政府の行政刷新会議(内閣府所管)が11月に実施した「提言型政策仕分け」の社会保障分野で、事務局側が、問題提起の例文を複数挙げた「アンチョコ案」、「取りまとめの方向性」などをまとめた虎の巻的な資料を作成し、仕分け人にそれに沿う発言を促していたことが関係者への取材で分かった。資料は内閣府の職員が財務省の官僚らの意見を踏まえて作成。社会保障費抑制を図る財務省の意向と重なる記述が目立ち、提言の大半がその方向でまとまった。
仕分けについて刷新会議事務局長の加藤秀樹・構想日本代表は「常に『ぶっつけ本番』」とPR。丁々発止の議論を政治家がリードする格好になっているが、実際は官僚を中心に議論の方向性までお膳立てし、政治主導を演出していた。同会議によると、別の分野でも財務官僚らと協議して同種の資料を作成し、仕分け人に「アドバイス」した可能性もあるという。
2日間行われた社会保障の仕分けでは3、4人の国会議員と6人の民間人が仕分け人を務めた。西日本新聞が一部の写しを入手した「政策仕分け〈社会保障〉の当日の流れ(案)」はA4サイズの資料。年金や生活保護など七つのテーマごとに当日の段取り説明の「シナリオ案」、「アンチョコ案」、取りまとめの方向性を選択方式で具体的に示した「取りまとめの方向性」などが記載されている。
資料の作成過程では、仕分け人の意見も聞いたというが、「アンチョコ案」には財務省の問題意識が網羅され、「生活保護の見直し」には、会場で配布された財務省主張の資料の表記と一致する例文もあった。「取りまとめの方向性」も同省主張の施策が目立った。
関係者によると、この資料を使った事前勉強会が、仕分け人を招いて複数回開かれた。本番数日前の最終会合には財務省の主計官らも参加。事務局側が「こういう形でご発言いただければ」「議論の落としどころは、このような形を考えている」などと述べたという。
発言の強制はなかったというが、仕分け人の一人は「完全に台本だと思った」と話す。別の仕分け人は「官僚が振り付けをして議論したかのように取り繕うことに疑問を感じた」と証言した。
当日は「アンチョコ案」に沿った発言が出る一方、それに沿わない意見も数多く出た。各仕分け人の評価を基に、まとめ役の議員が集約した提言には、本来より高い年金支給の特例水準の解消、生活保護の医療費の一部自己負担導入など、会場で財務省が提案した23項目のうち21項目の要素が事実上、盛り込まれた。
●事前の助言当然
▼小林利典・内閣府行政刷新会議事務局総括参事官の話 ディベートで勝つために議論の方向性を事前に想定するのは当然だ。省庁側をどう攻めるかについて、いわば検察官的立場の財務省と話し合ったり、仕分け人にアドバイスしたりすることのどこが問題か。それを聞くか聞かないかは仕分け人の判断だから誘導ではない。議論が想定通りにならなかったテーマもある。
●ある意味やらせ
▼新藤宗幸・元千葉大法経学部教授(行政学)の話 財務省と内閣府の官僚たちが、シナリオのようなものを作り、「民間有識者」として集めた一部の歳出削減派の仕分け人を使って、自分たちを支持する世論をつくろうとしたということだ。議論を誘導しようとしたのは明らかで、ある意味でやらせだ。政府に九州電力の「やらせメール問題」を批判する資格はない。
◆提言型政策仕分け 国の主要政策の課題を公開の場で議論する、野田政権としては初めての「仕分け」。11月20―23日の4日間、都内で実施された。個別事業の存廃を仕分け人が判定する過去3回の「事業仕分け」とは異なり、問題点を洗い出して政策の方向性を提言するのが目的。与党議員と民間有識者の仕分け人が、社会保障、原子力・エネルギー、地方財政、農業、外交など10分野で25の政策テーマについて論議した。事務局の行政刷新会議によると、61万人がインターネットでの生中継にアクセスしたとされる。
=2011/12/08付 西日本新聞朝刊=