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特殊を描き普遍にいたる小説が理想

青春恋愛小説シリーズで人気を博し、ピュア、ナチュラルといった形容詞つきで語られることの多かった村山由佳さんが、大胆な性愛を描いた「ダブル・ファンタジー」を発表したのが2009年のこと。新境地を開いたと大きな評価を得て柴田錬三郎賞をはじめとする3賞を受賞している。そんな村山さんの最新作が「放蕩記」。母親と娘との愛憎を描いた、初めての半自伝的小説である。作風だけでなく、自身の人生、そして生活そのものも一変させている。9歳年下の男性と再婚し、現在、軽井沢に暮らす彼女を訪ねた。
(取材・文/井上理江 写真/小山昭人)

――「放蕩記」を書こうと思ったきっかけを教えてください

「ダブル・ファンタジー」を執筆中、担当の女性編集者に「なぜ、主人公の奈津はこんなにも夫のことを恐れるんだろう。若い世代にしては珍しい」と言われたのが発端です。そこで思い浮かんだのが母でした。もしかしたら、とても厳しい母に育てられたことに私の根っこがあるのではないかと。実際、最初の夫に対して私は自分を主張することができずにいたのですが、その態度はまさに母に対するそれと同じ。母には何一つ口答えできなかったんです。通過儀礼として一度は真正面から母との関係に向き合い、私の根っこにあるものを掘り下げておかないと、これから先、人間としても物書きとしても本当の意味で自立できないのではないかという気がしてきて、この作品を書くことにしました。物書きとしてこの鉱脈を見逃すわけにはいかないという思いもありました。

――常に母親の支配下にあったという感覚があるわけですね

母の呪縛にずいぶん苦しみました。小説にも書きましたが、例えば、母から性教育を受けたのは小学3年の時のこと。散歩に連れて行ったオス犬がよそのメス犬に乗っかってしまったんです。そのことを母に話したら「あんたもああやって生まれてきたんだ」と説明され、本当にショックでした。その半面、私が少しでも「女」の部分をうかがわせると執拗(しつよう)なまでに叱(しか)った。少なくとも性に対する過剰なまでの罪悪感を形成したのは母だと思います。

――小説では親の性にもあえて踏み込んでいます

親の性的な部分を見たくない年頃にいや応なしに見せられたということも、たぶん私の性格形成に大きく影響していると思ったので。ただ、特殊を描いてそこから普遍性を導き出すというのが私の目指す小説のかたち。この小説で描いているのはいささか特殊な親子関係ですが、でも、そこには誰もが抱えているものがちゃんとある。そういう作品にはなっていると思います。例えばどんなに母親との関係が良好な女性でも、主人公の夏帆と似たような気持ちのきしみを感じたことは、一度や二度あるんじゃないかなと思います。

(写真)村山由佳さんプロフィール

1964年東京都生まれ。立教大学文学部卒。会社勤務、塾講師などを経て93年「天使の卵〜エンジェルス・エッグ」で第6回小説すばる新人賞を受賞。2003年「星々の舟」で第129回直木賞受賞。09年自身の殻を破る挑戦作「ダブル・ファンタジー」で第22回柴田錬三郎賞、第16回島清恋愛文学賞、第4回中央公論文芸賞をトリプル受賞。女性作家として新たな地平を開く。人気シリーズ「おいしいコーヒーのいれ方」をはじめ、「翼 cry for the moon」「BAD KIDS」「遥かなる水の音」「アダルト・エデュケーション」など著書多数。

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