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前原誠司の『直球勝負!』

前原誠司の「直球勝負」(61)

前原誠司の「直球勝負」(61)

 

       蒲島・熊本県知事の英断、「川辺川ダム建設反対」

〜公共事業見直しの転換点にすべき〜

 

 蒲島郁夫・熊本県知事は9月11日の熊本県議会において、川辺川ダムの建設反対を表明された。蒲島知事の勇気、英断に心から敬意を表したい。蒲島知事は今年3月の知事選挙で、無所属ではあったが主に自民党から支持を受けて初当選されたが、今回の知事の決断に、担いだ側の自民党は激しく反発している。

 7月のある日、上京された蒲島知事と、熊本1区選出の松野頼久・衆議院議員の計らいによって3人で昼食を共にする機会を得た。先生はその際、「9月議会で自分の考え方を明らかにしたい。今は反対とも賛成とも言えないが、どちらを決断するにせよ反発は大きいだろう。じっくりと調査した上で、信念を持って決断したい」と仰っていた。議会で反対を表明されたその日、松野議員から蒲島知事の携帯番号を聞き、敬意を表する電話をかけた。「これからが大変だ」と知事は言われていた。私からは「私に出来る可能な限りのご協力をさせていただきます」と述べ、電話を切った。

 私は松下政経塾に在学中、蒲島知事から政治学の講義を何度か受けた。その時のテーマは「中曽根政権下における売上税廃案過程の研究」であったと記憶している。当時、筑波大学の教授であった蒲島先生は、筑波から何度も政経塾に足を運んでいただき、熱心に教えて下さった。非常に気さくで、心優しい先生だ。熊本のご出身で、農業にも従事されたことのある、変わった経歴の持ち主である。蒲島先生が選挙に出られると聞き、政経塾の同期である玄葉光一郎・衆議院議員と、是非とも応援に行きたいと話していたが、地元の民主党が自主投票を決め、残念ながら応援に行くことができなかった。

 民主党が初めて「次の内閣」を作ったとき、私は社会資本整備担当の「大臣」に選ばれた。今から約9年前だ。その時に公共事業の見直しを進め、「公共事業基本法案」や「緑のダム法案」、「公共事業削減法案」などをまとめて衆議院に何度か提出した。また、不要な公共事業を止めるため、問題となっていた公共事業の現場を視察し、様々な方々との意見交換を行い、徹底した現地現場主義を貫いた。川辺川ダム予定地にも2度、足を運んだが、その他に中海干拓事業、諫早干拓事業、長良川河口堰、紀伊丹生川ダム予定地、吉野川第十堰、黒部川の連携排砂などの視察も行い、それぞれの公共事業に対する民主党の考え方をまとめた。民主党の、公共事業に対する考え方の基礎を作ることができたと自負している。

当時は道路や河川、空港整備など15本の公共事業中期計画(5〜7年)が存在し、どのような社会情勢、財政状況であろうと決められた額の公共事業は行われる。何が何でも使い切るといった硬直的な予算執行が行われていた。必要な公共事業は行うべきだが、時間の経過とともに、目的が変わり、あるいは薄れてしまう公共事業も少なくない。

例えばダムや河口堰がそうだ。多目的ダムにおいて、治水対策は目的の一つだが、利水や発電も主要な目的だ。大型のダムや河口堰が計画されていた1970年代から80年代にかけては、経済が右肩上がりで成長し、人口も増えていた。将来、工業用水と生活用水の需要が増え、不足するだろうとの予測の下で、次々と計画が立てられていったのである。しかし今や、人口は減少に転じ、経済成長は鈍化している。水利用に関してはリサイクルや節約の仕組みも発展し、また、発電は原子力の比率が高くなったこともあり、水力発電に対するニーズは相対的に減りつつある。

干拓事業も同じだ。巨額の費用を投じて、海や湖を埋め立ててまで農地を作る必要は今やなくなった。それでなくても休耕田や耕作放棄地が広がり、減反政策も採られている。しかし、大型公共事業は一度走り始めたら、なかなか止まらない。時代の変化に対しても、政府は色々と屁理屈をこねて正当化しようとする。諫早の干拓事業も、「潮受け堤防が高潮を防ぐ役割をする」という防災面が強調されるように変わっていった。そうであれば農水省が所管して行うのはおかしな話だ。

川辺川ダムも当初、農業利水、水力発電、洪水対策の3つが目的であった。農業利水については地元農民の同意を得られず、亡くなった方や実在しない方の名前までそろえて何とかクリアしようとしたが、受益者になるはずの農民から裁判を起こされ、国が敗訴して農業利水から撤退することになった。水力発電も、電源開発(今のJパワー)が撤退することを既に表明している。しかし、国土交通省は洪水対策のために、どうしても必要だとの一点張りで、1976年に計画された事業は、未だに本体工事未着工のままで今日に至っている。しかも、総工費見積もりは350億円だったが、32年経って、未だに本体工事に着手できていないにもかかわらず、もうすでに2000億円以上のお金が使われている。

このように、昔、作られた大型公共事業の計画は、一旦、白紙に戻して、本当に必要かどうか見直す必要がある。止まらない公共事業を、とにかく一度、止めることが重要だ。加えて、平成9年の河川法改正によって、治水対策を行う場合、流域住民の意見を聞き、環境面にも配慮しなければならないと改正された。今、淀川水系流域委員会も、重大な局面に立たされている。改正河川法の趣旨に則って作られた委員会の答申を無視して、国土交通省は大戸川(だいどがわ)ダムの建設などを強行突破しようとしているのである。しかも、淀川水系流域委員会の現委員長である宮本博司さんは、元国土交通省河川局のキャリアであり、治水には極めて明るい人であるにもかかわらず、国土交通省は無視しようとしている。もはや「暴走列車」と呼ばざるを得ない状況だ。

その意味でも、今回の蒲島知事の英断は極めて重要である。この英断を契機として、河川行政、ひいては大型公共事業のあり方を見直す大きな転換点にしなくてはならない。これは、政治に課された大きな命題である。