きょうのコラム「時鐘」 2011年12月15日

 原発事故で住民が避難した福島の警戒区域内で、放置された牛やダチョウが震災から9カ月たった今も生きている

南極で置き去りにされて生き延びたタロ、ジロを思い出し、動物の生命力の強さに驚く。無論、警戒区の家畜の多くは放置され死んでしまった。生き残ったのは自然にはえている草を食べて命をつないでいるとみられる

仮に農場のエサが残っていれば繁殖する可能性さえある。だが、牛もダチョウも草だけを食べて生きるには限界がある。塩分がないからだ。捕獲するにはどうするか、獣医に聞いてみた。点々と塩をまいて警戒区域外におびき寄せるのがいいとのことだ

農水省が捕獲を進めるのは、警戒区域の見直しが進んだ場合、帰還を望む住民の不安を和らげるためという。ところが、捕獲しても放射線を浴びた動物は始末に困る。研究にいかすとの声もあるが「いかす」とは本当の意味の生かすではない

人間のために命がある家畜の宿命とはいえ、殺処分するために捕獲するのだからつらい。多数の人命が奪われた震災と巨大な原発事故の陰に浮かび上がった小さな命の物語だ。