メキシコ・カンクンで11日まで開かれた国連気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)で、今後の地球温暖化交渉の基礎となる「カンクン合意」が採択された。現在の国際ルールである京都議定書は12年末まで先進国に温室効果ガスの排出削減を義務づけたが、米国が離脱し、排出量が急増している中国やインドなど新興・途上国には削減義務がない。カンクン合意は、米国や中国など主要排出国も含めた新しい枠組みへの第一歩だが、どのような法的枠組みがいつ開始されるのかは不明だ。「ポスト京都」の姿を探った。【江口一】
ポスト京都では次の三つの枠組みが想定されている。
(1)新枠組みと「京都」が同居
途上国は、地球温暖化を招いた先進国の責任を明確化するため、京都議定書延長を求めており、欧州連合(EU)も容認する構えだ。この場合、主要排出国のすべてを包括する新枠組みに、京都議定書を取り込む形が考えられる。つまり、議定書を批准する先進国は削減義務を負い、米国や途上国は自主的な削減目標を掲げる。日本は議定書の下で目標を掲げることは「ルールが複雑で、産業界の国際競争でも不利だ」として、拒否する方針だ。
(2)新枠組みに一本化
カンクン合意では、米中を含め各国が自主的な温室効果ガスの削減目標を掲げている。日本は「主要排出国が参加する公平な一つの枠組み」に法的拘束力を持たせることを目指している。先進国が途上国での対策を支援して削減された分を自国での削減量に組み込むことのできる「クリーン開発メカニズム」(CDM)など現行の仕組みは生かしつつ、削減目標の設定や削減量の計算方法など、議定書と異なった新たな枠組みに一本化される。
(3)削減義務のない空白期間
新枠組みを「法的な削減義務」とすることには、米国や中国などが反対している。
新枠組み構築に失敗すれば、各国は2カ国間や地域グループなどで協定を結んで独自に温暖化対策に取り組む流れになるとみられる。議定書が延長されなければ、どの国も削減義務のない「空白期間」が生じる。
カンクン合意には「新たな市場メカニズム」の検討も盛り込まれた。メカニズムは、他国で実施した削減事業の一部を自国の削減量に算入できる仕組みだ。CDMもあてはまるが、国連の理事会の承認が必要で、信頼性はあるが実施には時間がかかる。
日本は、省エネ投資をする相手国と直接、協定を結ぶ「2カ国間クレジット」を提案している。国連の審査手続きが不要となり迅速に省エネ事業を実施できる。
既に経済産業省や環境省がインドネシアなどで試験事業に着手し、欧米も同様の仕組みを検討している。
一方、国内対策は停滞している。ポスト京都をにらみ「20年に90年比25%削減する」との中期目標を盛り込んだ地球温暖化対策基本法案は、「ねじれ国会」の影響で成立の見通しが立たない。
法案に盛り込まれた国内排出量取引は与党内や産業界から反発が強く、予定していた13年度からの実施を先送りした。
化石燃料に課税する地球温暖化対策税(環境税)は来年秋に導入されるが、ガソリン1リットルあたりの税額は1円に満たず、使用抑制効果はあまり見込めない。排出削減効果は、税収をすべて温暖化対策にあてても90年比1%減にとどまる。
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■解説
「国際会議への信頼を取り戻してくれた」(インドのラメシュ環境森林相)。11日未明、議長のエスピノサ・メキシコ外相がまとめたカンクン合意案に、各国から賛辞が相次いだ。多くのポスト京都議定書の主要論点が先送りされたが、合意にたどりついたことに誰もが安堵(あんど)していた。それだけ、昨年のCOP15の失敗の傷は深く、国連の下での多国間交渉が行き詰まっていたということだろう。
COP15で主要国だけで作成した「コペンハーゲン合意」は「手続きに問題がある」と反発を招き、採択されなかった。コペンハーゲン合意を土台にしたカンクン合意が国連の文書として採択され、1年遅れで交渉が進み始めたことになる。
だが、各国が満足したのは、あらゆる可能性が残されているためだ。カンクン合意は、新たな枠組みを法的拘束力を持つ形とするのか、京都議定書を延長するのか、来年のCOP17に先送りした。各国が描くポスト京都議定書は異なる。米中も含めた新たな枠組みを構築するか否かは、この1年の交渉にかかっている。
COP16では、インドが削減の国際検証受け入れを提案するなど新興国が交渉の鍵を握った。日本は、京都議定書延長に徹底反対して世界の耳目を集めたが、反対だけの印象にとどまらない提案をしていくことが各国の信頼を得るのに重要だ。【足立旬子】
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◆カンクン合意の骨子◆
・産業革命以降の気温上昇を2度未満に抑える。
・京都議定書の第1約束期間(08~12年)と13年以降の第2約束期間に空白期間を作らないよう、できる限り早く結論を出す。
・議定書締約国には13年以降の削減目標に同意しなくてよい権利がある。
・先進国は温室効果ガス排出量を20年までに90年比25~40%削減しなければならないと認識する。
・先進国は削減目標を掲げ、排出量を毎年報告し、国際的な検証を受ける。
・途上国も20年の見込み排出量からの削減量を目標に掲げ、達成状況を2年に1度報告し、国際的な検証を受ける。
・途上国の排出削減を支援する「グリーン気候基金」や、温暖化による被害対策の枠組みを新たに設立する。
・50年までの世界全体の削減目標を、来年南アフリカで開催されるCOP17で検討する。
毎日新聞 2010年12月20日 東京朝刊
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