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異世界少女と学生剣士
作者:佐島勤
 このお話はフィクションです。現実の人物、団体、国家、地域、特に宗教とは、何の関係もありません。
 ……余り深く考えずにお読みいただけると幸いです。
 日が落ちて数時間。
 蛍光灯どころか、蝋燭すら燈されていないその部屋は、かすかな月明かりで辛うじて全き暗闇に沈むことを免れていた。
 部屋、というには、いささか広すぎ、いささか殺風景に過ぎるだろう。
 板張りの床、白木の壁、梁が渡されただけの天井。
 家具と呼べるのは何一つ無く、ただある一面の壁に、刀掛が取り付けられているだけだった。
 十数本の木刀の中に一組だけの、黒塗りの鞘。
 鞘に収まった大小の刀。
 その前に、一人の青年が座していた。
 板張りの床に、座布団も使わず、正座したまま、身動ぎもしない。
 どこにも力が入っている様子も無く、少しも苦しそうな様子がないところを見ると、今時珍しく、彼は正座に慣れているのだろう。
 身に纏う衣装は剣道着、であったならば一枚の絵画、あるいは宣伝スチールの被写体として完璧だったのだろうが、生憎彼の装いは黒のスーツに黒のネクタイ――喪服だった。
あきらさん」
 不意に背後から声を掛けられても、その青年は動揺の欠片も見せなかった。
 ただ座したまま、身体の向きを変えて、軽く一礼した。
「皆様、お帰りになられました」
 和装の喪着を纏った若い女性が、青年の対面に座してそう告げた。
「ありがとうございます、姉さん。
 本来ならば、俺が喪主として最後までお相手しなければならなかったのですが」
「いえ……皆様、事情は弁えておいでですので」
 そのまま、声は途絶えた。
 姉はその眼差しで、しきりと何かを問い掛けていたが、弟は口を開こうとしない。
 あるいは、ハッキリと言葉で問われるまで、答えないつもりなのか。
「……本当に、出て行かれるのですか?」
 先に折れたのは、姉の方だった。
「……出て行くのではありません。大学に戻るだけです」
 姉は、短くない逡巡を見せた。
 次の台詞を、言うべきか、言うべきでないか、少なからず迷って――葛藤しているように見えた。
「……お父様が亡くなられたのは、貴方の所為ではありませんよ」
 だが結局、彼女はそれを、口にした。
「……分かっています」
 それを受け止める弟の口調は、姉の懸念に反して穏やかなものだった。
「理屈では分かっています。そういうものだと納得もしています。
 大丈夫です、姉さん。
 俺は、冥刃流宗家の務めを、棄てたりはしません。
 ただ少し、時間を下さい。
 少しだけ、気持ちを整理する時間が欲しいんです」
 そう言って弟は、姉に対して深々と頭を下げた。
 それは先程の儀礼的なものではなく、追い詰められた末の切羽詰った必死さが漂っていた。
 弱みを見せたことの無い――少なくとも物心ついて以来、一度も弱音を吐いたことの無い弟の縋りつく様な声に、姉はそれ以上、翻意の言葉を紡ぎ出せなかった。
「……家のことは私が引き受けました」
「姉さん……」
「その代わり」
 頭を上げた弟の手を、両手でしっかり握り締めて、姉は弟と同じような、必死な眼差しで願った。
「必ず戻って来て下さい。
 お父様から貴方に受け継がれたものを、無駄にすることだけは、しないで下さい。
 そうでなければ、それこそ、お父様の死は無駄になってしまいますから……」
 泣き崩れた姉の背をそっと抱きしめながら、暁は、自分に言い聞かせるように、答えた。
「約束します。
 俺は、父さんの息子です」

※・※・※・※

 青年が少女を拾ったのは、路地裏のゴミ置き場だった。
 念の為に言っておく。
 青年は、ホームレスではない。
 彼は残飯を漁っていた訳ではなく、たまたま近道をしていただけだった。
 真夜中を過ぎた繁華街の路地裏は、一般人には近寄り難い不気味な危機感を漂わせている。
 それは単なる暴力の臭気ではなく、単なる犯罪の気配でもなく、何処か、この世のものならぬ、迷信的な暗闇に対する恐れをブレンドした空気だ。
 敢えてこの薄暗がりに踏み込む者があるとすれば、救いようも無い鈍感か、徹底的な平和ボケか――この暗闇の住人か。
 果たして彼は、このどれに当てはまるか、現時点で答えを出すのは早急だろう。
 ただ一つ言えることは、彼が危機感の欠如したお人好しだということだろうか。
 あるいは、好奇心が危険を感じる神経を圧倒していたのか。
「おい……そんな所で寝ていると、臭いが染み付くぞ?
 それとも、そういうカワイソウな趣味なのか?」
 青年は鼻を押さえながら、空に向かって伸びた形の良い脚に話し掛けた。
 ところどころ生傷をこしらえてはいるが、綺麗な肌だ。
 日に焼けてもいないし、筋張ってもいない。
 少なくとも、ストリートチルドレンということは無さそうだった。
「そんな訳ないでしょ……質問するくらいなら手を貸しなさいよ」
 まず、ゴミ袋を掻き分けて手が出てきた。
 肘まで捲れ上がった長い袖はすっかり汚れてしまっているが、元はカラフルな、中々上質の生地のようだ。
 その下から、顔が覗いた。
 顔の汚れは少ない。
 どうやら、落ちて来たばかりらしい。
「手が見当たらなかったんでね」
 そんな、揚げ足取りじみた台詞を嘯きながらも、青年は少女の手を取って、ゴミの中から助け起こした。
「ありがとう。一応、お礼を言っておくわ」
「どういたしまして。一応、お礼を受け取っておくよ」
「……助けてもらってなんだけど、貴方、女の子にいつもそんな嫌味な言い方してるの?」
「俺は性差別廃絶主義者なんだ」
「なに、そのどっかのライトノベルに出て来そうなキャッチフレーズは?」
「いや、あれは面白い作品だった」
「……あんた、オタク?」
「オタクの定義が良く分からないからハッキリとは答えられんが、とりあえずメイドとかフィギュアとか同人誌とかには興味がない」
「……興味が無い割には良く知ってるじゃない」
「そういう言い方をするって事は、知識としては君も知ってるってことだろ?」
「……嫌なヤツ」
「そりゃ、失礼」
 そう言って、青年は少女に背を向けた。
 片手をヒラヒラと振っているのは、別れの挨拶のつもりか。
「ねえ、ちょっと!」
 彼がそのまま一歩を踏み出すと、少女は慌てて呼び止めた。
「ちょっと待って! あたしを置いていくつもり!?」
 まさか、あっさり見捨てられるとは思っていなかったらしい。
 振り返った青年の顔には、演技でない、不思議そうな表情が浮かんでいた。
「置いていくも何も、俺と君とは無関係だが?」
 当然といえば当然の指摘に、言葉を詰まらせる少女。
 まあ、この状況でこういう当然の台詞を綴れるのは、普通では無いかもしれないが。
「……そうだけどさ、袖すり合うも他生の縁、って言うじゃない。
 せめて、ここが何処なのか教えてよ」
 青年の頭上に、大きな疑問符が浮かんだ。
「ここが何処だか分からないって……空から落ちてでも来たのか?」
 青年の問い掛けに、少女は「しまった!」という表情を浮かべた。
 そういえば、
 ゴミに埋まっていた少女の体勢は、
 低いところから投げ落とされたような按配だったことを、
 青年は、思い出した。
「ふーん……どうやら、訳ありのようだね」
 少女はそっぽを向いた。
 分かり易い態度を取った少女を、青年は、闇に慣れた目で観察する。
 年齢は彼より少し下、おそらく、十六、七歳か。
 中学生ということはないだろう。
 背は低めだが、体つきは十分女らしい。
 髪の色も目の色も今時珍しいくらい真っ黒だが、顔立ちと体型が街に溢れる少女たちとは微妙に――多分、人種的に――異なっていた。
 分かり易過ぎる位、厄介事の臭いがした。
「まあいいか。駅までだったら送って……いや、その格好じゃ、電車はきついな」
 少女の身体が強張った。
 拳は握り締められ、背けられた顔が赤く染まっているのが垣間見えた。
 今更のように、ゴミまみれの姿が恥ずかしくなったらしい。
「俺の部屋はこの近くなんだけど……
 シャワーくらいなら貸してやるよ?」
 少女は、素早く振り返りながら青年から距離をとるという、中々の運動能力を見せた。
「……嫌なら別に構わんけど?」
「……変なことしないでしょうね?」
 若い女性としては、見ず知らずの男性に対する当然の警戒心だろう。
 寧ろ、踵を返して逃げ出さないだけ、心掛けが甘いとも言える。
 それとも――余程、困っているのか。
「それは君の心掛け次第。
 これでも一応、最低限の良識は持ち合わせているつもりだ。
 嫌がる女に無理やり不埒な真似をする趣味は無い。
 君が隙を見せなきゃ、俺は何もしないよ」
「不埒って……貴方、何時の時代の人よ」
「それで通じるんだから、君も中々勉強家だよね。
 さて、どうする?
 俺も余り長い間、ゴミ臭い思いはしたくないんだが」
「悪かったわね!
 ……じゃあ、せっかくですからご好意に甘えます。
 あたしはリサ。訳あって、フルネームは名乗れません。
 ご無礼をお許し下さい」
「これはご丁寧に」
 急に態度が変わった少女に驚きながらも、青年は躓くことも間を空けることもなく、滑らかに応えた。
「俺の名は山生やまき暁。
 他人の事情を詮索する趣味は無いから案じることは無いよ。
 リサというのはファーストネームだろう?
 だったら俺のことも、暁で良い」
 そう言って、暁は再び、リサに背を向けた。
 今度は呼び止めることもなく、リサは彼の背中に続いた。

※・※・※・※

 リサが連れて行かれた先は、結構高級なファミリータイプのマンションだった。
「ねえ……お家の人は、何も言わないの?」
 オートロックのエントランスを抜け、マンションにしては大型のエレベーターに乗って最上階で降りたところで、リサが不安げに問い掛けて来た。
 ……口調が元に戻っていたが、お互い、そんなことを気にするような人間では無いようだ。
「何も。
 一人暮らしだからね」
 暁は廊下を歩きながら、事も無げに答えた。
「……貴方、大学生よね?」
「言いたいことは分かるつもりだけど、自分が詮索されたくないのなら、相手のことも詮索すべきじゃないんだよ?」
 暁の言い方は淡々としていて、ややもすればスルーしてしまいそうなものだったが、リサは彼の云わんとしている事を、正確に理解した。
「……ごめんなさい」
「いいさ。
 俺の家は金持ちなんだ、とでも考えて納得してくれれば良い」
 暁は今度もあっさり歩み寄ると、リサを部屋の中に招き入れた。

※・※・※・※

 暁の部屋は大き目の2LDKだった。
 大学生の独り暮らしには広すぎるんじゃないか、というのがリサの第一印象だった。
 それに、玄関を見ただけではあるが、男の独り暮らしにしては、随分綺麗に片付いている気がする。
 それともこれは、この世界の男性に対する偏見だろうか?
 幸い、というべきか、ゴミに浸からなかったショートブーツを脱いで、あちこちに触れないよう気を遣いながら部屋に上がるリサ。
 そのおっかなびっくりの姿に、暁は薄い笑みを浮かべた。
「……何よ?」
「いや、別に」
 別に、という顔ではなかったが、下手に追求するとカウンターでダメージを喰らいそうな気がしたので、リサは自重することにした。
「リサ、こっちだ」
 呼ばれた方へ素直に向かうと、これまた綺麗に掃除されたバスルームがあった。
「……謝った舌の根も乾かぬうちからどうかと自分でも思うけど……ホントに独り暮らし?」
「片づけが出来ない女性がいるんだ。掃除が得意な男性がいてもおかしくは無いだろう?」
「……まあ、良いけどね」
 どうせ、行きずりの関係でしかないのだ。
 実を言えば、最悪、一晩身体を好きにさせる程度の覚悟はあったのだが、言ってしまえばそれ以上の付き合いになるつもりは無かった。
 暁が掃除好きでも料理下手でも、リサが口出しすることではない。
「タオルはそこの棚にあるのを好きに使ってくれ。勿論、石鹸もシャンプーも遠慮は要らないし、リサが嫌でなかったら洗濯機も使って良い。
 まあ、お湯と洗剤で簡単に揉み洗いして乾燥機に掛ければ、臭いの方はそれほど気にならなくなると思うけど」
 リサは反射的に、袖を顔の前へ持っていって、鼻を二、三度鳴らした。
「……そんなに臭う?」
「ああ、凄く」
「暁……貴方、もう少し女の子に対するデリカシーってものを覚えた方が良いと思うわ」
「言っただろ。俺は性差別廃絶主義者だって。
 それより、見たところ、着替えも無いだろ?
 流石に下着は無理だが、Tシャツくらいなら貸せるけど?」
「……ありがとう、貸してもらうわ」
 暁の身長を目で測って、リサはその申し出を受け容れた。
 これだけ身長差があれば、ミニワンピースくらいには隠せるだろう、と考えて。
「じゃあ、ごゆっくり」
 そう言って、暁はバスルームの扉を閉めた。
 声に出さずに十をカウントして、リサはそっと扉を開けたが、暁の姿は何処にも無い。
 少しばかり拍子抜けだったが、それ以上に安堵を覚えて、リサは扉を閉めて服を脱ぎ始めた。
 ――扉に鍵を掛けるのは、しっかり、忘れなかった。

 洗濯機が空だったのを幸い、暁の言葉に甘える形で、脱いだ服は洗濯機に任せてシャワーを浴び終えたリサが、バスタオルをしっかり巻いて廊下に出ると、足元にTシャツとガウンの入った籠が置いてあった。
 思った以上に暁は紳士だったらしい。
 試しに羽織ってみたガウンは、床に引き摺るほど長かったが、浴衣と思えばそんなに不自由では無い。
 湯上りで少々暑かったが、せっかくの気遣いだ。Tシャツともども、ありがたく借りることにした。
 暁は、と思って奥へ進むと、彼はダイニングで食事の準備をしていた。
「食事は?」
 簡潔な問いだが、誤解の余地は無い。
 だが幸い、痩せ我慢でなく、リサはそれほど空腹ではなかった。
「ありがとう。でも、結構よ」
 リサの答えに、暁は少しの意外感を表情に加えて、それから小さく、頷いた。
「――なに?」
「大したことじゃない。外見の割りに、仕草や言葉遣いは落ち着いているなと思っただけだ」
「っ、悪かったわね!
 どうせあたしはチビで童顔よ!」
「別に悪くは無いし、例えリサが二十歳過ぎだろうと小学生だろうと、俺には何の関係もない。
 実年齢にも興味が無い」
 確かにその通りだ。
 最初に事情は話せないと予防線を張ったのはリサの方だから、関係が無いと言われて怒るのもショックを受けるのもおかしい。
 だが理性と感情は別物であり、彼女は、会った時から暁に対して覚えていた釈然としない不満を、ますます募らせた。
「……十八よ」
「ふーん」
 衝動的に告白した年齢にも、本気で興味が無さそうだ。
 皿数の少ない料理を、手早くテーブルに並べ終えて席に着く。
「……暁は幾つなのよ?」
 彼の無関心振りがなんだか悔しくなって、リサは暁の年齢を訊き返した。
 プライバシーに踏み込む行為であり、手厳しく拒絶されるか、とも思ったが、暁は又してもアッサリ答えた。
「二十歳だ」
 全く見た目どおりの年齢であり、かえって拍子抜けしてしまう程だ。
 しかし何の意外感も無いということは、それ以上ネタに出来ないということでもある。
 口惜しげに唸っていた――その子供っぽい仕草を、暁が密かに笑っていたことには気付いていない――リサは、食卓に並べられた料理に目を留めた。
 炒めただけの、少しの肉。
 切っただけの、山盛りのサラダ。
 煮込んだだけの、根菜類。
 プラス、白米。
 栄養面は考慮されているようだが、それ以上には見えない。
「ねぇ……少し、味見させてくれない?」
「良いよ」
 暁には少なくとも、細かいことは気にしないという美点があるということは、この短い付き合いで十分に分かった。
 又しても気まぐれに前言を翻す形になってしまったが、それほど気後れすることなく出されたリサのリクエストに、暁は少しも嫌な顔を見せず頷いた。
 まだ箸を付けていなかった皿から肉を取り分け、サラダを取り分け、煮物は鍋から小鉢に盛った。
 味は、予想通りだった。
「…………」
「……どうしたんだ?」
 表情の選択に困った結果、無表情になってしまったリサに、まるでついで事の様な口調で暁は訊ねた。
 多分、リサが無視しても、彼は何事も無かったように食事を続けるだけだろう。
「……いえ、何でもないわ」
 実は「あたしがご飯を作ってあげようか?」という台詞が喉元まで出掛かっていたのだが、次の食事まで一緒にいる訳でもない。そのことを思い出して、リサはその台詞を寸前で差替えたのだった。
「そうか」
 一言だけ応えて、暁は黙々と食事を始めた。
 二口、三口、呑み込んだ後、ふと思い出したように、リサに向かってソファーを指し示した。
「あんまり娯楽の類は置いてないけど、テレビは好きに見ていいよ。
 そこのノートも、無線でネットにつなげてるから、設定を変えなきゃ好きに使って良い」
「……ここにいてはダメかしら?」
「そうしたけりゃ、それでも構わない」
 変に意識されるのは嫌だし、助平な目で見られるなど真っ平ごめんだ。
 ――とは言え、ここまで無関心を貫かれるのも、女として許し難い気がする。
「……何だか暑いわね……」
 聞こえよがしな台詞とともに、ガウンの胸元を少し、肌蹴てみる――が、反応は全く無し。
 黙々と進んでいた箸が最後に残っていたトマトを攻略し終えると、彼はテキパキと食器を纏めて立ち上がった。
「あっ、洗い物くらいさせてもらえない?」
 そう言って、テーブルに身を乗り出してみても、暁の顔面筋は微動だにしなかった。
 ――結構際どい所まで見えたはずなのだが。
「食洗機にかけるから大丈夫。
 服が乾くまでゆっくりしてると良いよ」
 そう言いながら、さっさとキッチンに引っ込み、本当にすぐ、出て来た。
「俺はあっちの部屋にいるから、出て行く時は声を掛けてくれ」
 取り残されたリサは、そこらじゅうの家具を蹴飛ばしたい気分になっていた。

※・※・※・※

 暁が勉強部屋――らしき部屋――に引っ込んだ後、リサはぼんやりとテレビを眺めていた。
 目はテレビに向けられていたが、意識は自分の内側へ向いていた。
 これからどうするか。
 このままここに居座るというのは、論外だった。
 見知らぬ土地に「落ちた」心細さから、つい現地人の厚意に甘えてしまったが、今こうしているだけでも、彼を随分とリスクに晒していることになるのだ。
 これで暁が下心むき出しの男だったら、リサもリスクなど気にしない。
 この世界の人間と彼女たちとは、外見こそ同じだが、種族としては全くの別物だ。
 生物としての、存在のレベルが違うから、何をされても、子供が出来るようなことはまず、あり得ない。
 そういう意味では、暁が紳士で好人物だったのは、彼女の計算違いであり、彼を頼ったのは軽率過ぎる行いだった。
 現在の状況で当初の目的とすべきはまず、ホームステイ先と連絡を取ることだろう。
 だが電話はまずい。
 電気信号では「あいつら」に気付かれる。
 となると、連絡手段は手紙か。
 言語から判断して、ここは日本だ。
 落ちた先が一年前まで住んでいた国というのは、不幸中の幸いだった。
 だが、現在のホームステイ先――イギリスは遠い。
 最短でも丸一日。
 しかも、確実に届くとは限らない。
 届いたとしても、返事を受け取るためには、やはり何処かに定住しなければならない。
「どこか適当なホテルを見つける……か」
 この国の貨幣の持ち合わせは無いが、幸い、ホームステイ先が用意してくれたクレジットカードは手許にある。
 言葉も、不自由しない。
 外見もこの国では、むしろ目立たないだろう。
 不安があるとすれば、身分を証明する物が何も無いということと、彼女が未成年にしか見えない――事実、この国の基準では未成年の年齢なのだが――ということか。
 偽造したパスポートが無い以上、交通機関でイギリスに戻るという訳には行かないのだから。
 自力で地球を半周するような目立つ真似が、許されるはずも無いのだから。
 何とか結論らしきものが出たところで、彼女の聴覚は、乾燥終了の電子音を拾った。

※・※・※・※

 ノックの音に、暁は振り返って「どうぞ」と応えた。
 訳あって独り暮らしだ。
 顔を見せた人物は、予想を外しようもなかった。
「あの、暁……
 すっかりお世話になっちゃって、本当にありがとう」
 しかし、彼女の出で立ちは、少々予想外だった。
 洗濯しただけでこんなに印象が変わる服があるものだろうか。
 暁は繊維産業の技術進歩に対し、素直に感心した。
「随分華やかな格好になったな」
 暁の控え目な賛辞に、リサは少し顔を赤らめた。
 もしかして、本人も恥ずかしかったりするのだろうか……?
 ゴミ置き場に埋もれていたことといい、一種の罰ゲームなのかもしれないな、と暁は少々ずれたことを考えて納得した。
 どんな糸で編んだのか、同じような深みのあるワインレッドの光を反射している、パステルカラーのポロシャツとスカートを隠すように身体を傾けて――上に何も羽織っていないのだから無駄な努力でしかないのだが――リサは照れ隠し全開で叫んだ。
「いいでしょ、別に!
 とにかく、ありがとう!
 何もお礼できないのは心苦しいけど、貴方のことは忘れないわ」
「礼などいらんよ。
 じゃあ、行こうか」
 暁はすっくと立ち上がり、壁に掛かった薄手のジャケットへ手を伸ばした。
 彼の言葉と動作の意味が分からず、キョトンとした目をしているリサに、暁は苦笑いを浮かべた。
「ここが何処か分からないんだろう?
 案内も無しに、何処へ行くつもりだったんだ?」
 あっ、という形に口を開けて、リサの顔は見る見るうちに赤くなった。

※・※・※・※

「ねえ、暁、もうここで良いから」
「駅まで行くんだろう?
 だったら、あと少しだ」
「でも、悪いわ。ここまでしてもらって、あたしは何のお礼も出来ないのに」
 暁のマンションから駅までの道程で、この会話は既に、何度も繰り返されていた。
「迷惑?」
「そんなことないけど……」
「じゃあ、問題ない」
 そして決まってこの台詞で、リサは敗退するのである。
 本音を言えば、迷惑なのだ。
 より正確に言えば、迷惑を掛けたくないから、ありがた迷惑なのだ。
 しかし暁が純然たる好意で送ってくれていることが分からぬほど、リサも鈍感では無い。
 だからどうしても、強く断れないのだった。
「……貴方って本当にお人好しね」
「……どうしてかな? 時々、そう言われるんだが」
 本気で首を捻る暁に、リサは噴き出してしまった。
「呆れた。
 もしかして、自覚が無いの?」
「無い」
 キッパリ断言した暁に、リサは寧ろ、感心してしまった。
「自分がどんな人間で、他人からどういう風に見えるのか、それが分かるならどんなに楽だろう、と思うことが時々あるよ」
 しかし、「無い」と言い切った後に続いた言葉で、リサの笑みは凍り付いてしまう。
 暁の声には、暁闇の如き、底知れぬ深淵が垣間見えた。
 お互い、相手の事情には踏み込まない約束だ。
 だがリサは、衝動的に、彼が垣間見せた、彼の抱える闇を覗いてみたくなった。
「ねえ、暁……」
 だが、その約定違背は、幸いなことに、か、未遂に終わった。
 暁が足を止め、それによって、リサが異常を察したことで。
「……ストーカーか?」
 太平楽な口調は、意識したものか、それとも天然なのか。
 いずれにしても、その場を締め付けつつあった緊張感が、一気に揺らいだ。
「そんな訳無いでしょ!」
「と言われても、俺には何の予備知識も無いからなぁ」
 街灯と街灯の隙間から、光と光の狭間から、滲み出すように湧き出て来た、黒尽くめの人影。
 それは、闇というより、影が産み出した人形ひとがただった。
「影法士……!」
「と、言うのか、こいつら?」
 その非常識な光景にも、のほほんとした佇まいは変わらない。
「そんな呑気な事を言ってる場合じゃないのよ!
 暁、逃げて!」
 必死に、逃亡を促すリサ。
 必死ゆえに、彼女には見えていない。
「リサはどうするんだ?」
 暁の顔を彩る、剣呑な表情が。
「あたしがこいつらを引き受ける。
 ううん。
 こいつらの目当てはあたしだけなんだから、暁は逃げて!
 今ならまだ、無関係でいられる!」
「さて、それはどうかな?」
 他人事のように暁が呟く。
 思わず怒鳴りつけたくなって、リサは唇を噛んだ。
 暁の言う通りなのだ。
 影法士は所詮、影。
 こいつらに第三者を判別する程の知性は無い。
 その場の命を、無差別に呑み込むだけだ。
「くっ……
 盟約の下 風の神兵を招く!
 招きし者 アィリサリィア・アスカ・カーラ
 願いたるは 衛士の刃!」
 リサが何やらファンタジックな台詞を叫んだ瞬間、突如として風が吹き荒れた。(この時、暁は心中密かに、オメエの方がライトノベルじゃねーか、とツッコンでいた)
 風は目に見えない。
 街灯があるとはいえ、夜ならば尚更だ。
 だがリサが呼び出したのであろう突風が、二人を取り囲み押し寄せる、目も鼻もない、のっぺりした黒い人型に斬りつけ、押し返しているのが、暁には分かった。
「ダメ……っ
 略式の召喚じゃ、時間稼ぎにしかならない!」
 とはいうものの、どうやら状況は芳しくない様子。
「なあ、リサ」
「なによ!」
 随分刺々しい応えが返って来たが、思うに任せぬ現状に苛立っているのだろう。
 その気持ちは良く解るし、相手は年下の少女だ。
 特にムカついたりすることも無く、暁は質問を続けた。
「ありゃあ、何だ?」
「だから影法士よ!」
「いや、俺が聞いているのは、影法士ってのがどういった存在なのかってことなんだが」
「ああ、もう!」
 リサは、髪を振り乱して頭を振った。
 相当テンパっているらしい。
「こっちは術の制御で忙しいのに!
 あいつらは使い魔の一種!
 生物を依り代に使うんじゃなくて、魔力を影に流し込んで人型に固めて、かりそめの人格を埋め込んだ操り人形よ!」
「なる程、つまりを凝り固めて作ったロボットみたいなもんか」
「はあ?
 ……いや、大筋じゃ、間違っていない……のかな?
 でも何、その妙竹林な解釈は……?」
 毒気に抜かれた表情で、リサが振り返って訊ねたが、暁はそれを綺麗に無視した。
「で、略式でダメってことは、正式なら何とかなるんだな?」
「えっ、まあ、この程度の相手なら……
 って、略式とか正式とか、何のことだか分かってるの?」
「いや、全く」
 リサは脱力感から、思わず術の制御を手放してしまいそうになった。
「だが、やることは分かった。
 時間を稼いでやるから、その正式とやらの手順に掛かってくれ」
「えっ、ちょっと!?」
 呼び止める間もあろうこそ。
 暁は、目の前に迫る黒い影に殴りかかった!
「っ!」
 悲鳴を呑み込み、リサは慌てて、風の刃を停止させる。
 同士討ち、というより一般人を巻き込むことは避けられたが、それは同時に、彼女たちを守っていた護衛を下げさせたということでもある。
 そして当の一般人は無謀にも、今まさに、影法士に殴りかかり、
 その当然の結果として、エナジーを吸い取られ……
「……へっ?」
……たりは、しなかった。
「若い女の子が『へっ』ってのはどうかと思うが……」
 すかさず繰り出された暢気なツッコミ。
「う、うるさい!」
 反射的に怒鳴り返してから、これも少し、恥ずかしい対応だったと顔を赤らめて……
 それどころではないことに、気がついた。
「……何で?」
 暁は影法士を倒している訳では無い。
 そもそも物理的な存在ではないのだから、殴っただけで倒せる相手ではない。
 いや、そもそもと言うなら、影法士に触れた人間は、生命力を抜き取られ、良くて失神、悪ければ死に至るはずなのだ。
 それなのに、
 暁は、
 影法士を、殴り飛ばしている。
 一撃毎に、確実に、数メートルを後退させている。
「暁……アンタ一体、何者……?」
「そっちこそ、そんなことを言ってる場合じゃないだろ?」
 拳を振るっていてさえ緊張感が欠けている声だったが、それでもリサに、今がどういう状況かを思い出させることは出来たようだ。
「あっ、うん、そうね。
 じゃあ、悪いんだけど、もう少しだけそいつらの相手してて!」
 多勢に無勢、返事をする間も惜しいとばかり、暁は次の「敵」に襲い掛かる。
 狩る者と狩られる物が逆転したような光景に現実感を侵食されながら、リサは「現実」を侵食する為の言葉を紡ぐ。
「…………
 供物を以って 風の神兵を招く
 請い願う兵数 三重の八
 ささげる者は アィリサリィア・アスカ・カーラ
 ささげるものは 八枚の法貨」
 言葉を切り、右手を虚空に差し伸べる。
 その手には、蛍のようにぼうっと、仄かに光る小さな円盤が八つ、載せられていた。
「そは 友誼の証 誠実の証 誓約の証
 風の王より賜りし 盟友の証をその手にとりて
 今 我が下へ 馳せ集うべし
 願いたるは 破魔の八刃!」
 軽快なステップを踏んで、リサに近づく影を隈無く撃退していた暁が、締めの一句が綴られると同時に、まるでそれで終わりだと分かっていたかのように、大きく跳んでリサの傍らへ戻った。
 タイムラグは、ほんの一瞬。
 微風がリサの手の平から光るコインをさらって行った、と見えた次の瞬間、頭上から、風の刃が落ちてきた。
 暁の触覚は、絞り込まれた烈風の僅かな余波を感じ取れたのみ。
 だが彼の知覚は、二人の周囲を駆け巡る風の刃が、影の魔物を斬り裂き滅ぼしていく様を捉えていた。
 産み出される端から斬り裂かれる、影の人形ひとがた
 この世に限りなきものは無い。
 それは、この世のものならざるものであっても、同じなのか。
 次々と産み出されていた影法士も、ついには湧き出すことを、止めた。
 風が荒ぶる間、じっと身動ぎせず、祈りをささげるがごとく目を閉じ手を掲げていたリサが、両手を胸の前で交差させ、重ねて、静かに言葉を紡ぐ。
「…………
 礼節を以って 風の神兵を送る
 見送る者 アィリサリィア・アスカ・カーラ
 心よりの感謝を 汝らに送る」
 リサは、片膝を折って目に見えぬ存在に一礼し、身を起こして手を解いた。
「どうやら一段落のようだな」
 一汗かいたな、とでも言い出しそうな顔と口調で話し掛けてくる暁を、リサは、警戒心を隠そうともしない眼差しで迎えた。
「暁……貴方、何者なの?」
 露わになった敵意に、流石に気分を害した表情で、暁が文句をつける。
「自分の素性に踏み込むな、と言ったのは、リサ、君の方だ。
 それなのに、俺に何者かと訊ねるのか?
 俺は君に、力を貸してやったというのに」
 暁の言い分は、リサが反論できない程度には、そしてリサをたじろがせる程度には、正しかった。
「それはそうだけど……
 力を貸してもらったことには感謝するけど!
 でも!
 貴方、おかしいわ!」
 しかし彼女には、逆ギレという奥の手(?)があった!
 暁はよろめくように二、三歩後退ったが、リサとの間合いは寧ろ詰まっていた。
「何で影法士を殴り飛ばせたりするわけ?
 何で吸精の使い魔に触っても平気なわけ?
 いいえ、そもそも魔法の産物で魔力の塊に過ぎない実体の無いものに、どうして手で、触れるのよ!?
 魔法遣いでもそんなことできないのに!」
 できない、というその台詞に、狼狽気味だった暁の表情が一変した。
「へぇ、出来ないんだ」
 そのうち胸倉でも締め上げ出しそうな勢いで詰め寄ったリサだったが、暁の醒めた、何処か嘲るような相槌に、思わずたじろいでしまう。
「そ……そうよ。そんなこと出来るはずがないのよ。
 魔力は、手で触れることの出来るものじゃない。
 魔力で肉体に干渉することは出来ても、肉体で魔力に触れることは出来ない。
 魔力には、魔力でしか触れられない。
 それが法理なんだから」
「じゃ、その法理とやらが間違っているんだろ。
 現に俺は、触れたんだから」
「だから!
 それがおかしいんじゃない!」
「何で?」
「な、何でって……」
 それはリサにとって、アィリサリィア・アスカ・カーラにとって常識に等しい当たり前の法則。
 深く考えるまでも無く「そういうもの」であり、それ故にか、改めて問い直されて、答えを出すことが出来なかった。
「人の意思か人でないものの意思か、とにかくモノ(者、物)のが凝り固まって出来ていたんだろ?
 だったら人のを込めた手で、拳で、触れられないはずがないじゃないか」
 だからその台詞は非常識であり、そんなことを平気で口走る暁は……異常だった。
「暁……貴方一体……何者なの……?」
 三度繰り返された問い掛け。
 最初の問いは、意外な行いに対する驚き故に。
 二度目の問いは、理不尽な行いに対する憤り故に。
 だが三度目の問い掛けには、未知なるのものへの畏怖が込められていた。
「俺が何者か答えて欲しければ、まず自分が何者かを語るべきだ、アィリサリィア・アスカ・カーラ」
 暁の口が自分の名前を正確に綴ったのを聞いて、リサは呆然と目を見開いた。
「アィリサリィア・アスカ・カーラ、これは君の名前だな?
 会った時から日本人じゃないとは思っていたが、どうやら普通の人間でもないらしい。
 君は、何だ?」
 リサは、唇を噛み締めて黙り込んだ。
 そのまま上目遣いに暁を睨みつけて……
「……言えないわ。言えば、貴方に迷惑が掛かる」
 結局、リサは暁を拒絶した。
「そう、それで正解だ」
 そして暁は、表情を緩めて、それが彼のデフォルトなのか、どこか素ッ惚けた感じの笑顔に戻った。
「俺と君は他人同士。ちょっとしたハプニングもあったけど、所詮すれ違うだけの間柄だ。
 ……おっと、何時までも無駄話をしてると、終電が無くなっちまう。
 急ごうか。
 駅まではもう少し。
 そこで俺たちはバイバイだ」
「……そうね」
 どこまでも淡々とした暁の言葉に、リサは、少し寂しげではあったが、頷いた。
「そういう訳には行きませんね」
 しかし、それを否定する声が乱入して来た。

※・※・※・※

「ルクシア卿!?」
 頼りない街灯の灯りの下に現れた男性は、リサの知り合いだった。
 もっとも、知人と言っても友好的な関係では無さそうだが。
「お久し振りです、殿下」
「殿下?
 リサって、お姫様なのか?」
 男の気取った挨拶にリサが答えるよりも早く、暁が素っ頓狂な声でリサに訊ねた。
 男の不快げな顔はお構い無しに、暁は「信じられない」という表情を隠そうともせずリサを見詰めている。
 リサは気まずそうに赤面しながら、暁の向う脛を蹴飛ばした。
「イテッ」
「……少し黙っててくれない?」
 それ程痛くも無さそうに被害を主張する暁をジロリと睨みつけて黙らせ、リサは男の方へと向き直った。
「そういう訳には行かない、とは、どういう意味かしら、ルクシア卿?」
「そこの地上人(ちじょうびと)を放置しておくことは出来ない、という意味ですよ」
 リサに厳しい目付きで問われたルクシアという名の男は、余裕のある表情で――あるいは、余裕ぶった表情で、その問い掛けに答えた。
「その男は既に、殿下の味方をしておるのです。
 それだけならまだしも、我が術法のしもべに肉体を以って干渉する非常識……秩序の守護を担う者としては、かような法理に背く輩を捨て置くことは出来ませんな」
「秩序の守護者、ね……
 ルクシア・エル・エアシクス。
 その名に『エル』の称号を冠する天上界の騎士が追剥の真似事なんて、『守護者』も堕ちたものだこと」
「追剥とは人聞きの悪い。
 我々は殿下が地上界に持ち込まれた『王杖』を、あるべき場所に戻していただけるようお願い申し上げているだけですよ。
 それに、精魔界の王女ともあろうお方が地上人風情の、しかもプータローの真似事をされておられるよりは、天界騎士が盗賊紛いに身をやつす方が、まだ許されると思いますが」
「フーン……一応、盗賊紛いだって自覚はあるのね。
 それに『プータロー』だなんて、随分低俗な言葉を覚えたものだこと。
 ルクシア卿、貴方、俗世間に染まり過ぎじゃない?」
 二人の――どうやら二人ともただの人間ではないようだが――陰険漫才は、暁を放置してまだまだ続きそうな気配だった。
 しかも、見ていて余り、面白くない。
 早くも飽きてしまった暁は、さっさと部屋へ戻ることにした。
 だが。
「待ちたまえ」
 その声と共に、暁の足元に突き刺さったものがあった。
 正確には、暁の足元の、一歩先。
 ちょうど通り過ぎた街灯の明かりが作り出した彼の影に、仄かな光を放つ杭が突き刺さっていた。
 いや……暁の見間違いなのかどうか、それは光そのものが、杭の形を成していた。
「言ったはずだ、地上人。お前を捨て置くことは出来ないと」
「やめなさい、ルクシア!
 地上界の人間には非干渉が原則よ!」
「生憎ですが、殿下。
 この者は自分から殿下に関ったのです。
 非干渉の協定は適用されません」
「もう一度言うわ。
 やめなさい、ルクシア。
 あたしを本気で怒らせるつもり?」
 そう告げてルクシアを睨みつけたリサは、なるほど大した迫力だった。
 少なくとも、今まで猫を被っていたのか、と言いたくなる程度には。
 だが所詮、それが虚勢でしかないことは暁の目には明らかだったし、ルクシアにもバレていただろう。
 それに――
「おいおい、本人を置き去りにして盛り上がるなよ」
 自分の生殺与奪を他人に委ねるなど、暁の趣味にも主義にも合わなかった。
「あ〜、つまり、アンタは俺を殺したいんだな?」
「ほう……やはり、胆力だけは一人前だな。
 だが馬鹿げた考えは棄てることだ。
 抵抗は無駄だし、抵抗するだけ余計な苦痛を味わうことになる」
「おーけーおーけー。
 これで目出度く、俺とお前は敵同士になった訳だ」
 リサが口を挟む暇もあらばこそ。
 暁は何の気負いも無い台詞の後、何の気負いも無い表情で、軽く足を踏み出した。
 軽く、と見えた。
 だが次の瞬間、彼の身体はルクシアの眼前にあり、彼の拳は天界騎士の胴体を打ち抜き、その身体を地に這わせていた。
「なっ!?」
「いや、若い女の子が『なっ』というのも可愛くないと思うが」
 軽口を叩きながらも、行動は迅速だった。
 リサの答えも待たず、それ以前に何の説明もせず、暁は彼女の手を引いて、脱兎の如くその場から逃げ出した。

※・※・※・※

 暁がリサを連れ込んだ先は、小さな店の裏手にある窓の無い倉庫だった。
「暁、ここは……?」
「俺のバイト先」
 自分の鼻先も分からない完全な暗闇は不安を募らせる。
 それは、違う世界の人間であっても――少なくともリサの種族では――同じであるようだった。
「灯りは点けない方が良いんじゃないか?
 灯りがなければ影も出来んし。
 不安なら、ほれ」
「な、なによ」
 何をされているのかも分からない、というのもまた、不安をかき立てる。
 無意識に手を握り締めていたリサの、その右手が急に、暖かな感触に包まれた。
「きゃっ!」
「しーっ!」
 今度は唇に押し当てられる、縦一本の棒の感触。
 どうやら暁がリサの手を握り、唇に指を押し当てたらしかった。
「……いきなり手を握るなんて……セクハラで訴えてやる」
「離そうか?」
 小面憎しいほど落ち着いた声に、リサは何も答えず、代わりに暁の手をギュッと握り返した。
 その手は、微かに震えていた。
 暁は……何も言わなかった。
「暁……貴方は一体、何者なの……?」
 暗闇を揺らす、囁き声。
 唇を塞ぐ指は、やって来なかった。
「光と影を司る天上界の魔法に影を縫い止められながら自由に動ける。
 それだけでも信じられないのに、天界騎士を素手で殴り倒すなんて。
 とても、普通の地上人に出来ることじゃない」
 暁は何も答えない。
 リサの手を、握ったまま。
「……もう分かっちゃったと思うけど、あたしはこの世界の人間ではありません。
 精魔界、という世界の住人です」
「……そうらしいな」
「驚かないのね?」
「いや、驚いてるよ」
「そうは見えないわ……いえ、この暗闇では、何も見えないのだけど」
 自嘲気味にリサが笑う。その表情は、幸いなことに、か、闇が隠してくれた。
「あたしの世界は、この地上界に隣接する異世界。
 宗教的な精神世界じゃなくて、ちゃんと物質としての実体を備えた、一種のパラレルワールド。
 多少、物質的な比重が希薄で、精神的な比重が濃厚だけど」
 実感として理解するのは難しかったが、多分、魔法とか精霊とか天使とか魔物とかが幅を利かせている世界なんだろう、と、暁は考えておくことにした。
「天上界、っていうのも、いわゆる天国とかじゃなくて、物質的な実体を備えた異世界なのか?」
「ええ、そうよ。
 あたしたちの世界は、この地上界を取り囲むようにして接している。
 あたしたちが認識している限りで、精魔界、天上界、星月界、妖精界、妖魔界、深淵界、六つの世界が、この地上界を通路にしてつながっているの。
 この七つの世界の内、人間と呼べる種族が住んでいるのは精魔界、天上界、深淵界、そしてこの地上界の四つ」
「……何となく、名前だけでどんな世界か想像出来そうだ」
「そんなに間違っていないと思うわ。
 それぞれの世界の名前は、各世界の特徴を表すフレーズを地上界の言葉に翻訳したものだから」
 リサが、声に出さず、クスッと笑ったのが暁には分かった。
「物質的な性質が強い世界の住人が、精神的な性質が強い世界を訪れることは出来ない。
 だから、深淵界の住人が地上界を訪れることは出来ないし、地上界の人間が精魔界を訪れることも出来ない。
 でも、その逆は可能。
 精魔界の人間は自由に人間界を訪れることが出来る。
 地上界の人間も、方法さえ分かれば深淵界を訪れることが出来る」
「天上界とやらはどうなんだ?」
「天上界の存在レベルは精魔界と同じよ。
 元々この二つの世界は一つだったという仮説もあるくらいだから。
 でも、境界を接してはいないから、お互い、行き来する為には、地上界を通らなきゃならないんだけどね」
「不思議な話だ」
「……それだけで済ませちゃうなんて、あたしにとっては貴方のほうが、余程、不思議な存在よ」
 声を殺して、リサが笑う。
 闇に隠れたその笑みには、無理やり笑っているような痛々しさがあると、暁には感じられた。
「それでね、精魔界と天上界はもう長いこと冷戦状態なの。
 表面的には友好関係で、外交官の交換なんかもしてるんだけどね。
 詳しく話し出すと、何時間も掛かるんだけど……」
「いや、いい」
 即答した暁に、今度は小さな笑い声がこぼれた。
「そう言うと思った。
 それでね、貴方は、その争いに巻き込まれちゃった、ってわけ」
「なるほど」
「……それだけ?
 怒らないの?
 学生の喧嘩とは違う、本当に、命に関わるのよ?
 あたしたちは、地上界を通路に使わせてもらう代わりに、地上界の住人に対する非干渉を約束しているけど、ルクシアはこの協定を無視するつもりだわ。
 本当に、死ぬかもしれないのよ?」
「そうだなぁ……未だ統一政府が無いこの世界で、その協定を誰と結んだのかも気になるところだけど……
 巻き込まれたことに関しては、完全に成り行きだからな。
 誰の所為でもなし、敢えて誰かの所為と言うなら、俺自身が迂闊だった所為だから、怒ってみても仕方が無い。
 それより、この場をどう切り抜けるか、の方が気になるな」
 暁はそう答えながら、リサの頭をポンポン、と撫でた。
 子供にするような行いだったが、リサは気にならなかった。
 子ども扱いされた憤りとは別の理由で、リサの目に、涙が浮かんだ。
「ごめんなさい……そして、ありがとう」
「ありがとう、は、無事に切り抜けられてからだな。
 それで、援軍とかは呼べないのか?」
「今すぐは、無理。
 あたしはこの世界に留学中なんだけど、今のホームステイ先はイギリスなのよ。
 一年前なら、日本にホームステイ先があったんだけど……」
「ホームステイ先とやらが、普通の家庭であるはずもないか……そこなら援軍が得られるって事だな?
 連絡はつかないのか?」
「電気は天上界の光魔法の守備範囲だから、電気信号とか電波とかを使うと、彼らに傍受されちゃうおそれがあるの。
 だから手紙で連絡しようって思ってたんだけど……裏目に出ちゃったわ」
「いずれにしても、今すぐ援軍を呼び寄せるのは無理か……
 あれっ? だったらリサはどうやってこの街に来たんだ?」
 リサが、恥ずかしそうに俯いた、気配がした。
「……天界人に襲撃されて『界渡り』の魔法で逃げようとしたんだけど、『通路』を捻じ曲げられちゃって……
 去年までこの国で暮らしていた『縁』に引っ張られたんだと思うわ」
「縁……それでゴミ箱に……
 まあ……海の真ん中とか火山の火口とかに落ちなくて良かったじゃないか」
「……そうね」
 多分、慰められているのだろう。
 何か納得できないものを感じたが、リサはそういう風に、自分を納得させた。
「それで、去年まで何処に居たんだ? そこには味方はいないのか?」
「あたしたちの協力者は、そんなに数がいないから……」
 リサが答えた地名は、残念ながらここから丸一日かかる、遠くの街だった。
「となると、やはり、今の『ホームステイ』先に連絡を取るのが一番だな。
 傍受される危険が、なんて言ってる場合じゃない。
 すぐに電話しよう」
 リサの目の前に光が点った。
 それは、暁の携帯電話の、バックライトだった。
「でも……どんなに急いでも二日はかかる。
 魔法なら別だけど、地球を半周する魔法なんて、地上界の環境への影響が強すぎて、許可が下りるはずが無い」
「王女様の危機でもか?」
「やめてよ……
 王女っていっても、特権階級って訳じゃないわ。
 精魔界の王族は一種の役職でしかない。
 あたしは、『王杖』の管理者でしかないんだから。
 最悪の場合、精魔界はあたしを見捨てて王杖の回収に走るでしょうね」
「少なくとも、この場は自分たちだけで切り抜けなきゃならんってことか」
「それは無理だな」
「っ!?」
 暁がリサを押し倒すのと、轟音が壁を打ち抜いたのは、ほとんど同時だった。
 床に伏せた暁の背中の上を、光で出来た槍が翔け抜けた。
 収納箱の残骸が床に飛び散り、ガチャガチャと音を立てて細長い物が床に散らばる。
 壁に開いた穴から差し込む街灯の光で、ここが刀剣商の倉庫であると、リサには初めて分かった。
「頑丈なヤツだなぁ……
 胃に穴が開く位の威力で殴ったんだが」
 外に立っていたのは、天界騎士ルクシア。
 見たところ、暁に殴り倒されたダメージは残っていない。
「確かに、大した威力だった。
 たかが地上人と侮っていたことは認めよう。
 だが拳や刀で、天上人は傷つけられん」
 落ち着いて喋っているように見えるが、こめかみ辺りが引き攣っているところを見ると、感情面でかなり無理をしているようだ。
「いや、騎士様ってのも大変だね」
 そして暁は、意識せずに、相手を挑発するのが大層上手かった。
 ――意識的に、で無いところが致命的だが。
「ルクシア卿!
 こんな派手な真似をして、ただで済むと思ってるの!?
 『天秤』が黙っていないわよ!」
 ルクシアの口元がヒクッ、と動いたのを見て、慌ててリサが暁の前に立ちふさがった。
「天秤の老人どもに気付かせるような下手は打ちませんよ」
「そういや、人通りが無くなったな。お前の仕業か?」
 暁の言葉に動揺したのは、リサの方だった。
 慌てて辺りを見回してみるが、確かに暁の言うとおり、人の姿も人の気配も、街の喧騒さえも絶えていた。
 ルクシアは余裕の笑みを浮かべた。
「良く気付いたな、地上人。
 私が魔法を解かぬ限り、ここで何が起ころうと、誰にも分かりはしない。
 そう……例え私が、地上の下等生物を一匹捻り潰し、精魔界の王女から命と王杖を奪ったとしても」
「祭壇を築き 水の神将を招く!」
 最早、皮肉の一つもない。
 必死な面持ちで、リサが魔法の詠唱を始めた。
 だが――
「こちらはもう召還を終えています!
 我が命ずるは光の矢衾!」
 ルクシアの言葉の通り、
 流星の矢が隙間なく、頭上から降って来た。
 詠唱を続けながら、思わず目を閉じるリサ。
 だから彼女は――その時、何が起こったのか、見届けることが出来なかった。
「千刃!」
 裂帛の気合は、
 別人のような、暁の雄叫び。
 冷たい嵐を皮膚で感じて、リサは目を見開いた。
 嵐は、殺気だった。
 氷の、否、鋼の殺意が烈風の弾丸となって、魔力の矢を射ち落とした!
「……百鬼夜行を迎え撃つ」
 リサの目の前には、抜き身の刀――鞘から抜き放った日本刀を振り下ろした、暁の姿。
「リサ」
 短く、名前だけで促され、リサはハッと我を取り戻した。
「…………
 王杖の権威を以ちて 水の軍団を招集す
 招きし兵数 十重の千」
 リサの手に、ボウッと輝く杖が現れた。
 これがおそらく、ルクシアの狙う『王杖』だろう。
 だがルクシアの目は、リサを、王杖を見てはいなかった。
 その余裕が、無かった。
「斬鉄!」
 真っ向唐竹割りの一撃を、何処から取り出したのか、幅広の長剣で受け止める。
 しかしその剣は、主の意図する役目を果たさなかった。
「ぐおっ!?」
 咄嗟に体を捻った身のこなしは、人の域を超えていた。
 流石は天上の騎士を名乗るだけのことはある。
 だが、頭上に翳した剣を斬り落とされて(・・・・・・・)、降って来た斬撃を完全にかわすことは、流石に不可能であるようだった。
「……刀剣甲冑を断つ」
 右腕がほとんど、落ちている。
 辛うじて皮一枚でつながった状態か。
 だが、血は既に止まっていた。
 光の靄が傷口を塞ぎ、切り離された腕を元に戻す。
「……そりゃ反則だろ」
 残心のまま呆れ声で抗議する暁に、余裕たっぷりの口調でルクシアが答える。
「言ったはずだ。地上の刀で天上人は傷つけられん」
 だがその目はずっと、真剣味を増していた。
 暁に向けられたルクシアの視線は、暁を憎むべき敵と認めていた。
「ダウト。
 傷つけられない、ではなく、傷はすぐ治る、が正解らしいな」
「同じことだ、地上人」
 長い詠唱を続けるリサを放置して、暁の相手をしていることが、ルクシアの認識の変化を物語っている。
「そうかな?
 要するに、治癒が追いつく前に命を断てばいいんだろ?
 出血死やショック死は無理でも、首を切り落とせば致命傷だろうに。
 それともお前らって、首だけでも生きられるのか?」
「いやいや、流石に首を落とされれば魔法でも再生は不可能だ。
 だがどうやって私の首を落とすのだね?
 私に最早、油断は無い!」
 ルクシアの身体が燐光を纏った。
 それは暁には、頭頂までを覆う西洋式のプレートアーマーの形に見えた。
「それにしても不思議だよ、地上人。
 貴様からは何の魔力も感じられない。
 地上界の魔法なら何度も、何種類も見たことがあるが、貴様は如何なる種類の魔法も用いていない。
 それで何故、私の魔法を防ぎ、私の剣を断ち、私の身体を斬ることができたのか……
 あるいはその、魔剣の力か?」
 暁の唇が動いた。
 闇に隠れて微かに象られたその形は……嘲笑か?
「……これは確かに良い刀だが、去年打ち上がったばかりの新刀だ。神剣とか魔剣とか呼ばれるような由来は、まだ無い」
 そう言って、暁は手に持つ刀を床に突き刺した。
 その行為の意味が分からず、戸惑うルクシア。
 暁は足元に転がる刀を器用に蹴り上げて掴み、二本目の得物の鞘を払った。
「これもそうだ。
 鍛冶師の魂がこめられた良い刀だが、魔法などとは縁がない」
 しかし、正眼に構えたその切っ先は、確かに、ルクシアの腕を斬り裂いた「力」と同質の「力」を放射していた。
 その気迫に、鬼気に、ルクシアは呑まれたかの如く、魅入られたかの如く、身動ぎすることを忘れていた。
 朗々と、暁が名乗りを上げるその姿に見入っていた。
「斬るものは、刀にあらず。
 我が斬る。
 我が貫く。
 我が殺す。
 我こそが、冥府の刃。
 必殺の意志を刃と成し、冥土へ通ずる扉を開く。
 冥刃流、閻魔鬼(ヤマキ)暁……参る!」
 一瞬で詰められた間合い。
 燐光を纏う新たな長剣で迎撃するルクシア。
 だが暁は最初から、ルクシアと剣を合わせようとはしていない。
 斬りつけられる長剣の軌跡を縫うように伸びた切っ先は、ルクシアの喉元で火花を散らした!
「くっ!」
 横薙ぎに放たれた幅広の両刃を大きく跳び退ってかわし、通り過ぎた斬撃を追いかけるようにして手首に斬りつける。
 鋼が打ち合わされるの音は、ただの一度も無かった。
 ルクシアの長剣は悉く空を切り、
 暁の斬撃は悉く火花を散らした。
 客観的な攻防の時間は、一分に満たない。
 だがルクシアの主観時間においては、二人は何十分も切り結んでいた。
 暁には時間の感覚など残っていなかった。
 だから、暁の方がそれに、先に気付いたのは、単なる幸運でしかなかった。
「……願いたるは 貫く激流!」
 暁が大きく横に跳んだ。
 神速のステップは、その瞬間、ルクシアの認識能力を超えていた。
 直後、暁の残像を貫いて、何条もの水の槍がルクシアを襲う!
「ぐおおおぉぉぉ!」
 雄叫びと共に、ルクシアの纏う燐光が爆発的に光量を増した。
 暁の斬撃によるものとは比べ物にならない、激しい火花が一面に散った。
「はああぁぁぁぁ!」
「おおおぉぉぉぉ!」
 魔法もまた、つまるところ気力であり気合、ということだろうか。
 異世界の男女が雄叫びをぶつけ合う光景を横で見ながら、暁はそんなことを考えていた。
 そんなことを考えながら彼の身体は、それとは無関係に動いていた。
「っ!?」
「ハッ、ハハハ! 私の勝ちだ! 精魔界の王女よ!」
 水流が尽き、膝を落とす少女と、それを見下ろす男。
「いいや、お前の負けだ」
 その胸を背後から貫く鋼の刃。
 鋼が纏う殺意の闇が、燐光を拒絶し、穴を穿っていた。
 引き抜かれる刀。
 消失する光の鎧。
 一文字を描いた闇の閃刃が、ルクシアの首を、斬り落とした。

 舗装された道路に転がる生首を、暁はじっと見詰めている。
 その眼差しはまだ、警戒を解いていない。
 やがて、最早復活することは無い、と確信が持てるようになって……暁は、血に濡れた路上に、大の字に倒れた。
「暁!?」
 慌てて駆け寄るリサに、手を挙げて生存を告げる。
「どうしたの!? 怪我してるの!?」
「……怪我と言えば怪我かな……
 全身の筋肉がズタズタだ。いや、後遺症が残る程じゃないから心配するな」
 答える台詞の途中でリサが泣き出しそうになって、暁は慌てて言葉を継いだ。
「大丈夫。限界一杯の無理な運動をした所為だから。
 ガキの頃から鍛えてるんでね、この程度なら、一晩寝れば問題無しだ。
 それよりリサ、頼みがあるんだが……」
 道路に寝そべったまま両手を合わせる暁に、リサは何度も頷いた。
「なに? 何でも言って! 何でもするから!」
 多分この瞬間なら、抱かせろと暁が言えば、リサは躊躇いもなく服を脱いだだろう。
 無論、暁の「頼み」は、そんなことではなかった。
「このままじゃ殺人及び器物損壊、いくら相手が身元不明とはいえ、ブタ箱行きは免れん。
 ヤツの死体を魔法で消せないか?」
「あっ、そうね。
 分かった。
 すぐに始末する」
 リサの手には、仄かに光る杖が握られたままだ。
 その杖を眼前に掲げ、リサは呪文を唱え始める。
 良い声だな、と、この時初めて、暁は思った。
 殺伐とした心が和む、心地の良い声だ。
 暁はその心地よさに心と身体を預け、じわじわとこみ上げてくる眠気に逆らわず、目を閉じた。

※・※・※・※

 鼻腔をくすぐる美味そうな匂いで、暁は目を覚ました。
 姉さん、と声を掛けようとして、ここが実家でないことに気付く。
 そして、首を捻る。
 家政婦を雇った覚えは無いし、朝食を作ってくれるようなガールフレンドもいなかったはずだが……
「あっ、おはよう、暁」
「リサ……」
 昨晩会ったばかりだが、名前はスムーズに思い出せた。
 本名は確かアィリサリィア・アスカ・カーラ、出身は精魔界で……
「!」
 ここに至り、ようやく意識が、完全に覚醒した。
「……おはよう。
 君が部屋まで連れて来てくれたのか?」
「うん。
 転移魔法は無闇に使っちゃ行けないことになってるんだけど、近距離だし、非常事態だったから」
「そうか……後始末は?」
「バッチリよ。
 痕跡残しちゃ都合悪いのは、あたしも同じだからね。
 ルクシアの死体は骨まで灰にして、血は全部洗い流して、倉庫には路駐の軽トラを突っ込ませといたわ」
 良い手かもしれないが、随分無茶をするものだ、と暁は思った。
 思っただけで、何も言わなかったが。
 この後しばらく、「幽霊トラック、日本刀の山に突っ込む!」とか何とか、週刊誌を賑わすことになるのだが、それも暁の知ったことではなかった。
「あと、ごめんなさい。本当は寝室に連れて行こうと思ったんだけど、服が血で汚れていたから……」
 なる程、それで自分は、リビングの床に布団も敷かず寝ていたという訳か。
 まあ、適切な判断だな。身体は節々、痛いけど。
 リサにもこの寝心地を教えてやりたいな今晩にでも――と、暁は思った。
「……どうしたの?」
 頭を繰り返し左右に振った後、眉間に指を当ててじっと考え込むポーズをとった暁を、不思議そうに、そして少し心配そうに、リサが覗き込む。
「いや、何でもない」
「?」
 だが、我ながら馬鹿げたことを考えている、と自覚した暁が、「沈思黙考のポーズ」を解いて立ち上がったので、リサもそれ以上、質問を重ねたりはしなかった。
 質問の代わりに、リサはまぶしい笑顔を見せた。
「朝食の準備、もうチョッとで終わるから。
 シャワーでも浴びてきたら?」
「……そうしよう」
 何と言うか、主客逆転と言うか「押し掛け何とか」じみた雰囲気になっていたが、ツッコんだら負けだ、と本能的に覚った暁は、大人しくバスルームへ向かった。

 朝食の味は、期待を裏切らないものだった。
 この部屋のキッチンでは、久し振りに塩以外の調味料が活躍した――と言えば、普段の暁の食生活が想像できるというものだが、それを差し引いても、リサの料理は美味だった。
 ――ちゃっかり自分の分も用意してあったので、本人がまともな味付けの料理を食べたかっただけかもしれないが。
「ところでリサ、ホームステイ先に連絡はとったのか?」
「ええ、貴方に言われた通り、電話させてもらったわ。
 ……あっ、ちゃんとコレクトコールにしたから心配しないで」
「いや、そんなことは心配していない。
 実家は金持ちだ、って言っただろ?」
「そうね。失礼なこと言っちゃった」
 ペロッと舌を出す表情は、十八歳という申告年齢よりも幼く見えて、昨晩の凛々しく引き締まった「魔法遣い」の顔が嘘のようだった。
「気にしてない。
 それで、何時迎えに来るって?」
「明日には来てくれるみたい。
 随分心配掛けちゃった」
「不可抗力だろ?
 まあ、心配掛けた分は……きちんと謝ればそれでいいんじゃないか?」
「そうね。
 ありがとう、暁。優しいのね」
「この程度のことで褒められてもな」
「ううん、今のことだけじゃなくて……もう、ホントは分かってるんでしょ?」
 素っ惚けた笑顔に、リサも最早、苦笑するだけだ。
 気になることは山ほどある。
 ルクシアの魔法を射ち落とした「術」は何なのか?
 天界騎士と対等以上に切り結び、上級魔法すら退けた防壁を貫くあの剣技は何なのか?
 だが――いくら訊ねても、暁は何も答えてくれないだろう。
 リサは、それでも良い、という心境になっていた。
 謎の地上人。
 恐るべき剣の遣い手。
 チョッと皮肉屋で、ツッコミ特性で、その癖ボケが多くて、正体を見せずいつも惚けてて、でも、自分を最後まで見捨てなかった、最上級のお人好し。
 山生暁という人間は、そういう人だ。
 リサにはそれで、十分だった。
「さて、ご馳走様」
「いや、作ってくれたのは君だ」
「でも食材は貴方の家にあった物だから、ご馳走様。
 じゃあ、あたしは行くわ」
「何処へ?」
「この街にもホテルくらいあるでしょ?
 手強い追っ手は貴方が潰してくれたし、一日くらい、何とかなるわ」
「そうか」
 じゃあね、と立ち上がったリサをそのまま見送ろうとして、ふと気付いたように、暁はその背中に声を掛けた。
「ところで、金は持ってるのか?」
 振り返った姿勢で、リサは肩越しに、金色のカードを振って見せた。
「お金は無いけど、カードがあるから」
 暁の常人離れした視力は、そのカードに少し気になる点を見つけた。
「そのカード……有効期限が切れてないか?」
「えっ?
 大丈夫よ、ほら……09/08って書いてあるでしょ。まだ一年近くあるわ」
 リサの台詞が半分も終わらない内に、暁は頭を抱えていた。
「……どうしたの?」
「リサ……クレジットカードの期限表示は、月、年の順番だ。
 09/08ってのは、2009年8月じゃなくて、2008年9月……つまり、そのカードは先月で期限が切れている」
「……えっ?」
「……ホームステイ先とやらから、新しいカードはもらわなかったのか?」
「そう言えば先々月だったかな、新しいのをもらったけど……まだ今のカードが使えると思って……」
「あのな……クレジットカードは発行日から使用できる。代わりのカードが来たら、新しい方を使うのが常識だ。
 いや、それ以前に……現在(いま)はイギリスに住んでるんだろ?
 向こうじゃ、MM/YY形式の年月表示なんて基本のはずだぞ?」
 リサの顔は、蒼褪めていた。
 それが暁の視線を受けて、徐々に赤みを取り戻し、更にデフォルトを超えて、赤くなり……
「……どうして日付の表示形式が何種類もあるのよ!
 何で地上界は言語を統一しないの!?
 精魔界じゃ、二千年前に言語は統一されてるのよ!?」
……逆ギレしてしまった。
 暁は文化の多様性を尊重することの大切さと、文化の多様性に触れる留学の意義をリサに説こうとして……ため息と共に諦めた。
「何よ?」
「言語統一なんて壮大な問題より、目先のことを考えよう。
 明日までどうするんだ?」
 クリティカルヒット、だったようで、リサの顔色は、ディスクを逆回転させたかの如く、再び蒼褪めた。
「……もう一晩、泊まっていくか?」
「……いいの?」
 多分に諦めの色が混じっていたが、暁は苦笑交じりに頷いた。

※・※・※・※

 翌朝、暁は少し、寝坊をした。
 それはリサも同じだった、ので、朝食が冷めるとかの不都合は無かったが。
 昨日はあれから、リサをショッピングセンターに連れて行ったり、リサの買い物に付き合ったり、リサの荷物を持ってやったりで――つまり全部、同じことだ――、ある意味一昨日の夜より疲れた。
 リサが着の身着のまま、下着の替えすら持っていなかったので、買い物に行こうと誘ったのは暁だ。
 奢ってやる、と申し出たのも暁だ。
 だがまさか、一日中振り回されるとは思っていなかった。
 ――これはきっと、去年までこの国で女子高校生をやっていた悪影響に違いない。
 ――異世界という言葉が持つ浪漫を守る為に、暁はそう思うことにした。
 そして帰りのスーパーで――既に日没間近だった――、食料品に何故か混じっていたワインの瓶に、夕食後リサにせがまれて「まあ、一本くらいなら」とソムリエナイフを刺し込んだのが、まずかった。
 暁はベーコンエッグを箸で切りながら、キッチンの片隅に目を向けた。
 そこには、ワイン、日本酒、ブランデー、ウイスキー……実に壮観なガラス瓶の林が形成されていた。
 精魔界の住人は、アルコールが主食なのか? と昨晩真剣に首を捻ったのは、リサには内緒だ。
 もっとも、少し寝坊しただけで二日酔いの欠片も感じていない暁は、決して他人のことを言えないだろう。
「ご馳走様。美味かった」
「ありがとう。お粗末さまでした」
 ブラックのコーヒーで口の中の油分を流し、唇をナプキン代わりのウェットティッシュで拭いながら一礼する暁に、リサも笑顔を返す。
 遅めの朝食を終わらせた丁度その時、来客を告げる呼び鈴がなった。
 後片付けをリサに任せ、暁はドアフォンを取る。
「はい」
「朝早くから失礼いたします」
 もう「早く」という時間でもない。来訪者は若さに似合わず、礼儀がしっかり身についているようだ。
「アキラ様はご在宅でいらっしゃいますか」
 ドアフォンはカメラ付きで、小さな液晶画面に映っているのは、中学生くらいの女の子だった。
「少々お待ち下さい」
 暁は相手の外見に関係なく、相手の礼儀に対して礼儀で報いて、玄関へ向かった。
「リサ、お迎えのようだぞ」
 途中、キッチンに声を掛けるのを忘れずに。
 えっ、とか、やだ、とか、バタバタしている気配を尻目に、暁はドアを開けた。
 そこにはリサより二回りほど小柄な、リサと良く似た面立ちの可愛い少女が、上品なワンピースに身を包んで立っていた。
 ――背後に厳つい、黒スーツの護衛を山ほど従えて。
「ヤマキ・アキラ様でいらっしゃいますね?
 はじめまして。
 わたくしはリュシアンアシュリ・カルラ・カーラと申します。
 シアンとお呼び下さい」
 長いスカートの裾を両手でつまみ、優雅に一礼するその姿は、なるほど「王女」だと納得できた。
「はじめまして、シアン殿下。
 山生暁です。
 お目にかかれて光栄に存じます」
 そう言って暁は丁寧に腰を屈め、右手を前に差し出した。
 はにかんだ笑みを浮かべて、少女は暁の右手に自分の右手を重ねる。
 その手の甲に、暁は恭しく唇をつけた。
「ああっ!
 暁、何してるの!?
 ……って、シアン!?」
 簡単に身支度を整えて玄関に出てきたリサは、暁のキスシーン――これもキスシーンだろう、一種の――を見て、素っ頓狂な悲鳴を上げ、その相手の顔を認めて、もう一度驚愕の声を上げた。
「お久し振りですね、リサお姉様」
「シアン、何故貴女がここへ!?」
「陛下のご命令ですわ、リサお姉様。
 女王陛下は、今回のことに大層お心を痛めておられ、『天秤』に対する抗議を含めて、外務卿であるわたくし、リュシアンアシュリ・カルラ・カーラに、宝務卿アィリサリィア・アスカ・カーラ殿下のお迎えをお命じになられたのです」
 告げられた情報を処理し切れずに呆然としている姉を、とりあえず横において、シアンは暁へ向き直った。
「アキラ様、この度は姉に多大なるご助力をいただき、まことにありがとうございました。
 姉とこうして再び会うことが出来ましたのは、ひとえに、アキラ様のおかげです。
 精魔界はこのご恩に報いる為、あらゆる便宜、如何なるお望みも叶う限りお受けすると、我らが女王より申し付かっております。
 アキラ様、何なりとこのシアンにお申し付けくださいませ」
 随分大事になったな、と他人事のように暁は思った。
 一つの世界が、彼に、褒賞は思いのままだ、と申し出ている訳だ。
 富も栄誉も、おそらくは、思いのまま。
 だが彼は、一瞬の迷いもなく――
「私は別段、大したことはしていません。
 少しの力を、少しの時間、少しばかりご用立てしたまでのことです。
 私はシアン殿下の姉君を守ったのではなく、我が身を守る為、姉君と協力して戦っただけに過ぎません」
「……何も、お望みになられないと?」
「はい」
 暁は今の生活に十分満足している。
 何かを得ることで、この「日常」を壊されることのデメリットの方が、彼は怖かった。
「しかしそれではわたくしどもの、いえ、わたくしの気持ちが収まりません。
 せめて何か、一つだけでも、わたくしどもの感謝の印を受け取ってはいただけませんか」
 狼狽して、縋りつく様な眼差しで、必死に訴えかけて来るシアンに、このまますげなく拒絶するのは申し訳ないという気持ちに暁は至った。
「……では一つだけ」
「はい! 何でしょうか!?」
「貴国の陛下にご伝言を。
 アィリサリィア・アスカ・カーラ殿下をお叱りになることなく、今までどおりこの地上界で暮らすことを許して欲しい、と」
「……はい?」
 きょとんと目を丸めた表情は、威儀を纏った王女殿下というより年相応の少女といった感じで可愛らしく、彼女の姉に良く似ていて、この顔を見ることが出来ただけでも褒賞としては十分だと暁は思った。
「……それでよろしいのですか?
 それではアキラ様に、何のメリットもないかと存じますが……?」
「いえ、メリットはありますよ、シアン殿下。
 もし私に関わったことで、誰かの日常が守られたのなら、私の剣にそれだけの意味があったということですから」
 彼の言葉に、シアンはサッと頬を赤く染めた。
「失礼いたしました!
 ……アキラ様は、誇り高いお方なのですね。
 承知いたしました。陛下には、いえ、母には、アキラ様のお申し付けを一言一句違えずにお伝えいたします」
 ……どうも、随分な過大評価と言うか、誤解が生じてしまったような気もしたが、暁は黙って頭を下げただけだった。
 貴人というのは、自分の都合の良い誤解をしたがるものだと、暁は多少の経験から知っていた。
 一方、王女の癖に貴人らしからぬ姉の方はというと、
「暁、貴方って……本当にお人好しなのね」
 再起動を果たして、初っ端に放った言葉がこれだった。
 暁は流石に、少しばかりムッと来て、些細な反撃を試みることにした。
「リサは本当に王女様だったんだな」
「……どういう意味よ」
「別に、そのままの意味だが」
 そう言いながら、暁の視線は意味ありげに、リサとシアンの間を往復している。
 ――言いたいことは明らかだった。
「痛て」
「お姉様!?」
 暁の向う脛をスリッパで蹴り上げるリサ。
 さして痛くなさそうに抗議の声を上げる暁。
 慌てて姉をたしなめるシアン。
 その平和な光景は、シアンの背後から囁きかけるボディガードの言葉で終わりを告げた。
 暁には理解できぬ言語。
 それはおそらく、異世界の統一言語なのだろう。
 そういえば、何故自分はリサの呪文を理解できたのだろうか? あれは日本語だったと思うのだが……と、この場と関係のないことを暁が考えているうちに、バタバタと話が決まったようで、リサは客間へ一旦引っ込み、彼女が脱いだ服が詰められている、昨日のショッピングの戦果である旅行バッグを持って出て来た。
「暁……」
 彼に向けられた笑顔は、暁の錯覚でなければ、少し寂しげなものだった。
「本当に、ありがとう」
「別に、その程度の買い物なら大して懐も痛まないから、気にしなくていいぞ」
「あのねぇ!
 ……もう、貴方って人は」
 リサの浮かべた苦笑には、泣き笑いの趣があった。
「シアン、暁にお礼を言いたいから、少し外してもらえないかしら」
「分かりました」
 ボディガードに合図して、廊下へ出るシアン。
 後ろ手にドアを閉めて、リサは暁の顔を見上げた。
「暁……色々と、本当にありがとう。貴方のことは、忘れないわ」
「その点については同感だ。俺も君のことは忘れられそうに無い」
 しんみりした表情のリサに、暁は相変わらずの素っ惚けた笑顔で応える。
「あのね……そういう台詞くらい、真面目な顔をして言えないのかしら?
 ムードが台無しじゃない」
 ムードが出たら問題じゃないか、と暁は思ったが、リサの目に溜まった涙を見て、何も言えなくなった。
 居住まいを正して、真面目な顔で、リサに向かい合う。
 リサは半泣きのまま、苦笑気味に首を振った。
「……前言撤回。貴方にそんな真面目な顔をされると、調子狂っちゃう」
 謂れのない――少なくとも、暁の主観においては――誹謗に、苦虫を噛み潰した顔で絶句した暁は、
 ……次の瞬間、目を見開いて絶句することになった。
 ぶら下がるようにして、彼の胸に押し付けられた柔らかな身体。
 ぶら下がるように、彼の首に回された細い腕。
 彼の鼻腔をくすぐる甘い匂い。
 そして、彼の耳に囁く、哀しそうでいて、それでも尚、心地の良い声。
「暁……貴方に会えて、良かった」
 首がぐいっと引かれて、思わず前屈みになった瞬間、
 彼の唇に、リサの柔らかな唇が押し当てられた。
「……暁、さようなら」
 彼の返事も待たず、リサの姿は、閉ざされたドアの向こうに消えた。

 暫く呆然と飾り気の無いドアを見詰めていた暁だったが、FAXの着信音で我に返った。
 一般家庭には不似合いな、FAX・コピーの事務用複合機から、細かい文字がびっしり書き込まれた暗号文が吐き出される。
 一枚目を手にとって、久々のバイトか、と暁は心の中で呟いた。
 今回のターゲットは、調伏するはずの邪鬼に心を食われた陰陽師。
 だらしねえな、と今度は口に出して呟きながら、厳重に鍵を掛けておいたクローゼットから、黒塗りの鞘に納められた自身の愛刀を取り出す。

 そうして暁は、リサの知らぬ、リサに見せなかった、彼自身の「日常」へと戻ったのだった。


 このお話は、「魔法科高校」第二章を書いている最中に、突発的にネタが降りてきて、突発的に書き上げた作品です。
 ですので、伏線が未回収のまま多数放置されているのは仕様です(汗)
 現時点では、続きを書く予定もありませんが、もしまた突発的にネタが降りてくるような事があれば、第二弾を書くかもしれません。
 その節は、生暖かい目でお付き合い下さい(爆)
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