今回はちょっと?壊れ展開が多めです。
それでもいいぜ!という方は↓へ
転生狂騒曲 第4話
不思議な国のアリス?
ガタゴト……ガタゴト……
え~、あれから3日程経ちました。気分的にキングクリムゾンした感じ。
メタ?何を今更、この世界でメタなんてツッコムだけ無駄ですよ、ええ。
只今俺は、先日兄に言われた、兄の友人の妹さんなる方に会わんと馬車で移動中。
本当なら、転移魔法?なるものもあるらしいのだが、何故か使えないらしい。どうも向こう側が受付拒否してるそうだ(ケータイかよ)。
この時点で嫌な予感しかしないんだが、兄曰く。
「向こうとはどうにか連絡が付いた。どうも、向こうの大気の魔力が不安定になっているそうだ。まぁ、あいつなら滅多な事では死なないだろうから、その辺は心配するな」
とのことだが、その滅多な事がありますよ~と言わんばかりのニヤリ顔を止めて。正直怖い。
ちなみに馬車ではなく、俺が高速移動する(この世界、魔法は普通にあるらしい。その中には身体強化のものもあるらしく、戦士などはよく使うとか。この辺もテンプレ?)などして、早く行けばいいのでは、と思いましたが。
「俺を殺したいのか?」
肉体貧弱、魔力はあれどその方面には一切の才能無しの兄が、そうおっしゃるので、普通な移動手段しか使えないわけです。
「俺だって、出来るなら使ってるっての……魔力全部ギアスに持ってかれるってどんな縛りだよ……あいつもあいつで『ルーシェ、もっと鍛えないとダメだよ』とかほざきやがるし、何でそんなところは元キャラそっくりなんだよ……鍛えられないんだよ、鍛えても付かないんだよ肉が、そもそも筋繊維の本数が常人以下ってどうしろってんだよ、頭使うしかないだろうが……」
ぶつぶつ呪詛紛いのオーラを出しながら呟くルーシェ。気にしてたんだ…。
ちなみに、今のところ俺は運動も脳みそもスペックが落ちてると思うようなことはない。この辺は元キャラになった高槻涼君に感謝(彼の場合、普通にどっちも良スペックな感じだったしな)周囲から聞く限りでも、このリョウ=グランバという体は中々に飲み込みも良く、いい感じのスペックみたいだし。
あ、クリス義姉さんはコードはないみたい、寿命もエルフの血は混じってるけど、常人並みだろうとのこと。ただ、他のスペックは元キャラ譲りか何なのか、かなり高いらしい。
「夫婦喧嘩になったら間違いなく勝てる、というのも選んだ理由の一つだ」
クックックと笑うあの顔は、何処まで本気だったのか…というか、ルーシェの場合そういう状況に陥った=勝ちな構図を作ってそうなんだが……あ、それはクリス義姉さんも一緒?……サド夫婦怖い!!
さて、そんなこんなで、今は馬車でえっちらおっちら件の友人宅に移動中。馬車は一応公爵家らしいので、何か立派なのに乗ってます。どう立派かというと、まず広い。乗ってるのが俺とルーシェ、クリス義姉さんの三人なせいか余計にそう感じる。
座席の部分もやたらとフカフカで、外から聞こえる振動音からすると結構尻が痛くなりそうなんだが、全くそういうのは無し。この辺は謎のファンタジー技術なんだろうか?
そんな馬車の御者はイワオさん。えぇ、あの人、どうも俺付きの執事になったそうです。奥さんもメイド長から俺付きにランクダウン?なのに本人たちは気にしてなさげでした。これもやっぱりフラグなんだろうか?
と、まぁ、あれこれ考えてみたものの、まだまだ向こうに着くには時間があるわけで。
「ところでさ、聞きたいことがあるんだけど」
「……こうなったら俺専用のゴーレムでも……いや、無理だ操縦出来ん……ん、どうした?」
あ、一応こっちの声は聞こえるレベルだったか。
「あのさ、これから行くフェニクスって人の家ってどんな所?」
「……あぁ、そういえば話してなかったな……ついでだ、地理と歴史も触り程度話しておこう。クリス」
「ほら、これがこの大陸の地図だ」
言うなり、向かい合う座席の真ん中に簡易テーブルと地図を広げるクリス義姉さん。どうでもいいが阿吽の呼吸すぎるだろ。
「え~っと……」
広げられた地図に視線を落とす。あ、一応言っておくと、座席は俺の向かいに兄夫婦が座ってます。まだ夫婦じゃない?……いいんだよ、もう。というか、義姉さんがそう思えってガンガン押してくんだよ、もうそれでいいよ、好きにして。
「俺たちの国はここ。この前も話したが、この大陸の一番南に位置する。というか、この世界には今のところこの大陸しか見つかってないから、世界最南端の国だ」
言って、楕円形みたいな形の大陸の最南端を指さす。地図で書かれた国の線引き的には結構大きいな。
「歴史は大体1,500年位か。領土としては、南方では随一、世界的に見れば3位といったところか。人種は様々、というかこの大陸で見かけることが出来る友好的な種族は、ほぼ全てといってもいい程集まってる」
「理由はあるの?」
「端的に言えば、前話した始祖竜。それが我が国にいることだな」
あぁ、例のお話ね。
「やっぱりそういう竜族のトップがいるってデカイんだ」
「厳密には違うがな。で、その竜が住むのが王都傍のこの山、この麓に街を作り、竜族、純粋な竜や半竜などの竜人族が暮らしている」
地図上の山と思しきマークを指差す。何かその横に名前らしきものが書かれてるが……えっと……コ……―…セル……?
「名前はコーセルテルだそうだ」
「意外と普通にファンタジー……っておい」
俺も詳しく覚えてないけど、そんな名前の漫画あったよな。
「始祖竜がこの地に来た時、『名前?竜の里2でいいじゃん、駄目?何でもいいじゃん、住めば都、住めば都……都、あ、んじゃ、コーセルテルで行こう』と言うことで名付けたそうだ。ちなみに、幼い竜族は何人かでまとめて保育園みたいな感じで、人間に面倒をみてもらう風習もその頃に作ったらしい。その甲斐もあって、人族と竜族の中は結構いいぞ」
軽っ!?始祖竜軽っ!!?つか、ネーミングセンス微妙!!ツッコミした人GJ!!!
「ちなみに竜の里の1もある、というか、あった。その辺はここの説明が終わってから話す」
き、聞きたいような、聞きたくないような……
「我が国は王都を中心に東西南北の四つで分けられ、それぞれを公爵家が管理し、その中で更に領地を分割し、他の爵位の者が治めるという形を取っている」
最南端の、正方形を45度傾けてダイヤ型にしたみたいな国に×を引く。
「東西南北にはそれぞれを守護する精霊がいる。この精霊は、建国時、竜と共にこの地を安住の地と決めたそうだ。その精霊に敬意の意味も込めて、東西南北の公爵家はそれぞれの精霊の名を家名として使っている」
出たよ、精霊。まさにファンタジー。
「北は地の精霊ザムージュ、東に水の精霊ガッド、南に火の精霊グランバ、西に風の精霊サイフィス。俺たちの家名、グランパはそこから来ている。そのためか、それぞれの公爵家はその属性に拠った魔法が得意となる……あぁ、もしかしたらお前がグランパに生まれたのもその関係かもしれないな。うちの家系は炎、破壊が主の血統だからな」
おぉ、そういう捉え方も出来るか。確かにジャバに属性付けろって言われたら、火属性っぽいし。
「最も、俺は関係ないがな。魔法はからっきしだ」
やさぐれないでくれ、ルーシェ。
「で、これから行くのが東の公爵家、ガッド家だ。フェニクスはそこの嫡子でもある」
「前から思ってたけど、名前だけ聞くと水っぽくないよね。フェニックスみたいに聞こえるし」
「知らん。その辺はむしろ付けた親に言え。付けたのはむしろ神か?だとしたらヒネリが無理すぎる。いっそ和名もありなんだから、和名使え」
……なんか、色々ありそうだな。
「あ、そういえば、国名って何ていうの?今のところ、出てきてないけど、まさか竜の国~とかじゃないよね?」
そう聞いたとき、ルーシェがまたあのニヤリ顔を浮かべる。え?何?地雷?
「国名……か、あぁ、安心しろ、意外と普通の名前だ。意外と……な」
だから怖いんだっての!!!
「で……何なの、名前?」
「まぁ、知らなきゃ大して分からんだろうが……ラングラン、だ」
「あ、意外と普通……ラングランか、ラングラン、ラングラン……………はぁああああああああああ!!!!!????」
「お、知ってたか。こうしてみると、元の世界では随分と趣味が合いそうだな」
「え!?ラング……ぇええ!!??」
「あぁ、ちなみにうちの国は錬金術も盛んだぞ」
「何造る気だ、錬金術師!!!」
というか、何故気付かなかった俺!!!明らかに途中の精霊の名前で気づけたろう!!!……いや、普通気づかないか?
「……一応聞くけど、もう出来上がってる?」
「いや、まだだ。ただ、その案というか発想を持っている人間が学園にいる。恐らくは大戦までには完成するだろう」
「と、なると……いますね、転生者」
「ストフリが出るんだからな……こちらもロボ人員は来るだろうさ」
うぁ~……何か大戦のルビが嫌な文字出てきたよ。
「さしずめ大惨事スーパー人外大戦EXか?」
「思っててもスルーしたこと口にしないで!!」
「……少し確認するが、今の話題は例の新型ゴーレムの件か?」
俺らしか分からないネタで話していたため、クリス義姉さんちょっと置いてけぼりになってました。
「そうだ、北の国で見つけたゴーレム使い、それに対抗するための例の新案だな」
「ゴーレム使いか……本当に、北の国はやってくれる」
何か嫌な思い出でもあるのか、宙を見上げぼやくクリス義姉さん。
「何か、あったの?」
「ん?あぁ……前に何人か調査のために送り込んでいるというのは言っただろう。それで妙なゴーレムを使うという奴の噂が入ったんだがな……まだ潜入初期ということもあって、近づけすぎたらしい。潜入員、全員かっさらわれた」
「はぁ!?」
何があった!!?
「こっちが聞きたいよ、聞いた話では数ヶ月後に女は全員色街、男は全員廃人になっていたらしい。余り突っ込むと第2、第3の被害が出そうだから、深くは調べなかったが。幸いそいつらからこちらの情報が漏れるほど繋がりはなかったが、人員補充は慎重にせざるを得なかったよ」
「向こうは俺たちでいうニコポ、ナデポのフル装備と思ったほうがいい。まぁ、主人公の能力持ちだからな。当然付属してくるだろうさ」
……また、詰み要素が一個増えた気が。
「あぁ、言い忘れてた。お前専属になってもらったが、イワオとミサをこれからも時々借りるぞ」
借りるって、え?何それ?
「今までもあの二人には何度も諜報をしてもらってる。思い出してみろ、あの二人居ないことが多くなかったか?」
………そう言われれば。そうだ。いきなり居なくなったと思ったら、急にひょっこり帰ってくるから、余計に怖かったんだ。おまけに狙ったように、僕の後ろ取ってきて……
「イワオ……お願いだから、暗闇から肩叩くのやめて……ミサ……ねぇ、その弓、何?何でこっち向いてるの?ねぇ?……(ガクガク、ブルブル)」
「お、おい、大丈夫か?」
「に、兄様……」
「(何をやったんだ、イワオ!!?ミサ!!?)と、とりあえず、落ち着け、な。よしよーし」
あぁ、兄様、優しいな……そうだ……俺、あの二人が来たときはいつもこうしてたんだ……
「お、落ち着いたか?」
「はい、落ち着きました……ありがとう、兄様……うん、なんか、しっくり来る。兄様、兄様、兄様……」
これまでの他人行儀な感じが抜けた気がする。うん、兄様は兄様だ。……それにしても……
「イワオ、あれ今だから思うけど、軽く虐待だよね?」
「あぁ、ようやくいつものリョウさまに戻られましたね。ここ数日淋しかったですよ」
「嘘だ!!こっちの反応見て危機管理抜けてないか試してただろ!!」
御者をやっているイワオに毒づく。この前の泊まった時も、妙に恐怖感あったのはこれが原因だ。いつ襲われるかと恐怖してたんだ。
「あの時も、隙あれば襲ってただろ……あれ?だとすると、初日は……あぁ、ジャバか」
ジャバが展開しててくれたから、イワオも攻撃してこなかったのか。ありがとう、ジャバ。お前が居てくれた事に今、本当に感謝してる。
「おい、イワオ……お前、リョウに何をしていたんだ?」
「いえ、御命令通り『少し』鍛えていたのですが」
「あれは少しじゃない!!兄様から頼まれたって言われなかったら、僕は絶対に逃げ出してた!!!」
「はははは、リョウ様の飲み込みが早いもので、ついつい張り切ってしまいましたよ」
「お~い、イワオ。笑ってないでこっち向いて話そ~。ジャバ~、良かったな、全力展開しても良さげな人物がここに居るぞ~。やっても勝てるか微妙だけど」
「落ち着けリョウ!イワオ、お前も乗り気になるな、馬を止めるな、リョウ!!服を脱ぐな~~!!!」
「おい、何があったか知らないが、本題はフェニクスの家に行くことだろう。頭を冷やせお前ら」
……少年冷却中………
「お騒がせしました」
「……いや、止まったなら、いい……」
死にそうな顔で荒い息を吐く兄様。本当に体力無いんですね。
「ルーシェ様、なんでしたら私が『少し』鍛えましょうか?」
「やめてくれ……リョウの反応を見る限り、お前に鍛えられたら、俺は一日で死ぬ。あの神だぞ、ギャグパートなら平気で殺しそうだ……」
「そうですか、では『今まで通り』リョウ様を……」
「それも却下だ!!……とりあえず、もう少し手加減して鍛えてやってくれ。後、さっき途中で言いかけたが、これからは諜報により力を入れてもらいたい。現状、お前以上の諜報員はいないからな、よろしく頼む」
「承知しました」
「……あの、兄様、少し疑問なんですが、イワオなら暗闇からの奇襲で向こうを殺せたりしないんですか?」
今だから余計に感じるが、イワオは強い。というか、殺気が見えない。正直、訓練であれなのだから、本気になったイワオに闇討ちされたら、生き残れるかどうか。
「……あぁ、それは俺も考えたが、例の『大きな力は流れに巻き込まれる』が効いてくるみたいだ。闇討ちみたいな舞台裏での死亡は出来ないらしい。特に向こうは主人公の能力持ちだからな、その補正も強いだろう。同様に『悪人は基本成功しない』も主人公能力で弾き飛ばしてる。だからこそ、こうして地味な根回しや、大舞台までの寸劇で場を引き伸ばしてるんだがな」
疲れた顔を浮かべる兄様。
「……兄様、僕……」
「ストップ」
言いかけた俺の言葉を、兄様が止める。
「多分、今のお前は『リョウ=グランバ』が強く出てる状態だと思う。言動も昔に戻ってるしな。だから、もう少し時間を置いてから答えを聞こうと思う。『リョウ=グランバ』でもなく、『どこかのオタク』でもなく、『どこかのオタクでもある、リョウ=グランバ』の答えを」
「……はい……」
うん、自分でも何かおかしいというか、さっきと別の部分が違和感を感じてる。この感覚は兄様も味わったのだろうか?
何というか、遠い物語を聞かされた感覚。それが落ち着くまで少し待ったほうがいいだろう。
「まぁ、少し休もう。まだフェニクスの家まで時間が掛かるからな」
その言葉で、また馬車の中に静けさが戻った。
「3人ともよく来てくれたね」
来て早々、来客室で待っていた僕たちの下に、件の友人らしき人が挨拶に来てくれた。
「……えっと、ルーシェ。なんか弟さん元気ないみたいだけど、大丈夫?」
「心配するな、ただ遠出するのが初めてだから、はしゃぎすぎただけだ」
まぁ、たしかにはしゃぎましたけど……それが原因じゃないんです、兄様。
「…大丈夫?辛いなら、休む部屋を用意するよ」
「いえ、大丈夫です。……あの、挨拶遅れました、リョウ=グランバです」
「え?……あぁ!そう言えば、まだ自己紹介もしてなかったね。僕はフェニクス=ガッド。君のお兄さんの親友……なのかな?」
「そこで疑問符を付けるな、馬鹿」
「あ、ひどい!そりゃあ、僕はルーシェと違って頭は良くないけどさ、いきなり馬鹿はないだろう!」
「だから馬鹿だと言ってるんだ。親友、だろうが。少なくとも俺はそう思ってる」
「……ルーシェ……」
「おい貴様、まじまじと人の夫に熱視線向けるな、男色か?言っておくがルーシェにその気はないぞ」
「ちょ、ひどいよクリス、僕だってそんな気持ちはって夫?」
「お前……俺がクリスを実家に連れていった理由は話しただろうが。正式に婚約した。両親も納得済みだ」
「嘘!?本当に報告したんだ!!?」
「何だと思ってたんだ……?」
「いや~、てっきりまたルーシェのどっきりかと……」
「駄目だこいつ、早くなんとかしないと……」
「ルーシェ、無理だな。こいつの馬鹿はエリクサーでも治らん」
「二人の普段の行いが悪いのに!!?」
兄様、一体学園で何してるんですか……
あ、後兄様が言っていたネーミング云々、意味が分かりました。フェニクスさん、クル○ギさんにそっくりでした……確かに無理して捻った感じがあります。
「……さて、そろそろ本題に入ろう。フェニクス、何があった?」
「……正直話しづらいんだけど…」
「お前の妹に何かあったか?」
「!?……やっぱりルーシェは凄いね、何でもお見通しだ」
「俺の弟も声が聞こえるようになったそうだ、幸いこっちの方は上手く会話が出来ている。何か手助けが出来るかもしれない」
「……分かった。3人とも付いてきて。途中で話す」
「念のため、家の者は一旦避難してもらったんだ。今いるのは僕と、アリスだけ」
「アリス?」
「僕の妹の名前、アリス=ガッド。この間6才になったんだ」
アリス……6才……条件は揃ってるけど……
どう思う、ジャバ?
『……』
……ジャバ?
『……近い、我と、同じ………』
……当たり、かな。
(…ルーシュ、いいのか?リョウの精神も今は安定してないだろう?)
(……いや、むしろ今の状態の方がいいかもしれない。下手に年上の状態より、同年代の方が話が上手くいくと思う。それにあいつは見た目以上に聡いからな)
(……だといいのだが)
「――で、事が起こったのはこの前の6才の誕生日の朝、だそうだよ。最初の目撃者は妹を起こしに行ってくれたメイド。元々アリスは魔力が高いっていうのは周知の事実だったんだけど、それが、その日暴走した」
「具体的には?」
「……見てもらった方が早いかな。もうすぐだよ」
そう言って、進めていた足を止める。目の前にはまだまだ続く廊下、があるはずなのに―――――
「……なに、これ……」
白い。壁も床も燭台も飾りの壺も、何もかもが白い。
『……やはり、やはりか……ク、ククク、ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!』
キ―――――ン
金属音のような甲高い響き。
それと同じくして、僕の右腕が膨れ上がる。
「じ、ジャバ!!?」
これって……まさか、共振!?
『いたか、いたのか!!!我と同じく在るものよ!!!!』
歓喜?憎悪?どちらとも思えるような声と共に、僕の体は凍りついた廊下を駆け出す。
ジャバ、待って、待ってくれ!
『感じる!感じるぞ!!汝の憎悪を!!汝の憤怒を!!!』
前に、僕の体はジャバの体そのものって言った。それは嘘のつもりじゃなかった。けど、どこかで勘違いしてたんだろうか?
ジャバ……ジャバウォックの体に僕の意識が間借りしている。そう思える位、あっさりと僕の体はジャバウォックの意識に奪われる。
僕の体全てが、僕の体じゃないものへと変わっていく。
パキン―――
『……お前だな』
ドアなんて関係ないとばかりに、完全にARMSの姿と化した右腕で打ち払い、目の前に座るモノを睨みつける。
『……貴様も我が宿主を害するか?』
『笑止。貴様の憎悪が我が宿主の害悪となる。故に我は貴様を破壊する』
『戯言を。貴様の恐怖が我が宿主の害悪となる。故に我は貴様を滅ぼす』
目の前の少女の体も変質していく。その姿は、記憶にあるあの姿で――-―――
『吠えるか!我こそは破壊の魔獣、ジャバウォック!!全てを破壊するものなり!!』
『戯け!!我こそ滅びの神獣、バンダースナッチ!!全てを滅ぼすものなり!!』
(……や、やめろ、ジャバウォックーーーーー!!!!!)
僕の止める声も届かないのか、魔獣と神獣は互いの拳をぶつけ合った。
(………あれ?……ここ、どこ?)
白い、ただ広い空間が広がる。真っ白で何もない。有るのは僕一人。
(確か……僕は……)
思い出す。魔獣と神獣の闘いを。
(ジャバウォック!!!?)
思わず右手を見る。けど、それは見慣れた自分の手で。そこで、初めて気づく。
(いない……)
そう、あれだけ近くに感じた気配が全く感じられない。
そもそも、ここはどこなんだ?
考えろ、考えてみろ。似たような記憶はないか?知識はないか?
(……ここが、精神世界っていうものなのかな……)
どこか遠い記憶にそんな描写があった気がする。……この記憶も、正直違和感が取れない。
自分じゃないのに、自分がいて。その人も人生を歩んでいて……
(………今は、それを考える時じゃない)
頭を振って無理矢理押し出す。
とにかく、ここが何処なのか辺りはついた。次は行動。
(……探すしかないかな)
ここに来た意味、というのがきっとあるはず。なら、それを見つけないと。
地面も無い空間を歩くのも変な感覚だったが、ともかく僕は歩きだした。
歩いてすぐにそれを見つけられたのは、偶然だろうか?
周囲をキョロキョロとしてみる、女の子……裸の。
(何で、そういうこと考えるかな!?)
向こうが裸ということは、自分も裸なわけで。そう思うと、急に恥ずかしくなってくる。
(うぅ、声、掛けづらい……)
かといって、話しかけないわけにもいかない。……良し!!
「あ、あの……」
「……え?」
気づいていなかったのか、こちらの声に反応するのに少し間が開く。
「えっと……こんにちは」
「……こんにちは」
ペコリ、と互いに頭を下げる。……どうしよう、何話せばいいの?
「……あなた、だれ?」
「僕?僕は……」
名前を言おうとして、何故か言い淀む。僕は、誰なんだろう?
僕はリョウ。それは分かってる。じゃあ、『俺』は?
どちらもそれまでの人生を歩んできて、それが急に混じり合って、おまけに別な存在も体の中にあって……
「……誰なんだろうね?」
「?」
きょとんとされる。僕もそんなこと言われたら困ってしまうと思う。
でも、本当に僕は誰なんだろう?俺は誰なんだろう?
「……名前」
「え?」
「あなたの、名前」
「え、えっと……なまえ……リョウ、かな…?」
「違うの?」
「いや、違わない、けど……」
「アリス」
「え?」
「私の、名前」
「あ、うん。アリス、ね」
すっと手を出される。
「え?」
「よろしく、お願いします」
「……握手?」
「うん」
「……よろしく」
差し出された手を、握り返す。
「初めて会った時から、決めてました」
「それ絶対違う挨拶だから!!!」
誰、そんなの吹き込んだの!!?
そんな風に挨拶をして、さりとて何をすればいいのかも分からず、とりあえず僕たちは歩きだした。
どの位歩いただろうか?疲れも感じないから、時間の感覚もなく、ただ白い空間が広がるばかり。
やがて、どちらからともなく、お互いの事を話し出す。
兄弟のこと、両親のこと、家で何をして遊ぶか、周りにどんな人がいるか、自分はどう思ったか―――――
アリスはあまり外で遊べないらしい。そう家族に言われたそうだ。それが凄く残念だと。出来るなら、外で遊びたいと。
僕は、とにかくあれこれ話した。『僕』が感じたこと、『俺』が感じたこと、行ったり来たりしながら。
アリスは『僕』の話も、『俺』の話も、面白そうに聞いていた。特に物語が面白いらしく、彼女の気に入りそうな物語を思い出しては語った。
「リョウは、物知り」
「そうかな?」
「うん。どの話も素敵。それを知ってるリョウもすごい」
「……ありがとう」
心の中、だからなのか。本当に、区別なく、考えなく、話せた。
「私も、外に出たら物知りになれる?」
「なれるよ、アリスなら」
「……うん……出たいな」
「出られるよ……きっと」
「本当?」
「本当」
出られるさ、俺だって出られてるんだ。アリスだって出られる。
「原因は、もう、何となく分かってるし」
「?」
「アリスが外に出られない原因」
「凄い……本当に、物知り」
「そんなんじゃないって」
「エスパー○藤?」
「どこからそんなネタ仕入れてくるの君は?」
「『ずっと前から愛してました~~~!!!』著者、サモ=ハン=キン=ポー(始祖竜)」
「PN明らかに意味ないよね、むしろそれどんな話!?何がどうしたらエスパー○藤が出てくるの?」
「心を読む力を得てしまったさえない中年男性、エスパー○藤が、生き別れの妹と前世の恋人の板挟みになって苦悩する話。最後は同僚の伯爵家の娘を救い出し、ハッピーエンド。全6巻」
「ツッコミ所多すぎて、一周して読んでみたくなるねそれ!!」
「只今絶版中」
「売れなかったんだ……」
「ネタ元に怒られて、再版中止」
「いるの!?あったの!!?むしろ生きてるの!!!?」
「『……ということにしろと奥さんに怒られました。ごめんなさい。
追伸
今度はもっとぼかして書くね、ピーター(後書)』」
「いっそ神様専従の物書きやったほうがいいよ始祖竜!!!」
こっちの世界の物語、今度あさってみようかな、本気で。
「……リョウは面白い」
「ごめん、今俺の中ではアリスの方が面白い」
「どっちのリョウも面白い」
「……アリスも面白いし、可愛いよ」
「……ジゴロ白桃(ハクトー)?」
「それも物語?むしろ俺を何だと思ってるの?」
「伝説の白桃と呼ばれる美尻の女性を追い求めるジゴロたちの、壮絶な肉弾戦バトルロワイヤル。キャッチフレーズは『君の拳に、完敗』著者ア=バ=オ=アクー(始祖竜)既出17巻、外伝3巻、なおも続巻中」
「君の家の蔵書管理してる人と後で話し合おうか」
何だろう、アリスと話してると、いろんな意味で自分が何なのかと悩んでいたのが馬鹿らしくなる。
「リョウはリョウ。物知りで、面白い。それでいい」
「アリスもそのままでいい……のか?うん、もっと外に出よう。そしてきちんとした知識を身につけよう」
そのためにも……
「こいつら、どうにかしましょうか」
歩いて歩いて、ようやく見つけましたよ。
『中々やるではないか、滅びを自称するだけはある!!』
『貴様も破壊などとほざくだけの力はあるようだな!!!』
『『だが』』
『『真の破壊(滅び)の代行者は我のみでいい!!!』』
灼熱と吹雪の吹き荒れる中、2体の獣は互いに殴り合っていた。
「は、はは、ハハハハハハハハ……」
「リョウ?」
俺の手を握る力をちょっと強めるアリス。あぁ、怖いのかな?
そうだね、怖いよね、こんな炎やら氷やら散々出しまくって、巨体で殴り合いまくって、宿主のことなんか綺麗さっぱり忘れて、楽しそうに男と男の友情チックな殴り合いやって、終わったら、夕暮れの川岸で「やるな」「お前もな」ですか、そうですか……
「テメェら、2体とも正座ぁあ!!!」
「何か言うことは?」
『わ、我は滅びの化身であり、存在理由であって…』
「ぁあ゙?」
『ごめんなさい』
「そっちは?」
『わ、我は宿主を守ろうと……』
「ん~?(ニコニコ)」
『すみませんでした』
吹雪も炎もない空間で、俺とアリスの前で正座するジャバとバンダー。
体?小さくさせましたよ?正座できるのか?させてるんです。
「なぁ、ジャバ。俺さ、お前信頼してるっていったよな?感謝してるっていったよな?それ嘘じゃないんだぜ?でもさ、忠義の証がサーチアンドデストロイってどゆこと?」
『……はい』
「バンダー?さっき宿主うんたら言ってたけど、その宿主放り出して殴り合い始めるのが君の宿主への愛な訳?」
『……はい』
「リョウ?」
「何、アリス?まだOHANASHIの途中なんだけど」
「剣山と重石って効く?」
「やってみるか」
『『ちょ!!?』』
精神世界だから多分効くだろうな~。人格変わってる?残念。『僕』と『俺』の蓄積した怒りなめんな。溜まってるんだよ、俺らだってなぁ!!!
『『本当にすみませんでした』』
2体揃って、土下座する。ARMSに土下座させたのって俺たちが初?
「……はぁ、まぁ、暴走の原因も何となく分かるけどさ」
こいつらの原動力はやっぱり憎悪や憤怒、そして恐怖。
「バンダーはアリスの憎悪、ジャバは俺の恐怖、だろ?ごめん、迷惑かけた」
何だかんだいって、こいつらは俺たちのそういう想いを感じ取って反応してしまうんだろう。まして、ジャバはこの間目覚めたばかりで溜まってる。呼応するようにバンダーも完全に目覚め、開放した。
「アリス」
「ん?」
「アリスはバンダーの事は知ってた?」
「……なにか、いるとは思った」
「……怖い?」
「……ちょっと」
「なら、忠告。怖がらなくていい、というか、怖がると余計にこいつら手がつけられなくなる。周りに迷惑かけるのは駄目、それ以外は頼りにしてる。そう思ってれば、多分、収まる」
収まるって言い方もあれだな。どう言えばいいのか。
「……心配症?色んな意味で」
「……そう捉えても、いいのか?」
ぶっちゃけどうなんだろう、聞いてみるか。
「どうして欲しい?俺はジャバを前にも言ったけど、相棒でもあり、友達でもあり、二心同体というか、そんな風に捉えてる」
『我は汝、汝は我だ』
「こちらが望んでないのに、しっかり暴走してましたが」
『……それは、すまない』
「……バンダー?」
『……我は、宿主を守る。悪意から、憎悪から、悲しみから』
「……暴れてとは、お願いしてない」
『……では、どうすればいい?我はそれ以外のやり方を知らぬ』
……うん、方向性見えた。
「よし、じゃあそれを探そう」
『……は?』
「バンダーは暴れる以外の守り方を模索。この辺はジャバも一緒だな。その間バンダーは無闇やたらに力を出さない。俺とアリスはもっとジャバとバンダーを知っていこう。そのためにも、ここみたいな内部会話をちょくちょくする。これで」
これは俺にも言える。結局、俺が知ってるのは『ARMS』のジャバであり、『この』ジャバではないんだ。その辺もう少し考えなきゃいけない。
「この中ならさっきみたいに暴れられるだろうから、溜まってきたら無理せず言う。そしたら、バンダーならジャバが、ジャバならバンダーが相手できる。いいか、言うんだからな。特に俺もアリスもお前たちと違って、言われなきゃ、完璧には分からないんだから」
こんなところかな?
「アリスはそれでいい?」
「……自己紹介」
「……そう言えば、そうだったね。じゃあ、改めて……『俺』はリョウ。リョウ=グランバ」
言って右手を差し出す。
「『私』はアリス。アリス=ガッド」
そこにアリスの手が乗り。
『……『我』はジャバウオック』
『………』
「バンダー……大丈夫」
『……『我』はバンダースナッチ』
ジャバとバンダーの右手が、おずおずと乗る。
「よろしく」「……よろしく」『……よろしく』『よろしく……』
何ともぎこちない挨拶を交わし合う二人と二体でした。
「……我等生まれし日は違えど……」
「始祖竜あんた幾つネタ散りばめてるの!!!??」
「……ぃ、おい、リョウ!」
「んぁ……」
パチパチと目瞬き。えっと……どうなったの?
「起きろリョウ」
「ん…にぃ、さん……?」
「起きたか。どうなった?話せるか?」
んあ~……ここ、何処?
「場所はアリスの部屋、時間はお前がアリスの部屋に乗り込んで、強い光が出てから30分後、アリスはまだ寝てる。冷気は止んだ。で、何があった?」
起き抜けに大量の情報ありがとうございます……
「えっと……暴走は収めてきました……ただ、俺もアリスも、これから、もっと、お互いに話すってことになって……」
「え!?ちょっとそれ」
「お前は黙ってろ。どういうことだ?」
「ん~……具体的に……お互い裸になって、腹割って話す?俺とアリスで?」
「……この場合、フェニクスが弟なのか?俺が弟なのか?」
「ルーシェ!!?」
「いや、聞く限り、これは弟に責任を取らせるしか……」
「やっぱりそういう話なの!!?ねぇ、ちょっと、リョウ君、何をしたの!妹に、アリスに何したの!!!?」
「あ~……フェニクスさん、蔵書係殴っといてください……原因はそいつです……」
「本当にどういうこと!?」
眠い……精神世界って意外と疲れるのね……。
「俺は眠いので、寝ます……御休みなさい……」
「ルーシェ~~~~!!!!」
「……公爵家同士の婚姻、国内の結束を高めるとしては、ありなのか?いや待て、ガッドから嫁を貰うとなると国内のパワーバランスが崩れる可能性も……フェニクスに爵位、魔力、他国とのバランスを考えた相手を見繕って、いや、しかし、リョウとアリスの子はガッドに再度婚姻?リョウにはもう一人側室を娶ってもらって……それとも、俺が?」
「……屋敷の者を呼んでくる(訳:付き合いきれないので、帰ります)」
「ムニャムニャ……(……あったかい)」
「ん~……(抱き枕?あったかいな~……)」
兄達の喧騒を他所に、幸せそうに眠る弟妹たちでした。
『我が主、ご所望のジゴロ白桃最新刊、持ってきましたよ』
『―――――――――!!(早く読ませろ、とせがむポーズ)』
『はいはい……いかがですか?』
『(読書中)……wwwwwwwwwwwwww(爆笑)……!!!!!(読み終えた後、床に叩きつける)』
『(何故毎回怒るのに、新刊は買ってこいとおっしゃるのか……)』
後書き
これはひどい。何故こうなった。
書き出す→何故かどシリアス→筆止まる→書き直す→アリス出ない→出るまで頑張る→始祖竜一本勝ち→気が付けば13000文字超え。
……うん、私らしい作品だ。
とりあえず、プロローグ部分はここで終了です。
次回から学園編、ようやく他の転生者出せます。
今のうちに言っておきます。今回よりきっとひどいネタ作品です。
それでもいいという剛の方、お待ちしております。