「あなたには見せたくない映画」番外編
ダルデンヌ兄弟が来日記者会見を開いた

カンヌ常連、ベルギーの名匠が来日

 先日11月25日、東京・銀座のホテル西洋銀座にて映画「ロルナの祈り」の来日記者会見が行なわれ、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督と主演のアルタ・ドブロシが登壇した。ダルデンヌ兄弟は、「ロゼッタ」「息子のまなざし」「ある子供」、そしてこの「ロルナの祈り」と、4作品連続でカンヌ国際映画祭の主要部門入賞を果した名匠。「ロゼッタ」と「ある子供」では、パルムドール(最高賞)を受賞している。一見気難しそうに見えた監督たちだが、兄のジャン=ピエールが「プロモーションで何度が世界中を回っているけど、日本が一番好きだね」とサービスするなど、終始にこやかだった。

子供から大人へ焦点を移し、愛の形を描く

「イゴールの約束」以降、一貫して子供にスポットを当ててきた監督たちだが、今回は大人の女性が主人公。ベルギーでの幸せな生活を夢見てアルバニアから移住したロルナは、国籍を得るために偽装結婚をする。相手のクローディは麻薬中毒で、彼が選ばれたのにはある理由があった。最初はクローディを疎ましく思っていた彼女だが、一途に自分に助けを求める彼と接するうち、心境の変化が……。

 作品を撮影するにあたり、監督2人は「今回は大人の女性を主人公にしよう」と話し合った。このストーリーはブリュッセル(ベルギーの首都)に住む女性の話を参考にしており、「実話にかなり近い」という。そして、いつものように息詰まる社会を描くと同時に、珍しくラブストーリーの要素も含んでいる。記者からの「“愛”という現実には見えないものを表現する苦労は?」という質問に、リュックは逆に「本当に愛は見えないものだと思う?」と問いかけた。「愛とは信じるものだけど、信じるのには根拠が必要。その根拠となるのは、その人を見る見方や触れ方、話し方などにはっきりと表れる。つまり、“見える”“聞こえる”ということになるんじゃないかな」と述べた。

 そして、そうした愛情を描くとき、2人が心がけるのは「過剰に語らないこと」だそうだ。「大げさに泣いたりするのはだめ。むしろ控えめに、なるべく抑える。時には隠す。そのほうが、観客がより強い愛情を感じてくれると思う」という。この作品も、今までと同じく極力セリフを削ぎ落とし、エンドロールまではBGMもない。しかし、特に後半のロルナの思いの熱さは、少し怖くなるほど伝わってくる。

徹底的に役を生きたアルタ

 一方、ロルナと自分の共通点を聞かれたアルタは、「役に入り込みすぎて、アルタとしてロルナに共感する部分を探すのは難しい」と回答。その徹底振りは、「撮影に入る前は、映画の前の彼女の人生がどんなものだったのかを想像して、年譜を作ってみました。5ヶ月の撮影期間は、ホテルと現場の往復。なるべく1人でいるようにして、お酒も一切飲まなかった。私の行動は、ロルナの行動になってしまうから」という話にも表れている。ダルデンヌ兄弟はどの作品でも順撮り(台本の順番通りに撮影すること)で進めていくが、それが演じる上でかなりプラスになるとのこと。アルタの言葉を借りるなら、「役を生きやすくなる」のだそうだ。

 そして2人の監督は、俳優たちの話によく耳を傾け、決して頭から決め付けるようなことはしないという。だから臆せずに自分の意見が言えるし、それがだんだんと自信につながっていく。「この役が演じられて、女優として本当に幸せでした」と笑顔を見せた。

ケンカするのは、レストラン選びのときだけ?

 監督2人の口から何度も出たのは「みんなで作っている」という言葉。賞を取ることについて聞かれると、ジャン=ピエールは「キャスト・スタッフみんなの仕事が認められるのは嬉しい」と答え、「映画は共同作業で作るもの。複数の選択肢がある場合は私たちが決定することもあるけど、一作ごとに全員でゼロからスタートするんだ」と言う。これはアルタの「監督たちは俳優の話をよく聞く」という話にもつながり、2人の映画製作における考え方がよくわかる。

「撮影に入る前は、2人で徹底的に話し合って、何がしたいのか明確にしておく。相手の考えを否定せず、何事も前向きに話し合うんだ。私たちが口論するのは、レストラン選びのときぐらいかな」とリュックが笑いを誘い、アルタも「確かに2人はレストラン選びでケンカしてました」と返して、さらに会場は笑いの渦に。アルタから見た2人は、「2人の人間だと忘れてしまうぐらい一心同体」とのこと。

 厳しくも優しい目線で、ベルギーの苦しい社会と微かな希望を撮り続けてきたダルデンヌ兄弟の最新作は、2009年1月下旬から公開予定。

監督・脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
出演:アルタ・ドブロシ/ジェレミー・レニエ/ファブリツィオ・ロンジョーネ
原題:Le Silence de Lorna
2008年/ベルギー=フランス=イタリア/1:1.85/カラー/ドルビーSRD/105分
配給:ビターズ・エンド
2009年1月下旬恵比寿ガーデンシネマ他全国順次公開

●「ロルナの祈り」オフィシャルサイト
●番外編:「悲夢(ひむ)」オダギリジョー×キム・ギドク記者会見
●番外編:「フィッシュストーリー」が完成しました
●TIFF編2:公開未定!? マイク・リー最新作「ハッピー・ゴー・ラッキー」
●TIFF編1:メキシコ発、ジャームッシュがファンが喜びそうな「レイク・タホ」
●第15回:たまにはアナログ回帰も。VHSが巻起こす騒動「僕らのミライへ逆回転」
●第14回:豪華共演! N・ポートマン×S・ヨハンソンの配役の妙「ブーリン家の姉妹」
●第13回:カンヌで審査員賞を受賞。不協和音を奏でる家族の肖像「トウキョウソナタ」
●第12回:ひき逃げ事件の遺族と加害者の心理は……「帰らない日々」
●第11回:今年の夏休みは絶対山へ行くぞ! 「ジャージの二人」
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●第2回:コーエン兄弟、アカデミー賞4部門受賞で一躍有名に? 「ノーカントリー」
●第1回:アカデミー賞4部門ノミネート! 「潜水服は蝶の夢を見る」


2008年12月2日
映画コラムニスト 鈴木晴子

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最終更新 11.12.20 15:43

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