新聞記者になって30年余、その大半を政治担当として過ごしてきたが、今年ほど「政治とは一体、何か」と考えさせられた1年はなかった。
3・11の大震災直後には、自民党の谷垣禎一総裁は入閣して、民主党と自民党が力を合わせて危機を乗り切るべきだと書いた。「菅(直人前首相)さんはいつ辞めるか」ばかりが報道されていたころには、「菅さんが辞めさえすれば政治は変わる」といった声は無責任だとも書いた。
野田佳彦首相が就任後の所信表明で語った「政治とは、相反する利害や価値観を調整しながら、粘り強く現実的な解決策を導き出す営みです」との言葉を引用し、政治とはまさにそういうものだと本欄に記したこともある。いずれも何も動かない、大事なことを決められない今の政治に、かつてない強い危機感を覚えたからだ。
ところが残念ながら政治は変わらない。世の中、100%の人が賛成する話などめったにないにもかかわらず、少しでも反対意見が出ると決断できず、「相反する利害」を調整できない。各党とも目指している方向は同じのように見えても妥協ができない。消費増税の民主党内取りまとめも年明けに先送りする声が早々と出ているそうだ。
そんな中、大阪市長に就任した橋下徹さんと先週、2日続けてテレビ番組の中で話をする機会があった。驚いたのは、「大阪都構想」や道州制だけでなく、橋下さんが「首相公選制」の導入を提唱し始めたことだった。
菅さんであれ、野田さんであれ、国会議員の中から国会の選挙で選ばれる首相では何も決められない。有権者に直接選挙で選ばれたリーダーこそ(自分のように?)自信を持って決断ができ、責任も取れる。橋下さんは議院内閣制はもはや限界だというのだ。
公選制を導入するには基本的に憲法改正が必要だ。「大統領型」は独裁者を生む可能性があるとも従来、言われてきた。橋下さんは直ちに国政に進出することはないと否定しているが、そんな話をすること自体、「だから彼は危うい」と感じた人も多いだろう。
だが、政治の仕組みそのものを見直す時だという橋下さんの問題意識には私も共感する。それより何より、各党が橋下人気に情けないほどすり寄る姿を見ていると、来年は首相公選制が政治の大きなテーマになるような予感がしている。(論説副委員長)=次回は1月4日に掲載します
毎日新聞 2011年12月21日 東京夕刊
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