「あなたには見せたくない映画」番外編
「フィッシュストーリー」が完成しました

昨年「アヒルと鴨のコインロッカー」でロングランヒットを飛ばした、中村義洋監督と原作者の伊坂幸太郎。そのコンビが贈る最新作「フィッシュストーリー」がこの度完成し、11月18日、マスコミ向けに完成披露試写会が実施された。上映前には舞台挨拶も行なわれ、中村以下、キャストの伊藤淳史、高良(こうら)健吾、多部未華子、濱田岳、大森南朋が登壇。作品について大いに語った。舞台挨拶の取材後にちゃっかり鑑賞もしてきたので、少々感想を交えたレポートをお届けする。

「次回作はこれで」と、伊坂から提案

 この作品の舞台となるのは、1975年、1982年、1999年、2009年、2012年という5つの時代。2012年、あと5時間で彗星が衝突して地球が滅びる、というところから映画が始まる。なんとも奇想天外な設定で、それぞれのパートは一見無関係に見えるのだが……。

 原作の「フィッシュストーリー」は短編小説。まだ雑誌に載っている段階で、伊坂自身が「次回作にどうですか?」と提案したという。脚本を書くにあたって中村が気をつけたのは、「とにかく小説の世界観を壊さないよう、最初に感じたことを大事にする」ことだったそう。そして「『アヒルと鴨〜』とはまったく違う、静かで深い映画になりました」と述べた。「静か」には少々意義を唱えたいが、噛めば噛むほど味が出る映画ではあると思う。

 また、「各パートをバラバラに撮影したので、実はこのキャスト全員が“共演した”とは言えないんですよね。ちょっとよそよそしいのが、打ち上げや今日の試写を通じてつながっていくのが面白い」とも話していた。

ボーカル希望だけど実力が伴わないアナタ、道を開くのは特訓だ!

 伊藤・高良は1975年のパートを担当。売れないパンクバンド「逆鱗」のボーカルとベースという役柄だ。バンドのメンバー役の4人は、演奏シーンのために2、3ヶ月間の特訓を行なったそう。「その期間があったから、自分たちは1つになれた」「この4人となら何でもできると思った」と、2人とも声を揃える。劇中の歌は、実際に高良自身が歌っているのだが、中村曰く「最初はほんと、全然だめで。でも、ある日急にうまくなったんですよね。奇跡みたいでした」とのこと。彼の歌、確かにうまい。声質も曲にぴったりと合っていると思う。ちなみに、全編を通して私が一番胸を熱くしたのは、後半のレコーディングシーンだった。ロックは好きじゃないはずなんだけど、音楽は時にジャンルをも超えてしまう。

 この高良、最初は舞台に登場しても笑顔がなく、むっつりした印象だった。「機嫌悪いのか?」と思っていたら、どうやら緊張していたよう。うまく喋れず、がっくりと首をうなだれる彼に、伊藤や大森が笑いながらフォローを入れる場面も。「いい雰囲気で撮影してたんだろうなぁ」と思わせる、仲のよさが垣間見えた。

鍵は劇場で見つけてください

 1982年の“気が弱い聖子ちゃんカットの大学生”濱田と、2009年の“修学旅行で1人船から降り損ね、そのままシージャックに巻き込まれる女子高生”多部は、脚本の段階で当て書きしたということ。なるほど、「素なのかも?」と思わせるようなはまり具合だ。多部はもともと伊坂も中村も好きだったとのことで、オファーには二つ返事でOKしたという。

 2012年の中古レコード店の店長を演じた大森には、「あと5時間で地球が滅びるなら何をしたい?」という質問が。「えー、怖いし想像付かないじゃないですか。だから寝ますね。ふて寝。もう一回言いますが、ふてくされて寝ます」と言い、会場を笑わせた。

 何の関係もなさそうな5つの時代は、果してどうやってつながるのか? 大森の言葉を借りるなら「NGワードがいっぱい」で、うっかりしたことは言えない。敢えてヒントを出すなら、“上記の文章にも、些細な鍵がひとつ隠されている”ということ。それが何なのかは、劇場でお確かめを。観た後「そんなことかよ!」と言わないでいただけるとありがたい。3月公開予定。

監督:中村義洋
原作:伊坂幸太郎
出演:伊藤淳史/高良健吾/多部未華子/濱田岳/森山未來/大森南朋
配給:ショウゲート
2009年/日本/カラー/ビスタ/DTS/112分
2009年3月 渋谷シネクイント、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
(c)2009「フィッシュストーリー」製作委員会

●「フィッシュストーリー」オフィシャルサイト
●TIFF編2:公開未定!? マイク・リー最新作「ハッピー・ゴー・ラッキー」
●TIFF編1:メキシコ発、ジャームッシュがファンが喜びそうな「レイク・タホ」
●第15回:たまにはアナログ回帰も。VHSが巻起こす騒動「僕らのミライへ逆回転」
●第14回:豪華共演! N・ポートマン×S・ヨハンソンの配役の妙「ブーリン家の姉妹」
●第13回:カンヌで審査員賞を受賞。不協和音を奏でる家族の肖像「トウキョウソナタ」
●第12回:ひき逃げ事件の遺族と加害者の心理は……「帰らない日々」
●第11回:今年の夏休みは絶対山へ行くぞ! 「ジャージの二人」
●第10回:ある男の奇想天外な夢の行方は? 「庭から昇ったロケット雲」
●第9回:コメディタッチで16歳の妊娠を描く「JUNO/ジュノ」
●第8回:橋口亮輔監督が描く、ある夫婦をめぐる10年の物語「ぐるりのこと。」
●番外編:「JUNO/ジュノ」で妊娠する16歳を演じたエレン・ペイジは、普通の女の子
●第7回:幸せな老夫婦に迫る影は? 「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」
●第6回:“ボブ・ディラン”のイメージを形にした万華鏡「アイム・ノット・ゼア」
●第5回:トニー・ギルロイ、初監督にして高評価! クライムサスペンス「フィクサー」
●第4回:ダニエル・デイ=ルイスの狂気が光る「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
●第3回:ポール・ハギスから突き付けられた課題は重い…… 衝撃の実話「告発のとき」
●番外編:サイコキラー、日本上陸! 「ノーカントリー」ハビエル・バルデム来日記者会見
●第2回:コーエン兄弟、アカデミー賞4部門受賞で一躍有名に? 「ノーカントリー」
●第1回:アカデミー賞4部門ノミネート! 「潜水服は蝶の夢を見る」


2008年11月19日
映画コラムニスト 鈴木晴子

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最終更新 11.12.20 15:43

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