朝日新聞朝刊に連載中の「プロメテウスの罠」の本日(2011年12月17日)掲載分を以下に引用します。
プロメテウスの罠
■学長の逮捕:9
規制値 食器にまで
「このカップは552ベクレル入っています。こっちは533……」
ウクライナのキエフ市にある国家規格研究所の製品検査の責任者、ウラジーミル・ブイコフスキーは、棚に並んだコーヒーカップから検出された放射能測定値を読み上げた。ウクライナでは、食器にも規制値があり、1キロあたり370ベクレルを超えると販売が認められない。
「産地で放射能の核種が変わります。パラジウムだったり、トリウムだったり。チェルノブイリ事故で汚染されたので、なるべく身の回りの放射能を減らしたい」
食器だけではない。子どものおもちゃや、バーベキューの炭も規制値を超えると販売できない。建築資材は住宅用が一番厳しく、次はオフィス用、さらにオフィス以外用と、それぞれ基準が決まっている。
ウクライナでは、旧ソ連の崩壊後、放射能に関する規制を緩めた。ところが、食品の放射能汚染度が高くなり、1990年代後半に国民の内部被曝(ひばく)量が増えてしまった。そのため、国内の規制をふたたび強化した経緯がある。今は、その厳しいウクライナの基準を国際基準にする提案もしているという。
「この研究所では、ストロンチウムの計測もしています」
ウクライナ衛生局の食品研究所には、ストロンチウム90が計測できる装置があった。
測定しやすいガンマ線を出すセシウムに対して、ストロンチウムが出すベータ線の測定は難しく、日本では時間がかかるとされる。ウクライナの測定器は、粉状にした検体をトレーに載せて計測する。コーヒー豆のミキサーが使われていた。
測定器を開発したアトム・コンプレックス・プルイラド社の社長オレクサンドル・カジミーロフはいう。
「ストロンチウムは、体内に取り込むと骨に沈着する。危険度が非常に高いため、ウクライナの規制値は厳しく設定されています」
たとえば、肉はセシウム137の場合1キロ200ベクレルだが、ストロンチウム90は20ベクレル。ジャガイモはセシウム137の60ベクレルに対して20ベクレルと低い。
日本にはストロンチウムを短時間で測る態勢がない。そのため規制自体がまだない状態だ。
ゴメリ医大元学長のバンダジェフスキー(54)はいう。
「今後、放射能が土壌に浸透して野菜が吸収しやすくなる。内部被曝の心配はこれからです」
(松浦新)
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