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東日本大震災:暮らしどうなる? 粉ミルク、大丈夫? 明治製品からセシウム検出

粉ミルクでつくったミルクを飲む乳児。母親は報道を受け、メーカーのホームページで安全性を確認したという=千葉県船橋市で
粉ミルクでつくったミルクを飲む乳児。母親は報道を受け、メーカーのホームページで安全性を確認したという=千葉県船橋市で

 明治の粉ミルクから最大30・8ベクレルのセシウム(134と137の合計)が検出されたという発表は、乳児をもつ母親を不安に陥れた。他社の製品は大丈夫なのか。粉ミルクを製造する国内全6社に、検査の実態や対策を聞いた。【中村美奈子、木村葉子、下桐実雅子】

 ◇国内6社とも「不検出」 各社異なる「限界値」 ゼロかは不明

 シェア1位の明治は4月から月1度、缶に詰める直前の粉ミルクを検査してきたが異常はなかったという。放射性物質が出たのではという報道機関からの問い合わせで、缶詰め後の製品を検査したところ検出された。このため震災後に製造した商品を順次、調査し始めた。これから市場に出るものは、全製造日で抜き取り検査を行うという。

 問題の商品は3月14~20日に製造された。粉ミルクを乾燥させる工程で、工場外の大気からセシウムが取り込まれたと明治はみている。工場にはちり対策のフィルターがついていたが、放射性物質は取り除けなかったようだ。明治はセシウム検出後、工場内の敷地の大気を毎日計測しており、「変動があれば生産を中止する」としている。

 大気中の放射性物質の数値が高かった3月に生産された粉ミルクについて、各メーカーの検査態勢を尋ねた=表参照。いずれも検出限界値以下で不検出とされているが、限界値は各社で異なり、ゼロかどうかはわからない。

 森永乳業は3月中、缶詰め前のサンプル検査をしていたが、4月以降は月1回以上に減らしていたという。今回のセシウム検出を受け「4月以降についても缶詰め前のサンプルを調べることにした。工場内の空気中の放射性物質も調べる」と述べ、検査態勢を強化する方針を打ち出した。缶詰め前のサンプルを震災後、調べ続けている和光堂も「サンプルの数を増やしたい」と話した。

 ビーンスターク・スノーと雪印メグミルクは検査していなかったが、明治の報道を受け、3月製造分の缶詰め後のサンプルを調べた。

 唯一、工場が西日本にあるアイクレオは、缶詰め後のサンプル検査を8月から始めた。また月1回、各製品を抜き出して外部の検査機関に検査を依頼している。大気の放射線量については、変動がないか週に1度は計測。工場には粉じんを除くフィルターもついているが「放射性物質の完全除去は難しいのかもしれない」とも述べ、技術的な検討課題としている。

 原料の脱脂粉乳については各社とも、海外産か北海道産などを使っている。アイクレオは自社で検査しており、放射性物質は検出されていないという。

 ◇検出の「30ベクレル」 「規制値以下、心配ない」「許容量決められない」

 今年6月に出産した東京都北区の女性(41)は母乳の出が足りないため、生後5カ月の息子に1日1~2回各100ミリリットルの粉ミルクを飲ませている。調乳には米ハワイ産の水を使い、私立幼稚園に通う4歳の娘には、同じ水を水筒に入れ持たせる。料理には国産のペットボトルの水を使う。

 「こんなに気をつけているのに、粉ミルクが汚染されていたとは。うちは明治ではないけれど、心配です」

 食品中の放射性物質の上限はセシウムで年5ミリシーベルトで、これに基づき乳製品の暫定規制値は1キロ当たり200ベクレルと定められている。厚生労働省は年1ミリシーベルトに下げる方針を決め、新基準値を策定中だ。放射線の影響を受けやすい乳児向けの基準を設けるとも表明しており、200ベクレルよりかなり厳しくなるのは確実だ。

 専門家の見方はどうか。

 唐木英明・倉敷芸術科学大学長(食品安全)は「1キロ当たり30ベクレルのセシウムが検出された粉ミルクを、乳児が仮に1キロ摂取したとしても、被ばく線量は0・001ミリシーベルト以下。一般人の年間被ばく線量の上限1ミリシーベルトの1000分の1と少ない」と解説。「暫定規制値以下で心配ないのに企業はなぜ回収するのか、説明不足だ。日本人はゼロリスク志向が強すぎる」と述べた。

 今年6月から福島県で定期的に健康相談会を開いている小児科医の山田真さん(70)は「たばこや紫外線の害と同様、放射性物質の摂取に許容量は決められない」と考えている。「被ばく量は少なければ少ないほどいいとしか言えず、今回の30ベクレルは大丈夫とは言えないと思う。調乳で薄めてもセシウムが入っていることには変わりない。粉ミルクに限らず販売前のすべての食品に、放射性物質が何ベクレル検出されたか、検査をして表示すべきだ」

 国際環境NGO「グリーンピース・ジャパン」の招きで来日中のウクライナ放射線医学研究センター放射線・小児・先天・遺伝研究室長のエフゲーニャ・ステパノワさんは、チェルノブイリ事故以来25年間、5万人の子どもたちを診てきた。

 「ウクライナでは子どもの食品の安全基準は1キロ当たり40ベクレルで、食品全体の総量規制はない。30ベクレルは、私たちの国の法律では許容値内です。内部被ばくを避けるには、粉ミルクなど子どもの食品を作る会社が汚染されていない食品を作るしかありません」

毎日新聞 2011年12月14日 東京朝刊

 

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