作業完了に時間 技術蓄積も課題
2月上旬、国内で初めて商用原発の解体に取り組んでいる日本原子力発電
の東海原発(茨城県東海村)を訪れた。もう運転していないとはいえ、中心
部は人間がまだ近付けないほど放射能レベルが高い。放射線を体に浴びた量
を測る線量計を首から提げ、古びたコンクリートの建物に緊張しながら入っ
た。
建物の中にある使われていない真っ暗な階段を上ると、巨大な円筒形の熱
交換器が目の前に姿を現した。熱交換器は原子炉の核反応で得られた高温ガ
スから、発電向けの熱を取り出すための装置。直径は6メートル、高さは2
5メートルで表面はさびて赤黒い。
「触っても安全です」と日本原電の担当者は説明する。おそるおそる手で
表面を触れてみると、さびがぽろぽろと崩れた。運転停止から10年以上が
過ぎているため、周囲で放射線はほとんど検知されない。線量計の表示もゼ
ロのままだった。
放射能は時間とともに弱くなっていく。強さが半分になるまでの時間を半
減期と呼び、廃材などに含まれる「コバルト60」の半減期は5.3年。作
業員が働いても問題はない。
同原発は1998年の運転停止後、2001年から解体を始めた。原発は
60年近く運転できるが、同原発は老朽化が進み運転コストがほかの原発に
比べて割高だったため、運転開始から32年で停止した。
解体は放射能が弱くなった部分から進めてきた。まず核燃料を炉心から取
り出し、放射能レベルの低い周辺機器から撤去。これまでにタービンや発電
機、ポンプなどは既に取り除き、燃料プールの排水も終えた。熱交換器が大
型周辺設備では最後の作業で、「だるま落としの要領で分解する」(日本原
電)。上からクレーンでつるして9等分に輪切りにし、下部から1つずつ取
り出して廃材が広く飛び散るのを防ぐ。
全部の解体は2017年で終わる予定。放射能レベルが比較的高い原子炉
本体の解体は11年から始める。「放射能レベルが低くなるまで待ってから
作業に入る」と日本原電の平橋剛・廃止措置室長は説明する。
解体で発生する廃棄物は19万2400トン。放射能の強さにより処分の
方法を主に3つに分ける。最も強い「高レベル放射性廃棄物」は使用済み核
燃料などが対象で、解体で発生する廃棄物には含まれない。
熱交換器などの廃材は、それより低い「低レベル放射性廃棄物」に分類さ
れる。東海原発の解体で出る低レベル廃棄物の量は2万3500トンになる。
低レベル廃棄物は放射能レベルの強さに応じて分類し、それぞれ深さを変え
て地下に埋める。埋める場所は未定だ。
その他の廃材は人体に影響がない放射能レベルの低い部品。これに当ては
まる廃棄物は16万8900トンと、全体の88%を占める。燃料取替機器
など一部の廃棄物は集めて溶解するなどして再利用する。これまでにベンチ
やテーブルの脚となる金属部分、舗装用ブロックなどにリサイクルし、東海
村にある日本原電の施設内などに設置した。再利用できる基準は「放射線の
量が年間0.01ミリシーベルト」(日本原電東海事務所の上山馨課長)で、
自然から人間が受けている放射線量の240分の1。人体に影響はない。
廃炉にかかる費用は原発の大きさや形態によって様々だ。東海原発の廃炉
費用は885億円。このうち解体費が347億円、残りの538億円が廃棄
物の処理処分費だ。中部電力は浜岡原発1、2号機の廃炉費用にひとまず9
00億円を引き当てたが、総額はまだ決まっていない。東海原発で実施した
解体ノウハウは浜岡原発など今後の廃炉計画で生かされる。
解体作業員は特殊マスクなども着けておらず、今の作業は通常の工事とほ
とんど変わらないようにみえた。ただ、原子炉本体の解体に使う遠隔操作の
ロボットアームなどはまだ開発中だ。解体を待つ老朽原発が増えるなか、安
全な廃炉に向けて技術の蓄積が欠かせない。 (川合智之)
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