2011年12月21日03時00分
子どもたちが学校で食べる給食。放射能の影響を知りたいという保護者たちに応えようと、自治体が検査を始めています。どのようにしているのか。検査で何がわかるのか――。現場を訪ねました。
■内部被曝つかみたい
《月曜 さつま汁、煮豚、おひたし、ご飯、牛乳》《火曜 カジキのソテー、大根サラダ、スパゲティ、ヨーグルト、牛乳》……。神奈川県横須賀市の諏訪小学校の給食室。業務用の大型冷蔵庫には、その週の給食がポリ袋に小分けされ、並んでいた。
市が同校で10月に始めた「丸ごと検査」のためだ。
月〜金曜まで毎日、献立1食分を冷凍。市の担当者がまとめて横浜の民間検査機関に送る。1週間分をミキサーにかけた後、1キロあたり1ベクレル以下の放射性物質も測れる機器で調べる。小学校など48校の献立は共通で、この検査で全校分の安全性を確認するという考え方だ。市は翌週、結果をホームページで公表する。
「内部被曝(ひばく)の実態をつかむには有効だと考えています」と市学校保健課の藤井孝生課長。公表時には、検査開始時からの積算値も出す。「空間からの外部被曝量とを合わせればトータルで子どもへの影響がわかる。数字を科学的に示すことで、保護者の不安を軽くできると考えました」
横須賀市は米軍の原子力空母の母港。原発事故の前から、市内18カ所で空間放射線量は測っていた。食品検査については当初、「産地と国が安全性を確認しており、不要」との立場だった。
だが、4月になると、「給食は親が食材を選べない」と市独自の検査を求めたり、産地を問い合わせたりする保護者からの電話やメールが相次いだ。6月、食材4品の検査を試みると今度は「検査品目が少ない」と指摘が来た。
給食に使う食材は、1日約20品目。48校がそれぞれ仕入れて調理する。計2万4千食。同じ大根でも産地が3県にまたがり、網羅的な食材検査は難しい。行き着いた先が、丸ごと検査だ。
「1キロあたり0.48ベクレル」。11月第4週、初めて放射性物質が検出された。だが、市民から不安の声は寄せられなかった。「数字を把握できたことに意味がある」。かつて産地の公表を求めた小4女児の父親(48)は、冷静に結果を受け止めた。
ただ、今も子どもに弁当を持たせる家庭もある。丸ごと検査では、結果が出たときには給食を食べてしまっているからだ。産地の異なる食材があるため、全校の安全性を知るには、1校の検査では不十分と指摘する保護者もいる。
「現状すべてに満足しているわけではないが、ひとつ確かな目安ができた」。この父親はそう感じている。
■調理前に汚染食材除きたい
食材ごとの検査を調理前に済ますことで、放射能で汚染された食材を給食から除こうと試みる自治体もある。
埼玉県蕨市では、1日に使う食材15品目前後の中から、市学校給食センターの職員が毎日、6品目を選び、品目ごとに放射性物質の含有量を検査している。測定にかかる時間は1品15分。まだ実例はないが、値が高い食材が見つかれば、調理に使わないこともできる。6品目以外の食材の安全性を確認するため、毎日1食分の丸ごと検査もする。結果は、給食の時間の前にホームページで公表している。
センターは市内の小中学校計10校の給食を一括調理。数が計約4900食と少なく、仕入れ先のばらつきも小さい。ただ、短時間で結果を出すため、検出できる値が1キロあたり20ベクレル以上と横須賀市と比べて高い。「汚染食材が子どもの口に入らないようにするため、検出できる下限値は少々高めでも、検査時間を短くすることを優先しました」とセンターの沢崎智恵子所長。来月には、より精度の高い機器を導入する予定だ。
ただ、このように一貫した考え方で検査する自治体は少ない。表面汚染だけ調べて含有量を調べなかったり、方針が定まらず複数の検査を交互にしたりする自治体もある。
首都大学東京の大谷浩樹准教授(放射線計測学)は「検査の目的を明確にし、目的に沿った検査方法をとることが大切。住民への説明も必要だ」と話す。(長沢美津子、小林未来)