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よくある法律相談(いわゆる「自炊」について)

弁護士 山本隆司
   弁護士 井奈波 朋子
弁護士 永田 玲子


いわゆる「自炊」は適法ですか

 電子出版の普及に伴って、利用者の側も手持ちの書籍も電子化して携帯端末などで利用しようとする人が増えています。書籍をスキャナで読みとって電子ファイルにする、いわゆる「自炊」です。利用者個人が他人の手を借りず自分で自炊するものだけではなく、業者が自炊を代行するサービスや自炊を支援するサービスも登場しています。このような自炊にまつわる著作権法上の問題点を検討してみたいと思います。
 
1. 単純な自炊の場合
 自炊は、書籍をスキャナで読みとって電子ファイルを作りますが、この電子ファイルは、書籍の複製物に当たります。書籍は、著作物として、著作権で保護されています。著作権で保護されている著作物を著作権者に無断で複製すると、原則として、複製権(著作権法20条)の侵害となります。
 ところが、私的複製には、例外的に著作権が及ばないこととされています(著作権法30条)。典型的には、個人が自分で使う目的でスキャナを使って自炊する場合がこれに当たります。スキャンする書籍は、自分で購入したものでも、友人から借りてきた書籍でも、私的複製に当たります。また、スキャナ(複製機器)が、自分で購入したものでも、友人から借りてきたものでも、私的複製に当たります。
 ただし、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合には、私的使用のための複製の例外に該当するとされています(30条1項1号)。では、コンビニなどでスキャナ内蔵のコピー機を使って自炊する場合には、どうでしょうか。著作権法附則5条の2は、30条1項1号の自動複製機器には、専ら文書または図画の複製に供するものを含まないと規定しているので、結局、例外の例外として、コンビニなどでスキャナ内蔵のコピー機を使って自炊する場合も、私的複製として適法となります。

2. 自炊代行サービス
 自分の書籍の裁断・スキャンを業者にやってもらうという形態の自炊もあります。業者によって、裁断後の書籍を廃棄するところもあれば、返却するところもあるようです。
 この場合、書籍をスキャナで読みとって電子ファイルを作るという複製行為を行うのは、利用者個人の側ではなく、業者の側です。したがって、業者の行う複製は、私的複製には当たりませんので、著作権者の著作権(複製権)侵害となります。
 ところで、業者が複製権侵害の問題を回避する方法として、複写権料を支払って、適法に業務を行うという方法が考えられます。複写権料を管理している団体として、社団法人日本複写権センターがあります。通常の書籍のコピーであれば、同センターと契約した上で、使用料を支払っていれば、複製権侵害にはなりません。しかし、同センターHPによれば、「紙面上の著作物をスキャンして電子ファイルにしたり、その電子ファイルをネットワークに掲載したり、デジタル著作物のダウンロードやネットへの掲載をする等、デジタル技術を介した著作物のご利用は、当センターとの受託範囲外です」となっています。したがって、これら業者が合法に複写を行うためには、社団法人日本複写権センターを介さずに著作権者から許諾を受けなければならないということになります。

3. 自炊支援サービス
(1)利用者が業者店舗内の裁断機を利用して書籍を裁断し、利用者が業者店舗内のスキャナでスキャンするという形態の自炊や、(2)業者が裁断した書籍を用意し、利用者が業者店舗内のスキャナでスキャンするという形態の自炊もあります。

 (1)業者店舗内での裁断機・スキャナの提供
 この形態の自炊では、書籍をスキャナで読みとって電子ファイルを作るという複製行為を行うのは、利用者個人の側です。したがって、私的複製には、例外的に著作権が及ばないこととされています(著作権法30条)ので、著作権侵害にはなりません。
 前述のとおり、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合には、私的使用のための複製の例外に該当するとされています(30条1項1号)が、著作権法附則5条の2に基づき、結局、私的複製として、著作権が及ばないと考えられます。
 ただし、いわゆるカラオケ法理の適用に注意する必要があります。クラブキャッツアイ事件(最高裁昭和63年3月15日判決有斐閣判例百選94)を元祖とするいわゆるカラオケ法理によれば、カラオケスナックで客がカラオケを歌唱する場合、カラオケスナックの管理のもとに歌唱していること、カラオケスナックは客にカラオケを歌唱させることにより客の来集を図り営業上の利益を増大させていることにより、自らはカラオケを歌唱していないカラオケスナックに対しても、著作権侵害の主体性を認めています。このカラオケ法理からすると、業者は、客による書籍複製行為を管理しており、かつ、それによって営業上の利益を上げているので、著作権侵害の主体となるのではないかと考えられます。したがって、カラオケ法理を適用すれば、業者が行為主体になり、もはや私的複製は成立しないと考えられます。
 さらに、最高裁は、平成23年1月18日のまねきTV判決および同20日のロクラクII判決において、カラオケ法理よりも緩く著作権侵害の主体性を認める解釈を採りました。このような解釈によればなおさら自炊支援業者が行為主体になり、もはや私的複製は成立しないと考えられそうです。

 (2)業者店舗内での裁断済み書籍・スキャナの提供
 この形態の自炊は、(1)業者店舗内での裁断機・スキャナの提供という形態における問題(複製権侵害)のほかに、貸与権侵害も問題になります。
 業者が裁断した書籍を用意している場合、裁断した書籍を利用者に貸与することになります。利用者が業者の施設内で裁断した書籍を利用する場合には、裁断した書籍の占有は移転しませんが、著作権法の定義によれば貸与とは、貸与と同様の使用権原を取得させる行為を含むとされていますので(2条8項)、貸与権(26条の3)の侵害に該当すると考えられます。他方、「貸与」には「占有」の移転が必要だとの少数説もありますが、占有の移転がなくても所持の移転があれば著作物の使用・収益が可能ですので、少数説に妥当性があるとは考えられません。
 なお、書籍の貸与は、著作権法附則4条の2に基づいて、貸与権の適用が除外されていましたが、平成16年に同条が削除されました。
 したがって、業者が裁断した書籍を利用者に利用させている場合には、著作権法上、貸与権の侵害も成立することになります。

以上