Topaz
『結婚!?』
俺、二宮和也は自分で言うのもなんだけど、このN国の王子。24歳っつーと、妃を貰っていて当たり前の年齢。
『はい、和也様も24歳…本日正午よりA国の姫様とのお食事会を行いますのでお逃げにならないように。』
執事の翔がニッコリと気持ちの悪い笑顔を見せ部屋から出て行く。
よし、逃げ…ガチャン。
『あいつ…鍵かけやがった。』
ありえない…好きでもない奴と結婚だなんて無理に決まってる。
俺が鍵かけられたくらいで諦める訳ないだろ。
今まで何度も抜け出してるんだ。
びっしりと本が並ぶ本棚の奥から小さな箱を取り出すと小さな蒼い石の付いたネックレス。
この国では人口の約二割の人間が魔法を使える。魔力を持つ人間は力を抑制、増幅させる為に自分に合った石を持つ。
ピアスやリング、俺の場合はネックレスね。
『俺が魔法使えるって皆知らないんだよなー…』
基本的に父、母共に魔力がない者には魔力は受け継がれない…はずなのである。稀に生まれるのが俺みたいな奴。
石に手を翳し、熱を込めると淡い色が光り輝く。
窓際に立ちそのまま落ちるとフワッと体が軽くなり街まで飛ぶ。
『今日は晴れてんなー…すげぇ気持ち良い。』
そんな気持ち良い日に城に篭って食事会なんてしてられるかっつーの。
目立たないように街から少し離れた場所に下り、そこからは歩いて行く。
「いらっしゃーい」
「おっ今日は安くしとくよ、50バース」
「昨日のゲームの続きやろうぜー」
街は賑やかでいい。色んな人や新しい物が分かる。魔法で髪色と服装を変えるだけで誰も俺が王子だなんて気付かない。
「お客さんお金は!?20バースもタダ食いする気じゃないだろうね!」
大きな怒鳴り声に振り向くとパン屋の主人が背の高い、多分男の腕を掴んでいた。
『えっ…あっ俺、』
その男を見ると涙目でどうしたらいいのかと慌てた様子だ。
あー俺も初めて城を抜け出した時同じような事あったっけ。
『おーじさん、許してあげてよ。俺が代わりに払うから、ね?』
財布を取り出し20バースを手渡す。とても人事とは思えない。っつーより、この人…。
「おっカズじゃねぇか!お前の知り合いか?まぁカズが払うっつーなら、今度は金持って食いに来いよっ!」
ポンッと肩を叩きおじさんは店に戻って行った。
『あっあの、ありがとうございました!俺、お金って知らなくて…』
お辞儀をして綺麗な金色の髪がサラっと靡く。
『お金を知らない?あなたどっかの貴族かなんか?』
お金を知らない、なんて俺と同じ貴族の人間くらいなもんだ。
『えっ…あ、はい。雅紀って言います!あの…カズ様はこの街の方なんですか?』
雅紀…女みたいな名前だな。
『ん、まぁね。あっカズでいいよ、皆そう呼ぶしね。雅紀、街を案内するよ。』
和也としての俺を知らない人、多分同じくらいの歳だろう。
『えっ本当!?俺、N街に来るの初めてなんだ!カズありがとう!』
いきなりぎゅっと抱き着かれた。男…のはずなのになんだかドキッとしてしまった。
『ほら、これ雅紀に似てるって!んふふ』
俺の案内で街の店を回った。その度に雅紀はこれは何?あれは何?と子供の様に聞いて来た。
俺が答えるとキラキラと瞳を輝かせて『カズは頭がいいんだね』と言っていた。
『えーあっこれカズに似てるよ!』
小さな雑貨屋に入ると俺は雅紀にそっくりなウサギのぬいぐるみを手に取った。すると雅紀は俺に似ているらしい犬のぬいぐるみを嬉しそうに見せて来た。
『えーそれ犬じゃないですかー。』
雅紀は笑いながら嬉しそうに、俺似のぬいぐるみを抱き締めている。
『カズに似て可愛いよ?ねっ?』
可愛いのはアンタだよ…なんて思う俺は雅紀似のぬいぐるみを見つめる。
『そいつ…気に入ったんですか?』
あまりにも嬉しそうな雅紀に聞いてみた。するとチラッとこちらを見て俯く。
『…お金、持ってないから…』
そう言うと寂しそうにそいつを棚に戻して店を出て行く。
『ふふっ、そんな寂しそうな顔するなって。ちょっと待ってて下さい。』
二匹のぬいぐるみを持って店の奥に行きすぐに会計を済ませた。
『カズっそれ!』
ぬいぐるみを持って店を出て来た俺に、雅紀はびっくりした顔をして見つめてくる。
『記念に貰って下さい、あっこっちは俺のですけど。』
ウサギの頭を撫でて言うと雅紀は同じ様に犬の頭を撫でた。
『ひゃはは!俺とカズみたいに仲良しだね?』
犬とウサギをくっつけて楽しそうに笑う雅紀。
カーンカーン、正午を知らせる鐘の音が響く。
『『あっ…』』
その鐘の音に雅紀も反応する。何か約束があるのかな?
『雅紀…?』
泣きそうな顔で犬を抱き締め、ウサギを手渡して来た。
『俺っ…俺行かなきゃ!』
それだけ言うと、雅紀は走って人込みの中へ消えて行った。
『えっ?雅っ…待って!』
もう姿が見えない。
なんだったんだ…雅紀…。
『和也様っ!何処にいらしたのですか!』
魔法で城へ戻ると、翔が慌てた様に部屋へ駆け込んで来た。
『あー…研究室に居たんだよ。』
魔法石の研究は俺の仕事であり、趣味でもある。街に行く時は大抵研究室に居たと言えば誰も疑わない。
『A国の王と姫様はもうお待ちでいらっしゃいます!さぁ早くご仕度を!』
そんな気分じゃない…俺は、雅紀の事で頭がいっぱいだった。
それでもされるがままに着替えさせられると、背を押される様に部屋へ向かわせられた。
『和也様ご到着されました。』
扉が開かれると王とA国の王、そして俯いたままの姫が座っていた。
『和也王子よ、遅かったではないか。姫はお待ちだぞ。』
俺は雅紀の事が…。
『まぁまぁ、こうして来て下さったのですから。』
王様同士が話す中、姫とやらは俯いたままだ。俺は窓の外を見ているとガタンッと大きな音が響いた。
『あのっ、俺やっぱり…っ』
その場に居た全員が驚いた顔で大きな音を立てて椅子を倒した姫を見る。
『えっ…』
すると父は姫の言葉を聞き立ち上がった。
『どういう事だ!雅紀姫は男だったのか!?男同士の結婚は無理なはずだっ!』
男同士の結婚、それは無理だ。
特例を除いては。
『し、しかし…婚約をしたいと申したのはそちらで…』
慌てたようにA国の王が言う。
『それは姫だと言うからだ!和也との婚約は無しだっ!』
そう、特例を除いては。
『父上、今すぐ式の準備を。』
ザワザワとしていた城内が静まり返る。
『えっ…カズ!なんでカズがここに…』
漸く俺を見るA国の姫、いや雅紀。
『なんでって俺王子ですもん。』
街で会っていた時とは違い綺麗なドレス姿の雅紀。
『和也、どういう事だっ!男同士の結婚はお前にはっ…』
皆、知らないんだ。
俺は小さく笑って、石に手を翳した。
蒼い光に包まれる。
皆が目を閉じ、光が消えると城中に花が舞う。
『こ、これは…』
父上は花を取ると俺を見て呟いた。
『父上、隠しておりましたが俺は魔力を持つのです。男同士の結婚はどちらかが魔力を持っていれば出来るはず、お許し頂けますか?』
特例、それは魔力を持つ事。
『…これだけの力を持つのであれば、よいだろう。』
父上はしっかりと見据え大きく頷いた。
『ありがとうございます。…雅紀っ』
雅紀の元へ駆け寄ると手には、俺があげた犬のぬいぐるみ。
『カズ…っ、』
泣きながら犬ではなく俺を抱き締めた。
『まさか雅紀が姫だったなんて…』
雅紀を抱き返し、涙を拭ってやる。
『俺…カズを好きになってっ、だから…王子と会うの嫌だった』
あぁ、同じだ。
『俺も雅紀を好きになった。だから…結婚して下さい、雅紀姫。』
雅紀は声を出さずに小さくコクンッと頷いた。
そして、赤く柔らかい唇へそっと触れるキスをした。
それから国中が慌ただしく俺と雅紀の結婚を祝い、パーティーやパレードなど賑やかに行われた。
『雅紀…愛してます。』
『雅紀も和也愛してるっ』
END
+アトガキ+
在り来りな設定(笑)でも、魔法と姫ってのが好きなんです。もっと細かく書きたいなーなんで魔力があるのかとか。