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美術:この1年 「今できること」探る 「再生」「鎮魂」テーマに多くの共感

 美術に何ができるのか。美術は今、何を刻印するのか。東日本大震災があった今年ほど、この切実な問いが繰り返されたことはなかったろう。

 美術館の被害実態把握には、全国美術館会議(国公私立の362館が加盟)が素早く反応した。震災発生当日に連絡本部を設置。「文化財レスキュー事業」に加わり、特に被害が大きかった宮城・石巻文化センターや岩手・陸前高田市立博物館などで、全国の学芸員らが津波をかぶった美術品の運び出しや応急措置にあたった。

 両館ほどの被害でなくとも、東北・北関東の多くの美術館が、一時休館や展覧会の変更を余儀なくされた。岩手県立美術館は、今年度の企画展予算が復旧関連に回される中、沿岸部でのワークショップなどを意欲的に展開した。他の美術館も再開後、「ふるさと再生の願い」をコレクション展に反映。「今できること」を愚直に探った。

 原発事故は、全国に甚大な影響をもたらした。国外から作品を招来する大型展のうち、西日本でも予定されていた「プーシキン美術館展」「ジョルジョ・モランディ展」などが中止に。夏の節電要請で、開館時間の短縮が相次いだ。

 美術家もさまざまな形で反応した。鎮魂を込めた作品が増えたのは自然なことかもしれない。20年前から放射能をテーマに取り入れてきたヤノベケンジはその動向が注目されたが、純粋に勇気を与えようとする新作彫刻を発表。さらに、縁のあった福島県立美術館で、来館者と連動したプロジェクトも展開し、多くの共感を集めた。

 もっとも、事態に迅速に反応するだけが芸術の役割ではない。享受する側も価値観の変化を痛感しているなか、真の意味で「災後」を表す作品はこれから生まれるのだろう。

 震災直後にもたらされた明るい話題は、「美術品国家補償法」の成立。開催中の「ゴヤ展」が適用第1号となった。

    ◇

 今年も見応えのある展覧会が多く開かれた。

 「酒井抱一と江戸琳派の全貌」展(千葉市美術館ほか)は、長年の研究成果を遺憾なく発揮。「「画家たちの『二十歳の原点』」展(平塚市美術館ほか)、「ぬぐ絵画」展(東京国立近代美術館)は、学芸員の問題意識とひねりのきいた企画力が光った。「青木繁展」(石橋美術館ほか)をはじめ、近代画家の回顧展も充実していた。

 幕末の絵師、狩野一信渾身(こんしん)の作品を初公開した「五百羅漢」展(江戸東京博物館)も忘れがたい。若冲(じゃくちゅう)らに続く近世絵画の人気者になるかも。「写楽展」(東京国立博物館)、「歌川国芳展」(大阪市立美術館ほか)など江戸文化人気は健在だった。

 特筆すべきはベテラン勢の活躍。「菊畑茂久馬 戦後/絵画」展(福岡市美術館・長崎県美術館)は、2館同時開催という破格の規模のみならず、新作の軽やかさで強烈な印象を放った。野見山暁治や横尾忠則も新作で飽くなき探究心をみせつけた。陶芸の「小川待子展」(豊田市美術館)、「川瀬忍展」(菊池寛実記念智美術館)は、完成度の高さで鑑賞者を魅了。若手では「名和晃平展」(東京都現代美術館)の会場構成のうまさも光った。事業仕分けのしわ寄せで準備不足が懸念された「ヨコハマトリエンナーレ」は、延べ33万人を動員。国際展の浸透を印象づけた。

 生誕100年の岡本太郎に関する数多くの展覧会が開かれ、人気の高さを改めて示した。また、李(リ)禹煥(ウファン)、草間彌生の欧米における大規模回顧展が話題を集めた。日本戦後美術の検証が、国内のみならず世界的にも広がっている。

 「ネオ・ダダ」の吉村益信、戦後具象彫刻を牽引(けんいん)した佐藤忠良、幻想的な日本画を描いた工藤甲人、具体美術協会出身の元永定正らが亡くなった。昨年の針生一郎に続き、同時代の美術評論家、中原佑介と瀬木慎一も3月に旅立ち、一時代の区切りを感じさせた。【岸桂子】(敬称略)

毎日新聞 2011年12月15日 東京夕刊

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