「ノーベル賞めざす金髪学者ショウ様「千年に１度の復興をしよう」」の記事詳細：イザ！

　胸までのびた金髪に砂色の迷彩服というインパクトある出で立ちで、ファンからは「ショウ様」と親しまれている多田将さん（４１）。実は、将来のノーベル物理学賞が有力視される国家的プロジェクト「Ｔ２Ｋ実験」に装置の設計から携わる凄腕の物理学者だ。難解なＴ２Ｋの解説書を出版すると、たちまち増刷。一般人にもわかりやすい語り口で人気を集めているショウ様を直撃した。（産経デジタル　城野崇）

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　「１番じゃないとだめな理由を科学者は説明しないといけないんです」

　広さは東京ドーム１４個分という巨大実験施設「Ｊ－ＰＡＲＣ」（ジェイパーク、茨城県東海村）にある研究室で、ショウ様は口調を強めた。「科学の世界では２番目の研究なんて誰もやらない。１番をあきらめたら、建設費だけで１５００億円かけた世界最強のＪ－ＰＡＲＣが無駄になってしまう」

　ショウ様の専門分野の「素粒子物理学」は、物質を構成する原子をさらに細かく細かく分けた「素粒子」の性質を調べる学問。これまで日本人からノーベル賞受賞者が６人も誕生するなど、日本が世界をリードしてきた分野だけに、ショウ様は「これまでやったことないことを続けることで科学技術が生まれてきた。日本の技術発展のためにも１番であり続けなくちゃいけない」と力説する。

　「東海ｔｏ神岡」を意味するＴ２Ｋ実験。素粒子の一つ「ニュートリノ」の振る舞いを調べる最先端の研究で、東海村のＪ－ＰＡＲＣのビーム砲から、約３００キロ離れた岐阜県飛騨市神岡町のスーパーカミオカンデへ向け、秒間１０００兆個のニュートリノを撃ち続ける。日本そのものが実験場という壮大さだ。

　成功すれば世界初の快挙でノーベル賞がとれるかもしれない“すごい実験”だが、ショウ様が解説すると「平易で子供にもわかりやすい」と勉強会に引っ張りだこ。ショウ様は「自分が座学が得意じゃなかったから、わからないという気持ちがわかるんです」。

　都内の高校での講演録をまとめた「すごい実験－高校生にもわかる素粒子物理の最前線」（イースト・プレス刊）では、素粒子物理の専門知識を身近なもので説明したり、Ｊ－ＰＡＲＣをガンダムやエヴァンゲリオンなどアニメの兵器に例えるなど、読者の関心をひく工夫を盛り込んだ。「科学の魅力をちゃんと知ってもらわないと、『株取引の方がもうかるじゃないか』となって科学者の人材がいなくなる」と冗談も。

　そんなショウ様だが、東日本大震災でＪ－ＰＡＲＣが被災し、Ｔ２Ｋ実験がストップしている。地震でずれた実験装置の位置をミクロン単位で修正する作業が続けられているためだが、一方でマグニチュード９・０の大地震でも装置に大きな故障はなかった。「それって日本が阪神（淡路大震災）を経験したからなんですよ。今回の震災が千年に１度の災害なら、千年に１度の復興をすれば新たな技術を生み出せる」とショウ様は前向きだ。

　研究グループはすでに「９９．３％の確率で確か」という成果を発表しており、あとは２０１４年までに精度を「９９．９９９９％以上の確率で確か」まで高めることを目指す。ただ、欧米のライバルが同じく２０１４年を目標に同様の実験で追い上げているため、停止期間のハンデを取り戻すべく復旧を急いでいるというわけだ。「もし地震で装置が壊れてたら、完全にアウトだった」（ショウ様）

　最後に、ニュートリノの現象が分かると何の役に立つのか、ショウ様に尋ねると、「多分僕が生きている間には利用法は見つからない」とあっさり。「でも、ひょっとしたら５０年後、１００年後には見つかるかも。そのときの後輩のために今、やらなくちゃいけないんですよ」

　■Ｔ２Ｋ実験

　「電子型」「ミュー型」「タウ型」の３種類があるニュートリノは、他の物質とほとんど反応せず地球も素通りして宇宙を飛び回るが、途中で型が変化することが知られている。実験では、Ｊ－ＰＡＲＣで人工的に作り出したミュー型ニュートリノを世界最高の検出器であるスーパーカミオカンデへ発射して観測し、電子型ニュートリノに変化する現象を詳細に調べる。２０１０年１月～１１年３月に作り出した１０の２１乗個のミュー型の中から１２１個をスーパーカミオカンデで検出。うち、６個が電子型に変化していたとみられる。

　■多田将（ただ・しょう）

　１９７０年６月２４日、大阪府生まれ。京大大学院理学研究科で博士号を取得し、現在は高エネルギー加速器研究機構（茨城県つくば市）の素粒子原子核研究所で助教を務める。Ｔ２Ｋ実験には、ビーム砲にあたるニュートリノビームラインの設計など、初期から関わっている。アイドル、竹中里奈さんの熱心なファンで「本業は追っかけで、研究は副業」が口ぐせ。