深刻な不発弾被害が問題になるクラスター爆弾の禁止条約作りに加わった日本に対し、規制に反対する米国が、在日米軍再編への悪影響などを理由に懸念を表明していた。朝日新聞が内部告発サイト「ウィキリークス」から提供を受けた複数の米外交公電に、その過程が記されていた。
クラスター爆弾禁止条約は2007年2月、ノルウェー・オスロでの会議で交渉が開始。日本も批准して10年に発効した。米国はクラスター弾は作戦上有用として条約に反対、署名していない。米国は条約上義務は負わないが、同盟国日本の加盟で、クラスター弾を使った在日米軍の活動が制約されると強く懸念していた。
公電によると、オスロ会議の約2カ月後、日米当局者がクラスター爆弾問題を協議。ルジェロ国務次官補代理が「クラスター爆弾の使用が規制されれば、米国の友邦防衛に影響を与える」と述べ、日本を防衛する在日米軍の能力が損なわれると主張した。
在日米軍のラーセン副司令官は、日本が規制に加われば「自衛隊や日本の請負業者はクラスター爆弾を取り扱えなくなり、それだけ米兵が余分に必要になる。在日米軍部隊の削減交渉をしている矢先に部隊を増やすことになる」と発言。在日米軍再編への悪影響にからめた具体的な米側の指摘に「日本側の参加者はひどく驚いていた」と公電は記している。
条約作りが大詰めに入った08年4月にも、在日米軍当局者は外務、防衛両省当局者との協議の場で「米軍が日本でクラスター爆弾を保管、搭載できなくなれば、有事の際、米軍戦闘機を日本に持って来られない」と、具体的な作戦上の問題を挙げた。
日本側は米側の懸念に理解を示していたようだ。07年4月の米大使館の公電は「米国との安全保障の取り決めを最大限に重視し、日米の防衛関係の妨げになるような議論は認めない」との心証を日本側から得たと記している。
日本側は、在日米軍の活動に影響させない条文にするための交渉を行った、とも米側に伝えている。
クラスター爆弾の「取得」は、条約草案の段階から禁止対象だった。公電によると、日本は条約の文言が合意された08年のダブリン会議で、この「取得」禁止条項を条文から削ろうとし、失敗した。代替策として、「取得」は所有権まで含んだ概念だという日本独自の条文解釈を、会議で一方的に宣言した。有事に自衛隊が米軍のクラスター弾を輸送しても、所有権が米側から日本側に移っておらず「取得」ではない、という理屈だ。
こうした日本側の動きもあり、結果的に在日米軍は引き続きクラスター爆弾を持ち、使用できることになった。一方、自衛隊が保有する計約1万4千発(10年10月現在)のクラスター爆弾は、条約加盟で8年以内に廃棄することになった。