ジジィの店が消えてしまったことは俺にとって大事件だったが、どうやら、俺が竹下と連れだって学校に来たことはもっと大事件だったようだ。 俺が竹下と腕を組んで歩いているだけで、俺たちの周りにちょっとした人だかりができる。 まず口を開たのは、うちのゼミの女子軍団だ。 「ちょっと、沙紀ったら、いったい何してるの?」 「何って、私、ケンちゃんとつき合ってるの」 「つき合ってる?それに、ケンちゃんって?」 「そ、ケンちゃん」 そう言うと、竹下は組んでいた腕を、グイ、と引っ張って俺をみんなの前に引き出す。 「や、だって沙紀ったら、いっつも、中本と一緒の部屋にいるのが嫌だって、顔も見たくないって言ってたじゃない」 「やあねえ、つき合ってるんだから一緒にいるのが嫌なわけないじゃない」 「だって、中本なんかバカで下品でサイテーな奴だっていつも言ってたじゃん」 「え、それはその通りよ」 「だったらなんで?」 「え、だって、そのサイテーなのがいいんじゃない」 「え?え?どういうことなの?」 一様に困惑した表情を浮かべる女子軍団。そりゃそうだろうなぁ、俺自身、今でもこの状況がよくわからない。それにしても、同じ事は昨日竹下の口からも直々に聞いたけど、こいつらも俺がいる前で無茶苦茶言うよな。 「おい、中本、これどういうことだよ?」 俺の服をぐいっと引っ張って、男連中が俺に向かって訊いてくる。 「いや、どうって、見ての通りでございます」 「見ての通りって、さっき竹下が言ってたのって、本当なのか?」 「竹下の申すとおりでございます」 「ケンちゃん!」 「……沙紀の申すとおりでございます」 「おまえはどこぞの国会答弁かよ!つうか、沙紀って、おい」 「あなたは沙紀って言わなくていいのよっ。私のことを沙紀って呼んでいい男はケンちゃんだけなんだからね!」 ザワザワと、俺たちを取り囲む人だかりから、女たちの間には混乱の、男たちの間には動揺のどよめきが起こる。 「ほら、早くしないと講義に遅れちゃうよ、ケンちゃん」 そう言うと、竹下は俺の腕をつかんで歩き出す。 その場に残され、呆然と俺たちの姿を見送る男女の群。その、釈然としない視線を浴びながら、俺は竹下に引きずられるようにして教室に向かって行ったのだった。 その日から、俺の学生生活は一変した。 なにしろ、大学でナンバー1の美人がいつも俺の側にいるんだから。 大学に行くのも一緒。講義を受けるのも一緒。昼飯を食うのも一緒。空き時間を過ごすのも一緒。何をしていても、いつも俺の隣には竹下がいる。 ただ、問題もあることはあった。 「はい、次の授業行くよ、ケンちゃん」 「沙紀ぃ、ちょっと休憩いれさせてくれ〜。俺もう頭がスポンジになりそうだよ〜」 「どうせケンちゃんの頭はもとからスポンジみたいにすかすかでしょ。そういうのは、一生懸命頑張った人が言うことなんだからね。まあ、ケンちゃんがバカなのは当たり前だけど、それでも、ケンちゃんに留年されると私が困るんだからねっ」 「なんで俺が留年しておまえが困るんだよ?」 「だって、同じ時に卒業しないと一緒にいられなくなるじゃない!」 「なんだ、そりゃ?」 「だから、バカでダメなところはケンちゃんの魅力だけど、単位は取ってもらわないと困るの!」 って、どんな魅力だよ、それ。 そんな、俺の大学生活の変化の一方で、間違いなくキャンパスで1番の美女を俺がつかまえたという事件は、大学中の男子に多大な影響を与えることになった。 まず、竹下の言葉を額面通り受け取って、下品でサイテーな奴ほどモテると思いこんだ者。全男子の1割。 次に、俺みたいな奴でも竹下とつき合えるんだからと、高嶺の花に挑んで玉砕する者。全男子の2割。 で、この状況の理不尽さに、酒浸りになる者、全男子の3割。 そして、世をはかなんで山に籠もる者。全男子の4割。 そんな、大学男子の悲喜こもごも、いや、悲々こもごもをよそに、俺と竹下は大学から帰る時も一緒なのだった。 もちろん、帰る先は俺の部屋だ。 そして、夜、俺の部屋では。 「ん、んふ、キスも大分上手になったよね、ケンちゃん」 そら、こうやって毎日やってりゃ経験値もどんどん貯まっていくわな。 「そうね、私がキスした相手の中じゃ、もうトップ10には入ったかしら」 だから、そんなのでトップ10ランキング作るなよ。 「あんっ、もう、ケンちゃんったら、ホントにおっぱい好きなんだから」 もう俺は、竹下のなめらかな肌に臆することはない。竹下の、この柔らかい胸は俺のものだ。 「あんっ、あっ、そこっ、んんっ」 俺が、竹下のアソコに指を突っ込むと、竹下が短い声をあげる。俺には、竹下のアソコはもう結構湿ってきてる気がする。 「もう、ケンちゃんったら、がっついちゃって、まるで厨学生みたいだね」 それは、厨学生とやったことがあるということなのか、竹下が厨学生の時にはもうそういう経験をしていたということなのか。 「な、沙紀、もうそろそろ挿れていいか?」 慣れたとは言っても、まだまだ、初心者の哀しさで、俺の相棒はもうギンギンに臨戦態勢だ。 「いいだろ、沙紀?」 「ん〜、でも、もうちょっと濡れてからの方がいいかなぁ」 それって、俺の愛撫じゃそんなに濡れてませんって言ってるのと同じじゃんか。 「もうちょっとって、これって濡れてるんじゃないのか?」 俺が、竹下の中に突っ込んだ指を動かすと、小さくクチュ、という音がして、湿り気のある感触が指にまとわりついてくる。 「んふっ、まだまだこんなものじゃないのよ。もう〜、キスは上手になったけど、他はまだまだだね、ケンちゃん」 そう言うと、竹下は、アソコに指を突っ込んでいる俺の手にかぶせるように自分の手を重ね、人差し指を使って俺の指を誘導する。 「んっ、ケンちゃん、ほら、ここ、この上の方に、あっ、コリッってしたのがあるでしょ」 「ん、これか?」 「ひゃうんっ!そ、そうっ、それっ。それがねっ、クリトリスよっ」 「ほほう〜、なるほど」 「あうんっ、もうっ、知らなかったのっ、ケンちゃん?」 「いや、そりゃ名前は聞いたことあるけど、正確な場所までは」 「もうっ、信じらんないっ。よくそれで今までスケベ大王なんて名乗ってたわねっ!」 いや、俺はそんな恥ずかしい称号を自ら名乗った覚えは無いんだが。 「それに、今まではおまえにされるままだったから、こうやって自分からするの初めてだし」 「ケンちゃんはスケベなのが取り柄なんだから、そのくらい調べといてよねっ」 調べといてって言われても。つうか、どういう取り柄だよ、それ。 「ま、しょうがないか、ケンちゃんだもんね」 俺がどれだけがっつこうが、どんだけテクニックがなかろうが、竹下はいつもこの言葉ですませてくれる。たしかに、その点は楽だ。 「うわ、沙紀!この辺ものすごいグショグショになってるぞっ」 「もうっ、そんな大きな声でっ、ケンちゃんのスケベっ。ひゃっ、でもっ、それでやっと奥まで入るようになるのよっ。きゃあっ、ケンちゃん!?」 俺が、試しに指を奥まで突っ込んでみると、ズブズブと、さっきよりも深く入っていく。 「おお〜、ホントだ」 「もうっ、ケンちゃんったらっ。んんっ」 「なあ、そろそろいいだろう、沙紀?」 お預け状態が長くて、俺のチンポは痛いくらいに勃っている。 「うん、いいよ、ケンちゃん」 「じゃ、いくよ、沙紀」 「うん、ケンちゃん。あっ、んんっ」 ようやく俺の相棒の出番だ。グショグショに濡れた竹下のアソコが、クチュっと湿った音を立ててそれを飲み込んでいく。 「うっく!さ、沙紀!」 挿れただけで、動かしてもいないのに、もの凄い快感に襲われて俺は呻く。竹下のアソコの中が俺のチンポにまとわりついて勝手に動いてるみたいだ。そうか、ちゃんと準備してから挿れるとこんなに気持ちいいもんなんだな。 「ん、ねぇ、動いて、ケンちゃん」 「くっ、こうか?」 「ああんっ、そうっ、イイよっ、ケンちゃんっ!やっぱりっ、ケンちゃんのがっ、今まででっ、一番大きいのっ!」 いや、説得力があるだけに、なんか素直に喜べないんですけど、それ。 「はんっ、すごいっ、ケンちゃんのっ、大きくてっ、んっ、私の中でっ、暴れてるっ、あんっ」 「くうっ、沙紀っ」 「はあんっ、イイっ、あっ、あんっ、あんっ、ああっ」 俺のが沙紀の中で暴れてるなんてとんでもない、実際には、竹下のアソコの中で、俺のチンポが弄ばれているような感じだ。もう、1回腰を動かすたびに、暖かいものがねっとりと絡みついてきて、俺のチンポから精液を搾り取ろうとする。 「はんっ、あんっ、あっ、中で、ビクビクッてっ、出そうなのね、ケンちゃんっ、いいよっ、出しても!」 俺に合わせるように腰の動きを激しくしてきた竹下の前に、もう俺のチンポは限界寸前だ。 「あっ、沙紀っ、俺っ」 「いいよっ、ケンちゃん!」 竹下が俺に抱きついてきて、俺のチンポを奥深く飲み込んだもんだから、俺の相棒はあっさりと白旗を揚げる。 「あああっ、出てるっ!私の中にたっぷりとケンちゃんの!くふうっ、ふあああああっ」 一滴も精液を逃すまいといわんばかりに、竹下が俺にしがみついてくる。 「はぁ、ううん、今回のは結構よかったよ、ケンちゃん。じゃ、次はもう少し頑張ろうね」 「うん、て、何してるの、沙紀?」 沙紀は、腰を浮かせて引き抜いた俺のチンポを手で扱き始める。 「ほら、まだまだできるよね、ケンちゃん」 「まだまだって!?」 「ケンちゃんが、ダメ人間で最低なのはいいけど、エッチが下手なのは許さないんだから!だから、もっと練習練習!」 「ちょっと、沙紀!?」 「ほーら、もうこんなに元気になってる、さっすがケンちゃんったらスケベ♪」 そう言いながら、ものすごく嬉しそうに俺のチンポを扱く竹下。……スケベなのはいったいどっちだよ。 ――翌朝。 ん〜、なんかうるさいなぁ。なんだよ朝っぱらから。昨日はあれから竹下と4回もやって寝不足なんだよ。あ〜、もう、もう少し寝かせてくれよ。 ……ん?これって? 軍艦マーチ!? 「あのクソジジィ!」 俺は飛び起き、急いで服を着る。 「ん?どしたの、ケンちゃん?」 「ちょっと買い物行って来る!すぐ戻るから!」 起きあがって、まだ眠たげに目をこすっている沙紀に一声かけて俺は部屋を飛び出す。 間違いない、この大音量の軍艦マーチはあの店だ!あのジジィ、今頃になって戻ってきやがるとはなんのつもりだ? 「くぉら、このジジィ!」 「おお、早かったの、ナカモトよ」 「よく来たのです!ナカモト」 「あいさつなんざどうでもいいっ。今までどこに行ってやがった!?」 「どこって、新商品の仕入れじゃがの」 「し、新商品?」 「そうじゃ、なにしろうちはそこらへんにあるような物は取り扱っておらんでの。商品の仕入れもなかなか大変なのじゃ」 「いや、そらそうだろうけど。いや、そんなことよりも、あんた、竹下のあの性格がわかっててやりやがったな!」 「はて、なんのことじゃ?」 「あんたのせいで俺はなっ」 「童貞卒業できて、エロライフを満喫しておるのじゃろ?」 「そ、そうだっ」 「あの娘はおまえにベタ惚れなんじゃろ?」 「そうだっ」 「じゃあ、なんの不満があるんじゃ?」 「ぐっ!しかしっ、竹下があんなに男とやりまくってるなんてっ」 「しかし、初めての、マグロのような女よりも経験豊富な女の方が具合がいいものじゃぞ」 「おのれは厨学生相手に知ったかぶりで猥談をする近所のお兄さんかっ」 「ほう、お兄さんと言ってもらえるとは嬉しいの」 「喩えじゃボケーッ!」 「しかしナカモトよ、あの娘がやりまくっているかどうかは、経験の問題で性格の問題ではないのではないか?」 「むむむ、しかしっ、竹下から見たら俺はサイテーな男でっ」 「で、あの子はおまえのことが嫌いなのかな?」 「い、いや」 「では、何も問題はないではないか」 「し、しかしっ」 「よいかナカモト。女は男の美点に惚れるのではない!女が惚れるところが男の美点になるのじゃ!byスカトロビッチ!」 「そんな格言あるかーっ!て、誰だよそいつっ!?」 「とにかく、そういうわけで、万事オーケーなのじゃ」 「ぐむむむ」 なんか、うまく言いくるめられたような、つうか、このジジィには何を言っても無駄な気がしてきた。 「まあまあナカモトよ。せっかく来たのだから、うちの新商品でも見ていくかの?」 「そういや、そんなこと言ってましたよね」 「うむ、この、『魅惑の店 ムラタ』が扱うのは普通の品ではないからの、商品も毎日入るとは限らん。だから、新商品が入るとこうやって音楽をかけるのじゃ」 「この大音量の軍艦マーチって、そんな意味があったのか?」 「そうじゃ」 「全然知らなかった。で、なんスか、新商品って?」 「うむ、まず、このサイコロじゃ」 ジジィが出してきた特大サイズのサイコロには、その六面にそれぞれ、「オナニー、フェラ、パイズリ、手扱き、中出し、アナル」と書いてあった。 「このサイコロは、女が振ると、その出た面の行動をせずにいられなくなるという物じゃ」 「いやいや、こんないかがわしいサイコロいったい誰が振るんだよ!?」 「はーい!私が振りますです!」 「おのれは振るなぁ!」 「何が出るかな、何が出るかなっと!」 「だから振るなと言うにっ!」 「ああっ!オナニーなのです!んっ、はあんっ!」 「何をやっとんじゃ、おのれはっ!」 俺は、スカートの中に手を突っ込んで喘ぎ始めたくるみの頭をはたく。 「もうー、何をするのですか!ナカモトは店員に対する態度がなっていないのです!」 「おのれがなんか店員らしいことしたことがあるか!?」 「この間、洗濯機を配達して設置したのです〜!」 「くっ!」 「まあまあ、ナカモトよ。冗談は置いといてじゃな」 「やっぱり冗談なんスか」 「あんっ、んんんーっ」 「やかましいっ」 「そんなこと言っても、一度このサイコロを振ったら、イクまではやめられないのです〜」 「それがわかってて、なんでサイコロ振るんだよっ」 「読者サービスなのです〜」 「だから読者サービスってなんなんだっ」 「……よいか、ナカモト」 「なんだっ、ジジィ?」 「これが、あの洗濯機用の新商品じゃ。ほら、これが柔軟剤で、こちらが洗濯糊じゃ」 「じゅ、柔軟剤に洗濯糊?」 「うむ、柔軟剤の方は、洗濯を始めるときに入れると相手の性格を柔らかくする効果がある。洗濯糊は、脱水の前に一度止めて、これを入れて脱水するのじゃ。それによって、柔軟剤と正反対の効果を与えることになるのじゃ」 「柔らかくなるって、いったいどういうことなんスか?」 「うむ、その表れ方は、ひとりひとり違うから、一概にどうとは言えん。ただ、性格が堅いとか柔らかいとかいうであろうが」 「あふんっ!固いのですっ!乳首がコリコリして気持ちイイのです〜っ!」 「まあ、たしかにそういうこと言うけど。つうか、そこっ、うるさいぞ!」 ジジィと会話をしながらも俺は、片手をスカートに突っ込み、もう片方の手で自分の胸を弄っているくるみにつっこみを入れる。 「それに、使う分量によっても違いは出てくるからの、自分で使って試してみるがよい」 「試すって、実験済みじゃないんスか!?」 「それは、肝心の洗濯機はナカモト、お主の家にあるからの」 「そんなもん使わせるなっ」 「まあ、いろいろ試してみるがよい。じゃが、気を付けろよ、純毛は縮むからの」 「縮むのかよっ!つうか、純毛ってどういうことやねん!?」 「ふぉふぉふぉ」 「ったく、またいつもの冗談かよう」 「あっ、イクうっ!ふあああぅっ、イってしまうのです〜ッ!」 「おのれはどこにでも行ってしまえっ」 「んああああっ!」 「で、どうするんじゃ、ナカモト?」 「ああ、まあ、いちおうもらっときますわ」 「うむうむ、それでこそワシが見込んだ男じゃ」 「俺のどこをどう見込んだのかがいまいち疑問なんスけど」 「お主なら必ずやこれを使いこなして、エロの道を究めるはずじゃ」 「エロの道を究めるって、俺そんなことひとことも言ってないっスよ。だいいち、あの洗濯機もあんたが押しつけてきたんでしょうが」 「いーや、ワシにはわかる。お主はあれを使いこなしてエロエロパラダイスを築く男じゃ」 「パラダイスどころか、ひとり相手にいっぱいいっぱいなんスけど」 「それはこれからのおまえの精進次第なのじゃ」 「んふう、はぁはぁ、ナカモトならきっとできるのです〜」 「胸さらけ出してハァハァ言ってる奴に言われても嬉しくない。つーか、誰もやるとは言ってないし」 「ワシは期待しておるぞ」 「ホントに大丈夫なんスね、これ」 「大丈夫じゃ、きっと」 「きっととか言うなよ、ジジィ。じゃあ、ま、機会があったら使ってみますわ」 抗議に行ったはずなのに、なぜか新製品を持たされてしまった俺が部屋に戻ると。 「ちょっと!どこ行ってたのよ、ケンちゃん!」 「だから、ちょっと買い物に」 「もう、何してるのよ!急がないと授業に遅れちゃうよ!」 「うわっ!ちょっと、沙紀!」 荷物を置くのもそこそこに、俺は引きずられるように学校に向かう羽目になったのだった。 その日の夕方、学校からの帰り道。 「あ〜、なんで一日に5つも講義受けなきゃなんないんだよ〜。ひとつが90分だぜ、もう俺ヘロヘロだっての〜」 「それはケンちゃんが単位落としまくってるからでしょ。ちゃんと単位取ってたら、今日なんか講義ふたつで済んだはずなのよ」 「よく考えたら、あの講義って、おまえは去年取ってたんじゃないのか?何で今日俺と一緒に受けてるんだよ?」 「私がついて行かなかったら、ケンちゃんはサボるに決まってるじゃないっ」 「そんなことないって、ちゃんと出るってば」 「うそっ、真面目に授業出るなんて、そんなことケンちゃんにできるわけないじゃないのっ!」 だから、おまえは俺の何を知ってるんだよ。 「いや、俺だってその気になればだな」 「その気にならないからケンちゃんなんでしょ。そんな事してたらケンちゃんじゃないもん!」 て、何?「ケンちゃん」って、何かのジャンル? 「そんなこと言ってて、結局は俺と一緒にいたいだけなんじゃないのか?」 「ななな、なにバカなこと言ってんのよっ。ケンちゃんのくせに私の心理読んだつもりなのっ」 どうやら図星のようだ。だんだんこいつの扱い方もわかってきたな。 「顔赤くしてなに言ってるんだよ」 「もうっ、ケンちゃんったらホントにバカなんだからっ」 そんな、他愛のない会話をしているうちに、俺のアパートに着き、鍵を出して俺がドアを開けようとした時のことだった。 「やっと見つけたわよっ、沙紀っ」 階段の辺りから声をかけられて、俺たちがそっちを向くと、そこには、スーツ姿の美人が立っていた。 やや切れ長の目を怒らせ、腕を組んで立っているせいで、かなりきつめな印象を受けるが、その女性は沙紀によく似ていた。 「え、ゆき…ねぇ」 「なあ、沙紀、この人どなた?」 嫌な予感と、かなりの率での確信混じりに俺は沙紀に尋ねる。 「優紀ねぇ。私のお姉ちゃん」 やっぱり。まあ、こんな顔かたちの似た美人が他人同士なわけないよな。 そういえば、あのジジィが沙紀を洗濯した時、俺は、沙紀の心に赤字で書かれた優紀ねぇという文字を見ていたはずだ。 「どういうつもりなのっ、沙紀?突然出て行ったりして!私がどれだけ探したと思ってるの!?」 「あのー、沙紀。いったいどういうことですか?」 「私も、実家は地方だから、こっちで就職してる優紀ねぇと一緒に住んでたんだけど。私、ケンちゃんに言ってなかったっけ?」 「いや、全くの初耳だけど」 「ちょっとそこのあんたっ!大学の前で待ってたらきっと沙紀が見つかると思って、正門の所から後をつけて来たけど、あんたはいったい何なのよっ!?」 後をつけて来たって、そんな事してたのか。全然気づかなかった。 「何なのよって、ケンちゃんは私のカレシよっ」 俺が発言するよりも早く、沙紀が言葉を返す。 「カレシって、沙紀、あなた」 「だから、私は今、ケンちゃんと一緒に暮らしてんのっ」 「なっ、堂々と同棲宣言する気?父さんと母さんにはなんて言うつもりなのよっ!」 「もちろん、私は、将来的にはケンちゃんと結婚する気よっ!」 えええっ、いや、それ、初めて聞きましたけど。 「なっ、沙紀ったら、どういうつもりなのよっ!」 「どういうつもりって、こういうつもりよっ」 啖呵を切るように言い返すと、沙紀は、俺の顔をぐいっと掴んでキスをしてくる。 「何してるのっ、沙紀っ」 あのー、俺はいったいこれからどうなるんでしょうか。 「わかった、優紀ねぇ?ケンちゃんと私はこういう関係なの!」 とりあえず、俺も何か言った方がいいのかな? 「あの、お姉さん?」 「なによっ!あんたなんかにお姉さんって呼ばれる筋合いはないわよっ!」 こ、怖ええ。以前の、俺を見る沙紀の視線がシベリアの永久凍土だとしたら、お姉さんの視線は、怒りに燃えるマグマのようだ。 「い、いやっ、と、とりあえず、立ち話もなんですから、中に入りませんか?」 自分でもはっきりわかるくらい、俺の声はうわずっている。 「そうね、あんたにもいろいろと言いたいことはあるんだからねっ」 すいませんすいません!お願いですから、そんな睨み殺すような目で見ないで下さい! どうしようどうしようどうしよう、あっ!そうだ!こんな時こそあの洗濯機の出番じゃないのか!? 脳味噌をフル回転させていた俺の頭に、あれを使うことが思い浮かぶ。 「ま、ま、まあ、どうぞ、中へっ」 とりあえず、話してわかる相手じゃなさそうだから、この状況を打開する頼みの綱はあの洗濯機しかない。 俺は、目の前にいる沙紀似の美人を部屋に招き入れる。 「もう、なによっ、優紀ねぇったらっ!頭の堅いお姉ちゃんなんかほっとけばいいのよっ」 口を尖らせてブツブツ言いながら、沙紀も、俺に続いて部屋に入ってくる。 やばい、もし、これがうまくいかなかったら、今夜は修羅場確定だぞ。
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