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焦点/南相馬、労働力足りぬ/原発事故で大量避難、失業給付の期間延長
 | 求人難に苦しむファッションリナ。従業員は適正規模の半分で工場の奥に空きスペースが見える=南相馬市原町区 |
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 | 相双公共職業安定所の失業給付窓口。給付期間の延長が求人難に拍車を掛ける=南相馬市原町区 |
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福島第1原発事故の影響で、南相馬市の企業などが労働力不足に悩んでいる。住民の大量避難による労働人口の減少が主な理由だ。原発事故で職を失った人が雇用保険の失業給付期間の延長で当座の生活に困らなくなり、労働意欲が弱まったことも背景に挙げられている。人手不足で業務を縮小したり、他地域に拠点を求めたりする企業もあり、地域経済の弱体化と復興の遅れにつながる可能性がある。(中島剛、金野正之)
◎復興妨げる可能性/業務縮小、拠点移転
「注文はあり、復興に向けて思い切り仕事したいが、人がいなくてできない」。南相馬市原町区で縫製会社「ファッションリナ」を営む中川庄一さん(55)の焦りは強い。 海岸から2キロ西にあった工場は、東日本大震災の津波で全壊。内陸部で物件を見つけて、9月に操業を再開した。しかし、30人いた従業員の半数以上は原発事故で地元に戻らず、復職したのは12人にとどまった。 相双公共職業安定所(南相馬市)に求人を出しているが、応募はなし。人づてで6人を採用しただけだ。売り上げは震災前の6割に減った。 若い人が来ない 同市原町区、鹿島区、小高区の3カ所で特別養護老人ホームなど福祉施設を運営する南相馬福祉会も求人難に悩む。 原発事故前は235人だった職員は159人に減った。警戒区域で立ち入り禁止が続く小高区の施設の職員を、他施設に振り向けて業務を維持する。事故後に新規採用できたのは5人で、全員が50代以上。毎年7、8人いる新卒者採用も決まっていない。 鹿島区の施設長大内敏文さん(55)は「若い人が来ない。このままでは2013年1月に予定する新施設の開設に支障が出る」と話す。市内の他の福祉法人はショートステイを再開せず、業務を縮小したという。 「じっくり探す」 南相馬市は第1原発から10〜35キロ圏にある。原発事故で大勢の住民が避難。人口は事故前の約7万1000人から約4万3000人に激減し、労働力不足が深刻化した。 特に、パート従業員として工場の生産を支えてきた比較的若い女性の流出が響いている。子どもの被ばくを嫌って一緒に遠方に避難した。工場は労働力の主力を失い、立ち往生している。 求人難の背景として、失業者への失業給付期間の延長も指摘されている。震災特例で給付期間が延び、最長で18カ月間受給できる。失業者は従来より長い期間、生活資金を確保でき、切羽詰まった状況に追い込まれていない。 相双公共職業安定所に職探しに来た小高区の男性(45)は「失業給付が切れる3月末までにじっくり探す」と落ち着いた様子。原発事故で勤め先の会社が休止した原町区の女性(55)は「月22万円は欲しい。地元企業は給料が安い」とこぼす。 いわきに分工場 企業の中には求人難に見切りを付け、市外に活路を見いだす動きも出てきた。80人の従業員が半減した原町区の縫製会社「三恵クレア」は人手不足で落ち込んだ売り上げを補うため、いわき市鹿島町に今月末、40人規模の分工場を開設する。県の補助金などを活用するが、2500万円程度は持ち出しだ。 五十嵐孝夫社長(68)は「南相馬で頑張りたいが、会社を維持するために決断した。失業給付延長は、就職した場合には一時金で支給するなど制度を改めないと、求職意欲を妨げる。求人難が続けば企業は流出し、将来的には南相馬から働き場所がなくなる」と話している。
◎求職減少、求人増加/原発事故で皮肉な結果/求人倍率県平均の1.3倍
南相馬市など福島県相双地方の求職者は福島第1原発事故以降、減少傾向にある。一方で企業の求人は増えており、労働力不足に陥っていることが数字的にも裏付けられている。
福島労働局によると、相双地方の10月の求職者は3194人。原発事故3カ月後の6月から34〜405人の幅で減り続けている。 事故直後の4〜6月は放射能汚染で休漁や耕作不能に追い込まれた元漁業者、元農業者を中心に、求職者は月4000人を超えた。大部分は国の緊急雇用対策でがれき処理などの仕事を見つけ、それに伴って減少に転じた。 求人は増加傾向で、10月は6月の1.2倍の2870人に増えた。中心部が東日本大震災の津波で壊滅的被害を受けた宮城、岩手両県の沿岸自治体と違い、南相馬市などは津波被害を免れて操業を続ける企業が多かったからだという。 求職者の減少と求人の増加で、相双地方の10月の有効求人倍率は0.90倍に跳ね上がった。県平均の1.3倍で、県内で最も高い。求人倍率の上昇は一般に好況の表れとされるが、今回は求職減による労働力不足がもたらす皮肉な結果となっている。 原発事故で職を失った相双地方の住民のうち、雇用保険失業給付の受給者は6月現在、5258人で、前年同月の5倍近い。 給付期間は従来、掛け金などによって90〜330日と定められているが、震災特例で最長210日延長され、短くて来年の1月中旬、長くて来年の9月ごろまで給付される。給付額は年齢にもよるが、1日に多くて8000円近くを受給できる。 福島県民の場合、これに原発事故の賠償金が上乗せされる。給与全額が補償され、失業給付と二重に受け取ることも制度的には可能だ。 相双公共職業安定所(南相馬市)は「失業手当と原発事故の補償金で生活に困らない人が多く、求職の切迫感は小さい」と指摘。比較的手厚い制度が、仕事探しの意欲を鈍らせる方向に作用している実情を明かす。
2011年12月14日水曜日
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