「広島で五輪開催」という壮大な構想は、あっけなく終止符が打たれた。5月22日に広島市であったヒロシマ五輪招致検討委員会は、4月に初当選した松井一実市長が招致活動の中止を表明し、開始から10分足らずで承認された。秋葉忠利・前市長の唐突な構想発表から1年7カ月。市民に支持が広がらないまま招致活動は迷走。松井市長は公約で、招致撤回を掲げていた。
1月4日、秋葉前市長の4選不出馬表明が事実上の幕引きだった。招致実現への展望が厳しい状況で、先導すべきトップが「次期市長に判断を委ねる」と言って身を引くのだから、「投げ出した」と感じたのは私だけではないだろう。前年9月発表の基本計画案は、地元負担を52億円に抑え、開催経費の2割に当たる1000億円近くを寄付で賄うとした。しかし、巨額の財政負担を懸念する市民に安心感を与えるどころか、「机上の空論」のイメージを強くした。
核兵器廃絶運動と絡めた「被爆地五輪」の意義、仮設競技場を主体とした低コスト化などは、独自色と言えないことはないが、取材したスポーツライターの谷口源太郎さんは「独りよがりのままで終わった」と酷評した。招致断念とともに市の担当課は解消。五輪の玄関口のはずだった広島西飛行場は廃港が決まり、自転車競技場の予定だった広島競輪場での市営競輪存続が問われる今、その感を強くする。
就任から8カ月が過ぎた松井市長の政策遂行に、派手な印象はない。トップとして時に強力なリーダーシップは不可欠だが、民意を置き去りにしてはヒロシマ五輪の二の舞になる。理念の高尚さと裏腹の後味の悪い教訓を生かしてほしい。【寺岡俊】
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広島であった主な出来事から、この1年を振り返ります。
毎日新聞 2011年12月16日 地方版
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