この小説には赤毛(赤髪)に対するちょっとした差別の言葉があります。
苦手な方は読まないことをお勧めします。
あとがきにソレの由来というか、調べた結果を載せておきます。
三話 髪の色はほっといてくれませんかね?
SIDE:シャルロッテ
めんどくさいことになった。
溜息をつき、折れていない方の腕で髪をかきあげる。
なんでもクザンさん。もといお父さん曰く。
書類も受理されて義親子になってるからだそうでそれは良いんだけど。
(いや、迷惑掛けてると思うけど、今の子供の体で手続きの変更は出来ないし)。
――――実際故郷に愛着もないから、渡りに船の状況だったし。
「これは、ないだろう」
足が治ってから引き取られたお父さんの家で私は呻いた。
私が、見て思わず呻いたソレは・・・
テーブルの上に置き去りにされている書類である。
前の世界よりも情報の伝達手段が整っていないこの世界では重要と言っても過言でない。
なのに、重要なはずなのに忘れられていっている書類を見て驚いたと同時に呻いたのだ。
忘れ物なんぞしているのを見たことのない祖父に育てられたと言っても過言ではない私はどうしたらいいのか途方に暮れた。
(え、なんであの人こんな重要なもの忘れてんの?どうしたらいいのコレ?)
思わず別の次元にいるであろうお祖父ちゃんに助言を求めた。
思わず呆けてしまった。
だが、早く届けに行くべきだろうと茶封筒に入っている書類を小脇に抱える。
おっきくて持ちにくい。
体が小さくなったことをこんな些細なことで思い知らされる。
実年齢を考えると少し、なさけない。
「行くのはいいんだけど・・・一般人って本部の中って入れるんだっけ?」
深紅や、煉獄の燃える炎と例えられる真っ赤な髪(ここに来てから一番のコンプレックスだ)を隠すために大きいキャスケット帽をかぶりながら呟いた。
(入れたよ、最近の軍って一定の場所までは書類にサインすれば入れるんだ・・・)
傍から見れば、キャスケット帽を被ってきょろきょろしている妖しい子供だろうな・・・。
その光景を想像して、ひきつった笑いの出てきそうな口元を引き締める。
しかも、
「ここ何処・・・」
どこもかしこも似たような廊下だったために結構奥の方まで迷い込んでしまったらしい。
(この歳で迷子なんて!!)
自分の昔ではありえなかった行動。
それに半ば、愕然とする。
(本気でないな。うん)。
自分の情けなさと不甲斐なさに軽く涙腺が緩んできた。
(このからだが小さいからって精神まで引っ張られて幼児化しなくてもいいのに・・・!)
それでも、お父さんを探すために顔をあげて道を探す。
しかし、私はその第一歩を踏み出す事はなかった。
「ガキがこんな所で何をやってるのだ!!」
という甲高い耳障りな声によって。
SIDE:ドレーク
俺の目の前には、信じられない光景が広がっていた。
この海軍本部の広い廊下に結構大きな人だかりができている。
その人だかりの中で起きているのは、まだ幼い子供を俺より階級が上の大人が
ヒステリックに怒鳴りつけていることだった。
おそらく一般人の子供が、間違ってこんな奥の方に迷い込んでしまったのだろう。
大きな帽子を被った少女は小さな体をさらに小さくして俯いてしまっている。
こんないたいけな子供を怒鳴りつけて何が楽しいのか!?
きっと、人だかりになって事態を見ている上官や同期の海兵や部下達は
俺と同じように歯がゆい思いをしているのだろう。
(怒鳴りつけている大人がこの中で位が一番上の少将なのだから!!)。
「しかも、何だその髪の色は!!この海軍本部にけがらわしい娼婦の娘が入るなんぞ許しがたいことだ!!さっさと立ち去れ!!」
それは、古くにあった迷信や法律の一つで、未だに信じている人間がいるのを知っていた。
確かに仕事柄様々な土地の様々な人々を見る俺でも見たことのないくらい、
その子供の髪は真っ赤だったが、上官だからと言って人間として言ったら悪いことがある。
後の事も考えず子供の事を助けようと口を開こうとしたが、その前に子供が口を開いた。
「確かに、間違ってこんなに奥に入ってしまったことは謝罪しますが、かってに人の生い立ちを決めつけないで欲しいですね。近頃の研究で赤毛は遺伝子の突然変異によって引き起こされる劣性遺伝であると考えられているということをご存知ないのですか?」
俯いていた顔をあげ、僅かに涙ぐみながらも毅然として上官の意見に反論した。
それは理路整然とした、真っ直ぐな返答で。
反論もされないような、グゥの音も出ないようなしっかりとした意見だった。
幼い子供に真っ向から反論を叩きつけられた屈辱で顔を真っ赤にして押し黙っている上官。
「・・・ああ、なるほど古くからある迷信、法律、風習を信じ切って私と私の親を侮辱なさったのですか。海軍本部の将校殿はなかなか愉快な性格と頭をなさっているようですね?」
その少女は、その綺麗な緑の目に冷めた光を帯びて痛烈な皮肉を浴びせかけた。
「うるさい小娘が!!」
かっとなったのだろう、上官に思い切り頬を叩かれよろめいた少女。
もう一回少女を叩こうとした上官と少女の間に入りこんで上官の手を掴み、止めた。
「何をする、ドレーク少佐!!」
顔を赤くしたまま、唾を吐き散らす上司に溜息を吐きそうになる。
が、ここを退いて少女を殴らせるわけにはいかない。
(腕に包帯を巻かれているから怪我をしているようだ)。
「ビル少将、貴方こそ何をしているのですか?私には幼い少女にどなり散らす品位に欠けた行いにしか見えなかったのですが?」
俺の言葉を聞いて少将はさらに顔色を赤くしたが、大きな声で
「私はこの生意気な子供をしつけているのだ!!だいたいこんな気味悪い赤毛の子供を持つ親なぞ馬の骨に決まっている!!」
その言葉を上官が言った瞬間、この場のざわめきが大きくなり、気温が猛烈に下がった。
その場を支配するような、ちりちりとした覇気が起こる。
カツリ、カツリと海軍本部の石でできた廊下をゆっくりと海軍本部大将の青雉と赤犬が現れた。
ビル少将はその顔を見て青ざめさせ、人だかりのざわめきは大きくなる。
「・・・お父さん」
叩かれた頬を赤くしながら少女は、大将青雉を見て呟いた。
「シャル・・・、大丈夫かい?」
「うん、お父さんが書類忘れてたから届けに来たんだけど、邪魔だったかな?」
「いや、あともう少ししたら会議だから助かったわ、ありがとう」
大将令嬢を傷付けたと知り、さらに顔を青ざめさせていくビル少将と
驚きにざわめいている人だかりはシャルと呼ばれた少女の血縁関係に驚いている。
大将青雉と少女はほのぼのとした親子の会話をくり広げている。
「ドレーク少佐」
「はっ!」
今度は大将赤犬に声をかけられる。
何かされるのかと思わず声がこわばるが、予想より斜めに飛んだ言葉をかけられた。
「本日の業務は終了しておるか?」
「終了しています」
「ならば、命令じゃこの娘を医務室に連れていった後、会議の終わるまで護衛せよ。わしらはこやつを連れていく」
「了解しました」
大将達に敬礼をした後、思いもよらないことに目を白黒させているシャルと呼ばれた少女を抱きあげ、周りの人だかりを抜けて医務室に連れていった。
俺と少女が曲がり角を曲がった瞬間、聞こえた悲鳴は気のせいだと思いたい。
SIDE:赤犬
なんじゃこれは・・・
わしは呆れた表情をすることしかできんかった。
幼い子供が誤って奥に入り込んだだけじゃのに、怒鳴りつける馬鹿。
しかも、調子にのって子供の髪色や親の事まで侮辱しだした。
呆れていたわしも、流石にこれはやりすぎじゃぁと、
その馬鹿を止めようとしたらその子供は目を冷たく光らせながら淡々と反論していく。
幼いのに此処まで賢い子供がいるんかと感心していると青雉が来た。
「あらら、あの馬鹿少将。人の娘に何言ってんだろうね」
・・・目が笑ってないうえに、冷気が漂い始めちょる。
「落ちつけクザン」
「なぁに言ってんのサカズキ。俺は落ち着いてるよ」
あぁ、これはキレかけちょるな。
子供を侮辱し続けとるバカに冷めた視線を送っているクザンを見て溜息をついた。
クザンがこのありさまじゃと。
なんじゃ、あの海兵の面汚しと考え憤っていたわしの頭の方が冷静に冷える。
それでも、わしらは大将。
騒ぎを大きくせんように見守ることしかできん、そのうえこの騒ぎに割って入ることもできん。
クザンも、子供の事を思いつつも耐えているようじゃし、X・ドレーク少佐が止めに入ったからこの騒ぎも収まるじゃろうと思っちょったわしの考えは甘かった。
あんの馬鹿、こともあろうに子供を最後まで罵りおった。
民間人に手を上げるとは・・・降格決定じゃの。
クザンはキレちょうし、ドレーク少佐と子供は固まっちょるし、人だかりも驚愕しちょるしのぉ。
わしは溜息したいのを堪えてドレーク少佐に命令を下し、クザンの娘をこの場から遠ざけた。
まぁ、その後の馬鹿の結末は哀れなものじゃったと言っておこう。
昔の西洋圏、特にヨーロッパの方には「赤毛には近づくな、噛んでくるから」といった風潮や、「娼婦は髪を赤く染め赤い肩掛けをまとえ」といった法律があったそうです。他にも赤い髪は地獄の炎の色、赤い髪は地獄に近づきすぎたせいという話もありましたし、フランスやヨーロッパの一部で残っていた言い伝えでは「母親が月のものがある時に身篭ったこどもは赤毛になる。そして血にまみれてできた子だからこそ血が流れるのを好む。赤毛が近くにいるだけで、傷がふさがらなくなるというのはその為だ」 。
ワンピースの世界ではまだこの様なことがありそうと思って文中の様に表現しました。不快な気分にさせたのなら申し訳ございません。
これからも応援よろしくお願いします。
ビル少将
金とコネで上にまで登ってきた、無能少将。周囲の目撃もあり、青雉の娘(一般市民)に暴力をふるったとされ、赤犬の手によって二等兵まで降格された。(青雉がそのあと何をしたのかは明らかになっていない)
セリナ・エレーネ・フォン・エーデルシュタイン
シャルロッテの母親。金髪碧眼の美女。
家格の高い貴族の娘だった。(伯の爵位持ちで世界政府の成立時からある名門貴族の直系)(捏造)
貴族一の美貌と称されるような美しい人だった。シャルロッテを身ごもった際に勘当されている。
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