■学長の逮捕:8
輸入品 すり抜けて
東京都は福島原発の事故の後、25年間続けてきた輸入食品の放射能検査ができなくなった。
実は、輸入食品の検査は、本来は国の担当で、検疫所が実施している。食品が国内に入る時点で、1986年の暫定限度値、1キロ当たり370ベクレルで25年間検査してきた。
これに対して東京都は、独自の事業として、小売店で買った輸入食品を検査してきた。
それによると、09年度は328検体を調べて、フランス産ブルーベリージャムで暫定限度値を超える500ベクレルのセシウム137を検出した。検疫所のサンプリングから外れたものが店頭に並んだと見ることができる。
さらに、限度値を下回るものの一定の放射能が検出された食品がほかにもあった。
キノコ類4検体から100〜230ベクレル、ブルーベリー加工品3検体から90〜140ベクレルのセシウム137。国民は、知らずに基準を下回る放射能を体内に取り込んでいる。
基準となる値の考え方について、ベラルーシのベルラド放射能安全研究所副所長、ウラジーミル・バベンコはこう話す。
「ベラルーシは基準を下回る食品に認定証を発行します。認定証には1キロ当たり何ベクレルだったかが書いてある。消費者は実際の数値を知ることができます」
当局が白黒をつけてしまわず、消費者に情報を提供することで、市場原理が働く。これで、放射能濃度が低い食品は売りやすい一方、高い食品は売れにくいことになる。
「生産者はどうしたら売れるかを考えるので、農地の除染などの対策が進むことにつながります」
都の調査によると、フランス、ベルギーなど、チェルノブイリ原発から1500キロ以上離れた国の食品からも放射能が見つかっている。放射能の影響は広範囲に及ぶ。
しかし現在の日本では、福島県でさえ、測定器10台を郡山市の県農業総合センターに置いて検査する態勢ができたのは9月だった。
それにしても、輸入食品の暫定限度値は370ベクレルなのに、国内食品の暫定規制値はなぜ500ベクレルなのか。
厚生労働省食品安全部はいう。
「輸入食品は欧州の一部の地域が対象で、平常時の基準値です。それに対し、今回の事故は日本にとって緊急時なので、少し緩める必要がある。それは国際的にも認められています」(松浦新)
■学長の逮捕:7
たった1台で検査
東京都はチェルノブイリ原発事故の1986年から輸入食品の放射能検査を続けてきた。しかし今年3月の福島原発事故で、それが続けられなくなってしまった。
事故後、国内産のホウレンソウなどから甲状腺がんにつながる放射性ヨウ素が見つかる。ところが放射性ヨウ素を測れる装置が、輸入食品の検査をしてきた1台だけだった。
ほかにも4台の検査装置があることはある。しかしそれは86年以来使っている年代もので、セシウム137しか測定できない。
都はすぐに補正予算を組んで新しい測定器4台を発注した。しかし納入は9月以降で、それまでは輸入食品用の1台で都内の検査需要に対応せざるを得なかった。
国内産の食品の放射能検査は主に都道府県の役割だ。厚生労働省は3月17日に食品の暫定規制値を定め、都道府県などに食品の検査をするよう求めた。
都は地元産の米、肉、野菜、果実、魚介類などを検査する。当然、1台では限界があるのでサンプル調査にならざるを得ない。さらに、都内で食肉処理される福島県など4県産の牛は、全頭検査などが求められた。そのため、ほかの食品のサンプルの割合は減ることになった。
東北、関東甲信越などの14都県を対象に、国が検査の具体的方法を示したのは6月だった。それは「問題がない場合」には、野菜・果実は月単位、牛乳は2週間おき、水産物は週1回などを原則とするものだ。
「問題がない場合」とはどういう意味なのだろう。
厚労省食品安全部の技官、富田耕太郎は「一般的には1キロ当たり500ベクレルを超えないということです」。
となると、500ベクレルを超えるまでは、野菜・果物の検査の頻度は変わらないことになる。
「実際に影響が出る値はもっと高い。しかしその値に設定することはできないので、いまは500ベクレルで線を引いています」
だが、500ベクレルはあくまでも暫定規制値のはずだ。いま見直し作業をしているのではないか。
「いまの値でも十分に安全性を考慮している。より安全性を考慮するため、さらに厳しい規制を検討している、ということです」
ゴメリ医大元学長のバンダジェフスキー(54)は警告する。
「遠慮抜きにいわせてもらえば、日本の暫定規制値は大変に危険です」
(松浦新)
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