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かびたは平穏な一日を満喫していた。 なんか、ここ三日間心休まる暇がなかった。 性奴とかになってしまったさやかが、あたり構わずかびたにひっついてきて、 「淫らしいことを、ご命令してくださいぃっ」 とか、 「さやかをうんっと、はずかしめてくださいぃっ」 とか言ってくる。無視すれば、 「あたしもう、かびたさまにとって必要じゃないんですね? それならいっそ……」 とか言って脅してくるし、むっちゃ気の弱いかびたとしてはそれに応じるしかない。 で、さやかが満足するように、とかびたが精一杯がんばっていると、いちいちそれに口を出してくる神様がいる。 「いまのは32点だニャ。もっともっと努力するニャ」 とか言って勝手な評価をした後。 「またチャレンジするニャ。せめて40点以上にならないと、今日は寝たらだめニャ」 と言ってまた、かびたをさやかにけしかける。 当然逆らったりなんかすると、すぐにネコパンチが飛んでくるからやるしかなかった。 さやかは目をきらきらさせて満面に喜びの表情を浮かべているけど、かびたのほうは引きつった笑みを浮かべるのがせいぜいだった。 おかげで性奴に奉仕するテクニックは確実にレベルアップしてるようなのだけど、でもあんまし嬉しいとかびたには思えなかった。 まぁそんなことがあって、かびたは学校に行くこともできずにいた。 さやかはひたすらかびただけを求めていたし、ニャルフェスはなんかかびたのレベルアップに夢中になってるようだった。 かびたはめいっぱい疲れて、精神的にも肉体的にもほとんどボロボロになっていた。もともとどちらも耐久力のある人間ではなかったのだから当然ではあるけど。 そうして崩壊寸前になっていた三日目の朝のこと。 「あきたニャ。ニャーニャはお散歩にいってくるのニャ。かびたも学校とかに行っていいのニャ」 ニャルフェスが宣言する。 「……えっ? それじゃ?」 おもわず、嬉しそうな表情を浮かべていたのだろう。 ゴウィン。 かびたの頭が鳴った。 あまりの痛さにかびたが涙をながす。 「それでいいのニャ。ニャーニャとしばしの別れなのニャ。そうやって別れを惜しむのが当然ニャ」 ニャルフェスのお言葉だった。 かびたは頭の痛さも忘れて、その言葉を聞いていた。 「えっ? しばしの別れ? それじゃあ!」 もしかして、開放される? 一週間? いやひょっうとしたら、一年かもしれない。できれば一生になってくれれば……。 思わずそういう想像をしてしまうかびた。 ゴウンッッッ〜〜。 さっきの二倍増しの音が聞こえる。 「うぃ〜〜ん」 かびたがうなるけど、倒れることなく耐える。 なにしろかびたの頭の中には、しばしの別れがこだましてたから。 でもしっかり涙は流れてたけど……。 「そうニャ。ニャーニャと別れるときはちゃんと泣くのニャ」 満足そうにニャルフェスが言った。 どうやら、涙の理由は関係ないらしい。 さらにニャルフェスが続ける。 「ニャーニャが夕方帰ってくるまで、かびたも達者で暮らすのニャ」 ニャルフェスの楽しそうなその言葉を聞いたとたん、かびたは床の上にパタッと倒れてしまった。 まぁ無理もないけど……。 「それじゃ、ニャーニャはお散歩に行ってくるのニャ」 そういって、窓から外へ飛んでこうとするニャルフェスの足に必死でしがみつくかびた。 「ニ、ニャルフェスさま。ち、ちょっと待って……」 「……そんなにニャーニャと離れたくないニャか? ニャーニャはお散歩考えなおそうかニャ?」 ニャルフェスのそのセリフに、かびたはあわてる。 「と、とんでもないです。散歩にはぜひ行ってください! でもその前にどうしても教えて欲しいことがあるんです!」 「な、なんかちょっとむかつくニャ。でも、ニャーニャはやさしい神様ニャから聞いてやるニャ」 なんと、めずらしくニャルフェスが譲歩した。 神様がやったのだから、これこそ真の奇跡だった。 ベキッ。 「きゅう〜」 足元のかびたが踏み潰される。 「い、いひゃいれす。な、なんれ……」 かびたの抗議の声が、ニャルフェスの足元から聞こえる。 「なんか今、ちょーむかつくこと言われたような気がしたニャ。かびたは全然悪くないニャから、気にするなニャ。それより早く何を聞きたいのか言うのニャ」 かびたは世の中の不条理さをまざまざと思い知った。 「さやかちゃんをどうすれば良いのか、教えてほしいんです。このままでは外にでられない……」 かびたがそう言ってる間にも、かびたに全裸のさやかがからみついてきていた。 「こないだの神器を使うニャ。一度刷り込んだ命令は消せニャいけど、新しい命令ニャら刷り込めるニャ。ただし、以前の命令に反する内容は絶対に受け付けニャいからやっても痛いだけニャ。たとえば性奴をやめろとか命令しても、無駄なのニャ」 話を聞いてて、かびたはなんだか絶望的な気分になってきた。 「じ、じゃあどうすれば……?」 「かびたの頭はなんのためについているのニャ? ニャーニャになぐられるためかニャ? だったらこれからは倍増しでニャーニャのパンチをお見舞いしてやるのニャ」 そのときニャルフェスの瞳がキラーンと輝く。 「ひぃっっ!」 かびたは息をのんで思わずさやかに抱きついてしまった。 「ああンッ。かびたさまぁ」 よろこんでかびたの顔を、まるで犬みたいにさやかが舐めまわしはじめるのだけど、かびたはそれどころじゃなかった。 「ご、ご、ごめんなさいっ。考えますぅ。めいっぱい考えますぅ」 必死になってそう言ったけど、かびたの頭はカラカラだった。たぶん狂牛病にかかった牛さんよりも、かびたの脳みそは小さいかも知れない。 当然答えなんて見つかるはずもなかった。 「冗談ニャ。かびたに何かを考えられるはずはないのニャ。ニャーニャもそんなことなんて、とうにわかってたのニャ」 からかっていただけたったらしい。 でも、そのセリフにしっかり落ち込むかびだだった。 そんなかびたの様子を楽しそうに見ながら、ニャルフェスはかびたにどうすればいいのか指示をだしてやる。 それは、3つの命令だった。 1. かびたの性奴であることを、かびたの命令がない限り他人に気づかせてはならない。 2. かびたの許可がないかぎり、かびたを求めてはならない。 3. 絶対に自分を傷つけてはならない。 ニャルフェスに教えてもらったその指示のおかげで、かびたはようやくさやかから開放されたのだった。 さやかとニャルフェスを家からおくりだし、ようやく一人っきりになったかびたはとても疲れていたけど、心底ほっとしながら三日ぶりになる学校に向かう。 こんなにウキウキしながら登校するなんて、それこそ小学校の入学式以来ではないだろうか。 学校に行ってみるといつもの通りカオル以外からは完全に無視されていた。けどその冷ややかな感じがなんとなく心地よかった。 カオルはまっくいつものとおりかびたに接したし、かびたのほうもあえてカオルが送ってきたメールのことを話したりはしなかった。 まあ、さすがにかびたでも墓穴を掘るとわかったからだけど……。 少し遅れてさやかが登校してくる。 教室に入ってくると同時にかびたに熱い視線を送ってきた。けどみんなはそれに気づかなかったようだ。かびたはカオルと一緒にいたし、さやかがカオルにアタックをかけているのをみんな知ってたからだ。 もっとも女子のうちの半数は(自分に自信のある)あからさまな敵意をみせたけど、さやかは気にもとめていなかった。 さやかの頭にはもうかびたのことしかなかったし、かびた以外にどう思われようとまったく関心がなかったからだ。 たとえばかびたがここで大便をしろと命じたら、さやかはよろこんでそれに従ったはずだ。かびたの命令に従うことだけが、さやかにとって大切なことだから。 たとえそれによって、かびたがどんなに困った立場にたたされようとも……。 まぁ色々と問題をかかえながらも、かびたは平穏な日常というものを満喫していた。 なにげない日常っていうのが、こんなにも幸せなもんだなんて……。 かびたは、自分の過ごしてきた日々のありがたさをかみしめるのだった。 ………… 放課後。 カオルはバスケ部の助っ人をたのまれて、午後から他校に試合に行った。 さやかはいそいそと身支度を整えると、かびたに何かをうったえるような視線を送りながら部活に向かった。 さすがにかびたにもその視線がなにをうったえているのか、容易に想像はついたけどあえて無視する。 自分で自分の首を絞める趣味はないから。 かびたは一人幸せをかみしめながら、ウキウキと家路につく。 もちろんまっすぐに帰るつもりはない。 この開放された時を早々と打ち切るつもりはなかったから。 だから、公園に向かった。 町のはずれ、見晴らしの良い高台にある公園。 カップルが多いものだから彼女のいないかびたは最近全然いかなかったけど、でも今なら平気だった。 カップルをみたって、あんまりうらやましいとは思わなくなっていたから。 公園に付いてみると、まだ時間が早いからかあんまし人はいなかった。 人影はといえば、足早に公園を通り過ぎようとしているスーツ姿のおっちゃんと、3人でじゃれあってる金髪のコギャル風の女子校生たちくらいか……。 まぁかびたには関係ないはずだった。 ひさびさに見る町をながめながら、かびたが平和そうにボーッとしていると、 「ねぇちょっとあんたさぁ、お金かしてくんない?」 いつの間にか、コギャル三人に周りを囲まれていた。 「えっ? えっ? なに?」 かびたはあわてる、もっともかびたにはあわてることしかできなかったのだけど。 「ニッブイなぁ。お金だしなよ。もってんダロ?」 一番背の低い少女が言った。それでもかびたよりはわずかに高いけど。 「あ、あ、あ、あ……」 なにがなんだかわかんないかびた。 返事にこまってる。 後の二人の少女はあんまし気の長い性格はしてないらしい。 いきなしかびたの後頭部を、鞄でなぐりつける。 かびたは一撃でダウンした。 「ったく、こんなかわいいギャルがたのんでるんだから、すなおに出しときゃいいのにさぁ」 確かにそうで、三人ともそれなりのルックスをしている。 まぁ見た目だけだけど……。 三人がかりでコギャルたちは地面にころがったかびたを、けりつけ始める。 「なんだヨ、こいつ」 ドカドカ。 「せっかくあたしらがお金貸してって言ってんのにさぁ」 ゲシゲシ。 「あんたみたいなのでも、ちょっとは他人の役にたつってのさぁ。バッカよ、こいつ。エイッ!」 最後の少女のキックが放たれる。 バギッ。 つま先がかびたの鼻先に直撃した。 「きったなぁ〜い。こいつってば、鼻血だしたぁ。靴に付いちゃったじゃん。チョーむかつく。マジギレよ、マジギレ」 それからその少女は一人で散々かびたを蹴りまわし、思う存分踏み潰した。 「いつまで、こんなんにつきあってんのヨ。もうあきちゃったしさ、いい加減遊びにいこうよ。ちょっちしけてっけどさぁ、クラブくらいなら入れんじゃん?」 少女達はしっかりかびたのポケットからサイフを抜き取っている。 立派な強盗さんたちだった。 「いこう、いこう」 三人のコギャルたちは、もうかびたのことを振り返ることすらせずに公園を立ち去った。 時間がながれ……。 かびたが意識を取り戻したのは、あたりがすっかり暗くなってから。 「そんなとこで、ニャにしてるのニャ?」 その声で、かびたは意識を取り戻す。 体中が痛かったけど、反射的にかびたは身を起こそうとした。 「うわっちゃっちゃ!」 激痛が走った。 「無理ニャ。あばらと鼻の骨が折れてるようニャ。かびたじゃ絶対立てないニャ」 その通りだった、かびたは痛みのあまりすぐにへにゃへにゃになる。 「まったくめんどいやつニャ。ニャーニャが特別に家まで運んでやるニャ」 そういいながらかびたの体をニャルフェスが抱え上げる。それはあまりに柔らかい抱き方でかびたにはいつ抱え上げられたのかすらわからなかった。 「ちょっと飛ぶニャ。しばらくガマンするニャ」 なんだか、声すら柔らかい。 ニャルフェスの背中に小さくパタパタと羽ばたいていた羽が、いっきにひろがる。 めいっぱい広がった純白のつばさが、公園の半分くらいを覆う。 公園にいたカップルたちの中には、急に月が隠れたことに驚いたものもいたけど、すぐに気のせいだったと思った。 すぐにまた夜空に月が輝きだしていたから。 ただいきなり吹いた一陣の風には、閉口させられたけど……。 「うっわ〜っ」 かびたはニャルフェスのふかふかの腕の中で、すばらしい光景を眺めていた。 天頂には満月がかかり、地上には無数のイルミネーションが輝く。 その中をかびたを抱えて飛翔するニャルフェス。 大きな翼はしっかりと風をつかみ、空の上とは思えないような安定感をかびたに感じさせていた。 だから、おくびょう者のかびたでもその光景に酔いしれることができたのである。 一瞬だけど、永遠にも思えるような時が過ぎ……。 バサッ。 バサッ。 大きく二回羽ばたきをすると、ニャルフェスは地上にゆっくりと舞い降りる。 その様は、まるで1枚の羽がそこに舞い降りてくるときのようだった。 「ついたニャ。今日はとりあえず寝るニャ」 ニャルフェスはかびたを部屋まで抱いてゆく。 ふわふわの心地よいニャルフェスの腕の中で、かびたはいつのまにか眠りに落ちていた。 そのまどろみの中でニャルフェスさまって、ほんとうの神様だったんだなぁって思いながら……。 ………… 「復讐ニャ! 復讐をするニャ!!」 ニャルフェスがひどく気合の入った声を上げていた。 「復讐ですぅ〜〜!」 その横で一緒になっていきまいているのはさやか。 かびたは頭を抱えていた。 今朝起きると怪我はきれいに治っていた。 たぶんニャルフェスさまが治してくれたのだろう。 でも、お礼を言う間もなく、昨日のことを詳しく説明させられた。とくにコギャルの特徴に関しては、かなり細かく説明させられる。 ただでさえすかすかなかびたの頭なのに、昨日はかなりの衝撃をうけたのだ。まともに答えなんか返せるはずがない。 なのにニャルフェスは容赦なくきいてくる。それもいつの間にかやってきてたさやかと一緒になってだ。 はっきりいって、たまったものではなかった。 それでも頭を抱えながら、なんとか頭の中にかろうじて残ってた記憶をほじくりだしたかびただったけど……。 「しかえしをするんニャ! しかえしだニャ!」 「しかえしですぅ〜〜!」 ニャルフェスとさやかはさっきから復讐としかえしを繰り返している。 ニャルフェスの両手の鋭い爪が出たり引っ込んだりしている。 おもいっきしヤバそうな感じだった。 その爪が自分に向けられたときのことを考えて、かびたは怖くなったけどでもあのコギャルに向けられても十分にヤバイ。 だから恐る恐るかびたが言ってみる。 「あのぅ、ニャルフェスさま……」 「なんニャ?」 妙にエキサイトしてたニャルフェスが、かびたのことをにらみつけるようにして聞き返す。 「あ、あんまし過激な復讐はよくないんじゃないかなぁっと……」 思わず引いてしまいそうになったかびただったけど、今日一日分くらいの勇気とともにかびたが答える。 すると……。 ポンポン。 ニャルフェスがかびたの頭を突っつくように軽くたたきながら、 「今、この辺りかニャ?」 とニャルフェスがかびたにたずねる。 「へっ?」 わけがわからないかびた。 「かびたの脳みそ、この辺りかニャ?」 再度ニャルフェスがたずねる。 「は、はぁ……」 やっぱりわからなくて、気の抜けたあいまいな返事をかびたがしたその瞬間だった。 ドギャン。 ニャルフェスのネコパンチが同じ場所に炸裂した! 「ニャーニャは映らなくなったテレビを、良くこうやって治すニャ。これで、かびたの頭もちっとは良くなるニャ」 ニャルフェスにとっては、壊れたテレビもかびたの頭もあまり変わらないらしい。 「ひ、ひどい……、まだ壊れてなんかないのに……」 どうやらかびた自身も、似たようなもんだと思ってたようだ。 「かびたさまぁ〜」 すりすり。 さやかが一生懸命かびたの頭をさすっている。 心配してるのは彼女だけみたいだった。 「なんでニャーニャが復讐するのニャ? ニャーニャがやられたわけじゃないニャ。もっともニャーニャはいいようにやられる間抜けじゃニャいニャ」 自慢しながらしっかりかびたをけなすと、ニャルフェスはかびたにある神器を手渡す。 「……これは?」 手渡されたものを見て、かびたがニャルフェスにたずねる。 なんか、いや〜な予感を感じながら……。 それは、四本の小さな針。 三本は銀色でもう一本は金色。それ以外は特に違いは見当たらない。 「まず金の針をかびたの頭のてっぺんに刺すニャ」 「えっ? 刺すって……、これを?」 一応確認する。 「そうニャ。それを刺すんニャ」 ニャルフェスの答え。 いやな予感が当たったことをかびたは知った。 「大丈夫ニャ。痛いのは最初だけニャ」 なんか初めての女の子に言うみたいなセリフをニャルフェスがいった。 手にした針を投げ出して、かびたがあとずさる。 「そうだったかニャ。ニャーニャに刺して欲しかったんだニャ。ニャーニャとかびたの仲だニャ。遠慮はいらないニャ」 かびたが放り出した針を空中でさらうと、かびたの返事なんて聞くことなく頭のてっ辺に金色の針をつき立てた。 「簡単ニャ。もうすんだニャ。どうってことなかったニャ」 確かにニャルフェスはどうってことなかった。 でもかびたは床の上にのびていた。 「うぃ〜ん」 へんな声を上げているかびたを無視して、ニャルフェスの方は話を勝手に進める。 「後はこの銀の針を相手に突き刺すだけニャ!!」 「それで、一体これって……」 頭をさすりながらかびたがたずねる。 「ニャーニャの作った神器ニャ。“操従針”なんだニャ」 もちろんそんな説明でかびたが理解できるはずもなく……。 「金の針を刺した人間は、銀の針を刺した人間をコントロールすることができるようになるんだニャ」 「コントロールって……、どうやって……」 「はいっニャ」 今度は別なものをかびたは手渡された。 それはかびたの両手一杯になるくらいの、おおきな箱だった。 箱からはアンテナのようなものと二本のレバーが突き出していて、あと首からかけるためのつり紐がついている。 「これってどっかで見たことがあるような……。たしかショウタロウとかいう少年が、“イケッ鉄人”とか言いながら巨大なロボットを……ぐぎゃゃゃっ!」 ひめいをあげながら床に倒れるかびた。 「それ以上はいうんじゃないニャ。どれほど似ていても関係ないニャ!」 かびたは黙ってうなずく。 自分がなんだか言ってはいけないことを口にしようとしたんだと気付いたから。 「それじゃ、これでどうやったらコントロールできるの?」 かびたはしっかり首からそれを下げていた。 二本のレバーをそれぞれ両手でつかみ、カシャカシャ動かしてみる。 レバーは前後にしか動かないみたいだった。 こんなんで、一体どうしたら相手を自由に操ることができるのか……。 まぁかびたでなくっても、誰もが感じる疑問だろう。だいいちその疑問を感じたことのある人間は多数にのぼるはずだ……。 「根性ニャ」 とニャルフェス。 「はぁ?」 かびたが思わず聞き返す。 「根性で動かすニャ」 どうやら聞き間違いではなかったらしい。 「……根性って……一体……」 「わかりにくけりゃ、気合でもいいニャ」 「……う〜ん?」 かびたはあんましわかんなかった。 その様子を見たニャルフェスは、 「わかったニャ。かびたのためにもっとわかりやすく言ってやるのニャ。スプーン曲げのようなもんニャ。スプーンを曲げるときみたいに、とにかく気合をいれるんだニャ。そうすれば相手を操ることができるんだニャ」 となんだかもっとわけの分からない説明をする。 でも……、 「あっ、なるほど!」 かびたは、納得したみたいだった。 「……それじゃこれって一体なんの役に立ってるの? ニャルフェスさま」 自分の手にした操縦器を見ながら、そうたずねる。 「気分の問題ニャ」 あっさりとニャルフェスが答える。 「なるほど。たんなるかっこつけ……」 ゴウィィン。 かびたがやばそうなセリフを言い切る前に、ニャルフェスのネコパンチがきまった。 「おまえはちっとは言葉を選ぶのニャ。まったくアブナイやつニャ」 さすがに痛そうにしてたかびたも、文句はいわなかった……。 「それじゃ、あとは……」 「そうニャ。この銀の針をあの連中に使えばいいのニャ! 思う存分、復讐をしてやるのニャ!!」 またニャルフェスのテンションが上がり始める。 「復讐をしてやるのですぅ!!」 しっかりそれに相乗りしてるさやか。 こちらも気合十分って感じだ。 それとともになんか暗雲が立ち込めたような気分になってくるかびただった。 ………… 沙里奈、理沙、綾音の三人はまた公園にやってきてた。 昨日の獲物は殆ど最悪だった。 自分らみたいな美少女にお金をせびられても素直に出してくんないばかりか、蹴ったら鼻血をだして靴を汚した。 おまけにサイフの中身はたいしたことがなくて、一時間くらいクラブで遊んだらあっという間になくなってしまった。 だから三人は、新たな獲物を探すために公園にきてたのだ。 「ったくさぁ。今日はろくなのいないじゃん」 そう言ったのは理沙。 ちょうど三人の中で、中間の身長をしている。 「ほんっと、金持ってそうなおやじがいないんじゃねぇ」 今度は沙里奈。 一番背が高くて、170センチ近くありそうだ。 「そうだよ。もうあんなガキはパス。ろくにカネ持ってねぇじゃん。鼻血まで出すしさぁ、バッチイよ」 綾音か過激なことをいっている。 三人の中では背が一番低く、かわいらしい感じなのに。 「でもさぁ、リーマンおやじって金ないじゃん。おまけに、なんかぎとぎとって感じでさぁ。それっていやだよねぇ」 理沙のそのセリフに、残りの二人がうなずいた。 けっこう彼女らって獲物のえり好み激しいらしい。 まぁ選ばれたほうはたまんないけど……。 そんなこんなで、彼女らが獲物を物色してながら歩いてると。 「あっ! あいつなんかいいんじゃん?」 沙里奈が指差したとこに、少女がひとり木の根元に座り込んで本を読んでいる。 とびっきりの美少女で、その美貌には三人がたばになってかかっても勝てそうにもないって感じだった。 「いいじゃん。なんかあいつむかつくしさぁ。やろう!」 綾音がそういうと、 「だよねぇ。いかにも美少女ですって感じであんなことされっと、マジむかつくんだよねぇ」 と理沙が本音剥き出しで、そう答える。 三人は速攻でターゲットを決めたのだ。 「ちょっとあんたさぁ。お金貸してくんない?」 まず最初に話し掛けたのは綾音だった。 一番とっつきやすそうに見える綾音の役目。 後の二人は、その美少女の両脇に回りこむ。 手には重しを入れたカバンが握られている。綾音が話しかけて油断をさそっているあいだに、沙里奈と理沙の二人が横からどつき倒すってのが三人の手口だった。 でも、 「待ってたわ……」 それまで読んでいた本をゆっくりと下ろしながら、その美少女が言った。 三人は、一瞬なんって言われたのかわからないように、ぼっとした表情を見せてしまう。 「なンだよ! なにいってんだよ!」 すぐに気を取り直して綾音がすごんだ。 身長は自分より高いが、でもこっちは三人だった、どってことはないはず。 「あなたたちがかびたさまにしたこと……。あたしは絶対に許せない。でも、復讐するのはあたしじゃないの。……お願いします、ニャルフェスさま!」 そう、その美少女はさやかだったのだ。 今、この公園にはさやか達しかいない。 ニャルフェスがそうしてた。 だから、この三人が獲物をもとめてここに来れば、かならずさやかに喰いつくはず。 その読みがみごとにはまったのだ。 「いった〜〜いっ!」 「いたたたたたっ!」 「うぎゃあっ!」 沙里奈、理沙、綾音の三人がそれぞれ悲鳴をあげてしゃがみこむ。 頭頂に強烈な痛みを感じたから。 「うまくいったニャ。やっぱしニャーニャの立てる計画は完璧なのニャ!」 ニャルフェスが自分で自分をほめてやりながら、姿をあらわした。 「な、なに? なんなのよいったい?」 「だれだよ、あたしにこんなことすんの?」 「ネコのぬいぐるみなんか着て、ふざけてんじゃねぇよ!」 一瞬の痛みから立ち直った三人は、好き勝手まくし立て始める。 「う、うるさいニャ。かびた、さっさと根性入れて操るんニャ!」 ニャルフェスがたまりかねて指示をだす。 するとかびたが隠れてた木の影から姿を表す。 白のYシャツにズボンはしっかり半ズボンだった。 やたらとチビのかびたに、とっても良く似合ってた。ショタコンお姉さんなら、思わずくらっときてたかもしれない。 「ああ! てめぇは昨日の鼻血やろうじゃん! しかえしのつもりかよ!」 でも三人のコギャルにはあんまし効果はないようだ。 「ぎったぎたにしてやんヨ!」 綾香がまずかびたに向かっていく。 「やっちゃえっ!」 「なめんなヨ!」 後の二人もそれに続く。 三人がかりで、またかびたをボコボコにするつもりらしい。 でもニャルフェスは余裕でそれを眺めてる。 さやかのほうはかなり不安そうではあったけど、それでもだまってみてる。 で、かびたは……、 「う〜〜〜ん〜〜〜」 うなってた。 別に便所に行きたいわけではない。 “とまれ! とまれ! とまれ! とまれ!” と必死で念じたのだ。 自分の安全がかかってるのだから、マジで必死になってる。 「な、なにっ? なんなの?」 三人の少女たちは口々にそう言って突然その場に立ち止まった。 急に身体が動かなくなっていた。 でもすぐに彼女達は、声をだすどころかまばたきすらできなくなってしまう。 「や、やったの?」 急に止まった少女達を見て、半信半疑にほっと気を抜いたとたん。 「なんだよ今の? てめぇがやったのかよ?」 少女達は自由をとりもどしてた。 ふたたび、今度はさっき以上に怒り狂った少女たちがかびたに襲いかかってくる。 「う〜〜〜ん〜〜〜」 あわててかびたが再び念じ始めると、彼女達は再び凍りつく。 どうやらかびたは一瞬たりとも気を抜けないようだった。 確かにこれは根性がいる神器だった。 「いつまでもそのまんまじゃニャーニャはおもしろくないのニャ。早いとこエロエロンなことをさせるのニャ!」 これはかびたの復讐ではなかったのだろうか……。とかいう突っ込みをしたところで無駄だったろうけど……。 まぁ、今のかびたにそんな余裕なんて、どうやっても見当たらない。 “ぬげ! ぬげ! ぬげ!” 必死に念じるかびた。 まず最初に沙里奈が脱ぎはじめる。 長身に実った、りっぱな巨乳が溢れ出た。 かなり自分の肉体に自信があるんだろう。 それがかびたの指令の抵抗を少なくしたようだ。 次に理沙。それなりの体格にそれなりの乳房。でも形はきれいにととのってる。 最後が綾音だった。 「ぃ、ぃ、ぃ、ぃ」 口から言葉にならない声を漏らしながら、必死になって抵抗を続けてる。 でも必死さでは死に物狂いになってるかびたの方が、あきらかに上だった。 むなしく彼女は自分で着てるものを脱いでしまう。 少し背の低い綾音の胸は、ちんまりとささやかに自己主張しているだけだった。 ほとんど真っ平らに近く、Aカップとか聞く以前にスポーツブラから卒業できないんじゃないだろうか。 そのことにかなりのコンプレックスをもってたのだろう、かびたの方に殺してやりたいってくらいの視線を送ってる。 「ひぃっ……」 かびたはかなりびくついていた。 こんな思いまでして、復讐ってしなきゃなんないのだろうか? でも、そんな迷いが許されるような状況ではなかったのだけど……。 やらなきゃやられる……。 そんな立場に追い込まれてるかびただった。 「さぁ始めるのニャ!」 元凶のニャルフェスが楽しそうに宣言する。 “レズれ! レズれ! レズれ!” かびたは沙里奈と理沙の二人にそう指令をだし、 “オナれ! オナれ! オナれ!” 綾音にそう指令をだす。 「沙里奈ごめん! 身体が勝手に……うっんんん」 理沙が背の高い沙里奈の首にしがみつくように手を回して、ディープキスをしかけながらそういった。 「んんんっ……。あ、あたしもなのっ理沙。身体が勝手に動いちゃうのっ」 そう言った沙里奈の右手は、形の良い理沙の乳房を握りつぶすようにもみしだいている。左手のほうは股間に回され、中指がスリットの中を激しくこすりあげていた。 「うっんっ。あうっん……、いいっ。沙里奈ぁ」 「あ、あたしもいいのぅ、理沙ぁ」 二人はお互いの乳房を密着させて、乳首を激しくこすりあわせ始ていた。 すぐに限界がきて、立ってられなくなった沙里奈と理沙は地面の上に寝ッ転がる。身体が汚れるのなんておかまいなしに。 身体の自由を失った二人は沙里奈が下で、理沙が上の69(シックスナイン)の体勢を取る。 おたがいの陰部をむさぼるようにして、二人ははげしくそこを口でくわえ込み、舌でクリトリスを刺激しあった。 「いいっのぅ。きもちいいのぅ。すきぃ、沙里奈ぁ」 恥ずかしい蜜が溢れ出しつづける沙里奈の陰部から少しの間口を離れたときに、理沙が言った。 「ダメェ! もうダメェ! 理沙ぁ、もう気持ちよくっておかしくなっちゃうよぅ!」 もう二人は自分でも操られてやってるのか、それとも自分の意志でやってるのかわからなくなってくる。 「なめんじゃねぇよ! 沙里奈、理沙こいつらがあたしらに何かしたんだよ! こんな変態に負けんじゃねぇよ!」 一人綾音がいきまいてる。 立ったままオナニーしてるけど、かなり動きが悪い。かなりの意思力の持ち主なんだろう。 「あらぁ? あなたは楽しまなくっていいのぉ?」 綾音にそういったのは、いつのまにか制服を脱ぎ捨てたさやかだった。 革のコルセットを身につけただけで、芸術品のように理想的な形をしたバストと、一本の毛も生えてないあそこは剥き出しのままだ。 それをまるで隠そうとはせずに、他人に見せつけるようにして立っている。 「なんだヨ、てめぇ? 関係ねぇだロ?」 強がって見せる綾音だったけど、オナニーをしながらではいささか説得力にかけていた。 「あらぁ? せっかくあたしが気持ちよくしてあげようって言ってるのに、それはないんじゃない?」 綾音に近づき、その薄い身体を淫やらしくなで回しながらさやかが言った。 「やめろよ! この、ヘンタイ女!」 そういったとたん。 「ギャッ!」 綾音が小さく悲鳴をあげる。 さやかが綾音のささやかな胸の上についている、ピンクの突起を握りつぶしたのだ。 そして淫やらしい笑みを浮かべたまま、 「言葉に気を付けなさい。ほんとはね、あたしあんたを殺してやりたいのよ。かびたさまにあんなことしたんですもの、当然よねぇ? だけどそうしないのはかびたさまがそれを望んでいらっしゃらないから……。かびたさまのおやさしさに付けこむようなマネをしたら、絶対にゆるさないから」 そういってもう一度綾音の乳首をひねる。 「ギャッ、うっン」 握り潰されたときの反応が少しヘンだった。 それにさやかはすぐに気付く。 「あらぁ? あなた感じてるわね?」 「ば、ばかな。そんなこと、あああっうんっっっ!」 こんどはさやかは綾音のクリトリスをひねっていた。綾音の漏らした声は、もう隠しようもないくらいはっきりとしたあえぎ声だった。 「あらぁ? ヘンタイさんはあなただったみたいねぇ? こんなことをされて感じるだなんて、正真証明のヘンタイだわ」 そう言いながら、さやかは乳首とクリトリスの両方をいっぺんにひねる。 「うぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」 一瞬のうちに綾音はイッていた。 それまでのオナニーではまるで濡れてこなかったあそこが、熱い蜜であふれかえっている。 「はぁはぁはぁ! もっと……。もっとして……、あうんっ!」 綾音はいやらしい音を響かせながら、さやかにむかっておねだりを始めた。 「いいわ。でも言葉遣いがなっちゃいないわね」 「あっ! ごめんなさい! もっとして下さいっ、お願いしますぅ! あんっ」 「いいわ。可愛がってあげる。もちろん、かびたさまがそれを望む間だけはね」 そういって、さやかは綾音を地面の上に押し倒した。 それと同時に綾音が大きく股を開く。 “ひらけ、ひらけ、ひらけ” かびたの指令が届いたからだ。 さやかはそれをみると遠慮なく綾音の淫らしい部分をふみつける。 「うぁぁん! いいっ! きもちいいです。もっと、もっと強くしてください!!」 綾音が盛大によがり声をあげた。 さやかとの訓練のおかげで、この辺りのコンビネーションは完璧だった。 お互いが何をしたいのか、完璧にわかっている。 「どう、きもちいい? だったらどこが気持ちいいのか言ってごらん!」 さやかの女王様ぶりも完璧だった。 「まんこです。綾音のまんこが気持ちいいですぅ、あんっ!」 あえぎながらそういう綾音の顔の上に、さやかがしゃがみ込む。 口の上には、ちょうどさやかの剥き出しのわれめがあった。 「一人で気持ちよくなってないで、ご奉仕するのよ」 淫やらしい汁の溢れる場所。 いくら快楽にあえいでいた綾音だって、同性のそんなとこ舐めるのはかなり抵抗があった。だけど身体は勝手に動いていた。 舌が割れ目の中をまさぐり、クリトリスを刺激する。 「ああン。いいわよ。その調子よ。あんっ。あなたのも、気持ちよくしてあげるわ」 さやかが69の体勢を取り、綾音の股間に迷うことなく顔をうずめ、そのクリトリスを噛み千切るくらいに力を込めて刺激する。 「ふぎゃン!! ひぃぃぃぃっつ!! い……いい、のぅ」 綾音が声をあげる。淫蕩なよがり声。 もうそこにさっきまでめいっぱい敵意をあらわにしてた少女の姿はない。 ただ、被虐の快楽に狂った一匹の獣。 それが今の綾音だった。 「綾音ぇ。今度はあたしたちがシテあげるぅ」 それまで二人で絡み合っていた沙里奈と理沙が、綾音にからんできた。 さやかはそれと入れ替わるように綾音の上から離れた。 「ああん。いやっ!」 それに綾音が小さく抗議の声を上げるが、すぐに沙里奈のキスがそれを押さえ込んだ。 三人の肉体がからみあう。 もう誰の目も気にならなかった。 ただお互いのからだをむさぼりあうように、上になったり下になったり。互いの乳房を擦りつけ、蜜の滴る陰部同士を押し付けあう。 その様に冷ややかな一瞥を投げかけると、さやかはかびたのもとにかけよる。 「かびたさまぁ。さやかがんばりましたぁ」 すりすり、すりすり。 そこにはさっきまでの女王様ぶりはどこにもない。 まるで雌ネコみたいにかびたにじゃれついている。 「も、もう、いいの……?」 かびたはようやくそれだけ言った。 「まあまあだニャ。もうあの三人はずっとエロエロンなことを続けるニャ」 ニャルフェスが宣言した。 「ふぇぇぇ〜〜〜っ」 気の抜けた声を上げてかびたがへにゃへにゃと地面に崩れ落ちる。 根性の使いすぎだった。 これでしばらくは、かびたのどこを探しても根性を見つけることはできないだろう。 「ああんっ! かびたさまぁ! だいじょうぶですかぁ?」 さやかがあわててかびたをささえる。 軽々と……。 ちょっとなさけないかびた。 「まったくしまらニャいニャ。これしきでダウンかニャ。特訓だニャ。特訓をするんニャ!」 なんか気合入りまくりのニャルフェス。 でも、一体なんの特訓をしようというのだろうか? なぞだった……。 かびたは思う。 “なんて復讐って疲れるんだろう”って。 地面の上で淫らに絡み合い続けている少女達を見て、なんとなくうらやましくなるかびただった。 「ああン。かびたさまぁ。さやかもご奉仕したいですぅ」 さやかがいった。 それは、遠まわしにかびたとしたいってことなんだろう、たぶん。 かびたを直接求めることは禁じられてたから、そんなおねだりをしたのだろう。 「それじゃ、かえって特訓するニャ!」 やっぱし、そういう訓練のことだったのだ。 かびたはそっとため息をつく。 当分ゆっくりとすることはできそうにもないな、と思って……。 ………… すでに陽は落ちていた。 天に昇った十六夜の月が公園を妖しく照らし出している。 その中で沙里奈と理沙と綾音の三人は絡み続けていた。 まるで麻薬に犯されたみたいに、止めようとは思うのに快楽への渇きが三人をとめどない行為の中に浸らせていた。 でも月がちょうど天頂にかかった頃、疲れきった三人はようやくその行為に終止符をうつ。 みんな泥だらけになっていた。でもそのことを気にするのは三人のうちに誰もいない。 言葉もなくゆっくりと身を起こしたのは誰が先か……。 地面に脱ぎ捨てたままの自分の服にはいずってゆく。 その彼女たちの動きが唐突に止まる。 三人の視線は、ある一箇所に集まっていた。 木々の狭間にある闇の中から、ゆっくりと染み出してきたようなモノに。 それはとても妖しく美しかった。見たものの心を一瞬で虜にするほどに。 ひとの心を本当につかみとり、しばりあげてしまうのは闇。闇こそ人の心の奥に潜み人の心を支配する。 そう彼女らは闇の持つ妖しい魅力につかまったのかも知れない……。 そして、その闇は美しいひとの姿をしていた。 漆黒のコートを纏い、真紅の瞳を持った美しい少年。 持手杉カオルだった。 「まったく、ニャルフェスは妙にやさしいとこがあるからなぁ」 しどけない姿をした少女達を見るカオルの視線は冷ややかだった。 対等な存在を見るような目つきではない。 まるで……そう、小さな虫か何かを見るような目つき。 「かびたくんにあんなことをしたのに、これくらいでゆるすなんて……」 その言葉とともに、沙里奈も理沙も綾音も心臓がとまりそうなほどの恐怖を感じていた。 なのにカオルから視線をはずすことができない。 恐怖すら美しく感じられる。 「でも、ね。ぼくはちがうよ……」 妙にやさしく感じられる声でカオルがいった。 「きみたちは、それにふさわしいむくいを受けるべきだ。ぼくがそれを与えてあげるよ」 その言葉とともにカオルが左手を天に向けて突き上げる。 それに向けて月からの光が降り注ぐ。 光と闇の融合。 それはあまりに美しい光景だった。 その光景を三人の少女達は多分一生忘れられないだろう。たとえそれが彼女達を地獄に突き落とすための光景だとしても……。 カオルの左手から光が彼女達の身体に降り注ぐ。 その光の中で、彼女らの身体は人とは別のものへと変化してゆく。 カァ、カァ、カァ。 カァ。 カァ、カァ。 それが彼女らに与えられた新しい声。 その翼は闇夜の色を持ち、その姿は古来より不吉なものと称されてきた。 カラス。 今の彼女達の肉体だった。 「君達はかびたくんの御使いとなる。かびたくんが君達のことを抱きたいと思い、君達を抱いたときだけ人間にもどれるんだ。……せいぜいかびたくんのために尽くすんだね」 カオルがカラスとなった少女達に向けてそう告げる。 「さぁ、いくんだ」 そういってカオルが右手を振ると、それが合図になったように三羽のカラス達は月のでた空へ向けて飛び立った。 カオルはそれを見ながら、独り言のようにつぶやく。 胸に吊り下げられたペンダントを握りしめながら。 「でも、ニャルフェスがいるかぎりかびたくんは女には不自由しないだろうね。はたして、君達をかびたくんが抱きたいと思うかな?」 嘲笑を含んだカオルのことば……。 そのとき風が吹いた。 公園の木々を激しくゆさぶり、地面に積もっていたわずかばかりの木の葉を宙に運び去る。 その風がやんだときカオルの姿は、まるで闇にとけこんだかのように、公園の中から消え去っていた。
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