し将軍が息を切らせて現れた。余程、急いで来たらしい。


「み・・みずを。」

「ミミズ?」


スパーーン!!


バーバラが何処からとも無く取り出した物体で俺の頭を叩く。


「冗談だ。ほら、水。」


俺の渡した水を一気に飲み干してから、オルフェウスが喋る。


「バーバラ様、妹が・・ミシェールの病気が治りました。」

「えっ?あの子の病気が?」

「はい。」


それにしても、守っていた街を突破され逃げて来て・・・開口一番にそれってどうよ?

まあ、空気の読める俺は黙っているが。


「これで、母上がシオンに協力する理由はなくなりました。」

「・・・そうね、でも貴方の病・・。」


今、オルフェウスの口から信じられない言葉が飛び出した。


「私の事よりも、母上の・・」

「ちょっと待った。」

「「?」」

「母上って・・・バーバラの事か?」

「えっ・・はい。そうです。」


隠しても無駄だと悟ったのか、オルフェウスは結構アッサリと認めた。


ジーーーー!!


俺は、バーバラの顔を凝視する。


「な・・何の積り?」

「いや・・・子持ちには見えないと思って。」


シワも無いし、肌も艶々。在り得ない。


「オルフェウス。アンタ、騙されてるぞ。」

「騙されている?いったい何を。」

「バーバラはアンタの母親じゃない。」

「「え?」」

「バーバラはアンタの・・・お姉さんだ。」

「「・・・・・。」」

「きっとそうに違いない。母親代わりに育ててくれた姉を・・・母だと勘違いしているんだ。」

「「えっと?」」

「さあ、お姉さんと呼ぶんだ。」

「お・・お姉さん?」

「な・・なに?オルフェウス。」


うん。これが正しい。


「で、話は変わるけど・・オルフェウスってなんかの病気なのか?」

「ええ、そうよ。生まれつき体の免疫が弱いのよ。」

「弱い?」

「はい、その通りです。」


いや、冗談きついぞ?


「嘘つくなよ。そんな病弱なヤツが軍人やってたり、リンデンバーグから持久走して帰って来る・・なんて出来る訳ねぇだろ。」

「・・・・・あ。」

「・・・・え。」

「だろ?」


「確かにそうです。私はリンデンバーグから・・・ろくに休みも取らずに走ってきました。」

「え?それで・・・体の方は大丈夫なの?」

「はい、異常ありません。」

「そんな・・・一体、如何して?・・・オルフェウス、ミシェールの病気を治した薬は誰が手に入れた物なのかしら?」

「なにぶん戦闘中だったもので、私も詳しくは分かりませんでした。ただ、ミシェールは『珍しい犬が運んで来てくれた』と言っていました。」

「珍しい犬?・・・まさか、貴方が!?」

「え?俺?」


いやいや、犬じゃねぇぞ。


「と、言う事は・・・この前、貴方が飲ませた薬が?」

「この前?この薬の事か?」


『帝都一の名医グリューン・グリューン』、『食前服用』、『原材料 アルティメータ、闇の木の根』


何処からどう見ても、普通の薬にしか見えないが・・・。


「貴方!!」

「は、はい!!何でしょう?」


ギュッ!!


行き成りバーバラに抱きつかれた。


「ごめんなさい・・・そして、ありがとう。」


そこで俺の意識は途絶えた。

























[24765] 第二十三話 裏方
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/22 17:56
























第二十三話 裏方



















「気が付きましたか?」


(・・・オルフェウス?)(女殺し?バーバラはどうした?)

目が覚めた俺の目に、一番最初に飛び込んできたのはバーバラさんの顔・・・・では無く、オルフェウスの顔だった。


「ああ、生返った気分だ。それで・・・ここは?」

「ジョームズ城の近くの、森にあった小屋の中です。」

「ジョームズ城・・・。」


その単語を聞いた途端、俺の頭が一気に覚醒した。


「バーバラさんは如何した?」

「・・・母上は・・城に残っています。」


残った?早ければ、今頃はスレイン御一行の襲撃を受けているぞ!?

そこに残してきたのか!?


「何故?」

「母上の最期の望み・・だからです。貴方を城から連れ出し、安全な場所までお連れする様にとの事でした。」

「もう一度聞く、何故だ?」

「・・・・私が・・・私が!!喜んで母上を置いて来たと、お思いですか!!本当は・・母上を!!」


そうか、そうだよな。情けない奴だな・・・俺は。

バーバラさんとオルフェウスに助けられて置いて、挙句の果てに俺よりもバーバラさんを大切に思っている奴に八つ当たりか。


「そうか、それじゃあ・・もうバーバラさんの望みは果たしたよな?俺は安全な場所に居るぞ。」


俺は『さあ、どうする?』といった感じで、オルフェウスに問い掛けた。

一瞬後、オルフェウスは


「有難う御座います!!」


と、大きな声で俺に礼を言うと、脱兎の如く小屋から飛び出して走り去っていった。

・・・・アレ?

概ね、その反応が正しい。まさに、俺が望んだ反応に近いだ。

だが、決定的に違う所だあるぞ?


「ちょっと、待て!!俺も連れて行け!!」


何一人で突っ走ってんだよ。あのガキは。

俺も後を追う様に小屋を飛び出したが・・・既に、オルフェウスの姿は見えなかった。


「クソ、どっちだ?どっちに行った。・・・どっちに行った!!!」


なんつーミスだ!!俺がもっと早く反応していれば・・何とかなったはずなのに。

俺は沸きあがって来る怒りをブチマケル様に叫んだ。


「どっちだ!!どっちに行った!!誰か見てないかよ!!」

「・・・あの~。」


何だ?声がしたぞ?


「あの~、さっきの子なら、向こうの方へ走って行きましたよ~。」

「え?」


声のした方を見ると・・・そこには、見た事無い妖精が居た。


「・・あ・・ああ、そうですか。有難う御座います。」

「いいえ~、私も人と話せるのは初めてなので~、とても嬉しいですよ~。」


人と話すのは初めてって事は・・・って、そんな事考えている場合じゃねぇよ。

俺は気を取り直すと、その妖精が指し示した方へ走り出した。
















シオン一派の最終防衛拠点であり、スレイン御一行の最終目的地であるジェームズ城で最終決戦が行われ様としていた。

シオンが行おうとしている儀式を止める為に、スレイン御一行が乗り込んできた。

その時、思いもしなかった事態が発生していた。

つまり、第二皇子ジェームズの宮廷魔術師バーバラの裏切りである。


「どういうつもりだ!!バーバラ!?」


バーバラの裏切り行為に激怒するクライブ。

このジェームズ城には、幾つかの侵入者用の罠や防壁があった。

その全てをバーバラの手によって解除されてしまったのである。

一方のスレイン達にとっても、想定外の事態であった。だが、彼らにとってバーバラの行った行為は

不利になる行動では無い為、彼らはシオン一派への襲撃を続行した。


「私は自分の子供達の為と言い訳をして・・・多くの人を死なせ、不幸にしました。

 そして、ついには裏切ってはいけない人まで裏切りました。せめて、その償いの為に・・私は何としてもシオンの儀式を阻止します。

 たとえ、ここで死ぬ事になっても!!」

「ならば、望みどおりここで殺してやる。バーバラ!!」


クライブの合図により、バーバラの側に待機していた兵士達が一斉に彼女に斬りかかった。

しかし、その刃が彼女に届くより前に、新たに現れた人物によって、その全てが遮られた。


ギリッン!!


「母上!!ご無事ですか?」

「オルフェウス!?」

「母上は私が守る!!」


そして、ジョームズ城での戦闘は続く。






















「あったぞ!!ジェームズ城だ。」

「よかったですね~。」


さっきから、俺の後ろを付いてくる妖精居る。


「・・・・何で付いて来るんだ?」

「ほぇ?・・・・うーーん、何となくですか~。」


とりあえず、時間が惜しい。俺は隠し通路を通って内部に潜入した。

一応、シュヴァルツの記憶が戻った俺には『セキュリティ』と名乗っていた痛々しい記憶も残っている。

その為、この城内部の配置もバッチリだ。・・・多分。




潜入には成功したが、兵士が多いな。

一人一人倒していたら、時間が掛り過ぎる。


「くそ、どうする?」

「何がですか~。」

「今、この城の中に知り合いが居るんだが・・あまり、他の奴には見つからずに探したいんだがな。」

「だったら~、闇の精霊さんにお願いしたらどうですか~。」

「闇の精霊?」

「この城には~、何故か沢山の闇の精霊が居るんですよ~。その精霊さんに~、お願いするんですよ~。」

「俺は精霊使いじゃ無いんだぞ。できる訳無いだろ?」

「でも、ルミィとは~、お話し出来るじゃないですか~。」


ルミィとは、この妖精の名前らしい。

まあ、一応やってみるか?


「えーと、闇の妖精さん達と闇の精霊さん達・・バーバラと云う女性が今何処に居るか、知りませんか?」


うわっ、なんか黒いのが寄って来た?これが、精霊か?


「・・・詰め所近くの・・広間に居るよ・・・。」

「・・ありがとう。」


俺が礼を言うと、精霊は離れていった。

それにしても、本当に出来た。一体何故?

いや、考えるのは後回しだ。

俺は広間に向って急いだ。

















また、邪魔が居る。どうする?

(早くバーバラさんを助けに!!)(邪魔なら、皆殺しにしておけばいいだろ?)

何だ?一瞬・・頭の中に違和感があった。

まあ、良いか。

後はこの場所を突破すれば、広間への近道になるのに・・兵士が大量に警戒している。

はっきり言って、気付かれずに突破するのは不可能だ。


「もう少し、部屋が暗ければ・・。」

「だったら~、暗くすれば良いんじゃ無いですか~。」

「暗く?」

「はい~。」


さっきの要領でやれって事か?


「闇の精霊さんに妖精さん。あの部屋と通路を少し暗くして貰えませんか?」


って、本当に暗くなった?


「えーーと、もう少しお願いします。」


うん、これ位で良いかな。


「それから、私の体の回りに集まって下さい。」


おお、ドンドンよって来る。まるで、闇を纏っている感じだ。

これで見つかりづらくなったはずだ。このまま一気に突破する。





















「やってくれたな。」


クライブは、シオン一派を裏切ったバーバラとオルフェウスを睨みつける。

辺りには、オルフェウスによって倒された兵士達が倒れていた。



「オルフェウス!!直ぐに逃げなさい!!」

「母上を置いて逃げるわけには行きません!!」

「流石は連隊長だな。・・・だが、これならどうだ!?風よ!!」


クライブの声に反応した風の精霊が、一斉にオルフェウスに殺到し、彼を風の檻の中に閉じ込める。


「な・・何だ!!」

「オルフェウス!!」

「バーバラ、人の心配をしている場合か?」

「クライブ!?」


バーバラの注意が、風の檻の中に囚われたオルフェウスに向いている隙に

一気にクライブがバーバラへと接近し、彼女を剣で斬りつける。


「きゃ!!」

「母上!!」

「お前はそこで、自分の母親が切り刻まれて死んで行く様子を見ていろ。

 安心しろ、直ぐにお前も同じ所に送ってやる。」

「母上!!母上!!」


オルフェウスの叫び声が、ただ辺りに響き渡った。



















「母上!!」


オルフェウスの声だ。かなり焦っている様子だが・・・。

(バーバラさんの事か?)(近いぞ!!急げ!!)

もしかして、バーバラさんが危ないのか!?

そんな事を考えながら、声の元だと思われる広間に走りこんだ。

そこには、倒れたバーバラさんと変態が居た。幸い、バーバラさんはまだ生きている・・・・危機的状況には変わりないけど。

オルフェウスは叫びながら何か・・・パントマイム的な事をやっている。

(オルフェウス?)(あのガキ!!何遊んでやがる!!)


「ちっ・・何やってんだよ、アイツは。」

「あれは~、風の精霊さんの所為ですね~。」


俺は変態に向って走りながら、闇の精霊にオルフェウスを何とかしてくれる様に頼む。

まだ、変態との間には距離がある。

アイツの注意をこっちに向ける為、俺は剣を抜き、それを変態に向って投擲した。


ギリィン!!


弾かれた。気付かずに串刺さってくれれば楽なのに・・・。


「貴様も裏切るか!!」


えっ?何か俺・・・アイツの仲間的ポジションにされてる。


「裏切り者の裏切り?裏切ってる・・・それと、者?裏切ちゃってるのですね?」

「貴様!!ふざけやがって!!」

「それより、その黒眼鏡・・・外した方が良いぞ?こんなくらい所で、黒眼鏡なんかしてると目が悪くなるし・・・頭も悪くなるぞ?」

「何?・・・何だ、これは!!」


俺の指示によって、闇の精霊達が変態の黒眼鏡に殺到する。

変態が戸惑っている隙に、俺は一気に変態に近づき剣で切りつける。


キンッ!!


「貴様!!精霊使いだったのか!?」

「らしいな。」

「ふざけやがって!!」


片方の剣は投げてしまったので、もう一本の剣のみで戦わねばならない。

・・・久しぶりの感触だな。

俺はバーバラさんを庇いながら変態と打ち合う。


「中々やるな!!だが、貴様のもう一本の剣は俺の後ろだ!!さあ、どうする!?」

「いや、別に・・・時間は充分稼いだし・・・問題ないだろ?」

「何?」

「んじゃ、後はよろしく・・・・オルフェウス。」

「貴様!!よくも母上を!!」


ザンッ!!


「グワァッ!!」


風の檻から脱出したオルフェウスの奇襲が見事に決まった。闇の精霊達が頑張ってくれた様だ。

それから、変態の受けた傷・・・あれは致命的だな。はっきり言って、この勝負はオルフェウスの勝ちだ。

(アイツを殺せ!!俺の女を傷物にしやがって!!殺せ!!)(バーバラさんの治療が先だ!!あの変態はオルフェウスにやらせろ。)

俺はバーバラさんを抱き抱えると、戦っている二人から離れる様に移動し

魔法を唱え治療を開始する。


「ヒーリング。」

「貴方・・どうして戻ってきたの?」

「バーバラさん一人を死なせる訳には行かないでしょう?」

「・・・ごめんなさい。」

「謝らないで下さい。」


バーバラさんの応急処置が完了した頃には、あっちの決着がついた。

予想通り、オルフェウスの勝利だ。まあ、危なかったら援護しようと思っていたのだが、必要なかったな。


「母上!!お怪我の方は大丈夫でしょうか!?」

「私は大丈夫よ。」

「で、シオンは一番奥の儀式の間に居るのか?」

「ええ、その通りよ。」


俺はその儀式の間に向う。

で、そんな俺の後をバーバラさんとオルフェウスがついて来る。


「お二人とも・・・危ないですよ?」

「「大丈夫です、問題ありません。」」


一番良いヤツじゃなくても良いのなら・・・構わないけど。


















大広間につくと、至る所に戦闘の痕跡があった。

恐らくは、スレイン御一行が突入、突破した後だな。


「一番奥にある、封印された扉の左横に抜け道があります。」

「有難う御座います、バーバラさん。」


それで、その抜け道を抜けると・・・そこは戦場でした。

スレイン御一行とシオン一派の最終決戦場。

まさに、クライマックス。

・・・いや、既に流れは決まっているな。

スレイン御一行の勝利だな。


一番奥の方では、スレインとシオンが必死に打ち合っている。

三枚目が雑魚の足止めをし、モニカが投げナイフ無双、弥生さんは魔法で援護をしている。

アネットはあっちの方で暴れている。

リュック爺さんは居ない。留守番か?


「お久しぶりです、弥生さん。」

「・・・シュヴァルツさん!?ご無事でしたか!!」

「ええ、頑丈なので・・・。それより、スレインの一騎打ちですが、中々決着がつかないですね。」

「はい。場所が場所なので・・・効果的に援護が出来ないのです。」

「弥生さん、ちょっと弓と矢を貸してもらえませんか?」

「え?」


俺は返事を待たずに、弥生さんの矢を手に取り、それにワイヤーを結ぶ。

そして、弓を構え、その矢を番える。

狙いを付けると・・・俺は叫びながら矢を放つ。


「あー、手が滑った!!間違って魂のツボに向って撃ってしまった!!このままでは、魂のツボが壊れてしまうぞ!!(我が照準はねじれ狂う!!)」


その俺の叫びと、矢に対して一番反応したのはシオンだった。

シオンは俺の放った矢を、剣で打ち落とした。


ギイッン!!


見事だ。

だが、それが悪い!!

シオンのその動きが大きな隙を作り、スレインがその隙を突く、鋭い一撃がシオンに決まった。

後は、スレインに任せる。


「シュヴァルツさん!!何て事を!?」

「え?何が?」

「魂のツボに当たったら、如何するんですか?あの中には五万人分の魂があるのですよ?もしツボが壊れたりしたら・・・。」

「魂も一緒に壊れてしまい、その魂たちは輪廻の輪に戻る事は出来ない?」

「ご存知でしたか?それならば!!」

「大丈夫ですよ。ほら。」


ズリ、ズリ、ズリ、ズリ。


「・・・・・・え。」

「ワイヤーで縛ってあるから、ツボに当たる前に矢は止まりますよ。」


俺がワイヤーを引っぱると、打ち落とされた矢が、ワイヤーで引き摺られて戻ってきた。


「・・・・。」

「ね?」


如何やら決着がついた様だ。

スレインの勝ちか。


「無駄だ。・・私を殺す事は出来ない・・・。私はまた別の肉体に・・・。」


シオンが苦し紛れに、痛々しい発言をしている。

その所為か、闇の精霊達がシオンの元に集まる。


「今ですよ~!精霊に制止を命じるんです~!」


ラミィの発言に合わせる様にスレインも何かやり出した。


「あの・・・弥生さん?あれは一体何をやっているのでしょうか?」

「あれは、お互いの精霊力を封じあっているのです。」


なんか知らんが、二人の周りには闇の精霊たちが集まって来ている。

見る人が見ると・・・凄い戦いに見えるのか?


「あの二人は~、凄い力を持った~、精霊使いですね~。」


後ろを見るとルミィが居た。

どうやら、ずっとついて来ていた様だ。


「えっと、貴女は誰でしょうか?」

「私は~、闇の妖精のルミィです~。」


弥生さんとルミィのほのぼのとした自己紹介が続く中、あの二人の凄い戦い(笑)は続く。

俺も空気を読んだ方が良いのか?

とりあえず、二人の周りに居る精霊たちにも空気を読む様に伝える。


「えっと、君達!!そこのお兄ちゃん達は今忙しいんだ!!だから、そんな所に居ると邪魔になるから・・・こっちに来て大人しくしててね。」


俺の声に反応した精霊たちが、俺の方へと殺到した。


「何だと!!馬鹿な・・こんな事が・・・。」


あれ?シオンが突然息絶えた?

何で?俺の所為?

なんか悪い事した?






















「終わった。・・・・何もかも。」

「シュヴァルツさん、まだ終わっていませんよ。」


シオンが死んだから戦いが終わったと思ったが・・・別にそんな事は無かったぜ。

現在、シオンを殺されて逆上している敵の掃討戦が続いている。あの連中は、ジェームズ派と云うよりシオン派って感じだな。しかも狂信的な。

スレイン、アネット、モニカに三枚目が頑張っている。

弥生さんは俺の側で、魔法で援護をしている。


「貴方・・・精霊使いだったのね。」


そこへバーバラさんとオルフェウスが登場。

あれ?バーバラさんのショルダーアーマーが無い。


「バーバラさん、何かあったんですか?」

「な・・何も無かったわ。そう・・・何も。」


なるほど、抜け穴に引っ掛かったんですね。


「バーバラ。いえ、シモーヌ。もう止めて、お社に帰りましょう。」

「・・弥生。」


バーバラさんに気付いた弥生さんが、説得を始めた。

そういえば、弥生さんはバーバラさんを連れ戻す事が目的だったな。


「・・・分かったわ。」

「シモーヌ、どうしてもと言うのなら、無理にでも・・え?」

「分かったと言ったのよ、弥生。」


アッサリと社に帰る宣言をするバーバラさん。

弥生さんは鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしている。

弥生さんの顔を眺めていると、俺の側に寄って来た闇の精霊達が、なにやらざわついている。


「女の子が・・悲しんでいる?・・」

「・・・泣いている・・・」

「・・悔しいの?・・・」


一体、どうしたんだ?女の子がどうしたって?

俺は精霊達に導かれるまま、彼らについて行った。





















[24765] 第二十四話 終着
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/02/23 23:48

























第二十四話 終着



















精霊達に導かれた先には、泣きじゃくっているグローリアが居た。


「シオンは死んだ。」


俺はただ、事実のみを彼女に告げた。


「どうして!!どうして、助けてくれなかったの!?」

「何故、助ける必要があるんだ?」

「!!」

「何を驚く?シオンはアンタにとっては大事な人だったのは分かる。それこそ、この世界以上に大切だった事もな。

 だが、俺にとっては大事な人じゃなかったって事だ。」

「それでも!!」

「じゃあ、俺にとって大切な奴等がシオンの所為で危険だったって言えば、アンタは納得するのか?」

「・・・・良いの?」

「あん?」

「・・貴方は良いの?彼が死ねば・・・貴方も私も・・この世界には居られないのよ。」

「そっちが本音か?」

「・・・・。」


俺の問いに、グローリアが顔を背ける。


「沈黙は肯定ととられるぞ?・・・まあ、でも俺としてはそっちの方が好きだな。

 誰かの理想の為に世界を犠牲にするより、自分の命の為に世界を犠牲にするって方が・・自然だな。

 アンタはシオンの事が好きだったのは事実かもしれないが・・・アンタ・・・無理にシオンを好きになって居たんじゃないのか?

 それとも、つり橋効果・・・って奴か?」

「いい加減にして!!!人の心を覗き込む前に私の質問に答えて!!」

「この世界に居られない・・・か。まあ、寂しくなるけど・・・俺にはやらなくちゃならない事があるんだよ。」

「・・そう、貴方には帰れる場所があるのね。貴方と私は似ているけど・・・そこが違うのね。」

「そうだな。」

「ほんの少しの違いだけど・・・決定的な違い。私と貴方は決して交わることは無いのよ。」


世界が終わるような顔をして答えるクローリア。

いや、実際彼女にとっての世界はもうすぐ終わるのだろう。


「実はアンタに・・・。」

「いやぁ!!!」


俺の言葉は、グローリアの悲鳴によって遮られた。

彼女の体が歪んでいる!?

しまった。もうタイムリミットなのか!?


「おい!!ちょっと待て!!」

「助けて!!」


グローリアが俺に手を伸ばし、俺も彼女の手を掴もうと駆け寄る。


「待てって言ってるだろ!!」

「助けて!!助けて!!」


俺は確かに彼女の手を掴んだ。

掴んだはずだった。

でも、俺の手に・・・彼女の手を掴んだ感触は無く・・彼女の手は俺をすり抜けた。


「いや!!助けて!!」


俺は、目の前で泣き叫びながら助けを求める彼女を、両手を抱きとめ様とするが

俺は彼女に触れる事は出来ず、すり抜けてしまう。

そして、彼女は


「助け・・。」


俺の目の前から消失した。
























グローリアが消えてから、記憶が曖昧になり、気付くと俺はキシロニア連邦に居た。


「気がつかれましたか?」

「弥生さん?バーバラさんも。」

「・・一体何があったのですか?」


弥生さんの説明によると、俺は突然キシロニア連邦のスレイン御一行用技術開発室にあるトランスゲートから現れると意識を失ったらしい。


「シュヴァルツさん、気絶している間に貴方の心を調べさせて貰いました。最近、何か違和感を感じた事はありませんか?」

「違和感?何に対してですか?」

「自分に対して・・・でしょうか。」

「そういえば・・・バーバラさんがあの変態に襲われ・・・あられもない姿だった時に・・」

「シモーヌ!!貴女・・・まさか・・そんな事が・・。」

「シュヴァルツさん!!誤解を招くような物言いは止めて下さい!!」

「スイマセン。・・で、その時の事ですが・・違和感を感じました。」

「どんな風にですか?」

「頭の中にノイズが走ったような・・・『バーバラさんを助けろ』、『俺の女を傷物にした奴を殺せ』って感じでしたね。」

「まあ、俺の女!?」

「!!!」


いや、二人とも喰い付く所が違うんじゃないかな?


「その時、なんですが・・・確かに怒りは感じていたんですが・・・なんと言っていいか・・・。

 第三者の怒りって言えばいいんですかね。私自身は、とても冷静で・・・でも、我を失うほど怒っていた。」


俺はいったい何を言っているんだ?


「シュヴァルツさん、恐らく貴方の精神が二つに分かれたのではないでしょうか?」

「分かれた?・・・なんで、そんな事に。」

「・・ごめんなさい。私が行った強引な記憶操作の所為です。」


そう言うと泣き出すバーバラさん。


「いや、泣かないで下さい。折角、アイツから開放されたんですから・・・泣き顔より笑顔を見せてください。」

「!!」


バーバラさんは、俺の言葉に驚くと更に泣き出す。

仕方ないので、泣き止むまで抱きしめた。

横では弥生さんが顔を真っ赤にして、オロオロしていた。





















「多重人格って奴ですか?」

「はい、シュヴァルツさんがトランスゲートを使って戻って来た時に・・私の事を知らない様子でしたので不思議に思い

 失礼だと思ったのですが、調べさせて貰いました。」

「それで、治療法とかは・・あるんですか?」

「はい、時間を掛けてカウンセリングや精霊術等で少しづつ融合させるのが理想的な治療です。」

「・・・時間ですか。」

「はい。」

「・・・あまり時間が掛らない方法はありませんか?」

「時間の掛らない方法ですか?」

「はい。」

「しかし、無理やり融合させると・・・危険です。」

「では、完全に分離する事は出来ますか?」

「分離?」

「はい、分離して体から取り出す・・・とか。」

「・・・それは随分と乱暴な方法ですね。」

「兎に角、時間が無いのです。」


俺の提案に、弥生さんが口を噤んでしまう。

代わりに、バーバラさんが口を開く。


「・・・もし、分離するのだったら、分離した精神を入れる為の入れ物が必要になるわ。

 それに、私達・・月の精霊使いだけじゃ、その儀式は無理よ。・・・そうね、闇の精霊使いの協力が必要よ。」

「シモーヌ!!」

「良いんです、弥生さん。アイツも『それで良し!!』って言っていますし。」

(言ってネーよ!!)

(黙ってろ、ボケ!!)

「・・・そうですか。なら、私もお手伝いします。」

「それじゃあ、先ずは入れ物ですね。」


俺は精神の入れ物を探すために部屋を出ようとした。

そこへ、


「おお!!ここにおったのか。」


リュック爺さんがやって来た。


「行方不明になったと聞いておったから心配したぞ。」

「実は最近発見されまして。」

「それで、御主に頼まれておった例の品じゃが・・・ついさっき完成したぞ。研究所まで取りに来い。」

「ああ、あれですか。・・・分かりました。」


少し遅かった。今の俺には・・・もう、必要ない。

(おいおい、なんだか知らんが貰える物は貰って置けよ。また必要になった時に後悔するぞ。)

(そうだな。)

それから、俺達はリュック爺さんについて行った。



















「ほれ、これじゃ。」


そう言うと、リュック爺さんは俺に指輪を渡してきた。


「有難う御座います。」

「それで、こっちがスペア用じゃ。効き目は一緒じゃぞ?で、最後は仮面タイプの奴じゃ。」


それは・・・要らない。


「遠慮するな。ほれ。」


いや、本当に要らないです。


「ちなみに、その指輪も仮面も・・・一度つけたら外れんぞ。」


なにそれ怖い。


「そう云えば、シオンの持っていた魂のツボを作ったのはビクトルさんでしたよね?」


弥生さんが衝撃の事実を暴露した。


「なんだ、そうなのか?」

「・・・ああ、そうじゃ。ワシの・・」

「リュック爺さん、それは後で壁に向かってでもやってくれ。それより、そのツボのもう一度作る気はないか?」

「なんじゃと!!!」

「別に五万人分の容量は必要ない・・・一人分くらいで構わない。」

「じつは・・」


俺に代わって弥生さんが爺さんに説明をしてくれた。

俺は暇だったので、バーバラさんと一緒に研究所内を物色する事にした。
















「なるほど、そんな事があったのか。」

「で、どうですか?」

「ふーむ、実はシオンに作ったツボの試作品があるのじゃよ。」

「本当ですか!!」

「これじゃ。」


爺さんがツボを取り出した。


「これはあくまで試作品での・・・。精々、数人分の魂しか入らんのじゃよ。」

「是非、譲って貰えませんか?」

「・・・まあ、お主らなら悪用はせんじゃろう。いいぞ。」


よし、さっそく目的がかなった。


「ふーむ、精神を入れる為の入れ物か。ちょっと待て、お主ら。」

「え?」

「精神を入れるなら・・・・ツボよりも良い物があるぞ?」


ツボよりも良い物?なんじゃそりゃ?

良い物のツボなら知っているけど・・・。


「何だと思う?」


いや、知らんよ。


「鎧?」

「はずれじゃ。正解はこれじゃ!!」


なにこれ?

そこには棺おけの様な物体があった。


「これはホムンクルスじゃ。」

「ホムンクルス?」

「そうじゃ、これをもって行け。」


いや、無理だろ。

一人じゃ無理だって。


「ほれ、風船をつけて置いたぞ。」


だから、何?


「シュヴァルツさん、良かったですね。」

「そうね、ツボよりは遥かにいいわ。」


俺は重い物体を背負うと、彼女達に促されて、トランスゲート経由で闇の精霊使いの総本山へと向った。


「さあ~、出発ですよ~。」

「お前・・・まだ居たの?」




























「おお、貴方は・・良くぞ戻って来られた。」


総本山へたどり着いた俺達を、精霊使いの長が迎えてくれた。


「覚えていてくれたんですか?」

「当然です。修行場の片づけをお願いしたら・・洞窟の最深部へと到達したばかりか・・試しの儀を成功させた方ですからね。」

「「!!!」」

「試しの儀?あれって何か凄い事だったの?」

「はい、あれは我々精霊使いが行う修行です。本来は補佐の為、精霊使い2名が付き添うのですが・・・貴方は一人でやり遂げてしまいました。

 恐らく、貴方の精霊使いとしての才能はシオンやダークロード様以上でしょう。」

「ふえ~、凄い人ですね~。」

「本当に・・凄いですね。」

「・・信じられないわ。」

「それで、本日はどの様な用でしょうか?」

「えっと、実は・・。」


長への説明は例によって、弥生さんに任せます。

それにしても、『ダークロード』と『精霊使い長』って紛らわしくないのか?

別の役職なんだろ?

















「なるほど、事情は分かりました。しかし、魂を取り出す事は出来ると思いますが・・・魂では無く、片方の精神となると

 成功するかはの保障は出来ません。」

「その点は、精神を司る私達月の精霊使いが請け負います。」

「分かりました。それでは、器となるホムンクルスを此方へ。」


・・・・え?そっちへ持って行けと。

あんた等がこっちへ来いよ。

・・・・結局、俺は必死にその物体を運ぶ事になった。


「では・・行きます。」

「シュヴァルツさんは目を閉じて・・リラックスして下さい。」


俺は目を閉じ、深呼吸をしてリラックスした。

彼女達なら上手くやってくれるだろう。

後は信じるだけだ。















「終了しました。もう、目を開けて大丈夫ですよ。」


プシュー!!


俺が目を開けると、俺が運んできた物体が開き・・中からスレイン?が出てきた。


「え?」

「おっ、動けるぞ!!バーバラ!!」


そう言うとソイツはバーバラさんに抱きついた。


「きゃっ!!」

「どうした?バーバラ!!」

「離して!」


バーバラから離れたソイツはこっちを見る。


「いつ見ても・・・ダサい格好だな。シュヴァルツ(笑)」

「そっちもスレインとキャラが被っているぞ、セキュリティ(笑)」

「「・・・・。」」

「「やんのか!!ゴルァ!!」」

「二人とも息がピッタリですね。」

「まあ、本人同士ですしね。」

「大体、なんだよセキュリティ(笑)って!!」

「テメエもセキュリティだろが!!変態野郎!!」

「テメエだって同じだろうが!!」

「テメエみてぇに、粛清されるほど変態じゃねぇぞ!!」

「何だと!!」

「やんのか!!」

「・・・外見はスレインさんなのに・・・凄い違和感がありますね。」


ソイツは何かバーバラさんに絡みだした。

ヒヨコと一緒か?

バーバラさんはバーバラさんで違和感がある様だ。

そりゃ、中身が別とは云え・・・今まで何度も敵対していた奴だしな。


「何か・・つれないな、バーバラ。」

「良い解決方法があるぞ?」

「あん?」

「聞きたいか?」

「聞かせろよ。」

「お前の外見が悪い。俺にも覚えがある・・・なまじ、服装が似ている所為で初対面の女性に抱きつかれてプロポーズされた事があった。」

「!!」

「まあ!!」

「で?」

「これを着けろ。」

「これは仮面か?」

「そうだ、俺と同じ仮面。それを着ければ・・バーバラさんがお前に感じている違和感が無くなる。」

「・・・・。」

「ほら、さっさと着ける!!」


スチャ!!


俺はセキュリティ(笑)にリュック爺さんから貰った仮面を着けた。


「な、何しやがる!!って、これ・・・外れねぇぞ!!」

「外れない仮面なら・・・慣れてるだろ?」

「てめぇ!!」


「ワフッ!!ワフッ!!」

「何だ?犬の鳴き声?」


おい、これってもしかして・・・。

あっちから見覚えのある動物が走って来る。


「チャッピー!!チャッピーじゃないか!!」

「ワフッ♪ワフッ♪」

「何だ・・・この変な犬は?」


初めて見たふとん犬に、正直な感想を述べるセキュリティ(笑)

アイツ・・・死んだな。可哀相に・・・。


「チャッピーは愛らしい犬です!!許しがたい暴言です!!『ユリィ・ミラージュ・ブロウ』」


何かよく分からん必殺技が決まった。


「って、シュヴァルツさん!?シュヴァルツさん!!大丈夫ですか?一体誰が、こんな酷い事を!!」

「貴女ですよ?ユリィさん。」

「え?・・・シュヴァルツさん?シュヴァルツさんが二人!!大変です!!分裂しました!!」


いや・・・まあ、当たってはいるけど・・・ちょっと違う。


「わぁ~、本物の妖精さんです~。」

「ええと、貴方はどなたでしょうか?」

「私は闇の妖精のルミィです~。シュヴァルツさんと~一緒に旅をしています~。」

「!!!!!!!!」

「ユ・・ユリィ?」

「シュヴァルツさんの浮気者!!!!私と云う者が居ながら!!新しい妖精を見つけるなんて!!どう云う積もりですか!!!」

「いや・・誤解です。」

「許しません!!大体、貴女はなんなのですか?シュヴァルツさんの事を何も知らないのにパートナー気取りですか!?」

「う~、私だって知っていますよ~。」

「私の方が知っています。シュヴァルツさんは『仮面』で『黒く』て・・『女性が大好き』で『オッパイも大好き』なんです。」


ちょっと待て!!何だそれは!!


「違います、シュヴァルツさんはそんなじゃありません。『闇』で『暗く』て『闇よ!!我が手に集いて力となれ!!』で

『闇よりも深きものよ、我ここに汝に誓わん。』で『言葉は深淵、深淵は闇。身を飲み込みし深き闇の刃よ、奔流となり我が障壁を壊さん!闇式戟慨葬(エターナル・ダーク・フューネラル)』なんです。」


違う・・・。俺はそんなじゃ無い。


その後、俺はスレイン達が総本山にやって来るまで、地獄を味わい続けた。























不思議な状況だ。

スレインとミシェールが総本山へやって来た。

バーバラさんはミシェールと会う心の準備が出来ていないって事で隠れてしまった。

残りのメンバーが遠巻きにスレインを見ていると、スレインは魂のツボを精霊使い長に渡し

自分は成仏しようとして、ミシェールが大反対。

そこへ、リュック爺さん登場。

三枚目が担いできたポッドの中に入っていたホムンクルスに、スレインの魂を移す。

ちなみに、魂を移す術に興味があったので俺は直ぐ近くで見ていた。

術が終わった後、突然スレインが『ミシェール、会いたかったよ!!』って言いながら両手を広げた。

さながら、俺の胸に飛び込んで来い的な感じだ。

スレインってこんな感じの奴だったのか?


「バーバラさん?なんか知りませんが・・・攻撃魔法の詠唱を止めてくれませんか?」

「娘の危機です!!」

「いや・・・大丈夫みたいですよ?」


両手を広げたスレインに対してミシェールが


「貴方・・誰?」


と、冷たい目を向ける。

拒絶されて、傷心のスレインは走り去って行った。


「どう云う事?」

「あっちはグレイさんで・・・あのホムンクルスがスレインさんです。」

「なるほど。」


あっちの方が本体か。

所で・・・グレイって誰?

俺の見ている先で、本物のスレインとミシェールが抱き合っている。

いい話だ。


「・・・・・・バーバラさん、その呪文の詠唱はやめて下さい。」


まあ、こっちもヤバイが・・・あっちもヤバイ。

闇の中に何か潜んでいるぞ?

気配は・・・1、2、・・・二人か。

俺はリュック爺さんに近づくと声を掛ける。


「なあ、そのホムンクルスだけど・・・後、2体くらい創った方が良いと思うけど?」

「何故じゃ?」

「いや・・・修羅場が・・。」

「しかし、ホムンクルスには魂が無いからの。ただ作っただけじゃ動かんぞ?」


・・・それじゃ意味が無いな。


「弥生さん。」

「はい、何でしょう?」

「スレインの精神を三分割して、他のホムンクルスに詰め込むのは可能でしょうか?」

「・・・不可能だと思います。」

「そうですか。」


俺は闇の中に潜む夜叉二人を見ないように目をそらす事しか出来なかった。

それにしても・・・皆さんおモテになる。















「ワフッ!!ワフッ!!」

「どうしたチャッピー?って・・お前、光ってるぞ?」

「どうやら、時間の様です。」

「タイムリミットか。」

「はい。」

「チャッピー、先に行っていろ。俺達も後からすぐ行く。」

「ワウゥ!!」


俺達の目の前でチャッピーが光に包まれて消えた。

そして、ユリィも光に包まれ始めた。


「シュヴァルツさん、お先に失礼します。それから、シュヴァルツさんにもお時間が迫っております。

 時間的余裕はありませんので、お別れは・・・本当に大切な人一人にした方が宜しいかと思います。」


そう言うとユリィも光に包まれて消えていく。

隣で見ていたバーバラさんが俺に問い掛ける。


「今のは一体?」

「如何やら時間の様です。俺達は元の世界に帰る事になります。」

「元の世界?」

「はい、訳あって俺達はこの世界に飛ばされたんです。」

「・・・。」

「バーバラさん、色々と有難う御座いました。貴女には助けてもらいました。」

「いいえ、助けてもらったのは私の方よ。」

「所で・・・一つお願いしても良いですか?」

「なんですか?」

「月の社は・・・ペットOKですか?」

「・・ペット・・・ですか?」

「良かったら、アイツを飼ってやってくれませんか?」


アイツ・・・いわずと知れた、セキュリティ(笑)である。


「おい!!何勝手に決めてんだ!?」

「月の社は女だらけらしいぞ?」

「バーバラ、直ぐに帰るぞ。弥生もだ、早く帰るぞ。」


そう言うと、アイツは弥生さんの肩を抱いて去って行った。気の早い奴だ。


「・・・あんな奴ですけど、よろしくお願いします。」

「一つ聞いて良いかしら?」

「どうぞ。」

「何故、彼を私に預けるのかしら?」

「俺は嫉妬深い人間なんですよ。バーバラさんが他の男と一緒に居る事には耐えられないんです。

 まあ、アイツなら・・・中身は俺なんで、少しはマシかなと思っただけです。」

「そう・・・貴方は、酷い人ね。」

「良く言われます。」

「本当に酷い人。」

「・・・・。」

「分かったわ、私に任せて。」

「有難う御座います。バーバラさん。」

「シモーヌって呼んで。」

「シモーヌ。」


俺達はお互いに顔を近づけ、唇を合わせた。

最後のキスを・・。


















「良いのですか?」

「何がだ、弥生?」

「あの二人の事です。」

「流石に本番を始めたら蹴りを入れてやるが・・・アレくらいは良いんじゃねえか?」

「・・・でも、貴方はシモーヌの事を。」

「シモーヌ?バーバラか。そうだな・・・好きなのかもな。でもよ、アイツの方が好きなんだと思う。

 だから・・・最後くらいは邪魔しちゃ悪いだろ?思い出は綺麗なままでってな。」

「・・・。」

「まあ、明日からは気にしないで攻めて行くけどな。バーバラも弥生・・・アンタも覚悟しな。」

「え!?」


二人の視線の先で、最後の愛を交し合っていた二人は光に包まれる。やがて光が収まると、そこに居た人物は一人になっていた。























スレイン・ウィルダー。世界を救った英雄。後世の人々は、彼を『光の救世主』グローランサーと呼び、二つの世界で彼は英雄と呼ばれる事になった。



ミシェール・リードブルク。月の精霊使いとしての素質に目覚めたのだが、体が弱いと云う事で月の社へ行く事は無く、ポーニア村でスレインと一緒に過ごした。



モニカ・アレン。闇の精霊使いとしての素質はあったのだが覚醒する事は無く、技師として世界中を飛び回った(徒歩で)。

ポーニア村を訪れてはミシェールとスレイン争奪戦を繰り広げた。・・・時々、仮面の人物と奇妙な同行者達の事を思い出した。



アネット・バーンズ。議長である父の手伝いをしつつ、ポーニア村を訪れてはミシェールとスレイン争奪戦を繰り広げた。



シモーヌ・リードブルク。弥生と供に月の社に帰還する。一緒に連れて行った仮面の人物によって、彼女の脱走は全部シオンの所為と云う事で決着した。

その後は、セキュリティの奔放な行動に振り回される事になったが、彼女の顔から笑顔が消える事は無かったという。・・・・時々、鬼にはなったが。



橘・弥生。シモーヌを連れて月の社に帰還する。セキュリティの奔放な行動にシモーヌと一緒に振り回される事が多かったが、彼女自身はどこか楽しそうだったらしい。



セキュリティ。シモーヌに連れられて月の社に行く。体がホムンクルスだった為、精霊使いになる事はなかった。社の食料生産数と人口数向上に貢献した。。



グローリア。シオンが倒され、彼の纏っていた闇の波動が消えた時、彼女もこの世界に留まる事が出来なくなり消失した。










シュヴァルツ・セキュリティ。彼の名はポーニア村を始めとするごく一部に伝えられた。


彼は『仮面の鍬使い』『闇の調停者』『鍬の開拓者』クワーランサーとして呼び伝えられた。


ポーニア村にある彼の銅像の足元には奇妙な犬。そして、肩先には妖精が寄り添う様に座っていた。

























「帰ってきたのか?」


俺は僅かに残る唇の感触に浸りながら、辺りを見回す。


「名前を呼んだらサヨウナラか。」


・・・・さてと、チャッピーとユリィを探すか。


そうだ・・・俺達の冒険はまだまだこれからだ!!




























後書き


この作品は見切り発車で始まりました。最初のストーリーはキャラメイク失敗した主人公が、グローランサー6終了後の世界を、仮面をつけ旅するドタバタギャグ的な感じになるはずでした。

一応、書き始まったと同時にグローランサー6を最初からプレイし直し、クリアしましたが、原作と違う決定的なミスが発覚しました。

エンディングで、『スクリーパーが存在しない世界になった』と言う一文を発見。そのミスを隠すために、色々と独自の設定を作ったりと

まあ、そんなグダグダな始まりでした。



最後にこの作品を読んで下さった皆様に、質問をさせて貰います。




この作品『クローパイツァー 黒の不審者伝説』ですが、面白かったでしょうか?
























[24765] 第二十五話 先送り
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/03/23 21:56

























第二十五話 先送り



















「おーーい!!チャッピー!!ユリィ!!居たら返事してくれ!!」

「・・・奇妙な犬の次は妖精・・・そして、今度は人間かえ?」


女の声?囲まれているな。


「えーと、どちら様でしょうか?」


俺の問い掛けに対し、声の主と思われる女性が近づいてきた。

背中に羽?フェザリアンか?


「我はフェザリアンの女王ステラ。」

「私はシュヴァルツと云います。見ての通りの人間です。」

「話に聞いた通り、奇妙な格好だな。」

「それで・・・私を拘束しますか?」

「わかっている様だな。余計な抵抗はするな。」

「そうですね・・・先に私の質問に答えて下さい。その質問の答えによって抵抗するかしないかを決めさせて貰います。」


俺の答えに対し、数人のフェザリアンがいきり立つ。


「!!」

「貴様!!」

「どう言うつもりだ!!」


しかし


「止めよ。」


女王の一言で静まる。


「・・・先程、奇妙な犬と妖精・・と仰っていましたが、それはチャッピーとユリィの事ですか?」

「そうだ。」

「今、彼女達はどうしていますか?」

「このフェザーランドに居る。」

「拘束した後、私の身柄はどうなるのですか?」

「ふむ・・・お主が危険で無いと判断した後は自由の身となろう。それまでは、フェザーランドの一室で過ごしてもらう。」

「軟禁ですか?」

「そうだ、奇妙な犬と妖精も一緒に軟禁させてもらう。」


それは用意周到な事だ。


「幾つか要求があります。」

「要求とな?」

「はい、これを聞いて頂けない場合は全力で抵抗させて貰います。」


俺の要求に対し、複数のフェザリアンがいきり立つ。


「ふざけるな!!」

「何様だ、人間!!」

「直ぐに拘束するべきです!!」


まあ、当然だろう。

しかし、


「止めよと言っている。」


女王の静かだが良く通る声によって制止される。


「言ってみよ。」

「一つめはチャッピーの事です。ふとん犬は毎日散歩させないとストレスが溜まり健康に良くありません。

 ですので、一日一回は散歩に連れて行って下さい。」

「ふむ、了解した。それで、他にもあるのだろう?」

「次はユリィの事です。妖精は植物からマナを貰って生きています。なので、一日数回の外出を許可して下さい。」

「なるほど、命に関わるのであれば仕方あるまい。許可しよう。それで、次は何を要求する気か?」

「次?・・・いや、特に考えて居なかったなですね。」

「なんだと?」

「あ、そうだ。私の事を『黒人間』って呼ぶのは勘弁して下さいって事でどうですか?」

「・・・それは、善処しよう。」


・・・善処かよ。


「分かりました。貴方達に拘束されます。どうぞ。」


そう言って俺は双剣を腰から外し、鞘の先の方を持つと、グリップの方を女王に差し出した。


「ん?・・・随分と奇妙な差し出し方だな。」

「そうですか?私としては誠意を・・いえ、敵意が無い事を示した積もりなんですが。」

「如何言うことだ?」

「例えば、こう逆に差し出したとします。女王様は鞘の方を持ってください。」

「ふむ・・こうか?」

「はい、では行きます。」


俺は女王様が剣の鞘の方を、持った事を確認するとグリップの方を握り、剣を一気に抜き去った。


「・・・なるほど、確かに先程の受け取り方の方が安全だな。」

「はい、この体勢なら一気に切り込めますしね。」


何か周りの奴等が戦闘態勢を取り始めたので、俺は急ぎ剣を引く。

そして、鞘を受け取り剣を収め、改めて女王様に差し出す。


「そなたの誠意、確かに受け取ったぞ。」


・・・この女王様、かなり肝が据わっている。

















あれから俺は牢屋では無く、反省室と云う所にぶち込まれた。

確かに牢屋では無い。ベットに机、本棚、イス等など、生活に必要と思われる備品は一通り揃っている。

ここが俺の新しい城になるのか。

案内された部屋の中には、先客であるユリィとチャッピーが居た。


「ユリィ、久しぶりだな。チャッピーも。」

「シュヴァルツさん!!お久しぶりです。」

「ワフッ!!」


二人は俺の気の聞いた挨拶に対し、まともに返してきた。

一体どう言う事なの?


「シュヴァルツさん、私がここに着いたのは三日ほど前になります。

 チャッピーは私が着く更に三日前だそうです。」


三日?俺の感覚では精々数分だったはずだが・・・随分と時差があるらしい。


「所でユリィ。一体ここは何処だ?そもそも、俺たちは元の世界に帰るはずだったんじゃないのか?」

「・・・どうやら、この世界は時空融合計画で融合した先の世界の様です。」

「時空融合計画。」


ああ、あのフェザーアイランド本島にあった時空制御塔で色々とやっていた奴か。


「ただ、当時からかなり時間が経過している様です。」

「俺やユリィ達でも時差があったんだからな。当然と言えば当然か。」

「はい。大体数百年ほどです。」

「はぁ!!数百年!?」

「はい。なので、当時の詳しい事情は分かりません。」

「・・・そうか。」

「それから、何故この世界に来たのかですが・・・詳しくは分かりませんが、私の感覚によると、

 時空の狭間内にあった道の様な物にそって流されたのでは無いでしょうか?」

「道?」

「はい。ですが、シュヴァルツさんの場合は少し違うようです。シュヴァルツさんが・・・正確にはシュヴァルツさんの着ている鎧が

 何者かに呼ばれた、あるいは引き寄せられたのではないかと思われます。」

「・・・この鎧か。」

「はい。」


本当に面倒くさい鎧だな。


「それで、帰る方法はあるのか?」

「シュヴァルツさんの鎧を引き寄せた原因を取り除き、なお且つこの世界にある時空の歪みをそれなりに安定させれば自動的に帰還できるはずです。」

「また歪みか。」

「はい。実はこの世界は不自然な形で存在しているので、常に歪みが発生しているらしいのです。」

「そりゃ、時空融合なんて形で無理やり作ったらしいからな。まあ、なにはともあれ・・・また、一緒にかんばる事になったな。

 改めてよろしくな。」

「此方こそ、よろしくお願い致します。」

「ワウッ。」


さて、心機一転頑張るか。

当面の俺の目的は・・・・この部屋の中で大人しくしている事だな。


























中々快適な部屋だな。

俺の中の『過ごし易い牢屋ランキング』の中でダントツに一位だな。


「まあ、牢屋では無いからな。」


で、俺の目の前には女王様が居る。

一日に一回は俺の所にやって来る。


「シュヴァルツ、お前はそんなに沢山牢屋に入った事があるのか?」

「まあ、初めて行った街では大抵入る事になります。」

「なるほど。残念だが・・このフェザーランドには牢屋は無いのだ。」

「いえ、別に牢屋が好きな訳では無いですよ?」

「そうか。」


三十分ほど当たり障りの無い会話をした後、彼女は去っていった。

彼女が帰り、しばらく経つとユリィが部屋に戻ってきた。

現在、この反省室には人間用の扉とは別に、妖精用の扉とふとん犬用の扉が新たに設置された。

なので、ユリィとチャッピーは自由に出入り出来る様になっている。


「どうして毎日シュヴァルツさんに会いに来るのでしょうか?」

「俺の人となりを観察しているんじゃないのか?危険人物か安全人物かって事だ。」

「・・・シュヴァルツさん。」

「そう落ち込むな。俺だって時々は外に出して貰えるんだし(監視付きだが)、この部屋だって中々良い部屋じゃないか。

 そんな事より・・・そろそろ時間だな。」

「そうですね。」


これ以上の会話はユリィを落ち込ませる事になるので、俺は強引に話題を切り替えた。

どうやら、ユリィは自分が自由に外出出来る事を後ろめたく思っている様だ。

俺としては、そんな些細な事で罪悪感を持って欲しくない。


「ワフッ♪ワフッ♪ワフッ♪」


上機嫌のチャッピーが帰ってきた。

お前は少し持った方が良いぞ?

そんな事を思っていると、隣の部屋から歌が聞こえてきた。


「小鳥の声が~♪さえずるよ♪」


いつ聞いても良い歌だ。

俺もユリィもチャッピーもこの歌を楽しみにしている。






















「なあ、ユリィ。歌は得意か?」

「歌でしょうか?その昔、コンクールで少々・・・。それで、歌がどうかしたのでしょうか?」

「・・・実は、いつも聞いてばかりだとアレだろ?たまには、お返しと言うのをしても良いんじゃないか?」

「なるほど、アレですか。シュヴァルツさんの目立ちたがりが疼くと云う訳ですね。」


それは何とも酷い誤解だ。


「で、お返しに歌をって訳だ。」

「歌ですか。確かにいい考えですが、私はそんなに沢山の歌は知りませんし・・。」

「大丈夫だ、俺もそんなには知らない。」

「・・・・。」

「で、俺とユリィが知っているあの歌で。」

「あの歌?」

「モニカが別れの宴で歌っていた歌だ。」

「あの歌ですか。分かりました。」

「よし、じゃあ練習だ。コッソリと・・・お隣さんに気付かれない様にな。」

「はい、コッソリですね。」


こうして俺達の秘密の計画が進行していった。























空に浮かぶフェザリアンの国。フェザーランド。

その一角にフェザリアン達が集まっていた。


「そろそろだな。」

「ああ。」


その光景を発見したフェザリアンの女王ステラは不審に思い、彼らに声を掛ける。


「この様な所に、皆で集まって何をしている?」

「女王陛下!・・実は、歌を待っているのです。」

「歌?」

「はい、皆歌を聞きに集まったのです。」


ステラに質問された者達は、若干の気まずさを感じながら返答した。

『歌を聞きにとは何だ?』ステラがその疑問を口にするより先に、辺りに歌が聞こえ出す。


「ラララ~ラ♪ララ~ララ♪ラ~ララ~ラ~ラ♪ラ~ララ~ラ♪(著作権フィルター作動)」


フェザリアンは合理的で集団行動を重んじる種族であり、感情の起伏が人間より薄い。

それは、感情を表さない事が美徳とされるのが、彼らの文化である為だ。

だが、そんな彼らが大事にしている合理的で無い文化がある。

歌だ。彼らは歌を大事にしている。

ステラは多くの責任と義務を持つ女王だ。だが、それ以前にフェザリアンでもある。

とりあえず、彼女は様々な疑問を先送りにして、流れてくる歌を聞く事に集中した。


「ラララ~ラ♪ララ~ララ♪ラ~ララ~ラ~ラララ~♪ラ~ラララ~ララ~ラ~♪(著作権フィルター作動)」

























今日のライブも無事に終了した。

最初は、お隣さんが歌い終わった後に、俺とユリィが例の歌を歌うと云う感じだったのだが

やがて、お隣さんが俺達の歌を覚え、それからは俺達と一緒に歌う様になっていった。


「今日も中々だったな。」

「はい。そうですね。それにしても、お隣さんは本当に歌が上手ですね。」

「お隣さんもそうだが、ユリィだって上手だぞ。流石はクイーン・オブ・ディーヴァだ。」


その時だった。

遠くから足音が近づいて来る。


コツ!コツ!コツ!コツ!


あの感じは・・・女王なのか?

だが、何時もと若干違う感じがするが・・・。

そして、足音が部屋の前で止まり・・・扉が開く。


「あの歌を歌っていたのはお主らか!?」

「はい。」

「あ・・・後・・お隣さんも一緒に・・・。」

「隣?ジーナか。」

「隣の方は、ジーナさんと言うのですか?」

「・・・そうだ。」

「彼女は・・何故反省室に?」

「・・ジーナは我々の戒律を破り、地上で人間とすごした。それが、ジーナの罪だ。」

「だから、この反省室に?」

「そうだ。」

「一体どれ位・・入っているのですか?」

「そうだな。二十年になる。」

「じゅっ!!!二十年!?そんなに!!」

「そうだ。」


ソイツはまた、トンでもない話だな。


「その・・・フェザリアンにとって地上で過ごすと云う罪は、そんなに重い罪なのですか?」

「ふむ・・・、我々フェザリアンと人間では、大分認識が違う様だな。問題は罪の重さでは無く、ジーナが反省していないと云う事なのだ。

 ジーナが地上で過ごした事を反省して居るのならば、明日にでも反省室からでる事も出来よう。」

「なるほど・・・だから、牢屋では無く・・・反省室なのですね。」

「そうだ。」

「・・・女王様、お願いがあるのですが?」

「なんだ。言ってみよ。」

「隣のジーナさんに会わせて貰いたいのですが?」

「面会の希望か?」

「はい、出来れば女王様にも同席して欲しいのですが?」

「なるほど、誰かが同席しても良いのなら許可も出易いと考えたのか。理に叶っているな。」


いや、ちょっと違うんだが・・・まあ、いいか。


「分かった。話を通してみよう。」

「有難う御座います。」

「だが、許可が出なかった場合は素直に諦めよ。」

「はい。承知しています。」


俺は退出する女王を見送る。


「シュヴァルツさん・・・女王様の前だと、とてもいい子ぶるのですね?」

「ユリィ、俺はTPOを弁えているだけだよ?」


いい子ぶるなど、とんでもない。
























隣のジーナさんへの面会申し込み許可は、アッサリと通り、次の日には面会できる事になった。

一応は、女王の立会いの元の面会になったのだが、俺としては願ったり叶ったりだった。

ちなみに、俺達の事は一応説明してあるらしい。


「初めまして、最近お隣に越して来たシュヴァルツといいます。」

「妖精のユリィと申します。」

「ワフッウ。」

「こっちがふとん犬のチャッピーです。」

「まあ、とても賑やかなお隣さんですね。私はジーナと申します。よろしくお願いしますね。」

「此方こそよろしくお願いします。・・・それにしても、この挨拶は何か変ですね。」

「そうですね。」


俺たちは挨拶を交わした後に、お互いに軽く笑いあう。

ジーナさんは確かに、他のフェザリアンとは違った雰囲気を感じる。

恐らくは、地上で人間と過ごしていた事があるからだと思う。


「それで、ジーナさんは・・どういう経緯で、地上で過ごす事になったのかをお聞きしたいのですが?」

「・・・そうですね。この事を話すのは、随分と久しぶりになりますね。」


ジーナさんの説明によると、羽を怪我して飛べずにいた所を人間に助けられた。

やがて、その人間に興味が沸き、羽が治ってからもその人間と一緒に暮らす様になり

やがては、その人間との間に子供を授かったが・・・仲間のフェザリアンに見つかり連れ戻され、以降この反省室に居る

との事だった。


「で、反省していないって事で、この反省室から出る許可が出ないって事ですか?」

「はい。私は夫も息子も愛しています。人間を愛した事が間違っていたと認める事は出来ません。」

「と、言う事ですが・・・女王様のご意見は?」

「ふむ、ジーナが掟を破り、地上で過ごした事は紛れも無い事実だ。よって、自らの罪を認めるまではこの反省室から出す訳には行かない。」


なるほど、そう云う事か。


「お互いの主張は良く分かりました。つまり、論点がずれているって事ですね?」

「「え?」」

「まず、ジーナさん。貴女は・・・理由はどうあれフェザリアンの掟を破った訳ですから、その点に置いては罪を認めるべきでは無いでしょうか?」

「しかし・・・私は・・。」

「旦那さんとお子さんの事は別の問題です。」

「別の?」

「はい、別の問題です。女王様、フェザリアンの掟に『人間と結婚してはいけない』『人間と結ばれてはいけない』

『人間との間に子供を作ってはいけない』と云う戒律はありますか?」

「・・・そういった戒律はないな。そもそも、フェザーランドから出て地上で暮らすのを禁じている戒律に含まれる・・と、認識している者もいるとは思うが

 明確にそういった事を禁止する戒律は無い。まあ、実際・・このフェザーランドに居る人間はお主だけだがな。」

「つまり、私がフェザーランドでフェザリアンと結婚したり、子供を作っても問題は無いという事ですね?」

「ふむ・・・そういう事になるな。もちろん、相手との合意の上でだがな。」

「それは!!大変危険です!!特にジーナさんが危険です。」


突然、俺達の会話に割り込んでくるユリィ。


「え?」

「どう言う意味だ?ユリィ?」

「シュヴァルツさんは女性が大好きです。特に年上の子持ちの人妻には目がありません!!きっと、ジーナさんに手を出すに違いありません!!」

「そうなのか?」


ユリィの爆弾発言に反応した女王が俺に問い掛けてくる。


「女性が大好きなのは事実ですが、特定の範囲に趣向が偏っている事も否定はしませんが・・・ユリィの発言には大分誤解があります。」

「ふむ・・・合意の上なのだな?」

「はい。」

「ならば良し。」

「良くありません!!」


この女王・・・所詮は人事って感じでジーナを売った。

売られたジーナの方は、不愉快極まり無い様子だ。


「大丈夫です、ジーナさん。シュヴァルツさんは女王様の様な方も大変好みです。きっと、皆で仲良くなれるはずです。」


ユリィ、貴女の中に住んでいる俺はどれだけ節操が無いのですか?


「・・・至急、人間とフェザリアンの婚姻についての戒律を作らねばならぬな。」


女王様?貴女は貴女で何言っているんですか?

それに、その行為には問題がある。


「女王様、戒律や法律を早期適応や遡って適応するのは・・・色々と問題があると思いますよ?」

「・・・・確かにそうだな。仕方ない・・・我とジーナの二人が犠牲になる事で、他の者達が救われるというのであれば・・・犠牲になろう。」


ダメだこの人。素でボケてる。

とても俺の手に負えない。


「ユリィ、冗談はその辺にして置く。・・・女王様、話を戻しても良いですか?」

「何?今の話は冗談だと云うのか?」

「丸っきりの冗談ではありませんが、その話は後日という事で、今は真面目な話をしましょう。」


俺は強引に話題を戻す。


「えーーと、何だっけ?・・・と、そうだ。ジーナさんは地上で人間と一緒に暮らしてニャンニャンして子供を作って生んだって事ですよね・」

「は・・はい。」

「ニャンニャン?ニャンニャンとは何の事だ?」


女王様、変な所に喰い付かないで下さい。


「女王様、後で説明します。ジーナさん、先程の事で問題だったのは地上で暮らした事だけです。その事について、何か反論等はありますか?」

「・・・・。」

「きっと、フェザリアン達は行方不明になったジーナさんを必死に探した事でしょう。」

「・・・・その事については・・反論はありません。女王陛下・・・私の軽率な行動で皆に迷惑を掛けました。申し訳ありませんでした。」

「ジーナよ。そなたの謝罪・・確かに聞き届けた。シュヴァルツ、この度は色々と手間を掛けさせたな、礼を言う。

 まさか、人間であるそなたに仲裁されるとはな。我々も人間を少しは見直す必要があるという事か。」

「女王様、それは違うと思いますが?」

「え?」

「何?どう言うことだ?」


俺の思いがけない言葉に対し、女王もジーナさんも目を丸くする。


「私はフェザリアンと云う種族を『集団行動する種族』『種族全体の利益を優先する種族』

 『自分の意思より全体の意思を優先する種族』と認識していますが間違っていますか?」

「人間から見ればそうなのだろうな。まあ、我々からすれば普通の事なのだが・・その認識で間違ってはいまい。」

「では、人間と云う種族についてはどの様な認識ですか?」

「・・人間か。我々の認識では自分勝手で我が強い・・恩知らず、と云った所か。」


僅かに躊躇った後に女王から辛辣な人間への評価を聞く事が出来た。

思わず、ジーナさんがその評価に対して反論する。


「女王陛下!?確かにそういった方々も居る事は確かですが・・・中には。」

「構いませんジーナさん。」

「しかし・・。」

「私は人間全体に対する評価を聞いたんです。ジーナさんに聞くと旦那自慢になってしまうのでは?」

「う・・。」


思わず返答につまるジーナさん。


「それで、その評価がどうかしたのか?」

「はい、例えば何処か遊びに行く事になった場合ですが、フェザリアンは多くの者が海へ行きたいと言ったら海へ行く。

 しかし、人間はそれぞれ好き勝手に自分の行きたい所へ行く。ある者は海へ、またある者は山、別の者は川へ。

 他にも、何処にも行かない者や料理を作る者、木を切る者にレンガを作る者・・・と云った具合になるはずです。」

「つまり、自分勝手と云う訳だな。好意的解釈をするなら、個性的とも言えるが・・。」

「そういう事です。」

「で、それが如何かしたのか?」

「まあ・・あれです。私一人の行動を見て、人間全体に対する認識を改めたりする必要は無いって事です。

 精々、シュヴァルツと云う一人の人間に対する評価や認識を改める程度にして置いて下さい。」

「「・・・。」」

「正直、人間の中にはどうしようも無い奴だっていますしね。」

「わかった。では、シュヴァルツという人間に対する評価を改める事にしよう。」

「よろしくお願いします。」

「まあ、改める必要も無いと思うが・・。」

「?」

「今日は中々有意義な時間だった。ジーナの事は我に任せておけ。」

「はい、よろしくお願いします。」

「シュヴァルツさん、色々と勉強になりました。有難う御座います。」

「所でシュヴァルツ・・・ニャンニャンとは何だ?」


俺がカッコいい事を言ってしめた雰囲気が、女王の一言で一瞬にして砕け散った。





















[24765] 第二十六話 検証
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/03/28 21:12

























第二十六話 検証


















「シュヴァルツさん、ちょっと宜しいですか?」

「どうした、ユリィ。改まって・・。」

「先日のジーナさんと女王陛下との話し合いの件ですが・・・・。

 シュヴァルツさんは女王様を意図的に擁護している様に感じたのですが?」

「ん?ユリィには、分かったか?」

「はい。何故あの様な事をしたのですか?」

「うーん、不自由な女性を自由にしてあげたいってだけじゃダメ?

 ジーナさんが掟を破ったのは事実だしな。それに、20年以上ずっと停滞していた訳だろ?

 どんな方法であれ、前進出来る様にした方が良いだろ?まあ、もっと良い方法があったら俺もそうしたんだが・・・思い浮かばなかったからかな?」

「つまり、意地を張っていないで大人になれって事ですか?」

「そうだ。実際の所、ジーナさんがフェザリアンだったから上手く行って、最終的には謝罪したんだと思う。

 フェザリアンだったからこそ、フェザリアンの掟を守ると云う事が本能的に体に染み付いていたって事だ。

 もし、ジーナさんが人間だったら・・・・ふざけんなって感じで俺がブッ飛ばされていたはずだ。」

「そうかもしれませんね。」

「俺でもそうするさ。」

「シュヴァルツさんはもっと過激だと思います。」

「分かるのか?ユリィ?」

「はい、私も同じですから。」


俺とユリィは互いに顔を見合わせて、軽く笑った。


「では、最後に人間への評価が云々と言うのは?」

「あれか?あれは偶々、良い人間と知り合ったジーナさんが人間って素晴らしいって幻想を抱いている様な気がしたから・・。」

「その幻想をぶっ壊した訳ですね?」


ユリィさん、口が悪いですよ?





















「そう言えば言い忘れておったが、シュヴァルツよ。お前の軟禁が解かれたぞ。これからは自由に外出して良い。」


今日は朝一から女王の訪問があった。


「ありがとう御座います。それで、・・・ジーナさんの事は?」

「現在協議中だ。時期に結果がでるだろう。それより、ついて参れ。」

「えっと、何処へ行くんですか?」

「フェザーランドを案内してやろう。」

「・・・ありがとう御座います。」


その後、俺は女王に連れられてフェザーランド内を練り歩いた。

その最中、多くのフェザリアンがこっちを見てコソコソと何か話しているのを見かけた。


「皆ソナタに興味がある様だ。」

「それにしては随分と警戒している様ですが?」

「それは仕方あるまい?何しろ、ソナタはこのフェザーランドにやって来た初めての人間なのだ。

 それに、多くの者は人間を見るのは初めてのはずだ。」

「なるほど。所でジーナさんの件の様に、地上・・・つまり、人間の社会と関わる様なトラブルが発生した時なんですが

 一応人間社会にも法があると思いますので、あまり強引なやり方は避けた方が良いと思います。」

「ふむ、忠告として受け取っておこう。」


その後、俺は女王にフェザーランド内を案内して貰った。

途中、フェザリアンの子供達と遊んでいるユリィとチャッピーを見かけた。

如何やら、上手く溶け込んでいる様だ。

俺も何かする事を見つけないと・・・。


それよりも、ずっと気になっていた事がある。


「女王様。この空中に漂っている光りの玉は何ですか?」

「これか?これは『グローシュ』と云うものだ。」

「グローシュ?」

「そうだ。我々フェザリアンは魔法を使えないが、人間はこのグローシュを使って魔法を使ったり、様々な魔法装置を動かしている。

 時空融合以前の我らの居た世界には、大気中に無数のグローシュが満ちており、結果人間達は思うがままに魔法を使う事が出来た。

 だが、この世界にはグローシュが存在しなかった為、人間は思うように魔法を使う事が出来ない。」

「えっと、すいません・・・グローシュは存在しないと言いましたが?それじゃあ、この光っているヤツは一体?」

「これは、時空に出来た僅かな歪みを通り、あちらの世界から流れ出てくるグローシュだ。」

「なるほど。」

「だが、何事にも例外は居る。」

「例外?」

「日食や月食の期間中に生まれた者は『グローシアン』と呼ばれ、元の世界とのチャンネルを無意識に開く事が出来、

 結果として強力な魔法を扱う事が出来る。」

「・・・グローシアンか。」

















僅かな望みを託し、検証を行ったのだが

やはり、俺はグローシアンでは無い。

元の世界とのチャンネルを無意識に開く事が出来る人物をグローシアンと云う。

俺はチャンネルを開く事は出来ない。

つまり、あっちの世界に居た連中はグローシアンでは無く、グローシアン並みに魔法を使う事が出来た人間って事だ。

グローシアンとは、この世界の過酷な環境が生み出した特殊な人間って事になる。


「ユリィ、面倒な事になった。」

「面倒ですか?」

「ああ、何でもこの世界ではグローシュが無いから、思い通りに魔法を使う事は出来ないらしい。」

「その話なら女王様から伺いました。」

「クソッ・・・これまで通り、満足に魔法を使えなくなると思うと・・・・・。」

「・・・・シュヴァルツさん、魔法を使えたんですか?」

「・・・・たまに使ってたじゃないか。」

「治療くらいじゃあないですか?」

「いざって時に使えないのが不安なんだよ。」


























ってな訳で、空いている土地を貸して貰って畑を作り始めました。


「ふむ、自分から働くとは殊勝な心がけだな。」

「・・・いつまでもただ飯を食らうのも、気分が悪いので。所で野菜の種を貰ったんですが、種類が少なくありませんか?」

「地上に行けばもっと沢山の野菜があるが、ここは空に浮かんでいる土地なのだ。仕方あるまい。」

「・・・確かに。」

「まあ、種は無いが人員を少しまわそう。」

「良いんですか?」

「ああ、何しろこの畑が成功すればフェザーランド全体に恩恵を与える事になる。

 一応、準国家プロジェクトに指定した。」

「はぁ!?」


何故に?

俺が軽い気持ちで始めた行為が、国家事業?


「それから、ソナタを農業改革推進委員長に任命した。」

「いや、されてませんが?」

「今した。」

「・・・・。」

「安心しろ。正式な手続きは昨日済ませた。他の者達にも許可は取ってある。」

「いや・・・俺ってば人間だもの。」

「人間だがシュヴァルツではないのか?」

「確かにシュヴァルツですが・・。」

「ならば良いではないか。」

「良いのか?」


何かとんでもない事になった。

























少し前にとんでもない事なったシュヴァルツです。

今回、更にとんでもない事になっています。

現在、俺は会議に出席している。

周りには女王を始めとするフェザリアンのお偉いさんがズラリと座っている。


「では、これより最高議会を開催する。これから取り組む国家プロジェクトを決める。

 先日の会議では準国家プロジェクト『農業改革事業』が可決され、そこに居るシュヴァルツを農業改革推進委員長に任命した事は皆が承知の事と思う。」


出席者が一斉に俺の方を見る。


「よ・・よろしくお願いします。」

「農業改革事業の方は、しばらくは様子見になる。今回はその結果を待つ間に行う国家プロジェクトを決めたいと思う。」


フェザリアンは種族全体で一つの研究やプロジェクトを行い、それを完成させると次の研究やプロジェクトを行うと云う独特の文化?を持っている。

重要なのは種族全体でっていう事だ。人間では無理だな。


「何か提案のある者は居るか?」


俺は一応は役職を貰ってはいるが、部外者に近い。

それに、フェザーランドの事も詳しくは知らないので

会議の間終始黙っていたのだが・・・。


「シュヴァルツよ、何か意見は無いのか?人間であるソナタの意見を是非聞いてみたい。」


おい!!こっちに話を振るなよ!!

女王の余計な一言で、一斉に出席者達が俺の方を向く。

皆、期待をする、あるいは値踏みをする様な表情で俺を見る。

とりあえず、適当な事を言って誤魔化すしかない。


「えーと、実はこのフェザーランドなのですが・・空に浮いて居るのですよね?」

「ああ、そうだ。ソナタも自分の目で見たであろう?」

「はい、何かの魔法装置で浮かせているのですか?」

「そのとおりだ。詳しい説明をしても良いが、ソナタでは理解できまい?」

「はい、何分不自由な頭ですので・・・。それでその装置なのですが・・突然停止したりって事は無いですか?」

「現在、24時間体勢で管理している。その様な自体が起こる可能性は極めて低いだろう。ただ、ゼロではないが・・。」


一応、予想通りの答えが返ってきた。


「停止したからと云って何だと言うのだ?」

「そうだ、警報装置は別途であるのだ。非常時には、飛んで逃げれば良いだけではないか。」

「そうだ。」


俺の事を快く思っていないメンバーの何人かが、女王の発言に続いて意見を述べるが


「いや、私人間なモノで・・・飛べないのです。」


俺の的確な返答で、一気に沈黙する。


「それに、飛んで逃げた所で『フェザーランド』は無くなってしまうんじゃないですか?

 新たに作れば良いかも知れませんが、その間は皆さん・・・大嫌いな人間達と一緒に地上で暮らす事になりますよ?」


俺の更なる追い討ちで、メンバーの顔が一気に青ざめる。

って、そんなに人間が嫌いか?


「それで、シュヴァルツよ。ソナタの提案はどの様な事なのだ。」

「そうですね、現在の装置が停止した時に発動する非常装置の設置とか、

 現在の装置を無効化された時の為に別の理論や技術でフェザーランドを浮かせる方法を研究すると云うのはどうでしょうか?」

「なるほど、空を飛べない人間ならではの発想か。・・・我々には無い斬新な発想だ。

 では、次のプロジェクトは農業改革推進委員長が提案した『フェザーランド浮遊予備装置開発』及び
 
 『フェザーランド浮遊における新理論技術確立』で行いたいと思う。」

「「「「「「「「異議無し!」」」」」」」」


え?異議無いの?

何か知らんが、俺のいった案件が通ってしまった。















「どうした、浮かない顔をして。」

「いや、本当にあの案件が通ると思わなかったので・・・。」

「そうか?我としては、素晴らしい案だと思ったのだがな。実際に、反対は無かったであろう?」

「まあ、そうなのですが・・・え?」

「如何した?」


今俺の目に、在り得ない光景が飛び込んできた。


「いえ・・ちょっと、疲れているだけです。変な幻覚が見えたので・・・。」

「幻覚?」

「はい、チャッピーが空を飛んでいる様に見えたので・・・。」


俺は両目をつぶり、心を落ち着かせる。


「チャッピー、あの珍妙な犬の事か。ふむ・・・確かに飛んでいるな。」

「え?」


隣に居る女王に促されて、もう一度見てみると・・・・確かに飛んでいる。

チャッピーが飛んだ?

フェザリアンの子供達と遊んでいるチャッピーが飛んでいる!!


「・・・最近の犬は飛ぶのだな。」


俺は唖然としながらも、チャッピーを観察する。

隣に居る女王も、終始無言でチャッピーを見ている。

俺達が見守る中、チャッピーは器用に木に登る。

そして、木から飛び降りると同時に両手両足を広げ、まるですべる様に空中を飛んで行く。


「ふむ、あれは飛ぶというよりは滑空していると表現するのが正しいな。」

「チャッピー!!ちょっと、こっちへ来てくれ。」

「ワフッ?」


俺に呼ばれたチャッピーが首を傾げながらやって来る。


「チャッピー、ちょっと失礼。」

「ワフ。」


俺はチャッピーに一声掛けると、チャッピーの体を調べ始めた。

横では女王も興味深そうに見ている。


「なるほど、この布団・・・いや、毛布部分の端っこに前足と後ろ足を引っ掛けて

 ムササビの様に滑空していたのか。」

「ワウ。」

「ふむ、生き物の進化とは・・・凄まじいものだな。空を飛ぶ為に犬がこのような布団を被る様になるとは・・・。」

「いえ、女王様?それは凄い誤解です。チャッピーの滑空は進化では無く、技術の様なもので・・・布団を被っているのは寒さに強くなるためで・・。」

「しかし、その犬は布団では無く、毛布を被っているのだろう?」

「それは、ふとん犬は暑さに弱いので・・・布団部分を薄くする事で暑さに強くなろうと進化したのではとの考察です。」

「・・・・それは、何か可笑しくないか?」

「私の口からは何とも言えません。」

「そうか。」


それにしても、ふとん犬は無限の可能性を秘めている。

俺は改めて、ふとん犬の奥の深さに感銘した。




















「シュヴァルツ・・・いや、農業改革推進委員長。」

「何ですか?改まって・・。」


今日も朝一から女王の訪問を受けた。


「実はジーナの反省室からの外出許可が正式に決まった。」

「本当ですか?」

「ああ。それで、ジーナにも仕事をして貰う事になるのだが、配属先はソナタの元になった。」

「俺・・いえ、私の所と言いますと農業改革事業ですか?」

「そうだ。ジーナは地上に居た時に、農作業の手伝いをしていたのだ。それで、ソナタの手伝いが出来るのでは無いかと思ったのでな。」

「なるほど、そうでしたか。」

「本人には既に知らせてあるが、一応挨拶をして置くと良い。」

「分かりました。」

「ジーナの部屋は隣の部屋だ。」

「隣って反省室ですよね?」

「ソナタもずっと反省室に住んでいるではないか。」


いや・・・だって、この部屋・・凄く居心地が良いんだもん。

まあ、そんな訳でお隣に挨拶に行きました。


「こんにちは。隣のシュヴァルツです。」

「どうぞ、入ってください。」

「失礼します。」


俺を部屋に招き入れ、お茶を出してくれるジーナさん。

出されたお茶を一口飲んでから本題に入る。


「既にお聞きかと思うのですが、農業改革事業の方で一緒にやって行く事になりましたので、その挨拶に来ました。」

「農業改革事業ですか。なにやら難しそうな名前ですね。」

「実際の所は畑を耕して野菜を作るだけなんですが・・・。」

「そうですか。」


その後、ただ静寂のみがこの場を支配する。


「・・・・もし、私が・・・地上へと逃げて仕舞ったら、如何するのですか?

 恐らく責任者である貴方は罰せられるはずです。」

「会いたいのですか?お子さんに。」

「会いたいかですって!!会いたいに決まっているじゃないですか!!」


会いたい・・か。

もう一度、会えるとしたら会って見たい。

・・・こっちに来てから、考えない様にしていたのだが・・・。

・・・・ダメだな、今はまだ考えるべき時じゃ無い。


「聞いているんですか!!」

「・・すいません。途中から聞いていませんでした。」

「!!」

「えっと、確か『会いたい』でしたっけ?」

「貴方!!」


俺に対して激怒するジーナさん。

フェザリアンがこんなに感情をあらわにするのは珍しい事だな。

しかし、そんな彼女も次の瞬間に、俺の口にした言葉で一気に沈静化する。


「会いに行けば良いんじゃないですか?」

「え?」

「どうしても会いに行きたいんだったら・・・・行くべきですよ。

 今の貴女は自由なんですから、会いに行けるでしょう?」

「・・・・。」


場が気まずい空気に支配される。

俺は出されたお茶を飲み干すと、無言の彼女に礼を言って部屋を後にした。




















[24765] 第二十七話 憤怒
Name: 豆◆f0891c05 ID:1b655e2c
Date: 2011/04/26 21:28

























第二十七話 憤怒



















「アレは一体どう言う事だ!!」


その日、俺は朝一で女王と会っていた。

何時もは彼女の方から家にやって来るのだが、今日は違った。

俺の方が女王の家へと乗り込んだ。


「アレとは何の事だ?」

「ジーナの事だ!!」

「ジーナ?・・・あの拘束具の事か?」

「そうだ!」


今朝仕事場・・・つまり、畑にやって来たジーナの翼に拘束具が装着されており

自由に飛ぶ事が出来ない状態だった。

俺は唖然としてジーナに話を聞いたのだが、女王に着けられたと言う所まで聞いた時点で限界だった。

気が付くと俺は女王の家へ向って走っていた。


「何か問題があるのか?」

「問題があるかだと!?」

「ソナタは何か勘違いをしているのでは無いか?」

「勘違い!?」

「拘束具を着けてくれる様に頼んできたのはジーナの方からだ。」

「はぁ?何言ってんだアンタは?」

「昨日の深夜にジーナが訪ねて来た。自分が飛ぶ事が出来ない様に、拘束具を着けて欲しいとの事だった。」

「何故そんな事を!?」

「・・・ソナタに迷惑を掛けたく無いそうだ。」

「どう言う意味だ?」

「飛べなければ地上に降りようと思わない、子供に会いに行きたくても飛ぶ事が出来なければ会いに行けないと云う事らしい。」

「・・・なんだよ、そりゃ。」

「とりあえず、お茶でも飲んで気分を落ち着けよ。」


女王は俺にお茶を出してくれた。

俺は進められたまま、お茶に口を付ける。


「何故、会いに行かない。行こうと思えば行けたはずだ。会いたいはずなんだ。」

「行こうと思えば行けるからではないか?」

「なら、行けばいいだろ。」

「一応、会議の議題としてジーナの家族との面会についての事を提案してはあるが・・・もうしばらく時間がかかる。

 だが、昨日その話をジーナにしたら許可が降りるまで待つとの事だった。」

「・・・・・。」


俺はただ黙って、お茶を飲み続けた。
























農業改革事業。簡単に言えば開拓だ。

荒地を耕して畑にする、種をまき、野菜を育てる。

俺とジーナさんの他にも数名の人員がやって来た。

全員若い男だったのが残念だったが、力仕事なのだから仕方が無いと云えば仕方が無い。

今日も俺は鍬を振るう。

一つ振っては俺の為、二つ振っても俺の為、三つ振ってはっと・・・・ん?


「キャン!!キャン!!キャン!!」


一体何だ?

チャッピーの悲鳴が聞こえる?

俺の様子を不審に思ったのか、側で作業をして居たジーナさんが俺に声を掛ける。


「どうかしましたか?」

「いや、チャッピーの悲鳴が・・。」

「チャッピー?・・ああ、あの犬ですね。」


その時、


「シュヴァルツさん!!大変です!!」


大慌てのユリィが飛んできた。


「どうした?」

「チャッピーが!!チャッピーが!!」

「キャン!キャン!キャン!」


流石にオカシイと感じた俺とジーナさんは、チャッピーの悲鳴のする方へと駆け出した。

心なしか、チャッピーの悲鳴がさっきよりも小さく聞こえる。

くそっ、無事で居てくれ。チャッピー!!












チャッピーの悲鳴のあった方向へ走る俺達。

しかし、俺たちはチャッピー遭遇する前に、行き止まりに遭遇した。

フェザーランドの端だ。眼下には地上が広がって見える。


「チャッピー?何処に居るんだ?」

「あそこです!!」

「え?」


ユリィが指をさしたのは・・・・眼下に広がって見える地上だった。

いや・・・僅かだが、動いている黒い点の様な物が見える。

あれか?あれがチャッピーか?


「キャン!キャン!キャン!」


ああ・・・チャッピーだ。

チャッピーが地上に向って滑空している。


「私が助けてきます!!」

「えっ・・ちょっ!!」


そう言うや否や、ジーナさんがフェザーランドから飛び降り、翼を広げ・・・られずに、落ちた。

俺が咄嗟に飛び出し、ジーナさんの手を掴んだが・・・勢い余って、俺も落ちた。


「シュヴァルツさぁーーーーん!!!」


ユリィの絶叫があたりに響き渡る。


「キャン!キャン!キャン!」


・・・ついでにチャッピーの絶叫も。

・・・・お前は飛べるから別に良いだろ?


















俺とジーナさんは地上に落ち・・・はしなかった。

俺がフェザーランドの端っこから生えていた木の根っこらしき物を掴む事が出来た。

現在、左手でその木の根っこ、右手にジーナさんの手を掴んでいる状態だ。


「シュヴァルツさぁーーん!!」


上ではユリィが絶叫している。


「ユリィ!!ここだ!!」

「シュヴァルツさん!!ご無事でしたか!!」

「今の所は無事だが、いつ過去形になっても可笑しくない・・・早く誰か呼んで来てくれ。」

「分かりました!!」


とりあえず、ユリィに助けを呼びに行かせた。

後はそれまで持ち堪えれば良いだけだ。

そんな事を考えていると、ジーナさんが俺に声を掛けてくる。


「あの・・シュヴァルツさん。手を離して下さい。」

「何で?」

「手を離して下さい!!」

「何故に?」

「このままではシュヴァルツさんも落ちてしまいます。」

「そんな事言って・・・一人で逃げる気ですね?」

「え?」

「ここで、ジーナさんに地上へ逃げられたら・・俺が責任を取らされるんですよ。だから、絶対に逃がしませんよ?」

「・・・。」

「それに、俺って結構鍛えてるから平気ですよ。ホラ?」


そう言うと、俺はジーナさんを握っている右手をジーナさんごと持ち上げる。


「ちょっと!!止めて下さい、危ないです!!」

「大丈夫だ、問題ない。」


俺は更に自分の力をアピールする為に、ジーナさんをゆっくりと上下運動させる。


ブチッ!!


「あ?」

「え?」


・・・左手で握っていた木の根が切れた。

そして、俺たちは再び落ちて行った。
















ああ、これはヤバイ。

この高さから落ちたら間違い無く死ぬ。

俺はとりあえず、ジーナさんを抱きしめる。

どうせ死ぬなら、美女の胸の中が良い。


「まったく、・・何をやっているのだ?」

「え?」


女王?

いつの間にか、女王が俺を背後から抱き抱える様にして飛んでいた。

が、女王一人の力では二人を支える事は出来ないらしく

俺達の高度は少しづつ下がって行く。


「仕方ない、ジーナよ。ソナタも手を貸せ。『解除』」


女王の声に反応し、ジーナさんの拘束具が外れる。

次の瞬間、ジーナさんが翼を広げ、俺達の落下は止まった。

そして、俺はその二人にフェザーランドに連れ戻して貰えた。














ユリィに呼ばれた女王が、文字通り飛んで来てくれたお陰で俺たちは無事助かった。

その後、俺はユリィに泣かれ、女王に怒られる事になった。

で、現在は事情聴取中だったりする。


「それで、一体何があったのだ?」

「実はチャッピーがフェザーランドから落ちてしまって・・・それを助けようとして・・・。」

「二人で落ちたと?」

「「はい。」」

「・・・・。」

「それで、チャッピーの事なんですが・・。」

「あの犬か、ソナタを助けた時に遥か彼方へと滑空して行くのを確認した。」

「そうですか。・・・それで、チャッピーを助けに行きたいのですが?」

「それは無理だな。フェザリアンを地上へと派遣すれば、要らぬトラブルの元になろう。

 ソナタを派遣し様にも、現在ソナタは責任ある立場だ。私用でフェザーランドを留守にする事は許されぬ。」

「・・陛下。」

「・・・・。」

「とりあえず、一日待て。明日の会議にソナタを地上へ派遣する案件を議題として提出してみよう。」

「・・・お願いします。」

「無論、ソナタも出席するのだぞ?」

「はい。」













チャッピーが居なくなった日の夜、俺は密かに決意した。

チャッピーを助ける為に。


「シュヴァルツさん、チャッピーの事はどうなりましたか?」

「一応、明日の会議の方で女王から話をしてくれるそうだが・・・正直、余り期待は出来ない。」

「そんな!!」

「もし、ダメだった時は・・・黙って救出に向う事にするぞ。」

「はい、当然です。・・・それで、その場合はどうやって地上へと降りるのですか?」

「・・・・そこが問題だ。」


ただ、決意だけでは・・・・どうし様も無かった。



















チャッピーが落ちた次の日、俺は以前の様に会議に出席して居た。

その会議に、俺はたいした期待はしていなかったのだが、その期待は良い意味で裏切られる事になった。


「では、これより最高議会を開催する。今回の議題は『農業改革事業』の事だ。比較的順調に行くと思われていたプロジェクトに、幾つかの問題点が浮上した。」

「問題点?」


何だ?チャッピー救出の事じゃ無いのか?


「現在、このフェザーランドで保有している野菜、果物の種子の種類が少ないと云う事だ。

 次に、それらの植物の育成方法を我等が把握していないと云う事の二点だ。

 今回、それらの問題点を解決する為に一つの提案をしたい。

 つまり、人員を地上へと派遣し、種子の確保及び育成方法を習得させては如何か?」

「確かに理に叶って居ますが・・・。」

「その・・・女王陛下。一体誰を派遣するのですか?」

「一名おるではないか。・・・適任の者が。」


女王様!!アンタ最高だぜ。


「確かに承りました。」

「うむ、期待しておるぞ。シュヴァルツ。誰か異議のある者はおるか?」

「「「「「異議無し。」」」」」


こうして、種子の確保と農作業技術の習得の為に俺が地上に降りる法案が可決された。




















女王の機転のお陰で、俺は地上に降りても良い事になった。


「良かったですね、シュヴァルツさん。」

「ああ、準備が出来次第、地上まで送ってくれるそうだ。」

「そちらの準備は良いのか?」


と、そこへ女王登場。


「女王様!先程はありがとう御座います。」


ハイテンションな俺は気が付くと女王に抱きついていた。


「えぇい、離れぬか。」

「あ、失礼しました。」

「まったく・・・それでそちらの準備は万端か?」

「はい、いつでも行けます。」

「ふむ、こちらの準備ももうすぐ終わる。地上へは我とジーナの二人で送る事になる。

 送り先だが、余り人間の目に付くのは避けたい。そこで、ローランディア王国の王都ローザリアの東にある遺跡付近に降ろす事になる。」

「よろしくお願いします。」

「それから・・・ソナタは『農業改革事業』の問題点改善の為の一環として降りると云う事を忘れるな。

 公務の方を疎かにされては困る。まあ、内容が内容なのだ。多少時間が掛るのは仕方ないが・・・私用はその間に済ませると良い。」

「はい。」

「重ねて言うが、公務は疎かにするな。もし、そんな事になったら・・・ソナタに罰を与えねばならぬぞ?」

「・・・・できれば軽めで、お願いします。」

「最初から受ける気なのは問題だな。」

「常に最悪の状態を想定しているだけです。」

「ふむ、それなら・・・地上へ降りる事に失敗して、大地と抱擁する事を心配したらどうだ?」

「・・・・・。」

「・・・冗談だ。」

「ダメですよ、女王様。シュヴァルツさんは大変怖がりなんです。そんな事を言ったら怖がってしまうじゃないですか?」

「そうか、それはすまなかった。許してくれ。」


・・・・俺はどんだけ怖がりだと思われてるんだ?

それから、準備を整えた俺とユリィは地上に降りる事になった。

ユリィ自身は飛べるので実質は俺だけが、女王とジーナさんに持たれてゆっくりと地上へ降りていった。

ああ・・・・それにしても・・・大地だ。

帰って来た・・・大地だ!!!





















今日のワンコ



「ワフ。」

「ああー、お母さん!見て、あの犬。可愛い☆ねえ家で飼っても良い?」

「ルイセ、良く見なさい。カバンを着けているという事は飼い主がいるという事ですよ?」

「あ、でもこの犬・・怪我してる。手当てだけでもしてあげた方が・・・。」

「ワフゥ?『ヒーリング』」

「!!」

「すごーーい、この犬・・・魔法を使った。ねえ、お母さん今の見た?」

「ルイセ!!直ぐその犬を家につれて帰ります。」

「・・・お母さん?」

「是非調べてみなくては・・・一体どんな体をしているのか・・・・解剖して・・うふふふふ。」

「・・・・お・・お母さん。」

「キャウン!!」



チャッピーの運命やいかに。























[24765] 第二十八話 慣習
Name: 豆◆9a4e7f43 ID:769ea03a
Date: 2011/11/28 22:15
























第二十八話 慣習














前回までのあらすじ


記憶を無くした男『シュヴァルツ』は、面白がって装備した仮面が外れなくなり、変態・仮面・黒いの三重苦を背負い、妖精と共に世界旅していた。

そんな中、シュヴァルツは変な実験に巻き込まれ、妖精のユリィとふとん犬のチャッピーと共に異世界へと送り込まれてしまった。

何とか元の世界に戻る為に、そして世界を救う為に頑張ったり頑張らなかったりしていたら、いつの間にかスレイン御一行によって世界が救われていた。

そして、この世界を覆っていた歪みが解消され、元の世界に戻る・・・・はずだったのだが、なぜかまた別の世界にへと行ってしまったシュヴァルツだった。


新たなる世界でフェザリアン達の世話になり、前の世界で知り合った女性(バーバラ)の事を引きずりながらも、平和に暮らしていたシュヴァルツだったが・・・・一緒に旅をしていたふとん犬のチャッピーが何かに攫われてしまう。

そして、シュヴァルツは決意する。チャッピーを救い出す為に!!そして、チャッピーをさらった奴の正体を確かめる為に!!いま自らの足で大地に降り立とうとしていた。



「一体、何者なんだ!!チャッピーをさらった奴は!!絶対に許さないぞ!!」

「多分、風だと思いますよ?シュヴァルツさん。」














「女王様、ジーナさん。ありがとう御座いました。」


無事に地上に到着した俺は、ここまで運んで来てくれた二人に礼を言った。


「シュヴァルツ、それにユリィよ・・達者でな。」

「シュヴァルツさん、どうかお元気で。・・・それから、先日は助けて頂いてありがとう御座いました。」

「礼なんて要らないですよ、最終的には女王様に助けられた訳ですし・・。」

「お二人もお体に気をつけて下さい。」


互いに別れの言葉を交わすと、彼女たちは翼を広げ、遥か高くに浮かぶフェザーランドに向って飛び去っていった。

俺とユリィはしばらく彼女達の姿を眺めていた。

その時、不意に背後から声を掛けて来た奴が居た。


「君達!!この辺でフェザリアンを見なかったかい?」


咄嗟に俺とユリィが振り向く。

そこに居たのは、長髪でエリート臭のする兄ちゃんだった。

この兄ちゃん、息を切らせている。如何やら全速力でここまで走って来たらしい。


「フェザリアンですか?先程まで、この遺跡に居たみたいですが・・・もう帰って仕舞いました。」


ユリィが長髪兄ちゃんに返答する。

だが、その兄ちゃんは固まったままだ。


「どうした?ハジリスクにでも睨まれたのか?」

「・い・・いえ、何でもありません、失礼しました。」

「・・・変な奴だ。」

「あなたも・・・いえ、何でもありません。それより、彼らはもう帰ってしまったのですか・・・。」

「何か用でもあったのか?」

「いえ・・・その、フェザリアンが地上へ降りて来る事は滅多に無いので、ちょっと興味があっただけです。」

「そうか。」

「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕はアリオスト。魔法学院で研究をしている。」

「俺はシュヴァルツだ。一応旅をしている・・・そう人生と云う壮大な旅を・・・。」

「私は妖精のユリィと申します。それから、こっちのシュヴァルツさんは時々可笑しくなりますが・・・発作の様なモノなので、気にしないで下さい。」

「そ・・そう。」

「あ、そうだった。幾つか聞きたいんだが良いか?」

「うん?僕に分かる事だったら。」

「つい最近、不思議な犬を見なかったか?」

「不思議な犬?」

「不思議じゃありません、可愛らしいです。」


ユリィはちょっと黙ってろ。


「布団をかぶった様な犬なんだが・・。」

「それは・・・不思議だね。残念だが、僕は見てないね。」

「そうか。じゃあ次は・・農業の盛んな場所を知らないか?野菜や果物の育て方を勉強したいんだが?」

「農業が盛んな場所?・・・・そうだな、僕の生まれ育った『ブローニュ村』は開拓村だったから、農業は盛んだったね。

 まあ、他に産業が無かったからなんだが・・・。」

「ブローニュ村か。貴重な情報ありがとう、助かった。」

「ありがとう御座いました。」

「どういたしまして。所で・・・その仮面には一体何の意味があるんだい?」


久しぶりだな・・・この質問は。

















このアリオストって名乗った学者は、もう少しこの場所に残っているそうだったので

俺達だけで街へと向おうとしたのだが・・・。


「どうしたのですか?シュヴァルツさん。」

「いや、ちょっとな。」


俺は遺跡の高台出口付近に佇む女性を発見し、声を掛けた。

たぶん、この人はもう・・・・。


「こんな場所で如何したんですか?」

「え?・・・・もしかして、私に声を掛けているのですか?」


その女性は俺が声を掛けると酷く驚き、辺りを見回して誰も周囲に居ない事を確認してから俺に返答してきた。


「はい、貴女ですよ。綺麗な女性を見ると声を掛けずには居られない性分なので。」

「ふふ・・面白い人ですね。」

「それで・・・こんな場所で何をしているのですか?」

「・・・人を待っているんです。」

「大切な人ですか?」

「はい。夫と子供です。」

「そうでしたか。」

「あの子は時々会いに来てくれるのですが・・・。」

「旦那さんは?」

「夫の顔はしばらく見ていません。どうやら、行方不明になった様で・・・。」

「行方不明ですか?もし、宜しければ貴女の旦那さんの名前を教えて貰えませんか?

 旅先で出会う事があるかも知れませんし。」

「名前はベルガーです。傭兵をしていました。」

「ベルガーさんですね。分かりました・・・では、縁があったらまた。」

「はい、私も久しぶりにお話できて・・・楽しかったです。」


彼女の足元にある墓石には『シエラここに眠る』と書いてある。

恐らく、彼女の名前なのだろう。

それを確認すると、俺はユリィの所へと戻った。

・・・・ユリィが変なものを見る様な目で俺を見て居る?


「どうした?」

「シュヴァルツさん、貴方・・・疲れているのですよ。」

「え?」























「確か・・・街道を道なりに行くと王都に着くんだっけ?」

「はい、アリオストさんはそう仰っていました。」


俺とユリィの二人は王都への道を急いでいた。

しかし、ショートカットしようと林に入った所為でに道に迷い、すっかり日が落ちてしまった。


「早く道が見つかると良いですね?街道も・・・人生も。」


ユリィがちょっと冷たい。























「ふふん、中々可愛いじゃねえか。」

「な、何んですか、あなた達。」


お!!人の声がする。きっと街道だ!!


「ユリィ、あっちだ。」


俺は声のした方へと草を掻き分けて進む。


「ちょいと俺達と来て貰おうか?」

「そんな・・。どうして・・・。」


何だ?雰囲気がオカシイぞ。

一方の声は女性で、もう一方は・・まるで人攫いか変質者の様な感じだ。


「うるせえな!黙って着いて来い!あんまりうるせえと痛い目見るぜ!!」


はい、悪人決定。


「ユリィ!!街へ急いで兵隊を呼んで来てくれ!!」

「シュヴァルツさんは如何するのですか?」

「決まってる、俺は美人の味方だ。」

「・・・通常営業ですね?」

「?」

「それでは行って来ます。」


ユリィが良く分からない事を言っていたが・・・取り敢えずは、絡まれている女性を助ける事に集中しよう。


「た・・助けて!!」


女性が悲鳴をあげた瞬間。

俺は林の中から声をあげながら女性のすぐ後ろに飛び出した。


「待て!!その美人に触れる事・・・まかりならぬ!!」


一瞬の間の後、悪人共が俺に向って罵詈雑言をぶつけて来る。


「な・・何だてめぇは!?」

「怪しい奴め!!」

「新手のモンスターか!?」


・・・モンスター扱いは初めてだ。

ちょっとショック。


「大丈夫か?」


問い掛ける俺に反応して、その女性がゆっくりと振り向く。

うん、美人だな。攫いたくなるのも分かる。


「怪我は無いか?」


優しく問い掛ける俺に対して、その女性は


「き・・」

「き?」

「きゃゃぁぁぁあああああ!!!!!」


パタン!!


物凄い悲鳴をあげ、気絶した。















周囲に気まずい空気が流れる。

この空気を何とかしなければ・・・。


「貴様等!!よくも、この女性を襲って気絶させたな!!」

「「「え?」」」

「許さんぞ!!」

「いや・・・それは・・アンタが。」

「問答無用!!我が鍬の錆となれ!!うなれ我が鍬!!うなるぞ大地!!必殺『証拠隠滅!!』」

「「「ぎゃぁぁぁ!!!!」」」


これで良し!!


「ん?まだあの娘がこんな所に居るぞ!?」

「何をやっていやがる。さっさと攫え!!」

「オズワルドの兄貴・・・アイツ、俺達の仲間じゃありやせんぜ?」

「何?じゃあ誰だ?」

「・・・・まだ、生き残りが居たか!!!」

「「「え?・・・ぎゃぁぁぁぁあああ!!」」」

「くそ、覚えてろ!!」


・・・悪は滅んだ。

後はこの人を起してっと。

俺はその女性に近づくと方を叩いて起す。


「もしもーーし、起きて下さい。」

「・・・・。」


返事が無い。一応、息はしている。


「そこのアンタ!!何やってるのよ!!」


突然女の子の声がした?

声のした方を見ると・・十代後半くらいの少年?と・・妖精?が居た。

ヤバイ、見られた!!


「見たな!!知ったな!!」

「やっぱり!!その人から離れなさい・・この変態!!ほら、アンタの出番よ!!」


妖精に促されて、少年が斬りかかって来る。


ギン!!


とりあえず、剣を抜いてそれを受ける。

・・・そんなに強くないなこの少年は。

その後も俺は少年の攻撃を適当にいなし続けた。

まあ、こうやって時間を稼いで置けばその内に女性の目が覚めるだろうし

王都からユリィに呼ばれた兵士達がやってくるだろうしな。

だが、王都の方からやって来たのはゴッツイ鎧を着た男だった。


「カ・・・カレン?」


可憐?何だコイツ。

もしかして、この女性の知り合いか?


「あなた、この子の知り合いなの?」

「妹だ。」

「あなたの妹さんが、この変態に襲われていたの!!」

「何だと!!」

「おい、妖精。勝手な事を言ってんじゃねえよ。襲ってねえし。」

「なによ!!襲おうとしてたじゃない。」

「貴様!!よくもカレンを!!」


話を聞けって!!

ゴッツイ青年も俺に襲い掛かってきた。

仕方ないので、もう片方の剣を抜いて対処する。

こっちの方は、少しは出来る。

だが、時間を稼げば・・・きっとユリィが何とかしてくれる。

それにしても、この少年。独特のファッションをしている。

着ているジャケットをはだけているんだが、はだけ方が尋常じゃあ無い。

両腕の肘辺りまで、ジャケットをはだけている。

最近はああ云うのが流行っているのか?

















「何やってんのよ、早くやっつけなさいよ。」

「・・・。」

「クソ、コイツ強い。」


俺の前には肩で息をしている少年とゴッツイ青年の二人が居る。

妖精が少年に檄を飛ばすが、それに答える余裕すら少年には無い様子だ。

そんな時、


「あっちです!!」


ユリィと


「そこの者達!!動くな武器を棄てろ!!」


ユリィが連れて来た、沢山の兵士がやって来た。

よかった、一件落着だ。

俺はとりあえず武器を納め、戦闘続行の意思が無い事を示す。


「う・・うーん。」

「カレン?カレン!!」

「兄さん?」


ちょうど良い感じで、女性が目を覚ます。


「貴女が街へ知らせてくれたの?」

「はい、そうです。」

「へぇー、貴女妖精なの?」

「はい、ユリィと申します。」

「アタシはティピって言うんだ、よろしくね。で、この無愛想なのはカーマインよ。」

「よろしく、お願いします。カーマインさん。」


ユリィが少年の連れていた妖精と会話している。

仲良き事は素晴らしき事だ。


「俺はゼノス、君のお陰で妹も無事だった。礼を言うよ。」


あのゴッツイ青年はゼノスと云うのか。

何か・・こう・・ほのぼのとした雰囲気だな。


その後も彼らのほのぼのとした会話は続いた。













そして


ギィー!!


ガシャン!!


俺は無事に牢屋に納まった。
















捕まら無い様に努力するのは二流・・・いや、三流だ。

真の一流は捕まった後、どう釈放されるかを考える者だ。

さてと・・・どうやって出てやるか。

とりあえず、ヒンズースクワットでもするか。


シュ!!シュ!!シュ!!シュ!!


「うるさいぞ!!静かにしてろ!!」


怒られてしまった。

次は、シャドーボクシングでもするか。


シュ!!シュ!!シュ!!シュ!!


「うるさいと言っているだろう!?これ以上うるさくすると飯抜きだぞ!!」


これもダメか。

次は、鉄格子を叩いてみるか。


ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!ガン!!


「ウルサイ!!ああ、もう・・飯抜きだ!!!」


これもダメか。


「そう怒るなよ、ジョニー。」

「俺の名前はジョニーじゃ無い!!」


さて、次は何にするか。
























今日のワンコ





「この子、何て名前なんだろう?」

「ワフ。」

「ルイセ、首から提げているバックに名前が書いてあるみたいですよ?」

「名前?チャッピー?あなたはチャッピーね。」

「ワフッ!!」

「それにしても・・・そのバックの中には何が入っているのか・・・気になりますね。

 ぜひ、見せてくれませんか?」

「キャウン。」

「・・・お母さん。可哀想だよ。」






[24765] 第二十九話 喧嘩
Name: 豆◆f0891c05 ID:9222c5d5
Date: 2011/11/29 21:33






















第二十九話  喧嘩 



















牢屋で一晩過ごした俺は、次の日には容疑が晴れ釈放された・・・と思ったら

また直ぐに捕まってしまった。

何か、城から出た途端に兵士に囲まれ、牢屋の中に逆戻りする事になった。

で、現在取り調べ中だったりする。


「貴様がやったのか?」

「何を?」

「とぼけるな!!宮廷魔術師サンドラ様の魔道書を盗んだのは貴様だろう!?」

「何を証拠に、ズンドコドン?」

「・・・え?今何て?」

「何を証拠に、そんな事?って言ったんだ。」

「・・・・・犯人は仮面を被って居たとの情報がある。」

「なるほど・・・でも、顔がある奴は皆仮面を被る事が出来るぞ?」

「それはそうだが・・・」

「それで、犯行時刻は何時頃だ?」

「昨日の深夜だ。」

「あーー、それ無理だわ。」

「なに!?」

「だって俺ってば、昨日の夜はずっとこの牢屋に捕まって居た訳だし。」

「何だと!!」

「確認すれば分かると思うが。まったく、ようやく釈放されて・・・城から出た途端に捕まえられたのは、初めての体験だぞ?」

「・・・・。」

「まあ、ジョニーに聞いてくれれば分かるさ。」

「ジョニー?」

「牢番の兵士の名前だ。」

「そんな奴、居たか?」

「ジョニーは俺が名づけた。」

「・・・・。」



結局、直ぐにアリバイが証明されたので俺は釈放された。

流石に二連戦は疲れた。

俺はトボトボと城門から外に出た。

そこには、ユリィと


「ワフッ!!ワフッ!!」


チャッピーが居た。


「チャッピー?会いたかったぞ!!」

「ワフッ!!ワフッ!!」


チャッピーも喜んでいる。


「良かったですね、チャッピー。」


って、この美しい女性は誰だ?


「此方の方はサンドラさんと云いまして、チャッピーを助けて下さった方です。」

「私はシュヴァルツと申します。チャッピーを助けて頂いてありがとう御座います。」

「いえ、礼には及びません。助けたと云っても、数日間家で預かっただけですし。

 それで・・・もし、宜しければ・・・チャッピーのバックの中を見せて貰えませんか?」

「え?中身ですか?・・・まあ、見るだけなら。」


そう言うと、サンドラさんは俺達を連れて自宅に向かい

そこでチャッピーのバックの中身を確認する事になった。


「えーーと、これは『ラナの実』ですね。こっちは『綺麗な石』『ボール』」

「ラナの実・・・ジュルリ。」

「ユリィ・・・よだれ。」

「はっ!!失礼しました。」

「最後は『データディスク』ですね。」

「・・・・。」


サンドラさんは終始無言だった。

何か凄いものが入っていると思っていたらしい。


「所でサンドラさんは宮廷魔術師なのですか?」

「はい、その通りです。」

「先程、魔道書が盗まれたと聞いたのですが?」

「・・・はい、昨晩に城にある私の研究室に賊が忍び込み、持ち去ったそうです。」

「なるほど・・・そうでしたか。それで、賊の特徴は?」

「その・・・仮面を被っていた事しか。」

「シュヴァルツさん、返すなら今のうちです。素直に謝りましょう。」


・・・ユリィ。

仮面を着けている人間の全てが、俺では無いのだよ。


「所で・・・何故、その様な仮面を被っているのですか?」


サンドラさん・・・貴女もですか?




















都会は嫌だ。人の心が荒むから。

さっきから、行き交う人々が俺の方を見てヒソヒソと話している。

奴等の行動は、今の俺の心を酷く傷つける。


「ユリィ、チャッピー、直ぐにこの街を出るぞ。」

「直ぐにですか?」


ああ、やはり俺は大地と供に生きるのが似合っている。

そう決心した俺は、足早に王都ローザリアを旅立った。


「・・・原因はシュヴァルツさんにあると思うのですが?」




















「えっと、地図によると、この先にデリス村があるそうです。」

「村か。都会と違って暮らす人々の心は潤っているに違いない。」

「それは・・・都会差別ですよ?」

「シティー・ボーイの俺が言うんだから間違いない。」

「・・・。」


街道沿いにある川に、石を投げ込みながら俺は歩いていた。

その時、


ギリィン!!


ザクッ!!


「シュヴァルツさん!!」


突然、前方にある橋の上から抜き身の剣が降ってきた。

咄嗟に俺が打ち払ったから良かったものを・・・もし、反応が遅れたら大怪我をしていた所だ。


「ユリィ?今日の天気は晴れ時々剣・・・だったか?」

「・・・シュヴァルツさん。」

「ユリィ、ちょっと待ってろ。これを投げた奴を埋めて来る。」

「シュヴァルツさん、くれぐれも穏便にお願いしますね。」


俺は振ってきた剣を掴むと、橋の上へと駆け上がった。
















橋の上には立ち去ろうとする華奢な青年がいた。

・・・アイツか。人に向って剣を投げた奴は。


「おい!!そこの優男!!」

「・・・何だ貴様は!!」

「これはアンタの剣か?」


俺は持って来た剣を見せびらかすように振る。

一応は確認をして置かないとな。


「何故・・それを。」

「アンタので間違いないな?」

「それは・・捨てたのだ。」

「何故だ?」

「お前には関係ないだろう!!貸せ!!」


俺は剣を取ろうとして近づいて来た青年に対し、拾った剣の切っ先を向け、動きを制する。


「こんな話を知っているか?とある剣士が決闘する事になったそうだ。

 だが、相手の剣士は約束の時間になっても中々現れなかった。」

「?」

「やがて、相手は約束の時間から、かなり遅れてやって来た。それに怒った剣士は自らの剣を鞘から引き抜くと、その鞘を投げ捨てたそうだ。」

「何を言っている?」

「その様子を見た遅れてきた剣士は、『お前の負けだ。勝つ気があったのなら、大事な鞘を捨てたりはしないはずだ』と言ったそうだ。

 この話を聞いて・・・お前は如何思う?」

「・・・なるほど、剣を収めるのに鞘は必要だ。勝利を望むなら捨てるべきでは無い。」

「そうか。・・・まあ、俺は鞘なんて勝った後に拾えば良いだろ?って思うが、十人いれば十通りの考えがあるから一概にどうとは言えない。」

「・・・・。」

「で、ここからが本題だ。鞘ではなく、刃の方を捨てたお前は・・・勝利できるのか!!」


そう言うと、俺は青年に拾った剣で切りつける。・・・一応、怪我させるつもりは無いが少しお灸をすえてやる。


「クッ!!」


ん?コイツ結構強いな。俺の攻撃をかわし続けている。

だが、無手の状態で劣勢を挽回できる訳も無く、俺の攻撃を十回ほど避けた辺りで足を取られ転倒した。

俺は転倒した青年の顔に剣を突きつけた。


「どうした?その程度か?」

「クッ!剣があれば貴様など!!」

「その剣を捨てたのはアンタだろ?」

「クッ!!」

「なあ、どんな気分だ?自分の剣で死ぬのはどんな気分だ?なあ、どんな気分だ?」

「・・・・・。」


あ、ヤバイ。涙ぐんで来やがったコイツ。

ちょっと、やり過ぎたか?

えっと、何とかフォローしないと・・・そうだ。

俺は、持っていた剣をソイツの顔の横に突き立てる。


ザクッ!!


「・・・どう云うつもりだ?」

「俺に剣を使えば勝てると思うのなら・・・それを取れ。」


青年は起き上がると、地面に突き立った剣を抜く。


「さっきと同じ様に行くと思うな。」

「凄むのなら・・・せめて涙を拭ってからにしろ。」

「泣いてない!!泣いてないぞ!!」


青年は乱暴に涙を拭うと、俺に切りかかって来る。


キンッ!!


カンッ!!


ガギンッ!!


俺も双剣を抜いて迎え撃つ。

・・・コイツは、かなり強い。

この前戦った少年やゴッツイさんよりもずっと上だ。

だが、綺麗な戦い方だ。道場剣術って云うのか?こういう奴は・・・。

多少は実戦経験がある様子だが・・・・まだ、やりようはある。


「気をつけろよ?」

「何?」


俺は言葉で青年の気を引き、その隙に右の剣の側面に土を乗せ、青年の顔に向って放った。


「卑怯な!!」


青年は咄嗟に目をつぶって防ぐが、充分な隙が出来た。

俺は左の剣で、青年の剣を打ち払うと一気に間合いを詰め、体を密着させる。


「じゃあな。」


一応、別れの言葉を言ってから青年の足を払い、体勢を崩し投げ飛ばす。


「終わりましたか?」

「ああ。」

「シュヴァルツさん、まるで悪党の様でしたよ?」

「ユリィ、人は誰しも良い心と悪い心を持っているのさ。」

「つまり、先程の事に対して・・・とても腹が立ったと云う事ですか?」

「ああ、当然だ。」

「そうですか。私はてっきり、引っ込みがつかなくなってしまったのかと思いました。」


俺は無言で倒れた青年を見た。


「気絶している見たいですね?」

「如何する?」

「放って置くのは不味いのでは無いですか?」

「ワウ。」


仕方ない、デリス村まで運ぶか。





















無事にデリス村に着いた。

俺は青年を背負ったままで宿屋に直行した。


「いらっしゃい。・・・そちらの方は、どうかなさったのですか?」

「いや、村の外に倒れていまして・・。」

「それは大変だ。早く部屋の方へ。」


俺は店主に案内されるままに、青年を部屋に運び込みベッドへ寝かせる。


「シュヴァルツさんの悪ふざけが、大変な事になってしまいましたね?」

「悪ふざけじゃ無い、しつけだ。」

「愛が無いとしつけじゃないですよ?」


愛か。愛って何だ?

何なんだろう?


「お顔が汚れていますね?」

「ん?」 


ユリィに指摘され、青年の顔を見る。

確かに汚れているな。俺が浴びせた土が原因か。

仕方ない、汚した分は綺麗にするか。

俺は部屋にあったタオルを水に浸し、青年の顔を拭いた。


「綺麗になりましたね。」

「まあ、造形自体は悪くないからな。」


うん、完了だ。

それにしても、ユリィがさっきからこの青年をジーっと見つめているが・・・・まさか!!


「どうした、ユリィ?そんなに見つめて・・・もしかして、ソイツに惚れたか?」

「違います!!それより・・・この方は女性では?」

「は?女?コイツが?」

「はい。」


・・・・マジで?仕方ない、ちょっと調べてみるか。

それにしても久しぶりだな、アレを使うのは。

測定器発動!!

85・・87・・89・・・90・・・91!!

どう云う事だ!?コイツ!!これほどの実力を隠していたと云うのか!?

コイツ・・化け物か!?


「ユリィ、直ぐに部屋を出るぞ!!」

「え?」

「コイツは危険だ。」

「は・・はい。」


俺はユリィを連れて部屋を退出し、宿屋の店主に青年(偽)の分の会計を払った。


「それで・・・他に空いている部屋は無いですか?」

「すいませんね。今、この宿に長期滞在している方がいて、部屋が埋まっている状態なんですよ。その上、先程の方もでしょう?」

「そうですか、分かりました。それでは、この辺で何処か泊まれる場所は無いですか?」

「泊まれそうな場所ですか?・・・・この村の北東に、今は使われていない山小屋がありますが・・・余りお勧めは出来ませんね。」

「どうしてですか?」

「最近、怪しい連中が寝泊りしている様なのです。」

「ああ、それなら大丈夫ですよ。」

「?」

「俺も充分怪しいでしょう?」

「・・・ぷっ・・はははは!!確かに怪しいですな。」


はははは!!そんなに笑うなよ、傷つくじゃないか。


「気にしているのでしたら・・ネタにしなければ宜しいのでは?」


それでも、笑いは取りたいモノさ。

さてと・・・如何するか。

山小屋か野宿か・・・それが問題だな。

























[24765] 第三十話  再戦
Name: 豆◆f0891c05 ID:9222c5d5
Date: 2011/12/04 18:35






















第三十話  再戦



















結局俺たちは山小屋へと向う事にした。


「あれが山小屋か。」

「その様ですね。」

「中から人の気配がするな。4・・5・・6人か。」

「どうするのですか?」

「まあ、相手の出方しだいだな。」


俺は山小屋へと近づく。

俺の気配を感じたのか、中から怪しい連中が出てくる。全部で6人・・・読みどおりか。


「お前達か?最近・・・この山小屋に出入りしていると云う怪しい連中は?」


「何だ貴様は!!」

「怪しいだと!!貴様に言われたくないわ!!」

「変な仮面など着けやがって!!何の用だ!!」


ちょっと、ショック。

見るからに怪しい奴に、怪しい奴って言われた。

それにしても・・・仮面を着けている奴か。もしかして、例の賊なのか?


「まあ、冗談はこれ位で・・・さっさと魔道書を返すんだな!!素直に渡せば、命は助けてやるが?」

「何?追っ手か!?」


・・・・俺のブラフに簡単に引っ掛かった。

コイツ等、こういう仕事に向いていないぞ?


「なんだ。本当にお前達だったのか?」

「何?」

「軽いハッタリをかましたんだが・・・・ものの見事に引っ掛かったな。」

「おのれ!!敵は一人だ。こっちは6人居るんだ!!一気に殺るぞ!!」

「「「「「了解!!」」」」」


一斉に俺に襲い掛かってくる賊達。

 
「死ね!!」


さて、如何するか。

一々相手するのも面倒くさい。

魔法で片付けるか。


『ソニックウェーブ』


俺の周りに竜巻が発生し、敵全員を巻き込む。


「「「「「「ぎゃぁぁぁぁあああ!!!」」」」」」


一発で戦闘不能になる面々。

俺はそいつ等の身包みを剥いで武装解除し、足を縛ると近くの川にあった小船に乗せる。


「貴・様・・こんな事を・・して、ただでは・・・・済まさんぞ。」

「悪いな、これで水に流してくれ。」


そう言って、俺は6人を水に流した。

これで、彼らも許してくれるだろう。


「余計に恨まれると思いますよ?」


俺達は山小屋に戻り、眠りについた。























次の日、俺たちは山小屋で遅めの朝食を食べていた。

一応、食事は俺が作っている。理由は他に作れる奴が居ないからだ。

ユリィも料理自体は出来るのだが・・・なにぶん、サイズがサイズなので俺には物足りない。

チャッピーは犬なので無理。消去法で俺に廻ってくるので、今では慣れたものだ。


「ワフ!!」

「ん?」

「どうかしましたか?チャッピー。」

「如何やら、お客さんだな。」


食後のお茶を楽しんでいた所、外に人の気配を感じた。


「さてと、行って来るか。」


残っていた茶を飲み干すと、俺は玄関から外へでる。


「ああ!!やっぱりアンタだったのね!!怪しい奴が山小屋に出入りしているって聞いて、直ぐにピンと来たんだから!!」


そこには、何時ぞやの妖精と少年、後は見知らぬ少女とオッサンが居た。


「なんだ、知り合いか?」

「前に街の外で女の人を襲っていた悪党よ!!」


オッサンが妖精に問い掛け、それに妖精が答える。

妖精の答えは独断と偏見に満ちている。

軽く・・・いや、かなりイラッと来た。


「アンタ。今度こそ、あの変態をボッコボコにやっちゃいなさい!!」


何故か、妖精の掛け声で戦闘が開始される。
















少年の剣をいなし、オッサンのコブシを避ける・・・そんな戦いが続く。

時々、少女が魔法を使ってくるのが煩わしい。さて、どうやって黙らせるか。


『マジックアロー』


また来たよ!!

クソッ、・・・・もう最終手段だ。


「行け!!チャッピー、あの女の子を黙らせろ!!」

「ワフッ!!」

「え?」


俺の指示によって、小屋の中から弾丸の様に加速したチャッピーが飛び出し少女に迫る。

そして、チャッピーはそのまま少女に飛び掛り・・・・

彼女を押し倒して顔を『ペロペロ』と嘗め回す。


「ちょっ・・やめ・・くすぐったい。あはは・・ははは。」


よし、これでもう魔法は使えない。

次は


「何なの!!この不細工な犬は!!」


あの口が悪い妖精か。


「ユリィ!!分かってるな!!」

「はい!!」

「え?」


ユリィの前でふとん犬の悪口を言った、己の身を呪うが良い。


『ユリィ・モズ落とし!!』

「きゃぁぁぁぁあああ!!」


よし、妖精もリタイアだ。

後は少年とオッサンか。


「なあ、オッサン・・・一つ聞いても良いか?」

「・・・何だ?」

「その目に着けている装置は何だ?」

「これか?これは魔法の目だ。」

「・・・そうか。てっきりビームでも出るのかと思ったが、俺の取り越し苦労だったか。」

「・・・。」

「それから少年、早く俺を倒さないと・・・あの子が大変な事になるぞ?」

「・・・・。」


無言の少年か。

うん、この少年は少し強くなっている気がするな。

だが、まだまだだ。俺は少年の剣を打ち落とし、腹に蹴りを叩き込む。

少年は膝をつき、咳き込む。


「ゲホッ!ゲホッ!」


最後にオッサンだが・・・明らかに動きが鈍い。

目だけじゃ無く、右腕も義手っぽいしな。

一気にかたをつけるか。

俺はオッサンの右ストレートを掻い潜り、その勢いを殺さずにオッサンをブン投げた。


「ガハッ!!」


オッサンの方も、これで終了か。


「やれやれ、危なっかしい戦い方だな。」


はぁ・・・また、面倒臭い奴が来た。

昨日の青年・・・じゃなくて姉ちゃんか。


「よお、何しに来た?」

「昨日の借りと・・・・屈辱を返しに来た。」

「もうしばらく貸して置いてやるから、帰ってくれないか?」

「断る。」

「じゃあ、それはもうあげるから、大事に大事に・・・一生胸に秘めて置いてくれないか?」

「断固断る!!」


我侭だな。


「で、美人の兄ちゃん・・・名前は?」

「ジュリアンだ。」

「俺はシュヴァルツだ。」


そして、二回戦が始まる。













キンッ!!


カンッ!!


ガギンッ!!


「なあジュリアン。」

「・・・なんだ?」

「昨日より強くなってるんじゃないか?」

「・・・そうかもな。」


俺はジュリアンと三十合程打ち合った。

殺す気なら・・・幾らでもやり様はあるんだがな。

今回もサプライズをやるか。


「なあ、剣を捨てるのも危険だが・・・落ちてる剣にも注意しろよ?まあ、剣の捨て方にも色々あるけどな。」

「・・・どう言う意味だ?」

「こういう事だ。」

「!!」


俺は先程叩き落した少年の剣をジュリアンの方へ蹴り飛ばす。


ギリィン!!


驚きながらも、ジュリアンはそれを剣で弾き飛ばす。

そこへ更に、俺は持っている双剣を時間差を付け投げる。


「何だと!!」


ギリィン!!


キイッン!!


驚愕に包まれるジュリアンの表情。そこに一瞬の隙が出来る。

そりゃ当然だな。自分の持っている武器を全て投げ捨てたんだからな。誰だって驚く。

その隙に俺は一気に接近すると、双剣の鞘でジュリアンの両手首を打つ。


「クッ!!」


俺は左手で剣を取り落としたジュリアンの手首を掴み、一気にジュリアンの体を引き寄せる。

傍目には抱きしめている様に見えるはずだが、一応手首を極めているのでジュリアンはそれどころでは無いはずだ。

さらに、空いている右手でしまってあった包丁を取り出し、ジュリアンの首に突きつける。


「チェックメイトだ。」


「・・・・降参だ。」


負けを認めたジュリアンを放す。


「それにしても、そんな物まで隠し持っているとはな。」

「ん?この包丁か?偶々、朝食の支度をした時にうっかりして・・・片付けるのを忘れただけだ。」

「・・・・そんな、うっかりに私は負けたのか。」

「安心しろよ、包丁が無ければ別の方法を使っただけだ。」


周囲には、座って試合観戦している少年とオッサン・・・女の子にいたってはチャッピーを抱きしめて観戦している始末だ。

ちなみに、妖精はユリィに関節技を喰らって悶絶している。


「ユリィ・・・もう放してやれよ。」

「はっ!!私とした事が・・・。」

「で・・・アンタ等何しに来たんだ?まさか、再戦を申し込みに来た訳じゃ無いだろ?」

「えっと、この山小屋に怪しい人達が出入りしているって聞いて来たんですけど・・・。」


俺の質問に、女の子がチャッピーを抱きながら答える。


「怪しい奴?見た事無いな。」

「「「「・・・・・。」」」」


無言の視線が俺に突き刺さる。


「怪しい奴なら居るじゃない!!アタシ達の目の前に!!」


妖精、お前の口は凶器だ。時として・・・言葉は人の心を深く傷つけると云う事をお前は知る必要がある。

そんな訳で、


「ユリィ。」

「はい。『空中サーペント・ローリング』」

「きゃぁぁぁああ!!」


良し。


「で、話は戻すが・・・昨日俺達に襲い掛かってきた怪しい連中なら居たぞ。

 まあ、アンタ等も・・今日俺達に襲い掛かって来た怪しい連中だがな。」

「・・・それで、その人達はどうしたんですか?」

「とりあえず、身包み剥いで流した。」

「流した?」

「そう、水に流したさ。俺は心の広い人間だからな。」

「絶対に恨まれてますよ?」

「ちょっと待て、身包みを剥いだのか?」


オッサンが身包みに反応した。


「ああ、剥いで小屋の中に山積みにしてある。欲しければ持って行けば?俺のじゃないし。」

「・・そうか。分かった。」


そう言うと俺は小屋の中に戻り、食事の後片付けを済ませる。

部屋の隅では少年のオッサンがゴソゴソと、不審者の持ち物を漁っている。ふっ・・・見苦しい。

小屋の外にはジュリアンとチャッピーと遊んでいる女の子が居た。


「行くのか?」

「ああ。」

「そうか。」

「行くぞ、チャッピー、ユリィ。」

「はい。」

「ワウ。」

「バイバーイ、チャッピーまたね。」

「ワフッ。」


女の子の目には終始チャッピーしか写っていない様子だった。


「シュヴァルツ・・・最後に一つ聞きたい。」

「何だ?」

「何故、仮面を被っているのだ?それがお前の信念なのか?」


どう云う信念だよ!!


















山小屋から出た俺たちは、王都ローザリアへ向って歩いていた。


「それで・・・これから如何するのですか?」

「そうだな、この魔道書をサンドラさんに返しに行くか。」

「・・・それでしたら、先程の方々にお渡しした方が良かったのでは?」

「どう云う事だ?」

「チャッピーと一緒に遊んでいた方は、サンドラ様のお子さんです。」

「・・・マジで。」

「如何しますか?お戻りになりますか?」

「・・・いや、直接返しに行こう。」

「そうですね、そっちの方が心象が良いですしね。」

「・・・・山小屋に戻るのが面倒なだけだ。」


その後、俺達はノンストップで王都まで行った。

一度進むと決めたら、止まらないし・・泊まらない。

止まれないし・・・泊まれない。


「宿屋が満室だったのですね?」

























[24765] 第三十一話 刺客
Name: 豆◆f0891c05 ID:9222c5d5
Date: 2011/12/21 00:47

























第三十一話 刺客
















王都ローザリアに到着した俺は、宿屋へ向い部屋をとると

チャッピーとユリィをそこに置いてから、ローランディア城へと向った。


「それでは、武器をお預かり致します。」


ローランディア城へと到着した俺は、宮廷魔術師サンドラさんに面会を申し込んだ。

その際に、門番に拘束されそうになったが・・・別の門番のジョニーは俺の事を覚えていたらしく

サンドラさんに取り次いで貰える事になった。

その後、面会は許可されて城の中にある研究室へと通された。・・・・・剣と貴重品は没収されたが。















俺は研究室内にあるバルコニーで、サンドラさんから出されたお茶を飲んでいた。


「それで・・今日は如何なさったのですか?」

「はい、実は旅先で偶然これを手に入れまして・・・。」


俺は持っていた魔道書をサンドラさんに渡す。


「これは!!私の魔道書・・・何処でこれを!!」

「偶々、襲ってきた仮面をつけた賊が持っていたんです。」

「・・そうでしたか。助かりました、本当にありがとう御座います。」

「礼は不要ですよ。本当に偶然でしたし・・・後、その旅先でお子さんに会いました。」

「あの子達にですか?」

「・・達?」


複数形を疑問に思ったので聞こうと思ったのだが・・・・


「如何したのですか、ティピ。」


突然サンドラさんが独り言を言い出した。


「外?・・・目の前に一人いますが・・・。彼じゃ無い?下にですか?」


下?何か居るのか?

俺とサンドラさんはバルコニーから身を乗り出して、下を覗く。

そこには仮面を着けた怪しい男達が居た。


「分かりました。直ぐに逃げましょう。・・・シュヴァルツさん、如何やら彼等は私に向けて放たれた刺客の様です。」

「刺客ですか。」

「はい、屋上へ逃げましょう。」

「分かりました。」


サンドラさんに促されて、俺は屋上へと逃げる。


「サンドラさん・・・行き止まりですが?」

「はい。」

「抜け道とかは?」

「ありません。」

「如何するんですか?」

「助けが来るまで、持ち堪えましょう。」


仕方ない。俺は魔法の詠唱を開始する。

武器はさっき預けちゃったし、リングウェポンは宿に預けた荷物の中だし・・・・武器と云えば、この包丁位か。

詠唱をしていると、白い仮面の変質者二人がモンスターを引き連れてやって来た。


「ん?何だ貴様は?」

「まあ、良い。貴様も一緒に始末してやる。」


俺はそいつ等を無視して詠唱を続け、一斉に飛び掛ってきたモンスターに対してその魔法を放つ。


『サンダーストーム』


サンドラさんを巻き込まない様に発生した雷が土砂降りの雨の如く、モンスターを撃ち付ける。


「何!?」

「馬鹿な!!一撃で!?」

「何て威力なの!?」


残るは白い変態二人だ。

で、魔法も唱え終わったし・・・仕切りなおすか。


「そこの二人。最初からやり直すから・・・もう一度やってくれ。」

「もう一度?何の事だ!!」

「だから『ん?何だ貴様は?』って所からだ。」

「ふざけるな!!」


激昂した二人が俺に襲い掛かってくる。

俺は包丁一本でサンドラさんを庇いながら戦い続けた。



















「ふん、しぶとい奴だ!!」

「さっさと死ね!!」


コイツ等・・・かなり強い!!

正直、包丁一本だけだったら・・・俺は死んでたぞ。

だが、この鎧のお陰で俺は致命傷を負わずに済んでいる。

流石に、無傷と云う訳には行かない。腕や足など、鎧が覆っていない箇所には無数の傷をつけられた。

さてと、如何するか。サンドラさんを抱えて屋上から飛び降りるか、相打ち覚悟で突っ込むか。

奴等も俺が追い詰められている事に、気付いているのだろう。

行動に余裕・・・いや、油断がある。


「無駄な足掻きは止めて、楽になれ。苦しむ暇も無く一撃で殺してやる。」

「・・・良く喋る奴だな。獲物を前に舌なめずりは三流のする事だぞ?」

「貴様も減らず口を叩いているが・・・これまでだな。」


・・・本当に如何するよ。


「・・・うぐっ!?」

「何だ、この気は!?」


は?・・・き?

奴等、急に苦しみだした。何だ?内なる人格が目覚めたのか?


「お母さん!!それと・・仮面さん!!」

「マスター!!」

「サンドラ様、助けに来ました。」


と、そこに妖精を連れた少年御一行が登場!!

って、本当にあの女の子・・・サンドラさんの子供なのか?


「みんな!!」


・・・少年、アンタも何か言えよ。


「何だ、貴様等は・・・。」


震えた声で仮面の変態が吼える。

なんだ?怯えている?何に対してだ?


「貴様等に名乗る名など無い!!」


ジュリアン・・・今のアンタは輝いているぞ。惚れてしまいそうだ!!


「邪魔をするな!おい、お前は奴に止めをさせ!!俺は奴等の足止めをする。」

「分かった。」


仮面変態の一人が少年御一行に向かい、もう一人が俺に止めをさすべく斬りつけてくる。


ギンッ!!


ガンッ!!


俺は刃こぼれした包丁で、ソイツの剣を受けるが・・・・違和感を感じる。

太刀筋も遅いし、剣戟に重さも感じない。

先程までの、仮面変態とは明らかに格が違う。もちろん、下の方にだが・・・。


「ちっ!!しぶとい奴め!!」

「・・・おい、急に弱くなったな。」

「なに!?」

「これなら、今の俺でも勝てるな。」

「馬鹿め!!そんな包丁で何が出来る!!」

「・・・お前に勝てる。」


俺は包丁で剣をはじくと、返す刃で変態仮面の手首を斬りつける。


「ぐっ!!」


そして、そのままの勢いで仮面変態の首に包丁を突き立てた。


「ガハッ!!」


その男は、絶命したと思ったら、行き成り・・・溶け出した。


「溶けた?」

「この消え方・・・フレッシュゴーレム?」


見ると、肉体だけでは無く、鎧や剣まで溶けてしまった。


「サンドラさん、フレッシュゴーレムって何ですか?」

「死体で作られたゴーレムの事です。」


フレッシュゴーレムか。

そして、もう一人の方はジュリアンに一撃で切り捨てられ、先程の男と同じ様に溶けて消えた。


「あーー、終わった。」


俺は大きく息を吐くとその場に座り込んだ。


「今、手当てをします。」


そう言うとサンドラさんが魔法で、俺の治療を始めた。

治療しているサンドラさんの手に赤い線が見えた。


「サンドラさん・・・血が。」

「こんなの、かすり傷です。」


そこへ、御一行が駆けつけてくる。


「ご無事ですか?サンドラ様。」

「彼のお陰で、私は無事ですが・・。」


いや・・・俺もかすり傷ですよ?数が多いけど。


「随分と手酷くやられた様だな?」

「流石に、包丁一本は無茶だったな。」

「何!?剣は如何した?まさか・・・屋上から投げ捨てたのか?」

「・・・兵士に預けたんだ。お前と一緒にするな。」


ジュリアンが、まるで今までの仕返しとばかりに俺に嫌味をぶつけて来る。


「仮面さん、お母さんを助けてくれて・・・ありがとう御座います。」

「・・・シュヴァルツだ。お嬢さん。」

「ルイセです。」

「よろしく、ルイセ。」


そう云えば、少年御一行の中で俺がちゃんと自己紹介したのってルイセだけなんじゃないか?

ジュリアンとは戦っている最中に名前を名乗りあっただけだし、少年やオッサンとはそれさえやって無いし。


「それで、あなた達はどうやってここに?」

「それがね、マスター。ルイセちゃんが皆を連れてここまでテレポートしたの。」

「私・・良く覚えてないけど、夢中で・・。」

「そうですか。この人数をここまで。とうとう、『グローシアン』としての力に目覚めて来たのですね。」

「そうか、彼女はグローシアンだったのか。なるほど、これで納得できた。」


ジュリアンが勝手に納得してる。

確か、グローシアンってのは日食とか月食の時に生まれた人間の事で、とても強力な魔法を使う事が出来るらしい。

で、昔はグローシアンが人間を支配していた事があり、フェザリアンと戦争をしたりしていたって女王が言っていた。


「サンドラ様、グローシアンというのは?」


オッサン知らねえのかよ。


「グローシアンというのは・・・。」


オッサンの所為でサンドラさんの講義がはじまった。

・・・・サンドラさん、少しは場所を考えて欲しい。


「とにかく、一度部屋に戻りましょう。」


講義が終わって満足したのか・・・あるいは、俺の治療が一通り済んだからなのか、

サンドラさんは家に戻る事を提案して来た。・・・俺としては後者だと、願いたい。


「じゃあ、俺はこの辺でお暇させて貰います。宿屋で連れが待っていますので・・・。」

「・・そうですか。それでは、引き止めては返って悪いですね。落ち着いたら一度、尋ねていらして来て下さい。」

「分かりました。その時は、よろしくお願いします。」


俺は別れを言うとその場を後にした。























チャッピーとユリィが、宿屋に戻った俺を容赦の無い言葉で迎えてくれた


「ワウン?」

「チャッピー、違いますよ?シュヴァルツさんの服が破けているのは、ファッションなんですよ。

 アレがカッコイイと思っているのです。だから、そってして置いてあげましょう。」

「ワウ。」


いや、血が滲んでいるだろ?

明らかにオカシイって分かるだろ?


「はい、分かります。ビンテージ感を出す為に、引き摺ってきたのですね?」

「そんな馬鹿、いねぇよ。」











































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