名作プレイバック「サザエのメイドさん」
テーマ:サザエさん・名作プレイバック●磯野家・縁側
サザエが笑顔で編み物をしている。その足元ではタマが気持ち良さそうに寝ている。
居間からは、テレビの音声が流れてきている。
テレビの音声「次のヒロインは、柔剣道、合気道、空手弓道、合わせて38段・・・」
サザエ「まあ、すごい!」
サザエ、慌てて居間に飛び込む。その際にサザエの膝元から落ちた毛糸玉がタマの頭を直撃する。
タマ「(ムカー!!)」
毛糸玉と対決するタマ。気付くと、毛糸でがんじがらめになっている。
●磯野家・居間
テレビが、アナウンサーに紹介されている一人の女性の姿を映している。
サザエ、それを食い入るように見ている。
アナウンサー「そして、こちらの方は、何と取った免許が25枚、レーサーのA級ライセンスから、調理師、美容師、英語、フランス語、そして、イタリー語通訳の一級合格・・・以上、これが女性上位時代の新しいヒロインです」
女性のプロフィールに沿った映像が次々と流れている。
サザエ「(感心)へー。こうしちゃいれらないわ!」
部屋を飛び出していくサザエ。投げ出した編みかけのセーターが毛糸で縛られているタマにばさりとかぶさる。
「サザエのメイドさん」(昭和40年代前半)
脚本:辻真先 演出:岡田宇啓
●磯野家・玄関
サザエ、ミニスカートが目立つカジュアルな格好である。
出かけようとしているサザエを、フネとカツオが見送っている。
サザエ「じゃ、行ってきますー!」
カツオ「行ってらっしゃーい」
フネ「今日から英会話やるのかい?」
サザエ「(気取って)イエース、マイマザー」
カツオ「三日坊主にならないようにね」
サザエ「オブコース~」
●豪邸前
いかにも金持ちそうな豪邸の前を、サザエがステップを踏みながら通りかかる。
すると、中からピアノの音色が流れてくる。
サザエ「は?(耳を傾ける)ふーん。。。ロマンチックねえ。んー、英会話なんて止して、アタシ、ピアノ習おうかしら」
すると、今度はその向かいの民家からいい香りが漂ってくる。
サザエ「うーん。まあ、いい匂い。おんなじ習うなら、お料理の方がいいわね」
サザエ、匂いに惹かれるようにその敷地内に無断侵入していく。
●向かいの家・敷地内
台所では、奥さんが鍋を片手に料理中。
サザエ、その様子を窓の外から見ながら、メモを取っている。
サザエ「ふーん、お砂糖ひとさじに、コショウを少々。えー、塩を一つまみにそれから~」
奥さん、調味料を取りに奥へと引っ込んでしまう。
サザエ「ん?あ、あのー奥さん!よく見えないんですけどー!」
奥さん「??あ、ごめんなさい。・・・(冷静になって)な、何ですの、あなたは!?」
サザエ「は!?すみません!!」
サザエ、駆け足で走り去る。
●路地
サザエ、逃げた勢いで電信柱に頭をぶつける。
その電信柱には「求むパートタイムメイドさん」との貼り紙がある。
サザエ「あ痛ー!(貼り紙を見て)あ、これもいいわねえ!」
●湯水金造宅・門前
立派な門作り。和風の超豪邸。表札には「湯水金造」とある。
そこにサザエがやって来る。
サザエ「うん、この家だわ!へー、すごい大金持ち!何だかドキドキしてきちゃった」
●湯水金造宅・敷地内
玄関に向かっているサザエ。門から玄関までかなりの距離。
サザエ、玄関前で歩みを止めると、深呼吸を始める。
サザエ「ふーん、落ち着いて落ち着いて。向こうも人間、アタシも人間、こんな時は目を閉じて深呼吸をして、、、(リハーサル開始)これは湯水様の奥様でいらっしゃいますか?アタクシ、姓名はフグ田サザエ。不束者でございますが、どうぞよろしく・・・」
いつの間にか、背後に和服姿のお婆さん(湯水夫人)がいるが、サザエは全く気付かずリハを続けている。
湯水夫人「こちらこそ」
サザエ「はあ!?」
●湯水金造宅・踊り場
階段の下。サザエが湯水夫人に向き合ってかしこまっている。
サザエ「(あがりまくり)ワ、ワタクシ!名は生年月日、年はフグ田サザエで、不束者でございますので、本当に・・・」
湯水夫人「(笑顔)あら、それはもうお聞きしましたよ」
●磯野家・居間
その夜。
帰って来たサザエをダシに、会話が弾む。
フネ「英会話がピアノ、ピアノがお料理、お料理がパートタイマーになるなんて」
波平「ちと、気が多すぎやせんかい?」
そこにサザエがぶどうを持ってやって来る。
畳に座る際にタマの足を膝で踏んづけるが、全く気付かない。
悲鳴を上げるタマ、呆れたように部屋を出て行く。
サザエ「あら、そんな事はないわよ。台所を預かるおばさんがお料理を教えてくださるし、応接間にはピアノがあっていつ弾いてもいいと仰るし、その上、アルバイト代はガーッポガッポ」
カツオ「肝心の英会話はどうなるのさ?」
サザエ「うん、もちろん、勉強のチャンスはあります」
サザエ、余裕でぶどうを一飲み。
●湯水金造宅・犬小屋
和風の立派な庭。敷地には小川さえ流れている。
ブチの犬がその小川の水を飲み終えて、犬小屋に寝そべる
エサを手にしたサザエが外から犬を呼ぶ。
サザエ「シロー!シロードッグカモンカモンー!・・・んー、アタシの発音が悪いのかしら?出て来てお食べなさいったら」
しかし、犬はサザエの存在を全く無視。
サザエ「マー、新米だと思ってバカにしている」
そこに、割烹着姿の老メイドがやってくる。
老メイド「ハハハハハ、フグ田さん、無理ですよ、由緒正しい犬だからね、ちゃーんと名前を呼ばないと出て来ないのよ」
老メイド、懐から何かが書かれたカンペを取り出して読み上げる。
老メイド「クラフトフラッシュローヤルウェイグッドダルマシアンモンタナ、カモーン!」
すると、クラフト(略)が元気よく吼える。
サザエ「は!?クラフトフラッシュローヤルブリッジ・・・え?ちょっと、見せてくださいませ」
サザエ、老メイドから奪うようにカンペを取り上げる。
すると、そこに車のクラクションが鳴り響く。
老メイド「あー、旦那様のお帰りだ」
サザエ「それは大変!」
サザエ、カンペを放り出して駆け去っていく。
老メイド、宙に待ったカンペを慌てて回収する。
老メイド「あたたたた。忙しない人だこと」
●湯水金造宅・玄関
デカ鼻の見るからに紳士が、澄まして入ってくる。
サザエ、慌ててお出迎え。紳士からカバンを奪い取る。
サザエ「お帰りあそばせ。お持ちいたします」
紳士、驚いたようにサザエからカバンを取り返す。
紳士「あ、ワタシャ、運転手でして」
サザエ「あ、そう?」
奥から出てきた湯水夫人が、運転手からカバンを受け取る。
湯水夫人「ご苦労様」
すると、その後から、分厚い唇の小太り猫ひげ男がズカズカと入ってくる。
これが、湯水家主人、湯水金造である。
湯水夫人「お帰りなさいまし」
サザエ「(驚いて)まあ!でも、男は顔じゃない事がよくわかりました!」
湯水金造「???」
●湯水金造宅・洗面所
こっそり入ってきた湯水金造、じっと鏡を見る。
湯水金造「気になる事言うなあ・・・」
●湯水金造宅・台所
サザエが猫を抱いた湯水夫人と向き合いながら、食材の整理中。
サザエの手にはビニール袋に入ったパンが数枚ある。
サザエ「あの、パンがこんなに残ってますけど?」
湯水夫人「捨てちゃってよ」
サザエ「え?これ、みんなですか?」
湯水夫人「だって、美味しくないでしょ?」
夫人、退出。
サザエ、庭で仕事をしているご老人を見かける。
サザエ「ま、いくらなんでも、もったいない・・・おじいさーん、ご苦労さん、ちょっと待ってて」
●湯水金造宅・庭の物置前
老人が物置小屋を整理している。
そこにサザエがサンドイッチを作ってやって来る。
サザエ「おなか空いてるんじゃない?お食べなさいよ」
老人「いやいや」
サザエ「んー、遠慮する事ないわよ。この家、お金が有り余ってるんだから、バターもジャムもたっぷりつけてあるわよ、どうぞ」
老人「はあ??どうもどうも」
●湯水金造宅・台所
サザエ、老メイドと共に、皿洗いをしている。
老メイド、窓の外を見る。
老メイド「あら、大旦那様」
サザエ「大旦那様?」
老メイド「健康のためってね、庭仕事してらっしゃるのよ。落ち葉を掃いたり、ガラクタを片付けたり」
サザエ「いー??」
見上げるサザエ。
外では、大旦那(先ほどの老人)が座ってサンドイッチを食べている。
老メイド「珍しいねえ、パンはお嫌いのはずなのに」
サザエ「・・・またやった!!」
大旦那、パンを見つめながらポツリ。
大旦那「金が余ってるか・・・気になる事を言うわい」
●湯水金造宅・玄関
グレーの背広に蝶ネクタイの客人(金蔵~カネグラ~さん)が訪れる。
出迎えるサザエ。
湯水夫人「サザエさん、お客様をお通ししてちょうだい」
サザエ「ハーイ、いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
金蔵「うむ」
●湯水金造宅・客間
ふんぞり返って、葉巻を燻らせている客人(金蔵)。
そこにサザエがお茶を煎れてやって来る。
サザエ「粗茶でございます」
すると、金蔵、葉巻の灰を床に落とす。
サザエ、慌てて灰皿を差し出す。
サザエ「あ、あの、灰皿でございます」
しかし、金蔵、それを無視して灰を床に落とし続ける。
次第にムキになってくるサザエ。
サザエ「(金蔵に背を向けて)くー!見てらっしゃい!」
サザエ、そっと、金蔵の帽子を逆さにして床に置く。
金蔵、それに気付かずに葉巻の灰を帽子の中に落とし続ける。
●湯水金造宅・廊下
客間から出てくるサザエ。
サザエ「(怒)ふん!あんなのに限って見掛け倒しよ!どうせ、借金にでも来たんだわ!」
そこにのほほんと湯水金造がやって来る。
サザエ「あら、旦那様」
湯水金造「金蔵さんがいらしたって?」
サザエ「はい、葉巻を蒸かしていらっしゃいます!」
湯水金造、部屋の中に入っていく。
サザエ、さりげなく外から会話を聞いている。
湯水金造の声「いやー、スマンな、金蔵君。例の金、もうしばらく待ってくれんか」
サザエ「(独り言)あら!こっちが借りてるのー??」
●湯水金造宅・客間
金蔵、不機嫌そうに相変わらず葉巻を蒸かしている。
湯水金造がペコペコしている。
湯水金造「いやー、実は女房にせがまれてな、ダイヤの指輪を買う羽目になったんだ。いずれ、近い内に何とかするよ」
金蔵、不満そうに床(実は帽子の上)に葉巻の灰を落とし続けている。
湯水金造、それに気付く。
湯水金造「お!?おい、キミの帽子じゃないか、そりゃ」
金蔵「(気付く)ん?あ、あひゃひゃ~!母ちゃんに叱られるー!」
●湯水金造宅・応接間
サザエが独り入ってくる。中には誰もいない。
そして、ピアノのふたを開ける。
サザエ「お金持ちも、あれでなかなか気苦労が耐えないのね。では、しばらく、ピアノの練習の時間」
サザエ、独特のリズムで「故郷」を弾き始める。
サザエ「♪うさぎおい~し~かの山~小鮒釣り~し~かの川~夢は今も巡り~て~忘れが~たき~ふる~さと~」
サザエ、寂しげな表情になる。
サザエ「ハァ・・・タラちゃんやマスオさん、どうしてるかしら・・・」
サザエ、項垂れる。
●湯水金造宅・台所
湯水夫人、サザエが残していったエプロンを手にしている。
湯水夫人「あら、フグ田さんは?」
老メイド「なんですか、急にお家が恋しくなったって帰っちゃいましたよ」
湯水夫人「・・・そう????」
●磯野家・門前
外は夕暮れ。中からは磯野家一同の楽しい笑い声が響いてくる。
そこにサザエが帰って来る。
サザエ「は!?」
●磯野家・庭
波平とマスオがタラちゃんを抱え上げてはしゃいでいる。
波平「ハハハハ、サザエがいたら怒るだろうなー!タラちゃん、今の内だぞー。ほーれ!」
タラヲ「(喜ぶ)うわーい!」
波平、タラちゃんを振り回して、傍らのマスオにラグビーボールのようにパス。
その横では割烹着姿のカツオが洗濯物を取り込んでいる。
カツオ「いいアルバイト。お姉さんが留守のおかげで稼げるよね」
フネ「よく似合うよ、カツオ」
一同「(大笑い)」
●磯野家・玄関
タマがポツンと寝ているだけ。サザエの帰宅に誰も気付かない。
サザエ「ただいま!ただいまってば!・・・あら、タマだけは私を迎えてくれたのね」
タマ、あくびをすると、サザエを無視してどこかへ行ってしまう。
サザエ「まあ!どうなってるの我が家は!?」
庭から楽しい笑い声が響いてくる中、独り、ぽつねんと夕焼けの陰りに身を沈めたサザエのシルエットで幕。
おわり
次回は「パートタイムは楽じゃない」をお送りします。
1 ■感想
こんにちは、dhhです
自分は「サザエのメイドさん」というタイトルを聞いた時、サザエがメイド服着て秋葉原のメイド喫茶でバイトするっていう悪夢のような話(マテ)を想像してしまったんですが、そうですよね・・・放送されたのは、昭和なんですよね・・・まあ、サザエがメイド服着て「お帰りなさいませご主人様」と言う姿もちょっと想像出来ませんが(爆)