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「なに目を瞑っておるのじゃ。ほれ、ちゃんと妾を見ぬか」 「はぁ……」 折角目を瞑って現状を否認しようとしているのに、耳から入ってくる鈴の鳴るような声がそれを許さない。 仕方が無いので、恭太は再び目を開けてみた。 銀色の瞳と目が合った。 少し偉そうだった。 なので、恭太はとりあえずぴくぴく動く耳らしき物を触ってみた。 「にゃ!? な、何をするか無礼者! や、やめい……! くぅ……!」 「……触れられるということは、少なくとも幻覚の類いではないようですね……」 恭太は猫耳(?)から手を離し、少女の全身を上から下まで眺めてみる。 頭。銀色である。極細の毛が、少女の頭の動きに合わせて揺れ、光を受けて煌めいている。 顔。綺麗な造りをしている。大きくぱっちりとした二つの目は髪と同様に透き通るような銀色で、恭太をやや睨むように見上げている。 胸。ぺったんこである。まな板というか、むしろ凹んでいるというか、とにかくバスト=胸囲であろう。ほんのりと桜色の乳首が、かろうじてこちらが前だと主張している。 ……と、そこまで観察したところで恭太は気づいた。 「君、素っ裸じゃないですか!」 「……?」 叫ばれた方の少女はきょとんとして自分の身体に目を落とすと、「ああ、忘れておったわい」と言い、手を上にかざした。 再び強い光が恭太の目を襲う。 光が止んだのを確認し、恭太が目を開けると、幼女は今度はちゃんと服を纏っていた。 メイド服だった。 「何故にメイド服ですか!」 あまりの意味の分からなさに恭太は堪えきれず叫んだ。彼にしては珍しい行動である。 「ん、違うのか? このホシではこのような服装が好まれると、シンヤに教えてもらったのじゃが……」 恭太はそれを聞くと無言で倒れている伸也に近づき、相手が痙攣していることなどおかまいなしに伸也の股間をわりと本気で蹴った。 「はぅあっ!!」 伸也は一度ビクゥ! と目を見開くと、次いで周囲を見回した。そして少女を見ると、目を輝かせて言った。 「おお! 念願の猫耳ロリメイドじゃないゲフゥッ!」 言い終わる前に恭太の足が伸也の腹を踏んづけていた。反射的に起き上がった伸也の、ちょうどいい感じの位置にある顔に、踏みつけた足を曲げて膝蹴りを叩き込む。ぐしゅ、という、あまり人体からは聞くことの出来ないレアな音が響いた。 「ぐあああああっ! めっちゃ痛ぇ……ぐええっ!」 「君は。幼女に。何を。教えて。いるん。ですか?」 「ぐぼっ! げぶっ! がはっ! ぐべっ! うがっ! ごはっ!」 言葉の区切りごとに腹を踏まれ、伸也は転げ回ることも出来ずに悶絶するしかない。 「ごふ、ま、待て! 誤解だ!」 「ゴカイは君でしょう。この魚のエサが。なんなら今から本当に東勢湾の有機栄養分にしてあげましょうか」 「弁解の余地なしっ!? ほ、ほら、ミザルも助けてくれ!」 「むぅ……。一体、何を言えばいいかの……。そうじゃ! お主に教えられた、あしこき、とやらをすればキョウタ殿も落ち着くかのう?」 「……」 無言のまま、恭太は体重を支えている方の足を離した。必然、伸也の腹に恭太の全体重がのしかかることになる。その体勢のまま、恭太は片足で何度もジャンプをする。不安定な足場にも関わらず、着地点が少しもずれていない。見事なバランス感覚である。 「……! ……! ……!!」 もはや声すら出ない伸也。段々と顔色が、赤から緑、青、そして紫へとプリズムのように七色変化する。 そんな惨状をさすがに哀れに思ったのか、ミザルと呼ばれた少女は少し困ったような声で言った。 「……まあ、とにかく、キョウタ殿」 「なんですか?」 「妾は、幼女などではないぞ?」 「……は?」 恭太は、何言ってるんだこの幼女はといった目で、幼女の姿をした幼女を見た。足の動きは止まらない。最後に「ぷぎゅ」という声を立てて伸也が動かなくなった。 「妾は、これでも二万十二歳じゃ」 「そもそも妾、ミザル・レ・ラプラダ・グンゾマニフ・ウェルシェペニヒャウトは、M69星雲第162区画、第六太陽系第三惑星、通称・祝星<ガラ>で、レフジナ暦三千五百一年に、第三ギリン中央統括府第十六代長官、ウルミグ・ド・ラプラダ・グンゾマニフ・ウェルシェペニヒャウトの第一子として生まれ……」 要約。 昔々、地球から二万光年程離れたところに、地球とは全く違う、そして高度な文明を持つ星がありました。 ある時その星で大規模なクーデターが起こり、当時十二歳であったミザルは、危害を加えられることを恐れ、星外へと逃亡することにしました。 終わり。 「つまり妾は、お主ら地球人<テラン>にしてみれば、来訪者<ストレンジャー>ということになろうかの」 そう言ってミザルは、無い胸を張って偉そうにふんぞり返り、猫耳(?)をピクピクと動かした。 だが一方で、恭太は半ば呆然と首を振るしかない。 「いきなりそんなことを言われても、信じられませんよ」 「ふむ。どこが気になるのじゃ?」 ミザルは手近な机に座り、自分の髪をいじりながら首を傾げた。 「まず第一に、二万光年も離れたところから地球にピンポイントでたどり着けるはずがありません」 「まぐれじゃ。狙った訳ではない。確かに生命があるところにでもたどり着けたらいいと考えておったが、まさか、妾達と酷似した脳波を持つ生物が居る星にたどり着けるとまでは思うとらんかった。僥倖じゃった」 「……」 ミザルがあまりに堂々と言うものだから、恭太はそこをそれ以上追及するのは諦めた。 「……第二に、仮にその星を出発したのが生まれた直後だとしても、高等動物が二万年も生きられるはずがありません」 「なんじゃ、この星ではまだ、時間は速度に影響されるという原則も発見されておらんのか? 光速であれば、その時間は止まるのじゃ。何ら不思議はないではないか」 「だから、それは不可能です。質量も速度に影響されるんですから、物体を光速まで加速するには無限大のエネルギーが必要なはずでしょう。逃亡する立場の人間が、そんなエネルギーを得られるとでも?」 「それはあくまで、質量を持つ物に限っての話じゃろう。妾は、自分の思念のみを電磁波として変換、射出したのじゃよ」 「……確かに、それなら不可能ではないかもしれません。けれど、そもそも思念をデータに変換することなんか可能なんですか?」 「ふむ、この星の環境を見る限り、ここの文明は物質界のみが発達しているようじゃから、そのような疑問もでるじゃろうて。じゃが、結論から先に言えば、可能じゃ。こうして妾が居ることが、何よりも雄弁な証拠となろう?」 ここで、先程から会話について行けず惚けていた伸也が口を挟んだ。 「……ちょっといいか? 悪いけど、何を話してんのか全くわからないんだが……」 「頭の悪い君には関係のない話です」 「そんな露骨に言わなくても!」 余りの言われ方に伸也はのけぞる。 「だって、今更量子力学とか相対性理論について説明しても、どうせ理解出来ないでしょう?」 「そんなことないぞ! 俺だってアレくらい知ってる。ほらアレだ、確か猫を箱の中に入れてからもう一回見るとシュワルツェネッガーになってるって話」 「何一つ本質を理解していない人の覚え方ですね。全部間違ってるので突っ込みようもありませんよ」 第一、それだとただの手品である。 「待て、思い出したぞ! 確か毒ガスで猫を半殺しの目に遭わす動物虐待の話だ!」 「確かに僕も、彼が猫好きだったなら、今頃箱の中で半死半生になってるのは犬だったとは思いますけども」 ちなみにどうでもいいが、伸也は猫派で恭太は犬派である。 「どうせ、自分だけ会話についていけなくて寂しいだけなんでしょう? 自分の頭が悪いのは自業自得なんですから、せめて静かにしておいてください」 「確かにそうだけどさぁ! もう少し言い方柔らかくしてくれてもいいじゃねえか」 「馬鹿は黙れ」 「おかしい、何故か更に酷くなってしまった!」 「君ごときに言葉を選んであげる程、僕は暇じゃないんです。相手してもらっているだけでもありがたいと思いなさい」 「今日はいつもにましてキツいな!」 「黙れロリコン」 「原因はそれか! だから言ってんだろ、ミザルは幼女じゃないって!」 「外見的にアウトでしょうが」 「この話の登場人物は全員十八歳以上だ!」 「そんなエロゲみたいなこと言われても……」 なおも何か言おうとする伸也を無視し、恭太は再びミザルに身体を向けた。 「とりあえず……えっと、ミザルさん、でいいですか?」 「ミザルたん、でもよいぞ」 恭太は聞こえなかった振りをして続けた。 「じゃあミザルさん。貴女が異星人だということは、まあ、とりあえずは信じます。ですが、貴女の目的はなんですか?」 「目的、か?」 「はい。伸也に寄生していること、そして能力を貸し与えていること。その目的です」 「……特には、ないのう。強いて言うなら、このままこの星で暮らさせて欲しい、ということくらいじゃろうかの」 「何故ですか? 故郷に帰りたいとは思わないんですか?」 「……故郷、か」 ミザルはその言葉に、少し寂しそうな顔をした。 「あいにく、もう長い時が経っているでな。妾を知る者も、最早居ないであろうよ。なにより、我らの文明が二万年も続くなどという傲慢な考えは、持っておらん。伸び過ぎた塔が崩れるように、発達した文明もいずれは自重で砕けるのみじゃ」 そう言って、ミザルはやや自嘲的に笑った。 「……では、次に聞きます。何故、伸也に寄生したんですか?」 「……ふむ?」 「言い方を変えましょう。つまり、貴女の能力なら、わざわざ伸也なんかに寄生しなくても、一人で生活できるのでは?」 「成程、そう思うのも然りじゃな。じゃが、結論から先に言えば、それはできぬ。肉体と精神、両方が生命に必要なように、妾も思念波の状態ではとても弱い。能力も使えぬ。器がなければ、どんな水でも地に染み込む他ないのじゃ」 「でも、今は実体化できているようですが。その肉体に移動すれば、宿主なしでも大丈夫、ということはないんですか?」 「これは、あくまで仮初のものじゃ。付近の物質を一時的に有機体へ組み替えた物に、シンヤの肉体を経由して干渉しているに過ぎぬ。言うなれば劣化版、人形のようなものじゃ。到底、魂が乗るような物でもない。摂理に逆らうことは不可能なのじゃ」 「……では、最後に」 そこで恭太は、ミザルを真っ直ぐに見つめた。 「何故、僕たちを洗脳しないのですか?」 恭太は、はっきりと言い切った。 その言葉に、伸也は焦る。 「お、おい、恭太……」 「貴女の能力は、正直に言って凄まじい。その能力を使って、伸也の身体を乗っ取ったり、僕や他の人間を支配下に置いたりすることだって出来るはずです。それをしない理由は?」 「ふむ。妾が友好的な種族だから、という理由だけでは不足かの?」 「はい、不足です。……それとも」 そこで恭太は、一度ゆっくりと深呼吸をしてから、言った。 「……既に僕たちは、貴女の支配下にあるんですか?」 「!?」 その言葉に、伸也が思わず何かを言おうとする。が、何も言えずに黙ってしまう。 そして、少しの時間が流れた。 「……ふむ。思ったより、キョウタ殿は疑い深いようじゃの。そして頭も回る。成程、シンヤが頼るのも最もじゃな」 ゆっくりとそう言って、ミザルは歯を見せて笑った。 「くふふ、何、そう警戒せずともよい。種を明かせば簡単なことじゃ。妾は、既に人を操る能力を失っておるのじゃ」 「……?」 「我らの能力は、自分の肉体を介して初めて行使することが可能になるのじゃ。自分の肉体を持たぬ妾に、既にその権限がない。じゃが、その方法は知っておるから、シンヤの肉体と精神を繋ぐラインに少し妾が手を加えることで、シンヤが妾の能力を使えるようにしたのじゃ」 「……ということは、伸也の能力はあくまで伸也だけが使えるものだということですか?」 「その通りじゃ。加えて言うなら、妾の精神は既にシンヤの精神に癒着しつつあるから、今更他の人間の所に行くことは不可能じゃ。残念かのう? くふふっ」 「……別に、能力が使いたいわけではありませんよ、僕は」 心中を見透かしたように笑うミザルに気勢を削がれ、恭太は目を逸らす。それを話の終わりの合図だと捉えたのだろう、伸也はそれまでの暗い雰囲気を吹き飛ばすように明るく言った。 「はいはい、難しい話は終わりだ! さっさと町に繰り出して片っ端からかわいい女の子とヤリまくるぞ!」 思考が人間的に屑だった。 幼女の外見をした何も知らない来訪者に足コキとか教えている時点で、半ばわかっていたことではあるが。 「……」 「なんだ、そのやたらと冷たい目は」 「人外のアホを見る目ですよ」 「じ、人外ですって!? ど、どこがよ!」 「はぁ……。いちいち、言わないとわかりませんか?」 「そんな呆れ顔で俺を見るな! 具体例を挙げろ具体例を!」 「たとえば、明日テストなのに暢気なことを言い出すところとか」 「すっかり忘れてたー!」 残念ながら、伸也は本当に救いようの無い馬鹿なのであった。 恭太は、これからこいつに勉強を教えなければならないのかと考え、かなり憂鬱な気分になった。 「とにかく、もうあまり時間がないんですから、後始末したらとっとと帰りますよ」 「お、おう。後始末って?」 「とりあえず、さっきから気絶してる渚をなんとかしないといけません」 そう言って、恭太は上が裸で下がスカートのみという、初見ではどうしてこうなったのかわからないであろうものすごい格好で倒れている渚に目をやった。 「全く……。伸也が半裸で校内散歩とか無茶ばっかりするから……」 「いや、それは俺じゃなくね!?」 「何を言ってるんですか。伸也が僕を唆して渚をゲットさせたんでしょう」 「びみょーにあってるけど! でもなんか違う、絶対違う!」 叫んでいる伸也に取り合わず、恭太は倒れている渚に近づき、そっと肩を揺すった。 「渚……起きてください」 「……ん……」 渚はゆっくりと目を開けた。 恭太の顔が、渚の瞳に映り込む。 渚はしばらくぼんやりと恭太を見ていたが、ニ、三回瞬きをすると、 「こ……」 「ん? どうしたんですか?」 「この、バカー!」 いきなり、思いっきり恭太に張り手をかました。 「え? え?」 「何考えてんのよ! 女の子にあんなにひどいことさせるなんて!」 「……!?」 恭太は動転する。まさか、精神の改変が不完全だったのか? 途中までの改変は成功していたのに。もしかして、全て演技だったのか? しかし、少なくとも肉体操作はできているようだった。だとすれば、何らかの理由で精神操作のみ失敗したのか? じゃあ、どうすればいいだろうか。原因を探るか、それとも?? 最悪の結果まで考え始めるが、その思考は渚に床へ押し倒されることで断ち切られた。 恭太の上に馬乗りになった渚は、怒りのためかぷるぷる震えている。 何か言おうとするが、とっさには何も思い浮かばない。 胸ぐらを掴まれ、顔を近づけられる。恭太の視界が渚の顔で一杯になる。 そこで恭太は、渚の目が怒り一色には染まっていないことに気がついた。 いやもちろん、怒ってはいるのだが、むしろ、何かを思い詰めているようにも見える。 そこで、渚は口を開いた。 「……私を、こんな風にしたんだから……」 真っ赤になりながら、渚はぽつりと呟いた。 「責任……とってよね」 「……はい」 どうやら、伸也の能力は完璧のようだった。 服を着直し、感情の昂りが収まった渚に、恭太はこれまでのこと、つまりミザルの紹介と、これからのこと、つまり伸也に勉強を教えることを話した。 渚は、ミザルが宇宙人であるという所は驚いていたが、自分の身に起こったことを考えると、信じることにしたらしい。 そうして、話が今後のことに移り、恭太が勉強の場所を決めていないことを言うと、渚は顔を輝かせた。 「そ、それならさ」 「何か、いい場所でもありますか?」 「私の家で、勉強しようよ」 「渚の、家ですか」 「うん。……駄目?」 「いや、別に構いません。……というか、いいんですか?」 「うん。い、一応さ、私達……」 後半部分になるにつれて。声が小さくなり聞き取れなかったが、恭太は渚の言わんとしていることがわかった。 微笑ましさで満たされながら、恭太は渚を見る。 そこで恭太は、渚が内股をもじもじとすり合わせているのに気づいた。 「どうしたんですか、渚?」 「え!? あ、えっと、何でも……」 言葉を濁す渚を見て、恭太は思い当たる。 「ああ、おしっこが乾いてかゆいんですね」 「っ!」 図星だったのだろう、渚は一瞬硬直する。その隙を突いて、教太は渚を優しく床に押し倒した。 「えっ!?」 そして間髪入れずに渚の股の間に身体を入り込ませ、足が閉じられないようにする。スカートを捲り、パンティーをずり下げる。そうして露わになった渚の秘所に顔を近づけた。 「な、何を……ひゃあんっ!?」 渚が何かを言う前に、恭太の舌が渚のあそこに触れた。 思わず渚の口から嬌声が漏れる。 恭太はわざと大きく音をたてながら、渚の内股から陰唇まで丁寧に舐め上げていく。 「な、何してんのよ!?」 「もちろん、渚を舐めてきれいにしてあげてるんです」 「やめて……汚いよぉ……」 「大丈夫ですよ。それより、渚の味がしますね」 「っ! ば、馬鹿言って……ああんっ!」 恭太の下が陰核に触れる度に、渚は身体をビクつかせる。 「あっ、やだっ、だめっ、あっ、あっ、ああっ!」 ひとしきり渚の反応を楽しんだ後、恭太は今更困ったように言った。 「……おかしいですね。いくら舐めても、汁がいっこうになくなりません」 「……っ」 顔を真っ赤にして目を瞑る渚に、恭太は続ける。 「これだと、下着を着けてもすぐに濡れちゃうんじゃないですか?」 「う……」 「あ、そうだ。下着が汚れるとまずいですから、いっそのことノーパンで帰りましょうか。ついでにノーブラも」 「えぇ!?」 「まあ、別にノースカートだけでもいいですけど」 「パンツだから恥ずかしいわよ!」 「言っておきますが、僕は至って本気ですよ」 「出来る訳ないでしょ、そんなの!」 相変わらずの恭太のトンデモ要求に、渚は声を荒げる。 「じゃあ、こうしましょう。もし僕の言うことが聞けないなら、渚の家での勉強会はやめます」 「ええっ!?」 「別に、僕は渚に強制しません。自分の意志で、どうするか決めてください」 そう言って、恭太は黙り込む。 渚は、しばらく顔中真っ赤にしてうつむいていたが、やがてぽつりと言った。 「キ………、………る」 「え? 何ですか?」 「キ……キス、してくれたら……やる」 そう言って渚は、潤んだ目で恭太を見上げた。 結局、本当にノーブラノーパンで帰ることになりましたとさ。 渚の家は、学校から歩いて十五分ほどのところにあった。 二階建ての一軒家である。それなりに裕福らしく、柱や窓枠などにセンスの良さを感じる。ちょっとした庭や花壇まである。 そして伸也と恭太は、その家の玄関の前に立っていた。 なぜ二人だけかというと、渚がとめてあった車を見た後、伸也達に待っているよう言い残して、一人で家の中に入っていったからである。 その後、家の中から会話をする声が聞こえてきた。それを聞くに、どうやら渚の母親が帰ってきているようだ。 名目は勉強会ということだが、男二人だけだと親も多分心配するだろう。 そう思い、恭太は伸也に呼びかけた。 「伸也、ミザルさんを実体化させてください」 「え、なんで?」 「女子が混じっていた方が、渚の親御さんが安心するからですよ。ほら、早く」 「わかったよ。……ミザル、出てこい」 『了解じゃ』 返事とともに、まばゆい光が辺りを照らす。二回目となれば二人も心得たもので、しっかりと目を手で覆って守る。 少し経って光が止んだのを察し、恭太が手を離すと、ミザルが実体化していた。 初登場時と同じ、素っ裸猫耳ロリバージョンだった。 「アウトですね」 「なぜじゃ!」 「……あのですね。その格好のままじゃ、安心するどころか下手したら通報されます」 「通報、とな?」 「はい。具体的には、幼女に対する性的虐待の容疑で伸也が逮捕されます」 「俺だけかよ!?」 「だって僕が通報しますから」 「むぅ……。それは困るのう」 「そもそも何故に幼女なんですか。年齢相応の外見でもいいじゃないですか」 「いや、シンヤに『この星の人間は幼女には危害を加えられることはない』と教わったからなのじゃが……」 「ちょ、ミザル、それは秘密って言ったじゃぶごっ!」 慌てる伸也の顔の中心に、恭太の裏拳が突き刺さった。 鼻血を吹き出しながら崩れ落ちる伸也の顎に、恭太が振り返りざまに放った膝蹴りがヒットする。 嫌な音と共に、伸也の身体が一瞬宙に浮く。そしてそのまま落下した伸也は、地面で後頭部を強打した。 やっぱりあまり中身の入っていないような音が響いた。 伸也はしばらく悶絶した後、後頭部を押さえながらおそるおそる恭太に尋ねた。 「ねえ、ちょっと、俺の頭大丈夫? 脳みそとか出てたりしてない?」 「大丈夫です。そもそも出るほど中身が詰まってないですから安心です」 「本当に? ちょ、骨とか歪んでたりしてない?」 「大丈夫です。逆に歪んでた頭の形が少しまともになったくらいです」 「そうか? それならいいけど……」 恭太が拳に着いた血を拭い、ミザルが身体と服装を女子コウ生のそれに変え、伸也が度重なるダメージから驚異的な速度で回復したのと同時に、渚の家の扉が開いた。 「待たせてしまってごめんなさいね。渚の母で、真砂(まさご)といいます」 そう言って現れたのは、柔和な微笑みを浮かべた、優しげな女性だった。 渚がそのまま大人になったかのような美貌の持ち主である。だが渚とは違い眼鏡は掛けておらず、伸ばした髪を後ろで束ね、それを右肩から前に垂らしている。 たったそれだけの違いによるものだろうか、それとも内面の成熟が滲み出しているからだろうか。真砂は渚とは別の、大人の魅力というものを存分に纏っていた。 そして、更に付け加えるならば。 「で……デカメロン?」 思わず伸也は呟いた。 別にボッカチオは関係ない。 この母にしてこの子あり、といった感じのサイズだった。 服を下から持ち上げている度合いがハンパない。胸の部分の布地が限界に挑戦している気がする。 硬直している伸也を尻目に恭太がすっと前に出て、頭を下げた。 「初めまして。浜村恭太といいます。渚さんには、いつも学校でお世話になっております。今日は、よろしくお願いします」 「あら、こちらこそよろしくお願いしますね」 真砂はそう言って胸の谷間を見せた。もとい、頭を下げた。伸也の視線が意志とは無関係にその双丘の谷間に釘付けになる。 その様子に、恭太は真砂には聞こえないように舌打ちをすると、肘で伸也をつついた。 「……伸也」 「……え? あ、はい! か、貝塚伸也です。よろしくお願いします!」 「ミザルという。よろしく頼む」 横柄なミザルの挨拶に、真砂の表情に戸惑いが浮かんだのを見て、慌てて恭太がフォローを入れる。 「あの、ミザルさんは留学生でして、まだあまり日本語が得意ではないんです」 「ああ、そうなんですか。こちらこそ、よろしくお願いしますね」 納得したように頷き、真砂は三人を家の中まで招き入れる。 「けど、驚いたわ。まさかこの子が、家にお友達を連れてくるなんて」 「実は、明日の試験のために、勉強を教えてもらえることになったんです」 「え、そうなの、渚?」 「うん、まあ……」 「凄いじゃない! あ、じゃあ、あんまり邪魔しちゃいけないかしら?」 「うん、できれば。お母さんは、下で休んでて」 「はいはい。じゃあ、頑張ってね」 恭太たちは階段で真砂と別れ、渚に従って二階へと上る。 ところが、四人が渚の部屋の前まできたところで、いきなり渚は 「私が呼ぶまで戸を開けたら駄目だから!」 と言い放ち、一人で中に入って行った。次いで、ゴソゴソという音がする。どうやら、部屋を片付けているらしい。 手持ち無沙汰になった三人は、廊下の壁に寄りかかりながら待っていたが、五分程経ったところでミザルが、 「飽きたのじゃ」 と言って伸也の中に戻ってしまった。 それからもうしばらく経ったところで、伸也がぽつりと呟いた。 「……なあ、恭太」 「なんですか?」 「……すごかった、よな」 この場合、何がかは言うまでもあるまい。 「渚のあの巨乳は、母親譲りだったんだな」 「当然でしょう。父親譲りだったら嫌すぎるでしょうが」 「変なこと言うなや! 少し想像しちまったじゃねえか!」 「おっぱいサラリ○マン・ケンじゃないんですから、気持ち悪いことを言わないでくださいよ」 「一体何人がそのネタを理解出来ると思う!?」 「僕、あの漫画結構好きだったんですけどね」 「変態すぐる……」 「何を言ってるんですか。僕の方が君より変態だとでも?」 「正直そう言わざるを得ない」 「エロ小説の主人公なのにそんな情けないことを言うようじゃ、その内主役の座を奪われますよ。どっかの宇宙猿人みたいに」 「何を言ってるんだお前は! たとえが古い上にそれだと俺悪役だろ!? そして主役をとられるのも嫌だ! 頼む、俺に出番を譲ってくれ!」 「そういう台詞が既に脇役っぽいんですけどね……。まあそこまで言うなら、主人公はずっと君ということにしてあげてもいいですよ」 「マジか!?」 「ええ。僕は、主人公よりも格好いい脇役の立ち位置に甘んずることにしましょう。たとえて言うなら、シャドームーン」 「なんでたとえがそう古いんだ! ほんとに同い年かお前!?」 「うるさいですね、この前サイダー出たから知ってるんですよ。伸也は精々がストロンガーなんですから黙りなさい」 「そこは普通にブラックでよくない!?」 「だとしても君はどうせRXにはなれませんね」 「細かい! それくらい譲ってくれてもいいだろう!」 「でも正直、RXよりもシャドームーンの方が遥かに格好よくありませんか?」 「もうその話はよすんだ! 多分主人公補正なんだよ!」 「だいたい、君はキャラが薄いんですよ。平成で言えばG3くらいに」 「G3は主人公じゃねえだろ!? そして後半の追い上げ舐めんな!」 「じゃあ、未確認生命体第二号くらい」 「それでも二十六号を倒しただろうが!」 「結局復活されましたけどね」 「貴様は白の力を馬鹿にしてるのか!?」 「いや、君を馬鹿にしてるんですよ」 「なんだそうか……ってオイ!」 「……一体、何の話をしてるのよ?」 いつの間にか、怪訝そうな顔をした渚が二人の後ろに立っていた。 「大変に危険な話ですね」 「全くだ」 どこで誰の怒りを買うともわからない。 なお、この話はフィクションであり、実在・架空の人物・団体とは一切何の関係もありません。 「掃除終わったから、入っていいよ。でも、勝手に戸棚とか開けたら追い出すから」 「……これは『振り』だ」 伸也はそう言い、何故か上着をゆっくりと脱ぎながら真っ直ぐに戸棚に向かう。 「戸棚を開けろという『振り』とオレは受けとっ……」 「いいから見るなー!」 「ごぶぅっ!!」 渚のハイキックが伸也の後頭部に決まった。 相変わらずあまり中身の入っていないような音が響いた。 ついでに、翻ったスカートの中身が見えた。 当然だが無修正だった。 恭太はその光景をしっかりと目に焼き付けた後、素知らぬ顔で言った。 「なんか見られたら困るものでも入ってるんですか?」 「べべべ別に、そんなことはないけど?」 よっぽど恥ずかしいモノを見られたことに気づいていない渚は、どもりながら視線で八の字ダンスを踊る。 「視線が揺れまくってますね」 「う、うるさい! いいから、さっさと勉強始めるわよ!」 そんなこんなで、渚の部屋を使っての勉強会が始まった。 ところで、概して友人同士でのテスト勉強というのは、成果を出すという面から見ればほとんど無駄に等しい。 他人のやっていることが気になったり、ついつい話してしまったりして、結果的に自分の勉強に手がつかなくなってしまうからである。 それは、学年一位と二位と最下位というこのメンバーも例外ではない。 学力的に、自然と恭太が残りの二人を教えることになるのだが、渚はともかく、伸也の出来が異常に悪いため、どうしても恭太は不機嫌にならざるを得ないのである。 こんな風に。 「なあ恭太、ここはどうなってんだ?」 「はぁ? これは強調構文ですよ。文の順序は入れ替わってますが、普通に訳して基本的に問題ありません。この場合は、『しかし、事実はジェニファーの証言とは異なっていた』となります」 「恭太君、ここがちょっとわからないんだけど……」 「ん……と。ああ、ここはですね。(1)で証明した不等式があるでしょう? それを上手く変形して、挟み撃ちすればいいんですよ。この場合、両辺をk=1からn−1まで足すと……」 「おい恭太! なんでここは動詞が二個連続してんだ!?」 「だから、ここにheがあるでしょう? 関係代名詞の目的格の省略です。繰り返しの省略もあるので、気をつけてください。訳は、『ボブが彼女にねだられて買ってあげたバッグは、彼女が他の男に買ってもらったものと同じ物だった』ですね」 「あの、恭太君、いい? これなんだけど……」 「ああ、これは無理にx、yのみの式にするより、tのまま計算した方が楽です。x、yの式をそれぞれtで微分してdy/dtにdt/dxを掛けると……」 「恭太、恭太! なんでいきなりyetが出てくるんだ!?」 「だぁかぁらぁ! butの代わりにyetを使うこともあるって言ったでしょう! 二ページ前のここ! 同じことを二度聞くな! 学習しろ!『しかし、それでも彼は愚かにも彼女を信じていた』だよ!」 「ご、ごめん恭太君。ここ、ちょっと教えてくれない?」 「これは……あ、そうか。(2)でAB=BAを証明しましたよね。つまり、行列式A、Bを単純に文字として扱うことが出来るので、因数分解が出来るんです。で、(1)で求めたA、Bの固有値を使うと、それぞれのn次行列が求まるので……」 「恭太ぁ! なんでボブは明らかにビッチなジェニファーと付き合ってるんだよ!?」 「知らねーよ! 読解の問題じゃねえだろうがこれは! 貴様は黙って僕の指示通りに動けばいいんだよ!」 「きょ、恭太君、これはこうでいい?」 「あー、見事にハマってますね。この場合誘導に悪意があるから仕方が無いんですが、実は(1)で求めた場合の数は、全て同様に確からしいわけではないんです。だから、場合分けして求めなければいけません。確率で手間を惜しんじゃ駄目ですよ」 「うわーん恭太ぁ! あんまりだぁ!」 「今度はどうした!」 「新品の消しゴムが、真ん中で折れちまったよぉ!」 「百円ごときでガタガタ抜かすなやゴミがァ!」 「へばぶっ!!」 そして、一時間後。 「も……無理……。横文字なんて大嫌いだ……」 頭から白煙を噴き出しながら、伸也は机の上に突っ伏した。 「何言ってるんですか。まだテスト範囲の半分も終わってませんよ」 「だってさ、こんな勉強なんて社会に出ても役に立たなくね? 日本から出るつもりないし、俺」 外国語嫌いにおける典型的な症状である。 「だいたいアルファベットだって、mとnのどっちが先か時々わかんなくなるし」 「君、実は小学生なんじゃないですか?」 「身体は大人、頭脳は子供!」 「君がせめて美少女だったなら、まだ需要はあったかもしれないんですけどね」 「なんて理不尽な世界なんだ!」 「うるさいですね。騒がしいのは顔面だけにしてください」 「お前、その口が悪いのはなんとかならないのか!?」 「あいにく生まれつきでして。君こそ、その顔が悪いのはなんとかなりませんか?」 「こっちも生まれつきだよコンチクショウ!」 舌戦で恭太に勝てる訳がないというのに、毎回挑む伸也は馬鹿としか言いようが無い。 「そもそも君、英語ばっかりやってますけど、数学は大丈夫なんですか?」 「……大丈夫だったらよかったのに」 仮定法を使いながら目を逸らす伸也に、恭太はため息をつく。 「……大体、英語にしろ数学にしろ、なんでそこまでできなくなったんですか? 一応、チュウ学入試は通っているはずでしょう」 「そうそう! 俺、自慢じゃないけど、ショウ学校までは算数とか全国模試で名前載ったりとかしてたんだぜ」 「じゃあ、何故」 「正直、xは予想外だった」 チュウコウ一貫校の恐ろしさである。 進学時に試験がないと、このような惨状も起こりえる。 ちなみに、渚はコウ校からの編入組である。 「全く。こんな惨状で、この先の人生どうするんですか、伸也」 「じ、人生?」 「はい。今のままだと、コウ三になっても勉強に手がつかなくて、それでも周囲もなんか焦ってなさそうだから平気かなとか思い込んで、周囲に合わせてやたらと偏差値の高い大学を志望するんだけども、やっぱり学力的にどうしても足りなくて、それでも現実を見れずに『現役生はのびる!』とかいう言葉を盲信して、そのくせ勉強もしなくて、なぜか土壇場になってストレスからエロ小説書き出したりして、投稿までしちゃったりして、そんでもって結局大学落ちて、頑張ってなかったから涙もでなくて、浪人することになっても未だ小説の投稿を止められないようなアホになってしまいますよ?」 「なんか妙にリアルで嫌だな、それ……」 余計なお世話である。 なお、この話はフィクションであり、実在の人物とは一切何の関係もありません。 「それはともかく、ちょっときゅーけーしよーぜ。トイレ行ってくるわ」 「君、さっきも行ってたでしょう。加齢による頻尿ですか?」 「誰がジジィだ! 気分転換だよ!」 「頭脳は転換できませんよ?」 「わかってるようるさいな! 折角人が二人っきりにしてやろうって言ってんだからありがたく思えや!」 恭太は、少し驚いた目で伸也を見た。 「……君にしては、珍しく随分と気が利くんですね」 「褒めても何もでねぇぞ」 「こういう時くらいしか使えないんですね」 「だからって貶していいって言ってる訳じゃねえよ!」 「注文が多いですね。わかりましたよ。ほら、英語はなんとかしてあげますから、とっとと消えてください」 そういうやりとりがあり、現在伸也は春海家の廊下を歩いていた。 「ふぅ……」 歩きながら、伸也は息を吐いた。ミザルが反応して話しかける。 『随分と、疲れているようじゃの』 「当たり前だ。お前だって見ただろ。恭太、勉強になると人が変わるんだよ」 『確かに、随分と怒っている様子じゃったの』 原因は全て伸也にあると言っても過言ではないのだが、それに気づく程、伸也は頭が良い訳でも空気が読める訳でもない。 『しかしお主も、なかなか良いところがあるではないか。見直したぞ』 「ふっふっふ……。そう思うのが、素人のあかさはさ……」 言えてない。 伸也は階段を下りながら続ける。 「俺の目的は、違うところにあるのさ!」 そう言って、伸也が向いた先には。 「……♪」 エプロンを着け、洗い物をしている渚の母親、真砂が居た。 渚が友人を連れてきたことがよほど嬉しいのだろうか、真砂は鼻歌を歌いながら手を動かしている。 そんな真砂の後ろ姿に、伸也は両手を合わせた。 「うーむ……。洗い物中の人妻……いただきます!」 屑である。 伸也は真砂を指差すと、叫んだ。 「『ツェルテンクト・パトゥリメタル、ラン』!」 呪文と同時に伸也の身体が発光する。その光は伸也の指先へと収束した後、一条の筋となって真砂を貫いた。ビクン、と真砂の身体がかすかに跳ね、手からスポンジが落ちる。 光が止むのと同時に、真砂は振り向こうとするが、 「『俺を認識出来ない』」 「あら、気のせいだったかしら……」 そう言って、振り向いた真砂は不思議そうに首を傾げた。その視線は、伸也を素通りして背後の壁へと注がれている。 そう、今度の伸也の呪文は認識操作だった。今の真砂の認識は、伸也の言葉によって自在に歪められる。 「『俺のすることに対して違和感を抱かない。けれど、身体はいつもより感じてしまう』」 「誰かが居たような気がしたんだけど……」 首をひねりながら洗い物を再開する真砂の豊満な胸を、伸也は背中越しにつかんだ。 「んっ」 しかし真砂は、かすかに声を漏らしただけで、自分の異常に気づく様子は無い。 そして、伸也はと言えば。 「はわぁ……」 天国を味わっていた。 弾力こそ若い渚には劣るものの、そのボリュームと柔らかさは渚のそれを凌駕する、二つの果実。 服越しに指が埋まるという感覚を、伸也は初めて体験した。これ、リンゴなんかよりよっぽど禁断の果実じゃね? アダムが食べて怒られたのも実はリンゴじゃなくてイヴだったんじゃね? それにしても、こんな重たい物を二つもブラ下げていたら、さぞかし疲れるだろう。 ちょっと揉んであげよう。 胸を。 「た、たまらん……!」 伸也は最早止まれなかった。 真砂の上着をまくり上げ、ここは通さぬとばかりに現れたブラジャーを簡単に下にずらし、直接その果実に手を触れる。 瞬間、指がくっついたかと思った。 柔らかく、ひたすらに柔らかく、優しく指を一本一本包み込まれるかのような錯覚が伸也を襲う。 「うお……! なんじゃこりゃあ……!」 伸也は憑かれたように手を動かした。様々なアングルから果実を収穫した。上から摘まむように、下から支えるように、横から挟むように。しかし何回収穫しても、この禁断の果実は一向になくならないのであった。まさに歴史的神秘であった。人智を超越した神の御技であった。 「ううん……、んふ、あん……」 一方、真砂の息も荒くなっていた。時折、口から甘い声が漏れる。 伸也の存在や行動こそ認識していないものの、『いつもより感じてしまう』という言葉通り、伸也からの刺激によって真砂の身体は早くも発情し始めていた。 「そうだ、お鍋の準備もしないと……」 そう言って真砂は歩き出すが、伸也が後ろに子泣きじじいの如くへばりついているため、その歩みは遅い。 「疲れてるのかしら……。なんだか、身体が重いわね」 その一言を、伸也は聞き逃さなかった。 「『歩きにくいのは疲れているからだ。マッサージをするのがいい』」 「……そうね、最近忙しかったから、筋肉が張ってるのかもしれないわね」 真砂は蛇口の水を止め、リビングルームへと向かう。そして、AVの撮影くらいでしか見たことの無いような電動マッサージ機を取り出すと、ソファーに座り、スイッチを入れて肩に当てた。 周期的な低音と共にマッサージ機のヘッドが震え、真砂の肩をほぐしていく。 「あふ……効くわぁ……」 人妻がマッサージ機に喘いでいる図というのもなかなかにエロいが、伸也はそこで満足しなかった。 「『身体が重いように感じたのは、足が疲れているからかもしれない』」 「……ん、そうね……。足も、ほぐしておこうかしら……」 「『足の凝りをほぐすのには、股間をマッサージするのが効果的だ。これは当たり前のことだから、疑問に思うことは無い』」 「……そうね、あんまり時間もないし、まとめて済ましちゃいましょう……」 真砂は伸也の思惑通り、自分から股間にマッサージ機を当て始めた。 「あ、あはぁんっ! あ、あ、ああああっ!」 真砂の認識ではこの行為は当然のことなのだが、これまでの愛撫で快感を高められていた身体にはたまったものではない。そしてその痴態を間近で眺めている伸也にもたまったものではない。 「な、なんでこんなに感じるの……っ!? あ、ああんっ!」 「『感じるのは、凝りがほぐれている証拠だ。一回イクと、凝りが全てほぐれる』」 「んああ、そう、そうよ、これは当たり前なんだから……あああっ! だめっ、気持ちいいっ!」 心なしか振動が強くなったような気がするマッサージ機を股間に押し当てたまま、真砂の身体がソファーの上で大きく跳ねた。 「ああああっ! だめ、イクううぅぅっ!」 目の前で、大人の女性が自ら絶頂に達する。そんな、ある種異常なシチュエーションに、伸也も多いに興奮していた。 絶頂に達した真砂はしばらく肩で呼吸をしていたが、ふと気づいたように時計を見ると声を上げた。 「ああ、もうこんな時間? 大変だわ、すぐに晩ご飯を作らないと」 乱れた着衣を直して台所へ戻る真砂の後を、伸也はマッサージ機にGJを送ってからついていく。 台所では、真砂が材料を前に困っていた。 「困ったわね……。クリームシチューにしようと思ったんだけど……。 人参、じゃがいも、ブロッコリー、牛肉、タマネギなどが並んでいるが、肝心の牛乳がない。どうやら、切らしてしまったまま気づかなかったらしい。 それを見て、伸也の中に新たな悪戯が生まれた。 「どうしようかしら……。今から買いに行くのも……」 「何を言っているんだ奥さん! そのデカい胸は何の為にあるんだ! 谷間を見せて男を誘惑するためか! ……いや、それも結構いいかな」 「しょうがないわね。他のメニューに……」 「『自分の乳を牛乳の代わりに使えば問題ない』」 「……そうね、やっぱりシチューにしましょう。私のお乳を使えばいいし」 無茶苦茶なことを、真砂はいとも簡単に言う。そして、エプロンと上着を脱ぎ、ブラジャーを外して上半身裸になった。渚とは違って少し色素が沈着した乳首が、逆にエロい。 そんな真砂を伸也は指差すと、再び呪文を唱えた。 「『コンクタタカ・クルトネイア、カイ』! 『母乳が出るようになる』!」 「ん……」 真砂はボウルを取り出すと、それに自分の乳首を向け、自らの手で乳搾りを始めた。 初めの二、三回は何も出る様子が無かった。しかし、何度か乳房を揉んだ後に乳首を摘まんだ時、その先端から幾本かの白い筋が飛び、置いてあるボウルの中に入った。 母乳が、出ていた。 「うふっ、出た……」 真砂は満足げにうなずくと、本格的に自分の胸への愛撫を開始する。真砂のしなやかな指が乳首を摘まむ度、乳首から数本の白い線がボウルへと飛ぶ。 しかし、数分が経った頃、真砂はやや困惑したように言った。 「ん……、あんまり、出ないわね……」 そう。 確かに母乳は出たのだが、その量は決して多いとは言えなかった。 「これじゃ、晩ご飯に間に合わなくなっちゃうわね……」 そこで伸也は、助け舟を出すことにした。 「『乳があまり出ないのは、自分が感じていないからだ。もっと感じれば、たくさん出るようになる。これは料理だから、少しもおかしなことではない』」 もちろん、そんなことは嘘っぱちである。しかし、肉体と精神が共に伸也の支配下にある今の状況では、伸也の言葉どおりに真砂の身体は変化した。 「……そうね、時間もないし、ちょっとだけならいいわよね」 そう言って、真砂は右手で乳を搾ったまま、残った左手を自らの股間に伸ばした。スカートを捲り、指を器用にパンティーの隙間に滑り込ませる。 「ん……」 先ほど既に一回達しているためか、膣内は十分に濡れている。そのため、真砂は最初からかなり激しく、穴をかき回し始めた。 「んっ! ああ、ふあっ!」 指が粘膜とこすれ、愛液が泡立つくちゅくちゅという音が響く。 真砂がオナニーを始めたとたん、乳首から吹き出るミルクの量が増加した。 「うふふっ、いい感じね……あんっ! ああ、もっと……!」 指の動きはどんどんと激しくなってくる。それにつれて、真砂の声のトーンも上がっていく。 「ぅあんっ! はぁ、ああっ! はぁんっ!」 母乳がどんどん吹き出し、最初に比べると遥かに早く、ボウルに溜まっていく。 そんな真砂の嬌態に喜ぶ一方で、しかし伸也は欠落感に捉われていた。 「足りない……、何かが足りない……! 人妻が台所で母乳オナニーをしているというのに、俺のソウルは未だ不完全燃焼しかしていない……!」 そこで周囲を見回した伸也の目に、真砂が準備していた食材が映った。 伸也の頭のどこかで、カチリとピースのはまる音がした。 「そうだ、人参だ! キッチンで人妻のオナニーと言えば、野菜が必要不可欠じゃないか!」 伸也はその結論に達すると、真砂に向かって言った。 「『もっと気持ちよくなりたい。そのためには、もっと太いものが必要だ』」 「もっと……。そうよ、指だけじゃ足りないわ……。もっと、太いのじゃないと……」 真砂は情欲に濡れた目で、周囲を見渡す。そして伸也と同様に、テーブルの上の人参に目が留まった。 そのタイミングで、伸也は真砂に囁く。 「『人参なら、もっと気持ちよくなれる。もっと母乳が出やすくなる』」 「そうよ……。これは、料理のためなんだから……」 度重なる快感により思考が麻痺し始めている真砂は、自分に言い訳をしながら更なる快感を貪ろうとする。 真砂は自らの愛液でびっしょりと濡れた手を、人参へと伸ばす。そして、中でも一番太いものを掴むと、躊躇うことなしにそのまま自分の秘所へと突っ込んだ。 「はあああんっ!!」 嬌声と共に、乳首から母乳が噴水のように噴き出した。 「ああっ! こ、これ、すごいわぁ……っ! ああんっ!」 真砂は何かに取り憑かれたかのように、ひたすら手を動かす。右手で摘まむ乳首からは白い母乳が、左手で人参を出し入れする股間からは透明な愛液が、それぞれ大量に溢れ出してくる。 「あああっ! も、もうだめぇっ!」 余りの快感に耐えられず、とうとう真砂はテーブルの上に突っ伏した。照準が外れたミルクがテーブルを濡らすが、それを気にする様子はない。もう真砂の頭の中からは、「料理のため」という理由すらすっかりと消えていた。 最早そこに居るのは、ただひらすらに快感を求め続けるだけの、一匹の乳牛であった。 「ああんっ! あ、ふあああっ!! 人参、にんじんがいいのおっ! ああ、もっと、もっとぉっ!!」 その異常なまでに淫靡な光景に、とうとう伸也は自分の本能のタガが外れたのを感じた。 「もう、我慢できねぇ……!『お前は、俺のチンポが最高に気持ち良い』!」 暗示をかけた後に一瞬にしてズボンとパンツをキャストオフすると、伸也はテーブルに突っ伏している真砂に飛びかかるように近づく。 そして真砂の手から人参を奪い取ると、臨戦態勢どころか待たされすぎて暴発寸前の息子を、自分のほうに向いた真砂の桃尻に叩き込んだ。 「うわっ!」 そして、思わず伸也は声を上げた。 既に何回もイっているためか、真砂の中はとても熱く、伸也の息子を周囲360°から締め付けて来た。しかしその締め付けは決して強すぎることはなく、あるときは優しく包み込むように、あるときは全体でマッサージをするように、まるで膣が一つの生き物であるかのように蠕動していた。 なんだこれは! と伸也は心の中で絶叫した。 女の中の感触が知りたくて、でもいいオナホは高いから安いやつ買ったら数回使っただけで中身がぽろぽろ崩れてきて、しょうがないからこんにゃくを使おうと思って切れ目を入れて人肌に暖めようとレンジでチンしたら中が熱くなりすぎてて火傷しそうになった。 でも今自分の息子が味わっている感覚は、そんな過去の経験とは違った。なんというか、別次元だった。右手よりも気持ちよかった。今までの恋人を裏切るような感覚に襲われたが、それすら快感を助長するスパイスにしかならなかった。 「あああああっ!!」 一方で、真砂も快感のあまり叫んでいた。 何故かわからないが、人参が突然自分の手の中から消え、代わりに何かが自分の中に入ってきた。 それが何なのかもわからず、それによってもたらされる圧倒的な刺激に、真砂は頭がちりちりと焦げる錯覚に捉われる。 「う、うおおおおおっ!」 伸也は一声叫ぶと、真砂の腰を掴み、激しく腰を動かしだした。 肉と肉がぶつかる音が、台所に響く。 「あんっ! あっ、あはぁっ! ふあっ、うあああんっ!」 真砂はわけもわからず、ただひたすら与えられる快感に身体を震わせる。 伸也は真砂を後ろから犯しながら、その豊満な胸に手を伸ばした。そして、かなり強めに握る。 「ひいいぃっ!」 伸也が握った途端、まるで溜まっていたものが一気に押し出されたかのように、真砂の両乳首からミルクが、これまでとは比較にならない勢いで噴出した。 伸也はその手についた乳白色の液体を舐める。とても甘い。 「やああっ! おっぱい、おっぱいがすごいのぉっ! もっと揉んで、もっとミルク出させてぇっ!」 伸也が居ると気づいたわけではない。しかし真砂は無意識のうちに、誰ともわからぬ存在に更なる快感を願った。 真砂のミルクの出がよくなるのと比例して、真砂の膣中がきゅうきゅうと締まる。子供を一人産んだとは思えないほどの締め付けに、伸也は呻いた。 伸也は真砂の希望に応えるため、腰の動きを更に激しくする。 「はああぁっ! あんっ、あっ、ああっ、うあああっ! だめ、イク、イッちゃうぅっ!! あ、あーっ!!」 それならと、伸也は最後に一際大きく腰を叩き込む、そうして同時に、ぷっくりと充血し、硬くなった乳首に爪を突き立てた。 「はああああああぁぁぁっっ!!!」 強すぎる刺激に真砂は身体をがくがくと震わせ、絶叫しながら思いっきりイった。母乳が四方へと飛び散り、食材やテーブルを余すところなく白く染め上げる。 そして、絶頂と同時に急激に締め上げられた刺激に耐え切れず、伸也の肉棒がとうとう爆発した。 「っ!!」 どくっどくっどくっ! そう音が聞こえてくるほどに、伸也の息子は脈動しつつ大量の白濁液を真砂の中に注ぎこんでいた。 「出てる……熱いのが……」 真砂は、自分の中に流れ込んでくるものが何かも認識しないまま、そう朦朧と呟くとそのまま意識を失った。 「はー……。な、なんかすっげぇ出ちまった……」 一方、あまりの射精の快感に、伸也の意識も朦朧とし出す。 「こ……このまま眠れば……、ここで話が終われば……、ほ……ほんとに……俺が『主人公』のまま……終わるのか?」 そう最後に呟いて、伸也も真砂に抱きつくようにしてテーブルの上に突っ伏した。 < だが続く >
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