【ワシントン白戸圭一】米議会は15日、核開発を進めるイランへの新たな制裁措置を決定、原油決済などでイラン中央銀行と相当額の取引をすると米大統領が認めた海外の金融機関による米金融機関とのドル取引を禁ずることを可能にした。米市場から締め出す厳しい内容で、日本や韓国などは事実上、イランからの原油輸入の停止圧力をかけられる。一方で、新制裁は原油高騰を招き、回復力が弱い米経済や、東日本大震災から復興途上の日本など同盟国経済に悪影響を与えるリスクもはらむ。
新制裁は国防権限法案に盛り込まれ、15日までに米議会上下両院で圧倒的多数で可決された。大統領の署名で成立する。米銀行とのドル取引を禁じられれば、経営への打撃は大きく、海外の金融機関は米国での事業縮小か、イラン中銀との取引停止かの選択を迫られる。イラン中銀は原油代金の決済を集中的に担っており、海外金融機関との取引停止・原油輸出減少でイランの資金源を絞り上げるのが米議会の狙いだ。
ただ、新制裁は原油価格の高騰を招くリスクを併せ持つ。国際エネルギー機関(IEA)は13日に出した報告書で新制裁の影響でイランの原油生産能力が今後5年間で4分の1近く落ち込む可能性があると指摘。「原油価格が著しく上昇する可能性がある」と警告した。
来年11月の大統領選で再選を目指すオバマ大統領にとって、国内経済再建は最大の課題。カーニー米大統領報道官は13日の記者会見で「常に原油価格を注視している」と述べ、景気の足を引っ張る原油高騰は望まない政権の本音もにじませた。
新制裁法案には、大統領が国家安全保障上の観点から制裁の例外を認めたり、イランからの原油輸入決済を「顕著に減らした」金融機関は対象から外せる特例が設けられている。議会で高まる対イラン強硬姿勢と、米国や日本など同盟国経済への悪影響回避のはざまで、大統領が新制裁をどう運用するか、注目される。
イランから原油を輸入する日本は、オバマ政権に対し、新制裁の例外適用を強く働きかける考えだ。米側も「(震災後の復興過程にある)日本経済安定の重要性は十分に認識している」(ナイズ米国務副長官)と、日本の立場に理解を示す。ただ、制裁の例外の具体的な基準は決まっておらず、日本政府や産業界には不安感が漂う。
「我が国、世界経済に与える影響への懸念を外務省から米側に伝えている」--。玄葉光一郎外相は16日の閣議後の記者会見でこう説明。「制裁法には例外規定も入っている」と述べ、原油輸入停止回避へ米政府への働きかけを強める考えを強調した。イランは日本の原油輸入先の第4位で、輸入全体の約1割を占める。制裁法の影響で日本のメガバンクなどがイラン中銀との取引を停止し、原油輸入が事実上ストップしても、輸入先トップのサウジアラビアなどから代替調達が可能とみられる。経済産業省幹部は「急激な供給不足が起こるとは考えにくい」と話す。
ただ、イランからは韓国や中国、イタリアなども原油を輸入しており、これらの国が米国の新制裁法を恐れて、一斉に他の中東産油国からの代替輸入に走れば、原油価格が跳ね上がるリスクがある。
足元では福島第1原発事故を受け、国内の電力会社が、電源を原発から火力発電に切り替えている。火力発電のエネルギー源の主力は液化天然ガス(LNG)に移っているとはいえ、米新制裁の影響による原油価格上昇がLNGに波及すれば、日本経済への打撃は大きい。
全国銀行協会の永易克典会長は16日の記者会見で「(イランからの輸入が)完全に止まると、日本経済に悪影響が及ぶ」と、政府に輸入停止回避への外交努力を求めた。【和田憲二、坂口裕彦、草野和彦】
毎日新聞 2011年12月17日 東京朝刊
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