アメリカンファミリー生命保険(アフラック)の保険を売るのに、大学の学位は必要ない。だが、米国では、厳しい雇用情勢の中、大卒者が収入を求めて同社に集まってきている。
ルイジアナ州立大学を2009年に卒業したジョン・ドッジさんはマーケティングの仕事を探していたが、仕事探しに行き詰まり、アフラックに向かった。仕事が少ないので「何かありますか?」と聞いて回るような状況だったと、ドッジさんは言う。
企業は従業員の学歴を記録していないと言うが、全国の失業率が9%であることから、過去数年間で仕事への応募は増えていると考えられる。
歩合制で従業員を雇っている企業によると、応募者が増えているため、大卒者をより多く採用できているという。そして、そうして採用された従業員は、特に熱心に仕事に取り組むという。
アフラックの最高執行責任者(COO)であるポール・エイモス氏によると、2008年以来、大卒者からの問い合わせが増えており、過去4年間で21歳から25歳までの1万1000人を販売員として雇ったという。
ニューヨーク生命保険では2009年以来、大卒者やMBA取得者が多数応募してきているという。
営業を主体とした企業では、他社が採用を控えるなか、逆に採用を増やしている。歩合制の仕事は、通常の給与制の仕事と比べて投資が少なくて済むというのが理由の1つだ。
多くの場合、歩合制の従業員は基本給がないか、金額が少ない。健康保険が付与されない場合もある。
ドッジさんはルイジアナ州バトンルージュで、企業に電話営業をして、損害保険、生命保険、歯科保険を売り始めた。最初は、訪問の約束を取り付けた15件すべてで契約を断られた。基本給も、健康保険も、他の福利厚生もなかった。初年度の歩合給は4万ドルだった。
やがてドッジさんは顧客と打ち解ける確実な方法を見つけた。スポーツだ。「目に見えないものを売っているから、顧客とのつながりを作らなければならない。ルイジアナ州立大学も、アメリカンフットボール・チームのセインツも、ここでは大きな存在だ」
1年経たないうちに、ドッジさんは地域の販売コーディネーターに昇進。今年は歩合給で10万ドルとボーナスをもらえるだろうと、ドッジさんは言う。
刃物類を販売するカットコは、夏休みの間にナイフを売ってお金を稼ごうとする大学生の頼みの綱だ。カットコの子会社、ベクター・マーケティングのディレクター、サラ・ベイカー・アンドラス氏によると、最近では卒業生からも問い合わせを受けるという。
23歳のアンドリュー・ウォンさんは、ペンシルベニア大学の卒業生で数学の学位を持っている。ウォンさんは夏休みの仕事としてカットコのナイフを売り始め、同社のマネジメント・トレーニングを受けたのち、いまでも同社で仕事をしている。
ウォンさんの母によると、「夫は、ナイフを売るためにアイビリーグの大学に行かせたのではないと息子に言った」という。
ウォンさんは現在マネジャーだが、いまでもナイフとアクセサリーを売っている。ウォンさんは、5件アポイントを取ったら、そのうち4件で取引を決められるという。
それでも、ウォンさんは9月に両親の家に戻ってきた。1000ドルの家賃が払えなくなったためだ。子供の頃の部屋に戻り、スポーツ選手や映画「パルプ・フィクション」のポスターが貼られた部屋で暮らしている。
ベクターのアンドラス氏によると、大卒者はそうでない人たちに比べてずっと熱心だという。「数週間働いた人たちが、マネジャーになるにはどうすればいいかと聞いてくる」
バージニア州のジェームス・マディソン大学を2009年に卒業したブラッド・サウダー氏の歩みはまた異なる。ノースウェスタン・ミューチュアル生命保険の仕事に就いたものの、売り上げの変動をストレスに感じた。
「毎日、断られた」というサウダーさんは8月に退職し、ロースクール(法科大学院)の入学試験に向けて勉強を始めた。同時に衣料品販売店で販売の仕事も始めた。給与は最低時給よりわずかに上で、歩合制だ。