午後三時。
麗らかな日差しを浴びる木々たちが、生き生きとした姿が垣間見える時間。
にしては少し遅い時間。
この時間だと、小学校は早い所だと既に放課後になり、幼い子供たちは授業と言う牢獄から開放され、今の今まで授業に費やしていた自由をコレでもかとぶつける時間だ。
ある子供は空き地でバッドを振り回し、またある子供は裏山でかけっこをしたり、そしてまたある子供は……
「どらえもおおおおおおおおおおおおん!」
…親友に泣き付く。
―――前触れは突然に―――
「どらえもーん!」
黄色いベストを来た少年は玄関を翔け抜け、廊下を走り、階段を駆け上った挙句自らの部屋の襖を壊さんばかりに叩き開けた。
その様子に、床に伏せていた『ドラえもん』と呼ばれるソレは、慣れたようにさして驚きもなく寝返りをうちながら
「もぅ、のび太君。またジャイアンに苛められたんだねぇ」
と、呆れたように泣き付く親友に言葉をかけた。
その声はどこか優しさを帯び、故障しているとはいえ子供に安心を与えるような音だった。
その声を聞いた『のび太』と呼ばれた少年は少し落ちついたのか涙を拭き、矢継ぎ早にドラえもんに事の顛末を告げた。
「聞いてよドラえもん!ジャイアンったら酷いんだよぉ。あのね―――」
「どうせ、また草野球に誘われて、飛んできたボールが取れなかった挙句、
草むらの中に入っちゃって無くしちゃったんでしょぉ。そしてジャイアンに殴られてその仕返しがしたいんでしょ?」
「………っさっすが、ドラえもん!何でも分っちゃうんだね!」
「何でもじゃないよ。キミのおでこにボールの跡があって、服には葉っぱが沢山付いてる。あと頬っぺたにも跡がね」
「………」
「全くもぅ!キミはどうしてそうなんだ!すぐに道具に頼ろうとして!そんなんだと
立派な大人になれないぞ!」
ズガーン!とのび太の後ろに雷が落ちた。
「うわーん!ひどいやひどいや!ドラえもんまでそうやって僕を苛めるんだ!
そうさ、どうせボクは駄目な人間だ、駄目な大人になるんだ!そして路頭に迷ってこの瞬間の事を思い出すんだ!
あの時、ドラえもんが道具を貸してくれたなら…って」
「………もぅしょうがないなぁ」
ドラえもんが折れた瞬間、のび太は輝かんばかりの笑顔を見せた。
「よし、じゃあ今日の道具は…」
こうして、ドラえもんとのび太は今日も道具を駆使して愉快で賑やかな一日を過ごす。
――――――筈だった。
ソレは突然やってきた。
ある日、例の如く失敗に終ったのび太とドラえもんが帰宅すると、そこには見知らぬ包みが一つ。
宛名には『未来デパート』の文字があった。