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'11/12/17

前のめりの政治判断 「緊急事態」続く

 野田佳彦首相が16日発表した東京電力福島第1原発の「事故収束」。法的には「原子力緊急事態宣言」が解除されないまま続いており、前のめりの「政治宣言」の印象は否めない。炉心の状態が把握できず、処理した汚染水の処分方法も決まらず、住民帰還のめども立たない原発事故。約3千人が24時間態勢で働く事故現場では、今後も長年にわたって危険と隣り合わせの作業が続く。

 ▽抵抗感

 「原子力安全委員会として使ったことはない言葉。『冷温停止状態』について、何かものを申す気はない」。政府内で、工程表の冷温停止路線から距離を置く原子力安全委の班目春樹まだらめ・はるき委員長は、メルトダウン(炉心溶融)した1〜3号機に正常な原子炉の用語を使うことに強い抵抗感を示す。

 炉内の温度や溶けた燃料の場所、形状が事故で分からなくなった。工程表では冷温停止状態を圧力容器の底部の温度などを目安に定義したが、「意味がない」と認めない専門家は多い。

 ▽風景が一変

 3月11日、当時の菅直人首相が原子力災害対策特別措置法によって出した原子力緊急事態宣言。同法は「必要がなくなったと認めるときは、速やかに、原子力安全委員会の意見を聴いて、原子力緊急事態の解除を行う」と定めているが、この手続きは取られていない。

 野田首相は16日の記者会見で「『収束』という言葉に違和感がないか」と問われ「オンサイト(現場)では冷温停止状態が確認できた」として、除染など原発敷地外の対策に焦点が移ったという認識を示した。

 だが、東電がまとめた中期の安全対策を見ると、今も現場の危機シナリオは多い。核分裂が連鎖的に起きる再臨界、再度の水素爆発、使用済み核燃料プール内の腐食、汚染水や汚泥の漏出、地震や津波の来襲―などだ。

 大きな問題になっているのは浄化した汚染水をどうするかだ。汚染水処理に伴い、原発敷地内では新たに建設されたタンクが増え続けている。東電はタンク設置場所を確保するため、敷地内の森林を伐採した。伐採された木は計5万8千立方メートルに及び、敷地の風景は一変した。

 建屋地下にたまる汚染水には、津波による海水が混ざる。処理の過程で出る濃い塩水をためるタンクや、原子炉への注水に使う淡水を保管するタンクが必要だ。建屋地下には1日200〜500トンの地下水が流入し、扱う水は増える一方だ。

 容量計14万トンのタンクは来年3月末までに満杯になる計算で、東電は「タンクをつくり続けるのは無理」と頭を抱えている。東電は、浄化した水の海洋放出を計画したが、全国漁業協同組合連合会の抗議で中止した。

 ▽離れ業

 野田首相は「廃炉へ至る最後の最後まで全力を挙げる」と強調した。最長40年とされる廃炉への道は極めて多難だ。

 現在の案では10年以内に燃料の取り出しを開始、回収終了は20〜25年後、建屋の解体撤去は30〜40年後。原子炉を冷やし続け、漏水が止まらない中、損傷部位を補修する離れ業が必要になる。

 元日本原子力研究所研究員で核・エネルギー問題情報センターの舘野淳たての・じゅん事務局長は「米スリーマイルアイランド原発事故では10年超かけて溶けた燃料を回収し、汚染水処理を終えた後、国内外の専門家が『収束した』との認識を持った。福島第1原発の状態はとても収束とは言えず、違和感を覚える。こういう政治的宣言は問題だ」と話した。




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