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気になるあの子
作者:雨と傘
「気になるあの人」の菅原悠也の話です。

先に「気になるあの人」を読まないと分かりにくいかもしれません。
※6/6修正しました。
 季節はもう初夏だ。
 蝉が鳴き始め、もうすぐ夏休みが来る。
 
 俺、菅原悠也には最近、気になる子がいる。
 どうしても気になる子。
 気がつくと俺はあの子の事を考えている。



 あの子をはじめてみたのは去年の冬。
 高校最初の年が終りに近づいて、もうすぐクリスマスがやってくる頃。
 今年の冬は雪が降りそうだと天気予報士が言っていた。

 俺は本が好きだ。
 推理小説が好きな両親とファンタジーが好きな姉の影響で俺は小さい時からよく本を読んでいた。
 とくに「シートン動物記」や「ファーブル昆虫記」は夢中になって読んだ。
 狼のロボの話が一番好きで、ロボがとてもかっこよかった。
 「100万回生きたねこ」を読んだ時は、涙が止まらなかった。
 今でも時々読むが、何回読んでも「100万回生きたねこ」は泣ける。
 読み終わった後は悲しくなるけど、心が温かくなるいい話だ。
 将来、子供ができたら読ませたい絵本のひとつになっている。
 高校生になっても本を読むことに変わりはなかったけど、学校の図書室に行く事はなかった。
 家には親がどんどん本を買ってきて一部屋が埋まっているほどで、家に帰れば本が十分読めたから必要がなかった。
 

 だけどあの冬の日、気まぐれで図書室に行ってみた。
 なんで行こうと思ったのかは覚えていない。
 たぶん暇だったのだろう。
 放課後の学校は薄暗く、誰もいない廊下に足音が響く。
 外を見ると木々が風に吹かれて揺れている。
 今日は風が強い。
 立ち止まってぼんやりと外を見ていると窓ガラスに自分が映っているのに気がついた。
 俺は2学期の初めに髪を金髪に染めた。
 最初は鏡を見るたびに違和感があったが、違和感はもう感じない。
 再び歩き出す。
 図書室はもう、すぐそこだった。
 
 図書室に入ると人がいた。
 それがあの子。
 本に集中しているのか俺が入ってきた事には気が付いていないようだった。
 図書室を見てみると思っていたよりも本の種類が揃っていた。
 家には無い専門書に興味を引かれて何冊か読んだ。
 読み終わって時間を見ると、かなりの時間が過ぎていた。
 本を読んでいると時間が流れるのが速い。
 帰ろうと思い席を立つとあの子が同じ姿勢で本を読んでいた。
 凄い集中力だと感心した。
 帰り際に見た本に集中する後ろ姿が印象的だった。
 


 あのあと図書室にはなんとなく行きづらくって行く事はなかった。
 次にあの子に会ったのは今年の春。
 始業式の後、新しいクラスになっていて驚いた。
 それと同時に嬉しかった。
 だけど、その時は席が離れていて話す事も話しかけられる事もなかった。
 
 そのあとの委員会決めの時に、あの子は図書委員に立候補した。
 俺もそのとき図書委員に立候補した。
 やりたい委員会も無かったし、本も好きだったから丁度いいと思ったから。
 そしたら、あの子はこっちをちょっと驚いた顔で見た。
 …俺が図書委員になるのがそんなに以外だったのだろうか? 
 ちょっとショックだった。

 
 図書委員の活動は思ったよりも楽しかった。
 今年初めての委員会活動は、本の整理と軽い自己紹介だった。
 本の整理は、どんな本があるのか確認できたし、気になる本もいくつか見つけることができた。
 軽く読んでみたが好みに合っていた。
 
 その後、委員会は終了予定時間よりも早く終わった。
 気に入った本を借りて帰ろうと思っていた。
 だけど、思っていたよりも早く活動が終わったから、図書室で読んでしまおうと席に座った。
 そしたら、あの子も図書室に残っていて驚いた。
 
 残っているのは俺達だけのようだった。
 なんとなく、あの子の事が気になったけど、今は本を読むことに集中することにした。
 だけど、なんか集中できなくてなんとなく本を見ていたら

 「…本読むの好きなの?」

 と、あの子に話しかけられた。

 「……ああ。」
 
 驚いた。
 俺は髪を金髪に染めているし、視力が少し悪いから目つきが悪いらしい。
 だから、あの子から話しかけられるとは思わなかった。
 
 「…好きな作者さんとかいる?」

 好きな作者か…。
 動揺を抑えつつ、考える。
 何人かいるけど、1番好きなのは

 「…芥川龍之介。」

 中学校の時に読んだ”羅生門”から彼の作品が好きになった。
 あの独特な雰囲気が好きだ。
 ”地獄変”の狂気じみた雰囲気も、”トロッコ”の懐かしくなるような雰囲気にも魅力がある。
 
 「…渋いね。」
 「よく言われる。」
 「私は赤川次郎の三毛猫ホームズが好き。
  …あと***っていうファンタジーもよく読むな。」

 ***か。
 たしかあのシリーズは…

 「…うちの姉貴がシリーズで持ってる。ファンタジー好きなのか?」

 前に読んでみろと姉貴に進められたことがある。
 たしか、表紙が妙に少女漫画ぽかったと思う。

 「うん、好き。推理小説とかも好きだけど。
  ***って表紙の絵は女の子受けする可愛い絵だけど、内容は結構詰まっていて面白いよ。」
 
 やっぱり、絵が可愛いらしい。
 だけど、内容が詰まっているのか…。
 今度、姉貴に借りて読んでみるか。
 
 
 そのあとも本の話をした。
 あの子は俺がファンタシーをあまり読まないことを察したのか、推理小説の話をよくした。
 俺が好きな本もあって、結構本の趣味が合った。
 俺はあまり口数が多くはないから、話は盛り上がったほうだと思う。
 
  
 
 太陽がジリジリと暑い。
 外を見ると遠くで入道雲が育っている。
 青い空と大きくなっていく白い入道雲に夏が来たことを実感する。

 あのあとは別々の曜日に担当が決まって、教室では話す事はなかったけど、たまに図書室で本について話したりした。

 その頃から、気がつけばあの子の事を考えている。
 今、この瞬間も。
 
 …俺はなんとなくこの原因が分かっている。
 だけど、心のどこかでは認めたくない、違うと思っている。
 
 ぼーっと考えながら歩いていると、廊下の向こうにあの子の後ろ姿が見えた。
 ノートを運んでいるようだが、どこか危なっかしい。

 少し立ち止まって、進路を変える。
 
 俺はまだ、この感情を認められない。
 だけど、あの子の隣は心地がいいんだ。

 だから、もう少しだけ。



 裏話で、***が映画化される設定があって、
(時系列は「気になるあの人」の後で、秋ぐらい)
 その映画にあの子=佐山美里を誘おうか悩む所まで入れようかと思いましたが、
 話が長くなりすぎたので挫折しました。
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