鬼が来た

若神村(わかむら)の珀神城(びゃくしんじょう)に村を荒らす妖怪共と妖兵を率いた村荒らしの鬼たちが攻めてきた。
城にいた兵たちの奮戦虚しく、珀神城の姫兼鬼切の巫女の珀音姫がさらわれてしまった。
しかし村は荒れはしたものの、城の崩壊は二人の少女が食い止めたために幸い塞がれたのであった。
その二人の少女の名前はおこう(一五)、おせん(一四)と名乗ってどこかへ…
いや、姫をさらった鬼の方向へ去っていった。



 どこかの洞窟、ここに麗しの鬼切の巫女もとい麗しの姫君珀音姫が捕まっているのである。 しかし、なんでこうもばれやすい所にいるんだろこいつ等…
この洞窟は妖怪が作ったアジトなので正直禍々しい事このうえない。 正直、お化け屋敷のほうがマシかも…
それはさて置き、洞窟というよりお城の一室を妖怪風にアレンジしたような洞窟の奥、 (つうかもうこりゃひとつの部屋やね…)
そこで妖怪軍団の首領の鬼が大きな玉座に座って、とてもごうかいな笑いを浮かべていた。つうか、笑ってた。
そんで、その口からは長い牙があった。
「ガハハハハハハハ! 珀神城を落とすのはどっかから現れたヤツらのせいで失敗したが、
 まあ、姫を捕まえたからよしとするか」
豪快な顔をしたこの鬼もとい男、名を雷殺鬼という、 いかにも斧振るってそうな名前やね…
この男、村を約20村も荒らしまわったという経歴を持つ
そんな男は今、トックリに入った酒をグビグビ飲みまくっているのだった。
そんな鬼の前にいるのは、珀音姫。
彼女白と青を基調とした着物をして、美しく長い黒髪を広げていた。
「………」
彼女は怒りの篭った目で雷殺鬼を睨んで…、いなかった。
つうか、きょとんとしていた。
実は彼女、巫女とは思えないくらいの天然ボケで、まさか自分がさらわれたとは思っていなかった。
「あの…すいません…姫って私のことですか?」
姫は雷殺鬼に質問した。 いやあ凄いわこの人…

「……」 物凄く引きまくる雷殺鬼の護衛担当妖兵



妖兵、それは妖怪が妖術で造った妖の人形のことである。
目は人間と同じ位置に二つ、額に一つ。
体は骨に妖気の霧を固めたような紫色。
そしてその体はひょろりとしている
人間とはいえないが、同時に妖怪と呼べるかは解らない。

という説明はひとまず置いといて?、彼女のボケた答えに雷殺鬼は引かなかった。
「無論、お嬢ちゃんお前のことだ!」
雷殺鬼はビッ!と珀音姫を指差した。
そんで、肝心の珀音姫の反応
「へぇ〜 そうなんですか…」 以上、ほにゃりとした笑顔を浮かべる。
(うわぁ…)と心で引く妖兵、
「ふむ、いい笑顔だ
 俺様はこの笑顔が気に入ったのだ
 是非とも俺様の嫁にしようぞ!
 誰にも渡すものか!!」
と、後ろに炎を背負って一人勝手に燃え上がる雷殺鬼。
そんな男に肝心の姫様は
「でも、お父様が言ってましたわ、『お前は鬼切の巫女だ』って」
水を差した。 すっげえ真っ正直に、悪意なしで…



まあ、さっきから言ってたようにこの姫様悪しき鬼を切り、邪な鬼を断つといわれている伝説の巫女(鬼切の巫女)の血を継ぐ者だった。
まあ、悪い奴でなければ鬼でも結婚はできそうだが(若神村は基本的に正義感が強い方)、このオッサン悪いことを大量にやっているから無理だろう。

その一言でテンションが大暴落した。 ズーンと…
「………んぐうううぅ! なんで俺様はこの麗しい姫の…
 あ、酒が切れた」
このオッサン、泣きながら酒を飲もうとしていたが、酒が切れたらしい。
「オイ!そこの妖兵 新しいトックリに酒を入れて持って来い!
 この女のためのお猪口もな!」
「ギィ(かしこまりました)」 妖兵(以下A)一名が部屋を出て、酒室に向かった。
「私用にお猪口を持ってきてくださってありがとうございます
 でも、私お酒は飲んだことありませんので…」 と言いかけたら
引き続き落ち込み状態の雷殺鬼の姿があった。
さっさと出て行きゃいいのに何を考えたのか いや、何考えてんのか珀音姫は雷殺鬼の頭を撫でたのだった。
「でも、楽しい話をしながらだったら飲めると思います
 だから、元気出してくださいね」 そして微笑み
「う…ううっ……うおーん!」 突然?泣き出し、珀音姫を抱きしめる雷殺鬼
「今日は飲むぞォ!
 今日は姫と語り合ってたっぷり飲んでやるー!!」 雷殺鬼は叫んだ。
それにしても誘拐犯とその被害者とはとても思えない光景である。
「ギ!(そうだ!)」
もう一匹の妖兵(以下B)は何を考えたのか、酒室に向かった。

大量の酒瓶がずらずらと並んでいる酒室、そこで妖兵Bは一つの酒を選んでトックリに注いだ。
その酒はかつて、鬼が島に大量にあった酒だったが諸般の事情で絶滅寸前(ん?)の酒だ。
その名は『鬼の鎧』
彼は首領のちょっとした祝いにこの酒を選んだのだった。
しかし、この酒…大丈夫なのか?いろんな意味で…



そんな中で、二人の空気の読めない…いや、心優しい姉妹が、雷殺鬼のアジトを発見した。
見張り役の妖兵と村を荒らした妖怪が応戦したが、奮戦虚しくボッコボコにされたのであった。
そのままその二人は洞窟に侵入した。

そんな頃、
「……それでそいつがだなー…」
珀音姫と楽しく話をしている雷殺鬼に妖兵の一人が駆けつけた。
妖兵は雷殺鬼の尖った耳にひそひそと…
「何ィー! 村にいた二人の小娘にここが見つかっただと!?」
雷殺鬼の酔いはその報で一気に冷めた。
「どうにかなさいましたか?」 一方の珀音姫は少しだけ酔っている。
まあ、この場合なんていったらいいのかね?…
その質問に雷殺鬼は優しく答える、
「ちょっと野暮用ができちまってな、だがさっさと済ませてやるさ」
珀音姫は自分よりも彼の心配をする
「お酒まだ飲んでないのに…」 前言撤回。
「なーに、終わったらまたたっぷりのみゃいいさ!」 いいおっさんだねぇ…うんうん。
「そうだ、名前を聞きたいです さっきから聞いてなかったので…」
「名前? ああ忘れてた…
 俺様の名前は雷殺鬼(ライサツキ)ってんだ!、じゃあ後でな!」
そして彼は自分の武器(大斧。やっぱしね……)を持って部屋を後にした。
一人残された珀音姫…、そこに『鬼の鎧』の入ったお猪口二つを持ってきた妖兵が戻ってきた。




姉妹が洞窟に突入してから約2分、姉妹は立ちはだかる妖兵をバッタバッタと切り倒していったが、姫のいる部屋にはまだ遠い。
「もう、普通の三倍で走ってるのに何で見つからないんだよー」
赤い髪を二つに結んだ少女、『おせん』が叫ぶ。
そう、今二人は普通の人間の3倍の速さで走っているのである。
「どうやらこれは敵の作戦かもね…
 私たちを疲労させようとする作戦…!?」
青い髪を伸ばした少女『おこう』は何かに気づいた。
なんと大きな斧がブーメランのように回りながらこっちに迫ってきた。
二人は一発で回避した。しかし、
 ズドオオオオオオォォォォ!!
次の衝撃波が二人を襲った。
「「うっ…うああ!!」」 姉妹はその衝撃波で洞窟の入り口付近まで吹き飛ばされてしまった。

洞窟の入り口付近、
吹き飛ばされたおこうとおせんは、おこうが発動させた式神によってダメージを防いでいた。
「俺のシマを土足で踏み入るとはいい度胸をしているじゃないか」
入り口から馬並みの大きさの鬼が現れた。
黄緑の衣服、大きな斧、青い肌、額に一本角、
「キミ雷殺鬼って言うんでしょ?、キミが若神村のお姫様をさらったんだよね?」
「コラ、そんなこというまでもないでしょ!」
「ごめんごめん」
二人ははプチ姉妹漫才をしてしまった。
「悪事を行う鬼を許すわけにはいかないわ!」
おせんは叫んだ。
「フン! ちょこざいな、人間がふざけた事を…」
鼻で息をして笑う雷殺鬼、しかし彼女たちは恐れない
「勘違いしないでね」 むしろおこうは笑い返す
「いくよー」 おせんはおこうに合図した。

「「鬼開放! 天・来・変・幻!!」」
その叫びと共に姉妹は光と闇に包まれた。

「うおっ! まぶしっ!!」 さすがの雷殺鬼もそのイリュージョンを見ることができなかった。

しかし、それは一瞬の事…

光と闇は弾ける様に消えた。
だが、そこから現れたのは…
青い鎧に身を包んだ青髪の鬼の娘、
「我が名は荒鬼(コウキ)! 正義の鬼将軍ここに参る!!」
そして、もう一人
赤い鎧に身を包み、背中に人間の頭サイズの大独楽『旋風六角独楽』を背負った赤髪の鬼の娘、
「ボクの名は大旋鬼(ダイセンキ)! よろしくね!」
そんな二人の共通点、それは翠色の瞳と二つの角、そして口に生えている二本の牙…
そう、この二人は悪事を行う鬼たちを成敗して回っている鬼将姉妹だったのだ。

「くそっ… 鬼だったのか…」
悪態をつく雷殺鬼、只者ではないと一瞬で解る『気』
だが、やってやる! その思いが彼に開幕の一撃を振り上げさせる。




一方、洞窟の奥
「おそいですね…」
珀音姫は雷殺鬼を待っていた。 しかも、兵の持ってきた酒を飲まずに…
「でも、二つあるから一本だけ…」
姫は自分のお猪口に名酒(?)の『鬼の鎧』を注いで飲んだ。
もう一つは雷殺鬼さんにとっておくようにして…



激闘は既に始まっていた。
二人の鬼娘は雷殺鬼のパワーを避けながら、攻撃を当てていた。
そして今、雷殺鬼は弱っている
「大旋鬼、止めよ!」
「うん!」
そして、
「「タァッ!!」」 二人は跳んだ。
「「天動奥義!!」」 雷が二人の姿を隠した。

そこから現れたのは勇ましい形をした鶴『飛勇鶴(ひゆうかく)』と、大きな大きな独楽だった。
その鶴と独楽は鬼将姉妹の鎧に良く似た部分がある
そう、この鶴と独楽は姉妹の変化した姿なのだ。

「必さぁーつ!! 突撃大回転旋風弾!!」
最初に独楽になった大旋鬼がその名のとおり大回転しながら突撃、大爆発が洞窟前に大きく響いた。
だがしかし、

「歯ごたえなし!?」 独楽もとい、大旋鬼は驚いた。
鶴もとい、荒鬼も驚いた。
「いったいどこへ…いけない! 今は姫の事が先よ」
鶴こと荒鬼は洞窟に急ごうとする、
「ちょ…ちょっとー! 置いてかないでー!!」
鬼姿に戻った大旋鬼はまだ鶴のままの荒鬼を追いかけた。


洞窟近くの山中、
そこに傷だらけの雷殺鬼がゼエゼエと息を切らしていた。
大分痛手を食らった雷殺鬼だが敵(鬼姉妹)の奥義を食らう直前にある方法で何とか逃げ切ったのであった。
「グッ… 何が俺の嫁にしてやるだ…結局置いて逃げちまった糞親父じゃねえか… 畜生!!」
彼は自分への怒りで一杯だった…。



荒鬼と飛勇鶴姿でようやく姫が捕らわれているであろう部屋に突入しようとした。
大旋鬼はちゃっかりと荒鬼の上に乗っかっている。
しかし、残りの妖兵がこっちに向かってくる
「どけどけー!!」 大旋鬼の叫びが響く、
「必殺! 鬼岩一閃斬!!」
鶴の翼から放たれた衝撃波がその妖兵を切り裂いた。
「ギェェェェ!!」 あっけない断末魔だった。


そして洞窟奥、
そこにいたのは大量のトックリに包まれて眠っている珀音姫一人だけだった。
「うわっ…なぁに?これぇ 酒くせぇ…」
大旋鬼は鼻をつまむ
「どうやら、アイツはここで酒を飲みまくってたようね…
 ま、今となってはどうでもいいけどさ」
元の鬼姿に戻った荒鬼は辺りを見回しコメントした。
だが、酒を飲んでいたのは雷殺鬼一人ではなかった事を二人は知らない
「じゃ、かえろーよ!」 大旋鬼は珀音姫を抱えて村に戻ろうとした。
「そうね、それにしてもかわいい寝顔ね…」



かくして、二人の正義の鬼将軍によって姫は救われ、
若神村に平和が戻ったのであった。
珀音姫はまだ眠り続けているが、いい夢を見ているのであろう…
そして、荒鬼と大旋鬼は求めていたわけではない報酬を貰って、
村を後にしたのであった。
めでたしめでたし



そんでもって、はずれの団子屋
「おばちゃーん! 餡団子ー」 「あいよぉ」
団子屋のおばさんに団子を注文する大旋鬼もといおせん。
「おせん、あなた食べすぎよ」
そういう荒鬼もといおこうは、全く団子を口にしていない、
彼女はお茶しか飲んでいないのである。
「だってーいいことした後の団子はサイコー!なんだもん」
「何よ、その叫び声… 詰まるわよ…」
呆れるおこうをよそにおせんは団子をほおばる。
「ん…んー!!」 どうやら喉につっかえたようだ。
「ほらね」 空は青だった。
彼女達の目的は何か? 何故悪い鬼を退治するのかは解らない、それは彼女たちにしか知らないからだ
沢山の謎を秘めながら正義の鬼将軍姉妹は平和のために今日も行く!

つずく(?)



満月浮かぶ夜の珀神城
鬼切の巫女珀音姫は不思議な感覚に襲われていた。
「なんだか…熱い……」
しかも、微熱まで感じていた

名酒『鬼の鎧』にはかつての鬼たちも知らなかった不思議な力があった。
その力は、鬼切の巫女にしかもたらされないものだった
それは、その酒を口にした巫女を鬼へと変える力。
その酒をトックリ一本分も飲んだ彼女に効かないはずがなかった。

「あ…ああ…」 あまりの熱さに目を開く、
その瞳はギラギラと金色に染まっていた。
しかし、熱は引いていき、瞳も元の色に戻っていった。

しかし、今の彼女は自分よりもかつて自分と楽しい話をした
雷殺鬼の心配しかしていなかった。
「心配…していないのかしら…」 と

つづく




 なーに、終わったらまたたっぷりのみゃいいさ!

 俺様の名前は雷殺鬼(ライサツキ)ってんだ!、じゃあ後でな!


 若神村襲撃事件から翌々日の朝、
太陽が昇り始めた頃に若神城の姫、珀音姫は目を覚ました。
「…」 彼女は昨夜自分を襲った不思議な感覚を微かに思い出す
 なんだったんだろう…あの、奇妙な感覚は…
 まるで何かに変わるような…そんな感覚…
 そう、まるで…あの人のような…
 そんな感覚……
そして彼女は思い出す、
大きくて怖そうだけど、笑顔がいい『あの人』の事を…
それは……

彼女は知らない、巫女を鬼に変える名酒『鬼の鎧』の効果が全身に回っていたことを。
その効果こそ『感覚』の招待だったことを。




そしてその日、珀音姫に巫女としての仕事があった。
それはある鎧と金棒を破壊、もしくは封印することである。
その鎧と金棒はある刀職人が拾った物だが、
鬼の邪気が鎧中に溢れており、刀の一つが金棒に取り込まれてしまったのである。
職人はそれが原因でその鎧を封印してもらうように頼んだのである。
若神城は先祖代々から鬼や妖怪などを封印する地下室が存在するのである、しかしその部屋が使え、かつそういったものを封印、もしくは破壊できるのは鬼切の巫女しかいないのである。

そして現在、
珀音姫は今、巫女服を纏っていた。
その服は彼女の美しい体のラインを見事に隠している。
「では姫様、我々はこれで…」
「ご苦労様でした」
念のために連れた護衛の兵と鎧と金棒を入れた葛篭を運んだ兵は、
その地下室の扉で珀音姫と別れた。
「さてと…」 珀音姫は気を引き締める。
今の彼女の顔は周囲を和ませるおっとりとした少女ではない、
邪気を祓う鬼切の巫女の顔だった。



珀音姫しかいない暗い地下室、灯りは蝋燭のみ
そこで彼女は、例の鎧が入っている葛篭を開いた。
そして、その鎧を床に丁寧に置く
それは正に『鬼の鎧』と言っても過言ではなかった。
どうやら腕、脚、肩、胴にそれぞれ着けるような真っ赤な鎧である。
しかし、胴体に着ける鎧はまるで鬼の顔をイメージしたようなもので、
人間の両方の胸の辺りには「目」のようなものがある。
そして、刀が取り込まれた金棒の取っ手は、刀のようなものになっていた。 どちらも以上に上げた所以外はほぼ普通の鎧である。
「これはもしかして…
 何かで死んだ鬼の魂が鎧に取り付いたのでしょうね…
 そして、金棒の方はその死んだ鬼が使っていた物を呼び戻した物なのでしょう…」
彼女の推測はそれまでだった。
 あの人は大丈夫なのだろうか…
その時彼女はほんの一瞬だけ、雷殺鬼の事を思い出してしまった。
「いけないいけない…
 心を乱しちゃ駄目!」
再度精神を集中し、退散方法を決めた。
その退散方法は、一回強制的に邪気を発動させ、一気に封印するという方法。
しかし、退邪経験が浅い彼女には一回だけが限度であった。
 それでも、やらねばならない
彼女は自分に言い聞かせた。



―邪気よ いまここに 目覚めよ―
最初にまず、強制的に鎧の邪気を開放させる法術の呪文を唱えた。
すると、胸鎧にある『目』が光って宙に舞い、他の鎧と金棒もそれに続くように集まった。
そして鎧は、まるで見えない人間が纏ったかのように宙に整った。
(恐ろしい気配が集まってる、早く封印しないと…)
珀音は急いで束縛の呪文を唱える。
―見えぬ鎖よ 我が瞳の… ガッ! 
その時、鎧から発した邪気の波動が彼女の詠唱を止めた。
「ウアッ!!」
波動の衝撃で吹き飛ばされる珀音、彼女は背中を壁に打ちつけた。
「フハハ…小娘フゼイガ生意気ナコトヲ…」
鎧は珀音をあざ笑うかのように喋りかけた。
しかも、鎧の周囲に纏っている邪気は強くなっていく
「そんな…、呪文の力が強すぎた…」
珀音は戸惑った。 何しろ初めてだったので力の加減が難しかったのだ。
「フンッ!」
鎧は目を光らせた。 珀音はその時に鎧を見ていたために、その光を避けることができなかった。
そして彼女はその光によって倒れてしまった。
「フフフ…ココカラハ出ラレソウニナイカラ、コノ娘ノ体ヲ使ッテ出テ行クトシヨウ
 ドウヤラ退邪ノ力ヲ持ッテイルヨウダシナ…ダガ、ソノ前ニ…」
鎧は珀音の中に残っている法力を全て吸収する、起きた途端に反撃されないようにするためだ。
だが、それが自分の運命を変えるとは鎧は思っても見なかっただろう。




法力を吸われながら珀音は夢に似たようなものを見る。
花も草もなく、天井どころか床も壁もなく、まるで万華鏡の中のような空間
その空間から色がどんどん消えていく…
消えていく『色』を目撃し、次第に焦燥が激しくなる珀音、そんな彼女に誰かが近づく
彼女はそれを気配として感じた。 一昨日に会った人と同じような感覚
もしかして…「雷殺鬼さん?」 その影の方を振り向いた。

しかし、それはかつて心を開いた鬼ではなかった。
「!?」 彼女は衝撃した。
似ている…そう、それは全てが自分に似ていたのだ。
ただ、瞳の色が黄金色なのを除けばだが…
(ふふふ…残念ですわね、彼ではなくて)
「そんな…も、もう一人の…私…」
珀音は戸惑う、自分と同じ姿をしている者に
(怖がらなくていいですわ…なぜなら私はあなたの体だから
 そして、今のあなたは心だけの状態)
もう一人の珀音は怯える、この人は何をいっているのだろう
意味が全くわからない……
(じゃあ、教えてあげますね、あなたはあの鎧に体内の法力を吸収されて、あなたの体にある邪気が膨らんでいってますの
 つまり、今のあなたは完全な鬼になろうとしていますわ
 いや、すでに鬼になってもおかしくないのです。
 そして人間の心であるあなたと鬼の心である私が一つになれば完全に鬼になれるのです)
「そ、そんなの…そんな事いわれても解りませんよ!
 それにいつから邪気が…」
(それは一昨日に雷殺鬼さんが留守の間、妖兵さんが注いでくださった『鬼の鎧』が原因なのでしょうね
 少なくとも彼に故意も悪意もなかったのでしょうけど)
珀音は衝撃を受けた。あの時に飲んだ酒の一部に鬼化する成分があったなんて…


「それでも、私は鬼切の巫女です!鬼になんてなるわけにはいきません!」
黄金色の瞳の珀音は反論する珀音を哀れな眼で見つめる
(かわいそうな人…、鬼切の巫女として生まれただけで
 悲しい建前を未練なく言ってしまうなんてね…
 あなたは雷殺鬼さんの前でそんなことを言ってしまったら哀しい顔をしてしまいますわね…)
雷殺鬼 その言葉で彼女は戸惑った。
(あなたは悪い鬼から人を守ろうとしているのでしょうけど
 その人間たちはあなたに何かしましたか?
 あなたがさらわれても村の人たちは何もしてくれなかったんじゃないですか…何をしても褒めてもくれない虚しい日々を暮らしていきますの?)
動揺する珀音に黄金色の瞳の珀音は追い討ちをかける。
「いやぁ…やめてぇ…」 目に涙を浮かべる珀音
そう、巫女だから、この城の姫だからという理由で彼女は誰にも甘えることができなかった
母が死んでために、物心付いた時から外で遊ぶこともできないまま法力覚醒の儀式と大量の勉学を強いられた毎日
それによる苦しみなど誰にもわかってもらえない苦しみ
(人間なんてなんだかんだ言ったって結局は自分の命が大事ですのよ
 そんな人間よりもあの人のそばにいたほうが楽だと思いますわ)
「あ…あの人って…」
あの人、それは雷殺鬼のことである
(私だってあなたに幸せをあげたい、でもこの姿のままではあなたは幸せになれない
 だから鬼になってしまえばあなたに自由が手に入ります)
黄金色の瞳の彼女の優しさにうそ偽りはなかった。


(でも、このまま鬼にならないでいても
 あなたはこれからも苦しい思いをしていかなければなりませんの
 だけど私は、あなたに苦しい思いをしてほしくないから…)
純粋で無垢な優しさが黄金色の瞳の彼女にあった そう、かつて雷殺鬼にふるまった優しさ…
人の心の珀音は今気づいた、何故鬼に優しくしたのか、何故度々その鬼の事を思っていたのか、
それは息苦しい空間に彼が少しだけ開放してくれたから…
「私、なります…」
(え)
聞こえたのは決意の言葉
「なります、鬼に
 人間のまま目が覚めても人間が助けに来ても逃げ場なんてないし…
 それに私はまだ雷殺鬼さんとお話がしたいし、」
そう、人の心の珀音は心を変える決意を決めた。
もう鬼化が心にまで染まっただけではない、
彼女は感じていた。
自分はどっちみち人間のままでは生きられないことを(まあ、人間のままでいても鎧に乗っ取られるのがオチ)
「冷酷になろうとしても優しくなってしまう不安定なあなた…
 いいえ、私…もう、我慢しなくていいんですよ…」
そして、黒い瞳の珀音は黄金色の瞳の珀音を抱いた。
その温もりに黄金色の瞳の珀音は激しく泣いた。
そして、黄金色の瞳の彼女は体の色を変えて、角を生やして、耳を尖らせながら泣いた。
(…ァ…うああああっ)
「もう、寂しくありませんよ…
 私たちは…一つになるから…」
(うん、うんんっ…)
そして、空間は完全に消えて、二人は一つになった。




そして地下、
横たわったまま法力を全て吸い取られ、
巫女服をズタズタに破られた珀音の体の前に
鎧は未だに人の形をとりながら立っていた。
「フハハッ…コノ娘ノ体ヲ使ッテ我ハ自由ヲ手ニ入レルノダ!」
鎧は笑う、何も知らずに笑い続ける
「サテ、起コストスルカ…眠ッテモ乗ッ取リハデキン」
だが、鎧が起こすまでもなく珀音はガクガク震えながら起き上がった。
「ナ!?」 鎧は驚く、
カッ!! 続けて珀音は目を開いた。その色は黄金色!
「ん…んあああああああああああ!!」
雄たけびと共に彼女に変化が訪れた。
ガクガクと震える体を抑えるように抱こうとする珀音。
「あ…ああっ!!」 ビリビリッ!
指の先、その爪は長く、そして鋭く伸びていく。人なぞたやすく切れるくらいの鋭さはある。
「んんっ…はあああっ!!」 グウウウゥ!
少し小さい胸はムクムクと大きくなっていく。今で言うとFカップくらいはありそうだ。
「いぎいいぃぃぃ!!」 グググゥッ…!
長い髪から覗く耳は斜めに鋭く尖っていく。もう人とは違うと言うかのように。
「ほがぁっ!」 ギッ!! ギギギィ!
荒い呼吸を続ける口から牙がギラギラと伸びる。それに続くかのように舌も少しだけ鋭く伸びた。
その口からは涎が溢れていく…
「アウッ!! グウゥ!!」 グッ!…ギギギ!…ギリッ!!
額から鬼特有の角が右と左に一つずつ生え、一対になるように伸びていく。
「んん…ふっ…ふあああっっ!!」
体の色が肌色から赤色に変色していく、胸から手足の指先満遍なく真っ赤になる体。
変色は黒髪にも及びこっちは血のような紅の色に変わる。
「ああん!…はぁん!!」 グゥッ!!
そして、黄金色になっただけの瞳に完全な変化が訪れる、
瞳孔が獣のように鋭い切れ長に変わっていく…。
「ひゃうううう…はっ…あぁぁぁん」
肉体の変化に珀音は恍惚感を感じて淫らな声を上げて果てた。


鎧はその光景にただ驚くだけだった。何しろ人間が鬼に変化する光景なんて見たことがなかったからだ。
「ウウ…コ…コレデハ乗ッ取ルコトガデキナイデハナイカ…」
すると、変化の快楽に果てた少女もとい一匹の鬼娘が スッ と起き上がった。
「コウナッタラヤケクソダ!!」 鎧はヤケクソ気味に金棒を振り回し突っ込んだ。
「ソノッ!体ッ!ヨコセーッ!!
 ウオオオオーーーーッ!!!」
で、
結果、鎧の金棒は鬼娘の華奢な手で受け止められた。
「………」
無言を続ける鬼、パニックになる鎧
そして鬼は口を開いた。
「何ですか?」 その瞳から殺気が迸る。
「イ…イエ…」 殺される、彼がそう感じたとき彼の自由は殺された。
『目』は怯えた。


「ふふふ…この鎧、なんだかかっこいいですね
 雷殺鬼さんに見せたいですわ…」

鎧は自我を消されて見事に彼女の鎧になりましたとさ。 チーン

「さて、この城から出て雷殺鬼さんを探さないと…
 そうだ、この金棒で…」
すると、鎧が持っていた金棒の取っ手の位置を変えて、
銃のように構える
そして、壁と天井の間に狙いを定めて…

ズドーーーーン!! 見事に出口が完成した。
出口は皆さんのご想像にお任せいたします。

「さっ…こんな牢獄を出て雷殺鬼さんを探さなきゃ」
そして、珀音は先程自分を苦しめた鎧を纏ったまま脱出したのだった。




どこかの洞窟の奥の部屋、
何者かに荒らされていた部屋に雷殺鬼はいた。
ただ、かつての恐ろしい自信に満ちた表情はしておらずただ、落ち込んでいたのだった。
「……ふう、こんなとこにいたってアイツが来るはずがねえか、
 だって約束を守れなかった俺なんか、もう忘れてるよな…」
そんな時、
「雷殺鬼さーん!」 女の声、しかも彼にとって聞き覚えがある声だった。
「え?」 聞き違いか?いや、小さいながらも足音が聞こえるが…
それから次第にその足音と声が大きくなる、つまりこっちに近づいてきている
そして、
「あ、やっと見つかった」 その姿は裸体の上に胸部分に『目』がついている鎧を着けている。
いや、その前に体は赤く、髪は紅く、額に一対の角が生えている、
ついでに右手には金棒、左手には酒ビンを持っている、
その姿は鬼である彼にとっては同胞にしか見えなかった。
ただ、彼はこんな同胞に今まで会ってはいなかった。
「い、一体何者?」 彼は問いかける、
すると彼女は自分の姿を確認した。
「あ、この姿だと分かりませんでしたよね…
 私は一昨日貴方とたくさんお話した珀音姫ですわ」
雷殺鬼は一瞬だけ ? を浮かべて、
「ええええええええ!?」
驚いた。



「で、そんなことがあって現在に至ると…」
今、雷殺鬼と珀音は寄り添いながら話をしている、
珀音は嬉しそうに、雷殺鬼は少しだけ申し訳なさそうに、
「はい、あんな窮屈なところにはいる気がおきなかったから貴方を探したんです、最初にここを探したら気配がしたので来たんです」
なんだか喋り方は以前のままだが、ちょっとだけ変わっているところがあるのに雷殺鬼は気づいた。
だが、彼は合えて口にしない。
寧ろ彼は左手に
「それで、酒の匂いがしたのでちょっとだけ酒の部屋に入ったら部屋が荒らされてましたわ
 残ってた酒が二個あったんですけど余りに不味かったんで捨てようかと思いましたが、勿体ないからとっておくことにしました」
すごいな、と彼は思った。
「そんなことよりも、すまねえ」
彼は謝る、それは果たせなかった約束の事…
彼はその事だけを申し訳なく思っていたのだ。
だが、彼女はそのことを怒っている様子はなかった。
「雷殺鬼さんは悪くないですよ、私だってそのまま寝ちゃってたんですから…」
いや、お前は大して悪くないだろ とは彼は言わなかった。
「それよりも私はどうしてそうなったかを聞きたいです」
珀音は前よりも真剣だった。 それは彼が大事な人だからだろう。
彼は自分が珀音の元を離れてしまった原因を話した。
無論、あの姉妹のことも…

「ひどいです…」
全てを聞いた珀音の感想はそれだった。
「その二人が雷殺鬼さんをいじめたんですね…
 そして、私をあんな所に連れ戻した…」
そして、彼女から意外な一言が、
「許せない…」
以前の彼女はこんなことは言わなかっただろう、しかし今の珀音は鬼である。
「鬼の癖にあんなゴミ当然の人間どもの味方なんかして何が嬉しいの…
 あんな奴ら人間共と一緒ですわ! 考えただけでも虫唾が走りますわ!!」
ぶすぶすと走る怒りは彼女の中を悪戯に掻き回した。
「お、落ち着け!」
雷殺鬼は静止させた。
「は、私ったら雷殺鬼さんの前でなんて事を…」
怒り狂う自分を恥じる珀音、
「はあ、もうあんな人間共と軽蔑したいです
 だから雷殺鬼さん、私に新しい名前を下さい」
「へ?」
「私、あの後もあなたの事が気になって、鬼になってからあなたのことが好きになったんです
 あなたの妻になりますから私に新しい名前を下さい!」
ちょっとだけ略…
「な、名前か…ん〜と〜
  じゃあ、珀鬼、今からお前は珀鬼だ!」
愛するものに新しい名を与えられ、珀音…いや、珀鬼は喜んだ。
「珀鬼…それが私の名前、はああ…嬉しいです」
鬼になって初めて感じる喜び、彼女はそれを感じた。
「雷殺鬼さん、これからは私たち夫婦ですね…」
そして珀鬼は愛しい雷殺鬼を抱きしめた。
(たはは…まさかこんな形で嫁にできるとは思わなかった…)
雷殺鬼は心の中で思った。 だが、顔は嬉しい表情だった。




それから夜、洞窟の奥では二人の鬼が激しく愛し合った。
鎧も服もない裸体同士の交じり合いはお互いを強く硬く結び付けていった。


朝、日は昇ってもその光は洞窟の奥までは届かない
「それで、これからどうすんだ?」 
雷殺鬼は服を着替えながら自分の妻に尋ねる。
「ふふ、そうですね…あの忌々しい姉妹を始末したいですね…
けど、正直言うとあなたと私だけでは勝ち目はありません」
その妻である珀鬼はあっさりと言い切る、
「だから仲間や下僕を集めないといけませんね…
 話はそれからですわ、あなた」
あなた その言葉が雷殺鬼の心を喜ばせる。
「そうだな…、忌々しいあいつらのせいで俺の部下は全滅だから
 新しい補給しないといけねえな…」
ニヤリ…
雷殺鬼は今の表情は以前の悪の表情に戻っていた。
「そして、珀神城を占領、そして奴らをおびき寄せる…
 といった計画でどうでしょう?」
そしてそれからの事を計画する珀鬼
「へへへ…いいな、それで決定だ!」
彼は流石と言わんばかりの笑顔を浮かべた。
「うふふ…そう言われるととても嬉しいです」
すると珀鬼は愛おしそうに雷殺鬼を抱きしめた。
 まさに新婚夫婦。といったところだろうか…
「そうだ、お前が持ってきた酒はある効果があったんだ」
「ある効果?」
「そう、それはだな
 その酒を飲んだ妖魔は人間を犯すと、その人間を妖魔にできるやつなんだよ…
 でも、あいつらに効くかね?」
「そんな効果が… じゃあまずは妖魔を探すところから始めましょうか」
そして彼女はこの薄暗い洞窟を抜けることにした。
「ちょ、ちょっと待てよ! オイ! ひゃくきーっ!!」
雷殺鬼は慌てて妻についていった。 後ろで慌てる夫に珀鬼は少し微笑んだ。

そして、二人の人生は始まった。

つづく

若神村(わかむら)の珀神城(びゃくしんじょう)に突如、
鬼二匹に大量の妖怪と妖兵軍団が攻めてきた。
その鬼の名は雷殺鬼と珀鬼であった。
それだけではない、その中には二匹の鬼が連れてきた上位妖怪 通称『妖魔』もいたのだ。妖魔は人間と妖怪を合わせたような外見をしている。
そしてその妖魔の名は、一方は化け狸、もう一方は九尾狐(きゅうびぎつね)という。
この二匹は珀鬼の持っていた酒と引き換えに仲間になったのだった。

そして現在、城にいた兵たちは妖魔の餌食になって全滅してしまった。
村の危機を知った二人の赤い髪と青い髪の鬼姉妹、荒鬼と大旋鬼が駆けつけた。
姉妹は妖兵と妖怪達を撃退したが、二匹の妖魔の力が圧倒的だったため敗北してしまう。
その上、妖魔と戦っている間に二匹の鬼に100名の村人達を人質にされてしまったのだった。
「俺たちの言うとおりにすれば、村人に手出しはしない」 その言葉を耳にした姉妹は、敵に投降してしまったである。



「まずは身に着けているものを脱げ! もちろん全部だ!」
無論、反抗は許されない。 反抗すれば村人が死ぬのだから…
そして、彼女達は全てを脱ぎ捨てた。
武器も鎧も衣も全て脱ぎ捨てた姉妹の体はとても美しかった。
成長すればこの世の人間の人気は期待できそうだ。…って何言ってんだか……。

「お姉ちゃん… こんなの恥ずかしいよ…」 いつもは元気印の大旋鬼は羞恥心で涙を浮かべた。
「ガマンして! おねがい…」 普段は冷静な荒鬼もあまりの屈辱で泣きそうになる。
だが、鬼は容赦などしなかった。
「あなた、この屑共をお願いします」 「おうさ!」
そして珀鬼は二人の姉妹に寄ってきた。
しかし、大旋鬼は珀鬼の顔に見覚えがあった。
「あ、あんた…もしかして珀音姫?」 大旋鬼は泣きながらも彼女に尋ねる。

しかし、帰ってきたのは一発の拳 その拳は大旋鬼の腹部に命中した

「ぐふっ!… えほっこほっ…」
「そうよ、でも珀音なんてはあなたよりも忌々しい過去の名前…
 もう一度言ってみなさい? 今度はこの村人を私のお気に入りの金棒で血祭りにして差し上げますわ
 わかりましたか?」
と、珀鬼は、大旋鬼を荒鬼の方へ乱暴に投げた。
「「うあっ!」」

そして珀鬼はまるで二人を、裏切り者を見るが如くキッ!と睨み付けた。
(なんて事…これじゃあ質問すらできなくなってしまった)
彼女はあの後に何が起きたのかを聞きたかったのだが、それを言えば村人が犠牲になるのは既に分かっていた。



「さてと… 九尾さん、狸さん、例の酒を飲んでください」
「了解いたしました」 「あいよぉ…おでもちょいと喉が渇いた頃だかんな」

従順そうな敬語を使う九尾狐はその名の通り白い九本の尻尾が腰にあり、真っ白な体に狐の顔をしている。
余談ではあるが、炎を模した袴を着ているが、性は男、しかも美男である(顔は人間じゃないが…)。
一方、乱暴そうな口を利きそうな化け狸は、顔はその名の通り狸だが、狐とは対照的に太鼓腹でデベソ、大きな尻尾は二本、そして羽織を付けている。 顔のほうはもちろん狸の顔だ。
もっとも、体型からして暴君のようなものだから羽織なんてのは似わなさそうだが…。

それはともかく、二匹は背中に背負っていた酒瓶を取り出し、
その酒をぐびぐびと飲んだ。
狐の方はゆっくりと…、狸は乱暴に酒を飲み干してゆく。


「姉ちゃん、あいつら勝ったから勝利の美酒のつもりなのかな?」
「多分それはなさそうだけど…」
増援の妖兵に手足を縛られているうえに、見張られているため姉妹が脱出することは不可能であった。
「ふふふ、分からないと言うなら説明して差し上げましょう
 愚かな人間の味方をするお馬鹿さんにも優しくしなきゃいけませんしね」
珀鬼は二人を見下すかのように話しかけた。
「あの妖魔達が飲んだのは『嫁入りの酒』と言いますの、
 あなた達二人が荒らした酒部屋に残ったものですわ」
「私達二人? 違うよ!ボク達はそんなことはしてないよ!」
『二人が荒らした』その言葉に反論したのは大旋鬼だった。
「うるさいですわね、そんな私を馬鹿にしたデタラメが私には通用しませんわよ!
 あなた達がやったに違いませんわ!
 どうせあなた達なんて屑猿(くずざる)の味方なんでしょうから猿に媚びてあんなことしたんでしょう?」
珀鬼は拳に怒りが集まるかのように拳を握り締める、
「違うよ!ボクたちは人間や鬼たちが大きな争いを行わせないために自分で進んでやったんだ!
 ボクたちは人間と鬼の混血だけど、鬼も人間も一方的な悪人ばかりじゃない事をつたえ…」

その言葉は続かなかった。 大旋鬼の柔らかな頬に赤鬼の拳が飛んだからだ。

「がはっ!」 「ガアアアッ!! うるさい!! そんな偽善者の胸糞悪い綺麗事なんてもうウンザリ!
 それ以上言えばアンタ達の肉が飛び散るまで血祭りにあげて、村人達もアンタ達と同じ運命にしてやる!!」
その時、一人の女の悲痛な叫びが怒る珀鬼に響いた。
「やめて! 私達がどうなってもいいから村人達にそんなことしないで! …お願いします…おねがい…ひっく…します…」
許しを請うかのように涙を流したのは、いつもは冷静な荒鬼だった。 彼女は泣きながらおねがいしますと繰り返す、
かつて助けた村人を人質にとられ、服を脱がされ、妹が傷付けられて…荒鬼の強気心は打ち砕かれたのだ。


珀鬼は荒げた呼吸を直しながらも鼻で笑う、
「はぁっはぁっ…… ふう…まあいいですわ、どうせあなた達は『嫁入り酒』の効果で私達の下僕…いや、あの妖魔達の嫁になるのですから」
妖魔の妻?「い…いやっ!いやだーっ!!」 ショックを受けたのは、珀鬼に殴られ口元から血を流している大旋鬼だった。
「全く…姉に比べて妹は…」 ため息をこぼす珀鬼、今の彼女はまさしく外道…。
しかし、姉の方はもはや心が砕けてしまい、その言葉を聞いているのか聞いていないのかすらわからない状態だった。
「ま、効果が発動するのは飲んだ妖魔が人間とセックスしないと無駄ですが…
 あなたたちは人間の部分もあるんでしょう?
 だったら他人事じゃ…ありませんよね? アハハハハ!」
笑い続ける珀鬼に二匹の妖怪が後ろで待っていた。
「珀鬼さま、そろそろよろしいでしょうか? これ以上は我慢の限界で…」 九尾狐は頬を赤らめる。
「珀鬼さま〜おで、もうまてねえんだよぉ さっさとこいつらをおかしてえぞ〜」 化け狸は今に暴れそうになっている。
後ろの二匹に気づき、珀鬼は おっと といった表情を浮かべた。
妖魔の方の酒の効果は精力を高める効果だ、二匹は
「そうですね…やってもいいですけど、一匹に一人になさい」
「「はっ!」」 二匹は早速嫁にする者を選ぶ、
その者とはかつてこの世の悪を許さな『かった』鬼姉妹だ。
その姉妹は既に絶望に憑かれ、目に光を失っていた。
「では、私は青い髪の娘を我が眷属でもしましょう…」
九尾狐は荒鬼の戒を妖術で崩した。
「…」 しかし、もはや彼女には逃れる手段も、抵抗もなかった


「へっ…すましやがってよぉ じゃ、おではこの赤毛だ
 ぐへへ…さっさとやっちまおうぜ」
「いやだぁ…やだよぉ…ねえちゃ…おとうさん…たすけてぇ…」
「かわいそうになぁ…こんなになっちまって…
 でも、おでがおめぇを幸せにしてやっからよぉ!安心しやがれぇ!」
狸は心身共にボロボロになった大旋鬼を縛る縄を解いて、
その瞬間に大旋鬼の口に自分の舌を無理やり入れた。
「ん〜」

その光景を確認した珀鬼は、この村の人々に大きく宣言した。
女とはいえ彼女も鬼、その大声を村に響かせることなど彼女には容易い。
「若神村の猿共! あなた達にはこれから最高の見世物をしてあげる! 二匹の妖魔がアンタ達を救った出来損ないの鬼姉妹を強姦劇よ!!」
村人のざわめきが村をよぎった。
「じゃあ、九尾さん、狸さん、さあ存分にやってください
 お互い容赦なしで、猿共に見せ付けるようにね!」
「「はっ!!」」
二匹は着ていた服を脱ぎ散らかした。
「さあ、いきますよ荒鬼さん」 美しい体で荒鬼を犯し始める。
「グヒャヒャヒャ!! きっちり受け止めろよぉ! 今日はおでは生きがいいからな」 縮めていた男根と金玉を元の大きさに戻し、『戦闘体勢』に入る狸。

 かくして、若神村史上最悪の肉の舞踏会が始まった。




大旋鬼は最初は嫌がっていたが、次第にあきらめていき
結果、ただ快楽を求めるだけの雌に成り下がっていった。
荒鬼の方は、犯される前から既に心が潰れてしまったため、
大旋鬼よりも早く快楽に堕ちた。

しばらくして、一連の事をすませて二匹はそれぞれの『嫁』の秘所に自分の男根を突っ込んだ。
それからは単純なこと、後は女の膣に射精せば用は済む

「くっ!…んあっ!」 そして、九尾狐は荒鬼の膣内に射精し、果てた。
「んあああっ…熱いのきちゃうのぉ!…はああああん…」 強き心を棄て、淫らな雌犬となった荒鬼も狐と同時に果てた。

「ぐひゃあああぁぁぁ!! でちまうぅっ… おでもでちまうぞおおぉぉ!!」 九尾狐に続き、化け狸も己の欲望を内に出した。
「ひゃああああ!」 抵抗空しく、狸の大きな男根に酔いしれた大旋鬼も同じように果てていった。



二匹の妖魔は互いの『嫁』の秘所から自分達の男根を抜いた。
その間に珀鬼は人質を見張っていた雷殺鬼に人質の村人を二分に分けるように頼んでいた。
そこに、脱いだ衣服を着替え終えて、己の『嫁』を抱える二匹の妖魔が珀鬼の方に来ていた。
「珀鬼様、強き鬼の女子と交る機会をいただいてありがとうございます
 彼女の内はとてもいいものでしたよ」
九尾狐は満足な顔で珀鬼に紳士的に感謝した。
実は彼、鬼と交わるのは初めてだったのだ。
「ああ、アイツんナカは最高ぉだったぜぇ 
 でもさ、これからもっといいことがあんだよな なあ、珀鬼さま」
化け狸は『これからのこと』を期待しながら珀鬼に問いかけた。
「そうです、これからが本番…、人間共が絶望するのはこれからです…ふふふ… そう、今からが『はじまり』ですわ フッ…ふふふ」
珀鬼の口から次第に笑いがこみ上げてくる
「あははははははははははは!! 
 今まで私を縛った猿共、あいつらにたっぷり復讐してやる!!」
五十人と五十人に分かれた村人、いやそれだけでなく若神村の人間に向け、珀鬼は宣言した。
「聞きなさい屑共! この村は我ら雷殺軍団が支配する!
 あなた達人間どもは私達の『物』になりますの!!
 あなた達のような屑なんかに自由なんてあげませんわ!」
その演説を聴きながら妖魔は人質達が見えるように『嫁』を置いた。
二人の鬼姉妹の体は白濁液まみれになっており、
その白濁液は二人の美しい青い長髪と赤い短髪にもかかっていた。
人質達はかつて村を助け、姫を救った姉妹を心配する。



しかし、
「「んああっ!」」 姉妹の口から発する嬌声が村人をビクッとさせた。

「は、はああぁぁん…んはぁ、ひゃうぅ…」 15歳とは思えない嬌声を発し変化に発情する荒鬼、
「んあっ…んん、ふあっ…ひゃううぅ…れはぁん」 まるで子供のように喘ぎ、四つの犬歯に生える牙がある口から舌をだらしなく出し、涎まで垂らす大旋鬼、
変化の前兆である異常な快楽に堕ちた二人に変化が訪れた。

「ひゃあ、あたまがぁうじゅくのおおぉぉ」荒鬼は頭を抱えた。 額に二つの角があるその頭から何かが生える、
それは、白い狐の耳… 
「ひゃうぅぅっ! ボクもはえてきたよぉ!」大旋鬼には狸と同じ黒い耳が生えていた。
大旋鬼はその耳をパタパタと動かして興奮する、それは荒鬼も同じだった。

「「んふうううぅぅ…あっ、ああぁ」」二人の発達途中の胸と尻が少しずつ膨らんでいく…、
そして、荒鬼の胸はGカップ近くの大きさになり、尻も挑発的なカタチになった。
大旋鬼の胸は姉より大きいHカップで、尻はいやらしく整った形へ変わる…。


「んんんんぅぅぅ… はっ、ふああ、はうっあっ、ふああん!」 オトコを虜にできそうな尻をモノ欲しそうに突き立てる大旋鬼そして、
「んああっ…はああぁぁ…くひゃぁん、おおぉぅん、おおおぉぉん!」 同じく尻を突きたてながら、膨らんだ胸を淫乱に弄ぶ荒鬼、その胸からは母乳がびゅるびゅると空を大地に向かって激しく飛び散る。
「しっぽがぁ… はうっ… どんどん、んっ…、はえちゃうぅぅ! ボクのおしりにぃ…ひぃっ! どっ、どんどんはえちゃうよぉぉ!!」
「ひゃうぅぅ、わたしもぉ…はうっ! うっ、うずくとこにはえりゅのぉ!! しっぽがはえるのぉ!!!」

そう、大旋鬼の尾てい骨から粘液を帯びた狸の尻尾がふたつ、勢い良く飛び出すかのように生えた。 同時に「イクッ!いっちゃうよぉぉ!!」 と股間からいやらしい液を放って果てた。
一方の荒鬼の尾てい骨からは、ひとつ、ふたつと狐の尻尾が早くもなく、遅くもなくといった状態で生えていく、しかしその尻尾は桃色、すなわち毛が生えてない。
そして、「はっ、むぅ、ん、ふちゃ、 !? ンアアッ! ヒッ! ヒャアアアアアアア!! イ、イクゥ!!!」 ビクウウゥゥッ ビクビクッ!!
プシュウウウウウウウウウ と絶頂を迎えた。
すると九つの尻尾についた粘液が吸収され、代わりに真っ白な毛がびっしりと生えていく…。


「「はっ、ああっ…か、からだがあついいいいいいいいぃ!!」」
これでシメといわんばかりに二人の体が火照り始める、
荒鬼の皮膚の色が、耳と尻尾と同じ白色に変わっていく…。
そして大旋鬼の方は、まるで狸をイメージしたような黒茶色のラインが体のあちこちに浮かんでいった。
そして二人の顔に動物のひげがちょこん、と生えると肉体の変化が終わった。
「んひゃあぁ…きもちよかったぁ…」 「んはぁ…ぼく、なかまでかわっちゃうよぉ」
しかし、変化は精神部分にまで入っていった。
人間と鬼の混血種である二人の、人間の部分を完全に妖魔に変えていく…。
そして、村人は震える。 二人の変化に絶望するものも、それでも信じようとするものも二人の変化を心配するだけだった。



変化の終えた二人はまるで死んだかのように倒れていたが、それは一瞬の事…
裸の体で肉体を変えられた二人は目を覚ます…
「ようやく終わりましたか…でも、鬼の部分は残ってますわね」 変わり果てた二人の姿を見た珀鬼の感想はこれだった。


「美しいですよ、わが妻よ…」 それが、生まれ変わった荒鬼の姿を見た九尾狐の感想だった。
「うふ、あなたにそういわれると嬉しいわ」 荒鬼は嬉しそうに言い返した。
頭に生えている白い狐の耳、いやらしいお尻の尾てい骨に生える九つの尻尾、真っ白な皮膚の左右の腹部にあるオレンジ色のラインと大きな胸、赤とオレンジが混ざった色の瞳、そして頬についている可愛いヒゲ。
その姿はもはや九尾の狐そのものだった。 ただ、二本の角と青い長髪だけは残っている ただそれだけだった。

「ぐふぅ…おめぇ、さっきよりもいやらしくなってんじゃねえかぁ」 鼻息荒げる化け狸の口から涎が垂れている。
「ふふっ、あたりまえじゃん! ボクはキミの妻だもん!」 大旋鬼はニカッと笑って化け狸にいやらしく甘える。
額に一対の角がある赤い髪にはこげ茶色の狸耳、ぷくっとしたお尻に狸の太い尻尾が二つ、体の一部分に黒とこげ茶の毛が生えている、瞳は堕ちたダークブルーで、姉と同じところにはヒゲがちょこんと生えていた。

 そんな後景を見た村人はただざわめくだけ…
「では、約束は守りましょう 私達は村人に手出しはしません
 雷殺鬼さん、荒鬼さんと大旋鬼さんの分の人質を彼女達に…」 珀鬼は雷殺鬼に人質を解放するように指示をした。



「荒鬼さん、どうします?」 荒鬼の前に集まる村人の目にして九尾狐は意地悪な感じで質問する、しかし帰ってきたのは前ではありえないことだった。
「じゃ、私の分の人間どもは私たち夫婦の良い奴隷にしましょ
 術はあなたに任せるわ」
それはあまりにも非道な答え、もはや彼女に人を思う心は残っていなかった…
「そうですね、あなたの分はしもべにしてしまいましょうひとりのこらずにね!」
そして五十人の村人は非常にも奴隷狐人へと姿を変えられていった…。

「あなた、全部奴隷にしたわ… こいつらはあなたと私の思うがままよ…」
奴隷狐人に変えられた人間は夫婦に忠誠を示すのみ…
過去の記憶など今の彼らには  ない。
「ふふふ…、よくやりましたね 我が妻よ…
 でも、荒鬼というのもどうかと思いますからあなたに新しい名を付けて差し上げましょう」
「嬉しい… あなたがこんな私に新しい名前をくれるなんて」
名を授ける、その事に喜ぶ妻を見て九尾狐は微笑んだ。
「名は決まってます、汝の名は『荒狐(あれこ)』です
 荒々しく人の世を妖の世に変える狐と言う意味です」
名を授けられた青き髪の混血の少女は頬を赤らめて幸福を感じる
「あなた… とても嬉しいわ
 荒鬼なんていう名前よりも素晴らしい名前をあなたから頂けるなんて…」
「ふふ、新しい名を喜んでもらえて私も嬉しいよ… 荒狐」
「あなたぁ…」 二人はキスのように舌を絡めていった…。
そしてこれからは、この二匹は素晴らしき妖狐夫婦になるであろう…。



「お姉ちゃんさっすがやるねぇ!  じゃあ、ボクはどうしようか?
 ねぇボンちゃん?」 と大旋鬼は化け狸の方へ顔を向けた。
活発な妻ができた化け狸は己の名をボンと決めたのである。
「おでは手ぇ出さねぇから好きにしろ でも折角だからおめぇの分の村人の魂をこのひょうたんに吸い取ってくれ」
化け狸ことボンは妖術で赤ん坊と同じ大きさのひょうたんを呼び出した。
「うん! いいよ!」 大旋鬼はひょうたんを抱えながら自分の分の元人質の村人へと走っていった。

「だ、大旋鬼さん?」 五十人の元人質の村人一名が、赤い髪の鬼の少女を見て驚く しかし彼女を待っていたのは悪夢。
「よ〜し、妖術!吸収魂!!」 五十人の村人の魂が体を離れてひょうたんの口に集まっていった。
「たまったたまった これでボンちゃんにほめてもらえるぞ〜」 化け狸の元に戻っていく。 彼女がいなくなった後に残ったのは空ろな抜け殻だけ…。 その体はいずれは妖怪に喰われる運命だろう…。

「ボンちゃ〜ん! ひょうたんがパンパンになるくらい人間の魂が集まったよ〜
 これで今夜は楽しくなるね!」
そのひょうたんの中の魂はいずれ溶解していき酒になっていくのである
その魂は動物でも有効だが、人間の方が美味と言われている。
「ひょ〜 こりゃすげぇや!
 よ〜し、お前にいい名めぇをやっぞぉ!」
「え? いいの?」
「ひょうたんの褒美だ おめえは『独楽狸(こまだぬき)』だ!」
名を授かった赤き髪のハーフは ワーイ! と喜んだ。
「じゃあ、これからもよろしくね ボ〜ンちゃん」 「おうよ!
こっちもよろしくな こまっ!」
こちらもまた良き妖狸の夫婦となっていく。



かくして人質百人の果てを見た雷殺鬼はあっけにとられた。
「おまえ…まさか、こうなるの分かってあんな事したのか…」
「あの妖魔さん達が教えてくれたんです、鬼の姉妹は半分は人間だったって
 それで洞窟にいたとき教えてくれた酒を使おうと思ったんです」
「まったく、お前には驚くよ まあ、今は大して驚かなくなったけどな」
今までだってそんなことは幾たびあった。 彼女は悪の総大将に向いてるのではないかと思える位の残忍な策で軍団を手にしたこともあったし…。

「なあ、珀鬼よぉ…」 「何ですか?あなた」 さっきの怒りに震えていた珀鬼の事を気にかけようとする雷殺鬼の方へ珀鬼は振り向いた。
そこにあったのは明るい笑顔、その笑顔は夫にだけしか向けられないとても明るい笑顔だった。
「…いや、なんでもねえよ…」 フッ… と彼の不安は昇華された。

そして若神村の日は堕ちていく…
若神村には人間はいない、いるのは人ならざるモノのみ…
それは珀神城も同じことだった。


そして若神城、珀鬼と雷殺鬼は互いに体を寄せ合う
「あなた、この調子でこの国を支配しましょう」 「ああ、お前がいれば百人力だ…」
そして絆を確かめ合う二人…
朝はまだ遠い……

そしてそれから三日後、突如大規模な活動を開始した妖怪達は雷殺鬼率いる雷殺軍団の元に集結し、村や町を襲い始めた。
これにより嵐の戦国時代はさらに激しさを増していくのであった…。