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23)笑顔届ける おっちゃん

大道芸人 加藤(かとう) みきおさん


パフォーマンスを見せる加藤さん(鈴鹿市の小学校で)

 長距離バスに13時間揺られ、宮城県南三陸町にたどり着いた。7月9日のことだ。

 「保育施設の子どもを勇気づけてほしい」と、知人から頼まれるままに赴き、津波にのまれた被災地が想像以上にぼろぼろだと思い知らされる。「自分の一芸で、いったい、この町の誰を救えるのか」。不安が募った。

 だが、それは杞憂(きゆう)に終わる。得意のパントマイムや物まね、風船を使ったパフォーマンスを披露すると、子どもたちは声を上げて喜んだ。「ピエロのおっちゃん!」。そう呼んで群がる子どもたちに、涙を浮かべる保護者もいた。数時間しかいなかったけれど、「笑いで人を元気にできた」と実感した。

 大道芸人歴22年。地元の三重県鈴鹿市から全国の学校を訪ね、これまでに4000回以上、舞台に立った。

 厳密には、「ピエロ」ではない。黙々とパントマイムをするだけでなく、子どもと言葉を交わして笑わせる芸風だ。「ボードビリアン(喜劇役者)」と自称している。

 少年時代は、引っ込み思案だった。「やせっぽちで口下手。運動も勉強もできないいじめられっ子で、『いつか目立ちたい』と思っていた」

 転機は、24歳の時にやってきた。1989年夏に開かれた「名古屋デザイン博」で、パフォーマンス集団に出会う。次々と繰り出されるマジックやパントマイム、それを囲む大勢の観客――。以来、パフォーマーが集う名古屋・大須の芝居小屋に通い詰め、必死に大道芸の技を磨くようになった。

 「子どもの笑顔が大好きなのは、自分自身も元気をもらえるから」。8月末には再び南三陸町を訪れ、9月の台風12号で被災した三重県熊野市にも駆け付けた。報酬はない。少年少女がくれる笑顔が支えだ。

 出会った子どもたちに、必ず話していることがある。小学校の卒業アルバムに「萩本欽一の弟子になりたい」とつづった夢だ。大きな声でこう伝える。

 「おっちゃんな、欽ちゃんの弟子にはなれんかった。でも今、芸人でいられるのは、絶対に夢を捨てなかったからや。あきらめないことは立派な才能なんやで!」

 クリスマスシーズンの大道芸人は、忙しい。年が明けたら、また南三陸町に行く。復興を担う子どもたちへ、夢と笑顔を届けるために。


2011年12月18日  読売新聞)
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