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第Ⅰ章◆外堀
鱗粉の鍵part2
「オッドアイ、左右で瞳の色が違う症例がでる確立は、何万分の一の確立だ。
 そして、それよりも更に珍しい紫の瞳。
 この二つが合わさる可能性は、恐らく1%にも満たない」

 クロロの言葉に、こくりと頷く。

「そして、そんな人間に遭遇する確立は恐らく、億の単位では表せない程に低い」

 要するに、世界中の人間とすれ違っても、セリトの瞳と遭遇できるかどうかということ。
 そもそも、人と言う歴史を紐解いても、セリトのような瞳の人間が過去にいたのかどうか。

「オレの生涯で、そんな人間に二人も会ったとは思えない」

「つまり…」

 セリトがそう呟くと、クロロはこくりと頷いた。
 セリトの思っていることと、クロロの予想は、一致している。

「その人物が、私であると、断言していいんですね」

 セリトがそう言うと、クロロは少し沈黙するが、やがて確認するように、セリトに問いかけてきた。

「年齢から考えても、恐らく間違いない。
 ただ、疑問に残るのは」

 少しの間が空いて、クロロはおもむろに続きを口にした。

「髪の色」

 セリトも、甚だ疑問に思っていたことだ。
 セリトの目の虹彩と、肌の色から、そもそも色素が薄いことになるのだが、髪の色だけが、真っ黒なのだ。
 身体の殆どの色素が、髪に集中したように、セリトの髪は黒かった。

「その髪は、染めてるのか?」

 セリトは、首を横に振る。

「貴方の記憶にある、私の髪は、何色でしたか」

「確か……
 赤、いや…オレンジ、だったか」

 記憶がおぼろげな所を見ると、大して親しくは無かったようだ。
 これでクロロの執着心の原因は、また振り出しに戻った訳だが、セリトはそれよりも気になる単語を耳にした。

「オレンジ……」

 セリトが覚えている限り、自分の髪の色は三色だ。
 ネテロに拾われた十三の時は緑だった。そこから十五まで変わらず、十五の歳を迎えて数日経つと、髪の色が変わり始め、赤になった。十六の歳に髪の色が濃くなり、今に至る。
 他にも、クラピカの言う金髪、クロロの言う橙と、計五色が明らかになった。

「(気持ち悪い……)」

 髪の色が変わる。改めて考えると、確かに考えられない。体質と言って片付けるにも、そんな事例は聞いたことがない。
 言われるまで疑問に思わなかった。何故か?恐らく、習慣的に、身体に染み付いたことだったからだ。
 記憶を失おうが、身体は覚えていたのだ。
 
「……」

 セリトは眉根を寄せて、黙り込む。口元はきつく結ばれ、身体は強張っている。
 セリトの頬に触れたままのクロロの手を握り締めているセリトの手の平が伝える体温は、不自然なほどに冷えていた。

「(もう、言わないほうがいいか)」

 もう休めと言って、身体を起こそうとするクロロの手は、以外にもセリトによって引き止められる。

「…まだ、他に分かることがあるなら、言って下さい」

 強く握られた手からは、最早不自然な程の体温は感じない。多少低い程度の温度と、クロロを真っ直ぐに射抜く強い瞳は、セリトが現実を受け止める覚悟をした事実を、クロロに伝えた。

「……
 (強い…)」

 不安定な自分自身に脅えず、変化を恐れぬセリトに、クロロは感嘆する。
 これほどの感動を覚えたのは、いつ以来だろうか。否、初めてかもしれない。
 これほど強い人間を見たのは、初めてだった。

「他に、何を知っていますか」

 大きく震える自分の心を自覚したクロロは、自分も人間なのだと思った。
 こんなに自分の心が動いたのは、恐らく初めてだ。
 怒りも、欲求も、歓喜も、憎悪でさえも、ここまで大きく震えたことは無かった。
 いや、心は確かに震えていた。
 ただ、今のこの感情を説明付けるとしたら、

「(魂が、震えている)」

 クロロの心、クロロの一部が震えているのではない。
 クロロの存在の全てが、感動に大きく震えていた。
 クロロは、自分自身を宥めるようにゆっくりと呼吸をした。

「……
 オレが、知っているお前の名は、ソウビ」

 装備?
 セリトが首を傾げると、クロロは説明する。

「薔薇の呼び名だ。
 そこでもお前は、有名人だった」

 セリトは黙って聞いている。

稚児廓(ちごぐるわ)の、№1だったからな」

 稚児廓(ちごぐるわ)、年端のいかない子供に身体を売らせる、売春宿だ。
 世界でも片手に収まる程度しかない売春宿は、ただしどこの花街でも有名どころだ。
 水商売の店が集まる界隈でも、やはり人気の店と言うものがある。そして、ジャポンの伝統衣装、豪華な着物を子供、稚児にあしらい身体を売らせる稚児廓は、数は少なくとも有名だ。一般人でも、その存在ぐらいは知っている。
 自分は、そこに居たという。

「暫く、賭け事の栄えるラスベガルで滞在したことがあった。
 土地柄、そう言った店も多くてな、ラスベガルで一番有名な店が、ジャポン以外ではラスベガルにしかない稚児廓だった」

 日本は独自の文化が栄えている。だが、どんな文化にも共通するのが、女が身体を売る歴史があること。
 日本はそれをある一種の職業とさえ認めている国だ。日本での代表的な例が、オイランと呼ばれるものだった。
 オイランの文化は廃れることなく今もあり、それが変化し、子供にオイランの服を着せ、オイランの真似をさせるという店が、近年になって現れた。
 十年程前らしい。

「オイランのトップは“タユウ”と呼ばれる。
 詰まるところ、お前は“ソウビタユウ”と呼ばれていた。」

 なんとなく、納得がいってしまった。
 妙に色事に慣れているのも、身体をすぐに投げ出してしまえるのも、そういう事だったわけだ。

「貴方はお客だった訳ですか」

「何度か言ったが、オレは変態じゃない。
 ロリコンの趣味は無い」

「?」

 セリトはまたもや首を傾げる。
 クロロが客でないのなら、何故セリトはクロロに懐かしさを感じるのだろうか。

「どうして、知ってたんですか」

「金の飛び交う都、ラスベガル一高い女なんだ。
 噂ぐらい耳にする。
 オレがお前の顔を見て分かったのは、客寄せのパフォーマンスの為に界隈を練り歩く姿を見ただけだ。
 五……いや、六年前か?」

 するとセリトの歳は、十二だ。
 セリトが考えに耽っていると、強く身体が圧迫された。
 伝わってくる温かさと規則正しい律動を刻む音に、いつもの如くクロロの腕の中に居ることが分かった。
 セリトの状況判断は素早く行われたが、腕から逃れようと行動を起こす前に、後ろ首に衝撃を感じて、セリトの意識はプツリと途切れた。

セリトを気遣ったクロロに気絶させられておねんねです(´・ω・`)


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