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[18662] fate/ドラnight
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/07/24 21:02
この作品は、ドラえもんとfateのクロスオーバーです。
作者の自己解釈及びオリジナル、もしくは矛盾が含まれてる可能性がありますが、
そんなのが嫌な方は迷わず戻るをクリック!

それでもこの作品を見てくれるという人が居れば、温かく見守って下さい。
感想や意見や駄目だしも、うけ付けます。


ちょっと時間があったので、皆様から寄せられた誤字脱字等の編集をしました。
三話―――無視メガネ→虫眼鏡
十話―――マトリオシカ→マトリョーシカ
  ―――気置く→記憶



[18662] 一、前触れは突然に
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/05/07 19:34
午後三時。



麗らかな日差しを浴びる木々たちが、生き生きとした姿が垣間見える時間。
にしては少し遅い時間。

この時間だと、小学校は早い所だと既に放課後になり、幼い子供たちは授業と言う牢獄から開放され、今の今まで授業に費やしていた自由をコレでもかとぶつける時間だ。

ある子供は空き地でバッドを振り回し、またある子供は裏山でかけっこをしたり、そしてまたある子供は……


「どらえもおおおおおおおおおおおおん!」

…親友に泣き付く。



―――前触れは突然に―――




「どらえもーん!」

黄色いベストを来た少年は玄関を翔け抜け、廊下を走り、階段を駆け上った挙句自らの部屋の襖を壊さんばかりに叩き開けた。
その様子に、床に伏せていた『ドラえもん』と呼ばれるソレは、慣れたようにさして驚きもなく寝返りをうちながら

「もぅ、のび太君。またジャイアンに苛められたんだねぇ」

と、呆れたように泣き付く親友に言葉をかけた。
その声はどこか優しさを帯び、故障しているとはいえ子供に安心を与えるような音だった。
その声を聞いた『のび太』と呼ばれた少年は少し落ちついたのか涙を拭き、矢継ぎ早にドラえもんに事の顛末を告げた。

「聞いてよドラえもん!ジャイアンったら酷いんだよぉ。あのね―――」
「どうせ、また草野球に誘われて、飛んできたボールが取れなかった挙句、
草むらの中に入っちゃって無くしちゃったんでしょぉ。そしてジャイアンに殴られてその仕返しがしたいんでしょ?」
「………っさっすが、ドラえもん!何でも分っちゃうんだね!」
「何でもじゃないよ。キミのおでこにボールの跡があって、服には葉っぱが沢山付いてる。あと頬っぺたにも跡がね」
「………」
「全くもぅ!キミはどうしてそうなんだ!すぐに道具に頼ろうとして!そんなんだと
立派な大人になれないぞ!」

ズガーン!とのび太の後ろに雷が落ちた。

「うわーん!ひどいやひどいや!ドラえもんまでそうやって僕を苛めるんだ!
そうさ、どうせボクは駄目な人間だ、駄目な大人になるんだ!そして路頭に迷ってこの瞬間の事を思い出すんだ!
あの時、ドラえもんが道具を貸してくれたなら…って」
「………もぅしょうがないなぁ」

ドラえもんが折れた瞬間、のび太は輝かんばかりの笑顔を見せた。

「よし、じゃあ今日の道具は…」

こうして、ドラえもんとのび太は今日も道具を駆使して愉快で賑やかな一日を過ごす。





































































































――――――筈だった。




ソレは突然やってきた。

ある日、例の如く失敗に終ったのび太とドラえもんが帰宅すると、そこには見知らぬ包みが一つ。
宛名には『未来デパート』の文字があった。



[18662] ニ、出会いは突然に
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/05/09 21:12
部屋に戻ってきたのび太達を迎えたのは、茶色い包みに包まれた正方形の物体だった。


「?ドラえもん、これな~に?」

ボロ雑巾になっているのび太が、ボロ達磨になっているドラえもんに質問した。

「はて、一体何処からの荷物だろう?」

不思議そうにソレを覗きこみ、あて先を確認すると、そこには『未来デパート』の文字。

『未来デパート』とは、数々のドラえもんとのび太のピンチを救ってきた秘密道具達を
販売している巨大デパート。
その大きさは計り知れなく、在庫も豊富でドラえもんもそこの常連だ。
時々デパートに通販で道具を注文するが、度々のび太がドラえもんの留守中に道具を
受け取り、挙句は開放、使用、案の定使い方を謝り失敗するのがいつもだった。

その未来デパートからの荷物を見て、反省を知らないのび太はその幼い瞳を輝かせていた。

「ねえドラえもん。この中身は何???」

興味津々ののび太に対して、むぅと少し難しい顔をしているドラえもん。

「どうしたのドラえもん?」
「おかしい…」

のび太の問いかけにドラえもんは一言、おかしいとだけ返した。
その様子にのび太は只ならぬ雰囲気を感じた。
ドラえもんが考え込むときは、大抵良からぬ事が起きると記憶していたのび太は少し恐怖した。





―――出会いは唐突に―――





「ど、ドラえもん…。どういう事?」

その問にドラえもんはおもむろに口を開いた。

「おかしいんだ…。未来デパートからの荷物なんて…」

だがそこには確りと『未来デパート』の文字。
中身が何なのかはそこには書いていないが、ドラえもんの出す雰囲気の所為か、
その箱が何か恐ろしいものにのび太は見えた。

「な、なんで?ドラえもんが注文したんじゃないの?」
「そんな筈はない…。ここしばらく秘密道具は注文していないんだ…」
「じゃあ、ドラえもんが忘れてるとか?」
「………」
「ねぇ、ドラえもん…?」
「……開けよう」
「え!?」

意を決したように呟いたドラえもんに、驚きを隠せないのび太。

「なんで?注文してない道具なんでしょ?だったらやめようよ~怖いよ~…」

泣き付くのび太を他所に、ドラえもんは茶色い包みにその丸い手を伸ばす。
掴み引っ張る。
千切れる包装。

―――中から出てきたのは白い箱だった。

さほど大きくないソレは、先ほど包装が巻かれていたときよりも緊張感がなく、
かといって完全に前の恐怖が拭いきれた訳ではなく、触れられぬ危なっかしさが未だ残る。
そんな感情が渦巻く中、その丸い手で白い箱を持ち上げるドラえもん。

「ドラえもん!」

驚きのあまり叫ぶのび太。その手にある箱が恐ろしいものには変わりなく、ソレを持っているドラえもんがどうなるか分らない恐怖がのび太の体を駆巡る。

「安心して。中にはおかしな物は入っていないみたいだから」
「け、けどぉ」
「大丈夫だよ、のび太君」

一言に、のび太は仕方なく引き下がる。
ドラえもんを失うという事は、同時に家族やそれ以上のものを失うと同義だった。
ソレがどう言う意味なのか、幼くしてのび太は理解して、ソレを乗り越えてきた。
だからのび太はドラえもんがいなくなるのは耐えられないのだ。

「兎に角、この中身を確認しなくちゃ」
「うん」

その蓋に手をかける。何が出てくるか分らないが、取り合えず老人になる煙ではないだろう。
ユックリとその蓋を開ける。
中に光が差し込む。次第にその全貌が覗けるようになる。
その箱の中に入っていた物は――

一枚の、地図だった。

地図を広げたドラえもんはソレをまじまじと見る。拍子抜け差に、のび太はため息を漏らした。

「んもぅ、ビックリしたじゃん。ねえドラえもん?そのぼろぼろの地図何?」
「これは『旅行地図』だ。これに印を書いて体に巻き付けると、その印の場所へ飛んで行けるんだ」
「へぇ、なんでそんな道具が入っているの?それになんでこんなにボロボロなの?」
「分らない。けど、コレが送られてきたという事は、僕らに『この場所』に行けって事なんだろう…」
「はあ?ドラえもん何言ってるの?この地図にどこに―――」
「ここにあるんだ。印」

その丸く白い『指』がまたしても『指』さすのは、地図の右下だった。
そこには一言、こう書かれていた。


僕らを助けて欲しい。

たった一言の文章に、のび太は何か心うつものを感じた。
その正体は理解できないが、彼の心を動かすには十分であった。

「まぁ、僕らには関係ないさ。これは未来デパートに返送してお―――」
「行こう、ドラえもん」
「おくからってえ?行くってまさか………」
「その地図の印の所に!」

目を見開いてドラえもんは食い下がる。

「そんな!危険だよ!一体どこなのかも分らないのにいくなんて!
今回ばかりはのび太君のわがままには付き合えな―――」

だが、ドラえもんの抵抗も虚しく、のび太にすばやく拘束され挙句にはのび太と一緒に地図に巻かれた。

その時間、およそ0.5秒。

呆れる時間もなく、その場からドラえもんとのび太は消え失せた。































































































地図に記されていた印、その印が示す場所は『冬木市』
のび太とドラえもんが降り立った地は見知らぬ倉庫の中。そこにいたのは一人の青年と、
一人の華麗な少女だった。



[18662] 三、人の作りし人形ロケット
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/07/24 20:57
『旅行地図』について説明しよう。

『旅行地図』とは、人が二人程巻けるくらいの大きさの布っぽい移動型秘密道具。
この地図は、図面に世界のありとあらゆる場所や、地球外、つまり宇宙にいたるまでの<詳細な>図表が書かれており、その図面の行きたい場所に印を付け、その地図を体に巻き付ける事によって瞬時に目的地に移動できる。
乗員人数が二人と少々少なめだが、シンプルで地図好きの貴方にはぴったりのこの商品。

だが、そんな道具には思わぬ弱点があった。

まず一つとしては、この地図は細かすぎる。
細部にいたるまで繊細な仕事をしているが、細部まで細かすぎて虫メガネで検索しなくてはならない細かさがある。
細かいが故に繊細に、かつ慎重に座標をきめなくてはならない。


そしてもう一つ。

本来ならこの弱点は弱点にはならない。なぜならこの地図が『正常な状態』なら、こんな事にはならない。
こんなこと、それは………





―――人の作りし人形ロケット―――





シャン、と鈴のねが響いたような音と共に、少年の目の前に見知らぬ少女が少年を見下ろしていた。
髪は砂金のように煌びやかで、無骨な鎧は少女自身が放つ神々しさによって、それすらも高貴な者が身に纏う美しい装飾のように、月夜の光に反射して瞬きを見せる。

その形の良い唇が振るえる。白く美しい喉から声が漏れる。




ここで再び『旅行地図』の説明をしよう。

残す弱点。それは空間把握だ。
これは『旅行地図』自身は調整して着地地点を地面にする、というもの。
だが先も言った通り、この地図は正常ではない。

劣化、不要物の付着、その他の不要素を兼ね備えた今の地図は目的地の平面(二次元)座標(空間)は把握出来ても空間(三次元)座標(空間)の把握が曖昧になるのだ。

簡単な例えにすると、要するに空に埋まったり最悪地面に生き埋めになる可能性が出てきてしまうのだ。

ドラえもんはそれも考慮していたのだろう。
例え空に打ち上げられてもタケコプターがあるが、地面はさすがに無理やろー、見たいな事を。

そしてのび太達は件の『場所』に到着。
のび太達の目の前に広がっている世界、それは―――










地上100m地点の『空』だった。

「ドラえもおおぉぉぉぉぉぉぉ……」

のび太が凄い勢いで落下していくのが目に入った。

「のび太君!?」

予想外ではなかったにしろ、ここから落ちると言う事はすなわち即死を表す。
さすがに戦慄したドラえもんは急いで降下。のび太にタケコプターを装着し伸びたが上昇していくのを見送り―――









































































































































































「問おう。貴方が、わた「ズゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!(ぶぐはっ!?)」

目の前に広がる光景。
先ほどまで自分を見つめていた、マスターと思わしき少年の屍と、たった今召喚された土蔵の屋根を突き破り、マスターの腹部にロケットの如く突撃して来た巨大な

「……………団子?
いえそれよりもマスタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

巨大な団子によって召喚の儀が微妙に崩された少女は目の前の景色に何か憤りを感じ、
その鬱憤を外の槍兵にぶつけまくった。




唯それだけの話し。



[18662] 四、勘違いは突然に
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/05/15 18:00
蹴り飛ばした少年が土蔵の中に駆け込んだのを見届け、青い槍兵は―――ランサーは少し眉を潜めた。
今の蹴りは手加減をさほどしていなかった。例え頑丈な人間と言えど、今の一撃で立ち上がり、あまつさえ駆け出すなど吃驚仰天の出来事だ。
まぁ先ほど、心臓を一突きした筈の人間が元気に棒切れ振り回している段階で不思議の塊なのだが。

少年が土蔵に消えて間もなく、中から淡い光が漏れ出した。

「ち、まさか七人目か!?」

ランサーは戦慄した。この状況でのサーヴァント戦はあまり好ましくない。
先のアーチャーとの戦いで魔力の消費、そして今回のサーヴァントとの戦いは正直万全の状態ではないので苦戦を強いられる可能性が出てくる。ランサーが今まで確認して来たサーヴァントは4人。バーサーカー・アサシン・キャスター・アーチャー。例の如くどれも軽く自己紹介程度に打ち合った程度の戦いだが、それでもキャスター以外は中々の手馴ぞろいだった。

未だ遭遇していないサーバントは二人。ライダーとセイバー。
この二人に関しては言うまでもない。ライダーは三騎士ではないにしろ、それに匹敵する特大級の火力の持ち主。そしてセイバーは三騎士にして最優のサーバント。だが、そのどちらが出てこようとも、ランサーは後れを取るつもりは毛頭ない。しかしあまりに厳しい。魔力が万全でない以上、離脱が困難な可能性がある。

「ったく、『戦闘をしたら一度は離脱しろ』か…、全くシンドイ命令だこった」

ランサーは令呪の縛りにより一戦離脱を命令されている。ランサーのように『戦うために』聖杯戦争に参加しているサーヴァントには拷問以外の何者でもないのだ。

ランサーは槍を構える。強力な気配が土蔵の中から溢れ出てくるのが分る。これは最早野生の勘だ。本能が訴えかける強い存在。今まで出会った中でもバーサーカーと同じぐらいの威圧感。まさしくセイバーだと確信した。途端、


空から青い物体が土蔵に墜落した。


瞬間、土蔵の中から蛙の潰れた様な声と、鈴の音のような少女の「マスタアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」と言う声が場の静寂を引き裂いた。
ぶっちゃけ、何が何だか分らなかった。
恐らく声の主がサーヴァントなのだろう。何せマスターって叫んでいるから。
ではさっきの青い物体は?まさかあれがサーヴァントではあるまい。サーヴァントの気配は土蔵の中から発せられていた。いや、今もヒシヒシと感じている。
突然、入り口が爆発した。魔力の伴う衝撃波だった。瞬時に槍を構えなおす。銀色の閃光が目の前まで迫り、『見えない武器』から繰り出される上段から必死の一撃がランサーを肉薄する。必然、槍を構えて守りにはいる。確かに早い一連の動きだが、最速を誇るランサーにとってそれは余りに遅い一撃。軽く弾き、槍でそのわき腹を引き裂いてやろう。なに、この程度かわせなければ所詮セイバーの名もその程度…と、ランサーは頭の隅で思考しながら、槍を傾けた。瞬間、


槍が爆ぜた。

正確にはランサーの槍と、相手の『見えない武器』がぶつかった部分で魔力が爆発したのだ。恐らくこれは、先ほど土蔵の入り口で見せた爆発と同じ仕組みなのだろう。
魔力の爆発により予想外の衝撃を受けたランサーは驚きを隠せなかったが、瞬時に状況を理解し距離を放す。少女も深追いはせずその場に留まる形でランサーの様子を伺っている。
場に冷たい空気が流れる。土蔵の方では何やら騒がしいが、ランサーは目の前の敵に集中する。
静寂が場を支配しようとすると、それを破ってランサーが口を開いた。

「自らの武器を隠すとは卑怯な。貴様、それでも騎士の端くれか?」

ランサーとて本当に思っているわけではない。戦いにおいて卑怯な手段とは不意打ちであり、正面切って戦う相手が卑怯などとは到底思っていない。だが、見えない武器と言うのは中々に戦いづらい。軽い挑発で相手の出方を伺う。
だが、セイバーは一向に動こうとしない。しかも顔を伏せて何やら肩が振るえている気がする。

「はっ、無視と来たか。つれないねぇ…、ならせめてコレだけは聞かせろ。
それは剣か?」
「………」

またも無視。ここまでお堅い相手だと少々やり辛い。相変わらず顔を伏せて何やら呟いているのが目にはいった。

「…………す」
「あ?何だ、聞こえねーぞ?」
「………です」
「モットはっきり言えー。ぜんぜん聞こえねえぞ?」
「あなたの、」
「あ?俺?」
「あなたの、せいでええええええええええええっす!」
「はあああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」

白い顔が月明かりの下に姿を現す。聖緑の様に美しい瞳が、怒りで少し涙に潤っている。なんでさ。

「貴方がアノ青い団子をシロウに落したのでしょう!?
貴方は口は悪いし態度は大きいしガサツですが、もっと真直ぐでまっとうな人間だと思いました!」
「真直ぐで真っ当ってのは嬉しいが酷い言い様だなオイ!」
「それなのに貴方はアノ青い団子を落すなど…、モット早く言ってくれれば私が食べました!」
「なんでてめぇが食うんだよ!?
つうかあれはオレじゃねえ!勝手に空から―――」
「問答無用!」
「何でだよ!?」
斬撃が繰り広げられる。ランサーは一方的にたこ殴りにされた挙句キレて宝具を発動し、逃げるようにその場を後にした。

















































































―――勘違いは突然に―――







































「ぐふっ」
腹に強烈な一撃を受け、半分魂が飛んで言った士郎がユックリと目を覚ました。
土蔵の中は天上の穴のお陰で、月明かりに照らされ部屋の中が一望出来るぐらい明るくなっている。
さっきの出来事は夢なのか?強烈な痛みに腹を押さえ重い体を起こす。すると何か違和感を感じた。
いつもの土蔵。少し明るい気がするし、色々散らかっているが、土蔵。
その中で不可解な物を見つけた。

青い物体が横たおっている。

「………解析、開始」

取り合えずトレースオン。すると馬鹿げた内容が分った。

「………未来の機械?」

もう何がなんやら分らなくなって頭を抑える士郎。いや確かにここにはおかしな物が転がっている。屋台の巨大鉄板や壊れたストーブと色々あるが、まさか未来の機械があるとは思わなかった。何か最近、知らない間に荷物が増えているんだよなぁ…。

「って、現実逃避してる場合じゃないか」

思考を正常に戻し、現状を理解しようとする。
こいつは空から降ってきた。理由は分らない。そして士郎の腹に直撃した。理由は、分らない。それは夢の少女が現れた途端だった。あの少女は夢だったのか。この物体が落ちてきた後「団子」とか「マスター」とか言って叫んでいた気がする。あぁ、オレももう駄目なのかな…。妄想と現実が交差し始めてきてる…。オヤジ、もしかしたら俺そっちに行くか――――――来なくていいよ、士郎――――――オヤジに拒否られてしまった気がする。

「う、うぅん……」

謎の物体がむくっと起き上がった。あれって動くのか…。

「あれ?ここはどこ?」

そして喋るのか…。

「あのもしもし?」
「え?」

少し嗄れたような声が士郎に向けられた。当然だ、この場に士郎しかいないわけだしこのロボットは士郎しか頼れないのだ。

「あのすいません。一つ聞きたいんですが」
「あ、はい」

相手が改まっている所為で士郎も改まる。

「ここはどこですか?」
「ここはうちの土蔵。なんでそんなとこに居るかと言うと、俺はちょっと危ない目にあってここに逃げ込んできたんだ。どうして君が居るかと言うと空から君が落ちてきて―――」
「そうだのび太君っ!!!」
「うわっ!?」

突然立ち上がり外に走り出そうとするが、その一歩を踏み出した所でグラっとその全体が傾く。それを支えようと士郎が手を伸ばし、全体を抱え込むように抱きとめる。これが女の子だったらフラグの一つもたつのだろうが、ロボットと士郎だから。

「大丈夫!?」
「う~ん、のび太君……」

どうやらこのロボットはのび太と言う人を探しに行こうとしたらしい。先ほどの慌てっぷりからして凄く大切な人なのかもしれない。

「のび太君…」
「そののび太君って、大切な人かい?」
「それは…」

ためらいがあるのか、青いロボットは何を言おうか迷っているようだが、結局何も言ってくれなかった。

「じゃあ、君の名前は?」
「ぼくドラえもんです」
「俺は士郎。衛宮士郎だ」
「シロウさんですね、もう立たせてもらっていいですか?」
「ああ、すまない」

手を放すと、ロボット―――ドラえもんは自分の足でよろめきながらも立ち上がった。

「ごめんなさいねシロウさん。ボク、コレから行かなくちゃイケない所があるんだ」
「のび太君の所かい?」

無言で頷くドラえもん。その大きくて無機質な瞳には、ロボットとは思えないほど感情が入っていた。恐らく彼は行くのだろう。止めても…。

「それじゃあシロウさん。短い間ですが、お世話になりました」
「ああ、気を付けてね」

ドラえもんはそのお腹に付いている白いポケットから竹とんぼのような物を取り出し、もう一度士郎の方に向きなおし、頭を下げて…………………何も起こらなかった。




ただ、それだけの話







[18662] 五・運命は偶然に
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/05/18 18:54
「ドラえもおおおおおおおん!!!」


地上に向かって落下していったドラえもん。彼が小さくなる姿を僕は見送る事しか出来なかった。
本当は助けに行きたい。今すぐにでも級降下してドラえもんを掴み助けたかった。だけど運命か、たけコプターは突然故障を表した。完全なコントロール不能に陥り、ボクは遠くに飛ばされてしまった。その間僕は意識を失ってしまった

意識を失っている間もタケコプターは暴走を続け、気が付いたときには僕はどこかの山の中に居た。
辺りを見てみようにも時間帯は恐らく夜なのだろうか、辺りは闇が広がるばかり。時々獣の気配を感じて身を強張らせるだけだった。

「ドラえもん…」

こんなとき、ドラえもんなら如何してくれただろうか。タケコプターが故障した今、空を飛ぶのは不可能。なら移動を可能とするどこでもドアか辺りを明るくしてくれる日光ごけとかを出してくれるだろうか…。そんな事を考えていると、ふと違和感を感じた。本当に些細な違和感で、今の今まで感じなかったが、今置かれている状況を把握する事で気づいた。なにげ無しにポケットを漁ってみると―――



―――五・運命は偶然に―――



そこから出てきたのは、さっき思い描いた日光ごけだった。

「ドラえもん!」

思わず親友の名を叫んだ。そこには当然居ないが、もしかしたら見守っていてくれてるのかもしれない。きっとさっきタケコプターを付けてくれた時に一緒に入れてくれたんだと思った。ドラえもんはいつだって僕を見てくれているんだと思った。

辺りに日光ごけを吹きつける。するとみるみるうちに辺りが明るくなり、視界が開ける。
そこはどこかの山の山道らしい、とまでは分った。だがその姿は学校の裏山とは違って、切なく、冷たい物を感じた。日光ごけの出会いが無ければ僕は振るえてこの場に居続けただろう。だけど今は光がある。この山道を歩けばいずれどこかに出るはず。僕はかすかな希望を胸に道を歩み始めた。
以外にも、しばらく歩いたら視界が開けた。そこに広がるのは無数の山々で、暗闇の中でもその自然の強さをありありと感じさせる。だが、そこには僕の望むべき物がなかった。
もぅ時間も遅い。その瞬間、僕は途端に眠気に襲われた。どうしようもなく眠くなる。そう言えば、デンデンハウスは良かったなぁっと思った。半分夢うつつになりながら僕は穴に入り、スイッチを押してベッドに潜り込んだ。


翌日、ゆっくり瞳を開けるとそこには黄金に輝く朝日が昇ろうとしていた。
今は何時だろう…。そう思って辺りを見るが何もない。そう何もないのだ。
昨日の事はあまり良く覚えていない。ここへ来た途端眠気に襲われ、それから…

「それから…どうしたんだっけ?う~ん、頭が痛い……」

頭痛と同時に吐き気も伴って気分は最悪。だけど不思議と帰りたいとは思えなかった。ここに来たのは自分。ここの何かに引き付けられている気がする、だから僕はここに来たんだ。立ち上がり、体の隅々をチェックする。目立った傷はない。不思議と体も痛くない。まるでフカフカのベッドで寝ていた気分だ。そう言えば、日光ごけはどうしただろうかとポケットをまさぐると、

「ない!」

ポケットに入れて置いたはずの日光ごけがなくなっているではないか。急いで辺りを探す。しかし辺りに日光ごけがある気配がしない。仕方ないので諦める。あれがないと夜が非常に心細いが、今は夜ではない。取り合えずドラえもんを探し出せばそれは済む。そう思い山道へ歩き出す。
山道は昨晩のように暗闇が広がっている事はなく、鳥たちの囀りと朝露の潤いによって清清しく広がっていた。僕は普段はこんな時間に外にいないから、この光景は凄く貴重な体験だった。こんなにもこの山は生き生きしているのだと思うと、つい心がウキウキしてしまう。
目の前に一羽の鳥が泊まる。こちらの様子をせわしなく顔を動かしながら覗っている。不思議な色の鳥だと思った。何せ宝石のようにきらきら青色に輝く鳥など、始めて見た。隣にドラえもんが居ればどんな鳥だか分るかもしれないが、今はそんな事言ってられない。それにしても綺麗だなぁ。宝石を鳥の形にカットした見たいだなぁ…。
すると鳥は突然に飛び立ち、一目散にその場を後にした。不思議な鳥だった。
再び一人の時間が訪れる。その瞬間、先ほどにはなかった心細さが胸に突き刺さる。
切ない、寂しい、怖い、寒い、誰か助けて欲しい。ドラえもん。ドラえもん。

「ドラえもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」
























































「………何この青い物体は」
「僕ドラえもんです!」
「…生き物、なの?」
「猫型ロボットです!」
「ロボット!?ロボットって、あの機動戦士とか無敵巨人とか!?」
「遠坂、それは違うと思うぞ?」
「何が違うのよ?メカなんて似たようなもんでしょ?」
「どちらかと言うとオボッチ●●みたいなタイプだろ」
「あ~、コロ●けと同じかんじね」
「………」


ただ、それだけの話し。



[18662] 六、不測の事態
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/05/28 19:13
ドラえもんが落下して来た晩。遠坂凛と遭遇した後彼女を交えてリビングで話し合いが行われた。無論議題は士郎に『聖杯戦争』の事を教えるのと、目の前にある謎の物体についてである。

「つまり、あんたは別の場所から来て、たまたま衛宮君の土蔵の上に落ちた、と」
「はい、そうなんです」
「ん~、アンマリロボットっぽくないロボね…。もっと、こうロケットパンチとか出さないの?」
「それはちょっと…」
「じゃあ何か便利な物ないの?」
「それなら色々ありますよ!」

そう言ってドラえもんはお腹のポケットを掴み、引っぺがしてみせる。

「まずコレがその道具の一つ。『四次元ポケット』!!!」
「へー、四次元ね…」

正直真面目に聞いていない士郎に、良く分っていない士郎がチンプンカンプンになりつつある。

「???。遠坂、四次元ってなんだ?」

呆れたように凛は士郎に顔を向けた。

「はぁ、衛宮君。四次元ってのは、一般的な三次元「縦」「横」「奥行き」に「時間」を加えた物と言われているの。その空間には何でも入るらしいけど、実際はそんなものは今の科学力じゃ出来ないわ」
「今の科学力じゃ出来なくても、未来では出来るんです!
では早速、一つ目の道具をご紹介しましょう!」

先ほどまで持っていたポケットを元の位置に引っ付け、今度はそのポケットに手を突っ込み始めた。
程なくして引き抜いたその『手』には、質量的に絶対出てくるはずのない大きさの扉、『どこでもドア』が出てきた。

「どこでもドア~」
「「な!?」」

本来出てくるはずがない物体が、無理やり飛び出てきた現象を目の辺りにした士郎達は唖然とした。だが、驚きはそれだけではなかった。

「なんとこのドアは文字通りどこにでも行けちゃうんです」
「そ、そんなバカな話しがあるわけないじゃない!!!空間転移とでも言うんじゃ―――」

そう怒鳴っているうちにドラえもんは扉を開け、その入り口を潜ってしまった。
そしていつものようにどこでもドアは不思議な擬音と共にその姿をけしてしまった。

「………」
「…すげー」

凛はもはやどう反応していいのか解らずフリーズし、士郎はその現象を以外にも早く受け入れていた。
直ぐに廊下に続く襖が開き、青い寸胴な体が姿を現した。

「はい、僕ドラ」
「ふざけんじゃないわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

瞬間、遠坂の怒りは爆発した。






―――不測の事態―――




のび太がしばらく歩くと、そこには一つの大きな池が見えてきて、その近くにはお寺のようなものが見えてきた。
のび太は建築物の存在を確認すると深いため息を吐いた。

「た、助かったぁぁぁ…」

別に体力的にも精神的にもまだ余裕はあったが、やはり人が居そうな場所を見つけるというのは、小学生にとって砂漠でオアシスを見つけたに等しかった。
急いで駆け寄りのび太はお寺に向かって呼びかけた。

「すいませーーん!誰かいませんかーーー!!!」

時刻を考えるとまだ午前九時前後くらい。これくらい大きなお寺なのだから、誰かしらいるのだろう、と踏んだのび太であったが、その後いつまでたっても反応がない。思わず不安がよぎった瞬間、遠くから女性の声がした。

「は~い。どうかしたのかしら?」

気づくと女性は目の前に来ていたが、のび太は大して気にもせず事態に付いて軽く説明をした。

「実は友達とここに来たんですが逸れちゃって…。良かったら友達が見つかるまで泊めてもらえませんか?」

のび太の事情を聞くと女性は少し考えると、快い笑顔を向けて頷いてくれた。
思わず飛び上がりたくなる衝動を抑え、女性に頭を下げた。

「お姉さんお綺麗ですね」
「まあお姉さんなんて―――。
そう言えばボク、お名前は何ていうのかしら?」
「僕、のび太。野比のび太です!」
「そう。私は…、私はメディアよ」



こうして魔女と少年は出会った。
この物語の歯車が究極なぐらいにまで狂う瞬間であった。


























秘密道具紹介
今日の秘密道具
・どこでもドア:行きたい所を頭に思い浮かべてドアを開くだけで、どこへでも行く事ができる。今回ドラえもんは衛宮家の玄関を想像して移動した。



[18662] 七、ヤバいビックリ
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/06/08 18:38
「いいことノビタ。貴方には私の本名を話したけれど、この名前は表じゃ決して言っちゃ駄目よ?」

お寺の廊下を歩きながら振り返ったメディアさんが、真剣な顔をして忠告した。
その真意は良く分らないが、とりあえず僕は頷く事にした。

「じゃあ、僕はメディアさんの事をなんて呼べばいいですか?」
「…『キャスター』とお呼び」
「はい、キャスターさん」

そう言うとメディア、キャスターさんは微笑んで前を向き直った。その笑顔がどこか、ママを彷彿させる。ママ、今頃何してるのかなぁ…。

「あら、お母さんが心配?」
「え!?」

図星で思わず大きな声を出してしまった。なんでこの人は僕の言っている事が分るのだろう。

「ふふ、そんなの決まってるじゃない。顔に書いてあるわよ」
「え、えええ!?」

思わず顔に手を添えたり撫で回したりしてしまった。その様子を見てキャスターさんは意地悪な笑顔を浮かべてる。
どうやら遊ばれているようだ。
それに気づくと急に顔が熱くなってきて、気恥ずかしい気持ちで一杯になってしまった。
そして更に笑みを深めるキャスターさん。
もうどうして良いのか分らず、僕は俯いた。

「あらあら、少々遊びすぎたかしらね」

どうやら自覚はあったらしい。
僕は少しだけキャスターさんを睨むと、肩をすくめながらキャスターさんは歩き続けた。



「ここが貴方の部屋よ」

そう言って案内されたのが、畳六畳ほどの和室で、どこか僕の部屋を思わせるくらいの大きさだった。
入って右側と正面に大きな窓が設置されており、右の窓のしたには机が置いてある。正面の窓の脇には本棚が完備されている。
やっぱりそっくりだ。
違いと言えば机の大きさと、本棚の中身が違うくらいだ。
正直、ここで暮らせと言われても恐らく違和感なく過ごせるだろう。これは中々有りがたい環境であった。

「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます!」
「あらそう。気に入ってもらって何よりだわ」

そう言って嬉しそうに微笑むキャスターさん。その姿が綺麗で、思わず見とれてしまう。こう言うのを大人の魅力、というのか。

「そう言えばノビタ。貴方結構汚れているみたいだけど、ちゃんと清潔にしてるのかしら?」

訝しげな口調から察するに、どうやら『風呂に入れ』、と言いたそうだ。やはり心を読んだかのようにキャスターさんは頷いて、その場から去っていった。




キャスター・視点

「………愚の骨頂だわ」

自分の情けなさの余り、知らずに呟いた一言。
まさかコレほどの馬鹿ップリを自分が犯すなんて、最早自分の首を絞めて泣きながら谷底へ飛び降りたい気分だ。
最初の失敗は、この後ろに付いて来る少年の進入を許してしまった事。

(まさか裏門から進入するなんて……)

実際、予想はしていたが結界の出来が甘かったのか、この少年の進入を簡単に許すという失態を犯してしまった。だが、失敗はコレだけに留まらなかった。
もう一つの失敗、それはこの少年に『真名』を明かすという、まさに愚の骨頂を働いてしまった。
私たちサーヴァントにとって、『真名』とは自分の命に直結する。
故に、教えるのであらばマスター以外にありえないのだが、私は何を思ったのかこの少年に自分の名前を教えてしまった。

この子の目が、何か凄く純粋なんですもの…。

思わず真名を明かしてしまったが、先ほど口止めをしておいたから、多分大丈夫だ。
正直頭を抱えたい自体だが、今はそんな事言ってられない。
そんな失敗を挽回できるくらい、《素敵なもの》が同時に手に入ったんですもの。

ちょっとからかってやるとすぐ赤くなるのを見てかわいく思えるが、それと同時に物凄く貴重な宝石を手に入れた気分になり、笑みが零れるのが抑えられない。
少年は何を勘違いしたのか、少し俯いて拗ねてしまった。

………まぁ、可愛い。

取り合えず、空き部屋だったはずの部屋を一つ貸しだしておこう。なに、これだけ沢山部屋があるんですもの。一つや二つ減ったって高が知れてるわ。
存外、少年も気に入ってくれたようで喜ぶ素振りを見せている。この子を見ていると、昔を思い出してしまう。

ふと少年の姿を注視する。さっきは余り気にはならなかったがこの子、以外に汚れているわね。
服の袖やズボンの端なども少し擦れている。ちょっと居た堪れない気持ちが胸を襲う。
町の人間を襲うときはこんな気持ちにならないのに、この少年に対してはどうも気を許しているフシがある。もっと確りしろメディア!
少年を風呂場に案内して、私は自分の部屋に戻る。

とりあえずやる事は現在の町の状況と、少年についてだ。

町については別段代わりない。強いて言うなら、一昨日の晩に召喚されたセイバーは音沙汰無し。

その他のサーヴァントと言えば、ランサーは相変わらず敵と交戦しては逃げるという戦法を取っている。
ライダーは怪しげな結界を張ってはいるが、マスターがマスターだけに何とも言えないのが現状の用ね。
バーサーカーは一昨日のセイバーとの交戦以来、姿を見せない。
アーチャーは、マスター同様セイバー達と行動を共にしている。その他アサシンは確認が取れず、って所ね。
町の状況はそれほど面白いことにはなってないようね。それよりももっと凄い物を見つけたんだからね………。

「ノビタ……、素晴らしいわ…」

彼は間違いなく『一昨日』の晩に落ちてきた物体だろう。まさか人だとは思ってなかったけど。
それだけならまだしも、彼には『魔力』がある。それも少し変わった『魔力』だ。この魔力を少し拝借すれば、それなりに研究が出来るはず。

それに、彼にはもっと色んな事をしてもらわないといけない。
彼はどうやら魔術師としての才能があるようで、本人は気が付いていないみたいだけど、この才能が開花すればきっと戦況が変わる。私はそう確信している。主に勘の辺りで―――。




[18662] 超吃驚。もしくは唖然
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/06/16 21:26
「ひらりマント!!!」

ドラえもんを破壊すべく振り下ろされた岩斧は、簡単なくらいに呆気なくその横をすり抜け、アスファルトに巨大な傷跡を作りながら空ぶった。
だが、バーサーカーの動きは留まるどころか勢いは増すばかり。
咄嗟に飛んでくる左の拳を避けながらドラえもんは後退する。それと同時に今度はセイバーがバーサーカーへと突撃し、その体に一太刀入れる。
しかし、刃がその肉体を切り裂く事はなく、一向に傷つく気配のない狂戦士に歯噛みする凛。

「アーチャー!!!」

自らの従者に呼びかける。すると山の中腹辺りに閃光が瞬く。瞬間、バーサーカーの眉間、わき腹、鳩尾と次々に銀の閃光が貫かんと降り注ぐ。しかし、再度雄叫びを上げる狂戦士にはダメージが見られなかった。


事の始まりは、士郎が余りに(ドラえもんも)聖杯戦争の事を知らぬが故に、凛が提案した事から始まる。

「ねえ、このままじゃ埒が明かないから教会へ行きましょう。あそこにはこの戦いの『管理者』がいるから」

良く分らないが、そこに行けば詳しくこの争いについて聞けるらしい。満場一致で教会に向かう事にした。
少しして。
教会の扉を開けると、こんな夜更けにも関らず礼拝堂の置くに人影を見つける。
身長は高く、髪はモジャモジャ。その体のシマリ具合からして何かの武術をたしなめているのだろうか。なんとなくドラえもんは思った。
来客に気が付いたのか、その体をゆっくり振り向かせまるで図った様に口を開く。

「来たか。…良く来た諸君。歓迎しよう」

まるで自分達が来る事が分っていたのか。得体が知れない神父であった。その瞳に映るのは光ではなく、混沌の闇。そして口元に浮かべるのはたしなめる様な嫌らしい笑み。
彼が言うには、この争いは一つの『聖杯』と言う願いの叶う願望機を廻る七人の魔術師と、七人のサーヴァントによる殺し合いなんだという。正直、前半の話などチャンチャラおかしいと思っていたドラえもんであるが、後半は聞き捨てならなかった。殺し合いだと?正直最初に浮かんだのは親友の顔であった。

(…のび太君)

瞬間、不安が頭を過ぎった。もしものび太君がこの戦いに巻き込まれていたら…。そう思うだけでドラえもんは気が気ではなかった。
うろたえ始めるドラえもんに、全く気付いていない神父。そして、お決まりの台詞。

「喜べ少年!君の願いはようや―――」

一瞬、神父の目が有り得ないぐらいに見開かれた気がした。まるで見てはいけない物を見たかのように言葉が詰まっていた。あの冷静で冷血の言葉が似合うあのモジャモジャがである。

何だこの物体は………。
正直、驚きが隠せない。コレほどの奇怪な物体を見た事がない。気配がないので霊や妖怪と言った類ではないはずだが、正直得体が知れない。何だこの物体は…。

モジャモジャの話を一通り聞いた後、教会を後にする。
ドラえもんは先の神父をモジャモジャと呼ぶ事にした。が、今はそんな事言ってられる状況じゃなくなってしまった。


「あれ~、もぅ帰っちゃうの?」


白い少女と、出会ってしまったから。



[18662] 九、死は必然に
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/06/26 19:26
「やっちゃいなさい、バーサーカー!」

喜々とした少女の一言で、黒の巨人は眼前の敵を殲滅せんと躍り出る。
その様子に、セイバーはレインコートを毟り取り、アーチャーは姿をくらませる。

「あら、貴方のサーヴァントはマスターを置いて逃げちゃうの?ミストオサカ」

士郎は眼前の敵に対して全く状況が理解出来ていないらしく、軽く狼狽の色が見える。リンは相手の挑発には乗らず、余裕の笑みを見せて反撃に出る。

「あら、今回のアインツベルンの当主は一体どれほどの人物かと思いきや、まさかこんなに愛くるしいお子様だとは思わなかったわ。思わず挨拶も忘れてしまって、失礼したわ」

軽口を叩く凛ではあるが、内心はかなり焦っていた。先ほど少し敵サーヴァントのステータスを覗いた所、トンでもない事が分った。スペックが違う。ステータスの殆どがAランクとトンでもないパラメータがわかった。が、凛は同様の顔を表に出す事なく、平然を装っている。
何よりこのアインツベルンと呼ばれた少女、半端じゃないほどの魔力を宿している。

「かまわないわリン。どうせ貴女はここで死ぬ。これ以上貴女の貧相な胸を晒す事なく死ねるんだから、感謝こそされても謝られるなんて私には覚えがないんですもの」
「なっ!?」

凛の中の何かが切れた。元々表情を隠すために神経をすり減らしていた所にこの追い討ちだ。弾けるのも時間の問題であろうが、たった今弾けた。

「………アーチャー」
「……何だね?」

いつもよりトーンが半音高い。何か嫌な気配を感じたアーチャー。

「…………………堕としなさい」
「………承知」

山の中腹、そのある一点に光が瞬いた。瞬間、六ほどの閃光がアインツベルンに降り注ぐ。
しかし、その閃光は目標を貫くことは叶わず、黒い巨人―――バーサーカーの岩斧によって妨げられる。
その隙にセイバーがバーサーカーに斬りかかる。上段からの一太刀浴びせた所でセイバーが突然後退する。その様子に士郎はふと疑問に思った。なにか呟いているのが目に入った。

「…はり、…ラン…でなければ無…か………」
「???」

何を言っているかサッパリだが、今はそれがなんなのか聞く余裕はなさそうだ。セイバーは再びバーサーカーの前まで躍り出てその体目掛けて見えない剣を振り回す。しかし、バーサーカーは先ほどみたく体に刃を立てる事を許さず、手に持った岩斧でセイバーを迎撃する。振りぬく速度はまさに音速。セイバーも相手の太刀筋を受け流し、そらす様に防御する。このやり取りが二合三合と続く。バーサーカーの横なぎをセイバーは受ける形で棒行したため、かなりの勢いで後方へ土煙を巻き起こしながら、錐揉み状態で弾き飛ばされた。

「っぐ!」

たまらずセイバーが小さくうめき声を上げる。その様子からかなりの衝撃だと分った。しかし、立ち直ったセイバーは構え直し、バーサーカーへと向き直す。


一方、ドラえもんはと言うと―――


「あれでもないこれでもない!これでもないそれでもない!それでもないどれでもない!!!」

例のドラドラパニック(仮)に陥っていた。
バーサーカーが立ち直り、眼前の敵を捕らえる。しかしその標的は、先ほど吹き飛ばしたセイバーではなく、不幸にもドラえもんであった。

「■■■■■■■■■!!!」
「危ない、ドラえもん!」

吼えるバーサーカー。しかし、ドラえもんは一向に築く気配もなく、相変わらずヤカンやら便座カバーやらをポケットから取り出しては捨てている。咆哮をあげながら突撃するバーサーカー。セイバーも相手の動向に気づき、迎撃しようとするが間に合わない。アーチャーの援護も先ほどから続いてはいるが効果をあらわさずにいる。ドラえもんはトイレットペーパーやトイレブラシなどを出している。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」
「あった!!!」

ドラえもんは何かを掴みそれを掲げた。しかし、既にバーサーカーは眼前で岩斧を振りかぶり、ドラえもんを切り裂かんと振り下ろす寸前であった。最早誰もがこの状況に絶望し、歓喜した瞬間、ドラえもんが手にした物を両手で広げる。

「―――ヒラリ!!!」
ッドガーン!

その場の殆どの人間がドラえもんの死を確信した。(厳密に破壊であるが、やはり生き物と見ている一面がある。しかもアインツベルンにおいては初対面なので生き物として疑ってはいない)
たった一人を除いては。
大きく広がった土煙、その向こうで巨体が微かに動く。バーサーカーである。その姿は依然として獲物を捕らえるように赤い目を爛々と輝かせている。既に壊した獲物を捕らえるように。土煙が晴れてゆく。誰もがドラえもんの無残な姿を目に晒すだろうと思われた。
が、もぅ一つの影が映し出された瞬間、その場の全ての人間が戦慄した。


赤い布を持ったドラえもんが、そこに佇んでいた。


勝利を確信していたアインツベルンは驚きを隠せないでいる。大きな瞳をコレでもかと見開いている。他の三人も同様に唖然としていた。バーサーカーが再び咆哮をあげ、剣斧を再び振り上げ、ドラえもんに叩き付ける。が、今度は確りドラえもんの行動を捕らえる事が出来た。

「ヒラリ!」

再び先ほどの掛け声を叫ぶ。叫びながら手に持った布をバーサーカーの岩斧目掛けて翻す。何がしたいのかさっぱり理解できず、皆が凝視する中、それは起きた。
あろう事か、バーサーカーの一撃がまるで、ドラえもんを避けるようにして逸れたのである。再度咆哮をあげながら斧を叩きおろすバーサーカー。その度にマントを翻し、左右に逸らすドラえもん。その図はまさに奇怪極まりなく、自慢のバーサーカーの攻撃をいとも容易く受け流される姿を、アインツベルンはただ唖然と見守っている。

「…っ、何してるの、バーサーカー。そんな不気味な青ダヌキ、さっさと潰しちゃいなさい!!!」

怒り心頭のアインツベルンは怒鳴り散らすように黒い巨人に吐き捨てる。バーサーカーもそれに答えんと一撃を斬撃にし、相手に休む暇を与えんと猛攻を繰り返す。しかしドラえもんは臆する事なく、ひたすら相手の攻撃を受け流す。脳天に来た一撃を左に右に。横を狙った攻撃を上に逸らす。戦況はスピードが上がる一方で、状況は全く変わりない。

「ヒラリ!」
ダガンッ!!!

バーサーカーの斧が地面に突き刺さり、一瞬隙が出来た所をドラえもんは見逃さなかった。瞬時に戦場を離脱。後方で剣を構えるセイバーを見た。その視線を受け取ったセイバーはすぐに戦場に復帰し、再び黒い巨体目掛けて刃を立てる。右からの一撃でバーサーカーはそれを防ぎ、そのまま叩き付けるようにセイバーに切りかかる。それをセイバーは回避し、バックステップで距離を取る。追撃しようとするバーサーカーの目、眉間、鳩尾に次々と矢が命中する。少し怯んだバーサーカーをセイバーが再び切りかかる。ひたすらコレを繰り返すだけである。

「■■■■■■■■■!!!」
「ッく」

バーサーカーの横なぎを回避しきれず、わき腹をかする。微かに掠っただけでその細い脇から血が噴出した。たまらずセイバーは後退し、痛々しく引き裂かれたわき腹を押さえ、剣を杖の様にして寄りかかっていた。
しかし、バーサーカーは攻撃の手を緩むる気配はなく、手負いのセイバーに思いっきりッタックルをかました。まるでトラックに轢かれた子供のように転がりながら吹き飛ばされるセイバー。起き上がろうと剣を杖にして膝を立てるが、力が入らず幾度か崩れる。そこにバーサーカーの猛攻。アーチャーの援護を露とも受けず、再び迫り斧剣を振り上げ叩きつける。

「セイバーー!!!」

士郎が駆け出した。誰も予想出来なかった事態に全員の視線がそちらに移る。セイバーもバーサーカーから目を放し、士郎を凝視した。

「マスター!?駄目だ、来てはいけない!!!」

しかし、その声も届かず、士郎はバーサーカーの前に立ちふさがり、セイバーをかばう形でセイバーとバーサーカーの間に立った。バーサーカの一撃が、士郎の右肩を抉る。そのときだった。

「ヒラリ!」

再びその声を聞き、士郎が目を見開く。案の定バーサーカーの剣筋が再びそれ、見当違いな方向を切り裂く。耳元で空気が悲鳴を上げながら切り裂ける音を聞いた士郎は、冷や汗がどっと出てきた。しかし、声の主たるドラえもんの姿が見えない。先ほどの声は正面から聞こえたが、目の前にはそれらしい物体はない。では、一体何処から?

「ここだよ!」
「うを!?」
「ここだよ士郎さん」

目の前から突然声がかかる。しかし先ほどと同じく声が掛けられた先にはそれらしい影がない。しかし、敵も待ってはくれず、確認する前に再び切りかかってきた。

「ヒラリ!」

またしても士郎を避けるように変わる軌道。恐らく、何らかの方法でドラえもんが姿を隠し、自分を守ってくれているのだろうと士郎は考えた。ならばすぐに動く。ドラえもんを信じ、後ろで負傷しているセイバーを肩に担いでその場から離脱しようとした。そこで、声が掛けられた。

「もういいわ。やめなさい、バーサーカー。帰るわよ」
「!?」

一同が振り向く先、アインツベルンは酷く詰まらない物を見るように士郎達、ひいてはセイバーを見た。

「セイバーの実力には期待してみたけど、所詮はこの程度だったのね。これじゃ、私との約束も守れるはずがないわ」
「!?」

突然セイバーが目をむいた。歯を食いしばり、微かに振るえているのを士郎は感じた。

(約束?どういう事だ?)

誰もが疑問に思うその台詞を吐いた後、バーサーカーに担がれ、暗い闇に消えようとしたとき、不意に士郎に声を掛けられた。

「バイバイお兄ちゃん。それから青ダヌキ。今度会うときは絶対殺してあげるから」

最大の憎悪の眼差しを投げかけ、行こうバーサーカーと呟き、夜闇に消えて行った。



[18662] 十、未来は突然に
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/07/24 21:03
この胸に広がるどす黒い思い。
体を見下ろせば血と泥で汚れた体がそこにあった。
目の前に人の気配を感じる。
視線を上げると、そこにはこちらを見て薄ら笑いを浮かべる男。
金髪で血の様な赤い目をギラつかせ、まるで新しい玩具を貰った子供のように不気味に笑っている。
理由は分らない。だけど僕はこの人が嫌いだ。

嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いだ。

体中が痛い。ジャイアンに殴られたときよりも痛い。普段だったら絶対泣いている。
だけど今の僕はこの男を睨んでる。僕はこの人が嫌いで嫌いで仕方がない。
ふと何かを手にしている物を見る。握っている物を見て戦慄した。

握られていたのは刀身の真ん中辺りからへし折れている、刀だった。

だがこの形、見た事がある。
くすんだ黄色の刀身。深い緑色の鍔。朱色の柄。この奇抜なデザインは忘れるはずが無い。

名刀・電光丸。

かつてドラえもんが、心に秘めた想い人の仇を討つべく握った高性能迎撃用護身武器。
その刀身に刃は無く、あくまで殺傷力は無い。が、あくまで護身用の道具なので頑丈なはずではあるが、今やその剣も見るに耐えない程に壊れている。

この男がやったのか?

再び目の前の相手を見据える。そして、ゆっくりと目線だけで回りの風景をみる。
見覚えのある風景。ここは…寺?そうだ。ここは僕が今お世話になっている柳桐寺だ。
何故こんな所で、こんな事になっているのか。見当もつかない。柳桐寺は無残にも屋根部分が崩落している。
メディアさんはどこだ?何でお寺がこんな事になってるの?目の前の人は誰なんだ?様々な考えが頭を過ぎる。
ここから離れてメディアさんの安否を確認しなくちゃ。メディアさんに何かあったら、僕は………。

しかし、それを目の前の男は許さなかった。

目つきが変わる。何か呟いている。ここからじゃ聞き取れない。そもそもさっきから音が聞こえない。
突如、後ろの空間が、まるで水上に広がる波紋のように歪む。
ゆっくりとその波紋の奥から何かが浮き出てくる。

剣。槍に鎖。斧に槌に矢に刀に鎌。様々な武具達が空間を割って這い出てきた。
足がすくむ。膝が笑う。目を背けたくなる。本来の僕なら。
折れた電光丸を握りなおす。しっかりと浮かび上がる武具を見据える。不思議と恐怖は無い。そして男の人と同じく僕も何か呟いた。

「………僕は、ここで死ぬ」


ここで僕は目を覚ました。


―――十・未来は突然に―――


「………夢?」

正直、今まで見ていた物について、真偽の程が良く分らない。今まで何度か夢に惑わされた気がするから………。
取り合えず起きて部屋を見渡す。僕の部屋に酷似している部屋を、偶然にもキャスターさんが貸してくれたのだ。

「ドラえもん。朝だよ~」

起き上がり、押入れの戸を開け、僕は絶望した。

そこには、ドラえもんがいないから。

当たり前だ。ここは柳桐寺。僕は二日前に晩にドラえもんと逸れて、今はキャスターさんのお世話になっているのだから。
今、ドラえもんは何をしているのだろうか…。ふと、そんな事を考えてしまう。そして、途端に心の中に暗い影が降りる。
僕は一体何をやってるんだろう。こんな所でのうのうと夜を過ごして。今すぐにでもドラえもんを探しに行かないといけないのに……!
そう思ったが最後、服を着替え襖に向かう。そして手を伸ばし、襖を開けようとした所で突然襖が開いた。
その先には、キャスターさんがいた。

「あら、おはようノビタ。朝早いのね」

優しく微笑むその顔に、思わず見とれてしまった。
しかし、あんまり見とれている暇も無い。早々に挨拶を済ませ、その脇を抜けて玄関へ向かおうとする僕の腕を、その細く綺麗な指が捕らえる。

「もう出て行ってしまうの?もう少しゆっくりしてても良いんじゃない事?」

その口調は優しく、まるで母が子を諭すように慈愛に包まれていて、その言葉に甘えたい気持ちが一気に押し寄せてくるのが分る。
だけど、ここでいつまでも踏み止まっていては、ドラえもんを探しに行けない。だけど、体が言う事を聞かない。まだ会って少しだと言うのに、何年も会っていなかった母の様に思えて来る。その胸に飛び込みたい。この体が優しさを求めていた。

「………ごめんなさい」

だけど僕は、進まなくてはいけない。僕の中の何かが訴えかけてくるのだ。

「そう…、それは残念ね。ならせめて、朝食はご一緒しましょ?」

如何してこの人は、僕に優しくしてくれるのだろう?だけどその言葉は素直に僕の心に届き、その恩恵に与ろうと思った。



―――――――――ゴトッ。
床に鈍い音が響いた。振り向けば底には茶碗を持ったまま床に伏せている少年。

―――のび太だ。

この子が私に抱いている感情はなんとなく分っていた。故に私はそこに付け込み、特製の睡眠薬入りの食事を与えた。それを美味しそうに食べる姿………滑稽ね。
まず意識を失ってもらった。そしたら今度は洗脳し、その後に子のこの潜在能力を引き出す。我ながら手の込んだ作業に嫌気がさす。
何度かこの子に催眠術を施そうとしたが、悉く失敗に終った。恐らく免疫があるのだろうと思う。だから今回は少し強力なお薬を食事に混ぜ込んだ所…フィッシュ!じゃなくてヒット!全く、てこずらせてくれるわ。

「ふん。まったく、焦らせてくれるわ…」

正直、今朝の行動はど肝を抜かれた。一晩で私の作戦に気付いた!?っと勘違いし掛けた。が、どうやらこの子は存外単純らしい。少し微笑んだだけで心を揺する事が出来るなんて………無邪気すぎて絞め殺したくなる。
安らかに眠るその頬を軽く摘み、引っ張ってみる。肌は柔らかく、結構伸びる。少し羨ましい。
手から茶碗をもぎ取り、足を掴み引きずりながら部屋を出る。まさか一口で落ちるとは…。

そして一つの部屋に入る。周りには魔術的なものがチラホラとは位置されている。ここは簡易的な私の魔術工房。ちょっとした事ならここで事足りるので、以外に重宝している。
少年を椅子に座らせ、暗示を掛ける。大した技術は必要なく、瞬時に少年の中に入り込む事に成功した。

―――記憶を探る。本来、余り必要ないプロセスではあるが、この少年には少しばかり興味があった。

どんどん沈んでいく。この少年の中の心想世界は、分りやすく言うなら大小色とりどりの泡の世界だ。
しかもその泡の一つ一つが本来ありえない形をし、何かをかたどっている。
扉の形をした泡や、刀の形。布のように揺らめく泡や、人形の様な形の泡など様々な形の泡が漂っている。
そして、その泡の中には、まるでテレビドラマのようにとある出来事の映像が流れている。
その映像のどれもが、とても輝いて見えた。
中でも、しきりにノビタが語りかける相手が奇妙だった。

―――青い、マトリョーシカみたいなのが動き回ったいる。

だた、そのマトリョーシカが、お腹に付いているポケットから出すアイテムには、圧巻の一言だった。
どんな人でも空を飛ぶ事が出来るタケトンボの様なもの。物体を簡単に大きくしたり、小さく出来るライト。引っ付けただけで壁をすり抜ける事が出来るフラフープ。まるで現代の子供が描く夢の世界の何者でもなかった。

コレがこの子の記憶?正直疑う事しか出来なかった。
もしかしたら、この子は何かの妄想に囚われているのではないだろうか?記憶にいつも登場するマトリョーシカは、彼の頭の中の架空の存在なのか?と。
しかし、記憶は鮮明で、ここ一年近くの記憶全てに謎の物体が登場している。
先ほども少し会話を交わしたが、この子が心を病んで妄想に囚われている様にはとても思えなかった。
そのまま彼の記憶の世界を通過する。
普段から酷い虐めを受けている事。想いを寄せる子がいる事。幼い頃、大好きだった祖母が他界した事。この子にも、いろいろなドラマがある。彼は小学生としては、立派な人生を送っている。将来はかなり優秀な人になるだろうと、まるで母親の様な事を考えながら進んでゆく。

それから程無くして、心想世界の最深部に到達した。
しかし、そこは余りにも信じられないほどの静寂で、辺りは暗闇が支配していた。
彼の心の闇は、普段は分らないが、友人からの嫌がらせや肉親との喧嘩などによって、その場では解消されたと思われていた負の感情は、放置した泥水のように、そこに沈んで沈殿していたのだ。
酷く痛々しく、そして同時に、私は怒りを感じた。

ここには、彼以外の何かがすんでいる。

そしてそれは、彼の心の闇をより一層深みを増している。
しかし同時に、それが彼の魔力を生み出している事が解った。
そこで私は本来の目的を思い出した。何を考えているのか。今は彼の闇を取り除くよりも先に、洗脳する事が先だ。
私は、早々に彼の記憶から抜け出し、洗脳の作業を開始した。



[18662] 十一、怒りは必然に
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/07/04 19:05
「ふぬううううぅぅぅぅおぉぉぉぉおおおおおおおお!!!」

バーサーカーとの大立ち回りの後、各々大した傷もなく無事に衛宮低に帰還した一同。
その晩、帰宅するなり士郎が完全に意識を失い、セイバー達が寝室につれて行った後、その晩は解散となった。
しかし、ドラえもんは昨晩から不可解な唸り声と傍迷惑な暴挙を、翌日の朝まで繰り返している。(具体的に、暴挙は地団駄である。)
そしてそれは、亭主である士郎が起きても続いていた。

「ぐううぅぅぅぬううおおおオオオ!!!」
「………」

ドンドンドンドン!!!

相変わらず続くドラえもんの暴走に、一同は唖然を通り越して、最早呆れていた。
ドンドン、ベギッ!!!
居間に響く不愉快な音。遂にドラえもんは床を踏みぬき、少々踏鞴を踏んだ。だが、ドラえもんはその足を引き抜き、何事も無かったかのように次の床へ向かい、再び地団駄。
その回数、およそ五十合。
あくまで推測ではあるが、床がそんだけ空いているのでそうだと考えたに過ぎない。因みにセイバーは三十ほどで数えるのを諦めた。
士郎に至っては、「………なんでさ」と一言残し、先ほどから一言も発する事なく、屍の如くドラえもんの暴挙をただ眺めていた。
凛は最早シロウのその姿を哀れみの目で見ていた。恐らく士郎の内心は「俺が何をしたって言うんだ…」っとでも考えているのだろう、と勝手に憶測し、その哀れな姿に合掌。

またしても床を踏み抜き、新たな獲物を求めるが如く、床を見渡すドラえもん。しかし余りにも踏み抜いた床が多く、最早士郎やセイバー、凛の座っている部分しか残っていなかった。

「あの、ドラえもん。先ほどから一体何をしているのですか?」

ドラえもんに出来た些細な隙をセイバーは見逃さなかった。先ほどから何度か会話に持ち込もうとしてはいたが、ドラえもんは唸り声で答えるだけ。しかし、この瞬間にドラえもんの中に僅かな余裕が出来たと踏んで、セイバーは声を掛けた。これに応じれば何とか止められる。しかし、コレに応じなければ最早打つ手無し、手荒い真似をするしかない。セイバーはそのわずかな可能性に賭けた。
そして―――――――――、

「………床を、踏み抜いてます」

来た!セイバーは賭けに勝った。ここから会話の輪を広げ、原因の解明と解決の糸口を見出せる!

「いえ、それは存じ上げております。しかし何故、床を踏み抜いているのですか?」

この期に及んでそんな答えは聞いていない。しかし焦りは禁物。外交や交渉は忍耐が重要。慎重に進めなくてはならない。

「………それは―――」
「それは!?」

意を決したかのように目を見開き、その重たい口を満を持して開いた。

「――――――悔しいからです!!!」
「………は?」

その瞬間、その場にいる全員が固まった。


―――十一・怒りは必然に―――


「―――つまり、」

頭を抱えながら凛が口を開いた。

「つまり、アンタはあの小娘の『たった』一言が気に食わなかったと?
気が晴れないから士郎の家の居間をひたすら踏み抜いたと?」
「………ごもっともです、はい」

現状を説明するならば、ドラえもんらは今、中庭にいる。
ドラえもんが口を開いた後、迅速に凛がガントをドラえもんの頭部に命中させ、セイバーが押さえ込み完全にホールドした。その後、動けるほどに回復した士郎に中庭に穴を掘るように命令し、その穴に首から下だけを埋め、残りは出している。
後ろから見たそれは、どうあっても青い巨大な饅頭でしかなかった。

「被告人。何か異議申し立ては?」
「何もありません…。今回の一件は、僕の一方的な過失であります」

最早完全に反省している様子。その姿に少し切なさを感じた士郎。何せ頭しか無い物体が反省の表情をしているのだ。どう見てもコメディーかホラーのどちらかだ。その姿に悲しみが見え隠れしているあたり悲しすぎる。
セイバーは後ろに振り向いて微かに肩が振るえている。こいつ、笑っていやがる。
はぁ、と大袈裟に息を吐いて、被告人を見つめる裁判長。その視線はまさに処刑人と言っても過言ではなかろう。
竦み上がるドラえもんに、判決を下した。

「被告人、ドラえもん。有罪」

がーん!と擬音が降り注いだ。追い討ちの如く凛は続ける。

「被告は、己が破壊した床、及び家具の修理を命ずる。
以上、コレにて閉廷。」

判決は下った。裁判長は席を立ち、その場を後にする。
参列者も後に続く。その列や葬式の如く静まり返っていた。
その背をドラえもんは静かにその後姿を見つめていた。
微かな疑問を抱えながら…。








ぼくは、いつになったら出られるのかな?



[18662] 十二、穴があるなら入りたい
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2010/07/21 12:44
『ドラえもオオオおおおおおおおおおおおおおおオオオオん!!!』
麗らかな日の昼とも夕方ともつかない時間には、いつもこの声が聞こえていた。
半べそ混じりの声。自分を求めている声。中身はどうあれ、不良品であったはずの自分はこの少年に必要とされている。その事に喜びを覚え、なんとなく彼のわがままに応じて仕舞う。
悪い癖だとは思うが、彼の必死に訴える目には敵わない。
玄関を翔け抜け、廊下を走り、階段を駆け上る音が家中に広がる。そして自らの襖を壊さんばかりに強く開け放った襖の音。今思うと全てが心地良かった。
何だかんだ言いつつ、内心は喜びに満ち溢れていた。
そして、こんな生活が、いつまでも、続けば良いのにとさえ、思っていた。


だが、目の前にはその日々は無かった。


あれだけ望み、あれだけ守ろうとしてきた物が、目の前に無い。
何故行動しなかったのか。何故すぐにでも探さなかったのか。どうして守りたかった者を優先しなかったのか。
確かにこの町で起きている事件は凶悪。ならば尚更のび太を救うために動かなければならなかったはず。例え現状の理解のためとはいえ、少し軽率すぎたのではないか。昨日の晩は何をした?他人の家の床を片っ端から抜いていたではないか。ましてやその理由が、自分がからかわれただけだと?今にして思えば、穴があるなら入りたい気分に駆られる。

実際、穴には入っているが…。


―――十二・穴があるなら入りたい―――


取り合えず今この町に起こっている事は、昨日の時点で大体把握出来た。しかし、この町は大きくは無いが、虱潰しで捜索するには少々大きい。

ここはやはり、道具を使うか。

別に出し惜しみしていたわけではない。道具は幾らでもあるのだから惜しまず使うのがいつもだが、今回はいささか勝手が違う。

まず一つに、サーヴァントの存在。
昨夜、教会でモジャモジャから聞いた話によると、あれはどうやら過去に存在したとされる神話の英雄。
大した違いは無い。神話や住居の様子、食事に生活サイクル。床などから大体は自分らの居た町と大差ない。ここは間違いなく『日本』。
しかし疑問がいくつか浮かぶ。神話とは人の空想から作られた一種の御伽噺の様なもの。その元になった人物ならまだしも、その神話に直接登場する英雄が召喚されると言うのは一体どう言う事なのか。それに神話とは古くより信仰されているもの。つまり古より伝わる話に登場する人物を『呼ぶ』と言う事はつまり死者を生き返らす事だ。

しかし、モジャモジャの話しによるなら、あれは霊体。魔力なくして限界出来ない存在なのだとか。
精霊を降霊する…。そしてそれを用いて殺し合う。本来触れる事も叶わない霊、それも英霊と呼ばれる精霊格の死霊を行使するこの戦争は、文字道理馬鹿げている。
彼らは自由に霊体化できると言っていた。ならばその状態で町を徘徊している輩が居るかもしれない。
居場所はばれないかもしれないが、万が一見つかったりしたら破壊られる可能性がある。
このタイミングで道具を減らすのは余り得策では無かろう。

もう一つは、魔術師。
彼らは普段は一般人と同様、普通に生活している人たちもいる。
それを考えるなら、未だ分り切っている魔術師の人数の少なさを考えると、こちらも危惧しなくてはならない。
同様に破壊される可能性がある。
道具がそう簡単に壊れるとは思えないが、魔術師の力が未だ未知数な所も多い。下手に動く事はドラえもんであっても厳しい。
ここはやはり、士郎達に付いて行くしかないか…。

ふっとため息をつく。この一瞬で少し考えすぎたか。しかしまともな案が余り思いつかない。この一時も常にのび太は危険に晒されていると言うのに…。罪悪感と不快感が胸の中を駆巡る。なにも出来ない自分。土に埋まって居る自分に更に嫌気がさす。あぁ太陽がまぶしい。顔を覆うにも、未だ手は土の中。
一体、僕はいつになったら出れるのだろう………。
そしてまた思考の海に、ドラえもんは泳ぎに行った。


「………なあ、遠坂」
「何よ士郎」

台所で昼食の準備をしながら、居間でテレビを見ながら寛いでいる士郎に声を掛けられた。

「ちょっと、あれは酷すぎたんじゃないか?流石に土に埋めるのはどうかと思うぞ?」
「あら、そうでもないと思うけど。
だって、士郎の家の床を片っ端から踏み抜いて行ったのよ?歩くのどんだけ苦労したと思ってるのよ」
「いや確かのそうだけど―――って遠坂。いつから俺の事呼び捨てに?」
「あら良いじゃない。これからは協定を結んだもの同士、仲良くやろうって言う意思表示よ」
「あぁ、なるほって協定!?いつ結んだんだそんなもの!?」
「いつって、今朝。ついさっきよ?もぅ忘れちゃったの?」
「いや待て待て思い出すぞ…。うん、ヤッパリ知らないぞ」
「何言ってんのよ。さっき私が『協定結びましょう』って言ったら貴方『あぁ』って言ったじゃない」
「ば、お前!俺がボーとしている時にそんな事を!!!」
「隣にセイバーも居たし、別段困った事もないでしょ?
…だけどセイバーは何か『士郎はわ……ません』とか何とか言ってたけど…、何か心当たりある?」
「?いや無いけど…。そういや、昨日のあのデッカイのと打ち合っていたときにも何か言ってたな…」
「何て言ってたか覚えてる?」
「昨日ボソボソッとしか聞こえなかったからな…。確か、『Aランク』がどうとか」
「Aランク?」

その言葉を聞いてフライパンを動かす手を止めた。
Aランク―――。何のステータスを表している?宝具か?
しかし何でセイバーがそんな事を?あの一瞬でバーサーカーとAランク宝具に関する何かの因果関係を見出した?まだまだ未知数のセイバーだが、モシそのようなスキルがあるならどこの英雄だか少しは分るかもしれない。てか本人に聞くのが早いんだが…。

「とりあえず、その話を聞く限りセイバーはバーサーカーの何かを掴みかけているのかも知れない。
どちらにせよ、バーサーカーとAランク宝具は何かあると思うの」

「あぁ。それは俺も思う。だけどどう繋がるのかが良く分らない…」
「こっからは私の推測だけど、結構いい所を付いていると思う。良かったら聞いてくれる?」
「あぁ、構わない」

体を向き直し、ドラえもんの空けた穴に片足突っ込んだ状態でコッチに顔を向ける士郎。
はっきり言って、間抜けだ。
まあそんな事言ってたら、家の床が穴だらけな事を余りなんとも思わない士郎の精神は少しおかしいと思うのだが…。

「昨日の戦闘を見た限りだと、バーサーカーは恐ろしく頑丈。アーチャーの矢やセイバーの剣が全く歯が立たなかった。これは多分、相手の宝具だと思うの」
「待て待て、何でそんなふうになるんだ?
第一情報が少なすぎる。そんなに結論付けるのを急ぐ必要は―――」
「だから言っているでしょう。これはアクマでも推測。論点を間違えないでね」

むぅと少し唸ったが、士郎は少し静かになった。

「話を戻すけど、あれは宝具だと思うの。唯頑丈なだけでアーチャーとセイバーの攻撃を退ける事なんて出来ない。ならあれには何かあるはずよ。
そしてセイバーの発言に一部。『Aランク』多分これは相手の宝具の事を言っていると思うの。
つまり、バーサーカーの宝具はAランク宝具!コレで間違いないわ!!!」
力いっぱい拳を掲げ、絶対勝利を確信した。

が、その場に異を唱えるものが現れた。

「それは違いますリン。彼の宝具のランクではありません」

声をした方を振り向けば、そこにはセイバーが佇んでいた。



[18662] 十三、別れは突然に
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9274639e
Date: 2011/12/12 21:13
「ちょっとセイバー、それどういうこと?」

凛の迷推理を一瞬で否定したセイバーに、不満げに言葉を漏らす。

「私にもよくは分りません。ですが、此度の聖杯戦争に関して、少し思い当たるところがあると言うか、なんと言うか…」

どうも歯切れの悪いセイバーの言葉に、一同は眉をひそめる。

「なぁ、セイバー。いったい何言ってるんだ?」
「私にも分りません。正直、少し混乱気味ではあるんですが、召喚時のトラブルかもしれません」

まったく意味が分らない。それに、それとバーサーカーの関係性がまだはっきり分らないのでは話に成らない。

「あのなセイバー。それとバーサーカーと、いったい何の関係があるんだ?」
「私は以前、彼と剣を交えた事がある」 


―――十三・別れは突然に


「私は以前、彼と剣を交えた事があるっと言っているのです」
………へ?

何かとっぴ押しもないことを言うセイバーに、士郎と凛は思わず凍結した。
辺りに静寂が訪れる。が、場が白けたことで居心地が悪くなったのか、静寂を破ったのはセイバー本人だった。

「非常に曖昧ではありますが、確かに彼とは剣を交えた事があります」
「…それ、ほんと?セイバー?」

信じられないように聞き返す凛。士郎は事態が把握できていない。

「なぁ、遠坂。それがあるとないとじゃ何が違うんだ?」

クワッ、と士郎の方へ向き直る凛。なんていうか、その顔は般若に似ている…。

「士郎、あんた今まで何聞いてたの!?
相手と戦った事があるってことは、相手の手の内が少なからず見えるってことよ!!!」

あぁなるほど、と納得する。
つまり、相手を知ってるってことは、作戦の幅が増え、時に相手を封殺し、時に相手を利用することが可能な訳だ。

「じゃあセイバーは、あいつのこと知ってるんだな?
あいつ何者なんだ?」

あの化け物の正体を知りたい。何よりもまず、そのことが気になってし方がない。
あんなのが神話の時代にはワンサカ居たのだろうか…。

「彼の名は、ヘラクレス。かのギリシャが誇る大英雄です」
「「へ、ヘラクレス!?」」

聞いた事はある。その名は、遠く日本でも知らないものはほとんど居ないほど有名だ。
大英雄ヘラクレス
かのギリシャの主神、ゼウスの息子にして無類の怪力を持ち、その名は力の代名詞として広まっている。
幼き頃は毒蛇を握りつぶし、年を経て今度は幾多の試練を乗り越え、不死に成った英雄。
だが最後は、皮肉にも最愛の妻によって、此の世をさる事と成った。

セイバーは、軽くうなずくとそのまま続けた。

「彼の宝具は武器ではなくその肉体、『十二の試練』と呼ばれる概念宝具です。
これは彼が乗り越えてきた試練を超えなければ彼を倒し得ない、というものです」

一同は、この言葉に思わず絶句した。
あの化け物がまさかあのヘラクレスだとは思わなかった。
だが、それよりも驚いたのが、セイバーの情報だ。

概念宝具、『十二の試練』

単純にその効果を聞いた限りでは、彼と同じ試練、つまり伝説上の『十二の試練』を超えなければならない、そうセイバーはいってる。

「つまり、やつには勝てないってことか?」
「いえ、そのような事はありません」

士郎の中にあった絶望的な考えは、呆気なく打ち破られた。
だが、そこに残るのは混乱だけだった。

「どういう事だセイバー。いってる意味がゆく分らないんだが…」
「申し訳ない、マスター。記憶が曖昧で、これ以上の事は…」
「てかセイバーって、ギリシャの人だったのか!?」
「それについては、あえて口にしません」
「……なんでさ」

再び舞い戻る沈黙。セイバーの情報により、相手の真名と宝具に付いては分かった。
が、返ってその情報が仇となった。

相手は英雄ヘラクレス。
その死の原因は毒。ヒュドラの毒とされている、がこんなもの現代にあるはずも無く、コレでの討伐は不可能となった。
残るは一つ、彼と同じく『十二の試練』を超えることだが、最早言うまでもなく、却下となる。

暗中模索。前途多難とはこの事か、っと士郎は思い悩んだ。

ビクッ、と突然凛が頭を上げ、セイバーの方に振り向いた

「セイバー、アンタ私の考えを否定したわよね…。
その事について、まだ答えが返ってこないんだけど」

はっとした。思わず聞き漏らしそうだったが、その情報は予想以上に大きい。その重大性を把握した凛はいち早くセイバーを問いただす事が出来た。

「ねぇ、セイバー。『Aランク』がどうこうって話し、聞かせてくれない?」
「わかりました。
彼の宝具、十二の試練ですが、あの鉄壁の鎧は『Aランク』以上の攻撃しか受け付けません」
「え?じゃああいつにダメージを与えるためには―――」

「はい、Aランクの攻撃を連発するしかないです
それも、同じ攻撃は二度は通じず、全て一度きりの攻撃です」

これまた厄介な問題にぶち当たった士郎達だった。

★☆★☆

薄暗く、薬剤の匂いが充満した小部屋。
窓は締め切られ、扉は硬く施錠されている。といっても、誰も進入するものなどいないが。
部屋の中心には、魔術で書かれた魔法陣。その中心には二つの人影があった。

キャスター、メディアとのび太だ。

魔法陣の中心で、仰向けで瞼を閉じているのび太。
その姿は、さながら黒魔術の生贄のように見える。
その頭の上で、優しく、まるでいとしの我が子を愛でるように、静かに頭を撫でるキャスター。

不意に、その形のいい唇が、静かに呟いた。

『おはよう、のび太』

少年は、死人のように静かだった瞼を、ゆっくり開いた。
そのまま反動を付けず、まるで操り人形のように上体を起こした。

キャスターは優しく微笑みながら、さっきよりも大きな声で、さっきと同じ言葉を呟いた。

「おはよう、のび太」

その声に反応して、まだ青白い顔を静かにキャスターに向け、笑顔で答えた。

「おはよう、ママ」



[18662] 十四、哀愁
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:3c655438
Date: 2011/05/24 21:18
「まぁ、今ここで悩んでいても解決しそうにないし、
私一回帰って荷物とって来るわね」

静まった空間に水を刺すように言うと、ヨッコイセと言いながらその場から立つ凛。
状況は依然として悩みどころである。しかし、早急に決めなければならないかと言われると、そういう訳でもないのだ。
また再びバーサーカーが自分たちの前に現れる可能性はある。しかしそれは今すぐではないのだ。
なぜなら、あの白い少女は「セイバーの戦力を確かめたかった」と言っていた。つまり、他のサーヴァントの能力も確認する可能性がある。これはつまり、時間が少なからずあると言う可能性も秘めている。


なら今考えるべきは、最大の敵よりも他の敵に目を向けるべきと判断したのだ。




十四、哀愁




戸を引く音が聞こえた。凛が家から出たのだろう。士郎はボーッとそんな事を考えながら、縁側に向かった。
そこには相変わらず置物のごとく存在するドラえもんの頭。

なんと言うか、哀れとしか言えない。

「なぁドラえもん。お前の探してるのってどんな子なんだ?」

士郎はそんなドラえもん声を掛けた。
なんだか、居た堪れなかったから。
暫くしても返事がないと思い、再びボケっとしようとした時、静かに彼が語りだした。


「僕の、かけがえのない親友です」


そう彼は言った。かけがえのない親友。それは、誰にでも言える言葉ではない。だが彼はいった。そうであると信じて。

「小学生で、まだまだ世間知らずで、いじめられるとすぐ泣いて僕に飛びついてきて…」

言葉一つ一つに皮肉と、親しみを込めて紡ぎだされるそれは、

「いっつも僕の道具をねだって、ロクに使い方も聞かないで使って、失敗して…」

まるで手の掛かる弟のように、まるで愛情を注ぐ息子のように、

「それで反省して、けど学習しないどうしようもない奴です」

親しみと、友情と、無類の優しさを込めた言葉は、問わず語りに出てくる言葉であっても伝わる物があった。
士郎は黙って聞き手に回った。ほんとは特徴などを聞いて、独自に捜索をしようと思っていたが、今は彼の話を聞く事にした。

「あいつはいつもそうだ。無鉄砲で何も考えないで突っ走る。だから失敗するのに学習しない!」

愚痴のように聞こえるが、後ろからでも分るぐらいに嬉々とした語りに、思わず微笑を浮かべる。そして何と無く、彼の親友を思い浮かべる。

「でも、だからこそ、僕は彼から目を離せないんです」

そして彼も、ドラえもんのことを思っているのだなと、思える。
語り終わった後のドラえもんは、さっきの静かさから一転。随分明るく成ったように思える。
おそらく、大分思いつめていたのだろう。自分が、彼の役に立てたのならそれで良い。士郎はそう思いながらスコップをとりに行く為に立ち上がろうとした時、その異変に気がついた。

台所のフライパンに、調理中の料理がある事に。

「…遠坂の奴、料理途中じゃないか」

そんな悪態をつきながら台所に向かい、調理の続きをしようと火を掛けた。


☆★☆


かくして洗脳は終了した。彼には私の事は『母親』と認識するようにしておいた。
こうしておけば何かと都合が良いと思ったからだ。主に勘の辺りで。


こうする目的は二つあった。


一つ、この子に何の疑いもなく私に付いて来させる為。
これをするなら傀儡にでもしてしまえば良いのだろうが、どうもこの子にはそういった魔術が効かない。私の術をもってしてもだ。
そういう訳で妥協。睡眠薬飲ませて記憶をすりかえる、何とか手の込んだ手段で彼を掌握した。

……何なんだろうかこの子の魔術耐性は。

二つ、この子を研究に使うため。
先の理由で傀儡には出来ない。だが研究はしたいのだ。この子の能力は、他の魔術師とは違う。故に、他の魔術師と同じ教育法では才能が伸びない。だが、私なら出来る!!!
これだけなら別に洗脳しなくてもよかったんじゃね?見たいに思いはじめているけど、もうどうでも良いわ。

そんなこんなで夜。いつものローブを羽織、この子にあるモノを見せに山門までやってきた。

「……?ママ、ここでなにやるの?」

あらかじめ『何かをやる』事は教えてあるが、内容までは教えてない。

「これからね、とっても凄いことをするのよ」

優しく微笑みながらそう言うと、のび太は黙って笑い返した。
そんなやり取りを終え、私は杖を取り出し地面に突き立て、動かしだす。
程なくして出来たのは模様。そう、『サーヴァント降霊』の魔法陣だ。

この魔法陣事態に意味はない。要するに気分だ。
のび太も何と無くその様子を見ている。そう言えばこの子は興味があることに対して物凄い記憶力と頭の回転力が向上するらしい。空間把握能力にも長けているみたいだ。

じっと図を見詰めるのび太に一言声を掛けて、呪文を唱えた。

程なくして現れる一つの影。そう、ここに『サーヴァント』が降臨した。
正直、どんな英雄が出てくるのか楽しみであった。自分の下僕は、一体どんな強い戦士なのだろうか…と。
そして満を持して出て来た影。さぁ、力をここに!!!


「…アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。推参いたした」


ニヒルに笑う侍が出てきた。



[18662] 十五、願いは必然に
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:3c655438
Date: 2011/05/30 19:08
調理を終え、庭に埋まっていたドラえもんを救助した士郎は、ドラえもんに

「少しまっていてください」

と言われ、庭で一人スコップを抱えていた。
かく言うドラえもんは、先ほどからお腹のポケットをまさぐり、何かを探しているようだ。そう言えば、ドラえもんはあの中は四次元で、どんなものでも入ると言っていたが、実際あの中には一体何が入っているのだろうか。
バーサーカーと戦ったときも、あのポケットから赤い布を出した。そして布一枚であの怪物と渡り歩いていた。あのセイバーやアーチャーの攻撃を物ともしないバーサーカーを、防戦一方とは言え無傷で立ち回ったのだ。
………気になる。

「なぁドラえもん。その中には一体何が入ってるんだ?昨日も聞いたし、実際みて見たけど、イマイチわかんないんだよな」

その言葉にドラえもんはムクッと顔を上げ、嬉しそうに説明をし始めた




―――十五・願いは必然に―――




「これは『四次元ポケット』。正式名称は『ロボット専用四次元空間内蔵秘密道具格納ポケット』と言いまして、昨日凛さんが説明した通り四つの次元の要素を取り入れたポケットです。」

そこで一息ついて、再び説明。

「このポケットの中には、大きさを考えさえすれば、ほぼ無限に物を収納できます。それこそこの家の物全てを収納することも出来るんです。まぁ大きさと言っても、この家くらいでしたら問題ないと思います」

さらっと物凄い事を言ってくれる。

「えっと、じゃあそんなに沢山の物を入れたりしたら、取り出すとき不便じゃないか?」

当然の疑問だ。幾ら無尽蔵の許容量があろうとも、それを取り出せなくては意味がない。
だがその疑問も、この物体の前では無意味なのだろう。

「このポケットには『イメージ検索機能』と言うものが付いているので、出したい道具を頭の中でイメージするだけでポケットの中のコンピュータが探しだしてくれるのです!!!」

メチャクチャ嬉しそうにハチャメチャな事を言う。最早呆れるほかない。ため息を一つついてドラえもんに作業を続けてくれと指示した。
再びポケットに手を突っ込むドラえもん。そしてすぐに手を引っこ抜いて高々と掲げた。手には―――

「………砂時計?」
「ムシャクシャタイマー!!!」
「!?」

突然叫びに思わず飛び上がる士郎。だが構わずドラえもんは説明する。

「この道具はデスネ、むしゃくしゃして壊した物を跡形もなく元通りにする道具なのです!ちなみに使用回数は四回まで」

聞く限りではまたしても物凄く無茶苦茶な代物だ。なんせ一回壊した物を戻すのだから。だが説明を聞く限り限定条件があるの当たり現実的かもしれない。これ聞いたら遠坂どんな反応するんだろう。などと考えながら士郎は事を見守ることにした。
テクテクと自分が踏み抜いた床へ歩み寄るドラえもん。そして先ほどの砂時計をひっくり返し、床に置いた。
そこで見た光景に、士郎は言葉を失った。

バラバラに飛び散った木片が、まるでビデオの巻き戻しをしているかの如く元の位置に戻ってきているではないか。たとえ魔術師の(半人前ではあるが)士郎であっても、度肝を抜かれた。大人しく座っていたセイバーも、これには驚きを隠せずにいた。

「まさかこの時代に、…ーリンのような奇術を使うものがいるとは……」

少し聞き取れなかったが、どうやら驚いているようだと士郎はおもった。
セイバーはドラえもんに話しかけた。

「ドラえもん。貴女は魔術師だったのですか???」
「?…僕はネコ型ロボットです!」
「馬鹿な。ならば何故耳がないのです?」
「……」

あ、今物凄くげっそりした顔になった。
そしてまた二人は話しこむ。

「ほう。では、未来ではこのような道具が市場に出回っていると…」
「はい!未来では「未来デパート」という大型でパートなどで売られています!」
「それは面白そうですね。昔はそんな便利な道具も、デパートもなかった…。良い時代になるのですね」
「そうですね~」
「……」

セイバーが遠くを眺めながらそう呟いている。なんだろうこれ、どうすれば良いのだろう俺。みたいな事を考える士郎。

「ドラえもん、私にも道具とやらを使わせてください」
「どんなのが良いですか???」
「では以前、あなたが姿を消した時に使っていた物を」
「『モーテン星』~!!!」

どうやら二人とも仲良くやっているようだ。その姿を目に焼きつけ、士郎は穴を埋める作業を開始し始めた。ドラえもんに頼めばこんな物、一瞬で埋まるのだろうけどあえてそれはしない。なんか二人の楽しい空気を引き裂きたくないから。


程なくして、穴だらけの床が元に戻る頃。士郎も穴を適当に埋め終わり一息ついていた。
そこで一同は改めて、『聖杯戦争』について話をする事にした。

未だ理解していない士郎のためのおさらいを兼ねて。

「聖杯戦争とは、先に説明があったかと思いますが、どんな願いでも叶える願望機『聖杯』を求めて魔術師が戦う七人だけの戦争です」
「なるほど。それで英霊が必要なのか?」
「はい。聖杯には敗れた英霊の魂が『座』と呼ばれる場所に帰還するときに生まれる魔力を利用して機能するものです。
他の魂では小さすぎ、我々以上の存在になると神格レベルになり、呼び出せなくなるのです。英霊は召喚に応じ馳せ参じるのです」

セイバーの言葉に少し納得する士郎。そこで手を上げたのはドラえもんだった。

「セイバーさん。召喚に応じ、ってことは応じない人たちもいるんですか???」

その質問に、セイバーは少し頷き答える

「いい質問ですね、ドラえもん。その可能性も有りますが、大抵の英霊は魔術師の召喚に応じ、彼らの前に現れます。『座』から我々はこの時代に降り立ちます」
「なんで彼らは応じるんですか???」

セイバーはそこで一息つき、再び口を開く。

「それは彼らが、私も含め多くの英霊が魔術師と同じく『聖杯』を求めているからです。彼らにも生前、叶えられずにいた願いの一つや二つあります。無論私にも。そして、魔術師が聖杯を降霊し英霊が聖杯を受け止める。それが我々と、貴方方の関係です」

そこでセイバーは士郎に目を向けた。言葉とは裏腹に、何か深い物を詰めた重い瞳には断固たる決意が見え隠れしていた。
聖杯を手に入れる、というよりももっと別の何かが……。

「それを踏まえて貴方に聞きます。士郎、貴方の「願い」はなんですか?」

じっとその言葉を士郎は聞いた。自分の願い、士郎は自問した。
衛宮士郎。幼い頃に冬木市に起きた災害の犠牲者にしてたった一人の生き残り。養父である衛宮切継に憧れ、『正義の味方』を目指す男。
傍から見ればこの様な夢、今時の子供だって見ないだろう。だが、士郎は一途に追いかけ、日々努力をしていた。彼の願いは正義の味方になること。故に彼が口にした答えは―――

「セイバー。俺に「願い」は無いよ。俺は、俺自身の力で掴む」

そう静かに、力強く宣言した。
セイバーはどんな反応するだろうか。怒鳴って怒るか、もしかしたら「裏切り者ー」と言って斬られるかも知れない。とりあえず何もかも覚悟し、士郎はそう告げた。そしてセイバーの反応は―――

「……はぁ、どうせそんな事だろうと思いました。全く、貴方は無欲な人だ…」

予想を反し、呆れていた。

「アレ、セイバー?」
「あなたがそんな事を言うくらい想像できます。余りに予想通り過ぎて拍子抜けです」

どうやらガッカリさせてしまったらしい。
だけど、その顔には少し笑みが見えた。士郎もその顔を見て笑みを漏らす。

「む?何をにやけているのですシロウ。まだ話しは終ってませんよ」
「ん、わかってるよ。続けようじゃないか」

どことなく二人の間の空気が和み、二人の仲が縮まったのを確かめ、ドラえもんはゆっくりモーテン星を胸に付けた。


アトガキ―――

ども、トマトケチャップです。暫くうp出来なかった事、心よりお詫び申し上げます。
個人的にバトルが好きで、どうしても戦闘シーンしか頭に浮かばず、気が付いたらこんなに間が開いてしまいました。
是非また応援していただけるように、頑張りたいと思いますので、これからも宜しくお願いします。



[18662] 十六、謎は必然に
Name: トマトケチャップ◆4daf4c7d ID:9e2508d7
Date: 2011/12/14 18:27
「………」
赤い騎士は冬木の洋館の屋根からエミヤ邸を見下ろしながら、形のいい眉の間に深い溝を作っている。
その視線の先にいるのは衛宮士郎―――ではなく、例の青い「自称」ネコ型ロボットであるドラえもんだ。
今までの一部始終をこの目で見ていたが、あまりに信じられない事が続いた。
バーサーカーの攻撃を受け流せるほどの布、姿を消せる星。そして四次元につながるポケット。本来あり得ない物の数々に、凛だけでなく遠くから見ていたアーチャー自身も驚いていた。
彼は過去に聖杯戦争に参加した張本人。そして視線の先の屋敷の主である衛宮士郎の未来なのだ。ゆえに二つに驚いている。

一つは、彼がまだ『士郎』だった頃に、あのような面妖な物体は姿を現さなかった。あまつさえバーサーカーを撤退させるなどありえない。ついでに床を破壊された記憶も無い。
二つ目はその道具だ。先も言った様に、どこでもに行けるドアや時を遡る砂時計に驚嘆し、体が震えるのを感じた。だが、その理由は凛とは似て非なるものだった。二度と見る事は無いと思っていたもの――――――


「何故、あの出鱈目な物が、『この時代』にある……」




―――十六・謎は必然に―――




「野郎共、そろったわね!!!」
「お前はどこの女海賊だ」

妙なテンションで家に入ってきた凛に冷静に突っ込みを入れる士郎。凛はすでに制服を纏っており、可憐なお嬢様の印象がいまだ残る士郎からしてみれば違和感の塊だ。そして士郎の後ろでは仲良く正座して向き合っているドラえもんとセイバー。

「ほう。ではこれはどんな物も大きく、こっちは小さく出来るライトなのですか!」
「ソウです!その名も『ビッグライト』おあ『スモールライト』です!」
「ではこれでおやつの鯛焼きなんかを大きく………、ぐへ」
「ソウですおやつのドラ焼きなんかを………、ぐへ」
「「…………」」

人とはこうも欲に貪欲なのかと改めて痛感した士郎と凛。そして二人は剣の騎士にあるまじき顔をした少女に出来るだけ目を向けないように中に向かい、お互いに見える位置にテーブルを挟んで座った。

「さて、本日の議題は我々の『今後の行動』について話したいと思うんだけど、何か質問はあるかしら?」

こう切り出し凛に士郎は勿論、先ほどまで黒い笑みを浮かべていたセイバーやドラえもんも振り向き、首を横に振る。

「満場一致と言う事なので…、では始めましょう。まず最初に士郎」
「お、おう」
「貴方は聖杯戦争が終わるまで、この家で待機する事」
「…なっ!?」

最初は大人しかった士郎だが、凛の口から出た言葉に目を見開く。

「おい遠坂!そんなこと出来るわけ無いだろ!!!学校だってあるんだぞ!」
「学校は休みなさい。ついでに外出は控える事。あぁ、藤村先生にはこっちで何とかするから安心しなさ―――」
「そういう事じゃないだろ!!!」

ダンッ、とテーブルを叩き立ち上がる士郎。それを先ほどとは違い冷ややかな目で見る凛。そしてその間を遠くから見つめるしかない一人と一台。
二人の間に流れる沈黙と詰めたい風。だがそれは長くは続かなかった。

「あら、もっと冷静に人の話を聞いていただけないかしら、“衛宮君”?」
「そんな事知るか!自分のみぐらい自分で守れる!悪いが、遠坂の申し出には答えられな――」
「魔術もろくに知らない半端もんが、大口叩いてんじゃないわよ」
「っ!?」

是非もない。確かに凛の言うとおり、魔術と呼べる物はまともに成功した例がない。だが、彼女はまだ士郎の“魔術”を見ていない。だがらここは!

「だったら俺の魔術を」
「私も凛の意見には反対です」
「「え?」」
「…………え?」

なぜか反対した当人も驚きの声を上げ、そのせいで加勢したセイバーも戸惑う。そして更にセイバーは自分が何でそんな事を口走ったかも理解できていなかった。

「へぇ、セイバーはてっきり、私の意見に賛成してくれるものだと思ったんだけどなぁ。サーヴァントの視点で」
「え、えぇ。確かにサーヴァントの視点で見れば、凛の意見は尤も。サーヴァントのマスターとしての常套手段です。
危険な今の冬木を闊歩するなど愚の骨頂。ましてや士郎のような見習い以下の魔術使いなら自殺志願者以外の何者でもない」
「………なんでさ」
「だが、あえて私は凛の意見を一蹴します。いいえ。それは私が賛成しても結局変わらない」
「その心は?」
「士郎には、そんな意見役に立たないからです。いえ、おそらく聞く耳を持たないでしょう」

どうせこちらが折れるまで諦めない。そうセイバーは締めくくった。
静まり返る一同。いや、一人だけため息をついていた。

凛は両手を挙げ、降参のポーズで「わかった。負けよ負け」と後ろに倒れこみながら

「まさかセイバーがそんなに士郎に「ご執心」だとは思わなかったわ」
「「なっ!?」」
「………?」

――――――

「それじゃあ話を戻すわ。現状はいたって不利。セイバーの霊体化が不可能に加え二人にはラインが通じてない。これは絶望的な戦力だわ」

つい先ほどまでセイバーと士郎に引っ掻き回されていたためかいささか髪が飛び跳ねていて、喋っている内容と緊張感が反比例している。
だが、それが深刻だと分かっている二人は真剣な表情でうなずく。勿論髪は跳ねて汗もかいている。冬木の冬は寒いと言うのにこの状態だ。

「あの、凛さん」
「ん?何ドラえもん?」
「なぜそれが深刻な事態なのですか?」

しかし、一部始終を遠くでセイバーと一緒に傍観していたドラえもんは、成敗戦争のシステムは理解したが、魔術師のイロハは分からない。

「そうねぇ…。ねえドラえもん?貴方のエネルギー源は何?」
「ドラ焼きです」

少し考えるそぶりから、凛はソウ繰り出した。対するドラえもんは即答である。

「ドラ焼きです」

大事な事なので二回言っている。

「…そう。じゃあその供給が断たれるとどうなるの?」
「最悪、体内原子炉が停止して動けなくなります」
「「「原子炉!?!?」」」
「あぁ大丈夫ですよ。放射線も放射能物質も撒き散らしてませんから」
『…………』
「ドラえもんってすごいな…」
~~~~~~~~

「話は戻るけど、このエネルギーの供給。つまりドラえもんで言うドラ焼きが魔力で、そのドラ焼きをドラえもんの口まで運ぶレールをラインと言うわ。ここまではOK?」
「はーい」
「このレールにドラ焼きを載せるのがマスター。そして食べるドラえもんが使い魔よ。
通常、魔術師と使い魔はこのラインと言う『絆』によって繫がれているの。特にサーヴァントは魔力がなきゃ現界出来ない。つまりこのラインがサーヴァントがまず獲得しなきゃいけない最重要事項なの」
「お腹がすいちゃいますからね」
「最悪消滅を意味するわ。それはサーヴァントもマスターも願い下げだからね。まぁ普通は召喚したら勝手にラインは繫がってると思って良いわ。
だけど、士郎とセイバーにはそれらしき物が無いの。つまり、セイバーはエネルギーを発散し続けるけど、士郎からの供給は皆無。こういうことよ」
「何でそんな事態になっているんですか?」
「まぁこのアホが未熟だからじゃないかしら」
「…っく!」

凛の一言に反論しようとした士郎だが、言葉が浮かばない。返す言葉も無い。

「とりあえず一つはこういう事。そして更に厄介なのがもう一つ」
「霊体化、ですか?」

霊体化。それはサーヴァントが現界した時に得るもう一つの能力。
サーヴァントはその実、実体化しているだけで魔力を食う。更に戦闘となればその魔力量は跳ね上がる。

そこで、霊体化が使える。

霊体化は実体化と比べると消費魔力量が大きくなくとも減少する。これは魔力の少ないマスターにとっては雲泥の差だ。
更に霊体化したサーヴァントは、他のサーヴァント以外には目視されず、物理法則に従う必要も無いので普段はマスターの傍で警護するとか、街の偵察など行動の幅が広くなるのだ。
だが、セイバーは霊体化ができない。
凛の推測だが、これもラインが通じていない事と繋がりがあるのではないかと仮説を立てた。

「っと、これでいかに霊体化が需要かわかった?
私はアーチャーが霊体化できるから学校に行っても幾分かマシだけど、士郎はセイバーの守りが無いから私は反対なのよ」
「なるほど。大体分かりました」
「………」
「ん?どうしたセイバー?」
「…いえ。何も。凛の言っていることは正しいです」
「そ。セイバーのお墨もいただいた事だし、ドラえもんも理解してくれたみたいだから話を戻すわ
士郎は今までどおり学校へ行く。だけどそれはあまりにも危険よ。アーチャー一人ででサーヴァントの襲撃を防ぐのも正直心配だわ。だからせめてすぐ対応できるように、私はこの家に泊まる。
それじゃ次。士郎が出来るだけ外出をひか――――」
「なんでさぁああああああああ!!!」

冬木の早朝に響き渡る悲鳴は藤村組の若い衆も耳にしたとか。


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