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第21話:リンシェル





凛が王都を出発して二日後、凛は目的地に到着した。
馬車で送ってきてくれた御者にお礼を言い、別れる。
帰りにまた、街の出口で落ち合う予定だ。
こんなに長い旅は初めての凛は、くたびれていたが、周りの賑やかな様子に目を輝かせた。
地方都市リンシェルは、トルシアの西の海沿いにあり、果物の栽培が盛んで、瑞々しい果実は、国中、そして海を越えて西大陸にまで出荷されている。
凛が招待されている、サン・デフュール卿の屋敷は、サリシア海に突き出した岬にある。
中心の広場は、屋敷までの道のりの途中にあるので、凛は、少しの間寄っていくことにした。



「お、坊ちゃん、ちょっと見て行かないかい?」

露天商人に声を掛けられた。
今、凛は、前回のお忍びの時と同じように、魔法で髪と瞳の色を変えている。
親衛隊長として招待されているため、その立場に見合う、上質の衣服を着ているので、金持ちの家の息子だと思われたのだろう。
魔法道具を売っているらしく、布の上に所狭しと置かれている。
カラフルな小物達を眺めていたが、ふと凛は、ある物に目が留まった。
それは、ペアのブレスレットだった。銀色に輝いている。
凛の目線を辿った商人が話し出す。

「あぁ、このブレスレットかい?なかなか良いだろう?」

「これ、魔法具なんですか?」

「おうよ。本来は、迷子防止用なんだが、これに使われる金属は、綺麗だからね、今では主に装飾品として使われているのさ」

「迷子防止用・・・・?」

対になっているブレスレットは、それぞれ二人分の魔力を込めて使うらしい。
魔力は、感情によって流れが変わる。
流れが乱れると、ブレスレットに流れているその人物の魔力は、共鳴し、対の方に流れている魔力も同調する。
小さな子供は、魔力のコントロールが上手く出来ないから、特に顕著に流れが変化する。
もう片方を親がつけていれば、緊急時にすぐに知る事が出来るのだ。

「へぇ〜何だか便利そうですね」

後で役に立つかもしれない。
凛は、買うことにした。







サン・デフュール卿の屋敷は、茶色いレンガに、黒い屋根の、2階建ての荘厳な建物だった。
正面ドアの上、2階部分には、ベランダがある。
門の前で、凛は変装を解いた。

「すみません。晩餐に招待されている、リン・ホンジョウですが」

「はい。お待ちしておりました。」

門番に案内されて、屋敷に入ると、年齢50歳頃の男性が出迎えた。

「ようこそ、おいでくださいましたな、親衛隊長閣下。私がサン・デフュールです。」

サン・デフュールは、にこやかにそう挨拶したが、狡猾そうな光を目に宿していた。
脂ぎった肌に大きな鼻を持ち、細い目で凛を観察している。

「初めまして、サン・デフュール卿。お招き有難うございます。」

凛は何事もないように微笑むと、執事に促されて荷物を預けた。
部屋に案内される。
晩餐後は遅くなるので、今夜は屋敷に宿泊し、翌朝に王都へ向けて出発する予定だ。
部屋は、優美な装飾がある赤い壁紙が張ってあり、繊細な家具たちが置いてある。
凛は、ローブを肩から外すと、天蓋付きベッドに身を投げ出し、晩餐会まで、暫し休息をとった。




午後7時。凛は、晩餐会用に正装に着替えると、執事に促されて部屋を出た。
黒いラインの入った赤い隊服に包まれた彼は、普段着の時とは違う、きりっとした鋭さを放っていた。
晩餐会には、卿の家族と凛が出席する。客は凛だけの、少人数だ。
ダイニングルームへ案内され、給仕に椅子を引かれて腰掛けた。
長いテーブルの両端に凛とデフュール卿が座り、その間、
卿の側に、卿の奥方と長男が、凛側に次男と長女が座っている。

全員の自己紹介が終り、給仕達が食事を運んでくる。
その一人が凛の前にスープを置いた時、凛は、彼の手の平の真ん中に、ほくろを発見した。
へえ。ど真ん中にある。凛がそう思っていると、突如掛けられた声に思考を邪魔された。

「ところで、閣下。今は親衛隊員を探していらっしゃるとか」

「ええ。3人見つけました。後2人程、スカウトするつもりです」

「そうですか。私の次男はいかがですかな。
外見は柔ですが、魔法は、なかなか実力があるんですよ。お役に立つと思いますがね」


ティマスが前に言っていたように、血縁の者を親衛隊に入れて、王族に取り入りたいのだろう。
凛は、彼の右側に座っている少年に目を向ける。
デフュールと同じ、くすんだ茶色の髪を持つ次男は、クディルスという。
母親似なのか、父親とは決定的に違い、素直な目をしているが、表情に翳がある。
凛の視線に気が付くと、クディルスは、少し目を伏せて、気まずそうにした。

「考えておきます。それにしても、素晴らしい料理ですね。」

凛は、にこやかに、そう返答を避けると、話題を変えた。



長い晩餐が終わると、凛は部屋に帰った。
計算高いデフュールとのやり取りは、凛を疲労させるものだった。
明日の朝には、王都へ出発する。
さして問題も起きない様なので、一安心だった。





翌朝、部屋で朝食を取りながら寛いでいると、執事がドアをノックした。

「リン様、御者の方がお越しです。お通ししても宜しいでしょうか?」

「あ、はい。どうぞ」

凛が帰りに、街の出口で落ち合う予定だった御者が部屋に入ってくる。
背の高い青年だ。実は軍の兵で、彼もリンシェルに用があった為、同行したのだ。
心なしか青ざめている。
ドアが閉まり、一礼して彼が近くにやって来ると、凛は戸惑いながら尋ねた。

「どうしたんですか?何かありました?」

「閣下・・・実は、つい先ほど、王都から極秘情報が入りました。
王女殿下が何者かに誘拐されたとの事です!」



「な・・なん、だって!?」








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