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特集:「チェルノブイリと小児がん 命と絆を守る」シンポ 概要報告 子供の健康を注視して

 旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(1986年)による小児がん患者の治療に携わる医師らを招き、放射線被ばくによる子供への健康影響を考えるシンポジウム「チェルノブイリと小児がん 命と絆を守る」が11月18日、千葉市中央区内のホテルで開かれた。被ばくした子供たち6000人以上を治療した「ロシア連邦立小児血液・腫瘍・免疫研究センター」で、センター長を務めるアレクサンドル・ルミャンツェフ教授は「経験やデータを東京電力福島第1原発事故の対応に役立てて」と講演した。その概要を報告する。【久野華代、写真・橋本政明】

 ◇事故から25年、内部被ばく今も 我々の経験を今後に役立てて--ロシアから来日 ルミャンツェフ教授、講演

 チェルノブイリ原発事故では、爆発で大量の放射性物質が舞い上がり、あちこちに雨と一緒に落ちた。ある特定の地域だけが汚染されたということはなく、「ホットスポット」と呼ばれる局所的に放射線量の高い地域も現れた。原子炉が7カ月後に「石棺」で覆われるまで放射性物質が出続け、土壌や植物、森を汚染し続けた。

 被ばくと因果関係のある病気として、小児甲状腺がんの増加が認められた。事故で大きな影響を受けたベラルーシ(旧ソ連)では、1990年ごろから小児甲状腺がんの発症率が増加し、96年ごろピークとなり、その後は低下傾向にある。

 ベラルーシとウクライナ(旧ソ連)に国境を接したロシア・ブリャンスク州で、原発事故前の68~86年に甲状腺がんを発症した子供の数は10万人当たり0・4人だったが、事故後は同8・5人に増加した。

 まとめによると、チェルノブイリ原発事故による小児甲状腺がんの特徴は、被ばく後の最短潜伏期間は5年▽男児と女児では発症率に差はほとんどない▽発症年齢は3歳以下と15~18歳にピークがある--などだ。

 一方、2009~10年にベラルーシで行われた調査では、子供たちの内部被ばくがまだ続いていることが分かった。汚染された野菜や肉、魚などを食べたことによるセシウム137(半減期30年)の体内吸収を調査。汚染地域に住む543人の子供を調べたところ、平均で約4500ベクレルの内部被ばくがあり、7000ベクレル以上の被ばくがあった子供は17%に上った。

 また、ヨウ素は甲状腺に集まりやすい性質がある。この地域はもともと自然界のヨウ素は少ないため、甲状腺にはヨウ素がたまっていない状態だった。このため、事故で大量に飛散した放射性ヨウ素131(半減期8日)を体内に取り込みやすい環境にあった。

 ベラルーシで03年に死亡した子供と成人の心臓や脳、肝臓など八つの臓器を調べたところ、全ての臓器でセシウム137が見つかった。甲状腺にはヨウ素だけでなくセシウムも多く集まることも分かった。各臓器で子供の方が圧倒的に高いセシウムの吸収量を示し、甲状腺では大人が1キログラム当たり約400ベクレルだったのに対し子供は3倍の約1200ベクレルに上った。

 このデータから汚染地域の住民たちはいまだに内部被ばくが続いており、甲状腺には放射性ヨウ素だけでなく、(半減期の長い)放射性セシウムもたまることが明らかだ。こうした現象が子供に対してより顕著に表れることも改めて示している。

 事故から25年という長期間を経てもなお内部被ばくが続いているのが実態だ。これらの結果から、子供たちのリハビリの指針として、夏の3カ月間、汚染されていない地域に行かせて、汚染されていない空気や食事に触れさせることを提案した。今リハビリ前後の比較研究を行っている。また、健康診断も非常に重要だ。タイムリーに病気を見つけ出すことができるからだ。

 東京電力福島第1原発事故があった日本でも、我々の研究成果を生かしてほしい。被ばくしたがん患者では、血液中の活性酸素の濃度が高くなっており、濃度を下げるにはビタミン剤の摂取が有効であった。この点も加味して、日本の子供たちも、汚染されていない食品をとるとともに、ビタミン剤を摂取して、年に2回は検診を受けることを薦める。

 ロシアのように3カ月間、クリーンな地域に子供たちを連れていくのも一つの考えだと思う。今後も子供たちの健康状態を継続して診ていくことが重要だ。特に内部被ばくの影響を注意深く見ていかなければならない。

 ◇生存者支援、仕組みの充実を--千葉県がんセンター、センター長・中川原章氏

 ルミャンツェフ教授がセンター長を務める「ロシア連邦立小児血液・腫瘍・免疫研究センター」は、チェルノブイリ原発事故で被ばくした約10万人の子供たちのデータを蓄積し、6000人以上を治療してきたロシアの小児がん研究の拠点だ。今年6月、同センターの新病棟完成記念式典に招待され、ルミャンツェフ教授から「日本のためにロシアのデータを役立ててほしい」との申し出を受け、今回のシンポジウム開催となった。

 チェルノブイリ原発事故では、甲状腺がんを発症するなど被ばくした子供たちが被害を受けた。将来を担う子供たちは、私たち大人が守らなくてはならない。2010年から日本の小児がん患者の長期データベース構築に取り組んでいる。

 小児がんは適切な治療を受ければ、治癒率は80%にのぼる。データベースは、成人後に別の病気になった場合でも、どこに住んでいても、子供のころの診療内容を参照できる仕組みだ。これまで困難だった小児がんの患者数把握にも役立つ。がんを克服した生存者を支える仕組みの充実が今後も望まれている。

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 ■他の講演者とテーマ(敬称略)

▽ロシアにおける小児がんの疫学

 スベトラーナ・バルフォロメバ=ロシア連邦立医科大血液腫瘍科

▽ロシアにおける小児白血病の治療

 アレクサンドル・カラチュンスキ=ロシア連邦立小児血液・腫瘍・免疫研究センター

▽ドイツの小児がん治療戦略

 アンジェリカ・エガート=ドイツ・西ドイツがんセンター

▽子供の発育と放射線

 島田義也=放射線医学総合研究所

▽放射線被ばくと免疫への影響

 中地敬=放射線影響研究所

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 ■人物略歴

 ◇アレクサンドル・ルミャンツェフ

 ロシア連邦立小児血液・腫瘍・免疫研究センター長。ロシア国立ピロゴフ記念医科大小児学部卒。「チェルノブイリの子供たち」研究プログラム・オーガナイザーなどを経て2010年から現職。モスクワ小児科医協会血液学部会長、ロシア小児科連盟理事。

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 ■人物略歴

 ◇なかがわら・あきら

 千葉県がんセンター長。1972年九州大医学部卒。米ロックフェラー大客員助教授、九州大医学部小児外科助教授、米フィラデルフィア小児病院特別研究員、国際神経芽腫学会(ANRA)理事長などを経て、2009年から現職。国際小児がん学会アジア地区会長。

毎日新聞 2011年12月16日 東京朝刊

 

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