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[30751] 【習作・実験】現実→ソードアート・オンライン(SAO)
Name: 峰◆69f1f342 ID:9f930771
Date: 2011/12/10 21:58
 単発で終わらせるつもりだったのですが、ちょっと文章練習のために(無理やり)続けてみることにしました。




※注意
 本作品は習作であり、作者の文章力や構成力の練習及び実験的意味合いが強いです。
 厳しい意見は歓迎ですが、作品内に以下の要素が含まれることを留意しておいてください。


・現実来訪オリ主物。


 タイトル通り現実→SAOの設定は可能かどうかをテーマにして書いています。
 よって、原作が好きで、改変は一切認められないといった方には合わないと思われます。


12/4 プロローグ1投稿(12/10修正)
12/10 プロローグ2投稿



[30751] プロローグ1
Name: 峰◆69f1f342 ID:9f930771
Date: 2011/12/11 01:46
 夜、いつも通りにベッドに潜り込み、次に目が覚めると大自然の只中に身を置いていた。

 何とも支離滅裂な文章になってしまっているが、俺の主観においてそれは悲しいまでに正しい説明だった。

 え、え、え? と間抜けに同じ言葉を繰り返しながら慌てて立ち上がると、何度も体と首を振って周辺を確認する。そして延々と茂る緑に再度「え?」と声を上げる。
 天に向かって伸びる幾多の樹木に驚き、踏みしめる土の感触に驚き、果てには自分の着ている服にまで驚く。寝巻代わりに使っていたスウェットの上下はどこにやら、今の俺は白い麻シャツの上から灰色のベストを着込んでいたのである。
 こんなもの買った覚えはないし、それはズボンの方も同様だ。
 普段着なんて量販店で揃えたジーンズとシャツくらいのものだぞと全く自慢にならないことを言いつつ足元を見下ろすと、そこには何か細長い棒状の物体が。
 訝しむこと数秒、それが鞘に納められた剣であることに気が付き盛大に顔を強張らせた。
 恐る恐る手を伸ばし持ち上げる。
 柄を握って少しだけ抜き出してみると、陽光を反射して輝く鈍色の刃が現れた。

「本物、か?」

 まさかねえと否定の言葉を述べるものの、背中に何か冷たいものが走るのはどうしようもなかった。
 さっきから一体何なのだと引き攣った顔でそっと鞘に押し戻す。
 なんだこれ、こんなもの持っていたくない、捨てるか、いやしかし真剣らしきものを外に放置するのもそれはそれで不安だ──そんな思考が頭の中を駆け巡る。
 おそらく第三者の視点で俺を見たならば、わけが分からないと、そう顔にマジックで書かれているにも等しい表情を浮かべていたことだろう。
 未成年の身で酒を入れた記憶はないし、明日みんなで樹海行こうぜなどと友人と珍妙な約束をした覚えもない。テレビ番組にドッキリを企画されるような有名人でもない。仮にそんなことになったとしても、眠っている所を勝手に連れ出して野外に放置というのは度が過ぎている。
 ならば拉致か誘拐かといえば、ではこの格好はなんだという話。
 見覚えのない服に切れ味の良さそうな西洋風の長剣、こんなものをわざわざ持たせる誘拐犯など聞いたこともない。

 意味不明。
 現状に対する俺の理解はこの一言に尽きる。

 心に湧き上がる困惑、混乱。あわあわと絵に描いたような狼狽っぷりを見せて俺は顔を青ざめさせた。
 しかし幾ばくの時間が経過したころ、その慌てた感情にだんだんと怒りの色が混じってきた。
 それは、このあまりに唐突で理不尽な状況に対する鬱憤。
 激しい感情のうねりは抑制されることもなく、極めてシンプルな形、つまり叫ぶという行為によって表に出された。

「なんっ、じゃこりゃあああああああああああ!!」







 現実→SAO
 プロローグ1







 およそ十数分後。

 頭に思い浮かぶ限りの、一部は日本語から逸脱したものまですべての罵詈雑言を吐き散らし終えた俺は肩で息をしながら呟いた。

「人里を探そう」

 手持ちの情報は極めて少なく、自らの置かれた状況の詳細を知ることは難しい。ならばここは目先の事柄に思考を割くのが妥当な判断であるはずだ。
 遭難した場合のセオリーはその場から動かないこと、無駄な体力の消費を避けて救助を待ち続けることだが、そもそもここは俺自身ですら知らない土地。
 誰が何の意図でもって連れてきたのかは全く想像もつかないが、警察に行方不明者として捜索されているにしても数日で見つけてもらえるとは思えない。
 だから人を探す。歩き回る。もし人と出会わなくともその過程で最低限水場が見つけられればいい。命の源泉たる水さえあれば、限度はあれどしばらくは生きられる。
 よしっ、と。そんな風に軽く気合を入れて俺は歩き出した。
 我ながらこの異常状況下において随分と冷静な思考ができているなあと驚くが、これはおそらく先程の行動、叫ぶというストレートな感情の発露行為が上手く作用した結果だと思われる。
 大声を上げて怒る、あるいは泣き叫ぶなどをしたあとでふと我に返る。誰にでも一度くらいはそんな経験があるのではないだろうか。
 外部環境による精神的負荷、つまりストレスとは、溜め込むことによって人体に悪影響を及ぼす。よって長期的に見れば初期のうちに不満を口にしていた方がよいのである。
 ……地団駄を踏み、神やら運命やらに恨み言を並べ立てる醜態は完全に黒歴史入りを果たしてしまっていたが。
 ともかく俺は最初に感情を爆発させることで、結果的に最悪の事態──パニックと呼ばれる混乱した心理状態に陥ることを避けられたのである。

 また、その他にももう一つ。
 冷静さを取り戻せた要因があった。

 もっともそちらの方はどちらかといえばマイナス的な、何かもう馬鹿らしくなってきたという気持ちにさせるものだったが。
 俺はため息をついてそれを、視界の左上あたりにふらふらと揺れる青い細線を見つめた。

【Yuu : HP 342/342】

「ゲームかよ……」

 VR(ヴァーチャルリアリティ)技術のようなものが開発されたなどという話は聞いたことがないのだが、横に小さく伸びた線とその下の数字は明らかにRPGなどでお馴染みのヒットポイント表示だった。
 アルファベットの《Yuu》というのは俺の下の名前である《ユウ》だろう。
 簡単に言えばキャラクターの、この場合で言う俺の生命力を計算して数値にしたものが示されているのである。
 無論、あくまで《そんなようなもの》があるだけであり、これが本当に自分の命の残量であるのかどうかは不明だが。

「知らない内にナーヴギアでも被せられたか?」

 何ともなしに呟いたそれはとある小説内に登場する、仮想現実を構築する架空の装置の名前だ。
 ちなみにストーリーは二〇二〇年の近未来、世界初のVRMMORPGとして大きな期待が寄せられていたパッケージが正式サービス開始直後に他でもない開発者の手でデスゲームと化してしまったというもの。
 危険と困難に立ち向かう主人公とそれを支えるヒロイン。文章の構成自体は王道なものなのだが、それだけに起伏のある展開は面白く、飽きずに何度も読み返してしまうほどだった。
 この原理のよく分からないHP表示は、その中で描写されていたものとよく似ていた。
 まさか俺はネットに溢れる二次創作小説よろしく、寝ている間にあの物語世界に取り込まれてしまったとでもいうのだろうか。

「あるあ……ねーよ」

 自分のボケに自分で突っ込みを入れるという虚しいことをしつつ。
 どんなに早く首を左右に振っても、体ごと振り向いても、しつこくまとわりついて存在感を主張してくるそれを見て俺は現状に悩むことを止めた。
 これがまともな、と言うと何だか妙な気もするが、普通の拉致監禁で暗い部屋に縄で縛られていたなどであれば俺は大いに混乱し恐怖しただろう。なぜならそれらの犯罪は、テレビ画面越しのニュース報道によるものとはいえ《現実にある》と理解しているからだ。
 しかし、これは違う。こんなふざけたものが有り得るはずがない。いやすでにお約束の頬つねりはもちろん割と本気で殴ってみたりもして、結果普通に痛覚が刺激されたことから夢ではないことは確信しているのだがそうではなく。
 白けたというか。
 どうでもよくなってきたというか。
 有り体に言ってしまえば、意味が分からなさすぎてそれ以上の考察を取り止めた。いつの間にか見知らぬ森に居たことだけでも大事なのに、そのうえ人を小馬鹿にするように存在するふざけたゲームシステム。
 アホくせえと、もう何度目になるかも忘れたやさぐれた呟きが漏れた。

「しっかし何もいないなあ」

 それはそれとして――現実逃避とも言う――俺は困り果てた口調で言いつつ頬をかいた。
 歩き始めて早一時間。時計はないが、時間感覚にはそれなりに自信があるためその程度は経っただろう。
 未だ、人との出会いはなかった。
 最悪ここは人の踏み入らない森だという可能性もあるため、そう簡単には行かないだろうと覚悟はしていたが。それにしても野生動物の一匹も見ないのはおかしいように思う。
 虫の鳴く声や、小鳥が羽ばたく小さな音くらいは聞こえてくるのだが、それだけだ。リスだとかウサギだとか、そういった森と聞いて連想するような小動物は一切見当たらない。
 これだけ大規模な、しかも人の手の入っていない自然があれば居そうなものなのだが。
 それともそれは素人考えであり、生息する動物はそう多くないのか。あるいは自分の気配に敏感に反応して姿を隠しているのか。どちらにせよ、もしかすると狩りをする必要も出てくるかもしれないと考え始めていたためそれは不都合なことだった。

 まあ今まで山を駆けた経験もない俺にそれが可能かどうかはともかくとして。
 獲物がいなければ、その真似事をしてみることすらできないのだ。

「何でもいいから出てきてくれ……」

 ────がさり。

 その時、その一言が切っ掛けであったかのように草むらが揺れた。
 まさかここまで素早い反応があるとは思っていなかった俺はおおぅと奇妙な言語を発しながらその方向へと視線を向ける。
 果たしてそこにいたのは……イノシシだった。
 より正確にはイノシシ《らしき》ものだった。
 特徴的な平らな鼻、丸まった牙、敵意に満ちた目つきで俺を射抜くそれは確かに形状だけ見れば干支の一つにも数えられるあの動物だ。しかし決定的な差異として、俺の知るイノシシは茶色であり間違っても青色の体毛などはしていなかった。
 そしてなんと、と言うべきか。それともやはり、と言うべきか。判断に困るがそれの頭上には一本の横線があり。
 自らのそれとは違い数値の表記はされていないものの、ご丁寧にイノシシのHP残量を教えてくれていた。

「モンスター」

 自然とそんな表現が口から零れ出る。
 バーと共に浮かぶ赤色のカーソルはまるでイノシシが敵性存在であることを警告しているかのように思えたし、なんだかんだで未だ持ち歩き続けているあの剣のこともあって、ゲームでフィールドモンスターと遭遇したような気分になったのだ。
 怒りの形相を向けられていながら怯えを感じないのは、きっとあまりに現実味が薄いから。
 鼻息荒くこちらを睨みつけてくるそれを前に俺は呑気にも、「そういえば《あの小説》にも青色のイノシシがいたなあ」などと考えていた。
 確か序盤でこのような外見のモンスターと戦っているシーンがあったはずだ。ええと名前はなんと言ったか……と思い出せずに悩んでいると、カラーカーソルに文字が表示されていることに気が付く。

【Frenzy Boar】

「それだ! ……って、え」

 何気なく読んだ英文字が信じられず、俺は視線を往復させた。

「おい、まさか……まさかね……」

 偶然の一致、であると思いたいのだが。
 あり得ないと切って捨てるには無視できない要素が増えすぎていた。一度はないと断言したそれがだんだんと現実味を帯びてくる。ずしりと、ベルトで吊った剣の重さが背中にのしかかってくる。
 戦って斬れと、倒せと、自分をここに連れてきた何者かはそんな行動を俺に望んでいるのだろうか。

「……無理だろ」

 結論が出るまでに1秒もかからなかった。
 なにせこれまでの人生、ろくに喧嘩した経験すらないのだ。ましてや武器を持った戦いなど想像の埒外。そんな人間が気の立った野生動物に挑みかかるというのは、勇敢さなどではなくただの無謀な行動である。
 もしここが俺の想像、いや妄想通りの場所だったとすれば青イノシシは他のゲームで言うスライム相当の雑魚と評されていたはずだが、確定情報ではない以上は不用意な真似をしたくない。

 とりあえず逃げよう。
 奇妙に平静を保った頭でそう考え、俺はイノシシが現れた方向とは逆向きに勢いよく駆け出した。

「ギイイィィィィッ!」
「っ、やっぱそうなるよなあ!」

 逃がす意思はないとばかりに雄叫びを上げて突進してくる青い塊に舌打ちする。
 猪突猛進などという諺がある通りその突進力はかなりのもので、俺と奴の距離は瞬く間に縮められていった。
 まずい、そう直感してとっさに横へ飛ぶ。
 完全には避けきれず、左足の腿をその鋭い牙が掠めた。

「痛っ――――くない?」

 反射的に声を出しかけ、しかし予期された鋭い刺激が来ないことに俺は驚愕した。痛みが全くない訳ではないが、その強さは相当に小さく、僅かな鈍痛よりもむしろ衝撃と痺れに気がいくほどだ。
 まさかと思って傷を負ったはずの部分を見ると、出血もない。ただ仄かな明るさをもった赤い光が流れて消えるだけ。
 視界の端に意識を向けると、青いラインが微妙にその長さを縮め、数字が326/342へと変化していた。
 その機械的な処理は、まさしく《ゲーム》といったところ。
 これでまた一つ状況証拠が揃った。否、正直なところを言えば俺はもうイノシシの名称を知ったときすでにその《あり得ないはずの可能性》を確信してしまっていた。

 くそっ、と諸々に対する苛立ちを吐き出すが、痛みがないこと自体は俺にとって好都合だった。負傷で動きが鈍るような事態になっていたならばその時点で詰んでいた。
 素早く立ち上がって再度駆け出す。背後にはまたこちらに狙いをつけて突進をしようとしているイノシシの姿がある。
 この数字がゼロになったとき何が起きるのか、それは実際にその時になってみない事にはわからない。物語と同じ結末を迎えるのか、それとも違うのか。ただ一つ言えることは、なんにせよ碌な事態にはならないだろうということ。
 ちょっとした知的好奇心を満たすためだけに、じゃあ試しにわざとダメージをくらってみるかなどとは思えなかった。
 野生の醸し出す威圧感もあって、先行きの見えない挑戦はせずに逃走を選択したのは当然のことだろう。
 地を蹴り、草むらを掻き分け、木々の合間を縫って走る。
 これもまた一つの《仕様》なのだろう、どれだけ走ろうと疲労は一切感じなかった。
 そのため俺は常に全力で足を動かし続け、ときにはその進行方向を読んで大木に衝突するように仕向けながらひたすら逃げ続けた。
 逃げて、逃げて、逃げて――邂逅からどれだけの時間が経過しただろう。
 背中には相変わらずの存在感。ちらりと視線を向けてみれば森の緑の中で目立つ青色は依然として後を追ってきていた。
 振り切れない、その事実に歯噛みする。
 自爆を誘導する作戦もダメージ自体は入っていたものの、青いイノシシは頭上の線を半分程度にまで縮めながらも健在。
 対し俺のそれはすでに全体の一割しか残っていない。
 危機的状況に置かれた心はだんだんと焦燥を感じ始め、そしてついに足をもつれさせた。しまったと失態を悠長に悔いる暇もなく、それを好機と見た奴は一際大きな鳴き声を上げると一目散にこちらに向かってくる。
 すぐに立ち上がろうとするが、絶対的に時間が足りない。
 このままでは回避する前に衝突する。
 土煙を上げて迫る奴の姿に俺は息を呑んだ。痛みはないと分かっているが、だからといって血走った目で突撃してくる野獣を見て緊張を覚えないはずがない。
 小賢しく立ち回って逃げていた獲物をようやく仕留められる、その喜びにイノシシが低く鳴きそして――――……







 次の瞬間に起きたことを、その光景を、俺は生涯忘れないだろう。







 横合いの茂みから飛び出してきた、一つの影。人影。
 丈夫そうなつくりの革製の上着、ハーフコートを身にまとったその影は走りながら背中から剣を抜き放つと、勢いを殺さない流麗な動きでイノシシに斬りかかった。
 イノシシの突進に少しも怯んだ素振りもなく、真正面から、淡い水色の光に包まれた刃を振り下ろす。
 右斜め上からの斬撃は吸い込まれるようにして奴のたてがみ部分、おそらくは神経系が集中していると思われる部分に命中。頭上のバーが凄まじい勢いで削れてゆき、そしてそのまま消滅した。
 バシャアッ! と。
 ガラスの砕けたような音と共にイノシシがその体を無数の光の粒子へと変える。

 一瞬。

 すべては一瞬のことだった。

 イノシシを一太刀で屠ったその人物は残心を解き、まるで見えない血糊を払うかのように剣を左右に振って背中の鞘に納める。
 黒色の少年、そのときの彼の服装は茶系統が主だったにも関わらず第一印象はそれだった。
 どこか女性めいた印象を見る者に与える、線の細い顔立ち。長めに伸ばされた前髪の下で揺れる黒い瞳。落ち着いた物腰で年齢が読みにくいが、肉体の成熟具合からしておそらく俺よりも二、三歳は下だろう。

「あー、えっと、大丈夫か?」

 どこか困ったような、人慣れていないような様子で声を掛けてくる少年。
 何となくだが俺は彼が誰だかわかった気がした。
 余程精巧に描かれた似顔絵でもなければイラストと現実の人間が同じだと感じる訳はない。しかし特徴は一致しているし、なにより一目で《黒》をイメージさせられる人物は一人しか思いつかなかった。

「……おかげさまで」

 派手に転倒したせいで服についた土埃を払いながら立ち上がる。
 助かったよ、ありがとう、そう礼を言ってから俺は自分の名を名乗り、それからある意味で先の逃走劇以上の緊張を覚えながら震える唇で問いかけた。

「名前、聞いてもいいか……?」

 恩人の名前を知っておきたい。
 そんな建前で、尋ねる。恩人という響きが大仰に聞こえたのか少年は一瞬面食らったような表情を浮かべたが、やや照れくさそうに視線をそらしながらも答えてくれた。

 記憶にはなく、ただ知識として俺の頭にあるその名前を。







「――――《キリト》」







――――――――――――――――――――

 続かないという意味での一発ネタで、落ちは特にありません。すいません。
 アニメが当たったらこういう感じの二次がたくさん出てくるのかなあと思って書いた、ただそれだけです。
 しかし現実→SAOって設定的にはかなり無理がありますね。
 転生系はデスゲームになると分かっていながらナーヴギアに手を出す馬鹿はいませんし、トリップだとそれに加えて戸籍のない人間の生活の難しさがあって……ゲーム開始後に憑依とかならなんとかなるか、なあ?
 そもそもストーリーの方も紆余曲折を経ながらも原作は基本的にハッピーエンド、オリ主にいい格好をさせようにもキリト先生がぱねぇので見せ場なし。ヒロインとの絡みだってまず彼よりもいいところを見せなければ始まらない。
 まあその辺りの事を考慮しつつプロットを組んでみたりもしたんですが、どうせ需要ないでしょうし続きません。なんか続いた。



[30751] プロローグ2
Name: 峰◆69f1f342 ID:9f930771
Date: 2011/12/11 01:49
 アインクラッドと呼ばれる城がある。
 無限の蒼穹の中に浮かぶ城。直径およそ10キロメートルに渡る基部フロアと、その上に積み重なる全部で100を数える階層によって形作られている巨大な石と鉄の城。
 内部には都市、街、村のような居住区から森や草原、湖といった自然までもが存在していて、ここでできないことは何もないのではと思えるほど広大だ。

 ただしその所在地は現実世界のどこでもない。
 2020年5月に某大手電気機器メーカーより発売された新たなゲームハード《ナーヴギア》。
 従来の据え置き型マシンとは大きく異なり、流線型のヘッドギアの形をしたそれは、内部に埋め込まれた無数の素粒子に多重電界を発生させることによりユーザーの脳と直接接続を行う。
 すなわち、完全なる《仮想現実》の実現。
 かの鋼鉄の城はVRMMORPG(仮想大規模オンラインロールプレイングゲーム)の舞台として構築されたプログラム、デジタルデータの塊なのである。
 ゲームの世界に入れる、その夢のような体験はゲーマーに多大な興奮を与えた。
 中でもこのアインクラッドが存在する《ソードアート・オンライン》はベータテスター枠1000名の募集に何と10万人が応募したほど期待されていたパッケージである。
 正式サービスが開始された2022年11月6日の正午、各地で完売が相次いだ初期販売分を運良く手に入れた約1万ものプレイヤーは喜色満面に異世界へと飛び込み――そして絶望の底に叩き落とされた。

「これは、ゲームであっても遊びではない」

 ナーヴギア研究開発の中心人物にしてゲームデザイナー、若き天才、茅場晶彦によるSAOのデスゲームへの移行宣言。

 ログアウト不可。

 ゲーム内での死はイコール現実での死を意味する。

 史上最悪の監禁事件。生還の条件はただ一つ。凶悪なモンスターの徘徊する迷宮区画を駆け抜け上層へと向かい、当初の目的通り城の頂まで辿り着くこと。

 楽園だったはずの地は、今や巨大な牢獄と成り果てていた。







 現実→SAO
 プロローグ2







 この世に存在するすべての物語は平行世界の可能性を覗き見たものである。
 そんな言葉を聞いたのはどこであっただろうか。何か小難しい理論書だったかもしれないし、あるいはもっとチープな子供向け小説だったかもしれない。もしかすると複数の曖昧な記憶が混じり合って俺が勝手に適当な文章をつくってしまっただけかもしれない。
 しかしまあ何にせよ、どうでもいいことだ。
 問題なのは事の真偽ではなく、俺がどのように解釈するかである。
 単に物語に入り込んでしまったのではなく、物語として観測されていた平行世界に迷い込んでしまったのだと考えた方がまだ納得がいくというだけの――つまりはただの詭弁。
 とにかく無理やりにでも理屈をこじつけて事態を理解したふりをしたいのだ。
 なぜなら、その方が安心できるから。
 傍から見れば相当に無様な姿だろうなと自覚しつつ、しかし仕方がないという思いもある。
 気が付いたら異世界でしかもゲームの中、そんな異常現象を当たり前に受け入れる自分というのもそれはそれで嫌だ。
 木製のテーブルの対面に座り、長く伸びた前髪の下で柔和そうな目を大きく見開いている少年、《キリト》の顔を眺めながら俺はぼんやりとそんなことを考えていた。

「記憶が――――ない!?」
「ああ。目が覚めたときにはもう森の中で、何が起きたのかさっぱりだ」

 現在時刻は、ちょうど日が空高く昇っている14時。
 この世界が小説《ソードアート・オンライン》の中なのだと理解したイノシシの一件から、およそ一時間が経っていた。
 場所は《ホルンカ》という名の小さな村の、これまた小さな宿屋の一室だ。部屋の主は言うまでもなくキリトで、とにかく詳しい状況が知りたかった俺が偶然出会った彼に泣きつき強引に拠点まで連れて行ってもらったという流れである。
 おそらくレベルアップのためモンスターを狩りに来ていたのであろう彼は大層困惑していたが勢いで押し切り。
 そして今、俺は記憶喪失という何ともベタな設定を使って事情を――何も知らずに森を彷徨っていたという状況を――説明しているところだった。
 いきなりの告白、展開についていけないのか、キリトは頭痛を堪えるように額を押さえる。

「ち、ちょっと待ってくれ。仮想世界でどれだけ頭を強く打ったとしても現実の脳に衝撃がいくことはないんだぞ、そんな環境で記憶を失うなんてあり得るのか」
「いやあ、そう言われてもないものは仕方がないし。そもそも俺は君と出会うまでここが現実じゃないってこと自体知らなかったしな」

 白々しい言葉。
 しかし全てが嘘という訳でもない。実際、自室のベッドから何故この世界に迷い込んだのかという過程についてはまったく分かっていないのだ。その点あらゆる過去についての質問を「忘れた」の一言で済ませられるこの設定は非常に有用だった。
 名前だけは視界端にある表示でわかったんだけどなと言う俺に対し、キリトは痛ましさを含んだ視線を向け、年齢に似合わない難しい顔をして軽く俯いた。

「この世界で外因性の障害は起こり得ない、あるとすれば内因性だ。なにか精神的なショックを受けたのか……あるいは、ナーヴギアの不具合か……名前以外の記憶を失うなんて相当の事だぞ……くそっ……」

 最後に吐き出した苛立ちはデスゲームというふざけた現状に対してだろうか。
 悔しそうに唇を噛み締めているところを見るに本気で俺の心配をしてくれているらしく、それだけで彼の人の好さがわかるというものだった。
 対して俺はその優しさに付け込んで事情を偽る悪人だが……これについては、それ以外に方法が思いつかなかったのだから仕方がない。
 俺はここが自らの知る物語世界だと確信し、概要は理解しているものの、今がストーリーのどの段階であるかについては分かっていない。
 状況把握のためには何としてでも詳しい話を聞きたいところであり、多少の罪悪感を覚える程度のことでこの機会を逃す訳にはいかないのだ。
 記憶喪失の人間らしい振る舞いというのがどのようなものかは知らないが、とにかくそれらしく見えるよう慎重に言葉を選び、俺は話を進めていった。
 記憶を取り戻したい気持ちはもちろんあるが、それよりも目先の困難を乗り越えたい――そんなようなことを言って不自然でないように現状を聞き出す。
 そして分かったのは、今は茅場晶彦による《正式サービスのチュートリアル》が行われてから僅か2日であるということだった。
 装備品が黒系統の品でなく茶革のハーフコートであることから予想はしていたが、まだ圧倒的なまでの強さを誇る《黒の剣士》は生まれておらず、目の前の彼は単なる一人のプレイヤーであるらしい。

「これはゲームであっても遊びではない、か……」

 頬杖をつきながら、茅場が言ったというその言葉を呟く。
 文庫の中表紙にも書かれていたそのセリフは否が応でもここが小説に描かれていた世界なのだと俺に実感させる。
 転生・憑依・トリップ、Web小説を漁るのは趣味であったからそういった物語に入り込むタイプの二次創作も多く読んでいたが、SAOのような電子世界が舞台になっている場合はどうなのだろう。
 俺の意識が現実に飛び、それからナーヴギアを被ってここに来たならまだ――あくまで比較的ではあるが――納得できるのだが。
 まさかゲーム内のAIに転生とか言う落ちじゃないだろうな、作中に出てきたユイと名前似てるし、あり得ないと言い切れないのが恐ろしいぞこの野郎と心中で愚痴る。

「本気で何も知らないみたいだな。ということは、ゲームのプレイ方法も?」

 キリトの問い掛けに、俺は苦いものを含んだ気持ちで頷いた。
 小説の中心はあくまで物語であり、設定語りではない。
 SAOというゲームはあくまでストーリーを演出するための舞台装置でしかなく、俺はシステム面の知識をほとんど持っていなかった。

「ああ、そうだな。悪いけど頼めるか」
「マニュアルにも書いてあることを噛み砕いて伝えるくらいしかできないけど、それでよければ」

 十分過ぎる助けだ。
 俺がありがたくその好意を受けると、キリトは右手の人差指と中指をまっすぐ揃えて掲げて真下に振った。
 すると鈴の音のような軽やかなサウンドが小さく鳴り、正面に淡く光る長方形のボードのようなものが現れる。
 紫に色づいた半透明のそれ――《メインメニュー・ウインドウ》を俺はまじまじと見つめた。
 真似をして腕を振ってみるとこちらでも同じものが表示される。
 記憶にある文章の描写通り、右側にアイテム装備状態を示す人型のシルエット、左側に各種メニューのタブ。ログアウトボタンが存在しないのも同様。
 HPと取得経験値を示すバーの横にはやはり、キャラネームである《Yuu》とある。
 誰がやったのか知らないが、MMOで本名をそのまま入力するのは危険極まりないのだが。個人情報が流出したらどうするのだ。まあそもそも俺の肉体がこの世界の現実にあるのか分からないけれども。

「表示されている文字を読めば大体は理解できると思うけど、上からステータス、装備、アイテムの欄で――――」

 今後の生活に直接関わってくることであるだけに、俺はいちいち頷いて必死に内容を頭に入れた。
 元々ゲームは好きであったため専門的な用語は理解できる、30分ほど経って話が終わるころには俺は基本的な操作はすべて覚えることができていた。

「――――っと、口頭で教えられるのはこのくらいかな」
「そうか、ありがとう。……デスゲームなんて、キリトだって大変なのに迷惑かけて悪かったな」

 締めの言葉に、俺は改めて礼を言った。
 キリトが原作で《攻略組》、全1万人の中の最強の一角として活躍していたのはもちろん本人の天性の才能もあるのだろうが、初期の内にルール変更の事実を受け入れていち早くスタートダッシュをきったのが大きい。
 どう見ても初期装備とは思えない赤鞘の長剣を見る限り文庫8巻の短編にあった「はじまりの日」のイベントはもう終わっているようなので、いくつかレベルは上げているはずだが。
 その優位も絶対ではない以上こうして話している時間さえ惜しいはずであるし、そもそもこの極限状況下において、赤の他人である俺にここまで構ってくれていることがすでに奇跡に等しい。
 先のイノシシのことと言い、まったく大袈裟でなくキリトは俺の命の恩人だった。
 いくら感謝してもし足りないとはまさにこのことだろう。

「いや別に、そんな大したことじゃ……記憶を失くしたなんて奴を放っておくのはさすがに夢見が悪くなりそうだし……」

 居心地悪そうに口をもごもごと動かす少年を見て、なんだか微笑ましい気持ちになる。
 そういえばこの時点ではまだ中学二年生だったかと、ふと年齢の設定を思い出した。

「俺にとっては十分大したことなんだけどな。しかし話を聞くと、色々と面倒なことになっているみたいだな」

 ゲーム内での死と現実での死がイコールで結ばれる、そんなことになっているのだからプレイヤーたちがパニックを起こしたのは当然だが。
 特に茅場晶彦のチュートリアルが行われた、ゲームの開始地点でもある《はじまりの街》の混迷具合は酷いものらしい。キリトはすぐに出てきたため詳しいことは分からないそうだが、集められた1万人弱の人間が一斉にパニックを起こしているとなるとぞっとしない。
 となるとここで最も賢い選択は安全圏――モンスターが侵入せず、プレイヤー同士の戦闘も制限されたエリアのことだ――であるこの村に留まり続けることだろうか。
 そうすれば何はともあれ身の安全だけは保障される。

 しかし――――

 困ったことに、俺はあの街に少しばかり用事があった。

 茅場が支配するこの世界において、本来物語になかった俺という存在はどう扱われているのか。その確認がしたいのだ。
 はじまりの街にある《黒鉄宮》という施設には全プレイヤーの名前が書かれた巨大な碑がある。あそこに名が刻まれているならば俺は《プレイヤー》であり、無ければ完全無欠のイレギュラーとしてのNPCだ。
 一応メニュー画面はキリトと同じ一般的なデザインのようだが、場合によっては先のAIへの転生・憑依説を真剣に考えなくてはならなくなる。
 俺はしばらくの間低い唸り声を上げながら悩み、そして決断した。

「……行ってみるかな」

 圏外に、モンスターのうろつくフィールドを出て黒鉄宮に向かう。
 そんな死のリスクを背負った行動をしようなどと考えたのは俺に主人公級の勇気があるから、では当然なく、何度も繰り返すように現実感が薄いからだ。
 視界の端に映る小さなラインが消えると死ぬ、二度と意識が戻らないかもしれない。そう言われてもよく分からないのだ。だからあっさりとこんな選択ができる。

「行くって、はじまりの街へか?」

 あんた俺の話ちゃんと聞いてたのか?
 と正気を疑うような目を向けられ、苦笑する。

「いくら安全だって言っても、ゲームクリアまでずっと引き籠っている訳にもいかないだろ。キリトだってそう考えたからフィールドに出てたんじゃないのか?」

 それはそうだけど……と言葉を詰まらせるキリトに考える暇を与えないよう、俺はさらに適当な理由を重ねる。

「それにほら、人の多い場所の方が記憶を取り戻すきっかけが見つかりやすいかもしれないしさ」

 とりあえず頭に浮かんだことを言っただけだったが、さすがに記憶云々の話題は重かったのだろうか。
 一転して黙り込み表情を暗くする彼を見て失敗したなと後悔する。
 どうやらこの設定、説明は楽だがあまり簡単に持ち出せるものではないらしい。
 まずったなあと心中冷や汗を流す俺の前でキリトは視線をやや下向け、そして何事かを考え込むようなそぶりを見せた。次いで右手を軽く振ってメニューを出すといくつかの操作を行う。
 ピッ、という小さな電子音と共に俺の前にウインドウが現れる。
 画面に記されている文字は《Yuu》、《Kirito》、そして《トレード》。

「ならせめて、俺の持ってるマップデータを送るよ。それがあれば比較的安全なルートを通って街に行けるはずだ」

 年下の少年に頼り切りというのはなんとも情けないが、しかし今はそんな下らないプライドはどうでもいい。
 ありがとうと、素直に好意を受け取り感謝する。
 さっそく地図を表示させてみると、確かにここホルンカからはじまりの街までを網羅しているようだ。森林地帯を避け、草原を進むようにすればレベル1の段階でもそこまで危険なく街に行けるそうだ。
 そうと決まればまだ日の高い今のうちに出発してしまった方がいいだろう。
 俺は椅子から立ち上がると、お辞儀をするようにキリトに向けて深く頭を下げた。

「色々ありがとう。本当に、本当に助かった。この恩は絶対に忘れない」

 そんな俺の言葉に、しかしキリトは何故か気まずそうに視線を彷徨わせていた。
 お礼を言われて照れているという訳ではなく、まるで何かを言うか言わないか、葛藤しているかのように。
 首を捻ることしばし、俺は彼がはじまりの街までの護衛を申し出るかどうかで迷っているのだということに気が付いた。そしてこの誰かと別れる展開を過去と重ねていることにも。

 デスゲーム初日、つまり一昨日、すべてが原作通りに進行しているとすればキリトはSAOでできた唯一の友人を置いてここまで来ている。それは互いの事情や心情が複雑に絡み合った結果のできごとだったが、自分は彼を見捨てたのだと、そのときのことをこの少年は今後2年間苦しみ続けるほど悔やんでいた。
 そして今また、記憶を失った俺を放ってゲームに戻ってしまっていいのかで悩んでいる。
 ただ街に行くだけなのだ、マップがあればほとんど危険はない。しかし絶対安全でもない。もし俺が死んだとしたらそれは自分のせいなのだと、そう思い込んでしまっているのだろう。

 ……中学生が、背負いすぎにも程がある。
 俺は細く息を吐くと、さてどうするかなと思案した。ここまで助けてもらっておいてこれ以上の迷惑はという思いもあるし、何よりキリトがここではじまりの街に戻る展開はあまりにも原作からかけ離れている。
 もしそれが原因でキリトのレベルアップが遅れ、ゲームがクリアされなかったとしたら目も当てられない。気持ちは嬉しいがここは断っておくべきだろう。

「キリト」

 俺は、静かに彼の名を呼んだ。
 反応して、キリトがふらついていた視線をこちらに向ける。
 ここで何か気の利いたことを言って彼のトラウマを解消できれば最良なのだろうが、生憎と俺の頭ではそこまでは思いつかない。だからここで伝えるのはただ一言。

「またな」
「………………ああ」

 長い沈黙の後、キリトは絞り出すような声でそう返してきた。
 そこにどんな感情が込められていたのか、俺に知る術はない。けれどもう振り返らなかった。宿を飛び出し、マップに示されたルートを辿ってはじまりの街を目指す。
 これが俺とキリトの出会いにして、別れだった。
 実のところ再会の機会は存外早く迎えることになるのだが……それはまだこのときの俺は与り知らぬ話。
 虚構の太陽が照らす中を、物語に紛れ込んだ異物はただ走り続けた。






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何か続きました。
文章練習なので、ダメな部分を指摘していただけると嬉しいです。
特に主人公のこの行動・言動は変、キリトの口調や思考パターンが原作と違うなどがあればお願いします。
推敲などで何度も読み返していると自分では何がおかしいのか分からなくなってきてしまうんですよね……。


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