2011年12月18日03時00分
「JR仙石(せんせき)線を早急に復活させよ」。12月上旬。JR仙石線野蒜(のびる)駅。津波で線路がこわれ、無人になった駅舎の前に立てられたのぼりが風に揺れる。
宮城県の沿岸部を走る仙石線(あおば通―石巻)の約50キロのうち16キロが寸断され、現在、代行バスを乗り継いで運行する。利用者からは「乗り換えが大変」「通学時間帯だけ混む」と不満の声が漏れる。石巻から先にある石巻線女川駅は線路も駅舎も失った。近くに住む女性は「鉄道が女川駅まで来るには10年かかるねぇ」とあきらめ顔だ。
東日本大震災で被災した太平洋沿岸部の鉄道は、JR東日本と第三セクター・三陸鉄道の9路線約390キロが不通となっている。
4月、JR東の清野智社長は「すべてを復旧させる」と宣言したが、津波で流された多くの路線は今も復旧のめどが立たない。
「復旧の遅れは、工事だけの問題ではない。津波がきても安全な場所に逃げられる対策をとらないといけない」(担当者)
地盤沈下への対策も必要だ。例えば、JR石巻線の石巻―女川間。石巻から渡波まで2駅(8キロ)は年度内に再開予定だが、渡波から浦宿まで3駅(6.5キロ)は冠水対策をしてからでないと復旧できない。再開時期は未定だ。
まちづくりとも連動する。JR東は沿線自治体と復興調整会議を開いて、自治体の計画に合わせて線路の移設などを検討する。
女川町で住宅などの高台移転となれば線路も高台に移す必要がある。高台に造るには用地買収費などが多額になる。
業界関係者は「JR東は株主がいる民間会社。全線復旧は理想だが、赤字が見込まれるのに無理な投資はできない。できることとできないことを明確にしないと、住民との協議はうまくいかない」と指摘する。
■高速道路は建設急ピッチ
鉄道復旧が遅れる一方で、三陸沿岸では高速道路「三陸縦貫道」の建設が急ピッチで進んでいる。
仙台から車で2時間あまりの宮城県南三陸町。国道398号から側道に入ると、ダンプカーが積んできた土をおろしていた。来春、約1400メートル離れた登米市側と両側からトンネルを掘りはじめる。3年間で「志津川トンネル」が完成する見通しだ。
三陸縦貫道は仙台から岩手県宮古市までの220キロ。おおむね10年間で完成する。宮古と仙台の間は、6時間かかっていたところを3時間でいける。南三陸から仙台までも1時間あまりと半分に短縮できる。
急病やけがの人を仙台の大病院に早く運べる。三陸の漁港で取れた魚をより早く東京などの市場に出荷できるようになる。地元は「観光や防災にも役立つ」と期待する。
三陸縦貫道がとおる予定の岩手県陸前高田市。地域再生に向けたリーダーでもある、高田自動車学校の田村満社長は「三陸に住む人たちの命を救う道になるので、早く完成させて欲しい。鉄道はいらない。巨額な費用がかかるし、利用者が少なく、赤字の垂れ流しになる」。
高速道の整備はJRにとっては複雑だ。「もともと赤字路線が多い地域。鉄道が復旧しても高速道ができれば、鉄道にはますます人が乗らなくなる」(業界関係者)と心配する。
■線路をバス道に衣替え計画
津波で線路を失った鉄道をバス専用道とし、バス高速輸送システム(BRT)を導入しようという構想が浮上している。
JR東などは、JR気仙沼線の不通区間の柳津(登米市)―気仙沼の約55キロについて、バス専用道として復活させる案を12月下旬に地元自治体に提案する方針だ。関係者は、「津波警報が出たときはそのままバスで高台に逃げることもできる」と期待する。
ただ、鉄道のほうが、バスよりも時間に正確で速い。輸送人員も多く、鉄道を地域に残してほしいという要望は根強い。
地方の鉄道の主な利用者は「高校生と車を運転できない高齢者」(業界関係者)。三陸縦貫道ができれば、車依存がさらに進むとみられる。BRTは、車社会と高齢化が進む地方で、地域の足をどうやって維持するかを考えるモデルとなる可能性もある。(南日慶子、中島隆)