黄金の国ジパング再来、金輸出100トン突破へ-個人の換金売り殺到で
12月8日(ブルームバーグ):日本の金の年間輸出量が100トンの大台を初めて突破する勢いだ。アジアを中心にした金の需要を背景に価格が歴史的な高値を更新するなか、個人からの換金売りが大幅に増えているためだ。かつてマルコ・ポーロが著書『東方見聞録』で「黄金の国ジパング」と紹介した日本が再び金の国としての存在感を高めている。
財務省の貿易統計によると、1-10月の日本の金輸出量は95.6トンと、世界有数の産金国の生産量に肩を並べるくらいに増えている。昨年の年間実績91.7トンを抜いたほか、過去最高だった08年の95.5トンをも上回った。輸出量から輸入量を差し引いたネットベースの輸出量も85.4トンと過去最大となる。
日本から金が向かう先は、香港やタイ、シンガポールなど経済発展が著しいアジア諸国が目立つ。産金会社が出資する業界団体ワールド・ゴールド・カウンシルの森田隆大・日本代表は、日本の金の輸出量が統計のある1985年以来で過去最大とした上で、「この勢いで行くと、今年は100トンを超えるだろう」と言う。
金地金の取引で国内最大手の田中貴金属によると、同社の1-9月の金地金の買い取り量は56トンと前年同期に比べて4割増えた。宝飾品など買い取りされたリサイクル品は、地金に戻すために海外の製錬業者向けにも輸出されている。
海外で製錬
金のリサイクル品を買い取り海外の製錬所に輸出している住友商事の岩永弘一コモディティビジネス部長は、「ピーク時には、1日で数十億円ぐらい買い取る」と話す。「世界的に貴金属の製錬所はスイスや米国、南アフリカ、豪州などにありコスト競争力もありキャパシティが大きい」ため、金価格の高騰の中では、輸送費をかけても海外で製錬した方が採算性は良いという。
金地金の生産を手掛ける三菱マテリアル・貴金属事業部地金ビジネス部トレーディンググループの堀田光太郎氏は、金輸出増加の背景について「80年-90年代に金地金や金宝飾品を購入した個人からの売り戻しが増えてきたため」と説明する。一方、同社が取り扱う金の輸出量は、「東南アジア、中国向けを中心に増加している」という。
住友金属鉱山によると、商業規模で操業が行われている国内の金鉱山は、同社の菱刈鉱山(鹿児島県伊佐市)のみ。年間生産量は7.5トンだが、輸出実績はない。スタンダード・バンクの池水雄一東京支店代表は「産金国でもないのに輸出している国は日本だけ」と語る。
ニューヨークの金相場は9月6日に1オンス=1920ドル台の過去最高値を更新。現在も年間ベースでは過去最高水準の1700ドル台で推移している。海外の金需要が旺盛な理由について、30年に渡り金の動向分析に携わっている豊島逸夫事務所の豊島逸夫代表は「それを説明するのは実質金利しかない」と話す。
例えば世界最大の金生産国であり輸入大国でもある中国の場合、消費者物価指数(CPI)の水準は高く、インフレ分を差し引いた実質金利はマイナス状態。銀行に預金しておくだけでは実質的に資産は目減りしてしまうため、資金はより高い投資リターンを求めて金に向かうという。
金需要、実質金利、信用不安
豊島氏は「日本のように実質金利がゼロかプラスであればマネーがモノに強く流れるということにはならない。逆に言えば金が買われている国の場合は実質金利がマイナスである面が共通している」と言う。
市場関係者からは、欧州での債務危機も金需要を支えているとの指摘もある。マーケット・ストラテジィ・インスティチュート(MSI)の亀井幸一郎代表は、「外貨準備として持っていたユーロ圏の国債に信用不安が出たことで現物の金ETF(上場投資信託)に対する新興国の中央銀行の購入が続いている」と言う。
財務省の貿易統計によると、1-10月までの金の輸出量は前年同期比でタイ向けが3倍、シンガポールが2倍、香港が5割増とアジア地域を中心に伸びた。
コモディティー・インテリジェンスの近藤雅世社長は、「金需要と供給から言うと日本だけが売って供給している観がある。金生産国の中国は1トンも輸出していない」と指摘する。
パソコンや携帯電話などに欠かせない産業素材でもある金については、「日本は生産量が少なく基本的には輸入国の立場。いずれ必要であればいま手放して中国などに持って行かれるよりも国が備蓄するくらいの頭を働かせてもいいのでは」と、豊島氏は警鐘を鳴らしている。
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更新日時: 2011/12/08 12:17 JST