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気まずい沈黙が流れていた。
とりあえず絵里子は無理やり絡まされた腕を外し、近づきすぎた距離を一歩はなれた。
相手はこちらを見下ろしたまま何も言わない。
どうしろと・・・。
こういう場合って普通男の人が気を使って話しかけたりしてくれるんじゃないの?
それともイケメンは何もしなくても女が寄ってくるからそんなスキルいらないとか!?
ふざけんなよ!言っておくけどあたしは、外見よりも中身重視だかんね!!
そんな事を心の中で叫んでも、沈黙と周りの視線の痛さは変わらない。
と、とりあえずここは自己紹介からかな・・・。
「えっと・・・絵里子といいます。はじめまして」
軽く膝を折り礼の形をとる。
それでも何も言わない相手・・・。
よく見れば、ルナさんは、こちらを凝視したまま動いていない。
「ルナディクトさん?」
絵里子は何かあったのかと不思議に思い、首をかしげて相手を見上げる。
ルナの目の前でひらひらと手を動かす。
生きてる?
一拍あってから、はっとした様子で相手は視線を逸らすと「すまない」と一言。
そしてまた沈黙。
すまないと思うんならなんか喋れよ!!
とりあえず、生きているなら何か話のきっかけをと絵里子は話題を模索する。
何がいいだろう。
あぁそう言えば・・・。
「ルナさんは夜会は嫌いなんですか?」
先程の嫌がりようを思い出し絵里子は少しニヤついてしまった。
しかし、そのほくそ笑みに水差すように相手は「当然だ」と短く言い捨てる。
”そんな事もわからないのか?馬鹿か?”とその全身で相手は語っていたが、ここでムッとしたら話は進まない。
ただで旅行を手に入れるのに、お見合い開始1分で終了させては心苦しい。
あたしって律儀だな。
「とっ当然なんですか?」
方頬をひくつかせながらも絵里子は話を続ける。
絵里子自身はお偉いさん方の長く固い挨拶がないのなら、こういったパーティーも悪くないと思っている。
まっそれは当然他に友達が居て、お見合いだなんてイベントが待っていない場合なのだが。
「人が多いところが嫌いなんですか?私も苦手です。特に混んでいる街中を歩くのとかが苦手です」
「・・・・・・・」
「それにしても美味しそうな料理ですね」
何も言わない相手に、話題を変えればいいのか?と今度は料理について話してみる。
目の前に広がる色とりどりの料理。
実は、さっきから挨拶ばかりで一つも食べられていない。おなかが空いているのも事実。
「これって勝手に食べていいんですか?」
ルナに聞けば、なんだか少し戸惑っている様子で「あぁ」と答える。
本当に無愛想な人だなぁ。
だから顔がよくても彼女が出来ないんじゃないだろうか?
「どれかお勧めの料理ってありますか?」
種類も多くて迷うのもそうだが、なにせ異世界料理、何が何だかわからない。
「・・・・・・・私が取ろう」
そう言うと近くにあった小皿にルナが適当に料理を盛ってくれる。
おっ、以外にいい所あるじゃない。
これで料理の感想や、これどんな食材なのかとかで少しは話題をつなげる。
ホッとしながら絵里子は料理を取ってくれているその間、なんとなく気になるその髪の毛をこっそり眺めた。
根元から綺麗にピンク色だ。
パサパサに痛んでる様子もないし、染めてるわけじゃなさそうだ。
魔法で髪は染められるんだろうか?
だったら人前に出るのが嫌いなルナさんがわざわざピンクにしている訳はないか・・・。
それにしてもやっぱり綺麗な色だ。それに似合っている。
心底そう思ったのだろう、今度は勝手にそれを声に出していた。
「髪、素敵な色ですよね」
料理を取っているその背中に声をかける。
「は?」
と不振げな声と共に相手が振返る。
「ん??髪、素敵な色ですよね」
絵里子は聞こえなかったのかともう一度、その桜色の髪を見つめながら同じ言葉を繰り返すと、相手は何を言われたのか解らないといったようで、呆然としている。
「?」
何だろう?自分も他の人に髪を褒めてもらったので自分も相手の髪を褒めただけのつもりなのだが。
何か間違ったのか?
絵里子はあせる。
なぜなら、目の前の人物から放たれる冷気が尋常ではなく、更に周りで聞き耳を立てていたギャラリーがざわざわとしだしたからだ。
「本気で言っているのか?」
急に怖い声でこちらを睨らむルナに絵里子は顔を引きつらせる。
美形は怒ると怖い。
「な、なんで怒ってるんですか?」
さっきまでちょっといい方向に進んでいたのに、髪の色を褒めただけで急にマイナス方向に針が振れた。
なんで褒めたのに怒られてんの?
そう思った瞬間に焦りとは別に、理不尽な対応に怒りも湧く。
「・・・」
「・・・」
数秒の睨み合いが続く。
変な所で意地っ張りな絵里子は、自分は”絶対にあたしは悪くない!”とルナを見据えたまま目を離さない。
長いようで短い攻防の末、先に折れたのはルナの方。
持っていた皿を絵里子に押し付けると
「もういい」と一言。
何がもういいのかさっぱりわからない。
勝手に怒って、勝手に諦めて・・・。
釈然としないが、それでも相手からの冷気がなくなった事に絵里子はホッとする。
こういう雰囲気は苦手だ。
それならばこの話題は禁句なのだと誰でもわかるのだが、バカなのか絵里子はついこんな事を聞いてしまう。
「さっきシャナにも聞きそびれたんですけど、髪の色って何か意味があるんですか?」
宇宙人でも見るような奇怪な眼を向けられる。
実際絵里子は宇宙人みたいな存在なのだが。
「本当に何も知らないのか?というかお前は誰だ?」
今更それですか?
「あたしは、シャナの遠い親戚って事になってますけど?」
これにもまた難しい顔をするルナ。
確かに幼馴染の彼にとって、こんな親戚いたかな?と考えるのは当然だろう。
「そうなったのはつい何時間か前なんですけどね」
悪戯っぽく絵里子は笑う。
「どういう事だ」
混乱するルナ。
「んーあたしの口からは何とも言えないので、後でシャナに聞いて下さい」
”あなたの嫁候補で異世界から呼ばれました”
なんて電波ナ事あたしにはこの会場で言う勇気はない。
「で、教えてくれるんですか?」
思案顔のルナに絵里子はもう一度問いかける。
一瞬迷った顔を見せたルナだったが、やがてゆっくりと口を開いた。
「本当に髪の色について知らないのか」
「はい、まったく」
即答に、ルナも、聞き耳を立てている周りのギャラリーも息を呑む。
「記憶喪失か?」
いぶかしむルナの思い至った結論はそれだったらしい。
だったらここはその話に乗っておくか。
「そんな所です」
ルナは大きくため息を一つ吐くと、仕方ないといった様子で話はじめる。
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