「あなたには見せたくない映画」番外編
オダギリ×キム・ギドク「悲夢」記者会見

韓国の鬼才監督、キム・ギドクと、数々の映画に出演するオダギリジョー。その2人がタッグを組んだ「悲夢」(ひむ)の日本公開に先駆け、去る11月20日、東京・渋谷のセルリアンタワーにて記者会見が開かれた。

キム・ギドクが15作目に選んだのは“夢”の話

「魚と寝る女」「サマリア」「弓」などで知られるキム・ギドクの作品は、残忍だったり人の神経を逆撫でしたりと、その作風は一風変っている。彼は「映画界の異端児」とも呼ばれ、その世界観を嫌悪する人がいる一方、熱狂的なファンも多い。

 昨年末、オダギリジョーと香椎由宇の結婚会見が、世間を騒がせたのは記憶に新しい。聞けばオダギリは、年明けから長期の海外ロケが続くので、香椎を安心させるために結婚を決意したというではないか。その海外1発目となるのが、キム・ギドク監督作品。個人的には結婚そのものよりも、オダギリが、というよりは日本人が“あの”ギドク作品に参加、というほうに驚いた。これはどんな作品になるのか楽しみじゃないか。

「悲夢」はタイトルの通り、夢をモチーフに描かれる。“夢遊病になった女が、男の見る夢の通りに行動する”という、夢と現実が交錯した、ギドクお得意の寓話性を孕んだストーリーだ。彼は子供の頃から“夢日記”を付けており、それがこの作品の基礎になっているという。「起きた後、誰でも夢を反芻する時間があるでしょう? 寝起きの瞬間というのは、現実とも違う、幻想的なひとつの世界に入り込んでいる状態なんです」というのはキム・ギドクの弁だ。

 そして、本作のテーマは“愛の限界”。愛は美しいのか、残忍なのか、悲劇なのか、ということを問いかけたかったという。ただ、この映画に登場するのは、現実の世界では意識していない、夢の中での愛。このことについて、「愛と同時に、人間の意識の限界というものを描いてみたいと思ったんです」と語った。

高名な監督の作品なのに、俳優はあまり出演したがらないらしい

 キム・ギドクによると、「作風が原因で、出演依頼をしてもかなりの俳優に断られてしまう」のだそう。なるほど作品を観ると、確かに過酷で難しい撮影を強いられそうな感じはする。もっとも、それ以外にもイメージ等の理由もあるのだろうけれど。

 オダギリのことは「血と骨」「ゆれる」「メゾン・ド・ヒミコ」などの作品で知っていて、「悲夢」の主役には彼がぴったりだと思ったらしい。が、「ここは慎重にならないと……」と、「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」のプロモーションでオダギリが韓国に来た際も、影からこっそり覗いて終わってしまったという。

 その後、一念発起して出演依頼をし、スケジュールの問題などをクリアしてオダギリの参加が決まった。現場でのオダギリは「シナリオを自分よりも細かく把握していて、監督が2人いるみたいだった」とのこと。「今まで15本の作品を撮ってきたけど、現場にノートパソコンを持ち込んだ俳優さんは初めて。細かくメモを取っていて、その一生懸命さに感動しました。その姿勢には恐怖を感じるぐらい」という言葉に、会場は爆笑。思わぬことをバラされたオダギリは、「ノートパソコンの話は企業秘密なんですけどねー」とぼやき、それがさらに笑いを誘っていた。

 ちなみに、「俳優がなかなか自分の作品に出てくれない」のが悩みのキム・ギドクだが、オダギリが出演すると知った途端、韓国のトップ女優たちから出演希望が殺到したのだそう。オダギリ恐るべしである。

好きな監督と、興味のある題材に惹かれたオダギリ

 こうして熱烈なラブコールを受けたオダギリだが、自身ももともとキム・ギドクのファンだったという。その理由は「ドロドロとした人に見せたくないような部分を、こんなふうに美しく描いてしまう人は世界で監督だけ」だから。作品を観ながら、毎回「どこまで本気なんだろう、どんな現場なんだろう」と思っていたそうだ。

 しかも、オダギリも20代の頃から“夢日記”を付けているという。「まだ寝ぼけているうちに書いているから読めない字もあるし、内容がぶっ飛んでいて面白い」らしい。オダギリは脚本も書いており、その際に夢日記をネタにすることもあるという。好きな監督に加えて興味のある“夢”の話ということで、「スケジュールもうまく空いたし、オファーを断る理由がない。すぐに飛んでいきたいぐらいでした」と語った。

 キム・ギドクとオダギリは、とても気が合ったよう。「今まで、監督とここまで仲良くなったことはありませんでした。いつもどこか距離を置くというか、監督と俳優の間には“戦い合う部分”というのが必要だと思っていたんですね。でも、今回は撮影よりも、一緒にお酒を飲んでいる時間のほうが長かったぐらい。勝手に親友のような感覚を抱いています」と笑顔を見せた。

これまでのイメージを覆した2人

 キム・ギドクは、作品の印象と反して、よく喋る陽気な人だった。対するオダギリは「気難しい人」というイメージがあったので、会見前は笑顔の写真を撮れるか密かに心配していた。ところが、キム・ギドクとよほど相性がいいのか、オダギリは終始にこやか。“笑顔ギャラリー”が作れるほど撮影できた。

 しかも「撮影は嬉しいニュースのすぐ後でしたが、悲しい夢にならないように努力したことは?」という無理矢理こじつけた質問に対して、苦笑いしながらも「思いやりを大事にすることですね」ときちんと答えるサービスぶり。このとき、司会者と宣伝会社の人は「映画以外の質問は禁止って言ったのに!」と言いたげな表情で、顔を引きつらせていた。そのほかにも、「笑えるけど、果してこれを文字に起していいものか?」と悩む回答もあり、話が面白かったのが印象的だった。「悲夢」は来年2月上旬公開予定。


出演:オダギリ ジョー、イ・ナヨン、パク・チア、キム・テヒョン、チャン・ミヒ(特別出演)
脚本・監督:キム・ギドク
プロデューサー:ソン・ミョンチョル 撮影:キム・ギテ 
照明:カン・ヨンチャン 録音:イム・デジ
美術:イ・ヒョンジュ 音楽:ジバク 衣装:マ・ヨンヒ ヘアメイク:ジャンジン
製作:キム・ギドクフィルム  共同製作:スポンジ、スタイルジャム、鈍牛倶楽部
配給:スタイルジャム 宣伝:ミラクルヴォイス
2008/韓国/35mm/93min/アメリカンヴィスタ/ドルビーSRD/カラー/PG-12
2009年2月初旬より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷(アミューズCQN改め)ほか全国ロードショー
(C)2008 KIM KI DUK FILM All Rights Reserved

●「悲夢」オフィシャルサイト
●番外編:「フィッシュストーリー」が完成しました
●TIFF編2:公開未定!? マイク・リー最新作「ハッピー・ゴー・ラッキー」
●TIFF編1:メキシコ発、ジャームッシュがファンが喜びそうな「レイク・タホ」
●第15回:たまにはアナログ回帰も。VHSが巻起こす騒動「僕らのミライへ逆回転」
●第14回:豪華共演! N・ポートマン×S・ヨハンソンの配役の妙「ブーリン家の姉妹」
●第13回:カンヌで審査員賞を受賞。不協和音を奏でる家族の肖像「トウキョウソナタ」
●第12回:ひき逃げ事件の遺族と加害者の心理は……「帰らない日々」
●第11回:今年の夏休みは絶対山へ行くぞ! 「ジャージの二人」
●第10回:ある男の奇想天外な夢の行方は? 「庭から昇ったロケット雲」
●第9回:コメディタッチで16歳の妊娠を描く「JUNO/ジュノ」
●第8回:橋口亮輔監督が描く、ある夫婦をめぐる10年の物語「ぐるりのこと。」
●番外編:「JUNO/ジュノ」で妊娠する16歳を演じたエレン・ペイジは、普通の女の子
●第7回:幸せな老夫婦に迫る影は? 「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」
●第6回:“ボブ・ディラン”のイメージを形にした万華鏡「アイム・ノット・ゼア」
●第5回:トニー・ギルロイ、初監督にして高評価! クライムサスペンス「フィクサー」
●第4回:ダニエル・デイ=ルイスの狂気が光る「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
●第3回:ポール・ハギスから突き付けられた課題は重い…… 衝撃の実話「告発のとき」
●番外編:サイコキラー、日本上陸! 「ノーカントリー」ハビエル・バルデム来日記者会見
●第2回:コーエン兄弟、アカデミー賞4部門受賞で一躍有名に? 「ノーカントリー」
●第1回:アカデミー賞4部門ノミネート! 「潜水服は蝶の夢を見る」


2008年11月27日
映画コラムニスト 鈴木晴子

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最終更新 11.12.20 15:43

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